最近、フリガナとか考え始めてるが、結局わからないという情けない結末。
水晶が延々と続くその大地で二人の女性が水晶に取り込まれた少年を見ていた。
「…ん?」
メイメイが異変を感じ取り目の前の水晶の中にいるハヤトを見る。
すると水晶にヒビが入り始めた。
「マスター!」
「危ないわよ。下がってなさい」
近づこうとするモナティの首根っこを掴んでメイメイは崩れてく水晶を見る。
彼が死んでいるか、生きているかは分からない、何せこの試練を突破したものは居ないのだから。
だけど、死んでいるならずっと水晶のままのはず、もしかしたらとメイメイは考えた。
そして、彼を包む全ての水晶が砕け散った時、ゆっくりとハヤトは目を覚ました。
「…ん」
「マ…マスタァー!!」
「…うおっ!?」
飛びつくモナティをハヤトはしっかりと抱きとめる。
ボロボロと涙を流すモナティをハヤトは優しく撫でてあげた。
「ひっぐ、にゅっく、よかったですの。マスターがもしかしたら目が覚めないんじゃないかって…モナティ、それが心配で」
「…モナティ」
「にゅ?」
「ありがとな、モナティ達のお陰で帰ってこれた」
「モナティは何も…」
ハヤトは首を振ってそれを否定する。
「モナティはここで俺の帰りを待っていてくれただろ? それだけで十分なんだ、だから帰ってこれたんだよ」
「マスター……モナティがお役に立てたなら良かったですの♪」
大好きなマスターが帰って来て涙を流しながら喜ぶモナティと違いメイメイは困惑していた。
「少年…貴方、どうしてリィンバウムのエルゴを…?」
メイメイは自分の持つ水晶に目をやる、この中にはかつて誓約者より預かったリィンバウムのエルゴの欠片が封じられている。
本来ならば、彼が試練を突破したあかつきにこれを渡すはずだった、
しかしハヤトの魂を包むようにエルゴが輝いているのだ。
それはかつての誓約者と同じモノであったのだ。
「試練でエルゴに会いました」
「!? エルゴって…リィンバウムのエルゴ!?」
「はい…、俺の試練に介入して俺を試したみたいです」
ハヤトは試練で起きたことをメイメイに話した。
試練を受けるとき、自身の中の仲間の絆が具現化し共に戦ってくれたことを、
それを失い、全てを失って幻の世界に浸ってしまった事を、
そしてクラレットが自分に想いを気づかせてくれたことを、
それにより、リィンバウムのエルゴを認めさせる事が出来たと。
「エルゴは…この世界に失望していました。もう関わらないって、でも俺は諦めたくなくて自分の気づいた事をエルゴにぶつけて見たんです。そしたら認めてくれて」
「そう…なのね。それで少年の中にリィンバウムのエルゴがあるって訳ね」
「はい」
メイメイは目を瞑りかつてのリィンバウムのエルゴの事を考える。
全てが最初から間違っていたと判断し、絶望に落ちていった。
ハヤトが出会ったエルゴは黒い至竜だと言う、
つまりそれは堕ちに堕ちていったエルゴの果て…。
だけどそんな状態であろうともう一度だけ、エルゴは信じようとしたのだろう。
目の前の少年が見せた、異界の友と共に戦う姿を…。
かつての誓約者とは違う、最初からただの人であった少年が見せた輝きを。
再びそれを信じようと思ったのだ、なら自分も…。
「ハヤト」
「はい」
「リィンバウムのエルゴの守護者、瞑命は貴方を新たな誓約者として認めるわ」
「メイメイさん…」
「エルゴが信じたように私も貴方を信じる。まだ貴方に全てを話すことは出来ないけど、それでも出来る限り力になるわ。約束する」
「……ありがとう、メイメイさん」
メイメイはじっとハヤトを見た、試練前の不安定な感じは既になかった。
目の前の少年は大きく成長し、そのヒビ割れた魂は、虹色の輝きによって支えられている。
優しく力強く包まれるように彼の魂は輝きを放っていた。
それを見てメイメイの涙腺が崩れそうになる、その輝きはかつての相棒と同じものだったから…。
「さ、何時までもこんな辛気臭い所にいられないわね。さっさと戻るわよ」
それを悟られまいとメイメイは彼らから後ろを向いて出口へと歩き続ける。
「あ、はい。なあモナティ、そろそろ離れてくれないかな?」
「にゅうぅ…嫌ですの。マスターの暖かいのがモナティに入ってくる感じがしてとっても気持ちいいんですの…。だから離れませんのー」
「……メイメイさん」
「にゃははは、モテモテね。少年♪」
「笑い事じゃないんですけど…」
モナティがハヤトに引っ付いた状態でハヤトは必死に歩き始めた。
だけどその表情はとてもうれしそうな顔をしてたのだった。
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一同は界の狭間から出てメイメイのお店に戻って来ていた。
メイメイはとりあえず準備があるからといい、朝までのんびりする様に促した。
今の時間は夜、食事を取りながら彼らは休んでいた。
そんな中、ハヤトは試練中に気づいた事をメイメイさんに質問した。
「メイメイさん、ちょっと試練で気になったことがあったんですけど」
「何かしら?」
「クラレットの事なんですけど、クラレットは最後の最後で出てきてくれてたんですけど、なんでなんですか?それに他の人と違って特別な感じがしたし…」
「ん」
「え?」
「胸ポケット」
メイメイに指をさされて、ハヤトは自分の服の裏のポケットの中を調べた。
その中には大事に折りたたまれたヒトカタの符があったのだ。
「これって…」
「ヒトカタの符は本人と瓜二つの分身を作り出す術の核になる札なの。だからその符には共界線を通して伝わった彼女の魂の一部が内包されているのと同じなのよ」
「これが…クラレットの一部?」
「少年と同じ様に試練を受けたから、この試練の事実にいち早く気づいた、そして少年の目覚めさせる行動に移ったのよ。まあインチキね。一人で受けるべき試練を二人で受けたんだから」
「ははは…、まあまだまだ未熟だから」
「自覚してるだけ、私は好きよ。貴方の事」
ハヤトはヒトカタの符をじっくりと見る、
この符が在ったおかげであの試練を突破できた、もしなかったらずっとあの幻の中にいただろう。
「ありがとう」と呟くと再び札を彼は服の中のしまい込んだ。
「そういえばマスター、皆さんの所にはいつ帰るんですの?」
「ああ、そうだよな。流石に今回ばかりは心配してるだろうし…」
自分が仮にも死んでしまうという形で彼らから離れてしまったハヤトは心配になる。
特にリプレだ。モナティの次に自分の身を案じてくれた少女の事を考えていた。
試練の影響なのか彼らに心配をかけた事を少し悔やんでしまう。
「みなさん、すごく悲しんでましたの。だから…」
「そうだよな。何かをするにしてもまずは…」
「ダメよ」
フラットの皆に会いに行こうと考える二人をメイメイは制止した。
「どうしてダメなんですの?」
「危険だからよ」
「危険って…こんな事いうのもなんですけど、今の俺の力なら…」
「貴方達が危険って話じゃないの、危険なのは彼らの中で戦えない人の事よ」
「あ…」
リプレ達は戦えない、でも今の俺達で守ってやれば…。
「それに、貴方は今からこのサイジェントを離れなきゃいけないわ。しばらく離れる身としては無色の派閥に気づかれる危険性を一つでも消しておかなければいけないの」
「俺がサイジェントを離れる?」
「もしかして、リィンバウムのエルゴだけで彼らと戦うつもりだったのかしら?」
「この力だけじゃ…?」
メイメイさんは首を振り否定する、
このリィンバウムのエルゴだけじゃ無理だって事なのか。
メイメイさんが言うなら本当なんだろうな。
「並みの相手だったら一つのエルゴで十分かも知れないけど、相手はあのセルボルト、サプレスを専門とする召喚師がサプレスのエルゴの力を得ている今、その力は計り知れないわ」
「………」
「前にも話したわよね。守護者たちにエルゴの欠片を渡したって」
「じゃあ、エルゴの守護者さん達にその欠片を貰いに行けばいいんですの?」
「そうよ、それがエルゴの試練。貴方はまだ入り口に立ったばかりなのよ。少年」
「まだ入り口……でも俺たちの事を知らせるだけでも…」
「それは絶対にダメ、少しでも干渉すればそこから違和感を持たれるかもしれないわ。二人は優しいわ、だけど今はそれが毒なのよ。もしあの子達の中の戦えない人を人質に取られたら…貴方はそれを振り切って戦えるのかしら?」
「……」
「にゅう…」
無理だ、みんなを見捨てて戦うなんて…。
皆を守る為にここに居るのに、それを無視してなんて戦えない。
「だから、今は会わないのが正解なのよ。後でめいいっぱい怒られればいいじゃない?にゃははは♪」
「それも…そうですね」
「二人でいっぱい怒られるですの! ………エルカさんに耳引っ張られるのは嫌ですけど」
今は試練を突破してエルゴの力を手に入れるのが先決って事か、
とりあえず、皆の事は後回しにしよう。まあレイドたちがいるから無茶はしないはずだ。
「じゃあ次に俺がやる事は」
「それぞれの守護者がいる地に訪れて試練を受ける。そして守護者にその力を認めさせてエルゴの力を得るのよ」
「ちょっとの間、お借りする事は出来ないんですの?」
「あのねぇ…魂と結びつく力なのよ。一度融和すればエルゴクラスじゃないと解除できないわよ」
「残念ですの…」
「まあ、楽できないって事だよな…」
しかし、試練か…。
今回の時の様にきつい戦いになるかもしれないんだよなぁ。
「不安そうだけど安心しなさい、さっきの試練は貴方の魂を回復させる事も入ってたからかなりきつかったけど、他の試練ならそうでもないわ」
「良かった、またエルゴを相手するのかと思いましたよ」
「まあ、それは流石にないわね。リィンバウムのエルゴも手加減してたみたいだし」
手加減か、確かに本気を出してれば俺なんて軽く消せるんだよな。
わざと幻に誘い込んだりしたのも、やっぱり手を抜いてたくれていたって事なんだな。
「とりあえず、明日の明朝出発してもらうわ。もうあまり時間は残されてないと思うし」
「何処に行けば?」
「感じ取りなさい、少年の中にあるエルゴは他のエルゴと共鳴するはずよ。今日は休みながら自分の中の力を意識すること、わかった?」
「はい、メイメイさん」
そしてメイメイさんは店の奥に入って何か準備を始めた。
たぶん俺が明日サイジェントに出る準備をしてくれているんだな。
旅の準備とか良く分からないし、ここは任せた方がいいよな。
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布団で寝るのは久しぶりだ、家ではベッドだったし、この世界でもベッドだ。
少し床が硬いが気にせずに俺はのんびりしてるとモナティが近づいて来た。
「マスター…」
「モナティ、どうしたんだ?」
「マスターは明日、サイジェントを出ていくんですよね?」
「そうなるな」
そう伝えるとモナティがしゅんとなり寂しそうにしながら目線を下げてしまう。
俺はモナティの頭を撫でてあげて落ち着かせた、帽子を被っていないモナティの髪はとても柔らかかった。
しばらく撫でていると落ち着いたのか、モナティは再びこちらを見る。
「マスター、お願いがあるんですの」
「なんだモナティ?」
「明日…明日モナティも一緒に連れて行ってほしいんですの!」
「うん、分かった。じゃあ明日は早く起きなきゃな」
「モナティは役立たずですけど、それでもマスターの……はえ?」
モナティが変な顔をして驚いている、
多分置いてかれると思ってたんだよな、まあ戦いは苦手なモナティだしな。
「本当に…、本当に一緒についてっていいんですの?」
「…理由があるんだよ」
「理由ですか?」
「試練を受けた時、俺さ皆の事を忘れたんだ。そして思い出した時、気づいたんだよ。どれだけ自分が皆に助けられていたのかを、確かに今の俺はエルゴの力を手に入れて人よりも強大な力を持っているって自覚はある。さっきから自分の中にある力を意識すればするほど身に合わない力だって感じ取れるんだ。この力なら大抵の事は一人で出来るけど、それはあくまで大抵の事だけ、全部じゃない」
「全部じゃない…ですの?」
「うん、きっと一人で試練を受ければまたどこかで足を止めてしまうと思うんだ。だからモナティには俺の支えになってほしい、後ろで俺の力になってほしいんだ」
「モナティはマスターの力になれるんですの?」
不安そうなモナティの頭を撫でながら俺はモナティに笑顔で答える。
自分の中にあるモナティに対する想いを。
「当たり前だろ、モナティは誓約者になった俺の護衛獣の一人なんだからさ」
「…にゅぅ。すっごく嬉しいですの。マスタぁ…」
顔を赤くして幸せそうにするモナティを笑顔で俺は見ていた。
嘘なんかじゃないんだ、モナティが一緒に来てくれるだけできっと、凄く楽になれる気がする。
誰も一人じゃ何も出来ないんだ、皆がいるから色んなことが出来る。
俺はそれを試練で知った、それが全て正しいわけじゃなくても最善である事には違いないんだからな。
「じゃあ、明日に備えて寝るか」
「あの…マスター」
「ん?」
「できれば今日は一緒に寝て欲しいんですの…。昨日は寂しくて」
「そうだな、じゃあ一緒に寝るか」
「ありがとうですの。マスター♪」
モナティが俺の布団に入って来て俺に抱き着いてくる。
優しい匂いがしてとても暖かかった。
「なあ、モナティ」
「なんですの?」
「……クラレットには内緒な?」
「当然ですの♪」
そのまま暫くしているとモナティの寝息が聞こえて来た。
しかし、俺を抱きしめる強さは変わる事なくギュッとしたままだった。
「……これから迷惑かけると思うけど、よろしくなモナティ」
そう呟いて俺もモナティを抱きしめて眠りについた。
こうして俺の誓約者としての最初に一日が終わりを告げたのだった。
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明朝、メイメイさんに起こされて俺たちは旅立ちの準備をしていた。
流石に「はいこれ」と言われて受け取って苦労するのは勘弁だ。
渡された荷物の中身を確認していると、不意にガチャリと玄関のドアが開いた。
「!?」
俺はすぐに身構えてドアの方を見る、
メイメイさんはさっきまだ準備があると言って外に行ったばかりだ、
つまり今この店に入ってくるのはメイメイさん以外の人になる。
だが、俺の予想とは違う人物が入って来たのだ。
「やはりここにいたのか」
「師範!」
「ウィゼルさん、どうしてここに!?」
店に入って来たのは師範だ。
何時もの格好で大きな布で包まれた剣の様なものを持っていた。
俺達は師範を案内して、話を聞くことにした。
「どうぞ、粗茶ですの」
「すまないな……嬢ちゃん、孤児院の者たちが心配してたぞ? 突然消えたと言ってな」
「にゅう……」
「モナティ自身も召喚されたせいで仕方なかったんですよ」
「そうか…まあ、それなら仕方がないな」
師範の話を俺たちは聞いた、
俺が居なくなった後、蒼の派閥と協力してクラレットを取り返すそうだ。
クラレットを助け出すと意気込んでいるが、正直勝ち目は薄いだろう。
このまま皆が無理な戦いを起こす前に何とか試練を終えなきゃいけない。
「やはりお主たちが居なくなったのが効いてるようだ。火が消えたように静かだった」
「………」
「だが、お主たちが彼らの下に戻らない理由も察している、力を得たようだな」
「分かるんですか?」
「感じる事は出来んが、お主のその目は今までと比較にならんほど強き目をしている。自分の道を見出したようだな」
少し息を吐いて師範の言葉を理解した。
師範ほどの実力の持ち主がそれを認めてくれているっていうならきっと本当なんだろう。
メイメイさんとかモナティを信頼してないわけじゃないけど、
やっぱり身近な実力者に言われると感傷深かった。
「自身の道を気づいたものは比類なき強さを得る。単純な強さではない、心構えのようなものだ。それこそ、オルドレイクのようにな」
「オルドレイク…!?」
師範がオルドレイクの名を口にしたとき、俺は驚いたが当然だと思いなおした。
師範は前に無色の派閥に協力していたと言っていた、だからオルドレイクの事を知っていても不思議じゃない。
「俺とオルドレイクが同じですか…?」
「向く方向の違いだ。お主は守る為にその道を選んだ。あ奴も同じだ滅ぼす為にあの道を選んでおる。互いにそれこそが自身の正義と信じておるという訳だ」
「………」
リィンバウムのエルゴとメイメイさんの話からオルドレイクが何をしようとしてるのかは何となく察せる。
アイツも変えようとしてるんだよな、俺とは真逆の方法で。
「師範、一つ聞きたい事があるんです」
「……ソルの使っていた魔剣の事か?」
「はい……あの剣は何なんですか?」
ソルの使っていた魔剣、あれは凄まじいモノだった。
威力も魔力もそしてあの剣に流れていた殺意とも言える意思も異常なモノだ。
「あれはかつてワシが打った剣だ。最高傑作と言える代物だよ」
「ウィゼルさんが打った剣をどうして、そのソルさんって方が持っているんですの?」
「かつてワシが奴に協力していたとき辿り着いた到達点のようなものだ」
「到達点…?」
師範はお茶を飲み干すと溜息を吐いて一息つく。
そして再び語り始めた。
「ワシは最強の武器を作る為に世界を旅していた。伝説の魔剣鍛冶師と呼ばれておったよ。まあ名の意味がないがな。やがて壁にぶつかってな、これ以上の力を持つ武器は作れんと悟った時があった、そんな時にあ奴に出会ったのだ」
「それが、オルドレイク?」
コクリと師範は頷いて話してくれる。
「封印の剣、精神の剣とも言われるかつてエルゴの王が握った至源の剣の複製品を無色は所持していた。ワシは奴に頼まれてその剣を模した魔剣を作れと依頼されたのだ」
「…あのぉ、なんでそのオルドレイクって人は封印の剣っていうのを使わなかったんですの?」
「使わなかったのではなない、使えなかったのだ」
「使えない?」
「封印の剣に宿る意思は特別なモノでな、その剣を使用するのは適格者と呼ばれる人物ではないとダメなのだ」
「適格者…? それって確か」
あの時、クロの事を見てオルドレイクが言っていた、確か適格者の一味だって…。
「……ワシがオルドレイクの下に来たとき、封印の剣は盗まれておった。ワシはあやつと共にその剣を追い、島へと向かったのだ」
「島…」
「島に辿り着いた時、盗んだ者たちには仲間が出来ておった、ワシらは何度か奴らと交戦し追い詰めたのだよ。だが封印の剣を開放した適格者に負けワシらは島を去った。だがワシらの手元には破壊された封印の剣の一部が残っていた。それを見極め作り上げたのがあの魔剣。覇王の剣なのだ」
「覇王の剣…」
「あれはワシの集大成と言える魔剣だ。使い方によっては世界の王にすらなれる力を与える、だがあやつでは使いこなせなかったみたいだな」
「それでソルが…?」
「うむ、ソルが今どのような存在なのかは分からん、だが少なくともオルドレイクよりはその剣を扱えるのは事実だろう」
「ソルのあの剣は普通なかった、まるで殺意を凝縮したような、とにかくあの魔剣は普通じゃなかった」
ハヤトがソルの剣を受けた時、殺意を凝縮された一撃を受けて心に傷を負った。
今でも恐怖していると言えば言える。それほどあの剣の一撃はハヤトに傷を負わせてたのだ。
ウィゼルはその言葉を聞くと少し考えて答えた。
「精神の剣。この意味が分かるか?」
「え?」
「精神とは心、つまり魂を魔剣に反映させる。それこそが精神の剣の真骨頂なのだよ。膨大な魔力と精神を刃に乗せ比類なき力を与える、逆に心弱きものが握ればその剣はなまくら同然に変わり果てる、おそらくだがソルの剣に殺意が乗っていたという事はあやつが恐ろしいほどの殺意をその魂に押し込めているという事だろうな」
「ソルも…普通じゃない?」
「あやつの息子だ、何をされていても不思議ではない」
そういえばソルの奴、みんな消えたってクラレットに言っていたな。
じゃあアイツもオルドレイクに…?
「お主が奴らと矛を本格的に交えると決意した時、ワシもある決意をしていた。それはお主の為に武器を用意してやる事だった」
「だから今まで武器を…」
「いや、あれはつなぎだ。本当の武器は――これだ」
ゴトリと机に置かれた布で巻かれた剣、俺はその布を解くと鞘に収まった剣が置かれていた。
師範に目をやると師範は頷いた、俺はそれに応えて剣の柄を握ったその時。
「あれ…?」
「どうしたんですの?」
「いや、なんか…」
馴染む、何というか自分の腕みたいな感じがする。
それに剣から流れる不思議な意思のような感じがする、知っているようなそんな感じが…。
俺はゆっくりと剣をその鞘から引き抜くとその剣に驚いた。
どう鞘に入っていたのかは分からないが大きな大剣が俺の手にあったのだ。
虹色に輝く剣、その剣を俺は見たことがあった、そうエルゴの試練で生み出したあの魔剣だ。
「綺麗な剣ですのぉ~」
「この剣……あの時の」
「この剣を知っているのか?」
「はい、実は試練で…」
師範に試練の最後に召喚獣たちの意思が一つになり生み出した剣と似ていると伝えた。
それを聞くとそうか、と師範は呟き少し考えると応えてくれた。
「お主はその剣が何で出来ていると思う?」
「え…?」
剣をじっと見つめる、虹色に輝く魔剣は俺がよく知っているものと似ていた。
エルゴが言っていたこの世界のしがらみと言っていた力の結晶。
「サモナイト石!?」
「そう、魔剣とはサモナイト石で作られておるのだよ。無論精神の剣だけだがな、そしてその魔剣の材料は……お主のサモナイト石だ」
「俺の…サモナイト石?」
「マスターにサモナイト石があったんですの?」
「クラレットに頼んでな、訳を話して譲ってもらったのだよ」
「クラレットに…」
ここでもクラレットか…俺は助けられてばっかりだな。
「かつてのワシはオルドレイクの狂気がどこまで魔剣の力を高められるか、それを確かめたかった。しかしクラレットが生まれその母が死んだ時を境にあやつの狂気は留まる事はなくなったのだ。覇王の剣を渡した時、確かにあやつの狂気は剣に宿り比類なき力を与えたがそれがワシの求めるモノではないと悟った。強き意思とはいえ、もはやあやつの狂気は脆い刃だった」
「脆い?」
「確固たる意志はあるが、一度折れれば立ち上がる事の無いモノだ。ワシは魔剣を通してそれに気づいた。そして奴の下を去った…」
「………」
「奴の下を去った後、幾つかの精神の剣を打ったが覇王の剣程のモノは作れんかった。そんなおりある考えが生まれたのだよ」
「ある考え…?」
「覇王の剣は奴の狂気を形作る目的で打った、ならばそれとは真逆の剣を打てば良いのではないのかとな。その結果生まれたのがその魔剣だ」
「これが…」
虹色に輝く魔剣は少しばかり覇王の剣と似た雰囲気を持っていたが、それとは違いとても暖かい感じがした。
「だが、その剣も完成させる事が出来なかった。なぜなら使い手となる人物を理解出来んかったからな。悲しい事にワシが出会ってきた者たちはオルドレイク寄りだったのだよ。そのせいでその剣を振るうもののイメージが湧かんかったのだ。だがな…」
師範はこっちを見て意味のある笑みを浮かべた。
「ちょうど良い所に奴に絶対に反抗しそうな小僧がおった」
「俺ですか?」
「そうだ、そしてお主の召喚されたであろうサモナイト石をその剣に含ませて作り上げたのが…その剣、【サモナイトソード】だ」
「サモナイトソード…」
「分かりやすい名前なんですね」
「仰々しい名前を付けるより単純な名前の方がお主に合うと思ってな」
「単純……まあそうですけど」
苦笑いしつつサモナイトソードを見つめる。
そっか…お前も俺に通じてたのか、だから試練の時に形になって力を貸してくれたんだよな。
「ありがとな、サモナイトソード」
サモナイトソードは薄っすらと反応するように光った気がした。
それを見ると師範が少し興味深そうな目で見ていた。
「お主も武器たちの声が聞こえるようになったようだな」
「何となく…何となくですけど、この剣の声は聞こえる気がするんです。たぶん俺のサモナイト石を使ってるから俺の一部なんじゃないかと思います」
「…そうか、しかし間に合わなくてすまんかったな」
「そんなことありません、たぶん。あの時の俺がこの剣を握っても同じように折ってしまうだけだったと思うし」
あの時の俺は弱かった、一人で戦ってると無意識で思っていて。
仲間の事が大事と言いながら実際には仲間を失う自分が大事だったんだ。
だからあの状態でソルと戦っていればきっと魔剣は折れてしまっていた、そう思う。
「そのサモナイトソード…精神の剣の大事な事を話しておこう。精神とは心と先ほど言ったが心の持ち方によってはなまくら以下の強度になる」
「なまくら以下…?魔剣なのに?」
「元々がサモナイト石、つまり石だ。魔力と精神の力で強力な力を与えるとはいえ、使用者の心の持ち方によっては砕けてしまうのだよ」
「ん……」
「そして魔剣が砕けるという事はその者の心が砕ける事を意味する。一度心が砕ければそう易々と動けるモノではない、魔剣の使用者としてその事は絶対に理解しておけ、精神に負荷がかかり過ぎている時にその剣は使う事は敗北に繋がる。覚えておけ」
「はい」
改めてサモナイトソードを見る、強力な力を感じた。
たぶんこの剣は師範の話してくれた覇王の剣と同等、もしくはそれ以上の力を持つんだよな。
確かに怖い力かも知れないけど、今の俺にはとても頼もしかった。
この力があれば、皆を…クラレットをきっと守れる気がする。そう確信できた。
「これからよろしくな、サモナイトソード」
虹色の輝きを優しく放つ剣を鞘へと納め、
俺はこれからの戦いに向けてさらに心を構えるのだった。
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「すっごい霧ですの~」
「数メートル先も見えないなぁ…」
メイメイさんの家から出るとサイジェンとの街は霧に包まれていた。
こんな霧、今までで一度たりともサイジェントで発生してなかったはずだ。
「シルターンの霧がくれの術か…」
「そうよ御仁。知り合いに頼んでばら撒いてもらったの、これなら気づかれる事なくサイジェントを出られるはずよ」
「霧がくれの術…? ですの?」
「って事はもしかして…」
「それ以上の詮索はなしよ。その人からの頼みでね。自分の正体は明かさないでくれって言われてるのよ」
「分かりました、じゃあアカネの件はすみませんでしたって伝えといてください」
「そういう言い返しするのね…にゃはは」
困った表情で笑うメイメイさんは俺達を街の外へと案内してくれた、
街の外も霧で包まれており、これらな無色の派閥にも見つけられないはずだろう。
「それでモナティ達は何処に行けばいいんですの?」
「少年、リィンバウムのエルゴは他のエルゴと共鳴するはずよ。何となくでいいから場所は分からないかしら?」
「一番はっきり感じるのはサイジェントの城だと思う。たぶんクラレット…」
「クラレットさん…」
「それからずっとあっちの方にメイトルパを感じる、もっと遠くの方からシルターンとロレイラルも…間違ってなきゃ」
「よしよし、それで正解よ。私もリィンバウムのエルゴを預かる身としてはある程度の位置は把握できてるわ。私の方から連絡は入れておくからすぐにでも試練を行ってくれるはずよ」
「あの、メイメイさん。エルゴの守護者ってメイメイさんの話に出てきた人たちなんですか?」
メイメイは首を振りそれを否定する。
「違うわ。エルゴの守護者はあの頃の人物じゃないわ。その意思を引き継いだり、別の信頼できる人物に任せたり、そんな感じよ。でも全員守護者としての自覚はあるはずだから安心しなさい」
「そうですか…、よし、行こうモナティ!」
「はいですの、マスター!」
モナティが荷物を背負って歩み始める。だけど…。
「ムイィ!!」
それを止めるモノが居た。
------------------------------
一匹の召喚獣がずっと旧友の墓でボーっとしていた。
しかし、霧がサイジェントの一角を包み始めるのを確認して調べに来たのだ。
もう彼には助けるべき主が居ない、ならせめて主の家族は助けようと思う気になる霧を調べてきたのだ。
そんな中、霧の中で彼が感じた匂い、それは目の前で消えたはずの主の匂いだった。
それに気づきクロは走り始める。
そして出会ったのだ、目の前で消えたはずの主がもう一人の護衛獣となぜか一緒にいるのを…。
「ムイィ!!」
叫ぶように彼らを呼び止めた、このまま放って置けばかつての主と同じ予感がしたから。
「なんでクロが…」
「クロさん、どうしてここにいるんですの!」
「ムイ、ムムイイー!」
「にゅう…モナティは気づいたらマスターの所にいただけですの」
「ムイム…」
「俺は……分かった話すよ」
クロはなぜモナティがここにいるのか、そしてハヤトがなんで蘇ったのかを聞いた。
エルゴの試練を乗り越え、誓約者として今、試練に挑む旅に出るところだと、
自分が生きていることを知られるとフラットに迷惑がかかると理解し、自身の生きていることを隠して旅に出るところだと。
それを伝えたがクロの表情は優れなかった。
彼はハヤトのその姿がかつての先生に似ている事が気がかりだったのだ。
試練を乗り越えて強大な力を更に手に入れればもう戻る事は出来なくなる、
自身を犠牲にしてまで誰かを助けようとするかもしれない、もしそうなったら残された人たちは…。
「クロ、少年は先生とは違うわ。大丈夫よ、きっと同じ道を進んだりしないわ」
「…」
クロはゆっくりと歩み始めてハヤトが向かうべきである方向に向かう。
そしてハヤト達を見直し、構えを取った。
「クロ…お前…」
「クロさん、なんで邪魔をするんですの!?」
「ムームイー!」
「そんなに行きたきゃ示せって…クロさんめちゃくちゃですの!」
「クロ……分かったよ。少し下がってくれモナティ」
「マスターやめてください…にゅぅ!?」
「はいはーい、邪魔しちゃダメよー」
「離してくださいですの。メイメイさん!」
メイメイに引っ張られ、モナティが二人から離れてゆく。
クロはハヤトを止める為に全力を出そうとチャージをして力を溜め始める。
ハヤトもそんなクロの実力を知ってる為、今持つ力を開放して拳に力を送った。
「「………!!」」
無言の後に二人は同時に突っ込む!
クロは全力のダッシュでハヤトに突っ込みその拳を振るう。
しかしハヤトはその拳をギリギリで避けて思いっきりクロの顔面を殴り飛ばした!
「!!」
「ッ!」
大きく吹き飛ばされてクロは何度も地面にバウンドし倒れてしまう。
「…! クロさぁん!!」
モナティはそんなクロに駆け寄ろうとするが…。
「モナティ!行くぞ!!」
「マ…スター?」
「クロが立ったらすぐにまた止めようとする。さっさと行くぞ!」
「でも、クロさんを放って…!」
「嬢ちゃん、行くんだ。こやつの事はワシらに任せておきなさい」
「ウィゼルさん…」
「モナティ、貴女にはまだわからないかもしれないけど、これで正しいの、だから行きなさい…」
自分以外の誰もマスターを止めないのかと考えてしまうが、
マスターの方を見るとすでに霧の中に消えかけていた、モナティがクロに目線を映し、
「ごめんなさいですの」と一言いうとマスターを追って霧の中に消えて行ってしまった。
そして……。
「全く、不器用ね貴方。自分の主のやる事を理解はしてるくせに納得できないからって力ずくで解決させようだなんてね」
「……お前はまだまだ子供だな」
「……ムィ」
クロは涙を流しながら倒れていた、理解はしてるのに納得できなかった。
そんな自分を振り切ってでも行って欲しかった、だけどハヤトではだめだと思っていたのだ。
だけどハヤトは自分を倒してでも先に進んだ、今までとは違う、きっと彼ならとクロは思えた。
今の自分がついて行っても足手まといになるかもしれない…ならせめて自分のやるべきことは…。
彼らが返ってくるまで彼らの家を守り続ける、そう思いながらクロは意識をゆっくりと閉じるのだった…。
ついにサモナイトソードゲットです!
壊れた魔剣は紅の暴君で、ウィゼルはそれを回収しそれを元に覇王の剣を作り上げました。
サモナイトソードはその段階では作らず、いくつかの魔剣を制作しました(だけど殆どがもうこの世にない)
そして骨組みは出来ていたが、完成はさせず、そんなおりハヤトが現れ彼に作りたいと思い作りました。
ちなみにハヤトのサモナイト石はハヤトが召喚された時に砕け散ったサモナイト石の事です。