サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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なんか筆がノリノリな時と乗らない時で差が激しい。
乗った時はいっぱい書くようにしてるわ、まあ気づいたら3時間書いてたりする。


第44話 決着

崩れている建物が並ぶサイジェントの南スラム。

大型の地震や爆弾でも落ちたのではないかと思われるがそれ違う。

これを生み出したのは召喚獣と呼ばれる異界の生き物たちだった。

悪魔王と呼ばれるモノが力を振るいこの光景を生み出したのだ。

そしてそれに立ち向かっている同じ召喚獣の少女が悪魔王とにらみ合っていた。

 

『ニンゲンオンナも随分と楽しませてくれたが、オレ様の前じゃ意味がなかったようだな』

「ま、まだモナティ達は負けてないですの!」

『クククッ、負けてねぇだと? まあ確かになウサギ、お前は生きてるからなまだ負けてねぇな…まあこれで…』

 

地面を蹴り上げバルレルはモナティに向かって突進してくる。

 

『終わりにしてやるぜ!』

「にゅっ!?」

 

モナティはギリギリでその攻撃をかわしてバルレルの後ろに跳ぶ、

距離を取ったモナティは両手に魔力を溜めながら後ろに跳び続けた。

 

「うさきだんですの!」

『馬鹿の一つ覚えかよ!』

 

放たれる光球を両腕で殴り飛ばしながらバルレルは接近し続ける。

目視するのも困難な速度の魔力弾すらバルレルに取っては児戯にも等しかった。

モナティは自身の技術の低さを意識し、奇策を使う事を考える。

バルレルの足元にうさきだんを放ち瓦礫による粉塵を生み出したのだ。

煙で見えなくなったバルレル、それは同時にこちらの姿も見えなくなったことを意味している。

 

「これで…行きますの!」

 

パン!と両手を合わせて右腕全体に魔力をモナティは流し始める。

イメージするのはカザミネ、何度か見た居合の一太刀だった。

やがて煙の中からバルレルが姿を現すと同時に右腕を思いっきり振りながら魔力を開放する!

 

「うさきざんですの!」

『あぁ…?ウゼェ!!』

「にゅっ!?」

 

防御出来ない攻撃だったはずがバルレルはあろうことか踏みつけたのだ。

横一線の攻撃は上からの攻撃に弱い事をバルレルは看破したのだ。

そのままバルレルはモナティに近づき殴ろうとするがモナティは跳び上がりそれを避けた。

 

『逃げ場のねぇ空に避けるたなぁ!』

「まだですの!」

 

両手にうさきだんの光球を生み出してモナティはバルレルの拳を防ぐ。

うさきだんは爆発する事はなかったがあまりの反動に後方にモナティが吹き飛ばされた。

 

『攻撃を防御に使うとはやるじゃねぇか。面白れぇなウサギオンナ』

「ふう…ふう…」

 

必死に食らいつくモナティにバルレルは興味を抱き始めた。

先ほどの斬撃といい攻撃を防御に使うなど戦いの中でドンドン強くなっているのだ。

全てが粗削りならがそれらは決して間違いではない戦い方だった。

悪魔であるバルレルは戦いを楽しみと捉える性質を持っている、

だからこそ強くなっていく相手と叩き潰すことに喜びを抱くのだ。

 

『ニンゲンからの誓約がなければ見逃してもよかったが、悪いが死んでもらうぜ!』

「うにゅぅ…!!」

 

バルレルの拳がモナティに襲い掛かる、咄嗟に全身に魔力を流して防御にモナティは走った。

攻撃がモナティに守りを破れずバルレルは苛立ち始めるが、連続して何度も何度も攻撃をし続けた。

 

「にゅぅっ!うにゅぅぅー!」

『チッ! 一度手放したからには使いたくなかったがこれで終ぇだ!ウサギオンナ!』

 

バルレルの手に槍が召喚される、それを見たモナティに悪寒が走り防御に回していた魔力を移動に回した。

放たれた魔槍の突きがモナティの頬を切り裂き防御に回っていれば串刺しにされていたとゾッとする。

 

『大人しく串刺しになりやがれ!』

「そ、そんなの嫌なんですのぉ!!」

 

再びうさきだんを光球に形に変えて突き出される魔槍とぶつけあってモナティは相殺してゆく。

だが、ぶつかる光球は魔槍の威力の前に消滅し何度も生み出すモナティに疲労が溜まってゆく。

 

『ウゼェ!!』

 

魔槍を振りかぶりそれをモナティに投擲したバルレル、

モナティはその攻撃をギリギリで回避しバルレルに視線を合わせたとき恐ろしいモノを見たのだ。

ニヤリと口角が上がったバルレル、それを見た瞬間理解した、魔力を防御に回そうとするが間に合わなかったのだ。

 

「うにゅぅぅ!?」

『掛かりやがったな!ウサギオンナ』

 

魔槍に宿った魔力が爆発しモナティはその爆発をまともに受けてしまう。

サプレスの魔力が宿った攻撃にモナティは意識が朦朧としてしまい碌に前を見る事も立つことも出来なくなってしまった。

それを確認したバルレルがとどめを刺そうと歩み寄ってくる、

何とか動こうとするモナティだったが助けは意外な所から来たのだ。

 

「モナティ!!」

「アカネさん!?」

『手前ェ、まだ生きてやがったのか…!』

「悪いけど、守護者後輩を見捨てる訳には行かないのよね。行くわよ!!」

 

正確にはアカネの方が後輩なのだが今は関係ない。

アカネが無謀にもバルレルに正面から近づき、

首元を短刀で切り裂こうとするがバルレルが拳を振りかぶりアカネの腹部を貫いてしまったのだ。

 

「アカネさん!!」

『この感触…手前ェ!』

「引っかかったわね。忍法・分身爆弾の術!!」

 

そう、バルレルが攻撃したアカネは忍術で生み出した分身だったのだ。

突如爆発した分身にバルレルは驚くが本人のダメージはさほどでもなかった。

だが周囲の瓦礫から現れた合計四人のアカネの分身がバルレルの四肢に取り付き動きを封じたのだ。

 

「「「「モナティ!最大パワーで吹っ飛ばしちゃえ!!」」」」

『チッ!?やってくれたなニンゲンオンナ!!』

「モナティ達は確かに弱いんですの…でも皆で戦えば勝てるんですの!!最大…!うさきだんですのぉー!!」

 

両手から放たれる極大のうさきだん、それはまっすぐにバルレルに迫ってゆく。

その攻撃を食らえばバルレルもただでは済まないと理解はしていた。

だが、バルレルは魔王なのだ、霊界サプレスの悪魔界に君臨している超越者の一角。

それがこの程度のピンチを切り抜けられないはずがなかった。

 

『!!!』

「うぷっ!嘘ッ!?」

 

ボンッ!と突如左の手足に組み付いているアカネが爆散してしまった。

そしてギリギリで体をねじりうさきだんを避けてしまったのだ。

 

「避けたんですの!?」

『この分身共がもっと確りしてればこうならなかったかも…な!』

 

バルレルが力を入れると右の手足に取りつくアカネも爆散してしまう。

これには確りとしたカラクリがあった、アカネの分身は魔力により分身なのだ。

つまりバルレルはアカネの分身に無理矢理暴れまわる魔力を押し込んだことでその魔力を制することが出来ずに爆散したのだ。

もしアカネの分身の練度が高ければこうはならなかっただろう。

 

「ど、どうすれば…うにゅっ!?」

 

突如地面がモナティに襲い掛かる。実際は街路樹を強化したときのように地面を強化して持ち上げたのだ。

モナティはその行動が理解できずどうすればいいか悩んでしまう、そしてそこを突かれた。

バルレルが壁を拳で打ち破りモナティの顔面に拳を叩き込んだのだ。

魔力を宿しまともにそれを食らったモナティは吹き飛ばされて何度も地面をバウンドしながらやがて倒れ伏した。

 

「にゅぅーー!みゅぅーー!?」

「ケッ、避けると思ったがまともに食らいやがった。つくづく凸凹な強さだなお前ェはよ」

 

鼻の骨が折れたのかボタボタと血を流し続ける、

元より女の子顔面を殴られる痛みなど早々経験してないのも原因だった。

どうすればいいのかどう対処すればいいのか全く分からずにモナティは痛みにもがいている。

そんなモナティに興味を失ったのかバルレルは止めをさそうと近づくが、

物陰からアカネが跳び出しバルレルに短刀で斬りつけるがそれを両手で防がれてしまう。

 

「女の子の顔面殴るとか最低ね。アンタ!」

『ヘッ!サプレスには女も男もねぇからな。それより今度は本体かよ!』

「当たり前で…しょ!!」

『チッ!』

 

サルトビの術で瞬時に背後に回ったアカネが蹴りを繰り出してバルレルを吹き飛ばす。

 

「ア…カネ…さん」

「モナティ!顔潰されたぐらいで何。早く立ち上がりなさいよ!」

『魔力も少なくなってきたんでな。さっさと終わりにさせてやるぜ!!』

「私じゃそう長くは持たないわよ…はぁっ!!」

 

守備に入りバルレルの攻撃をアカネは凌いでゆく。

だがアカネの表情は決して優れておらず動きが鈍っていた。

 

「ぐっ…!」

 

先ほど受けたモナティのうさきだんの直撃を受けたアカネはボロボロだった。

植え付けられたエルゴの欠片をフルに使い何とか体を動かしているのが現状だ。

バルレルの攻撃を避けたアカネはすぐさまサルトビの術で背後に回り込んで攻撃を仕掛ける。

だが、バルレルはその攻撃を読み、裏拳でアカネを殴り飛ばしたのだ。

 

『もう見慣れちまったぜ』

「初見ならまだしもやっぱりもう効かないわよね……くっ!手裏剣分身の術!!」

 

投げられた手裏剣が大量に増えバルレルに襲い掛かるが、モノともせずにバルレルは突き進む。

体を起こす力が殆ど残っていないモナティは血を流しながらその光景を見ていた。

 

「動かないと…動かないとアカネさんが…」

 

視線の先では跳び上がったアカネの足を掴まれ地面に叩き付けられる姿が見える。

内臓を痛めたのか血を吐き出すアカネ、明らかに勝敗はバルレルの方に傾いていた。

 

「マスター…モナティは…モナティはまだ…」

 

手袋で血をふき取るとモナティがゆっくり戦いの場へと歩み始める。

恐怖もある逃げ出したい気持ちももちろんある、だが彼女は選択したのだ。

あの時マスターに着いて行くことを誓約者の護衛獣になるという事を、

だから彼女は歩む、自ら選んだ戦いの地へと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

同じ南スラムの一画、誓約者の力により異界と化した地でハヤトとソルの戦いは熾烈を極めていた。

天を覆いつくすほどの召喚され続ける機械兵器と凶器の群れがたった一人で立ち向かうハヤトに襲い掛かる。

 

「!!」

 

ハヤトはサモナイトソードを振るい敵の攻撃を叩き落す。

放たれるブレイドガンナーの光刃、ネウロランサーとダークブリンガ―の凶刃、

空間の維持に力を回してるハヤトはサモナイトソードしか頼る武器はなかった。

攻撃を弾きながらハヤトは後方に跳ぶがその瞬間を狙いソルの召喚術がハヤトを襲う。

すぐさま結界を展開して何とか攻撃を凌ぐがハヤトは倒れ込んでしまい凶刃がハヤトに向けて殺到した。

だが、そんな彼を守る者たちが居た。

 

『!』

 

空間が揺らぎそこから現れたのは深紅の御旗を携える守護天使エルンファーネ。

彼女が御旗を振るい迫る来る凶刃からハヤトを守ろうと行動を始める。

凶刃はエルンファーネの結界に激突すると存在を維持できずに霧散してしまう。

 

「ふん」

 

ソルはそんな光景を見てを焦ることは無い、すぐさまハヤトの上空にゲートを生み出して攻撃を始める。

エルンファーネは雨の様に迫りくる攻撃の対処で精一杯でその攻撃に気づいていても対処が出来なかった。

やがてハヤトにソルの召喚術が襲い掛かる時、ハヤトの真後ろの空間が揺らぎそこから鬼が姿を現した。

 

『!!!』

 

泣き笑いめいた奇怪な声がその鬼から発せられる。

揺らめく影に包まれた三面六臂の鬼神がそこにいた。

六本の薄い曲刀を振り回しハヤトに迫る召喚術を全て破壊すると鬼神は満足したのか消えていった。

それを見て一息つく守護天使も攻撃が止んだことを理解すると同じように元の場所に戻っていく。

 

「ガイエンとエルエルの知り合いなのか? 助けてくれて感謝だな」

「守護天使エルンファーネと鬼神将アユラだと…。なぜ貴様ごときに…」

 

守護天使エルンファーネと鬼神将アユラ、共に召喚獣では上位に位置する者たちだ。

いくら誓約者と言えど繋がりも無しに召喚する事なぞ出来るはずがないとソルは考える。

 

「なぜ貴様があの召喚獣を召喚できる。特にエルンファーネの方は既に所持者がいるはずだ」

 

そうソルが疑問に思うのはエルンファーネは既に帝国で誓約を交わしてる所持者がいるはずなのだ。

サプレスの召喚師であるセルボルト家の住人はサプレス系の優秀な召喚獣の事はある程度調べている。

だからこそハヤトがエルンファーネを召喚した事に疑問を抱かざるえなかった。

その言葉を聞いたハヤトは体を起こしつつニッと微笑を浮かべた。

 

「分からないのか?お前は確かに召喚師としてならクラレットを遥かに超える程の実力を持つんだろうな。だがな、俺にとっちゃ召喚師なんざ他人から力を奪う事しか考えていない連中なんだよ」

「何…!」

「もう一度言ってやる。お前らは召喚獣の力を利用する…ただの盗人共だ!!」

「言ってくれたな……言い切ったな誓約者!!」

 

ハヤトの宣言にソルは怒り更なる召喚術を発動させる。

ハヤトはその光景にどこか違和感を感じざる得なかった、何時もの冷静なソルがここまで感情を露わにするモノなのか?と

この空間を生み出してから妙にソルは感情的だ攻撃も一直線な物ばかりだとハヤトは考えていた。

だがそこまでだ、彼が其方に思考を移す前にソルは行動を回避したのだ。

 

「影よ!」

 

影の悪魔はまるで波のようにハヤトに襲い掛かる、ハヤトはサモナイトソードを掲げ光と共にその影を四散させるが、

影の勢いは決して留まる事無く勢いと共にハヤトに迫りくる。

 

「ぐっ! お前は!?」

『!』

 

空間が揺らぐ、そこから現れたのはソルの使う狐火の巫女だ。放たれた浄火の炎が影の悪魔たちを焼き尽くして退けてゆく。

 

「貴様ぁ!」

 

ソルがサモナイト石を取り出して誓約に命じて狐火の巫女にハヤトを襲わせる様に指示を出す。

魂を縛る激痛が彼女を苦しめるが咄嗟にハヤトが狐火の巫女に触れると声をかけた。

 

「もういい、あとは俺がやる!お前は元の場所に戻るんだ!」

『…』

 

狐火の巫女は頷くと空間が揺らいでシルターンへと還っていく。

それを確認すると同時に再び雨の様に攻撃が襲い掛かる、

狐火の巫女を助けるのに意識を向けすぎたハヤトはその対処に遅れてしまう。

再び空間が揺らぎ、今度現れたのはビットガンマーだった、ハヤトの前方に三角形の電磁障壁を展開しソルの攻撃を防ぐ。

ビットガンマーが出現した空間からさらに二機の機械兵器が出てくる、機神ゼルガノンのファランクスと青い装甲を纏う機械兵士だ。

 

「シェアナイトとゼルガノンのBパーツか!?」

 

ファランクスを撃ち迫る召喚されている機械兵器を破壊してゆくゼルガノン。

そしてシェアナイトと呼ばれた機械兵士は武器を振るいソルに切り掛かるが、

ソルはメガ・ワッパーで動けなくした後、浮遊端末をシェアナイトの頭上に浮かせレーザーとガスを噴出し氷漬けにしてしまう。

それを確認したソルは延々とファランクスを撃ち続けるゼルガノンに攻撃を集中させそのまま破壊してしまった。

 

「奴自身に繋がりの無い召喚獣まで現れるのか!」

 

恐らくハヤト自身と縁が無くともハヤトに関わる召喚獣との縁があればここに来られるとソルは予想した。

ならばこれから来る召喚獣を全て打ち倒せばいいだけの事、倒された召喚獣はすぐに召喚されることは無い。

 

「貴様の召喚する全ての召喚獣をこの手で始末してくれる!誓約者!!」

「……」

 

何かが変だ…。なんだ?

 

ハヤトはそう考えていた。むしろこの状況ならソルは守勢に回るはずだ。

この空間を作ったのはソルの攻撃に自分が対処できないとハヤト自身が気づき皆の力を借りるという目的だ。

だがその分、ハヤト自身の消耗は激しい、いくら誓約者としての魔力があろうと限界は存在する。

だがソルもハヤトと同じエルゴの力を持っている魔力切れなんて気にしなくていいはずだ。

バルレルという召喚獣が戻ってくるまで守勢に回っていればそれだけで勝てるはず、だが感情的になりそれを行おうとしない。

ハヤトにはその原因が理解できなかった、だが彼の行った異界を作るこの行為こそソルをここまで変えた原因だったのだ。

 

――殺せ!我らを侮辱した愚か者を殺せ!!

 

「ッ!?」

 

ソルが片手で頭を抱える、激痛と共に理性が失われてゆく。

ぬるりと眉の部分から血が流れている事に気づくが今は目の前の男を殺す事に意識が回される。

原因はソル自身の感情とソルに取りつく悪魔たちの活性化だった。

ミントとの戦いはソルの誓約により抑えられている感情を揺れ動かしてかなりの負担をかけていた。

そしてハヤトの作り出した異界はあまりに魔力が豊富過ぎたのだ。

その場にいるだけで無意識に魔力を体内に取り込んでしまう、それが鍛えられた召喚師であればあるほどに。

それが原因だった、ソルの中の誓約の悪魔たちが過剰反応しハヤトと言う存在に対し凄まじい敵対心を生み出してるのだ。

バルレルを召喚し制御、普段抑えている誓約の悪魔の制御、そしてハヤトとの戦い。

いくらソルでもそこまで対処する事は出来なかっただからこそ感情に任せるように戦いを始めてしまったのだ。

 

『!!!』

 

ソルの目の前にハヤトとの縁がある召喚獣が出現しソルに襲い掛かる。

ソルは感情のままに召喚術を発動させそれらを撃ち滅ぼしてゆく。

 

「…ッ! だけど勝てるかもしれない」

 

倒される召喚獣たちの光景にハヤトは唇を噛むが、感情任せに挑むソルに対して今なら勝てると考えた。

サモナイトソードを振るい、ハヤトは雨の様に降り注ぐ攻撃の中を進む、この機会を逃せばきっともう勝てることは無い。

その最後のチャンスを逃さないとハヤトは理解し、そしてその一歩を大きく踏み出していく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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お師匠来てくれないかなぁ…。

 

瓦礫に埋もれながらアカネは助けを求めていた。

敵の魔力がドンドン減っている事にはアカネも気づいてはいるが地力が違い過ぎる。

アカネは忍で奇策や奇襲が主なメインだ、正面からの戦いで悪魔王に勝てるはずがなかった。

 

「だけど…アタシもエルゴの守護者なのよね…!」

 

何とか体を起こし武器を構えるアカネ、それを見てバルレルが笑い始めた。

 

『クククッ!勝てねェって思っていながら戦うなんてな!お前ェバカなんじゃねぇか?』

「よく言われるわよ。でもね、逃げる事だけはもう絶対にしたくないのよ。それにほら後ろ見て見なさいよ。諦めが悪~いウサギさんがこっち見てるわよ?」

「あァ?」

「ふう…ふう…」

 

肩で息継ぎをしているモナティがバルレルの後ろに立っていた。

既に満身創痍の二人、仕掛けられる攻撃は間違いなくあと一回。

バルレルもその事を理解していた、次に行われる攻撃がこいつらの最後の攻撃であると。

 

「アカネさん……行きますの!!」

「OKモナティ! 最後の奇策、見せてあげるわ! 忍法・アカネ忍軍の術!!」

 

アカネが印を結ぶと大量のアカネが現れてバルレルに組み付こうと攻め始める。

駈けるバルレル、それを追うように苦無と短刀を構えたアカネが追跡する。

 

『手前ェはかく乱か、さっきと変わらねぇな!』

「生憎、かく乱よりの能力なモノでね♪」

『ウサギオンナの方は一撃に全部かけるってか?バカでけぇ魔力滾らせやがってな!』

「一撃…一撃を当てれば…!」

 

モナティが全身から膨大な魔力を両腕にため込み始める、遠距離では再び防がれるか避けられる、

ならばモナティに出来る攻撃はゼロ距離からのうさきだんのみしかない。

そのチャンスを作ろうとアカネ忍軍が全方位からバルレルに組み付こうと一斉に跳びかかる。

 

『流石にこの数は厄介だな。だがよ、全部潰せば問題なんてねェんだよ!!』

「!?」

 

バルレルが魔槍を召喚してそれを地面に突きさす、その時発生した衝撃でアカネ忍軍が全員吹き飛ばされた。

その時発生した粉塵で当たり周辺が全て見えなくなるがアカネはその光景を見て焦る。

 

「これじゃ迂闊に攻められない!」

 

アカネは唇を噛んでバルレルの行動に苛立ちを覚える、魔王クラスが粉塵如きで隙を見せるはずがない。

なら自分に出来るのは何か?バルレルが次の行動を起こすまで時間はほぼないはずだ。

 

「モナティ!アタシが隙を作る、あんたは思いっきりかましなさい!!」

「はいですの!」

「アカネ忍軍!同時攻撃!!」

 

残ったアカネの分身たちが巨大手裏剣を取り出してそれをバルレルに投擲する。

手裏剣を投げるとアカネの分身が消えてゆくがこれは手裏剣に残った魔力を全て回したからだ。

だが粉塵のなかバルレルは既に投げられた手裏剣を感知していた。

 

『何か来やがるな。同時攻撃って訳か…クククッ面白れェ正面から破ってやるぜ!』

 

全方位から迫る巨大手裏剣、それはバルレルの全身を切り刻もうと回転しながら迫って来た。

そしてバルレルに当たる瞬間、凄まじい速さでアカネがバルレルの真後ろに姿を現したのだ!

 

「これが…アタシの取っておきよ!!」

 

 アカネにバルレルが攻撃を仕掛け、アカネがそれを何とか防ぐが次なる攻撃が続けて放たれる。

アカネの切り札でありこれを解くことは自殺行為でもある、だがそこから放たれる鬼神の一撃は間違いなく魔王に効く。

実体ではない魔力で編まれた分身では必殺にならない、だからこそアカネが最後まで隠した必殺の一撃だったのだ。

 

「だっっっりゃぁぁぁーーー!!」

『甘ェって言ってるんだよ!!』

 

バルレルの全身が切り刻まれる、分身たちの魔力で出来た刃は間違いなくバルレルを切り裂いたのだ。

だが、アカネの鬼神の腕はバルレルには届かなかった。単純なリーチのさ腕の長さが原因だった。

 

「ぐうぅっ!?」

 

腹部を強打され口から血を吐き出しアカネは吹き飛ばされる。

 

本当に魔王ってのは化け物ね…。

でもね…弱い連中ってのは小賢しい事を何度も何度もするものなのよ。

だからモナティ…やっちゃいなさい!

 

「はぁぁーーっ!」

『後ろかァ!』

 

アカネを吹き飛ばしたバルレルが後ろに視線を動かすと両手に魔力を宿したモナティが接近する。

体をねじりながらバルレルは地面を破砕した魔槍に手を伸ばしそれを大きく振りかぶる。

 

『ウサギオンナ、手前ェはしつこいからな、ここで串刺しにでもなってろ!』

「ぎゅぅっ!?アァァーーァ!!」

 

背中から肺を貫かれ血飛沫をまき散らせながらモナティが動きを止める。

それを見てニヤリとバルレルが笑うが、飛び散った血が霧散するのを見て驚愕した。

 

『お、お前ェ。ウサギオンナじゃねぇな!?』

「むぅぅぅ!!痛ったいわね!女の子には優しくしなさいよ!!」

 

突然口調が変わるモナティ、ボンと煙をあげてモナティの姿がアカネに変化する。

そう、これはアカネの分身、分身は粉塵に隠れてモナティに作戦を伝えモナティに変化していたのだ。

そして本物のモナティは…。

 

『しまった後ろか!?』

 

バルレルの後ろには全身から魔力を滾らせるモナティが居たのだ。

後ろに向こうとするバルレルだったが力の限り槍を握るバルレルはすぐに行動できなかった。

 

「あとはこの力を押し付ければ――にゅっ!?」

 

うさきだんの形に形成してない魔力、相手に押し付けて爆発させるだけで確実に倒せる一撃、

ゼロ距離からの攻撃ならば効くはずだとモナティが考えた結論だった、だが…。

 

あと…あと一歩なのに体が動かないんですの…!

 

モナティの肉体は既に限界に近かった、痛みで麻痺した疲労がこの局面で出始めたのだ。

後数歩、体を前に進ませるだけで届く距離なのに、彼女は動けなかったのだ。

バルレルの体が後ろに向け始めるモナティの体が再び動き始める時間よりバルレルの方が早かった。

 

あと少し、お願い…届いてですのぉーー!!

 

「全く…最後の最後まで詰めが甘いわね…。まあそこはこのアカネちゃんに任せない!」

「うにゅっ!?」

 

ドンッ!とモナティの背中に衝撃が走る、それと同時にモナティの腰に手が回っていた。

モナティは匂いを嗅ぎ取ってそれがアカネである事を理解したのだ。

彼女はサルトビの術でモナティに体当たりを食らわせ自分ごと突っ込んだのだった。

満身創痍の彼女でも着地の事を考えなければ十分にできる最後の手であった。

 

「「いっけぇぇぇぇぇーーーッッ!!!」」

『ッッ―――!?』

 

モナティの手がバルレルに触れる、その瞬間手からモナティに蓄えられた魔力が放出されバルレルに放たれた。

今まで決して当たる事のなかった最大の攻撃の中で一番の破壊力を誇るであろう一撃はバルレルに命中したのだ。

閃光と爆音、そして衝撃が南スラム中に響き渡りモナティとアカネが吹き飛ばされ地面に倒れる。

二人は確信した。バルレルをついに倒したのだと。

 

「はぁ…はぁ…やったわねモナティ」

「にゅぅ…にゅぅ…アカネさん。やりましたね。早くマスターの所に戻らないと…」

「いやぁ~流石に休んでからにしない?もうアタシヘトヘトでさ」

「だめですの!マスターは今、ソルさんって人と戦ってるんですよ!すっごい強い人なんですからすぐに助けないとマスターが危ないんですの!」

「ソルって……孤児院に攻め込んだのってソルだったの? うわ嘘でしょハヤト流石にやばいんじゃ…」

 

ソルと言う名前を聞いて危機感を露わにし始めるアカネ、

すぐに右腕の包帯を絞め直してハヤトの下に行こうと立ち上がる。

 

「そりゃ不味いわね。行くわよモナティ!」

「はいですの……?」

「モナティ?」

「た、立てないんですの~」

「アンタね…」

『ケッ、俺に一撃叩き込んだぐらいで勝った気になりやがってこんな奴らに不覚を取っちまうなんてな』

「「!?」」

 

聞き覚えのある声が二人の耳に入り、アカネはすぐにモナティを庇える位置に移動する。

瓦礫の中から姿を現したのはバルレルだった。

あれほどの攻撃を受けたにもかかわらずバルレルは傷を負っていない。

つまりモナティの攻撃は効かなかったのだ。

 

「そんな…効いてないんですの!?」

「これだから魔王って奴は…モナティここはアタシが――」

『勘違いすんじゃねェ、オレ様の体をよく見てみな』

「透けている…んですの?」

『気にくわねぇが魔力切れだ。もうこの世界で力を振るうほどの魔力を持ってないんだよ。オレ様は自分から来たわけじゃねェからな、魔力が消えれば悪魔界に還るだけって訳だ』

 

がくりと膝を付くアカネ、緊張が抜けたのか不貞腐れた顔でバルレルを見据えた。

 

「何それ、じゃああんな無茶しなくても帰ってくれたって訳なの?もうー!」

『バカかお前ェ?お前らの最後のアレが無けりゃまだこの世界に残れてたぜ。お前らはオレ様に勝ったんだよ、気にくわねぇがな』

「随分と素直に認めるじゃない…」

『人を騙したりする意地汚い連中とは違うんだよ。一緒にすんじゃねぇ』

 

アカネは悪魔にも色々いるんだなっと軽く考えていた。

というよりもアカネの知り合いの悪魔はガルマザリアだけでしかも彼女は変わり種。

普通の悪魔がどういう性格か知らないのだ、ちなみにバルレルも方向性が違うが変わり者である。

そう思っているとバルレルの姿が更に薄れてゆく、それを理解したのかバルレルが再び口を開いた。

 

『…どうやら向こうの戦いも終わった見てぇだな。どうもニンゲンから流れる魔力が変みてェだな。クククッ、何かあったかも知れねぇぜ?』

「何かって…なんなんですの!」

『知るか。大体敵に教えるわけねェだろ。まあ誓約者の奴が無事だと信じるんだな。手前ェら、戦い方は意地汚い感じがして中々楽しかったぜ。じゃあな!』

 

ある程度満足したような口調でバルレルが完全に消え去り送還されていった。

 

「意地汚いって…!こっちは必死に戦ってたのに結局アイツ本気のホの字も出してなかったわけ!?」

「アカネさん!そんな事よりもマスターの所に行きましょう!」

 

何時の間にか立ち上がったモナティが孤児院の方へとかけてゆく、

それを見たアカネが「さっきまで立ち上がれなかったのにもう元気って…」と溜息を吐きながらモナティについて行った。

二人が居なくなった南スラムの一画、そこにはバルレルの残した魔槍のみが残っており、それはゆっくりと霧散していくのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

「はぁぁーーーッッ!」

 

召喚されたプチデビルの群れが放つ蛇矛イビルバンカー。

サモナイトソードをウィゼルより借り受けた居合の一太刀で全てを切り伏せる。

 

「貴様、いい加減―――!」

 

肉体に寄生する悪魔たちがソルの体を通じ声を張り上げる。

目の前の男を殺せと、それに従いソルも更なる召喚術を発動させる――が。

それらは召喚される前に揺らぎから出現した召喚獣に破壊されてしまう。

 

「ッッ―――!?」

 

ぶちり、ぶちりと何かが千切れていくのをハヤトは激痛という形で理解する。

先程出て来た召喚獣がソルに倒された、そしてそれがハヤトに痛みという形で苦痛を与える。

だがその痛みは既に慣れた、むしろこの痛みがあるからこそ雨の様に降り注ぐ召喚術の中で冷静さを保てるのだ。

その数は既に数十を超える、グラヴィエル、ロードボレアス、ワイヴァーン、そしてシルヴァーナ。

彼が今まで邂逅してきた召喚獣たちが一切の迷いなく彼に力を貸してくれているのだ。

それが誓約者の力だと言うのなら頷くしかない、だが決して誓約者の力だけではないのだ。

 

「――来てくれ!」

 

声をかける、魔力も想いも何もない、ただ呼ぶだけで彼らは来てくれた。

かつて戦った天使クピトに魔精タケシー、ハヤトの呼びかけに応え来てくれたのだ。

 

『『!!!』』

「ッ!」

 

光の矢と電撃をソルに放つ、ソルが覇王の剣を前に突き出し結界でそれを防ぐ。

結界と攻撃がぶつかり合い輝く瞬間彼の目の前にムジナが姿を現した。

 

「邪魔だ!」

「―ッ!」

 

ムジナをソルが切り捨てる、ハヤトにまた千切れるような痛みが走るが彼はソルに向かって駆けた。

ムジナから煙幕が大量にまき散らされて視界が完全に塞がったのだ。

それがムジナの狙い、ハヤトの剣をソルに届かせる為の一手だった。

 

「うおぉぉぉぉーーーッ!!!」

「ぐうっ!?」

 

振り下ろす魔剣の一撃はついにソルへと届いた。

同じ魔剣で防いだソルだったがまるで魂が削られる痛みが全身に流れる。

魔剣同士のぶつかり合いはより強き精神を持つ者に勝利は偏る。

ソルは足を後ろに下げてしまう、魔力で身体を強化し距離を取ろうとするが、

ハヤトはすぐさま間合いを詰め再びサモナイトソードを振るった。

 

「ぐっ、何故だ…! 何故押し負ける、貴様のような男の剣に…!!」

「はぁ――あぁぁ――はぁぁぁぁぁ―――!!!」

 

ただ前に進む、もし止まればきっと俺はもう動けない。

俺にはわかる、もう召喚獣たちは力を貸せない。

向こう側にはもう俺に力を貸してくれる召喚獣は殆ど残っていない。

今できる事は渾身の力で剣を振るい、目の前の男を倒す事だけだ――!

 

「馬鹿な、押されているのか。この俺が、貴様のような偽善者に!?」

 

ピシリ、覇王の剣になるはずのない音が響く――。

それは心が折れる前兆、魔剣使いにとって決してあってはいけないモノ。

 

 

 

それがソルの敗因になるとハヤトは確信した。

 

3つのエルゴの力を持ちその全てを自在に操るソル・ゼルボルトは、

間違いなくリィンバウムの召喚師の中で頂点に位置するほどだろう。

だが、ソルはあくまで召喚師に過ぎない、他者から力を奪い利用する存在にすぎないのだ。

自身の力を極限にまで鍛え上げた超越者たちとは心の在り方も戦いに対する心構えも違いすぎる。

相手が先ほど見たバルレルのような魔王なら、こんな空間を作った所で太刀打ちできないだろう。

仲間の力を借りた所で魔王のような超越者に対抗するのは不可能に近い。

 

「お前が相手なら!召喚師であるお前が相手なら―!!俺は負けない――!!!」

「貴様―――!」

 

覇王の剣とサモナイトソードがぶつかり合い凄まじい衝撃が生まれる。

三つのエルゴの力を複合させた覇王の剣は恐ろしいほどの魔力を走らせハヤトに襲い掛かる。

だが打ち勝ったのはサモナイトソードだった、ハヤトにとって余りに覇王の剣は軽かったのだ。

どんなに強大な魔力を宿そうと、どれだけの殺意を魔剣に込めようともう覇王の剣ではハヤトには届かない。

 

「消えろ―――消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!」

 

壊れた機械の様にソルは同じ言葉を発し続ける。

覇王の剣とサモナイトソードがぶつかり合うたびに覇王の剣にヒビが走ってゆく。

ソルはそれに気づかない、まるで自分自身の傷を理解できてないようだった。

ギィンッ!と音が響き覇王の剣が上に撥ねられる、

この機会を逃すまいとハヤトはソルの懐に横に剣を一閃するが凄まじい衝撃と共に吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ、しまった!」

「消えてしまえ、この世界から消滅しろぉ!!」

 

ソルの怒声と共に背後に今までで最大数の召喚術が発動され始める。

だが、奴も満身創痍に近い。もう少し、もう少しでアイツを倒せる!

 

「みんな―――頼む!」

 

そう口に出した瞬間、ソルの召喚獣が一斉に動き始めたのだ。

閃光の様に迫る光刃をハヤトは斬り裂く。見えてはいない、ただ剣を振るう。

迫る魔槍を弾き飛ばす、視界に入ってはいない、振るうだけだった。

 

「ふ、あ―――!ぐぅ―――!ぁぁぁぁ―――!!」

 

唯々サモナイトソードを振るうだけだ、何処に当てるかは剣が導いてくれる。

その瞬間まで俺の意識も力も想いも溜め込み続ける。

条件反射で声が口から洩れる、もはや言葉としての声すら発せられないほど意識は向けてなかった。

俺は信じてる、きっとその瞬間が訪れる事を、皆が力を貸してくれる事を―――!

 

「凄い…」

 

誰が言ったのかは分からない、そんな単調な言葉が漏れてしまうほど説明できない戦いだ。

リプレ達は目の前の現実がまるで幻想の様に感じてしまっていた。

ただこうして信じて見守ることしか出来ない、それがとても苦しいものだった。

信じて待つよりも目の前で戦われる方が何倍も辛かった。

だけどリプレ達は信じて待つ、きっとハヤトが勝ってくれると信じる。

そしてその想いは決して無駄ではなかった、今のハヤトにはそれを感じる術がある。

共界線を通してその想いは直にハヤトに伝わっているのだ、そしてそれはハヤトの力にそのまま変化する。

彼の剣が鋭さを増す、先程弾くことしか出来なかった魔槍が切り裂かれる。

迫る光刃が触れる前に消滅する、迫り来る召喚獣は近くに寄れずに送還されてゆく。

 

「どういう事だ――!? なぜ、なぜ奴の力が上がる――!」

 

この異界には彼らすら気づいてないもう一つの性質を内包している。

ハヤトは精神世界で自身の中の住人の力を借りた、ならその力を外で使うには?

それは外の住人に自分の中の住人を引っ張り上げてもらうのだ。

この場にいる全てのハヤトの仲間が彼の想いを引き上げる、絆と呼ばれる力が彼の力を無尽蔵に引き上げてゆく。

そう、ハヤトはこの土壇場でさらに力を高め始めたのだ。

 

 

そしてその時が来た。

空が光り輝き、無数の閃光がソルの召喚獣を倒してゆく。

光という形の幻影だったがそれは間違いなくハヤトに力を貸す召喚獣達だった。

 

「―――うおおおぉぉぉぉぉッッッ!!!!」

 

その閃光を感じ取った瞬間ハヤトは駆ける、溜めに溜めた力を全て吐き出し彼はソルに向かって走った。

残された召喚獣は一斉にハヤトに向かって攻撃を始める。

だが巨大な機械の拳を斬り裂き、振るい落とされる悪魔の大槌を打ち砕き、山のような大鬼すらハヤトは撃ち破る。

もうハヤトは止まる事はない、彼はその身が滅ぶその時まで決して駆ける事を止めない。

ソルはハヤトを中心に召喚術を発動させる、あらゆる機械兵器が召喚される。

だがそれは普通の召喚獣ではなかった、その全てが過負荷を起こしていたのだ。

バチバチと電流が流れながらそれらが一斉にハヤトに向かって特攻を始める、まさしくそれら全ては強力な爆弾と化したのだ。

 

「吹き飛べ!!」

 

機械兵器が一斉に爆発し衝撃が空気を震わせ彼らの体に突き刺さる。

ソルは勝利を確信した、既に手助ける召喚獣は無し、回避不可能の包囲網。

ヒビだらけの覇王の剣を降ろしソルは息を吐く、ギリギリだったがついに勝てたと――。

 

「――何?」

 

空を仰いだソルの視線に何かが映り込む、虹色の輝きを放つ少年、そして蒼い髪をなびかせる古妖精。

 

「――メリオール!」

「避けただと!?」

 

ソルは忘れていた、今だ無事な召喚獣がいる事を、そして彼が召喚師でもあるという事を。

あの瞬間、爆発の瞬間にハヤトは召喚術を使ったのだ。

あの状況で唯一無傷で突破できる、ゲルニカの次に最も強い力を持つ召喚獣を呼び出したのだ。

睡蓮花の古妖精メリオール、全方位に積層結界を展開して二人は爆発から身を守り空へと弾き飛ばされたのだった。

 

「墜ちろ――!!」

 

既に落下を始めるハヤト、その前方でメリオールは積層結界を展開していた。

閃光が結界に激突し衝撃と音がハヤトとメリオールを襲う、だがそれでも結界は砕けない。

幾層にも重ねられた結界は難攻不落の城壁の様に害ある攻撃を弾いていく。

だが肝心のメリオールが持たなかった、結界を最大で展開し続けるのは彼女に凄まじい負担を与えていた。

既に色を付けていた肉体は透け初め、体の端から送還されてゆく、だが最後の指先一つまで彼女は結界を展開し続けたのだ。

そしてついにハヤトはソルの目前へと迫ったのだ。

 

「―――クソ!」

 

屈辱をソルは感じただろう、三つのエルゴを従え、無限に召喚獣を召喚できるはずが追い詰められたのだ。

誓約者以前のただの傲慢な偽善者に追い詰められたのだ。

だがここで死ぬわけにはいかなかった、ソルにはいまだやらなければいけない目的が存在する。

葛藤の末にソルは覇王の剣を通じてバルレルを呼び戻す事を決意した。

召喚術が発動されバルレルが召喚される、ハヤトの危惧した超越者が呼び出されようとした。

 

「来い、バルレ――ッ!?」

 

だが、バルレルを召喚する僅かな一瞬、ソルの右目に激痛が走る。

咄嗟に右目に手をやるとぬるりと液体の感触を感じた、眉から流れた血だった。

それは子供たちを守る為に抗った母親の勇気、リプレが投げた陶器の破片が付けた唯一の傷跡。

生まれた隙は一秒にも満たないだろう、だがその時間こそ彼らの命運を分けたのだった――!

 

「させるかぁぁぁ――――!!!」

 

魂まで震えあがる声と共にその人物が空から虹色の魔剣を構えながら迫ってくる。

そして振り下ろされた虹色の閃光が覇王の剣に襲い掛かる。

バキィンッ!と破砕音をと共にソルの視線の先には叩き折られた覇王の剣が宙を舞っていた。

その光景を見据えたソルはまるで達観したかのように口を開いた。

 

「―――認めてやろう」

 

まるで自身に言い聞かせるようにソルは口を開く。

 

「貴様は俺より、強い――!」

 

ハヤトはその言葉を聞き、驚愕した。

今まで何度も剣を交えながらソルは常に自分の事を下に思っていた。

それはどんな時だってそうであった、だがソルはついに認めたのだ。

ハヤトの力はソルを追い詰め、そしてその刃が自身の力の象徴を砕くにまで至った。

それで認めないなんてありえなかった、だからこそソルは認めたのだ。

それを理解したハヤトは嬉しくもあり、そして…悲しくもあった。

どんなに歪んでいる形とはいえついに分かり合えたというのに、ソルを倒さなければならない事を。

サモナイトソードに導きられるようにハヤトは剣を振るうそれはソルの体へと吸い込まれてゆく。

 

「これで―――終わりだぁぁぁ――!!」

「ッ――!」

 

ソルが最後に足掻くように後ろに跳ぶ、だがそれは跳ぶにしては余りに弱弱しいモノだった。

そしてソルにサモナイトソードが突き刺さるのと同時に、世界は光り輝きハヤトの視界は深紅に染まるのだった…。

 




書き切った……( ^q^)
バルレル戦はある意味蛇足だとしても最後のソル戦は会心の出来だと自負する。
なんか全てをやり切った感がやばいわ。
まだオルドレイクいるんですけどなんでやり切ってるんですかね…(´・ω・`)

※誤字修正後日やる事にします。もう眠い

ご感想よろしくお願いします。

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