サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

63 / 81
早く投稿したかったので前後編で分けました。
タイトル悩んだけど、分かりやすくしたよ!
※タイトル変更、やっぱ安直すぎるわ。


第42話 見知った狂気

 ハヤトとソルが邂逅してる頃、サイジェントの城門前では戦いが行われていた。

 騎士団と蒼の派閥、そして金の派閥とフラットの連合軍だった。

 召喚師たち、特にマーン家の者たちから与えられた対悪魔の知識は間違いなく役立っており。

 実力的にも上に属する悪魔の群れを撃ち破っていく。

 だが、ほぼ無尽蔵に表れる悪魔の群れ相手に苦戦を強いられていたのだった。

 

「イリアス様!」

「分かっている!防御を固めるんだ。チャンスが出来たら一点突破だ!!」

 

 サイジェント騎士団長イリアスが指示を出すとそれに騎士たちが従い悪魔の攻撃を防いでゆく。

 正面を騎士たちで防ぎ、遠くから弓矢などで攻撃した後、一気に攻撃する作戦だった。

 

「召喚師の方々、お願いします」

「分かっている。行くぞ!」

 

 騎士達の後ろにいた蒼の派閥と金の派閥が召喚術を発動させそれは悪魔の群れを撃ち破り送還させてゆく。

 中には完全に固定化が終わっていてしまった為にサプレスに還ることなく消滅している悪魔もいた。

 だが、これは戦争なのだ。こちらも命がけなのだからそのような感傷浸ることなどありえなかった。

 しかし悪魔の群れを倒そうと再び奥から新たな悪魔が召喚されて彼らの前に立ちふさがる。

 

「数が多すぎるな」

「ええ、それに…」

 

 ギブソンとミモザは城門に視線を移した。既に城門はただの門ではなくなっていたのだ。

 多数の悪魔が憑依した肉壁に変質しており、先ほどから何度も召喚術を撃ちこもうと変わらずにそこにあるほどだった。

 サプレスのエルゴの魔力と直接繋がっているこの城門の前に並みの召喚術では歯が立たなかったのだ。

 それに城壁を崩して中に入ろうにも悪魔の妨害が多すぎてそれもままならなかった。

 

「くぅぅぅぅぅ…ッッ!! 無色の派閥めぇぇ!!」

「落ち着けよ兄貴……ってそんなこと言ってられねェな」

「ええ、彼らが分断されてしまっている今、急がなくては行けませんからね」

 

 三兄弟だけではなく、フラットを知る面々は焦っていた。

 彼らはクラレットを助けるという目的の為にこの戦いに挑んだのだ。

 そしてそこを突かれてしまい、フラットが城に侵入したと同時に悪魔の門が出現してしまったのだ。

 そのせいでフラットと騎士団の面々は分断されてしまいこのままでは彼らの身が危ない。

 

「しかしこのままではじり貧ですね」

「ああ、悪魔の軍勢の数が多すぎて手も足も出ねぇ。俺達がもっと強力な召喚術を使えりゃいいんだがよ」

「フン!クラレットやミニスが異常なのだ。あんなもの早々に使えるか!」

「ないものねだりしても仕方ねぇな。行くぜ!ブラックラック!!」

 

 キムランがカルヴァドスを掲げる、剣先に魔力が集中しそこから異界のゲートが生み出され召喚術が発動した。

 その召喚術は悪魔の群れを片っ端から吹き飛ばしていくがキムランの表情は優れなかった。

 あまりに悪魔の数が多すぎるのだ、無尽蔵に表れる悪魔にこちらはただ疲労してゆくだけであった。

 そして疲労していた召喚師も既にいたのだった。

 

「――誓約の名の下に、爆裂大家族!!」

 

 ミモザが召喚術を発動させると天からペンタ君が降り注ぎ悪魔の群れを消し飛ばしてゆく。

 破壊力一点を見れば最上級召喚術に匹敵する威力だったがその分消耗が激しすぎた。

 ミモザは膝を付いて肩で息をする、そして周囲の魔力を自分の魔力に還元しようとするが、

 周りの魔力はサプレスでしかも悪魔の魔力だ、ミモザの顔色は悪くなってゆくがそれでも立ち上がり悪魔たちに向かう。

 

「ミモザ、無茶をするな!」

「ミントに…ミントに頼まれたのよ!みんなを頼むって、こんなところで膝を付いていたら顔向けできないわよ!」

「だがそれは君に無茶をしてくれと頼んだわけではないだろう」

「それはそうだけど…でも…!」

 

 目の前でハヤトを失うのを見たミントはもう戦えないとミモザたちに話していた。

 そして彼らの戦いが始まった時、ミントはミモザにみんなを守ってほしいと頼んだのだ。

 だからこそ、今分断されてしまっているこの状況があまりにも恐ろしかった。

 もし、分断されている間に全員やられてしまったらミントに顔向けなど出来ず、そして自分も許せないのであった。

 

「だからといって…止まれないでしょ!ワイバーン!!」

 

 赤銅色の翼竜が召喚され放たれた火炎弾で悪魔の群れが消し飛んでゆく。

 更に追撃をかけようと再びワイバーンに指示を送ろうとするがワイバーンが突然送還されてしまいミモザは膝を付く。

 

「ゲホゲホ!?」

「ミモザ!?」

 

 倦怠感がミモザを襲い頭がクラクラし始めていた。魔力の返還が追い付かず魔力切れが起きてしまったのだ。

 すぐにその場から離れようとするがその隙を逃す悪魔ではなかった。

 悪魔の群れは碌に動けないミモザを仕留めようと接近する。

 

「ミモザ!!」

「ッ!?」

 

 ミモザは何とか周囲の魔力を杖に宿して反撃しようとするが今の状態では焼け石に水であろう。

 敵の攻撃が自身を襲う事を覚悟しながらグッとこらえるがそれがミモザを襲う事はなかった。

 

「神命に於いて疾く為し給え―――鬼爆!!」

 

 心に響くような言霊がミモザの耳に届く、その瞬間紅い雷撃が悪魔を襲いその動きを封じ込めた。

 それだけではない、雷撃に封じられた悪魔は苦痛の表情を浮かべていた、

 恐らくこの術には相手にダメージを与える効果もあるのだと理解する。

 

「キエエエェェェイイッッ!!!」

 

 次の瞬間叫び声と共に緑の衣服を纏った男が悪魔に接近する。

 腰に付けた剣が光ると目にもとまらぬ速度で振り抜かれ悪魔を横薙ぎした。

 その瞬間、悪魔の胴が切り裂かれ苦痛の表情と共に悪魔が送還されてゆく。

 

「むっ!」

 

 奥の方からミモザを狙おうとしていた悪魔たちがそのままカザミネに接近してくる。

 

「カザミネさん、そのまま伏せて!エスガルド!!」

「分ッテイル」

 

 ドンドン!と銃砲が火を噴き悪魔たちの足を撃ち貫く、

 移動力を失った悪魔はそのまま倒れてそのまま悪魔の動きを抑制する壁となる。

 そしてエルジンは固まった悪魔を一気に倒すために召喚術を発動させる。

 

「お願い、力を貸して―――!!機神ゼルガノン!ファランクスだ!!」

 

 召喚された機神ゼルガノンは大量のミサイルを悪魔の集団撃ち込み大爆発が起きる。

 そして悪魔の群れの殆どが撃破され、エルジンはほっと一息をついた。

 

「ふう、お姉さん大丈夫?」

「え? ええ、私は平気よ。それより助けて貰っちゃったわね」

「無事デ何ヨリダ。悪魔ハ狡猾ナ連中ダ、一人デ突キ進ムトヤラレテシマウゾ」

「ロレイラルの機械兵士か……君たちは一体」

「ボクはエルジン・ノイラーム。ロレイラルのエルゴの守護者さ」

「我ハエルスガルド、エルジント同ジエルゴノ守護者ダ」

「エルゴの守護者…?それは一体…」

 

 ギブソン達はエルゴの守護者の事を聞こうとした時、強いシルターンの魔力を感じてそちらの方に目をやる。

 

「――鬼神さま、鬼神さま、鬼道の巫女がここにお願い申し上げます」

 

 舞う様な動きと共に言霊が紡がれ異界のゲートが開かれる。

 そこから現れたのは強大な力を宿した鬼神の将ガイエンだった。

 

「あの召喚獣って…!?」

「――うなりませい!!」

 

 放たれたガイエンの鬼神剛断剣は目の前にそびえ立つ大悪魔を一撃のもと打ち砕く。

 その光景に騎士団も召喚師たちも唖然とするがガイエンがズゥンと大太刀を地面に突き刺し威圧すると

 彼らは自分のやるべきことを思い出し再び悪魔の群れに立ち向かっていった。

 

「随分と無理をしていたようでござるが、お主達無事でござるか?」

「ねえ、貴女その召喚獣って彼の召喚獣よね? どうして貴女が使えるの?」

 

 元々鬼神将を扱える召喚師は非常に少ない、鬼神将は誇り高く実力のそぐわないものに力を貸したりしないのだ。

 より強力な誓約で縛り上げてもその魔力消費と力が噛みあっていなかったりする。

 扱うには鬼神将が認めるような力の持ち主か、あるいはハヤトのようなそれとはまた別の特性が必要となる。

 だが目の前の少女は彼が消えてから数日で新たに認められた召喚師という事になる、それは普通ではなかった。

 

「鬼神様の本当の主は別にいます。私はその力を少しお借りしてるだけなんです」

「本当の主だと…!?」

「まあ、それを言うとボクたち全員お兄さんの部下みたいなものなんだけどね」

 

 お兄さんと言う言葉でミモザとギブソンにある予感を感じる。

 それは決してありえない事だった、だがどうしてもその考えを否定できない。

 そして恐怖を感じつつもミモザは問いかけた。

 

「…そのお兄さんって誰の事なの?」

「ハヤトでござるよ」

「なっ!?」

「我ラハ、ハヤトノ下ニ集ッタエルゴノ守護者、誓約者ニナッタハヤトヲ助ケルベクココニ来タノダ」

「貴方方の事はハヤトさんからある程度聞いています。今はこの状況を打破すべく力を合わせましょう」

 

 理解が追い付かないミモザとギブソン、だが一つだけハッキリしたことがあった。

 ハヤトは生きている、そして新しい仲間を引き連れて帰って来たのだと。

 それだけでも分かっただけで二人の想いが大きくなっていく、それなら無茶は出来ないと生きて言う事聞かなかったハヤトを叱るのだと。

 

「まさか生きてたなんてね…あの時、お姉さんの忠告無視して本気で叱るわよぉ!」

「私も引きずってるわけではないが、ガゼルに殴られる原因を作ったのだからな、相応の責任は取らせてもらうか!」

 

 二人は召喚術を発動させ、悪魔の軍勢に攻撃を仕掛けた。

 明らかに先ほどよりも強大な力で放たれた召喚術は敵を打ち破ってゆく。

 それでもなお無限に表れる悪魔達に怯みはするもののおくする事はなかった。

 せめて今ここにいない彼が戻ってくるその瞬間まで道を切り開く、それが自分達の役目だと悟ったからだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ------------------------------

 

 度重なる召喚術の余波で既に瓦礫になっている孤児院で二人の男がにらみ合っていた。

 何度も剣を交え、そして互いに殺し殺された仲という奇運な運命の二人、

 片方は越えねばならない壁としてもう片方は絶対に殺さなければならない対象として認識していた。

 無言でにらみ合う二人だったが、それを破ったのはほかでもない幼い少女だった。

 

「…ひっくぅ、うぅぅぅ…うわぁぁぁ~~~ん!!」

「ラミ…」

 

 ラミがハヤトに抱き着いて大粒の涙を流す、死にかけた事よりハヤトが生きていた事に涙を流したのだ。

 大切な家族が生きている事がラミにとって何よりうれしかったのだ。

 ハヤトもそんなラミを片手で撫でて安心させようとする、だがその隙を逃す程目の前の男は甘い男ではなかった。

 

「ダークブリンガ―!」

「ッ! ハヤトさん!!」

 

 ソルは瞬時に5本のダークブリンガ―を召喚しハヤトとラミに撃ち放つ。

 それに気づいたミントが苦痛を顔に浮かべつつも叫んでハヤト達に知らせようとするがハヤトが動くことは無かった。

 だがハヤトは視線をソルに向けて空いている手を掲げると言葉を紡いだ。

 

「シャインセイバー」

 

 光り輝き、虹色の魔力を纏った剣影が一本召喚され、一直線にダークブリンガ―に突き進む。

 バキィンと言った破砕音と共にダークブリンガ―が打ち砕かれ残り四本のダークブリンガ―も次々と打ち砕かれる。

 たった一本のシャインセイバーで五本ものダークブリンガ―を打ち破り驚愕する面々だったがそれだけに留まらなかった。

 

「……ぐうぅっ!?」

 

 膝を付いてソルが悶えていたのだ。そしてその手からはパラパラと砕け散ったサモナイト石が零れ落ちていた。

 ハヤトのシャインセイバーの魔力があまりにも強く、魔力が逆流してソルを襲っていたのだ。

 もし咄嗟にサモナイト石を砕かれなければそれだけで意識を失う可能性があったほどだった。

 

「…」

 

 遠のく意識の中クロはハヤトの姿を見ていた、かつて自分が助けられなかった人に酷似していたが決定的に違う事があると。

 先生は帰ってこなかった…だけどこの男は帰って来たのだと。

 ハヤトはそんなクロの視線に気づいて目を向けると笑顔を浮かべて口を開いた。

 

「クロ、良く持ちこたえたな。あとは任せてくれ」

「…ム…ィ…」

 

 小さくクロが鳴き、bとサムズアップを決めるとそのまま意識を落とした。

 本当によく頑張ったなとハヤトは呟き視線を周りに向ける、するとハヤト以外にも誰かがいる事に気づいた。

 

「エルカさん!大丈夫ですの!?」

「アンタ……どこ行ってたのよぉ!!!」

「にゅぅっ!?痛いですの~!」

 

 ドロドロのガウムを抱えながらモナティが傷だらけのエルカにギリギリと締め付けられている。

 苦笑いしつつハヤトはモナティに声を上げた。

 

「モナティ!みんなを一か所に集めてくれ!」

「痛たた…。あ、わかりましたのマスター!」

「レビット!後でしっかりと話してもらうわよ!」

「分かっていますの、あ、カノンさん大丈夫なんですの!?」

 

 モナティが皆を一か所に集め初めてるのを見た俺は一番傷の深いミントに近づく。

 遠目で見て気づいていたが近くで見ると本当に酷い傷だった。

 左腕と右足が完全に腐れ千切れておりおびただしい血が出ている。

 こんなになるまで頑張ってくれたのか…。

 

「ハヤ…ト…さん…!」

「ありがとなミント。こんなになるまで戦ってくれて」

「ううん、私じゃみんなを守れなくて…リプレもあんなになっちゃって…!」

「……いや、ラミ歩けるか?」

「…(こくん」

 

 ミントの口調が前に話していたのよりも自然な感じになっている。

 必死になって皆を守ろうとしたせいでそこらへんに気が回っていないんだろうな。

 俺はミントの腰に手を回しミントを抱きかかえる。

 血が俺の服に付着するがそんなのを気にしたりなんかしなかった。

 

「ハヤトさん、血が…」

「そんなのを気にしたりなんかしないさ、ミントが必死に頑張った証なんだがら気持ち悪がったりするのは逆に失礼だろ?」

「ハヤトさん…」

 

 そのまま俺はリプレの下へと近づく、リプレはミントと同じくらい酷い傷だった。

 体のいたるところに銃撃を受けており、ミントと同じくらい血が出ている。

 このまま放っておけばたぶん助からないと理解できていた。ストラじゃ間に合わない召喚術でないと助けられない傷跡だ。

 

「兄ちゃん…オイラ…オイラ…!」

「アルバ、お前だって皆を守ろうと頑張ったんだろ。結果的にこうやって間に合ったんだからいいじゃないか」

「でも…」

「みんな生きてるんだからいいでしょ!アルバ!それにあたしは信じてたわよ。でも…いきなり居なくならないでよ!」

「フィズ、ごめんな」

「謝らないでよ…あたし信じてたんだから…信じてたんだからぁ~」

 

 ボロボロと涙を流すフィズとアルバを見て少し心がきつくなる。

 だけどソルが襲撃してきたことを考えると秘密にしておいて正解だった。

 もし最初から皆に打ち明けていればこのタイミングで襲撃してくることは無いはずだ。

 もっと速く襲撃してきたはずだ。

 

「お帰り」

「リプレ…」

「本当に皆に心配ばっかりかけさせて…私たちをこんな目にあわせて」

「……」

「絶対に許さないから…絶対に叱るから…」

「うん…」

「だから……だから絶対に勝ちなさいよ…!」

「……ああ!」

「マスター!皆さんを連れてきましたのー!あと、これってミントさんの手足ですよね」

 

 カノンを背負っているモナティの手にはミントの手足があった。

 かなり腐ってしまっているが間違いなくミントの手足だ。

 それを見てミントの辛くなってしまったようだが、

 俺は黙ってミントをリプレの横に寝かせるとモナティに手足をミントと合わせるように指示を出す。

 

「プラーマ…じゃだめだな、もっと強力で皆を守れる力を……メリオール!!」

 

 手をかざし異界のゲートを開くとそこから青い髪と光を放つ古の妖精、メリオールが召喚された。

 

「メリオール。皆を治せるか?」

『大丈夫ですよハヤト。この傷なら私の力で治せます。黄金の大慈水よ!愛しきものを守る為に傷ついたものを癒したまえ!』

 

 メリオールの手から黄金の水が溢れ出てリプレ達全員を包み込む。

 リプレの体から体内に残っていた銃弾が抜けて行き傷口が塞がってゆく。

 他の皆も同じように傷口が塞がってゆき、ミントの手足も無くなってしまった部分が復元し治ってゆく。

 

『動かせますか?』

「は、はい!ピリピリしますけど…これが古妖精の力…」

「でも、ハヤト大丈夫なの!? 貴方前にメリオールを召喚したとき倒れて」

「大丈夫だよリプレ、今の俺ならメリオールを召喚したぐらいじゃ倒れたりしないさ」

「だけど…」

「大丈夫ですの!マスターは伝説の誓約者なんですの、モナティはそんなマスターを助けるエルゴの守護者になったんですの!えっと…ソルさん?なんて敵じゃないんですの!」

 

 ふんす!と胸を張ってエッヘンとしているモナティ。

 リプレは唖然としてるが、ミントは「誓約者って…あのエルゴの…」と呟いており。

 エルカは「アイツがエルゴの守護者になったっての…ありえないわよ」と言っている。

 ミントは召喚師だ、誓約者の事を知っていても不思議ではない、エルカもメトラルの族長の娘って言ってたから知識はあるのだろう。

 だがそんな事よりも…なぁ?

 

「おいモナティ」

「うにゅぅ?」

「うにゅう?じゃないだろ!」

「痛!痛いですのマスター!」

「だからお前、そういう事を自信満々に答えるのやめろって前に話しただろ!」

「ごめんなさいですのぉ~~~!!」

 

 モナティの頭をぐりぐりと締め付けてモナティが涙目になる。

 マスター自慢は別に構わないが、誓約者や自身がエルゴの守護者という事を一々口に出すなと厳守していた。

 まあモナティはうっかりなせいかよく忘れてしまうんだけどな…。

 

「まあ、そういう訳だ。メリオール皆を守ってくれるか?本気で戦うから正直庇いきれないと思うし」

『分かりました。ハヤト気を付けてくださいね』

「ハヤト…」

「ハヤトさん…」

「ハヤト…!」

「兄ちゃん…」

「お兄ちゃん…」

「……おにいちゃん」

 

 俺が皆に背を向ける、後ろでは俺の事を呼ぶ声が聞こえるが意識をソルの方に向ける。

 ソルは腕を組みながら待っていた。だが全身から膨大な魔力を滾らせており準備は万端だろう。

 そのまま歩み続け、跳べば切り掛かれる距離まで近づくと俺は足を止めた、これ以上近づくのは危険だからだ。

 

「待っててくれるなんて気が利くじゃないか」

「不意打ちを食らわせて失敗したからな、無駄だと割り切っただけだ」

「……ソル。皆を襲った理由はなんだ。なんで戦えないあいつらを襲ったりなんかしたんだ!」

「利用価値があったからだ」

「利用…価値だと?」

「誓約者、貴様が生きている事には気づいていた。剣竜の峰から観測されたメイトルパの魔力、スピネル湖の山脈渓谷で行われたシルターンのエルゴの降臨、そしてロレイラルのエルゴにも警告されていたからな、エルゴ級の魔力を二度も感知したんだ。新たな誓約者が生まれる危険性を危惧してもおかしくはないだろ」

 

 珍しく長弁で語るソル、剣竜の峰はゲルニカとの戦いの時だ。

 スピネル湖は分からないがシルターンのエルゴは明らかにこっちに既に召喚されていたからそれだろう。

 その二つで俺が誓約者になりかけている事に気づいたのこいつは…だけど…。

 

「もし俺が死んでいたらどうするつもりだったんだ!」

「その時はフラット共の人質にするつもりだ。弱い奴を切り捨てられない連中には格好の人質だからな、連れ去る価値はある」

「お前…!」

「無駄にならないだけマシだと思うがな。少なくとも利益を食いつぶすだけの老害共よりは遥かに有益だ」

 

 ソルが手をこちらに向ける、そして魔力が高まり始めた。

 

「力は戻った。時間稼ぎが終わった今、貴様とこれ以上口を開く理由はない、死んでもらうぞ誓約者」

「……!」

「――誓約の名の下、セルボルトがその力を望む。来い!鬼神将ゴウセツ!!」

 

 俺が走り始めるとソルは鬼神将ゴウセツを召喚した。

 以前ミニスと戦った時とは比べ物にならない威圧感だ。

 今のソルが一切手加減をしてないことは理解できる、だけど…!!

 

「鬼神烈破斬!!」

「ハヤトさん!」

 

 ミントの叫び声が聞こえる、俺は目の前のゴウセツに意識を集中し腰に手をやる。

 

「力を貸してくれ、サモナイトソード!」

 

 鞘から剣をそのままゴウセツの大太刀に向けて引き抜いた。

 極光ととも言える虹色の光が迸る、ある者は恐怖し、ある者は憧れ、ある者は畏怖した。

 その光が大太刀とぶつかるとハヤトの全身凄まじい衝撃が走り足元に亀裂が生まれそれはクレーターになる。

 やがてその光が落ち着くと彼のその手には虹色の輝きを放ち続ける魔剣が握られていのだ。

 

「あれは…魔剣…」

「魔剣?」

 

 魔剣の事情を知らないリプレがミントに問いただした。

 

「うん、強力な召喚術の触媒になる武器で…私も見たことはあるけどあそこまで凄い魔力を宿してる魔剣なんて……まるで…」

 

 まるで覇王の剣と同じ。そうミントが口に出そうとしたが言葉がそれ以上出ることは無かった。

 口に出すつもりもなかったが状況が動いたからだ、ハヤトがサモナイトソードに魔力を通すとそのまま召喚術が発動する。

 白い剣影が十を超える数召喚されて一斉にゴウセツに襲い掛かったのだ。

 ソルはすぐさまゴウセツを送還し、そのまま襲い掛かろうとするシャインセイバーを回避してゆく。

 全てを回避したソルはその視線をサモナイトソードに向けていた。

 

「魔剣か」

「そうだ!気にくわないがお前の持つ覇王の剣と同じ魔剣だ。同じ土俵なら負ける事は無いぞ!」

「ウィゼル・カリバーンの仕業か、行方が分からなくなっていたがそのようなモノを作っていたのか」

「師範が俺の為に用意してくれた魔剣だ!この剣があれば…」

「だが、魔剣を握った程度で勝てると思っているのだとしたらお笑いだな」

「なに!」

「所詮武器に頼る連中はその程度という訳だ」

 

 そう答えるとソルは召喚術を発動させる、別にソルは剣士でも何でもない。

 彼は無色の派閥に属する召喚師なのだ、魔剣のみに頼り続けている訳ではなかった。

 召喚されたのは二体のベツソウ、左右からハヤトを斬り裂こうと高音を鳴らしながら迫ってくる。

 ハヤトはサモナイトソードに魔力を通し召喚術を発動させそれに対抗した。

 

「ヴァインシェード!」

 

 生み出された白亜の縛布でベツソウを一体包み込むとそのままもう一体に投げつける。

 ぶつかり合ったベツソウは爆散して送還されるがソルは気にすることなく召喚術を発動させる。

 

「来い、フレイムナイト!ウィンゲイル!」

 

 召喚された二体のロレイラルの召喚獣はソルの誓約に従い行動する。

 黒炎をウィンゲイルの送風機で極大化させ、全てを燃やし尽くす炎がハヤトを襲う。

 ハヤトは手を前に掲げて召喚術を発動させる、呼び出すのは彼を守り続けた鉄巨人だった。

 

「アーマーチャンプ、アストラルバリア!」

 

 召喚された大盾を構える鉄巨人は六角形に盾を分離させて電磁障壁を発動させた。

 その防壁をソルの召喚獣は撃ち破る事が出来ずに防がれてしまう。

 だが、ソルからの指示が入り。黒炎は向きを変えてリプレ達に迫り始めた。

 

「ッ!? メリオール!!」

『はい!積層結界!!』

 

 黒炎がリプレ達を飲み込もうと迫る中、ハヤトの指示に従いメリオールが手を前に掲げ結界を発動させる。

 それは法の天使長ウルキエルより継承した何十もの結界を展開させる積層結界だった。

 黒炎とぶつかり合うがメリオールの結界も破る事は出来ず黒炎の熱量もメリオールの黄金の大慈水によって防がれる。

 ハヤトがホッと一息を付くが、バチバチと言う音が耳に入りソルの方を見ると召喚獣が既に召喚されていた。

 

「エレキメデス!?」

「殺せ!ボルツテンペスト!!」

 

 放たれた電撃は一方向しか防げないアーマーチャンプでは防げないモノだった。

 ハヤトはサモナイトソードを起点に結界を発動させそれを防ぐが長くはもたない。

 だがハヤトは焦る事はなかった、なぜなら彼は。

 

「モナティ!」

「はいですの!」

 

 彼は一人ではない、飛び出したモナティがその拳でエレキメデスを殴りつけて吹き飛ばす。

 吹き飛ばされ地面に激突したエレキメデスは再び動き出そうとするが、モナティの手に膨大な魔力が集中していた!

 

「うさきだんですのぉー!」

『!?!?』

 

 連続で放たれる魔力弾にエレキメデスは耐えることは出来ずに爆散する。それを見たソルは驚愕していた。

 

「レビットがミミエットのうさきだんを使うだと…?」

 

 レビット種は確かに兎亜人の原種だがそれでもうさきだんを使うなどという記録はない。

 つまり何か特別な力をあのレビットが手に入れたと考えソルはモナティに対する危険度を上げる。

 

「――誓約の名の下にセルボルトが力を望む…ツヴァイレライ!!」

 

 召喚されたのは深闇の大公と呼ばれる大悪魔ツヴァイレライ。

 骸骨馬で空を駆け、いまだ宙に浮くモナティに向けて槍を突き出した、

 モナティはその槍を魔力を全開にして防ぐが弾き飛ばされてしまう。

 

「やはり戦いなれてはいないようだな!そのまま畳みかけろ!」

「にゅぅっ!」

 

 受け流すことなく防ぐという行いをしたモナティが絶対的に実戦経験が不足してることにソルは気づく。

 何せ槍を受け流し殴りかかれば十分にツヴァイレライに対抗できるはずなのだ。

 それをしないモナティが戦いそのものに慣れてないと予測したソルはエレキメデスを破壊できるモナティを仕留めようと攻撃を仕掛け続けた。

 だがその行為は宙を舞う二体の召喚獣の間に走る閃光により阻害されてしまう。

 

「メテオライトフォール!!」

 

 ハヤトの叫び声と共に魔剣から放たれた閃光が空間に亀裂を生み出し、そこから巨大隕石が召喚される。

 それは真っ直ぐにソルに向かって突き進んでおり、今から駆け出しても回避できない勢いだった。

 ソルはそれに対抗すべく、すぐさまツヴァイレライを送還し召喚術を発動させた。

 呼び出すのは迫る隕石と同じ隕鉄より作られた星空の機神だ。

 

「ダブルインパクト!」

 

 巨大な機械兵士の両手の拳が放たれて巨大隕石に激突し粉砕される。

 そのままソルは星空の機神を盾にして隕石の破片を防ぐが破砕した隕石の粉塵で視界が悪かった。

 

「奴はどこだ…」

 

 ソルの影がゆらりと動き始めて周囲に伸びてゆく、影の悪魔を用いた探知術だ。

 影の悪魔は攻防からこういった探知も行うことが出来るほど利便性が高い、

 唯一の欠点は影がない場所には作れない事だけだが、人は光ある所に必ず生息するため欠点にはならない。

 ソルが周りを調べる中、上空から熱源が迫っていることに気づき、星空の機神を盾にする。

 

「ワイバーンさーん!」

 

 ―――シギャァァァァァァーーーッッ!!

 

 雨の様に放たれるガトリングフレアが星空の機神を襲い続け溶解するように爆散する。

 その衝撃を利用して一気に状況をソルが変えようとするが探知に何か引っかかりそちらに視線を回す。

 光り輝く剣影がソルに襲い掛かり、ソルは剣を抜いて魔力を流してそれらを受け流すが攻撃はそれだけに収まらなかった。

 

「ソル!!」

「ッ!?」

 

 剣影の魔力に隠れるように接近したハヤトは斬り上げるようにサモナイトソードを振るう。

 ソルは影の悪魔と魔力を通した剣で防御しようとする、そして魔剣はソルの防壁にぶつかった。

 ギィン!と言った衝撃音が響き魔力同士がぶつかり合った衝撃が彼らを襲った。

 遠くからメリオールに守られるリプレ達や空から見ているモナティは状況が分からなかった。

 

「マスター!」

 

 粉塵が薄れハヤトの姿を確認したモナティがワイバーンから飛び降りて近づく。

 ハヤトはモナティに視線を向けることはなく、ジッとソルがいるであろう咆哮を見ていた。

 モナティも身構える様にソルの方に視線を合わせる、そして粉塵がやがて全て消えた時状態がはっきりした。

 

「まずはアカネの分だな」

「………ふん」

 

 鼻で笑ったソルだったが、その状態は痛々しいものであった。

 影の悪魔と剣で防いだ防壁はハヤトのサモナイトソードの前には意味がなく右の手首が斬り落とされていたのだ。

 ボタボタと血が地面に流れているが当のソルはまるで他人事のようにしていた。

 

「これがモナティとマスターの力なんですの!謝ったら許してあげてもいいんですの♪」

「調子に乗るなモナティ、手首を斬りおとしたぐらいでこいつが参る奴なわけないだろ」

「え!? マスターでも手首ですよ?」

「良く分かっているようだな」

 

 ソルの傷口から血がまるで生き物のように飛び出すと斬り落とされた手首を探し出して引き寄せる。

 そして手首が傷口にくっ付くと魔力が生きているように傷口を塞ぎ始めてやがて完全に手首が治る。

 手をあけしめして状態を確認したソルはモナティに目線を合わせた。

 

「それで誰が謝るんだ?」

「…にゅう」

「悪魔の力…憑依召喚か…」

「二度目とはいえこれに気づくか」

「俺自身も経験があるからな、召喚獣に不死身の肉体にしてもらえても不思議じゃないさ」

 

 ハヤトは自身がガイエンを憑依した時のことを思い出していた。

 あの時、極大な胆力と魔力を振るうことが出来ていたが

 その後ガイエンの剣技の知識が体にしみ込んでいることに気づいた。

 つまり憑依召喚の中には永続性のある憑依召喚が存在する可能性があり、ソルはそれを用いてるとあたりを付けたのだ。

 

「マスター、それじゃソルさんは不死身って事じゃないですか!?どうするんですの!?」

「簡単な事だ、憑依召喚を解けばいいだけだ」

「にゅう?」

「さっきシルターンのエルゴに操られた時、魔力を送り込んで束縛を破壊で来た。それと同じことをソルにすれば倒せるはずだ」

「すごいですの!流石マスターなんですの!」

 

 喜ぶモナティだったがハヤトはそう上手くいくはずがないと気づいていた。

 ソルは腕を組んで目を瞑っているがまるで隙が存在しなかった。

 ハヤトのサモナイトソードの握る力が強くなってゆく、ここからが本番だと覚悟を決めた時ソルは目を開けた。

 

「このままでは勝てないな」

「!?」

「使うか…出し惜しみしてる場合でもないだろう」

「まさか…」

 

 ソルの足元の影が揺らめき、膨大なサプレスの魔力が開放される。

 やがて影が伸び始めソルの手の位置まで来るとソルはそこに手を入れ何かを掴む。

 ソルはハヤト達が動く可能性があると警戒していたが、意外にも二人は動かなかった…いや。

 

「「・・・・・・・」」

 

 二人は動けなかった、影から伝わる魔力は二人にとってあまりにも馴染みのある魔力だったのだ。

 特にハヤトにとっては命を救われ、常に隣にあり、そして彼をこの世界に呼び込んだ力だったのだ。

 やがてソルが影から一本の剣を引き抜く、純白の魔剣、膨大なサプレスの魔力を宿す殺意を内包した魔剣。

 その剣を見てリプレ達も息を飲んだ、恐怖と共に一種に親しみのようなものを剣から感じたのだ。

 

「そんな…!そんな…!!」

 

 ミントは気づいた、自身にトラウマを植え付けた魔剣の正体を、

 事実に気づきその衝撃から涙を流して否定しようとするが否定することは出来なかった。

 酷過ぎる、なぜその力を彼にぶつけようとするのか、あまりに酷過ぎる、そう思わざる思えなかった。

 

「ソル…お前…!!!」

「この匂い…なんで…!」

「相手をしてやろう、この【サプレスのエルゴ】の力を宿した覇王の剣でな」

 

 モナティはこの匂いを嗅いだことある、とても暖かく優しい匂いだった。

 だがその匂いは名残を残して血の匂いとごちゃ混ぜになりモナティを苦しめる。

 ハヤトも自分を包み込み、何度も救ってきたこの魔力の正体にすぐに気づいた。

 そしてソルがそれを振るえる理由もすぐに理解出来た。

 彼ら無色の派閥は魔王を召喚するためにサプレスのエルゴを操ろうとする。

 その操る為にはどうすればいい…?その力を引き出す道具を使えばいいのだ。

 

「誓約者、貴様が救おうとする女の力の前にひれ伏すがいい」

 

 ソルが剣を掲げてサプレスのエルゴの力から召喚術を発動させる。

 それは人が行使するべき力ではなかった、ハヤトは改めて気づいたのだ。

 この力の持ち主が…クラレットがどれだけこの力に恐怖していたのかを…。

 そしてソルは決してこの力に恐怖することはない。

 そう幾度となくハヤト達を守ってきた力が今度は彼らに襲い掛かる。

 力は所詮力、ハヤトはそれを身をもって理解するのだった…。

 




次回から全力になります。ゲストキャラも…。

ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。