当初からクラレットが敵になる事は決まって……ませんでした!
書いてると色々と勝手に動き出すんですよ。
その結果がこれです。
目を逸らしたかった…。
胸から流れる血に、体中を這うような激痛に、それらにすがってこの光景から逃げたかった。
純白の衣は俺の血で赤く染まり、怒りを孕む瞳が俺を見ていた。
俺が命を賭けて助けたかった彼女はもう…俺の前から消えたって思えてしまった。
「砂棺の女王!!」
クラレットが魔杖を振り指示を出すと砂棺の女王が動き出す。
放つのは魂さえ衰弱させる死の灰、戦う気力を失っていたハヤトにはそれに立ち向かう気力は無かった。
だが、彼の周りにいる者たちは別だった。
迫りくる死の灰の前に一人の少女が前に出て鈴を鳴らす。
鳴り響く鈴の音が彼女の、シルターンのエルゴの守護者カイナの力を増幅させる。
「鬼神様、今我らを守るお力を―――!」
カイナを中心に結界が生み出せれクラレットの攻撃を防ぐ。
「く…ぐぅーー!」
「カイナ殿!大丈夫でござるか!?」
「平気です…!アカネさん、力を貸してください!」
「オッケー、任せなさい!」
アカネがカイナの肩に手をやりシルターンの魔力をカイナに送り始めると結界は安定し始めた。
息を付くカイナ、そしてその光景を見ていたソルは動き始めるがオルドレイクがそれを許さない。
「何処へ行くソルよ?この私を殺すのではないのか?」
「貴様…!クラレットを召喚術で洗脳したのか」
「……死んだ女をどう使おうが我らの自由ではないか?」
「………」
オルドレイクの言葉に意味深なモノを感じたソル、クラレットは死んでいる訳ではない。
屍兵ならあのように明確な言葉を話さない、上位悪魔を憑依させれば悪魔の精神が出てクラレットではなくなる。
ならばあのクラレットはなんだ? なぜああもセルボルトの…オルドレイクの理念に共感する様に言葉を発する…。
「…! そうかそういう事か、ッ!あの誓約者のせいか!」
「クククッ、気づいたようだなソルよ。その通りだクラレットの心は死んだ。クラレットはあの男を拒絶したのだ!あの男だけではない、自身の存在を!この世界を!全てを拒絶し心の奥底に逃げ込んだのだ!自分を傷つけるモノを全てを拒絶しそして残ったのはあの女のガワのみという事だ。あそこにいるのは異界で育ったクラレットではない!我らが魔王への生贄、クラレット・セルボルトよ!!」
オルドレイクの言葉にソルは表情を変えてなかったが内心焦っていた。
なぜなら心…魂というものは非常に複雑なモノなのだ。
もしその奥に意識を封じ込めてしまえば、それを目覚めさせるのは非常に困難だ。
そして魂の力とも言える魔力が高ければ高いほど目覚めさせる難易度は上がってゆく。
つまり、現状あの状態のクラレットを無力化し尚且つ目覚めさせるのは不可能に近かった。
「このままではジリ貧です!」
「だったらモナティに任せてくださいですの!うさぎ弾ですのぉ!!」
上空に高くジャンプしたモナティが上からうさきだんの雨を砂棺の女王にぶつける。
その攻撃の前に砂棺の女王は怯み始め攻撃が途絶えるがクラレットは表情一つ変えずに見据えていた。
「この程度では意味がないようですね。戻りなさい!」
クラレットの指示に従い砂棺の女王が送還されるとクラレットは杖を宙に浮かせる。
そして開いた両手からサプレスの天使の魔力と悪魔の魔力が生み出され召喚術を発動させる。
「宿命の意味を知りその命を捧げる者の声を聞け…」
呟く詠唱は彼女が捨てたはずの言葉、そしてその言葉に従い二つのゲートが生み出された。
「セルボルトの名の下、誓約に従い我にその力を――!」
「この感じって…!?」
「この匂い…まずいですのぉ!!」
ゲートから伝わる気配と魔力にアカネとモナティが反応する。
カイナ達もそんな彼女らの反応でどれ程の存在が召喚されるのかを悟った。
「我に力を!光の賢者エルエル!地の悪賊ガルマザリア!」
真の名を叫んだクラレットは召喚術を発動させた、そしてそこから現れたのはハヤト達が知る二人だった。
天使エルエル、悪魔ガルマザリア、大天使と大悪魔の位を掲げる上位召喚獣が彼らの前に現れたのだ。
「我らに逆らうケダモノを消しなさい!!」
『くそっ!』
「ガルマザリアさん!モナティ達は敵じゃないんですの!」
此方に突っ込むガルマザリアに叫ぶモナティだったがガルマザリアは苦しみの表情を浮かべたまま槍を振り下ろす。
それを腕に魔力を宿して防いだモナティにガルマザリアは驚くがすぐにモナティの問いかけに応えた。
『無理だ!今の私と駄天使は誓約で縛られている!構わず攻撃しろ!』
「そんなっ!?」
『避けなさいモナティ!』
光り輝く断罪の剣バニッシュレイドがモナティを斬り裂いてしまう。
鈍い悲鳴を上げたモナティは衝撃で吹き飛ばされるが同じように飛び出したアカネがモナティを抱きかかえた。
「モナティ!あんた大丈夫!?」
「へ、平気ですの。ちょっと驚いただけですから…あ!二人が来ますのぉ!」
「ちょ、ちょっと洒落にならないわよあの二人相手って!?」
迫り来るガルマザリアとエルエルにアカネは怯むがそれを遮るようにエスガルドとカザミネが割り込む。
「キエェェェーーーーイイッッ!!」
『ハヤトの新しい仲間か!』
「抑エ込マセテ貰ウ!」
『殺すつもりでやりなさい!倒されてもサプレスに還るだけです!』
誓約で縛られている二人は自害する事も敵わずその身に押し付けられた膨大な魔力を振るうしかなかった。
だからこそ目の前で戦う者たちに自分たちを倒してほしかったがそれでもサプレスのエルゴを宿すクラレットの魔力で直に召喚された二人は並みの大悪魔や大天使を超える力を身に着けてしまっているのだ。
生半可な攻撃では自分たちを倒せない、奥で倒れているハヤト以外では恐らく倒せないだろう。
しかしハヤトは…。
「俺は……」
「ハヤトさん…」
「俺は何の為に…」
「ちょっとハヤトあんた何へこたれてるのよ!」
「アカネ…?」
「ちょっと刺されたぐらいで何ショック受けてるのよ!あんたそれでもクラレットの彼氏なの!?」
「だけど…だけどクラレットはもう…!」
「アンタ…本当にあれをクラレットだって思っているの?もし思ってるならアンタを幻滅する、エルゴの守護者だって返上するわよ!!」
「アカネさん!マスターは怪我をして…」
「うっさいモナティ!あんたもこいつに言ってやんなさいよ!あれをクラレットだって言ってるのよ!?あんなのがクラレットな訳無いでしょ!私の知っているクラレットはアンタと同じでどうしようもなくお人よしでその癖情緒不安定で泣き虫でアンタと一緒に砂糖吐きそうなほど甘ったるい奴なのよ!?あんな…あんな相手を見下し様な奴じゃないわよ!!」
顔を真っ赤にして人の胸ぐらを掴みあげるアカネの姿に全員呆気にとられた。
よくよく考えればアカネの怒りは当たり前だ…、アカネは俺達を除けばリプレの次にクラレットと仲が良かった。
俺は……何落ち込んでるんだろうな。奪われたなら取り返すためにここに来たんだろ…。
だったらやる事は決まってるだろ!
ハヤトがサモナイトソードを杖にして立ち上がる、胸の傷はいまだ癒えない。
それでも彼は立ち上がり剣をクラレットへと向けた、戦う為ではなく取り戻すために。
「行くぞ…クラレット!」
「ケダモノ風情が…!私の名を口にするなぁ!」
怒りを隠そうとしないクラレット、明らかに俺に対して特別敵対心を持っている。
カザミネ達を無視して迫ってくるガルマザリアとエルエル、確かに強力な召喚獣だ。
だけど、俺はクラレットを除けば一番お前たちの事を知っているんだ!!
「はぁっ!」
ガルマザリアと刃がぶつかり魔力と火花が散る、だが彼のその手には既にシャインセイバーが召喚されていた。
それをクラレットに向けてハヤトは投擲するとそれに反応したのかエルエルが防御に回る。
その瞬間ハヤトはガルマザリアを蹴り飛ばしてクラレットの方へと吹き飛ばした。
「くっ!」
『良いぞハヤト!』
「やっぱり思った通りだ!」
『ハヤト!私達は誓約で縛られています。わかってますね!』
「黙りなさい!」
『その様な無駄な事に誓約をするつもりか?』
「召喚獣風情が…!」
誓約は強力な縛りだが逆に考えれば縛る対象が強ければ強いほど負荷が掛かる。
ガルマザリアもエルエルも強力な召喚獣だ、だからこそ同時に使役するのはかなり難しい。
前にクラレットがそう教えてくれた。クラレット自身がそう語ったんだ。
目の前の相手がどんなにクラレットに似ていても姿はクラレットだとしても…!
「お前は、俺の知っているクラレットじゃない!」
『ぐっ!こんな技を覚えたのか!?』
放たれた居合からの斬撃は空間を超越しガルマザリアの腕を吹き飛ばす。
だが強力なサプレスのエルゴの力ですぐさま再生するとハヤトに突っ込んできた。
膨大な魔力を魔槍に宿して敵を粉砕するガルマザリアのドゥームクェイクがハヤトに振り下ろされた。
「うおおぉぉぉぉーーーッッ!!!」
『これが誓約者の力か!』
ガルマザリアがハヤトのその力に興奮する、自身の最大の技を正面から受け止めたのだから。
そのままハヤトは攻撃を弾き飛ばすと膝を付く、傷を負った状態で戦闘するには彼は傷が深すぎたのだ。
そのチャンスを逃さないクラレットはエルエルに指示を出し光の弓矢を生み出し光で出来た矢の雨を降らした。
「全力!うさきだんですのぉ!!」
「モナティ…!」
「ハヤトだけじゃないわよ!アタシ達だっているんだからね!」
アカネとモナティがハヤトを庇う様に前に躍り出る。
モナティの放った特大のうさきだんが光の矢を全て吹き飛ばしてエルエルに迫る。
エルエルはスペルバリアでその攻撃を防ぐがそれでもその威力の前に吹き飛ばされてしまった。
倒されたガルマザリアとエルエルの姿を見たクラレット、
動揺したのか目の前に浮いていた杖はカランと音を立てて床を転がっていった。
「………」
「クラレット、ガルマザリアとエルエルじゃ俺達を倒せない、オルドレイクもソルが抑えてる。終わりだ…俺達のクラレットを返すんだ!」
「返せ…ですか…………ふふふふふ、あっはははははあーーーっははは!!」
「な、何がおかしいんですの!?」
「自分勝手な言い草ですね」
「な、何がおかしいのよ!」
「私は別に記憶を失ったわけではないんですよ?全部覚えてます。向こうの世界の事もこの世界で起きた出来事も…そしてあの月の日に約束したことも…」
あの月の日…、もしかして初めてバノッサと戦った?
「あの日貴方はこういいましたよね?私を守るって、貴方は守れましたか?」
「うっく…」
「貴方は守れなかった、自分の命も約束もそして彼女の心も……だから私が出て来たんですよ」
「出て来た…?」
「ずっと彼女の後ろで声をかけてました、貴女がいる場所はここでいいのか?と、彼女は目と耳を塞いで私の声を遮り続けたんです。その結果がこれですよ?自身の役目に最初から殉じていればこんな事にはならなかった。身内が傷つくことも!貴方が誓約者になる事も!クラレットが死ぬ事もなかった!!」
違う……悪魔の憑依とかそういうのじゃない彼女は俺の知っているクラレットだ。
ずっと傍に居たはずのクラレットなんだ、だけどなんなんだ…。
「お前は…誰なんだ?」
「私ですか?私はクラレット。クラレット・セルボルト。魔王に捧げる生贄であり、彼女の宿命を転嫁させられたモノ。ずっとずーっと見てたんですよ。彼女の後ろで彼女に押し付けられたものを背負ってずっと……ね!」
「ぐぅ!? ガアアァーーーッッ!!?」
「ハヤト!?」
「マスター!大丈夫ですの!マス……ど、どういうことなんですの!?」
クラレットが先程ハヤトの突き刺した突起物、悪魔竜の爪を自身の掌に突き刺すとハヤトに激痛が走った。
悪魔竜の爪を媒体にした呪詛がハヤトの体中を侵食し膨大な魔力を持つハヤトは逆に苦しんでいた。
それだけではない、ハヤトの体を通じて送られるエルゴの守護者の力が途絶えたのだ。
そのせいで明らかにモナティやアカネに倦怠感が現れてしまう。
守護者として未熟な彼女らの力量ではエルゴの加護無しでは出せる力は殆どなかった。
「ずっと私を守ってくれたんですから失意のうちに殺してあげたかったんですけどもういいです。下手な演技も止めます。ハヤト貴方は死んでください。私は貴方を見ているだけで胸が痛くなる。ホントに見てるだけで…消えなさい…消えてください…消えて…消えろぉぉぉぉ――――ーッッ!!」
クラレットがガルマザリアとエルエルを指示を出し彼女たちの武器が重ねられる。
ガルマザリアの闇、エルエルの光が混ざり合いそして反発しあって魔力で出来た巨大な矢をハヤト達に向けた。
ハヤトはその矢に見覚えがあった、それはリィンバウムの試練でクラレットが最後に使った術と瓜二つだったのだ。
その威力はハヤトが身をもって体験している、イメージの中とは言え至竜の一撃に耐えたほどだったのだ。
「あれは…!みんな逃げてくれあの矢は本当にまずいんだ!!」
「そんなの見ればわかるわよ!というか今私達の力がなんでか力が出せなくて逃げ切れないわよ!」
「き、来ちゃいますのぉ~~!?」
「……エルジン君!少しだけあの攻撃を防いでください!」
「わ、わかったよ!来てビットガンマー!アーマーチャンプ!」
エルゴの力を失っているエルジンが今使える召喚術は普通の召喚術を変わりない、
だが先ほどのソルの指南のせいか効率よく召喚術を発動しており普通の相手なら十分な防御性能を誇っていた。
だがそれはあくまで普通の枠組みの話だった、天使と悪魔の合体技の前にそのような行為など無意味であった。
「あれを使うつもりだな?ソルよ。どうやらあ奴らは終わりの様だぞ?」
「………!!!」
オルドレイクと対峙するソルは横目で彼らの状況を見ていることしか出来なかった。
隙を見せないオルドレイクの前に迂闊な行動をすればそれこそ自殺行為だったからだ。
彼らを助けなければ目的を達せない、そんな苛立ちを歯軋りしながらソルは飲み込む。
『駄天使!何とかしろ!!』
『貴女こそ何とかしなさいこの!悪食悪魔!!』
ガルマザリアとエルエルは何とか攻撃を中断させようとするが、
余りにも強力な誓約のせいでほとんど抵抗することが出来ない。
そして彼女らの努力も空しくクラレットはついにその一撃を撃ち放った。
「【反逆の射手――イスカリオス!!!】」
光と闇が混ざり合いそして反発しあうエネルギーを利用した魔力の矢が撃ち放たれてハヤト達を襲う。
エルジンが召喚したアーマーチャンプもビットガンマーもその威力の前に一瞬で融解し消し飛ばされる。
あまりの威力の前に彼らは覚悟を決めるが、その中でカイナだけがそれに対抗しようとしていた。
自らの掌を噛み出血させると地面に押し付けて召喚術を発動させる。
それは今まで彼女が使用してきたものとは大きく異なる召喚術だった、
地面からせり上がる巨大な門は鬼の顔をしておりそれそのものだけでも威圧感を放っている。
「召喚!【羅生門】!!」
その門はかつてシルターンの悪名高き鬼が憑りつき人も妖も食らい続けた逸話も持つ門。
その鬼が滅んだ今も界に記録された幻影として存在する召喚術だった。
龍達や鬼狩りをことごとく阻んだ逸話を持つこの門は強力な魔力に対する耐性を誇っていた。
唯一の欠点は道の者として欲望に憑りつかれ全てを食らおうとした門を召喚するのは道に反していたが、
いまカイナにとって重要なのはこの局面を乗り越える事だ、誓約者の力が還元されない今、自分が出来る全力を出さなければいけなかった。
「はあああぁぁぁぁーーーーッッ!!!」
羅生門にイスカリオスが激突し魔力が圧迫されるような衝撃がカイナの体を貫く、
だが必死にそれに立ち向かい両手で結んだ印を決して手放さなかった。
いまここで自分が折れれば周りの仲間達まで巻き添えにしてしまう、
自分がこれからも一緒にいるであろう仲間が自分を命がけで助けてくれた彼らが死んでしまう。
そう思うとカイナの体に力が入る、魔力も足りないだが強い意志はある。
瞑りかけた目をグッと開き目の前の力に対抗するために全力を込めた。
やがて光は収まり始めカイナを襲っていたイスカリオスの衝撃が消えていった。
自分は耐えきれた、守れたという事実がカイナから力を抜いてゆく。
彼女が膝を付くのと同時にガラガラと羅生門が崩れ去り門に隠されていた光景が映し出されてゆく。
「――そんな」
カイナの瞳に映ったのは灰だった。
砂棺の女王が操る死の灰、それがハヤト達を包み込むように迫って来ていたのだ。
それは当然の話だった、先程までお互いが無限に近い魔力を常に持っていたのだ。
しかし片方がそれを抑えられたら勝つのはどっちか?小さな子供でも分かる答えだった。
イスカリオスは最強の一撃で疲労もかなり感じられるが魔力に至っては気にするほどでもない。
その結果がこれだった、防がれたクラレットは片手間で砂棺の女王を召喚して次の手を打ったのだ。
退路を断たれた今、ハヤト達に砂棺の女王を破る術は残されてはいなかった……そう彼らには。
「させるか!」
「ッ!裏切り者め!」
彼らの影が揺らぎそこからソルが飛び出して結界を展開した。
死の灰は結界に阻まれるが徐々に結界を侵食し始めていく。
「シルターンの巫女、礼を言うぞ。おかげで割り込む隙が作れた」
「え、ええ。お役に立てたのなら…」
だが状態は好転してはいない。むしろ悪化し続けている。
このまま戦おうにもオルドレイクもクラレットもほぼ無傷に等しい。
それに比べこっちはハヤトもソルも満身創痍に等しかった、
このままでは勝てない、全員がそれを悟る中、ソルが口を開いた。
「撤退だ」
「え?」
「撤退すると言ったんだ」
「ちょ、ちょっと待てよ!クラレットを置いていくっていうのか!」
「ああ」
「ああ。じゃないわよ!アンタ分かってるの!?クラレットをここに置いて行ったら魔王になるのよ!?」
「そうですのクラレットさんを置いていくなんてできませんの!」
全員逃げる事に反対する、その中でカイナだけが何かを感づいていた。
だがそれを口にすれば絶対にクラレットを助けられない事が分かってしまう。
しかしソルはそれを口にし始めた。
「誓約者、あの状態のクラレットが何かわかっているのか?」
「あの状態…?」
「お前は今まで気づかなかったのか?クラレットが常に情緒不安定な事に」
「それは…だけどそれはクラレットが記憶を取り戻したせいだろ?今と何の関係が…?」
「クラレットは二重人格だ」
「二重人格…?」
「貴様の世界に来た時恐らくクラレットの記憶と共に魂の一部が封印されたんだろう、そしてそれはリィンバウムに召喚された時に目覚めた。本来なら完全な形で記憶を取り戻すはずだったがここで問題が生まれた…わかるか?」
ソルがいう問題、確かに今までのクラレットの事を考えると少しづつ変わっていってることは分かる。
だけどここまで劇的な変化はなかった……いや待てよ。そうかこの状態に変わる前一番の原因は…!
「サプレスのエルゴか!?」
「そうだ、クラレットは器だ。だが生み出された模造品。貴様のような天然物とは大きく異なる形だ。サプレスのエルゴを取り込んでしまった時、正規の手段を取らなかった反動で魂が二つに分かれた。そしてその片方が今目の前にいるクラレットだ」
「魂が分かれた?」
「此方に来たばかりの頃奴は召喚術を使えなかった。魂が不安定だったからこそ従来の召喚術は使えなかった。それに見覚えがないか?心にかなりの負担が掛かっている時にまるで別人のように振る舞ったことはなかったか?」
ハヤトには見覚えどころか実際に体験したことがあった。
ミニスと別れたあの日、なぜか戻ってきたクラレットはかなり変貌していた。
そしてそれ以来クラレットの行動が少しばかり過激になり始めていたのを。
「二つに分かれた魂はサプレスのエルゴとの融和により少しづつ融合するはずだった。だがここでオルドレイクはある仕込みをクラレットに植え付けたんだ」
「植え付けた…」
「原罪だ」
「カスラ…?」
「かつて悪魔どもがリィンバウム中にばらまいた悪意の塊だ。クラレットはそれを植え付けられて変化している」
「本当にクラレットが原罪ってので変わったのか?クラレットは悪魔の事には詳しいはずだ。ここまで変化するなんておかしいんじゃないのか!?」
「………子供の精神でか?」
「え?」
「貴様がいた世界のクラレットは確かに多くの事を学び十分な精神を持っていただろうな、だがこっちの世界のクラレットは今まで眠りについていた、融合が進んでいただろうがそれでも元は10にも満たない幼子だ。ずっと起きていたとしても2ヵ月ほどしか年を取っていいないだろうな……それがまずかった。貴様が目の前で殺された時クラレットの精神は崩壊し心の奥底に逃げ込んだ、そして表に出たのがあのクラレットだ。それに気づいたオルドレイクは植え付けた。原罪を、世界の真実を、そして誓約者という存在と貴様を同一視させた。無垢だったクラレットの魂は黒色に変化しこの世の理を憎む存在へと至った…という事だ」
次々と明かされるクラレットの真実に俺は戸惑いを隠せなかった。
だからだったんだ、ソルが何度も揺さぶりをかけながら強硬策にほとんど出なかったのは、
確信してたんだ。クラレットがどうあがいても自分たちの手の中に戻ってしまう事を…。
「唯一この状況を打破するには眠ったクラレットの魂を目覚めさせ今のクラレットの魂と同一化させることだが…不可能だ」
「不可能って…!やって見なきゃわからないだろ!?」
「…なら言うが今碌に魔力を使えない貴様がこの状態を打破してオルドレイクを食い止めながらクラレットの魂が崩壊しない様に心の奥底に逃げ込んだ魂を引っ張り出せるというんだな!!」
「!?」
「不可能だ…!時間も!魔力も!状況も!何もかも足りない。今の俺達にクラレットを救うのは不可能だ……」
「……逃げてどうするんだ?」
「逃げれば魔王は召喚され結界は崩壊する、そうすれば異界の侵略は始まるだろうな」
「だったら今逃げたら更に取り返しが付かない事になるだろ!」
「ここで死んだら手段は完全になくなる、貴様が生きてさえすれば魔王を倒しサプレスのエルゴを得てもう一度結界を張ることが出来る、世界とクラレット、貴様はどっちを選ぶつもりだ誓約者!」
「そんなの……クラレットに決まってるだろ!?」
「ならこの状況を打破する方法を持っているんだな?いま持ち合わせている手数でこの事態を解決する方法をな!」
「それは…」
ハヤトにこの状況を解決する手段は存在しなかった。
呪いをかけられエルゴの力を引き出すことはできない今、魔剣の力も十全に発揮されない。
考えている時間だけでも有限だ。結界の浸食は続き今にも壊れそうだった。
必死に考えるハヤト、他の仲間達も同じように考えてはいるが答えは出せなかった…。
「だけど…それでも俺は諦めたくない!一度諦めた…だけど!アイツは俺に手を差し伸べてくれたんだ!クラレットが俺を引っ張り上げてくれたって言うのにその俺が諦められる訳無いだろ!」
「つまりお前はさっき助けた連中も見殺しにするんだな」
「………」
「理解は出来る、だが不可能だ。割り切れ誓約者」
本当に諦めるしかないのか……。
助ける事は出来ないのか……。
何かあるはずだ、何かクラレットを助ける方法が…。
ソルの奴はクラレットが心の奥底に入り込んだって言った、だったら俺が心の中に入れば…。
でもどうやったらいいんだ、どうやってクラレットを助ければ……。
ハヤトはグッと自分の胸に手をやって考える、ぐちゅりと自分の血が手にかかるがどうでも良かった。
痛みで意識がはっきりすれば何かに気づけるかもしれない、そんな曖昧な考えに逃げてしまう。
だが胸の血の感触から何かにハヤトは気づいた、それは血を吸い込み破れかけた紙切れだった…。
「…………!!」
――その符には共界線を通して伝わった彼女の魂の一部が内包されているのよ
そうだ!方法はある!この方法を使えばクラレットを助けることが出来る!だけど失敗すれば俺は多分…。
いや、考えてる暇はない!これが今俺に出来る最後の手なんだ!
「……方法はある」
「なに?」
「みんな聞いてほしい、この方法を使えばクラレットを助けられるかを」
ハヤトは自身の考え出した答えを口にした。
だがそれを聞いた彼らはその方法を難色を示した。
あまりに無茶過ぎ、何より失敗すればハヤトだけではなくクラレットまで死ぬ事になるかもしれないからだ。
「そんなの!そんなのダメなんですの!!」
「ハヤト、アンタ考えなおしなさい!失敗すれば死んじゃうのよ!?」
「だけど何もしなかったらクラレットが死ぬ」
「そ、そりゃ……」
「う、うむぅ…カイナ殿はどう思うでござるか?」
「確かに理屈は通ってますけど失敗の確率が高い…いえほぼ失敗するとしか」
「ソル、お前はどう思う?」
「…………俺は貴様とクラレットの命を特別重要視してるわけではない、貴様の方法は確かに俺の言った通り持てる手数で事態を解決する事は満たしている、そこに確立など入れてないからな。あと聞くが誓約者、俺と守護者どもが反対したならどうするつもりだったんだ?」
「ここに一人残るつもりだ」
悩む事もなくハヤトは肯定した。
彼が仲間達から聞いたのはこの方法でクラレットが助けられるかどうかだ。
それを協力してくれるかは考えてなかった、むしろあまりに危険な為、協力してほしくないのが実情だ。
そして迷いなく答えたハヤトに彼らは少しばかり悩むと答えを出す。
「アンタっていっつもいっつも無茶苦茶ばっかりするけど、今回は飛びっきりの無茶だって事は分かってるのよね?」
「うん、分かってるよ」
「そっか……あぁ~あ、なんでこんなのがアタシの主なんだろ。ま、いっか、その無茶付き合うわよ♪」
「アカネ…」
「マスター、確かにモナティはマスターに死んでほしくありませんけど、それ以上にマスターはクラレットさんと一緒にいるべきだと思いますの、だからモナティもお手伝いしますの!!」
「ありがとな、モナティ」
「私達も協力します」
「我ラハエルゴノ守護者ダカラナ」
「そうそう、誓約者を守るのも僕たちの役目だからね」
「拙者も協力するでござるよ。戦友でござるからな」
全員が覚悟を決めたようにハヤトに協力すると口にする。
その光景にハヤトの涙腺は緩むがソルが苛立つように彼らを急かした。
「覚悟を決めたならさっさとしろ、そう長くは持たないぞ」
「ソルお前は…」
「言ったはずだ貴様らの命を重要視してはいないと、ならオルドレイクを殺すにはそれがベストだ。ここで逃せば奴を捕えられなくなるのは明白だからな」
「あぁ!!」
ハヤトが立ち上がる。
動くとハヤトの傷口から血が滴るが彼はそれに意識を向けたりはしなかった。
視線を前に、そして目の前の少女に向けるとサモナイトソードを握りしめて構える。
完全な力を発揮出来ないサモナイトソードだったがハヤトの想いに応え虹色の輝きを発した。
「応えてくれ…サモナイトソード!!!」
「それはっ!?」
「なっ!?」
光り輝く魔剣から虹色の閃光が放たれ砂棺の女王を貫く、
すると砂棺の女王はまるで自分から引き下がるように送還されてゆく。
その光景にオルドレイクもクラレットも驚愕を隠せなかった。
だがソルだけはその光景に驚きはしてなかった。
彼にはハヤトが出来て当たり前だと思っていたからだ。
「送還術か、貴様なら出来て当然だな」
誓約で縛り上げた召喚獣は総じて召喚師に敵対心を抱いている。
無論、砂棺の女王もクラレットに敵対心を抱いていた。誓約を千切り、終えれば送還されるのは明白だ。
「行こうみんな!!」
ハヤトの声に応えて守護者達は一直線にクラレットに突き進む。
「くっ!ガルマザリア!エルエル!」
すかさずクラレットは魔力と誓約任せに無理矢理二人を召喚して守護者達の対処に動くが、
それを止めようとソルも更なる召喚獣を呼び出した。
「ソル・セルボルトが誓約の名の下に力を望む―――全てを蹂躙する暴虐の大悪魔。完全なる殲滅者をここに―――!来い、バルレル!!」
「うにゅっ!?バルエルさんですの!?」
「あの魔王よね!?これで100人力じゃない!」
『クククククッ!ハーッハッハッハ!!』
高らかな笑い声と共に召喚されるのはサプレスの魔王の一角、兇嵐の魔公子と呼ばれる悪魔王――
『……えっと』
『なんだおまえ?』
『ハーッハハハってなんだこりゃ~!?』
の小さな時の姿だった。
『ニンゲン手前ェ魔力ケチりやがったな!』
「本来の貴様を召喚できるほどの魔力を俺が持っているわけがないだろ、バルレル。あの二体を押さえろ」
『はぁ!?ふざけんじゃねぇ!なんで小悪魔並みの力しか持たねぇ今の俺様がそんな真似しなきゃならねぇんだ!』
「だ、大丈夫ですの。も、モナティもお手伝いしますから……大丈夫ですよね?」
「あ~こりゃダメだわ」
『んだと!?小さくても魔王だぞ!あんな色物悪魔に負けるわけねェだろ!!』
槍を生み出してバルレルが色物悪魔…ガルマザリアへと突っ込んでゆく。
それに続くようにモナティとアカネもガルマザリアに攻撃を仕掛けた。
おー!とやる気を出すモナティの後ろでアカネは扱いやすっと思っていた。
「鬼爆!」
『はぁ!』
放たれた呪符を用いた縛りの術をエルエルが防ぎ天高く飛ぶがそれをエスガルドが撃ち落そうと銃で撃ってくる。
横に気配を感じ取り視線を向けるとライザーに乗り空に舞い上がったカザミネがエルエルに刀を振り下ろしていた。
『その意気です!』
「お兄さん今だよ!」
エルエルとガルマザリアの動きを制限させたハヤトは駆け出す。
目の前でこちらを睨むクラレットに向けてハヤトは突き進んだ。
それを止めようとオルドレイクが動き出すがソルが割り込んで行動を阻害した。
「何をするかは分からんがあの状態のクラレットを止められるとは思っているのか?」
「さあな。だがあいつの考えが成功すれば貴様は殺せる、精々ここで指をくわえてみていろ」
ソルはハヤトの案があまりにも愚作過ぎて信じるに値するか以前の問題だったが、
ハヤト達は何度もそんな状況を覆してきている事を知っている。
今は信じるべきだと考え、ソルは自分の仕事を全うするだけだった。
そして…。
「やっと…ここまで来た!」
「近づくな!誓約者!!」
彼女の手のひらからサプレスの魔力が溢れ出すとそれは電撃へと変化してハヤトに叩き付けられる。
以前に彼女が習得したサプレスの電撃、以前ハヤトが受けたのとは違い、殺意を発している凶器。
ハヤトに向かってそれは振り下ろされたがハヤトはクラレットの電撃を発した手を掴みそれを押しとどめた。
肉が焼けるような激痛がハヤトに流れるが彼はその手を決して離さない、
クラレットは苛立ちながら電撃を止めた、このまま目の前で電撃を使えば自身にも影響が出来ると考えたからだ。
「届いた、やっと!」
「離れろっ!!」
彼女は触媒の爪を取り出して再びハヤトを刺そうと振り下ろす、
だがハヤトはその攻撃を避けてクラレットに抱きしめた、強く確実にもう離さない様に抱きしめていた。
彼の握りしめた魔剣が光を放つ、それが何を意味するのかクラレットには分からなかったが引き剥がそうと暴れはじめた。
「はなれ―――!?」
「……今迎えに行くからな」
チクリと胸に痛みが感じられと、クラレットはガクリと力が抜ける感じを味わい、ハヤトの顔を見ていた。
心配そうに申し訳なさそうに、そしてとても愛おしく感じる顔をがそこにあった。
彼女は視線を真下に向ける、ソレに気づくとハヤトに向かって口を開く。
「意趣返しですか…?」
「違うよ。今から迎えに行くんだ」
「……そうですか、言っときますけど、あの子は分からずやですよ」
「知ってる、多分君と同じくらい」
「……ふふ」
小さくクラレットが笑うと意識が暗転していく、
トサリと小さな音を立てながらハヤトとクラレットは互いに抱きしめ合いながら倒れていた。
ただ一つ、その光景で歪だったのはクラレットの背中から虹色の輝きを放ち続ける一本の魔剣が突き刺さっていた事だけ、
それはクラレットからハヤトに繋がるように彼らを貫いていた。
「―――!!! おのれぇぇ!砂棺の王よ!!」
驚きのあまり息を飲んだオルドレイクは怒声を上げ砂棺の王を召喚する、
召喚術が発動する時の衝撃でソルは吹き飛ばされた。
「砂棺の王よ!邪魔者を吹き飛ばせぇ!!」
両手の杖を倒れ意識を失っているハヤトに向けて怨霊達の塊が放たれる。
離れた位置にいる守護者達にそれを防ぐ術はなかった、だがそれに対して動いた人物が二人いた。
『防げ天使!!』
『言わずとも、当然です!!』
クラレットとハヤトの前に躍り出たガルマザリアとエルエル、
ガルマザリアは迫る破壊の塊に攻撃を繰り出して相殺しようとする、
そして完全に防げなかった分をエルエルが防ぐが二人の体に異変が起こり始める。
『クソ!魔力が…!』
クラレットが気絶したために彼女と直接繋がる二人への魔力供給が途絶えてしまっていた。
その為、サプレスのエルゴから直接魔力を繋げているオルドレイク相手では力不足だったのだ。
魔力を使いすぎて薄れていく体に焦りを感じる、このままでは二人を守れないと…。
「よく持たせたな、あとは任せろ」
『貴方は…!』
「鬼神様――お力を!!」
エルエルが後ろを向くとソルと守護者達が集まっていた。
そしてソルとカイナが互いの魔力を共鳴させてシルターンの結界を発生させていたのだ。
その光景を見たガルマザリアとエルエルの二人は笑みを浮かべると魔力を使い果たし送還されていった。
「奴らが帰ってくるまで持たせろ!」
「はい!」
オルドレイクの魔力はソルがよく知っており何とか防ぐがオルドレイクは焦っているのか力技で結界を破壊しようとする。
「ソル!貴様あの誓約者が何をしでかすか知っていたのか!!」
「奴の言った方法はあまりに馬鹿馬鹿しかったがあの二人ならではと思えば理に適っていたからな、何よりこの手で貴様を殺す可能性があればこそだ」
「ぐぬぅ!!」
ハヤトが語った方法、それはあまりに単純でとても危険な事だった。
――魔剣を使って俺とクラレットを繋げる。俺が直接クラレットの心に迎えに行く!
サモナイトソード、精神の剣と呼ばれるサモナイト原石で生み出された魔剣。
その魔剣には砕け散ったハヤトとの誓約を刻んだサモナイト石を含んでおり彼の精神が形作られた魔剣だった。
確かにハヤトとクラレットを魔剣で物理的にも精神的にも繋げれば心の奥底に入り込めるはずだった。
だがそれに難色を示したのはカイナだった。
表層意識のクラレットはハヤトを拒絶している、
これでは繋がろうとしても途中で拒絶され心の奥底に入り込むことなど出来ない。
だがハヤトは一度、自分自身の精神世界で試練を受けていた事である事に気づいていた。
心はその心の持ち主でなければ完全に律せないという事を。
だからこそエルゴもハヤトの心を完全に支配下に置くことは出来なかった、
その事をハヤトは気づいていたからこそクラレットの心の中に入れるといったのだ。
その時ハヤトが取り出したのは血塗れの呪符、
それを見てこの方法に可能性を見出したのはソルとカイナの二人だった。
傀儡人形の術、その核であるヒトカタの符。
ヒトカタの符を用いた傀儡人形の術には二つの系統がある、
一つが術者の記憶から対象の情報を界より引き出して人形を生み出す術。
そしてもう一つが自身の魂の欠片を内包させ、それにより生み出す確かな自分自身の分身。
メイメイの持つヒトカタの符は龍神達が持つ最高峰の一品、それ自体が魂を受け止める受け皿になっているのだ。
ハヤトはサモナイトソードでクラレットと繋がり、ヒトカタの符のクラレットの魂を鍵としてクラレットの心の奥底に入り込んだのだ。
オルドレイクはその事実に気づいた、かつてはシルターンの召喚術すら扱える才覚を持っていたオルドレイク、
だからこそヒトカタの符の存在を、リィンバウムのエルゴの守護者である龍神メイメイの事を知っていた。
ハヤトは誓約者だからこそメイメイに通じている事をオルドレイクは気づき、
彼の行動をソルが認めた事からハヤトが何をしようとしているかに察したのだ。
「無駄な事を、たとえ心に入り込んだとしてもそこは奴の領域だ。奴の領域でエルゴの力は振るえまい。すぐにでも息絶える奴の姿が見えるわ!」
「……誓約者が死のうが俺はどうでもいいがな」
「なに?」
「奴が死んだら俺が責任をもってクラレットを殺してやる、そして5つのエルゴを使って貴様も殺してやるから安心しろ」
「ソル…貴様ぁ!!」
オルドレイクの魔力が更に強くなりソル達を襲うが、結界は揺らぐことはない。
サモナイトソードから発せられる魔力の粒子が一種の聖域を生み出し二人に害する力を弱めているのだ。
それは聖王国に伝わる始源の泉に類するものだとソルは理解する、魔剣もまたハヤト達を守ろうとしているのだ。
「さっさと戻れ、面倒をかけさせるな」
悪態をつきながらそう呟いたソル、彼の瞳には眠りながら抱き合う二人の姿が映っていた……。
サプレスがエルエルやロティエル、
ロレイラルが我らがアーマーチャンプ先生
メイトルパがオリジナル召喚獣メリオール
シルターンが……羅生門
いや一応シルターンにいるんだよ?防御用召喚獣。
鬼願法師とか狐火の巫女とか…。
ただ狐火の巫女はソルの召喚獣だし鬼願法師はなんかねぇ、防御っ!って感じじゃないんで
色々シルターンぽい防御型の召喚獣を探した結果羅生門に行きつきました。
壁!デカイ!壊れる!三拍子そろった立派な門です。
鬼道の巫女が鬼の門を召喚できても問題ないな!(暴論
という事で長い目で見ていてください、これからも多用します。
因みにメイトルパに防御型の召喚獣いないみたいです。
次回はクラレットの精神世界です。ご愛読ありがとうございました。