サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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身長差

 

「ただいま~」

 

リィンバウムから帰還してから数日、勇人は学校から帰ってきた。

既に夕方、しかも土曜に、理由はもちろん部活ではない、彼は補習を受けてきたのだ。

 

「疲れたぁ…」

 

二か月、そう二か月なのだ。

勇人とクラレットの二人は二か月も学校を休んでいた、本来なら留年確実なのだがなぜかならなかった。

その結果ついてきたのが休日や夏休みすら返上した補習の山、日曜すら半日は補習を受けに行かなければならない。

勉強は嫌いではないが苦手だ、体を動かす性分の勇人にとって机に座りっぱなしの作業はきつかった。

世界を救った誓約者とはいえ知能に補正は入らないのは悪しからず。

 

(クラレットの奴、用事があるって先に帰ってたよな)

 

――用事があるので先に帰りますね

その一言でクラレットは勇人を置いて先に帰ってしまった。

恋人になったんだからもう少し残ってくれればいいのに、と思ったのだが正直夕方までかかったことを考えれば当然だ。

気疲れし、玄関に腰を下ろして靴を脱いで廊下に上がる、今日は土曜日だから母親は早上がりで帰ってきていた。

 

「お帰りなさい、もうすぐご飯できるからお風呂入りなさいよー」

「おー」

 

帰還当初は少し硬かったが、今は自然体に戻りだしたので普通に会話できた。

勇人は階段を上がり自身の部屋へと向かう、クラレットの部屋の扉を通り過ぎたときそれは起きた。

 

―――なんで…!なんでなんでなんで…!どうして駄目になってるの!?

 

「…?」

 

様子がおかしい、勇人はそう思いながら部屋に向かう足を止めてクラレットの部屋に近づく。

 

―――今まで大切にしてきたのに、なんで全部駄目になってるなんて!?こんな…!こんな…!

 

(様子がおかしい…?大切なものが駄目になった…?いったい何が)

 

―――……はぁ、死にたい。

 

「ッ!? クラレット!?」

 

バァン!っと大きく扉を開いて勇人はクラレットの部屋へと飛び込んだ。

死にたい、そう呟く彼女を救うために、勇人はその原因へと挑んだのだ。

 

「………え?」

「………は?」

 

勇人の視線にクラレットの裸体が移る、床には下着が乱雑しており彼女の手にも下着が握られていた。

つまりクラレットは現在下着をつけていない、ほとんど全裸だったのだ。

 

「な、なぁ?!そ、その!なんか苦しんでたし、だから助けようと思って――だけど無事みたいでなんで下着?!」

 

勇人は混乱している!!

 

「どうでもいいから………部屋から出て行ってください!!!」

 

赤面したクラレットの右手が紫電の輝きを放ち雷撃が勇人の体を貫く。

ギャァーッ!という叫び声と共に勇人が黒焦げになって廊下に倒れた。

 

「ふん!」

 

バタンと扉を閉められて、残されたのは気絶した勇人だけだった。

 

「あぁーお腹減った……なにこの物体」

 

部屋から出てきた春奈は変わり果てた勇人の姿にただ困惑するのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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黒焦げになった勇人は風呂に入りご飯を食べて一息つく、

そして改めてクラレットと話すことになった。

 

「下着が殆ど着れなくなった~?」

「はい、残念なことに…」

 

クラレットが告げた事実は到底勇人が予想できる事ではなかった。

下着が着れなくなった、幸い頑張ればパンツは着れるそうだがブラジャーの類は全滅らしい。

 

「って、今までどうしてたんだ?まさか…」

「そ、そんなわけないじゃないですか!?リプレやお母さんに借りてたんですよ!」

「あーあぁー」

(そういえばリプレは同じくらいの大きさだったな…)

「…今何考えました?」

「いえ、なにも」

 

考えた事を口にすれば折檻が来る、クラレットと長年ともにした彼が導き出した答えだった。

 

「クラ姉可哀想…」

「春ちゃん…」

「大げさだな、たかが下着だろ?」

 

勇人は地雷を踏んだ。

 

「………今なんて言いました?」

「え?」

「今なんて言いました?」

「いやその…」

「今なんて言いました?」

「えっと」

「今なんて――「すいませんでした!!」まあいいです」

「お兄ちゃん何もわかってないよね!大きいの探すの大変なんだよ?!」

「そうなのか?」

 

勇人の何もわかってないような顔を見て二人は大きく溜息を吐いた。

二人の態度に怪訝な表情を浮かべるがそんな勇人に同じ部屋にいた母親が声をかける。

 

「勇人、女の子はね。ただ着れればいいって訳じゃないの?見えない部分もお洒落がしたいのよ?」

「…うん」

「それで、大きい下着はあんまりお洒落なのがないのよ。母さんの学生の時には殆どなかったわ。今は恵まれてる方なの。クラレットは大きいし、春奈も私譲りで大きいわ。それに今は色んな柄があるし、じっくりと自分の合う柄を選びたいの。だからとても大変なの分かった?」

「は、はい」

 

力説する母に少し勇人は引くが、流石に勇人は理解できた。

母は「私みたいな小母さんはもう気にしなくてもいいんだけどねぇ」と言い胸に手をやる。

改めて見ると母もデカい、春奈に遺伝してるのがよく分かった。

 

「お姉ちゃん新しいの買いに行くの?」

「そのつもり、でも前の物も取り寄せたり探し回ったりして大変だったんだけどな」

「というより、クラレット。あなた二か月でどれだけ大きくなったの?」

「多分……一回りは」

「え!?大きくなりすぎだよ!?原因はなんなの!?リィンバウムって豊胸効果がある世界なの!?」

「え!?えぇ……どうなんでしょ、色々あり過ぎて…」

 

色々と原因がポツポツ頭に浮かぶクラレット、どれも胸を大きくする効果があるかは分からないが可能性はあった。

そんな姦しい三人を机に肘をつきながら顎に手をやってる勇人は見てつぶやいた。

 

「あぁ…なるほどだからか」

「……?」

 

何かに気が付いた、クラレットはそんな勇人に視線を移す。

ミスをした事に勇人は気づいてしまったボーっとして口に出してしまったのだ。

 

「何に気づいたんですか?」

「た、大した事じゃないから気にしないでくれ」

「大丈夫です。怒りませんから」

「い、いや絶対に怒る…」

「怒りません」

「だけ――「怒りません」…はい」

 

諦めた表情で勇人は思いついた事を口にした。

 

「えっとな怒らないで聞いてくれよ」

「だから怒りませんって」

「…………リプレの胸大きかったよな」

「は?」

 

バキィッ!と何かが割れる音が響く、それはクラレットの持っていたプラのマグカップの取っ手だった。

母親と春奈が心配するがクラレットは気にしなかった、笑顔で勇人の方を見ていた。冷笑で。

ポタリポタリと勇人の顎から汗が滴る。

本能的な恐怖が勇人の体を貫く。

古来より伝われている、笑顔とは本来攻撃的なモノであるのだ。

 

「続きを…」

「ぁ…」

「続きを」

「は、はい!」

 

言い訳も無駄、逃亡を論外、ならば彼に行えるモノはただ一つ、正直に全てを話す事だった。

 

「リプレって言うかその…リィンバウムの住人って結構スタイルいいよな?客観的にだけど」

「………続けて?」

「それでさ、リィンバウムの住人ってもしかしてスタイルが地球の人より良くなる人種じゃないのか?」

「……ふむ」

 

例外はいるであろう、だが一部を除き、特に召喚師はその傾向があるとクラレットは考える。

子供時代、派閥にいた女性召喚師も多くはスタイルがいい気がする。

ミントやミモザ、セシルやリプレなどもよく思えばこっちの世界の住人よりとてもスタイルがいい。

勇人の答えは的を射ている、だがそれと感情は話が別だ。

 

「まあ、いいでしょう。確かに邪な考えはないみたいですし」

「ほっ」

「だけど罰は受けてもらいます」

「な、なんで!?」

「その考えは特に気にしてないです。私が気にしてるのは…私の部屋に飛び込んで裸を見た事ですよ!」

「いぃ!?」

 

そっちか!と勇人は困惑した、確かにそっちは実害があり否定できなかった。

 

「よって、明日一緒に来てもらいますからね?」

「え…一緒にって?」

「だから、一緒に来てもらいますよ。ランジェリーショップに」

「………はぁ!?」

 

まさに拷問、なぜそんな事をしなきゃいけないのか、だが否定できない。

何とか説得しようと勇人はクラレットに話すがクラレットは決して譲ろうとはしなかった。

 

「あらあら」

「あははは♪」

 

それを見て、新堂家の二人はただ笑うのみだった。

そこから離れてその様子を窺いながらテレビを見ていた父親は勇人を見て思った。

 

(女性は時に理不尽なんだ、強く生きろよ息子よ)

 

そう心で呟き、絡まれないように視線をテレビに移した。

 

「あなた?私も明日買い物に行きたいわ」

 

無理だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「「どうしてこうなった」」

 

なぜか二人してそう呟いた、勇人は口は禍の元と、クラレットは勢いって怖いと思う。

既に母からお金をもらい、やっぱり買うのやめたなどと言って帰るわけにもいかない。

二人は那岐宮の繁華街にあるランジェリーショップの前でただ佇んでいた。

 

「正直な事を言いますけど……男の人を連れてランジェリーショップ行くの恥ずかしいですね」

「今更だろ!なんで連れて来たんだ!?」

「だ、だって……えっと……」

(勇人に選んで欲しかったなんて…恥ずかしぃ!)

 

顔を赤面させて恥ずかしくなるクラレット、

勇人はただこの場から離れたかったが約束は約束だ。逃げることは出来ない。

 

「と、とにかく覚悟を決めていこう。知り合いに見られたらろくなことには…」

「アレ?勇人とクラレットじゃない、何やってるの?」

「「!?」」

 

背後から声を掛けられて二人が振り向くと手提げバックをかけた橋本夏美の姿があった。

 

「二人してなんでこんな……あぁなるほど」

 

ニヤニヤと口元に手をやって笑う夏美、

勇人に至っては一番知られたくない人物に知られてやばかった。

 

「じゃ、じゃあ夏美も来た事だし俺はこれで」

「だ、駄目です!」

「は、離せクラレット!というか許して!」

「約束は約束です!」

「そうよ!このまま逃げたらランジェリーショップから彼女見捨てて逃げたって言いふらすわよ!」

「詰んだ」

 

そこからの流れははやかった、なんかピカピカキャピキャピしてる店の内装に勇人はやばかった。

周りの女性の視線が自分に集中しているような錯覚に陥る、実際何名かこっちを見ていた。

世界を救った誓約者もさすがにこの空気には耐えられなかった。

 

「あぁ、よかった。このサイズがあった。以外にあるんですね」

「………!?」

「夏美、どうしたんですか?」

「なんでそんなに大きいの…?」

「大きくたっていい事なんてありませんよ?」

「ヒュッ――――!!」

「痛ったぁ!?ちょっちょっと!?本気で握らないで!?」

「千切れろー!千切れろー!」

「痛たたたた!?勇人助けて!」

「助けられるか!?」

 

夏美のやっかみで胸を鷲掴みにされて千切られそうだったが、

結局勇人は夏美を羽交い絞めにしてクラレットから引きはがした。

 

「うるさい勝利者!持たざる者の苦しみがあるのよ!」

「持ってる人だって色々と悩みはあるんですよ!?」

「なによ!例えば!?」

「荷物持つとき大変だし、勉強や食事の時邪魔ですし、可愛いブラは見つからないし、階段下りたり走る時痛いし、好きな服着れないし、周りの視線は嫌だし、服によっては太ってるように見えるし、おまけに今の夏美みたいに悪口言われるし、他にもいっぱいいっぱい大変なんですよ!?わかってるんですか!?」

「「ごめんなさい」」

 

指をさされて指摘された二人が同時に頭を下げた。

クラレットは本当に色々と大変なのだ、大きすぎてもいい事はない。夏美はそれを心底で理解した。

勇人も自分がここに連れてこられた訳を深く理解した。

 

「分かればいいんです。じゃあ勇人、選んでください」

「え?」

「だから選んでください」

「なんで俺が!?」

「だって…!だって勇人の為に着たいんですよ?」

 

少し上目遣い気味に言われて勇人はドキリとする。

ジッと下着の方に目をやった、周りの視線がさっきよりも強くなった気がする。

実際騒いでいたのだから全員が注目しているだけだった。

 

「…………(もうどうにでもなーれ)」

 

勇人は羞恥心を捨てた。

 

「これがいいと思います」

「へ?えっと…黒?」

「あとこれも」

「ふぇ!? 紫色だし、それにこの下着」

「俺は…俺は…!クラレットにこれを着て欲しい!」

「―――勇人!」

「俺の為に、俺の為だけにこの下着を着て欲しいんだ!」

「勇人の為に私が勇人の為だけに…他には何かありますか!?」

「あああるぞ、この下着はどうだ!?」

「官能的というか…これは…これを勇人の為だけに…」

 

勇人がどこぞから引っ張ってきたのは明らかに普段着るものではない。

それを見た店員が「店長一押しの品が売れるなんて…」と驚いていた。

 

「こ、これなんてどうです!?」

「いいじゃないか、いいゾぉ!クラレット!」

「はい!?」

 

二人の目が明らかに正気じゃない、もうその場のノリでやばい事になっていた。

店員は止めない、売れるから。そして夏美は…。

 

「……買って帰ろ」

 

諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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袋一杯に荷物を持ちながら勇人とクラレットは帰路についていた。

二人して何も言わない、何も言えなかった、だが心の中は同じだった。

 

((なにしてたんだろ))

 

帰る時は撃選した下着(勇人の趣味)を持ち。

店員には笑顔でありがとうございました!と送り出されたのだ。

とてもいい事だろう、周りの生暖かい視線がなければだったが。

クラレットは満足だった、満足なのだ、ただ恥ずかしかっただけ。

だが勇人には迷惑をかけてしまったのではないかと思ってしまう。

 

(ほんと、何してるんだろ)

 

デートの様な感じになるはずが勢いとノリでやらかしてしまった。

嫌われたらどうしよう、そう思ってしまう。

怖かった、だから聞くことにしよう、そう思った。

 

「あの、勇人」

「んー?」

「迷惑でした?」

「全然」

「やっぱり迷惑ですか……え?」

「まあ確かに恥ずかしかったし、大変だったけどさ、ずっと望んだモノだったから、結構楽しかったわ」

 

望み続けた未来、勇人は今その中にいることを満足していた。

昔だったらきっと嫌なだけだっただろう、その尊さに気づいた今、それが勇人にとっての幸福だった。

 

(勇人、大きく感じるなぁ……あれ?)

 

勇人が大きく感じる、そう思ったクラレットだったが意識すると目線が上に向く。

前は同じ目線だったのにそれが既に合わなかった、勇人は大きくなってたのだ。

 

(気づかなかった、いつの間にか大きくなるんですね)

 

あれほどの戦いの日々、相手の身長に気遣うなんてそうそう出来ない。

余裕が出来た今だからこそ、クラレットはその事を理解できた。

 

「大きくなりましたね」

「ん?」

「身長ですよ?」

「あぁ通りで制服がピッタリになったわけだ」

「今度は勇人の服を買いに行きましょうね。今まで着てるもの合わなくなってきてるんじゃないですか?」

「別にいいよ、着れればなんとでも…」

「ダメです……その、私の恋人なんですから、似合ってる服を着て欲しいですし」

「よし、来週行こう」

「勇人?」

 

目を見るとまた正気ではなくなりかけている勇人が居た。

正気に戻すべきか悩むが、一緒に行ってくれるならまあいいかと彼女は思う。

 

「そうですよ、こんなに可愛い彼女がいるんですから、カッコよくならないと」

「任せろ!」

「ふふ♪」

 

ずっと望んでいたもの、クラレットもずっと望んでいた。

こうして大した事ではないモノに一生懸命になれる事を。

いつまでもこうしていたいと思いながら、勇人の空いている手を握り二人は夕闇を歩んでいった……。

 

 

後日、夏美が暴露した為全校生徒にからかわれ、夏美を二人でお仕置きしたそうだ。

 




うむ、ちょっと長くなってしまった。
この話は前回と同じで書きたかった話です。
もっとハチャメチャ感があると思ったけど文章にすると大したことないな。
しかし大きな問題が……身長差の話なのにラストしか触れてない!
でもタイトル回収ってそういう風潮あるし大丈夫。イイネ?
アッハイの皆さんは次の制服の賞券を授与しよう。

さて25のお題も五分の一に入ります、お題難易度が高いがごり押していくぜぇ!

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