サブイベントっぽい話だけど、今までと違って結構重要な話なので本編に入れました。
誤字脱字、ちょっと見直したけど…たぶんあるんだろうなぁ…。
ハヤト達がロレイラルの試練を乗り越えた直後、
サイジェントの孤児院では一人の少女が椅子にもたれかかっていた。
手首から先が無くなった右腕を見ながらただボーっとしていた。
「………なんで」
あの時、もう少し腕が速く動かなかったんだろうとアカネ思う。
修行不足、実力が足りない、元々感づかれたので無理だった。
理由を引き出せばそれこそ大量に思いついた。
そんな事を考えるアカネにあの時の言葉が脳裏を過る。
――お父様、貴方の下に戻ります。宿命を受け入れます
「――ッ!!」
ダンッ!っとテーブルに右腕を叩き付けて怒りを紛らわせる。
もう少し自分が上手くやっていればハヤトだって死ななかった、そう思ってしまう。
「慣れてるのに…教えられてたのに…何よ、アタシ何も分かってなかった」
忍びは総じて非情な存在として教育される。もちろんアカネもその類だ。
仕える主の命なら親友と言えど手にかけるのが世の常だった。
しかしシルターンからシオンに引っ付く形で召喚されたアカネは未熟だった、
師匠のシオンの師事は受け続けてきたがリィンバウムの生活を得るための片手間でアカネの精神面での修行を疎かにせざる得なかった。
忍びとして表と裏、二つの人格を作り尚且つ切り替えるのは時間がかかる行いだった。
アカネはその修行を受けてはいなかったが教えられてはいた、
突然人が死のうと決して取り乱してはならない、身内が死のうと悲しんではならない、
なぜなら、それを引きづってしまっては仕えるべき主君すら危機にさらしてしまうからだ。
「うっく―――うぅぅ…!」
他のフラットの住人が何とかクラレットだけでもと思う中、
ハヤトを救えなかった直接的な原因に繋がってしまったアカネは苦しんでいた。
何度も何度も、もう少し、あと少しと考え後悔してしまった。
そんな風に苦しんでいるとアカネの近くに人の気配が現れる。
「ねえ、アカネ。大丈夫?」
「リプレ…」
リプレがアカネの様子を身にやって来た、傍にはラミとフィズもついている。
「アタシは平気よ。片腕無くなったってシルターンじゃ普通普通♪」
「………アカネ」
「だからさ…そんな、悲しい顔で見ないでよ…」
リプレはアカネが空元気なのが分かっていた。
ヒラヒラとない手を振るって心配かけないように振る舞っているアカネが悲しかったのだ。
実はリプレの次に取り乱していたのはアカネだった、
自分がもう少し頑張れば自分のせいで自分の…っ!といった感じでしばらく落ち着いてなかったのだ。
「…アカネおねえちゃん」
「アカネ…」
「三人ともごめんね、心配かけちゃってクラレットを取り戻す時は頑張るからさ。だから…」
「本当に大丈夫なの?」
「うん、平気だから。ただ…やっぱり少し気持ちの整理、してくるね」
席を立って三人の横を通り過ぎてアカネは孤児院から出て行った。
その途中で何人かに声をかけられた気がしたがアカネの耳には入っていなかった。
だが、アカネが南スラムに出ていく途中で…。
「あ…」
「…」
一匹のまだら模様のテテ、まるで何かに備えるようにジッとしていたクロはアカネに気づき目をやる。
しかし直ぐに目線を城の方に向けなおした。
「…ねえクロ。アンタさ心の整理とかもう出来てるの?」
「…」
「アタシ全然ダメでさ、ちょっとボーっとするとすぐにあの時の事、考えちゃうんだ」
「…」
「クロもアタシと同じでしょ、だからどう思ってるのかなって……ねえ?」
自分と同じように守れなかったクロにアカネは語りかける、
だが、クロは気にはしているが何も話そうとはしなかった。
その様子を見て次第にアカネに苛立ちが募ってゆく。
「なんか言ってよ……なんか言いなさいよ!」
「…」
「ッ!!」
決して何も言わないクロに怒鳴るが、
アカネは手を出そうとはせず、苛立ちながらその場から去っていった。
「…」
それをクロはジッと見つめていた、クロには口を開けない理由があったのだ。
それはハヤトが実は生きていて現在エルゴの試練を受けていることに繋がる。
元々目つきが悪いためか気づかれないが、迂闊に口を開けば安心してることに気づかれるかも知れなかったからだ。
もしそうなれば、何処かで見てるかもしれない無色の派閥に違和感を感づかれる、
普通の人々なら問題はないが、アカネは仮にも忍び。
そこを気づかれれば、それこそ周りの人たちに危険が及ぶ。
正直アカネがその感情を隠し通せるとはクロは思えなかった、
自分達召喚獣と違い、人間は感情が非常に表に出るものだ。
アカネには隠し通せないとクロは確信していた、だから何も言わなかったのだ。
「…ムイ」
小さく謝るクロ、自分のやったことは間違いではないが罪悪感はあった。
そんな罪悪感を全部ハヤトのせいだと無理やりこじつけてクロは気持ちを切り替える。
今自分が出来る事はこの孤児院を奴らの手から守る事、
2度も3度も間違いは犯したくない、そう思いながらクロは再び周囲の気配を探りつつ視線を城へと向けたのだった。
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「ああ、アタシ何やってるんだろ…、クロに八つ当たりなんかしちゃって。辛いのだって同じなのにさ……まあ、クロがアタシを恨んでるって事も考えられるかな」
商店街まで歩いてきたアカネは先ほどのクロの事を考えてた。
口を利かなかったのも口を利くほど話したくないという事の表れだったのかも知れない、
そうアカネは思えてた。実際はそうではないのだが。
「ここって……確か」
無意識でここまで来たが周りを見るとどこかで見たことある景色だった。
「……クラレット」
自分が今立っている所はクラレットと初めて会った場所だった、
荷物を運んでいる時にぶつかりお守りを落としたのが切っ掛けだ。
あれ以来、よくクラレットはアカネの下へと足を運んだ、
クラレットは自分の住んでる故郷に似た雰囲気のあかなべは落ち着くと言ってくれており、
リプレとは違う友人として自分に付き合ってくれていた。
「やっぱり助けたい…でもアタシの力じゃ」
友人を助けたい、だけど自分の力では難しい。
どうすればいい、そう考えるアカネにある一つの考えが浮かんだ。
「そうだお師匠なら…」
自分の師匠であるシオンならクラレットを助け出す事も容易いのではないかとアカネは考えた。
だが、すぐにその考えは外される。
忍びは欲の為にその力を行使してはならないのだ。
クラレットを助けるという事はそういう事だ、
そのうえそれを人にやらせようなどという事をシオンは許すはずがなかった。
「お師匠に頼ってちゃダメだ…だけどアタシの力じゃ…」
一度致命的な失敗を犯したアカネは自身が持てなかった。
もし次失敗したら、誰かが自分のミスで死なせてしまったら…、
そんなもしもの事ばかり考えてアカネは頭の中がグルグルし始めていた。
「どうすれば、どうすれば」
関わり過ぎたことの弊害、忍びとしての同僚ではなく家族、仲間、友人、
それぐらい深い繋がりがアカネを苦しめていた。
アカネにとって今まででそのような関係は師匠のシオンだけだった。
そしてそのシオンは凄腕の忍び、その様な心配はまずありえない。
だからこそ、簡単に消えてしまうと再認識してしまったアカネは最後の一歩を踏み出せなかったのだ。
左腕と手首から先がない右腕でアカネは頭を抱えざるえなかった、そんな時…。
「おや、アカネさんではないですか」
「…え?」
アカネが顔を上げるとそこには一人の男性が立っていた。
アカネの師匠であるシオンだった。
「お、お師匠…」
「探していたんですよ、アカネさん。何日ぶりですかね?」
「あの……あっ」
アカネがシオンに手を伸ばそうと利き腕である右手を差し出す、
だが、右腕の手首が無くなっていることに改めて気づくアカネは腕を引っ込めた。
「………」
「アカネさん、着いてきなさい」
「お師匠、実は…」
「……」
「はい…」
無言の師匠の背中を見てアカネはそれについて行った。
何を言われるのか、それは理解している。戦いが激しさを増すごとにアカネは気づいてた。
自分が師匠に言われた言いつけを破っていることに…。
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アカネはシオンにただついて行くだけだった。
そしてシオンはあかなべに向かわずサイジェントの街を抜け出てドンドンとアルク川の上流に向かってゆき、やがてスピネル湖が見えて来た。
アカネが何度も声をかけようとするが、シオンに声をかけることが出来ず時はただ過ぎてゆく。
「ここら辺でいいですね」
「…お師匠?」
「さて、アカネさん。今まで貴女が何をしていたか、それを話してくれますね?」
「……はい」
アカネはハヤト達に協力し、無色の派閥と起こった事を話した。
そして、自身の力不足によりハヤトを死なせ、そしてクラレットを奪われてしまった。
「そしてその腕ですか」
「……」
「アカネさん、この世界に来た時に私は言いましたよね? 私達の忍者としての力は隠していかなければならないものだと」
「…だけど!」
「人助けの為、彼らの事を考えればそれもいいでしょう。ですがアカネさん、あなたは見誤ったんですよ。一度彼らと戦う機会があったにもかかわらず。言いつけを破り中途半端な気持ちで戦いに挑んだ。そして…彼らを失う事に繋がった」
「………」
何も言えなかった、一度だけでも退けたのだ。
次も大丈夫、その次だって平気。
そう思っていた、違う。そう思ってしまった。
その結果、ハヤトを失いクラレットを奪われるという最悪の結末に繋がった。
「……それでもっ! アタシはクラレット達の力になりたかった、結局失ったかもしれないけど、クラレットはまだ生きてる。せめてクラレットだけでもアタシは還してあげたい!だってクラレットはアタシの大切な親友なんだ!!」
アカネは言葉を紡ぐ、2ヵ月ぐらいの短い付き合いだったが、
それでもアカネにとってクラレットは大事な友人だった。
彼女がハヤトを失ってどれ程悲しんでるかは分からないが、
クラレットが言っていた世界の家族の下に返してあげたい、だからまだここで膝を付くわけにはいかないとアカネは言う。
それをシオンは聞き、アカネに言葉を返した。
「…忍びが命を懸けて戦うのは、それだけの価値を認めた主君のため…。我が弟子、アカネよ。お前が主君と望む者が本当にそれを望んでいるのか?」
「――え?」
「愛しい者を失ったものがどういう結末に至るのか、それを良く知っているはずです」
シルターンで身内を失ったものは復讐に走るか廃人の様になるかのどちらからだ。
つながりが深ければ深いほどその傾向は良く出てくる。
ハヤトに依存し過ぎていたクラレットがどうなるかは火を見るよりも明らかだった。
「アタシは…それでも…!」
「それでも助けたいと? その人物が望まぬというのに私欲で戦うのか、我らが扱う技を欲の限り振るう、そのような事をすれば外道に落ちるだけだ、アカネよ」
「…望むとか私欲とはアタシにはわからないよ。だけど…だけどアタシはっ! クラレットの事が好き! クラレットに生きてほしい! だからアタシは戦わなきゃいけない!そう思う! そうじゃないときっと…もう二度と前を向けない気がするから…」
その言葉が正しいのか正しくないのかと言えば正しかった。
だがそれは人として、忍者としては落第点であった。
誰かを助ける為に武器を振るう、忍者など基本戦うことしか出来ない存在だ。
「なるほど…それがアカネと言うくのいちが見つけた答えですか」
「…(こくり」
無言でアカネは頷いた、そして左手が苦無に添えられる。
アカネには分かっているのだ、体が欠損した人間がすぐ強くなれるはずがない。
その為、アカネが戦おうが戦わなかろうが結果など変わりはしない。
むしろ足を引っ張る可能性の方が圧倒的に大きかった。
「アカネ、もう一度確認します。貴女は身の程を知りながら戦うというのか?」
「…大切な友人を守る為なら、アタシは自分の全てを賭けたっていい」
そのアカネの一言でシオンの纏う空気が完全に変化する。
それは師が弟子を見るときのモノではなかった。
一人の忍びが敵を相手するときの気配に変わっていっているのだ。
「……わかりました、今から私は貴女の力を奪います。最後の腕の腱を絶ち二度と戦えなくしましょう。それが私が貴女にかける温情です」
「お師匠…」
「むざむざ貴女を死なせたくはありません、ですがそれに逆らうというのなら……」
シオンから殺気が膨れ上がりアカネを襲い始める。
アカネは左手に苦無をギュッと握りしめてシオンを睨み付けた。
「二度と両腕が動かなくなることを覚悟しなさい!!」
その言葉の後にシオンの姿がぶれる、
それを見たアカネが今までの感覚を信じて苦無を前に出す、
キィンっと金属音が響き渡りシオンの攻撃をアカネは受け止める。
「ッ!」
アカネはそのままシオンに蹴りを繰り出すがその蹴りはシオンによって受け止められスピネル湖へと投げ飛ばされる、
そのままアカネはスピネル湖に突っ込み、水飛沫が上がり一瞬だけアカネの姿が見えなくなった、
シオンは無言のままにスピネル湖に突っ込み追撃をかけようとする、
しかし水飛沫が止んだ場所には既にアカネの姿は何処にもなかった。
「……何処に」
周囲を見渡すシオン、そして一瞬だけ自身に影が出るのを感じると後方に裏拳を突き出した!
「がっ!?」
アカネがその裏拳をまともに食らい吹き飛ばされる。
そのまま湖に沈むと思いきやアカネは受け身を取り湖に上に立っていた。
「水ぐもの術か」
「あ…アタシだって日々精進してるんですよ。お師匠」
アカネが新しい術を体得していた事には称賛したシオンだが、今は戦いの最中その様な事を口にすることはない。
シオンは苦無を豪速で投げ飛ばし、アカネの周りに滝のような水飛沫が現れる!
「…!? 師匠は何処!!」
水飛沫で一瞬目を逸らしたせいでシオンを見失ったアカネは周りに注意を向けるが、
突然自身の足元の水が爆発してシオンが姿を現しアカネの腹部に拳を叩きこむ。
「……」
「ぐぅっ!?」
一瞬で何発も叩き込まれたアカネはさらに吹き飛ばされるが、意識は失っていなかった。
無理矢理意識を繋げ、片手で印を結び忍術を発動させる。
「分身の術!!」
シオンの周りには煙と共に十数体のアカネの分身が出現し包囲する。
全てのアカネが水に濡れており、傷も負っている。
一人前の忍びとしては及第点と言えるほどの分身だった。
「片手の印だけでここまでの分身を生み出しますか」
印は本来両手で組む物だ、それを片手のみで組むのはかなりの難易度を誇る。
アカネは事前に頭の中で片手で印を結ぶ事を考えていた、
そのおかげで戦いの中でも十分に忍術を発動させることが出来た。
「「「「「「行きますよ!師匠!!」」」」」
無数のアカネが声をあげながら苦無を取り出して攻撃に移る。
しかし、シオンは跳び上がり上空に逃げながら印を結び始めた。
そして誰もいないはずの空中に蹴りを繰り出し、何かにその蹴りが当たる。
「うわっ!?」
「中々の分身でしたが、分身の術の最も重要なのは気配です。姿形のみを分身したとしても自分より上の相手には効きませんよ」
そのまま空中で更に蹴りを食らわせて湖にアカネを叩き落す。
アカネは蹴られる瞬間、シオンの結ぶ印の形を見ていた。
その印を見てゾッとする、アカネは忍術の中の属性性質の忍術にあこがれていた時期があった。
しかしアカネには才能が全くなく、使える忍術は誰でも扱えるような分身や空蝉といった類だった。
だが、シオンから相手の印を読むことでその後の対応を瞬時に行えるようにと教わっており、印の結び方だけは教わっていた。
そしてシオンが今結んだ印の形を見てアカネはすぐさま湖の中に沈むように逃げてゆく。
――火遁の術!
印を結び口に合わせ、シオンの口から火炎が生み出せれる。
炎は分身のアカネを飲み込み全てを火の中へと還していった。
また、あまりの熱量で水が沸騰し周囲に水蒸気の霧が発生し何も見えなくなる。
「………」
「ぷはっ! ぜぇ…ぜぇ…」
水の上に立ったシオンは離れた所から顔を出すアカネを見ていた。
アカネは再び水の上に立って苦無を構え、シオンと対峙する。
戦いながら理解する、手加減されていると。
本来シオンの実力なら最初の交差したときに自分を倒すことが可能だとアカネは理解していた。
恐らく、シオンはアカネに諦めさせようと技と手を抜いているとアカネは思う。
手加減されながら圧倒的な実力を見せる事でアカネがシオンに勝てるとは思わないように誘導しようとしているのだろう。
――悔しい…
アカネはそう思わざる得なかった。
忍びとして私欲の為に技を振るうのは決してやってはいけない事だ。
だけど仲間の為にその力を振るいたいとアカネは思う。
リィンバウムに来てクラレットと出会い、そしてフラットの皆と触れ合いアカネは人との繋がりを大事に思うようになった。
うわべだけの簡単な付き合いだけではなく、繋がりあう絆を守りたいとアカネは心から思う様になったのだ。
だから忍びの掟など主君に仕えるなど知った事ではないとアカネは思っていた。
大切なその想いの為なら外道にだってなってやると誓い武器を握る手が更に強く握られシオンに向き直される。
「お師匠……! 行きます!!」
「…来なさい、アカネ」
アカネがシオンに突っ込んでゆく、そして金属音が鳴り響きさらに戦いは熾烈を増していった。
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サイジェント北付近に一人の女性が走っていた、相当焦っているようでその表情は良くない。
「全く、相談も無しに何してるのよ!」
「ムイム!」
「私が悪いって…相談してこないあの人にも責任はあるでしょ!」
近くにはまだら模様のテテも一緒に走っていた、そうクロだ。
そしてクロと一緒に走るのはリィンバウムのエルゴの守護者でもあるメイメイだった。
彼女は行方が分からなくなったアカネの事を聞きに来たクロの言葉で占ってみたら驚く事が起きていたのだ。
シオンとアカネが戦っていた。
アカネは明らかに劣勢でいつ倒されても仕方がなかった、忍びとしての戦う力を失う事がどれだけアカネの存在価値を無くすかメイメイは知っていたのだ。
メイメイはかなり非情な所も併せ持っており、それを知ってながらアカネを放置したのだ。
クロはその事に対して怒っていた、ハヤトの仲間なら口添えぐらいしろとメイメイを叱咤したのだ。
そんな事でクロはメイメイを引っ張ってアカネたちの下へと向かっていた。
だが、恐らく間に合うか間に合わないかの瀬戸際だった、水晶に映ったアカネが既に倒される寸前であったからだ。
このままでは間に合わない、第一クロではシオンを説得できないのだ。
だからこそ龍神でもあるメイメイに説得させるしか方法が残っていなかった。
「本来ならハヤトが主になるはずだけど、あの子はハヤトが生きているのを知らないからね…」
「ムイ!」
「もしもの話はやめろって? 本当にその通りよ…。何やってるのよ私は…!」
別の時間軸では、アカネが腕を吹き飛ばされる事も、ハヤトが死にかける事も起きてはいない。
そのせいでメイメイはアカネに対する優先順位が低く、アカネの事を忘れていたのが原因だった。
もし覚えていれば何かシオンに口添えをしていたはずだ。シオンがアカネに対して自分からは何もしないだろう、その思い込みが今回の戦いに繋がったのだ。
「とにかく急ぐしかないわね」
「ムイム!」
メイメイとクロがさらにスピードを上げて湖への道を突っ切ってゆく。
しかし、もはや時間は残されてはいなかったのだ…。
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ギィン!っといった音が鳴り響きアカネが絶壁に叩き付けられる。
シオンとアカネの戦いはスピネル湖を更に進み山脈渓谷へと移動していた。
山から湖へそして川へと繋がり海へと最後に辿り着く場所、
辺りは硬い岩盤で出来た絶壁と緩やかに湖に流れる川だけの場所だった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「……」
全身切り傷と打ち傷だらけのアカネに対しシオンは全くと言っていいほど傷を負ってはいない。
水しぶきのせいか全身が濡れている以外に彼の行動を阻害するモノはなかった。
戦いにすらなってはいなかった、既にアカネの武器は使い果たされており、体術で戦うしか戦う手段は残されていない。
それでもアカネは決して倒れたりしなかった、意識を失ってしまえばそこで終わってしまうと理解してるから。
「ま…負けるもんか…絶対に…負ける…もん…か…」
「…正直な所、貴女がここまでやるとは思っていませんでした。いつもの様に途中であきらめて降参するだろう…そう思っていました」
「お師匠…」
「だからこそ、今の貴女を行かせる訳にはいきません。片腕を失い、罪悪感に囚われた貴女を行かせれば無駄死に…いえ、仲間を巻き込み、そして殺してしまうでしょう」
「……」
アカネはシオンの言葉を真剣に考える、自身が本気でクラレットを助けたいからこそシオンの言葉を考えていた。
本当に命を懸けるべきなのか?仲間の命まで賭けて助けるべきなのか?自身はクラレットを助けられるのか?
色々な事をアカネは考えていた…、一度失いクラレットの懇願で拾われたこの命、本当は何に使うべきなのかを…。
「お師匠…アタシね。あの時、諦めちゃったんだ。腕が吹き飛ばされて影に縛り付けられて死んじゃうんだなって…。血がドクドクって出て来てさ、諦めてた…。だけどクラレットがね助けてくれたんだ、アタシたちの事なんて気にしなくていいのに、それなのに自分を捨てて…ハヤトが最後まで諦めなかったけど、それをアタシは手助けしなかった。あの時、アタシだってハヤトと一緒にクラレットを助けようとしたら何かが変わってたのかもしれないのにアタシは……動かなかった。動けなかったんじゃない、動かなかった!」
涙を流しながらアカネはシオンに拳を向ける。
絶対に勝てない相手にアカネは無謀な戦いを挑んでいる。
「今こうして師匠に挑むように、あの時に同じ勇気を振り絞れば…後悔してる…だからアタシは…!アタシは師匠に勝つ!勝ってクラレットを助けに行く!もう後悔したくないから…!絶対に勝ってクラレットを助けてみせる!!」
「……そうですか」
アカネが突っ込んでゆく、もう術を発動させる力も残されてはいなかった。
ボロボロのアカネにシオンは決して手を緩めたりはしなかった。
突っ込んでくるアカネの腹部を無手で打ち抜き、アカネの動きを止めその首を掴み宙へと吊るす。
「う…がぁ…」
「…アカネさん、終わりです」
アカネはシオンの手を左手で引き剥がそうとするが、ただ握るだけで引き剥がせる力は残っていなかった。
シオンは悲しそうな目をしていた、彼にとってアカネは大事な弟子だ。
きつい修行や言葉をかけても心の中では大事に思っているたった一人の弟子だった。
だからこそアカネが死地に行くことを了承する事は出来なかった。
片腕を失い揺らぐ心のまま戦いに臨めば絶対に死ぬ、そうシオンは確信していた。
だからこそ、アカネから忍者としての…戦う者としての力を奪う事にしたのだ、力さえ奪ってしまえばもう無理は出来ないだろうと…。
そしてシオンはアカネの左肩を手で貫いて筋肉を切断した。
「あ…がぁ…!」
アカネの悲痛な声が漏れ、シオンの手を握る力が失われる。
ただ添えてるだけの力しか感じられなかった、それはアカネが戦う力を失った証だった。
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――すっごいカッコ悪い…
アカネはただ単純にそう思っていた。
やけになって師匠に挑み、師匠に自分が挑む理由を再確認されて、師匠に手加減してもらったくせに、分からず屋だったせいで師匠に止めをさしてもらった…。
アタシはずっと…ずっと師匠に助けてもらってばっかりだ…それなのに…。
何が師匠を倒してでもクラレットを助けるだ…。
アタシは…アタシは…ただの……。
――力が欲しいか?
え…?
――力が欲しいか?我が世界の者よ。
力が…それがあればクラレットを助けられるの?
――無論、あらゆる存在は下となろう
それがあれば師匠に勝てるの?
――無論、一介の忍びなど敵ではない
それがあれば……………ドンナ奴デモ殺セルノ?
――無論、我が受け皿となればあらゆる者は下となろう
ナラ…ソレヲ頂戴。
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終わりですね…。これでアカネさんはもう戦う事は出来ないはず。
腕の腱を傷つけた今、アカネはもう戦う力がないとシオンは判断した。
事実アカネから握られる手は全くと言っていいほど力が入っていなかった、そしてシオンはアカネの意識を沈めようと顔に手をやり…。
「…ッ!?」
シオンの手に激痛が走る、その痛みの出所はアカネの手だった。
信じられないほどの握力でシオンの手をへし折ろうとしシオンはすぐさまアカネの手を振りほどき距離を取る。
「これは…!?」
顔を下に向けて表情が見えないアカネから恐ろしいほどの魔力が膨れ上がり始める。
シオンはそれを信じられない表情で見ざるおえなかった。
アカネは普通のシルターンの人間だ、妖怪の血が混ざってるわけでもない、純粋な人間のはずなのだ。
そのアカネからそれこそ鬼神に匹敵するほどの大魔力が溢れているのだ。
「アカネさんから…なぜこれほどの力が…なっ!?」
アカネの魔力に奔流に川の水が大きく波立、その魔力は収まる気配がなく恐ろしいスピードで膨れ上がり続けた。
そしてシオンはアカネの魔力に恐ろしいものを見ることになる。
「……まさか!?」
アカネの魔力がまるで龍神の如く荒れ狂うのをシオンはその目で見てしまった。
その時理解したのだ、アカネに降り掛けている恐ろしい存在に。
「シルターンの…エルゴ…」
それを呟くシオン、だがシオンの驚きはそれだけに収まらなかった。
アカネの体から魂殻が湧きだし始め貫いた左肩の傷も微細な打ち傷切り傷まで治ってゆく、それだけではない、アカネの失った右腕から鬼神の如く紅く変色した腕まで生えてきたのだ。
「………」
アカネの顔がゆっくりと上がってゆく、シオンの顔を見据えたその目は血の様に真っ赤に染まり切っていた。
シオン自身も見たことのないアカネの変貌に戸惑いを隠せなかった。だがそれでも一流の忍びだった、変貌したアカネにシオンは声をかける。
「アカネさん…貴女は何を降ろしたのかわかっているのですか…」
「……」
「アカネ!答えなさい!!」
「オ師匠ォォォ…!!」
シオンはアカネの言葉に恐るべき殺気が乗っている事に恐怖した、それはアカネが到底出せるはずのない殺気、
すぐさまシオンはこの殺気を放つモノがアカネに憑りつく存在だと理解する。
「アタシハクラレットヲ助ケル!!邪魔ヲスルナラ、オ師匠ヲ殺シテモ助ケニ行ク…! 邪魔ヲスルナアアアァァァァ!!!!」
強大な魔力と威圧感を放ちながらアカネはシオンに襲い掛かる。
降ろしたモノの正体をアカネは知らない、それは助けるどころではなく全てを破壊しつくしてしまう存在だった。
アカネは決して降ろしてはいけないモノを降ろしてしまったのだった…。
アカネ覚醒× アカネ憑依○
憑依率20%ぐらいのアカネちゃんです。
それでも強さ的には作品内ではソル3戦目ぐらいの実力ぐらいはあります。
ちなみに水ぐもの術なんてサモンナイトにはないよ?
水の上に立つとかSLGでそんなのあるわけないじゃーん。忍者じゃあるまいし。
あとアカネの腕を切り落としたのはこの話を書きたかったためです。
書く為なら可愛い女の子の体を斬り落とすぐらいやるよ!