サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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一度筆が乗ればスムーズにかけるんですけど、
イメージと違い文字にするのは中々難しいですね。
それに合間合間で書いてると設定がおかしくなって帳尻合わせが…。
という訳で物語も佳境です、よろしくお願いします。


第47話 深紅の瞳

薄暗い通路、そこを流れる禍々しく膨大な魔力を感じながらハヤトは走っている。

だが、彼はその魔力の事を考えては居なかった、彼が考えていたのは…。

 

皆俺を信じてくれている…。

あれだけの事を仕出かしたのに皆は俺を信じて背中を支えてくれた。

やっぱりそうだったんだ…、皆俺を助けてくれていた、あの時感じた想いは決して嘘じゃなかったんだ。

 

リィンバウムの試練で感じた確かな絆。

それをハヤトは改めて実感していた、力の差や身分など関係ない、本当の意味で助け合う仲間がそこにいたのだ。

だからこそその想いはハヤトの力になり彼は体から魔力とは違う強い力が湧いてくるのを感じていた。

 

これが…絆って力なんだよな…。

 

自分が実感した想いに意識を向けながらハヤトは後ろに意識を向ける。

 

「ところでさカザミネ、アンタこっちに来てよかったわけ?エルゴの守護者でも何でもないんでしょ?」

「確かにそうでござるが、流石に初対面の相手と共には戦うのは少し問題が…」

「問題なんてありませんの!み~んなとってもいい人たちなんですの!!」

「それは分かっているでござるが…」

「カザミネハ連携ノ事ヲ言ッテイルノダ、アマリカラカウノハ良クナイゾ?」

「あはは、ばれちゃった」

「ええ!? そうだったんですの? カザミネさんごめんなさいですの…」

「素で勘違いしてたんですね、モナティさん」

「モナティらしいな」

「にゅ~!アカネさん!」

 

これから最後の戦いにも関わらず彼らはそれほど緊張してはいなかった。

無論戦う心構えはあり、ハヤトの感じていたモノを彼らも同じように感じていた。

モナティやアカネ以外のメンバーもあの場でハヤトの事を頼んだと意思を受け取っていたのだ。

 

皆に出会えてよかった…。

 

エルゴの守護者とは長い付き合いになると思う、皆本当にいい奴だ。

でもこの世界に来てきっと後悔する出会いは本当に少なかった。

ガゼル達もキムラン達、ラムダ達に……バノッサ達だってきっと出会うべき人たちだったんだ。

俺はもっと皆と先を見ていきたい…アイツと…クラレットと一緒に!

 

やがてハヤトの前に扉が見えてくる、扉の隙間から流れるあまりに膨大な魔力、

その先にあるモノは彼が手放してしまった命を賭ける程の大切な人。

ハヤトに力が入る、危険だとわかりながら彼の体から魔力が膨れ上がり始める。

 

「みんな!行こ―――ッッ!!?」

 

全員に視線を向け、声をかけた時にそれは起こった。

扉が吹き飛び何かがハヤトに向かって飛んできたのだ。

殺気も何も感じなかった、完全な不意打ちの為全員がその対処に遅れてしまったのだ。

飛んでくる物体にハヤトは激突し衝撃で後ろに吹き飛んでしまう。

 

「マスター!」

「ちょっとハヤト大丈夫―――えっ!?そいつ」

「お、お前は…!」

 

俺は自分に激突した物体、人物に目をやると驚いた。

その人物の魔力はかなり弱まっていたが知っている魔力だったのだ。

そして片手に握られた俺の手で折った魔剣、覇王の剣が握られていたんだ。

 

「はぁはぁ…くそ」

「ソル!お前なんで!?」

「誓約者か……思った以上に遅かったな、使えん奴だ」

「出会ってすぐそれかお前は!」

 

こいつ出会ってすぐに悪態付きやがって、ボロボロの癖に生意気だ。

まあ俺も人の事は言えないけどな…。

 

「くだらん事を聞くぐらいなら目の前を見ろ、来るぞ」

「目の前――あ」

 

目の前に視線をやると心臓を鷲掴みにされたように錯覚する、

視線の先にいるのは嘗て俺の命を奪った召喚獣、砂棺の王の姿があったからだ…。

そしてそれを従える様に砂棺の王の足元に一人の召喚師がいた。

 

「オルドレイク・セルボルト……!!」

「お兄さん、あの人が?」

「ああ、クラレットの父親で……!? クラレット!!」

 

オルドレイクの背後に俺は目をやる、かつて血色が良かった肌は真っ白に染まってしまい、

そして床に倒れ伏すクラレットの姿がそこにあったのだ。

倒れるクラレットの姿に最悪を思い浮かべるが胸が上下しているのに気づくとまだ生きていると理解できた。

そしてその横で佇むオルドレイクはこっちを見ると笑みを浮かべた。

 

「ほう…エルゴの守護者どもか。今回の儀式の危険性に気づき動き出したという事だな。クククッ良かったではないかソルよ。仲間が増えたようだぞ?」

「な、仲間ってどういう事なんですの?ソルさんって敵じゃないんですの?」

「敵に決まってるでしょ!こいつハヤトを一回殺したのよ!」

「え、えっと…」

「どういうことでござるか?」

 

モナティは戸惑いアカネは実際にハヤトを殺す姿を見てる為オルドレイクの発言に怒る。

それ以外のメンバーに至ってはソルと会うのはこれが初めてだったのだ。

見た感じ此方に殺気を向ける事はなく、それ以前にほぼ無関心な感じだった為どう信じればいいか分からないのだ。、

そんなメンバーを見ながら愉悦を感じていたオルドレイクだったがその中でいるはずの人物を見て表情を変えた。

 

「なるほど、どうやってソルが誓約を解除したか気にはなっていたが、その魔剣か。それにその身から漂う4つのエルゴの力、貴様誓約者になったようだな。エルゴ共はよほど我らを止めたいと見える」

「オルドレイク!自分のやって居る事が分かってるのか!」

「無論、餓竜の悪魔王スタルヴェイグを召喚し、この世界に終焉をもたらす為だ」

「悪魔王…また悪魔王って訳ね…」

「バルレルさんみたいな人を召喚するって事なんですの?」

「バルレルか…、あやつとは違う。界の狭間に出現したといわれる幾多の世界を食らい滅ぼした真なる魔王。それがスタルヴェイグだ。それを召喚する事こそ我が望む野望なのだ」

「オルドレイク!お前分かっているのか、魔王なんか召喚したらこの世界の結界が消滅するかもしれないんだぞ!そうしたらリィンバウムに昔起こった戦争がもう一度起こるかもしれないんだぞ!」

「無論、その事は承知済みよ」

「なっ!?」

「我らが始祖の残ししエルゴの碑文、それに記された世界の真実など既に理解しておるわ。そしてそれに書き記された願いもな」

「願い…?」

「リィンバウムを真の楽園へと作り替える、その為にリィンバウムは一度滅びなければならないのだ。利用される異界の者共を真に開放するために、このリィンバウムは完全な滅びを迎えなければならないのだ!」

 

オルドレイクの願いはリィンバウムの滅び、俺と同じ世界を救うという目的の為に世界を滅ぼそうとしている。

前に師範が言っていた立ち位置の違いってこういう事だったのか、

世界を滅ぼす事でオルドレイクは召喚術という縛りから世界を解放しようとしてる。

 

「その為にお前はこんな事をしたのか」

「無論、その通りだ」

「お前の救う世界にリィンバウムは入っていないのか?」

「戦争がはじまり世界が滅び人間が生き残ればそれはそれでいい、だがその中に召喚師は残ってはおらんだろうな」

「その目的の為に……クラレットを、自分の娘を犠牲にするっていうのか?」

「その為だけに我らは生み出したのだよ。クラレットをな、それ以外に何の価値があるというのだ?」

「!!」

 

ハヤトはサモナイトソードを抜き放ち膨大な魔力をオルドレイクへと向ける。

向けられたオルドレイクは微笑を浮かべるだけでその力に恐怖することは無かった。

 

「ウィゼルの作りし最後の魔剣か。まあいい奴とは目的が元々違うからな、せいぜいその魔剣を使わせてもらおう、ところで……」

 

オルドレイクの視線がハヤトの後ろのエルゴの守護者に向けられる。

 

「問おう、守護者達よ。かつて同じ王の下に戦った守護者の後継者として聞く。我らに付く気はないか?」

 

その問いかけに守護者全員驚愕する、誓約者を守るエルゴの守護者を勧誘したのだから、

ハヤトは驚き皆に視線を向けると何名か戸惑いを見せていた。

 

「マ、マスターを裏切るなんてできませんの!」

「クラレットを利用してるアンタに付くわけないでしょ!馬鹿じゃないの!!」

「本当にそう思うかレビットの少女よ。貴様は知っているのではないか?リィンバウムの闇を」

「な、なに言って…」

「貴様らメイトルパの召喚獣はいい労働力だ、誓約で縛れば逆らうことは無い、それだけではないな。貴様らは仲間を守ろうとする…我々以上にな」

「にゅ……にゅう……」

 

オルドレイクの言葉からモナティは何も言えなくなる、

なぜならメイトルパの住人は召喚術最大の犠牲者とも言えるのだ、

人と違う容姿、強い生命力、リィンバウムの召喚師は古くから彼らを労働力として扱い続けてきた。

まだメイトルパにいた頃のモナティでも覚えていた、家族を失い悲しみにくれている同胞の事を、

そして元の世界に還れなくない周りに当たり散らしていたが必死に前を見ようとしている親友の事を…。

 

「我らに協力すれば結界は消え去る、そうすればお前どころか全ての召喚獣は元の世界に還るのだぞ?」

「……それでも、それでもマスターならきっと全部変えられますの!みーんなを幸せにできますの!!」

「かつての誓約者よりも劣るこの男が本当にそのような事を出来るとでも思っているのか?」

「当ったり前ですの!昔の人よりも今のマスターの方がずっとず~っと!すっごいんですの!!」

 

モナティの言葉にハヤトは嬉しく思う、それだけ自分の事を信じてくれたからだ。

だがオルドレイクはまるで興味を失ったようにモナティを見ている、それは一つのモノを見ているようだった。

 

「自分で考えようとせず盲目に従うだけのようだな、他の守護者達はどうだ?我らに付く気はないか?」

 

オルドレイクの視線がカイナに向けられる、エスガルド達にはその言葉を向けようともしていない、

恐らく機械兵士だから考えを改めるなんて思ってもいないのだろう。

 

「私はまだはっきりとハヤトさんの事を知りはしません、ですが彼が真っ当な理由で必死に戦っている事は分かります。そして貴方もまた道を外そうと目的の為に突き進んでいる事は分かります。ですが、私はエルゴの守護者。我らが親神タイゼン様より任を流石ったこの身、貴方の姦計に掛かり全てを裏切るなど選べるはずはありません。……お断りさせていただきます」

 

モナティのような感情の言葉ではない、彼女の使命と決して相容れぬ事をカイナは語った。

幼き頃から守護者として必死に役目を果たし続けたカイナにとってオルドレイクの言葉は決して聞いてはならないものなのだろう、

もし俺達より先にオルドレイクが会っていれば何かが変わったかもしれなかったかも知れない。

 

「守護者の任か…やはり無理の様だな、守護者を味方に付ければ都合がよかったが仕方がない…」

 

オルドレイクがその手に持つ魅魔の宝玉を掲げる、黒紫色の魔力が迸り始める。

その魔力が宙を舞うとそのままクラレットへと吸い込まれ始める。

 

「うっく!ウアァァァァァ―――ッッ!!!?」

「クラレット!?」

「貴様らが世界を救いたいと言うのならば我を倒して見せよ!誓約者!エルゴの守護者よ!」

 

クラレットの閉じていた瞳が開くと共に彼女の口から悲鳴が発せられる。

クラレットの肌は紫色の変色し始め頬に文様のようなものが浮かび始める。

途轍もなく嫌な予感がした俺はオルドレイクに向かって走り始め、魔剣を振りかぶり斬り付ける。

 

「オルドレイクッッ!!!」

「ふん!」

 

光り輝く美しさを放っていた虹色の魔力はドロドロの魔力へと変化する。

クラレットを目の前で傷つけられたハヤトはその怒りを力に変えて振り下ろしたのだ。

破壊の光と化した一撃がオルドレイクに襲い掛かったがオルドレイクは杖に魔力を宿してそれを食い止める。

金属がぶつかり合う衝撃音が鳴り響くとハヤトは驚いた、放たれた一撃がオルドレイクに効かなかったのだ。

 

「なにっ!?」

「クククッ、力任せの一撃で我を倒せると思っていたのか?」

 

オルドレイクの持つ怨王の錫杖は接近戦も行えるほどの頑丈さを誇る。

何よりサプレスのエルゴを手中に収めているオルドレイクに対して力任せの攻撃は通じない。

 

「エルゴを従えた今、貴様の力と勝るとも劣らぬわぁ!!」

「がはっ!?」

 

怨王の錫杖から放たれる黒い極光がハヤトを貫き弾き飛ばす、吹き飛ばされたハヤトは地面に激突し大地に亀裂が走る。

 

「再び同じ末路を辿るがいい、誓約者よ!」

 

オルドレイクの後ろで待機していた砂棺の王が動き出す、滅びをもたらす呪詛の光球を撃ち放ち雨の様にハヤトに襲い掛かる。

 

「マスター!」

「やっば間に合わない!?」

 

この中で一番速いアカネすら間に合わない状況に彼らは危機感を感じる。

対するハヤトはオルドレイクの一撃で碌に動けない状況だった。

だがその状況下でハヤトを助けるものがいた、彼の目の前に黒い揺らぎが生まれるとそこから人影が現れたのだ。

 

「感情に任せて下らない真似をするな」

 

それはソルだった、折れた魔剣で結界を生み出し光球を防いだのだ。

ソルはその魔力をそのまま利用してソルは影を操りオルドレイクに襲い掛かる。

刃と化した影はオルドレイクの命を刈ろうと鎌のように振るわれた。

 

「ほう、我が魔力を利用するかソルよ…、だがそれはこの私にも言える事だぞ?」

「ッ!」

 

ソルの影はオルドレイクに到達する前にオルドレイクが生み出す巨大な影に取り込まれてしまう。

ソルがオルドレイクの魔力を利用したのと同じようにオルドレイクもまたソルの魔力を利用したのだ。

オルドレイクはそのまま巨大な影で剣山のように変化させて串刺しにしようとソルに襲い掛かる。

 

「退けソル!」

 

ソルを退かしたハヤトがサモナイトソードを突き出し光と共に魔力を放出させて影を全て吹き飛ばす。

放たれた光をそのまま天へと向けると空間に亀裂を生み出してハヤトは召喚術を発動させた。

 

「メテオライトフォール!!」

 

落とされる巨大隕石がオルドレイクを押しつぶそうとするが、オルドレイクは影を操り隕石を切り刻み破壊する。

 

「中々の召喚術よ、だが単純な召喚術で私を倒せると思っていたのか誓約者よ?」

「どうかな?」

「うさきだんですの!」

「手裏剣影分身!」

「ターゲットロック!」

 

アカネとモナティ、エスガルドが同時にオルドレイクに向かって攻撃を仕掛ける、大量の魔力弾と手裏剣に弾丸殺到するが、

オルドレイクは表情を変えることなく影を再び操りそれらの攻撃を全て弾き飛ばす。

そして片腕を上げると再び砂棺の王が動き出し今度はエルゴの守護者達に襲い掛かった。

 

「やっば来る!?」

「みなさん!私の後ろに!」

 

シャランと鈴をカイナが鳴らすと彼女を起点に結界が生み出される、

鬼神に使える巫女が生み出す退魔の結界の前に怨霊達はなすすべも無い、

結界に触れる怨霊は尽く消滅してゆくが途切れる事のない攻撃の前にカイナの額から汗が落ちる。

 

「うっく…!くぅっ!」

「カイナ殿!」

「まだ、平気です!」

「何時まで耐えられるか見ものだな巫女よ……む?」

「オルドレイクッ!」

 

ハヤトがオルドレイクに向けて突っ込んでゆく、オルドレイクは影を操りハヤトを排除しようとするが、

ハヤトがサモナイトソードを振るい影の悪魔を打ち破ってゆく、

だがオルドレイクに焦りはない、砂棺の王に指示を出したオルドレイクは怨霊達をハヤトへと向ける。

 

「その魔力は目を見張るものがあるがそれだけだな誓約者よ。滅びよ!!」

「うおぉぉぉぉーーーッッ!!!」

 

迫りくる滅びの光をハヤトは力尽くで打ち破ろうとするが、それはオルドレイクに届くことは無かった。

 

なんて魔力だ!

単純な実力ならあの時のソル以上じゃないか!

 

三つのエルゴを従えたソル以上に実力を示すオルドレイク、

サプレスの召喚術と魔力操作にかけてリィンバウムで最も極めてる強者なのだ。

その様な男がサプレスのエルゴを手にしている今、未だ4つのエルゴしか持たない不完全な誓約者であるハヤトにはオルドレイクを倒すことは出来なかった。

誓約者として未熟なハヤトでは現状オルドレイクを倒すことは不可能なのだ。

 

「ふはははは!どうした!その程度か誓約者よ!」

「く…くそぉ……!?」

「ネウロランサー!」

 

不意に後ろから殺気を感じたハヤトは何とか避けると後方からネウロランサーが飛んでくる。

そのネウロランサーはオルドレイクの攻撃にぶつかるとなんと透過し始めてオルドレイクに突き進んだ!

だが怨王の錫杖を振るいオルドレイクは軽くネウロランサーを砕いてその方向を見る。

 

「私の魔力に同調させ透過させるか、見事な技だがもう少々強力な攻撃ならやられていたかもしれんな」

「はぁはぁ……クソッ!」

「ソル!なんで俺ごと攻撃なんてしたんだ!」

「貴様が避ける事は計算していた、当たればその程度という事だ。まあ俺にしてみれば当たっても構わんがな、むしろ使えるエルゴが増える」

「なんだと…!」

 

ネウロランサーは相手を腐食させる蛇矛だ、もし当たれば目も当てられない状況が待っている。

にも拘らず警告もなしに突然後ろからそれを撃ち放つソルにハヤトは文句を言うが本人は気にする事もなかった。

 

「あの二人なにやってんのよ…同じ敵なら協力しなさいよ!」

「恐らく本質的に合わないのでござろう、ハヤトもソルと言う男も冷静ではないようでござる」

「あのアカネさん? ピュンって跳んでクラレットさんの所に跳べないんですの?」

「ずっとチャンスを見てるけどどうにもこっちを見てるみたいでね…、悪いけどクラレットに触れる前に影で切り刻まれるのがオチよ」

「あれは影の悪魔を用いた自動防御なんだと思います。迂闊に近づけば恐らくそれだけで…」

 

守護者達は行動に移せなかった、モナティは爆発力があるがからめ手が弱く、

アカネは影の悪魔の自動防御に対抗出来るほど素早くない、

何よりエスガルドとエルジン、カザミネの三人はオルドレイクの攻撃に対する抵抗力が低いのだ。

怨霊を操る砂棺の王の前に物理的な障壁は意味をなさない為どうしてもカイナの手で守らなければならなかった。

それなのにオルドレイクに攻撃が届くソルとハヤトがあの様なのだ、そのせいでこの状況を打破できない。

 

「もういい!お前は下がってろ!俺達でオルドレイクを倒す!」

「死にかけでよく減らず口が叩けるな、貴様こそ下がっていろ、奴は俺が殺す」

「ククク…随分と仲がいいではないかソルよ? 二人で同時に挑めばこの私を倒すことが出来るかも知れんぞ?」

「下らん戯言をよく叩けるな、貴様など俺で十分だ!機界の名工により遺された、至りし竜よ。我が呼び声に応え―――くぅッ!?」

 

巨大なゲートが生み出されそこからゼルゼノンが召喚されようとするが、

完全な姿を現す前にソルが膝を尽き顔から塞がっていた傷口が開き始める。

過剰に魔力を使い過ぎた反動でソルの体も限界が近くなったのだ。

いくら二つエルゴの欠片を持つソルとは言えそれはあくまで欠片,自身の魔力を増幅させるほどしか今は扱えなかった。

 

「始原の時を生じて―――ガァ!?」

 

サモナイトソードに魔力を送り込み始めたハヤトの体に異変が起こる、

先ほどよりも強い激痛がハヤトを襲い膝を付いてしまう、先ほどから無茶な事ばかりし続けた限界が訪れかけていた。

 

「二人してそのざまとはな、あまり時間は残されてはいない。ここ消えてもらうぞ?」

 

オルドレイクが砂棺の王に指示を出すと砂棺の王は杖を前に出し怨霊達が破壊の光へと変わり二人に殺到する。

 

「来てくれ!メリオール!」

 

ハヤトはすかさずメリオールを召喚して積層結界で砂棺の王の攻撃を防いだ。

だがメリオールは最上級の召喚獣、召喚するだけでハヤトの体力はドンドンと失われてゆく。

 

「サプレスのエルゴを守っていた古妖精か!予想以上の手数だな誓約者よ!」

『うっく!さらに強く…!』

 

砂棺の王の攻撃が更に激しくなりメリオールの表情が険しくなってゆく。

だがそんなメリオールの背中をソルが押すとメリオールの表情が変化する。

 

『これは!?』

「弾き飛ばせ!」

『キャッ!?』

「メリオール!? お前何してるんだ!!」

 

メリオールの結界が弾丸の様に飛び出しそのまま砂棺の王に激突する。

古妖精の魔力で生み出された結界は天使のそれに近く攻撃が途絶えるとソルは走り出した。

そしてそれに続くようにハヤトも走り始めた。

奇しくも二人が肩を並べオルドレイクに向かって突き進むが、対するオルドレイクの表情は変わらない。

 

「無駄な事を…二人で同時にかかろうと何も変わらんわ」

「鬼神将ゴウセツ!」

「鬼神将ガイエン!」

 

紅色の魔力が二人から膨れ上がると異界から召喚された鬼神が二人の体に入り込む。

ソル自身初めてだったが何度も同じ技を見続けたせいか服従召喚でありながら完全にコントロール下に置いていた。

そしてハヤトとソルが握るのはウィゼルの作り出した兄弟剣であるサモナイトソードと覇王の剣、

同じようにハヤトは紅色の魔力が剣から発するとそれをオルドレイクに振り下ろす!

 

『「鬼神烈破斬」!!』

『「鬼神剛断剣」!!』

 

オルドレイクが怨王の錫杖を盾に二人の攻撃を防ぎ始める、そのあまりの威力で地面に亀裂が生まれるがオルドレイクは冷静だった。

目の前の二人が凄まじい勢いで消耗してるのが分かっていたからだ。

ソルの魔力は枯渇寸前、対するハヤトは自身の魔力に耐え切れない、

振るわれた魔剣の一撃はその破壊力と引き換えにドンドンと勢いが落ちていった。

 

「砂棺の王よ!」

 

動きだした砂棺の王は動かないソルとハヤトに攻撃を仕掛ける。

怨霊が二人の弱った体に憑りつこうと迫ってくるが二人はそれに気づかなかった。

 

「うさきだんですの!!」

「むぅ…メイトルパのエルゴの守護者か」

 

それにいち早く気づいたのはモナティだ。

魔力を込めたうさきだんで悪霊を吹き飛ばしハヤトとソルに向かって突っ込んで距離を取る。

二人の命を救ったモナティだったがそんなモナティの行動を二人は良しとはしてはないなかった。

 

「レビット!貴様なぜ邪魔をする!」

「モナティ、あと少しだったんだ!なんで――!」

 

背を向けていたモナティがゆっくりと二人の方を見ると涙腺を浮かべてはいたが顔は強張っていたのだ。

 

「二人とも……いい加減にしてくださいですのぉぉっっ!!」

 

モナティは単純に怒っていた。

 

「モナティはソルさんとも戦った事があるからわかります。二人ともとっても強いんですの。なのに二人して喧嘩ばっかりしてなんで協力できないんですか!?」

「それは……」

「なぜ俺がそんな事をしなくてはいけない。貴様らと協力する理由は――」

「じゃあなんでソルさんはここにいるんですの!?どうしてここで戦ってるんですの!?ソルさんはクラレットさんを助ける為にここにいるんじゃないんですの!?」

「………」

「あの人の力がクラレットさんの力ならクラレットさんを殺しちゃえば簡単に勝てるはずですの……でもそれをしようとしてないならソルさんのやりたいことはクラレットさんを助ける事じゃないんですか!?」

 

ボロボロと涙を流しながらモナティが訴える、そんなモナティにハヤトは何も言えなくなった。

自分勝手な感情をこの場で優先してしまったのだ。

そしてソルも…。

 

「悪いモナティ、本当にやらなきゃいけない事を勘違いしてた…」

「マスター…」

「ソル」

「………」

「力を貸してくれないか?俺の力じゃオルドレイクを…クラレットを助ける事は出来ないんだ。クラレットを助ける為に今は力を貸してくれ!頼む!」

「……ッ」

 

頭を下げる勢いで懇願するハヤトにソルは舌打ちする。

そしてそのまま立ち上がると目線をクラレットに向け少しばかり思案すると応えた。

 

「魔力を寄越せ、道は切り開いてやる」

「ソル…!」

「ソルさん!」

「勘違いするな貴様らに手を貸す訳じゃない、オルドレイクを殺す為の利用するだけだ……クラレットの意識を目覚めさせるにはお前の魔力で揺さぶりをかければいいだけだ。クラレットさえ目覚めればサプレスのエルゴは途切れるからな」

「分かった、持ってけるだけ持って行け!!」

 

二人が肩を並べて立ち上がる、この一時のみかもしれないがそれでもとても頼りがいがあった。

ソルがハヤトの肩に手をやるとハヤトに凄まじい脱力感が襲い始める。

 

「うっくっ!?遠慮なく持っていきやがって…!」

「持って数分か…」

 

ハヤトから多大な魔力を抜き取るとソルの体の塞がっている傷が開き始める。

通常の魔力に比べあまりの質と量がソルにとって毒だった為だ。

そしてソルは視線をエルジンに向けるとその場に移動する。

 

「ノイラームの召喚師だな」

「え、そうだけど」

「アシストする、最大の召喚術を撃ち放て」

「突然言われても……でもやるしかないんだね」

「そうだ、火力で一気に押し切るぞ」

「うん!」

 

エルジンはゼルガノンのサモナイト石を取り出し、ソルもゼルゼノンのサモナイト石を手に取る。

ソルはゼルゼノンを召喚する片手間エルジンの召喚術にアシストを始め彼を導いていく。

 

「ロレイラルの召喚術は他とは大きく異なる、単純な想いや意思如きで引き出せはしない。対象を選び組み合わせ指示を出す。誓約を使い指示を出せ」

「でもそれじゃ召喚獣の意思を…」

「意思など関係ない、中途半端に命令するほうが奴らにとって迷惑だ。俺達は召喚師だ、召喚した者を従えるものだ。要は匙加減だ分かったな」

「う、うん!」

 

ソルが言葉を選んでる事はエルジンも理解できた。

その言葉に従いエルジンは服従召喚術を使用するが、ある程度抑えめに命令をハッキリと伝え他に魔力を大きく回す。

今までの様に頼み願うのではなく、的確な指示を出すことに意識を向ける。

 

「機界の名工により遺された、至りし竜よ。我が呼び声に応え、今ここに現れよ!」

「同じく名工に作られし機界の神よ!僕の声に応えて!」

 

エルジンは今まで何ない手ごたえを感じる、そして同時にソルの実力に驚いた。

シルターンやサプレスの召喚術を操るだけではなくロレイラルも操り、守護者である自分以上の実力を持つ。

自分の更に先に立つロレイラルの召喚師であるソルにある意味尊敬の念をエルジンは抱いた。

そして二人は機界が誇る最上級の召喚獣をこの地に召喚したのだ!

 

「機竜ゼルゼノン!!」

「【機神ゼルガノン】!!」

 

―――ガアアアアァァァァァーーーーッッ!!!

 

生物と機械が入り混じった咆哮と共に姿を現した強大な至竜、ゼルゼノン。

そしてゼルゼノンを生み出した名工ゼルに同じように生み出された召喚獣、

上下に分かれたAパーツとBパーツが宙を舞い合体し巨大な剣を手に取る人型の巨大兵器、機神ゼルガノン。

 

「機界の最上級召喚獣か!」

 

現れた強大な力を持つ召喚獣の前に流石のオルドレイクも身構える。

 

「バベルキャノン!!」

「神剣イクセリオン!!」

 

ゼルゼノンの砲身から放たれたバベルキャノンとゼルガノンの手に取る剣が投擲させる。

影の悪魔と怨霊を操りオルドレイクをその攻撃を防ぎきるがその表情に余裕はなかった。

 

「いまだ行け誓約者!」

「お兄さん!!」

「ハヤト今シカナイ!行クノダ!」

 

魔力を使い果たしたのか膝を付くソルとエルジン、そんな彼らを守るエスガルドが叫ぶ。

ハヤトは駆け出す、失ったものを取り戻す為に、そして今度こそ失わない為に。

 

「させん!」

 

オルドレイクは影を操りハヤトに追撃を仕掛ける、しかしそれをカイナやモナティが抑える。

 

「マスター!今ですの!」

「ハヤトさん、行ってください!」

 

だがオルドレイクの手は休むことはない、怨王の錫杖を掲げ砂棺の王に指示を出そうとする。

しかし、オルドレイクの行動を阻む為、アカネがオルドレイクに攻撃を仕掛け、

フレイムナイトを憑依していたカザミネが砂棺の王に斬りかかった。

 

「ハヤト!やっちゃいなさい!」

「行くでござる!ハヤト!」

「みんな……!!」

 

ハヤトは真っ直ぐクラレットの下へと近づいていた。

そしてハヤトの脳裏に今までの出会いがよぎっていた。

 

試練の時、俺は一度全てを捨てそうになった…。

仲間も家族も……大切な人すら俺は忘れしまっていた。

でもな?それを取り戻してくれたのはお前なんだクラレット、お前がいたから帰ってこれたんだ。

だからもう俺はお前を失いたくない……違う、お前の前から消えたくないんだ。

あの時俺は無茶な事をして目の前から消えてしまった、それがどれほどクラレットを悲しませたのかは俺にはわからない。

だけど…だけどもう目の前から消えてほしくないんだ。だから俺は…!

 

「クラレット!!」

 

ハヤトがクラレットの体を起こし声をかけ続ける。

ソルに言われた通り魔力をクラレットに流しながら彼女を呼びかけ続けていた。

 

「クラレット!クラレット起きてくれ!クラレット!」

 

固唾を飲んで誰もがその状況を見守っていた。

だがそんな中、ソルだけが動き出しオルドレイクに斬りかかる!

 

「ムゥッ!?」

「ッ…!」

 

オルドレイクはソルの攻撃を防いだ、ソルから放たれる殺気を感づかれたのだ。

 

「貴様も終わりだなオルドレイク、クラレットが目覚めればその瞬間サプレスのエルゴは途絶える。そうすれば貴様の優位は失われる」

「………」

 

何も語らないオルドレイク対しソルは嫌な予感を感じさせた。

 

「クラレット…!頼む目を覚ましてくれ…!!」

「………………ァ」

「クラレット…!?」

 

余りにも軽く、真っ白な肌をしているクラレットにハヤトはもしもと考えてしまうが、

クラレットがハヤトの言葉に反応したのかその口を小さく開き、そして薄く目が開き始める。

こうして再び目の前にクラレットがいる事にハヤトは感動し涙を流してクラレットを抱きしめた。

 

「良かった……!本当に…良かった!!」

「………」

「間に合ったんだ…!俺は…間に合ったんだな…!」

 

笑顔で涙を流すハヤトに全員が安堵する、自分たちは間に合ったんだと、クラレットを救う事が出来たのだと。

だが……その中で唯一オルドレイクと対峙するソルはその違和感に気づく、そして…。

 

「クククッ…」

「!?」

 

オルドレイクが微笑を浮かべている、

それに気づいたソルはクラレットの方に視線を移すとその違和感の正体に感づいた。

 

「ッ、誓約者!すぐにクラレットから離れろ!!」

「…え?」

「――――――!」

 

ソルの奴何を言ってるんだ?

クラレットから離れるって…俺はクラレットを取り戻したんだぞ…?

いや…なんだこれ? なんでこんなに胸が熱いんだ…? 

――――これって…。

 

ハヤトが視線を下に向ける、そこには―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の胸に突起物を突き刺す血塗れのクラレットの手がそこにあったんだ。

 

「うぐぅっ!?」

 

実感すると同時にハヤトに激痛が走った。

何故?という感情に体が支配されて何もできなくなった彼は視線をクラレットの顔に向ける。

血。髪と同じ美しい藤納戸の瞳は真っ赤に染まりその表情はまるで能面のように変化がない。

 

「はぐれ召喚獣風情が私に触れるな」

「なっ!?」

 

あり得ない言葉をクラレットが言い放ち手に持っていた突起物から魔力がハヤトの中に押し込まれる。

漆黒の色に染まった魔力、あらゆる呪詛を混ぜ込んだ死の呪いがハヤトの体を貫き彼は吹き飛ばされてしまった。

 

「マスター!!?」

「ハヤトさん!大丈夫ですか!?」

 

彼の仲間はハヤトの傍に駆け寄る、カイナはすぐにハヤトにかけられた呪いを解こうとするがその表情から良く無いモノだと判断できる。

胸から血と共に魔力が液体のように流れ出る光景を見た彼らは信じられなかった自分たちが助けようとした相手にこのような事をされたのだから。

特にハヤトと共に歩んできたモナティは信じ切れずクラレットの方を見ると怒鳴った。

 

「なんで…!なんでこんなことするんですの!?マスターはクラレットさんを助ける為に――!!」

「口を開かないでくれますか?ケダモノの分際で」

「―――!?」

 

モナティは絶句した。あり得ない彼女がそんな事を言うはずがない。

仲間を守る為に命を賭ける彼女が…どんな相手にも果敢に挑んいた彼女が…。

そんな彼女が自分たちの事をケダモノなんていうはずがない、そんな感情がモナティを襲う。

クラレットは体を起き上がらせる、真っ白な衣はハヤトの血がベットリと付着し血化粧のように彩られていた。

彼女は手を前に突き出すと空間が揺らいでそこから杖が召喚される。

パルメキアワンド、彼女の母ツェリーヌ・セルボルトが愛用した魔杖。

その杖の先端に付けられたサモナイト石が光り輝き始める、光はやがて黒紫色の変色しそして深紅に染まり始める。

 

「誓約者を名乗るケダモノ。聞きなさい」

「くぅ…はぁはぁ」

「救われない王が生誕した異界より来た新たなる誓約者よ。私は貴方の存在を許さない」

「俺は…!」

「誓約者がいたから世界は閉ざされた。誓約者が望まなかったから世界は歪んだ。誓約者がいたから……獣は還らなくなった…」

 

彼女が淡々と語るのは誓約者の罪。

誓約者がいたからこそ壊れた世界の真実。

 

「それ故に私は許さない、新たなる世界の歪む原因を我らが敵を――」

 

彼女の背後から新たな召喚獣が出現する、オルドレイクの砂棺の王に酷似した召喚獣。

砂棺の女王と呼ばれる彼女の母が操った怨霊の主の一つ。

死の灰をまき散らし魂を衰弱死させてしまう恐ろしき怨霊たちの主。

 

「『死ね、怨敵―――呪われし異界より来たれしケダモノよ!!!』」

 

砂棺の女王が放つ死の灰が舞い、ハヤト達を包み込もうと迫ってくる。

…だがハヤトの戦う意思は残されていなかった。

 

「どうしてなんでよ…どうしてこんな事に…」

 

彼の呟きは死の灰の流動音に消えてゆく。

ハヤトは救い出した…だが救い出した者は既に…本来あるべきモノに戻っていたのだった……。

 




ソルの口調がわからん…。
原作は子供っぽいし、U:Xは完全に悪人だし。
その中間あたりかな……難しい。

という訳でお決まりのパターン①洗脳です。もうヒロイン洗脳とかお約束ですね。
でも設定的に洗脳ではないんです。まあほとんど変わらないですけど…。
そこらへんは次回に語らせていただきましょう。
ご愛読ありがとうございました。

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