ってかオリ話だな、SSの醍醐味だけど、賛美両論かも。
大筋の話に変化ないのでご安心ください。
説明いる?→実はいらない^^
最初に違和感を感じたのは観測者になって少したってから、
少しと言っても人間の基準ではない龍人のような長く生きる者たちの基準だった。
自身の能力で未来を予知する、星の巡りを読み、あるべき未来を予測する。
それが私、瞑命。シルターン最古の龍神の人柱、時量師神の能力。
その能力の中に別の時間軸の干渉する能力がある。
とは言っても手紙を送ったりのぞき込んだりする程度が限度だ。
手紙の内容も制限がかかる為、選り良き未来を、なんて事は出来ない。
それに見れるのは過去と現在の時間軸のみだった。
観測者として本当にいい未来に向かってるか確認する為に覗いた。
それが始まりだったのだ。
少しづつズレてゆく歴史、ほんの少し、ほんの少しと変わっていく歴史に私は恐怖した。
緩やかにほかの時間軸と全く違う方向に流れてゆく。
多少の分かれ道はある、影響力の高い人物の別人も存在する。
だが、基本は同じ歴史だ。どこか違おうと大きな変化はないはずだった。
それは起こった。20年前の島への侵攻、彼らに先生と呼ばれた人物はオルドレイクを殺すはずだった。
しかしオルドレイクは生き延びた、そして先生が犠牲になり居なくなったのだ。
確実にズレてしまった歴史に私は戸惑いを隠せなかった。
だが、先生がいなくなったとしても、これからの行いに変化はないはずだった。
しかしそれも私の予想と大きく外れてしまう。
この時間軸で誓約者の可能性を持つ者の相棒になるべき人物が消えた。
他の可能性の人物も消えてゆき、やがて0になってしまった。
どうすればいいか星を巡りを見てもそこに映るのは在るべき歴史の流れ、
今この状況で起きている事実とは別物だった。
困惑しつつ対策を練ろうにも自信は観測者、
歪んだこの世界の流れのお陰か観測者としての誓約は緩んでいるが、
それでも自分から動ける程の力は戻ってはいなかった。
だがそんな中、恐らく今までの負の流れが初めて向きを変えたのだ。
ハヤトにクラレット、向こう側で出会った本来在るべき者たち。
エルゴはクラレットに取り込まれていたモノの、もしかしたらと思い助力することにした。
その結果は上々だった、確実にいい方向に進んでいる。
彼らならもしかしたら、この歴史の基点とも言えるこの戦いに新しい道を作れるのではないかと思った。
しかし問題は少年だった。
本来持つべき力を持っていないにも関わらず他の時間軸の者たちよりも心身を削り戦い抜いた。
それはただ見てる側としては痛々しかった。そして限界は来たのだ。
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「そう夢にね。このリィンバウムでの出来事は全部夢になるの、貴方が目を覚ました時、全ては夢の中になるの」
私は言葉を投げかける、目の前の少年は私の無茶を知らずに受けてしまった。
心身はボロボロになり魂もヒビが入っている。
私にはもう彼を戦わせられなかった、だから厳しい言葉をかけたのだ。
少年はゆっくりとヒトカタに手を伸ばす、これでいいわよね。
ハヤト、貴方は頑張ったわ。
ただの少年がここまで戦えるなんて思っても見なかった、
だからもういいのよ。もう休んで、この世界の事を夢と思って……。
そして私の目の前で彼はヒトカタの手を取り……。
「……………本当に」
え…?
なんでヒトカタが勝手に喋るのよ…!?
作られたばっかりのヒトカタが自我を持つなんて在る訳ないわ!
メイメイは困惑していた、ハヤトの記憶とクラレットの残滓から作られたヒトカタは一定の時を得ないと自我を持つことはない。
なのにヒトカタは喋りだした。作り手の意思を乗り越え自身の全てを捧げる相手に言葉を紡ぐ。
そしてその一言は自身の存在を否定する言葉だった。
「本当に……これでいいんですね?」
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………本当にこれでいいのか?
クラレットが俺に語り掛ける、本当にこれでいいのか?と。
いいにきまってるじゃないか、俺はもう戦える力なんて持ってないんだぞ。
何考えてるんだ、俺が戦おうとしたら皆が…!!
「家族は……どうなるんですか?」
更に言葉を紡がれハヤトはその言葉を考えさせられる。
家族……? そうだよ、この手を握れば家族に……家族って?
脳裏を過ったのは春奈達ではなかった、そこにいたのはフラットの皆だったのだ。
リプレ、ガゼル、エドス、レイド、アルバ、フィズ、ラミが出てくる。
そしてその後もドンドンと増えてゆく家族達の姿がハヤトの頭に浮かんできた。
もし…俺がこの手を握ったら、クラレットが魔王になったらみんなはどうなる?
この手を握ればリィンバウムは夢になる、だがそれは自分だけの事だ。
この世界に住む者は魔王の脅威の前になすすべも無いだろう。
自分が守ろうとしたクラレットが魔王になり皆を襲う、
そんな光景がハヤトの頭に浮かんだ。
「う…っ…うぅぅ…!!」
苦しそうな表情を浮かべて、手を握ろうと力をハヤトは入れる。
だが、その手は彼の意思とは別に頑なにクラレットの手を握らなかった。
「………全部抱え込まないで」
「…!!!」
その一言をクラレットが言い、ハヤトは自身の手をギュッと握る。
それはその手を決して握らないと言う意思表示であった。
「出来るわけないだろ………全部を夢に出来るわけないだろ!!!」
「………」
「みんなを、この世界で出会った家族を無かった事になんて出来ない、俺は…!俺にはそんな事できない!!」
叫ぶように目の前のクラレットにそれをハヤトは吐き出した。
死の恐怖で崩れそうだった彼の心をヒトカタであるクラレットが繋ぎ止めたのだった。
そしてそんなクラレットは手を伸ばして握り閉めているハヤトの手を包むように握る。
優しい微笑みを浮かべてハヤトをこう伝えたのだった。
――頑張って、ハヤト。
言葉には出さなかったがその一言がハヤトの耳に入った。
そしてヒトカタから白い煙が出てやがてその姿は消失した。
握った手を開くとそこにはクシャクシャになった一枚の札が残っているだけだった。
ハヤトはそれを大事に折りたたむと服の中に仕舞、メイメイさんに向かい合った。
「メイメイさん、俺……諦められないんです。皆を助けたい! 俺に力がないのは分かってます。俺なんかの力じゃソル達に敵わない事は良く分かってます。だけど諦められないんです! みんなを守りたいんです。だからメイメイさん! 俺に力を貸してください!!」
頭を下げてハヤトはメイメイに頼み込んだ。
自身の力では到底敵わない相手だと改めて理解した。
それでも守りたい、この世界に来て頼るものの無かった自分たちを助けてくれた人たちを、
僅か2ヵ月という短い期間であったがそれでも確かに家族だった人たちを、
ハヤトは守りたかった。放って置けば失われる命を助けたかったのだった。
「……本当にいいのね?」
メイメイはそんなハヤトに最後の確認を確かめる。
答えなんて分かりきっているがそれでもメイメイは確かめたかった。
「はい、元の世界に戻る時はこの街が平和になった時、そう決めたんです。だからお願いします!」
頭を下げるハヤトを見てメイメイは思う。
少しだけ…、戻り始めたわね、と。
彼が歪み始めたのはミニスを助ける時にソルと出会ってからだった、
それからクラレットを守る為、ただそれだけの為に剣を振るっていた。
この世界に来たばかりの彼は家族を守る為に剣を振るっていたのに、
やがてその剣は歪み始め自分の根底にあった願いが変わり始めていたのだ。
だが、彼は思い出した。自覚はないだろうが大切な家族という仲間を守る為に剣を振るっていたことを、
だからこそこうして自分に頭を下げているのだと。
「…わかったわ、そう少年が決めたなら私は力になるわ」
「…! ありがとうございます!!」
「ただし」
メイメイの一言でハヤトは顔を上げて真面目な表情でメイメイの顔を見る。
「私は確かに彼らに対抗できる方法を知っているわ。だけどそれを得るには試練に挑まなければ行けないわ」
「試練?」
「そう、エルゴの試練と呼ばれる儀式。彼らに対抗するには同じエルゴの力を得るしか方法はないわ」
「エルゴの力…」
「ついてきなさい」
メイメイさんは俺の返答も聞かずに店の出口に向かってゆく。
だけどメイメイさんも分かっているんだ、分かり切った答えなんかをメイメイさんは聞きやしない。
俺は重い体を動かしてメイメイさんに続くように店の出口へと向かって行った。
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扉を開けると水がドドドドっと落ちる音が聞こえてそちらを見ると滝が見える。
滝かぁ…っと見てるとサイジェントに滝なんてないだろ!?とハヤトが混乱に陥るとメイメイが声をかけた。
「にゃはは、驚いた?」
「驚いたっていうか、なんでサイジェントに!?」
「だってここサイジェントじゃないもの、ここは聖王都ゼラム。その王宮の中よ」
「ゼラム!?王宮の中って!? えぇっ!?」
更に混乱に陥るハヤトを差し置いてメイメイがドンドンと進んでいく。
とりあえず、今はメイメイさんについて行くことをハヤトも優先させ進んでいった。
「あのお店はね。色々な所に繋がってるのよ。クロがいた島とか、このゼラムとかサイジェントとかね」
「あのお店にそんな秘密が……メイメイさんって何者なんですか?」
「私はただの観測者よ」
「観測者…?」
「まあ、そうね。なんて言えば……あら?」
メイメイさんがドンドンと進んでゆくと目の前の一人の少女の姿が見えた。
「こんにちわ。この先、誰もいないかしら?」
「あ、メイメイ様。はい、この先には誰も……その方は?」
亜麻色の髪と緑の瞳を持つ少女が小動物の様に首を傾げてこちらを見る。
その姿に今まで出会った誰とも違う雰囲気があり体が硬くなってしまう。
「試練挑戦者、およそ100年振りね。にゃははは!」
「それでは、エルゴの試練を…?」
「ええ、ちょっと色々あってね。悪いけど泉へ誰も通さない様にスフォルトにも伝えといてくれないかしら」
「わかりました、お気をつけて。そちらの御方もご武運を…」
「は、はい!」
そう言ってくれると少女は頭を下げてその場から離れていく、
いなくなると妙な緊張感が緩和されて落ち着いた。
「ふう…、メイメイさん。あの子って」
「ディミニエ・エル・アフィニティス。この聖王国の王女、聖王女って所かしらね」
「王女………王女!?」
普通にメイメイさんが話していたが聖王国の王女って…えぇ~。
「メイメイさん普通に話してたけど大丈夫なんですか?」
「だって私の方が偉いんだもの。さあ、行くわよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいメイメイさん!!」
再びズンズンと進み始めるメイメイさんについてゆく、
ますますメイメイさんの正体が分からなくなってきた…。
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やがて俺達は一つの泉へと辿り着く。
その泉は俺が普段見るアルク川の水とは少し違う感じがした。
あえて言うならメリオールの森の聖域に少し似た感じがするが、何より違うのが。
「4つの魔力を同時に感じる…」
「あら、分かるのね」
「はい、あのこれって何なんですか?」
「これは至原の泉。聖王家に連なるものしか入る事の許されない…一つの聖域ね」
「いいんですか!?」
「いいのよ。私はあの人の護衛獣なんだから…」
「え…?」
あの人の護衛獣って…、もしかしてメイメイさんって…。
「ハヤト、少し下がっていなさい、今から道を開くわ」
「道…?」
メイメイさんの言葉に従い俺は後ろへと下がる。
メイメイさんから魔力が感じられ、それが泉へと注がれ始めた。
「万物に至る源の泉よ 願わくば、我が声を受けて、その真なる姿を示さんことを 四界天輪…陰陽太極…龍命祈願…自在解門… 星の巡りよ…克己を望む者たちに果て無き始原の門を開きたまえ… 王名に於いて疾く、為したまえ!」
その言葉が紡がれた時、至原の泉は光り輝き、その眩しさで目を閉じてしまう。
そして目を開けるとそこには一つの門が出現していた。
「これって…!?」
「至原の泉はあらゆる世界を繋げるゲートの一つなのよ。ハヤトは森の聖域で妖精卿の扉を見たことがあるわよね? 根本的にはあれと同じものなのよ」
「異界への扉…」
そう俺が呟くと門が開き始めて果ての無い道が見えてくる。
メイメイさんは臆さず再び歩き始めて、俺も置いてかれない様に歩き始めた。
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今思えばちょっと何も聞いてない気がする。
エルゴの試練とかメイメイさんが何者とか、ちゃんとした答えを聞いていない、
別に悪い事じゃないんだけど、やっぱり世話になる人の事は少し知っておきたかった。
空を見ると流れ星が降り注ぐように空を舞っていた。
周りは水晶大地が延々と続いている、どこも同じように見える。
恐らくメイメイさんと離れれば迷い込んでこの場所から出られなくなるんだろうなと思った。
「あの」
「ん? 何かしら」
「試練を受けさせてくれるのは有り難いんですけど、俺。メイメイさんの事、よく考えると全然知らないから気になって」
「あぁ~~、それもそうね、しっかり教えとくべきね。こうなったのも半分私のせいでもあるし、何より試練を突破できなきゃ死んじゃうからね」
呆気なく死ぬという事を口にするメイメイさんに俺は少し驚く、
まるでこれはおまけなんだからと言っているような感じだ。
「………」
「少し怒ったかしら? でもね。正直な話、私はすぐにあの子のエルゴを引き剥がすべきだと思っていたわ」
「じゃあどうして引きはがさなかったんですか?」
「未来が予知できなかったからね……、それにたとえ引き剥がそうと魔王が復活するのは止められなかっただろうし」
「止められない…?」
「そう決まってるのよ。星の巡りでね」
「星の巡り……」
「最も古き龍神の末裔、空を巡る星の流れを見て未来を見通す、それが私、至竜瞑命の能力なの」
至竜と聞いて一つ頭の中を過った言葉を思い出す。
確かエルエルはエルゴの王には至竜の護衛獣が居たって言っていた。
それに王女にもまるで態度を崩さなかったしもしかして…。
「至竜…! じゃあメイメイさんってもしかしてあのエルゴの王の…!」
「ご名答、私は王様に押しかけた押しかけ護衛獣、メイメイさんって訳なのよ。昔はヤンチャしてたんだから、千年も前の事だしね、にゃははは」
笑うメイメイさんの姿に少し溜息を吐く。
だけど笑い終わったメイメイさんはまるで懐かしそうな顔をして考えを少し改めた。
なまじ未来を見通せる分、色々と諦めがついてしまうんだろうなって。
「未来が見えるからクラレットからエルゴを引き剥がさなかったんですか?」
「…逆よ。どんな未来にもないから引き剥がさなかったの」
「それって…」
「それわね……」
メイメイさんが真面目な顔で俺たちに話さなかった真実を話そうとする。
―――…タ…ッ……
きっとこの言葉は俺の今まで戦ってきた原因の様なものだと理解できた。
―――マ…ターッ……
さっきから声が聞こえるんだけど…、
そう思った俺は横を見ると土煙と一緒に何かが全速でこっちに近づいてるのを理解した。
「マズダァァァァァーーーーッッ!!!」
「うわぁぁっ!?」
その何かに体当たりされて馬乗りにされる。
そしてすごい力で抱きしめられた。
「うにゅぅぅぅぅぅっっ!!マスター!本物のマスターですのぉぉぉ!!」
「も、モナティ!?」
俺を抱きしめているのはモナティだった、
亜人の力で抱きしめられてとても痛かったがそれ以上に心配をかけさせているのを理解できた。
「マスターとクラレットさんが居なくなってみんな泣いてモナティも…!にゅぅぅぅっっ!!」
「……ごめん、モナティ」
ぎゅうっとモナティを抱きしめてモナティが泣き止むのを俺は待ち続けた。
普段の泣いているモナティとは違い本当に心配させていたことに気づいて、
俺は自分のしでかした事の罪悪感を感じていた。
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「落ち着いたか?モナティ」
「にゅっく…ひっく…はいですの。迷惑かけてごめんなさいですの…」
「そんなことないさ、俺の方がモナティに…皆に凄く迷惑をかけたからな」
「マスター…」
モナティが涙をゴシゴシと吹いて笑顔になってくれる。
やっぱりモナティは笑顔じゃないとな。
「ところでマスター、ここはどこなんですの?」
「モナティ貴女、自分がどこにいるか分からないの?」
「ベットで包まってたらココに……、貴女は誰なんですの??」
「そういえば、モナティはメイメイさんに会ったことなかったよな、この人はメイメイさん。俺たちが少し前に世話になった人だよ。俺を助けてくれたのもこの人なんだ」
「そうだったんですかぁ。初めまして、モナティですの」
「よろしく頼むわね。私はメイメイ、ただの占い師……ってこんな場所にいる点で見ればただの占い師な訳ないわよね。貴女は少年と違ってここに呼ばれて来たみたいね」
「呼ばれた……ですの?」
「そう、とりあえず貴女も来なさい。試練には参加できないけどここに放っておけないしね」
「はいですの!」
モナティが俺から離れないように手を握ってくる。
その手を握り返して改めて進み始めたメイメイさんに俺たちはついて行った。
「それで、さっき言ってたことの続きなんですけど」
「どんな未来にもなかったって話よね?」
「はい」
「私の能力は幾つかあるの、その中に別の時間軸の観測ってのがあってね。あんまり使う意味がないんだけどね」
「別の時間軸の観測…?」
「それってどういう事なんですの??」
何となく意味は分かるが、モナティに至っては本当に良く分からないようだ。
「そうね…、モナティ。貴女が目の前に少年…マスターとクラレットがいるとするわよね?」
「はいですの」
「それで、家でクラレットと手伝いと川でマスターと魚釣り、貴女ならどっちを選ぶ?」
「………ふにゅぅ、どっちも選べないんですの」
「まあ、どっちもついていきたがるだろうからなぁ」
「じゃあ、少年。貴方が決めてくれないかしら?別に誰が決めるとかそういう話じゃないから」
「じゃあ、川に釣りに行くで」
「川に釣りに行き、魚を釣って帰ってくる。そしてその魚で夕食をとる。これがこの話よ」
何となくメイメイさんのいう事がわかり始めた。
モナティは???って感じでまだ良く分かってないようだ。
「じゃあモナティ、家でクラレットの手伝いをするときは大体何してる?」
「えっと…お洗濯とかお掃除とか、あと夕ご飯の手伝いですの。マスターがたまにお魚を釣って来て……あ」
「そう、つまり貴女がこの二つの選択肢をどっちを取ろうと最終的な結果は同じって事なのよ。ある程度わね」
結果までの過程の話ってことだよな。
一生懸命勉強していい点を取るのとカンニングしていい点を取る。
結果的にテストの点数は同じって感じかな、モナティは分かってないみたいだけど。
「はぁ~~、そういう…事? なんですの?」
「まあ、大体覚えておけばいいわよ。それで少年、これが貴方の話になったら?」
「選ぶ…誰を選ぶ?…!? もしかして俺じゃないやつがこの世界に来ても変わらなかったって事なのか!?」
メイメイさんは俺の答えに首を縦に振って肯定した。
「その通りよ。別の時間軸に置いて少年の他に3人の候補者が居たの」
「3人……もしかして」
頭の中で過る3人の人物、よくよく考えれば今付き合っているあいつらは全員クラレットがおかげで付き合ってる仲だ。
「橋本夏美、樋口彩、深崎籐矢。この三人こそ、少年の別の可能性なの」
やっぱり…、あいつらがここに居ても何となくやってける感じがする。
それに付き合っててほかの連中より気がすごく合ったのも頷けた。
「じゃあ、クラレットのエルゴを引き剥がさなかった理由は俺が来たから…?」
「違うわ。候補者は全員で4人。貴方ももちろんその候補者なの。問題だったのは…」
メイメイさんは足を止めて俺たちの方を見る。
そして彼女の口から告げられた言葉は俺たちの今までを全て否定する事だった。
「クラレットと新堂春奈。その二人はどの向こうの世界の時間軸にも存在するはずの無い異端者なのよ」
二人が…、今まで一緒に暮らしてた二人が存在するはずの無い存在!?
「ちょ、ちょっと待ってくれ! クラレットも春奈もずっと一緒に暮らしてた家族なんだ!それになんで春奈まで!」
「どの時間軸においてもその二人は確認できない、それは真実なのよ。そこだけは認めなさい。それに別にほかの時間軸に居ないからって貴方の家族には違いないでしょ?」
「…はい」
「春奈は……まあ分からないけどクラレットは原因が分かっているわ」
「原因…?」
「原因は20年前。そこから他の時間軸とのズレが激しくなり始めたの」
「20年前って…マスターたちは生まれてませんよ?」
「ええ、貴方達、クロを知ってるわよね」
「クロさんはとっても頼りになる人なんですの!」
「人じゃないけどな…」
「ふふ」
くすりと笑うメイメイさんは話を進めてくれる。
「彼がこの世界に召喚された場所、忘れられし島って所なのよ」
「忘れられし島?」
「世界から切り離された島、そこに彼は召喚されたの。その時、ある人に世話になったのよ」
「それって…前に言っていた?」
懐かしそうな顔でメイメイさんは話を続ける。
「その人はね。今のあなたと同じで他人の為に自身を犠牲に出来る人だった。使ってはいけない力を使い続けてやがてその力に呑まれかけたの、そして切っ掛けは目の前で親しい人が殺されたのが原因だったわ」
「にゅ…う…」
「………」
「その人は力に全てを委ねた、そして目の前でその友を殺した人物に全てを叩き付けたのよ。本来ならその人物は死ぬはずだった……でも死ななかったのよ」
本来なら…? じゃあ別の時間軸ではその人物が死んだのか。
いや待てよ、クロの奴が関わっててそれにクラレットも関わってる人物って!?
「もしかしてそいつはオルドレイクの事なんですか!?」
「……そうよ。本当ならオルドレイクはそこで死ぬはずだったの、でも生き残った」
「………」
「生き残った彼は僅かに生き残った仲間を連れて島から離れていったわ。その島には何度かちょっかいかけたらしいけど、毎回何かに阻まれるように結界が張られて近づけなかった見たい。その後はオルドレイクは魔王召喚に専念するために多くの子供を身籠らせたそうよ。そしてその中で生まれたのが…」
「クラレット……」
コクリと頷いたメイメイさんは彼方を見ていた。
「決定的なズレ込みだったわ。本来ならあそこでオルドレイクが死んだら100年近くは平和な時代が続くはずだった。でもあの人が消えてオルドレイクが生き残る、決してありえない最悪の結末が生まれてしまったのよ、私は悩んだわ。未来の時間軸を観測する事は出来ない、それに星の巡りを見てもそんな歴史は存在しなかった。そのせいでより確実は未来は読めなくなったのよ」
「もしかして…、クラレットが俺の所に来たのも?」
「そ。たぶんズレの原因でしょうね。何気なくやった召喚術で逆召喚される。ピンポイントで貴方の近くに召喚される、ありえないわ」
「う…ん…」
確かに、召喚術の逆召喚はめったに起こるもんじゃないってのは分かる。
そのズレって奴が原因なら…。待てよ、そういえば…。
「もしかしてモナティも…?」
「モナティが…どうしたんですの?」
「そうね、彼女がここに召喚されたのもそのズレが原因かもしれないわ。あの存在が彼女を呼ぶためだけにここに召喚したりするはずないと思うし」
「あの存在……、まあいいか。とりあえずクラレットが俺たちの世界に来たのもズレってのが原因なんですよね?」
「ええ、そのせいで貴方達は本来在るべき成長を促されなかったのよ」
「本来あるべき…?」
「こう思った事はないかしら、自分がここに存在する意味や価値に疑問を抱く、自分の生き方に迷いを抱いた事は」
「え…?」
メイメイさんの言っている事はつまり、俺が自分の生き方に満足してないってことだよな。
俺が存在する意味は……クラレットやみんなと一緒にいる。価値は分からないけど皆が決めてくれるはずだ。
だから俺はこの世界から早く帰りたかったんだ、最初は。でも今は……もしかして。
「他の俺はそれに…?」
「ええ、生き方に迷いが生じて、そして召喚されたの貴方自身がね」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!じゃあ他の世界の俺たちは」
「そうよ、この世界に自分の生き方を悩んだモノが召喚される。それが貴方達なの」
「……俺たちが悩んだ?」
「それだけじゃないわ。この世界にいる名も無き世界の住人の殆どが悩んだモノ達なの、大人の癖に夢を追い続ける人や自分の技術を誰も知らない所に届けたいと願う人や様々だけど、その全てが名も無き世界を無意識に否定した者たちなのよ」
「……じゃあクラレットも?」
「彼女は違うわ。彼女は縁で召喚されたからね。最初の魔王召喚を行ってたのがソルだったからその縁よ。貴方もクラレットとの縁で召喚されたの」
「…よかった」
もしクラレットが俺たちの世界を否定してる人物なら悲しくなるところだった。
でもよくよく考えると召喚されるときに嫌がってたしそんなことないよな。
「それでその否定する感情ってのが成長しないのがクラレットが原因だったんですか?」
「そうよ。彼女が居たから貴方達は繋がった、互いに求めていたものをお互いに補填したの。そのせいで本来在るべき歴史とは大きくズレていったの…例えば、スウォン。彼が関わったあの事件では森の聖域の主であるメリオールに貴方達は出会う事がなかった、そしてガレフ達もほとんどが全滅させられたわ、貴方達の手でね」
「………」
あの戦い、少し間違っていれば確かにガレフを全滅させていた。
クラレットの召喚術があるから結果的にトードスは倒せたと思うし。
「ガレフさん、他の所では死んじゃったんですの?」
「残念だけどね…。例えばエルカ、彼女とはあんなに早く分かりあう事はなかったわ、それにキムランともミニスの事があったとはいえあそこまで互いに信頼することもない。ローカスだって貴方達が関わったから彼の仲間は無事だった」
「なんだがいい方向に向いてる感じがするんですけど…」
「他の時間軸の貴方達は基本は同じだけど流される感じで自分から率先して行動は中々しなかったわ。根っ子の部分は同じだけど、厄介ごとを呼び込む資質? みたいなのが少し少なかったし」
それを聞いて何となく察した。
春奈や夏美の厄介ごとを中心に色々とやって来たから何となく理解できる。
「それでも別の時間軸はココよりに酷くはなかったわ。ソルだって居ないし、サプレスのエルゴだってクラレットじゃなくて貴方の中に入っていたんですもの」
「俺の中に…サプレスのエルゴが!?」
「気づかなかったの? 少年はクラレットによって呼び出された。じゃあ他の時間軸の少年たちは…?」
俺とクラレットの立ち位置が変わってるとすれば…。
「魔王召喚によって…」
「そーゆーこと」
「うーん……」
色々と聞いて分かった、本当はその島って所でオルドレイクが死ぬはずで、
そのせいでクラレットがこっちに来る原因になったみたいでソルも出てきて…。
「うにゅ~! 訳が分かりませんのぉー!!」
「……同感、というかメイメイさん。それを俺たちに話してもあんまり意味がないんじゃないですか?」
「まあね。私の愚痴みたいなものだし。この世界で生きている貴方達にとって別の時間軸は他人事、そういう事だからねぇ」
メイメイさんが諦める感じで俺たちに話してくれた。
でもよくよく考えるとメイメイさんは自分の正体を俺たちに話してないんじゃ…?
「今話した内容ってクラレットからエルゴを引き剥がさなかった理由ですよね? じゃあメイメイさんは何者なんですか?」
それを聞くとメイメイさんは足を止める、話に夢中になっていたが、
周りの水晶は大きいものが殆どになっており、今までとは違う景色がそこにはあった。
そして眼鏡をはずしてメイメイさんはこちらを見据えた。
「私はリィンバウムの結界を守るエルゴの守護者。そして王の望んだ楽園の果てを見守り観測する者よ」
「リィンバウムの…」
「エルゴの守護者さんですの…?」
「エルゴの守護者はこの世界を包み込む巨大な異変が起きた時、率先して動く者たちの総称よ。そして今、その異変は起きつつあるの」
「異変…? もしかして魔王召喚の事ですか!」
「……そんな小さい事じゃないわ。魔王召喚は切っ掛けに過ぎないの」
「切っ掛け…」
魔王召喚が切っ掛けに過ぎないなんて…、
じゃあ一体何がこの世界で起ころうとしてるんだ?
「何が起ころうとしてるんですの?」
「異界の侵略からこの世界を守り続けた結界が壊れようとしてるのよ」
「侵略!?」
「結界…? ですの…?」
「貴方達は知らなかったわよね。このリィンバウムには結界が張られてるのよ。世界を包む結界が、そして私はそれを管理し守る守護者って事」
この世界を守る結界、そんなものがこの世界を包んでいたなんて…。
まてよ? もしかして…。
「もしかして召喚獣たちが元の世界に帰れないのも…」
「ええ、この結界のせい。そう言っても仕方ないわね。外から入らせない代わりに中からも出さないんだもの」
「じゃあ結界なんて必要ないじゃないですか! この結界があるせいで…!」
「モナティたちが帰れないのはその結界のせいなんですの…?」
守る代わりに外に出させなくなるなんて…。
そんな結界本当に必要なのか?
「結界って…本当に必要なんですの?」
「必要なもの…なのよ。これも昔の行いのせいでね」
「昔の行い…」
メイメイさんが悲しそうな顔で呟いた。
「召喚獣を誓約で縛ったからよ」
「誓約で縛る…?」
確か前にもエルエルがそんな話してたよな、
だけど、ガルマザリアがそれを止めて…。
「聞き覚えはあるようね」
「はい、前に戦争の話でエルエルが教えてくれたんですよ。だけど途中でガルマザリアが止めて」
「…まあ、人間の味方をするあの子たちじゃ、あの事実は話したくもないし、認めたくもないんでしょうね」
それほどきつい話なのか…。
「そうねぇ…、あの時代。人間は被害者だったわ。本能で暴れる魔獣や幻獣に襲われ。妖怪変化などは文化の違いからイザコザ起こり鬼神や龍神が加入、そしてそれを止めるために別の鬼神や龍神がリィンバウムに来た。極めつけはロレイラルとサプレス。ロレイラルは自身の世界の戦争に勝つべく、物資を集める名目で機械要塞を送り込み大量の人間を生体部品として捕まえた。そして悪魔は原罪を世界にばら撒き悪意と疑念が渦巻く世界にこの世界を作り替えた……」
「そんなの…酷いですの…」
「っ…」
エルエルがなるべく優しく説明してたのが分かった。
あの場でこれ以上、異世界に対する考え方を変えるのを良しとしなかったんだ。
「そんな中、召喚術を作り出したらどう思う?」
「え…?」
「相手を召喚して利用できる技術が生まれたら、貴方はどうする?」
「……それは」
当事者だとしたら俺はきっと召喚獣を利用する。
お前たちが最初に仕掛けて来たんだ。俺に従えって命令するはずだ…。
「…その考えが答えよ。当時の人間は召喚獣を利用した。誓約で魂を縛り上げ、仲間同士で争わせる……酷い有様だったわ。それの報復で更なる召喚獣がこの世界に訪れて、そして召喚獣が召喚されて……そんな悪循環が広がった」
「どうにもならなかったんですか?」
「原罪の影響もあったけど、もうどうにもならないところまで来てたのよ。そこで界のエルゴ達は考えた。この状況を打破するためにどうすればいいかと?」
「どうなったんですの?」
メイメイさんが感傷深く嬉しさと悲しさが困惑する表情で答えてくれた。
「誓約者…リィンバウム、シルターン、ロレイラル、メイトルパ、サプレス。それぞれの世界と誓約を交わし、その力を行使する英雄を生み出したの」
「誓約者…それってエルゴの王って人ですよね」
「ええ、そう呼ばれたのは全部終わってからだけどね」
懐かしそうにメイメイさんは語り始める。
「懐かしいわ。あの頃の私は悪い奴をやっつけるぞー!ってそんな単純な気持ちでリィンバウムに来たの、鍛えた拳で眼前の敵を倒していけばいつか終わるんじゃないかって単純な気持ちでね」
「…辻斬りですか」
「そう言われちゃ何も言えないわねぇ…。私は召喚師も悪魔も悪い鬼神や魔獣も片っ端から倒せばいつか終わるって思ってただけよ。ホントすっごく子供だったと思うわ。でも倒しても倒しても終わらない無くならない、そんな事が続いて何時しか私は荒魂に近づき始めてた…」
「荒魂…ですの?」
「荒ぶる魂、簡単にいればわるーい神様に成りかけてたのよ」
「それで…どうなったんですか?」
「そんな中、私は一人の召喚師を倒そうとしたのよ。結構強い召喚術を使ってきてね。龍神である私には送還術は効きづらいから直接攻撃してきたリしてたわ」
「その人…災難ですね」
「いいのよ。頭でっかちな奴だったし。まあそんな私達を止めたのが誓約者に成りたてのあの人だったのよ。不思議な人でね、戦う前に話し合おうって言われて頭がスッとする感じだったわ。その召喚師……ゼノビスも理解したらしくてその後は仲直り、その後は私は押しかけ護衛獣として付いて行ってゼノビスもあの人について行くって一緒に旅に出たのよ」
懐かしそうに話すメイメイさんは嬉しそうな感じだった。
多分その時の事を思い出しているんだろうな。
「それから世界を巡って多くの仲間に出会ったわ。人と妖を繋ぐ【道の者】の長、鬼神老君タイゼン。天使と人を導いていた法の天使長ウルキエル。機械要塞と共にこちらに来ながら共に戦ってくれた融機人ゼル。報復の為、侵略しに来たのに最後には王の為に戦う事を選んでくれた至竜ゲルニカ。そして多くの仲間達と出会い、あの人はやがて誓約者に相応しい存在になった」
「すごい…ですの…」
すごいとしか俺も思えなかった、鬼神や天使長、至竜に……融機人ってのは良く分からないけど、
実力的には俺の仲間達なんか比較にならないほどすごい人たちだったんだな…。
「私達はあの人と侵略の軍勢に立ち向かったわ。決して楽な戦いじゃなかったけど、それでも諦めないで戦い始めた。でも……戦いは終わらなかった。理由は簡単な話だった、召喚術が全ての元凶だったの」
「召喚術が全ての元凶?」
「召喚術は世界を繋ぐ可能性。そうリィンバウムのエルゴとあの人は信じていた。だから彼は必死に周りに語り掛けた、召喚術で召喚獣たちを縛るからこそ召喚獣たちの憎しみは消えない……もし召喚術本来の役目を果たすことが出来ればどれだけ素晴らしい事になるか必死に語っていたわ……でも無理だったのよ」
「それも…その原罪って奴のせいなんですか?」
「それもあるけど…あの時の情勢でその事を話しても誰も聞こうとはしないのよ。たとえあの人の言葉でもね……」
「………」
信じるモノを信じて貰えないで戦わなければ行けなかった誓約者はどういう気持ちだったんだろうな…。
きっと最後まで戦えたのはみんながいたからなんだろう。
「そしてその時は来たわ。リィンバウムを除く4つのエルゴがこちらに敵意を示したの」
「敵意って…! じゃあエルゴが敵になったんですか!?」
「エルゴさんは味方じゃなかったんですの!?」
「確かにエルゴは味方だったわ…。でも召喚術が良くなかった、自分の世界に住む者たちを道具として利用され続けて、戦争が長引きとんでもない数の召喚獣が犠牲になった。それをエルゴは許せなかったのよ」
自分の子供達を引っ張り出されて奴隷にされるようなものだから何となくわかるけど…。
「エルゴ達はあの人に命じたわ。「リィンバウムを破壊せよ」と…、でもあの人はその誓約を振り切った。5つのエルゴの欠片をもつあの人は他のエルゴの干渉すら跳ねのける力を持っていたの。そして他のエルゴと侵略を止めるべくリィンバウムに結界を張った。出ることも入る事も出来ない結界をね……」
「それが結界を張った理由…」
やったらやり返す、やり返されたから報復する。
そんな事が繰り返されすぎてどうやっても収拾が付かなくなって…。
「先延ばしにしたって事なんですね」
「言いかた悪いけど、本当にその通りよ。流石にエルゴそのモノが侵攻してくれば私達に勝ち目はなかった。今でもあの判断は間違ってなかったと思ってるわ」
確かに間違ってはないと思うけど…。
「その後、どうなったんですの?」
「あの人は周りの者に勧められて王になったわ、世界で最初に生まれた聖なる王国。今は聖王国って呼ばれてる国の事よ。それからあの人は召喚術は異界の者と分かり合う物だと言う事を伝えようと必死になったわ……でも、彼が死ぬ間際になってもその想いを継ぐ者は現れなかった。私は彼からエルゴの欠片を引き継いでその欠片を守護する者たちとして仲間たちにエルゴの欠片を渡したの」
「本当にどうしようもなかったんですか?」
「ゼノビスがいたけど…彼とは仲違いしたわ。彼は別の形で世界を繋ごうとしたけど、それは誰にも理解されるモノではなかったの。そしてゼノビスは無色の派閥の原型の無色の使徒と呼ばれ、私達の前から姿を消したわ」
無色の派閥の原型…。その人がいたから今の…。
いやたぶん居なくても似たようなのが出来てたよな。
「これが結界を張った理由。そして私が何者かと言う事、分かったかしら」
「メイメイさんが観測者っていうのは?」
「観測者っていうのはこの世界の行く末を見守る誓約をエルゴと交わしてるのよ。本当ならこうやって直接話す事は出来ないけど、ズレた世界のお陰か誓約がズレてるのよね」
「なるほど…それでどうして結界が壊れそうなんですか?」
「これも召喚術のせいよ…」
「また召喚術の…」
召喚術、これがあるせいで世界が大変な事になってるのか。
だけどこれがなかったら……。いや考えるの後にするか。
「召喚術とは結界に穴を開けて召喚獣を呼び出すものなの、召喚術が乱用されたせいで結界にヒビが入りやすくなっているのよ」
「それで…千年ももったんですか?」
「千年どころか一生持つはずだったわ……エルゴが失われなければね」
「…え?」
「結界を維持するのは5つのエルゴの欠片なの、その中でサプレスのエルゴが彼女の体内に入り込んだせいで結界を維持できなくなったのよ」
「じゃあ、クラレットのせいなんですか!?」
「そういう訳じゃないけど、問題は魅魔の宝玉もあるわ」
「魅魔の宝玉が?」
「ええ、アレは召喚術のゲートを開いて悪魔を召喚できる道具だけど、通常の召喚術と違い結界にかける負荷が尋常じゃないのよ。やがて魔王を召喚する時が来れば結界は限界を超える。結界は割れて再び戦争が始まるわ……今度は蹂躙する形でね」
「そんな…」
魔王召喚だけじゃなくて召喚されれば世界そのものが終わる。
例えこの場を逃げ延びても異界の侵略でリィンバウムそのものが…!
「なんとか…何とかなりませんですの!?」
「方法はあるわ。オルドレイクからサプレスのエルゴを取り返して結界を張りなおすのよ」
「それってつまり…」
「そう、クラレットを救い出す事に繋がるわ」
それを聞くと体に重いものが圧し掛かる気がする。
クラレットを…みんなを守りたいから今この場にいるのにまるでリィンバウムを救う戦いをさせられそうな自分に気づいた。
だけど…俺の考えは変わらない。
「クラレットを助ける事はリィンバウムを救う事にも繋がるんですよね」
「まあ、そうね」
「だったらついでに救ってみますよ。みんなの住む世界ですから」
「……そう、大丈夫みたいね」
メイメイさんの目つきが変わり手元に水晶が現れる。
「前に話したわよね? エルゴの力に対抗するには同じエルゴの力を得るしかないと、つまりそれは」
「俺が誓約者になるってことですよね?」
「ええ、だけど今の少年の状態じゃエルゴの力を受け止める器に成りえないわ」
自分の胸に手をやる。
今の俺は魂にヒビの入っている状態らしい、
ろくに魔力を引き出せず戦う力がない今の状態じゃしょうがないよな。
「だから魂の試練を行うわ」
「魂の試練?」
「そう、自身の中にある負の意思に打ち勝ち、その力を使い魂の力を底上げする試練。今でこそ至竜と呼ばれる者たちが打ち勝ってきた試練よ」
「至竜の試練…」
至竜って確か…。
ゼルゼノンと同じ最強の召喚獣の事だよな、
それに至る為の試練って事か…。
「失敗したら……マスターはどうなるんですの?」
「死ぬわね」
淡々と結果を伝えるメイメイにモナティはビックリする。
「そんなの…そんなのダメなんですのぉ!!」
「でも、貴女のマスターはやる気みたいよ」
「……」
「マスター…」
俺はモナティの頭を撫でて安心させる。
一度死んでしまった身としてはこれ以上不安を与えるのは良くないが、
それでも俺は引き下がることは出来ない。
「モナティ、俺はみんなを助けたいんだ、このまま引きこもってたり元の世界に帰ったらきっと後悔する。みんなが死ぬことを理解してるのに逃げ帰る事なんて俺には出来ない。だから…」
「…わかりました、モナティは信じて待ってます!」
モナティが俺から離れてメイメイさんの隣へと移動する。
「お願いします。メイメイさん」
「ええ、分かったわ」
周りの水晶が光り始め、水晶を掲げたメイメイさんの魔力が膨れ上がるのを感じた。
「リィンバウムのエルゴの守護者たる瞑命が、今ここに誓約者の力を望む者に試練を与えん…!!」
その一言が俺の耳に伝わると、光の中で俺の意識は薄れていく、
必ず試練を乗り越える、どんな奴が相手だって絶対に負けない、必ず乗り越えて見せる!
そう心に誓いながら俺の意識は完全に途絶えてった…。
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「……きて……きなさーい…」
誰かの声が聞こえる…、試練は既に始まってるのか。
とりあえず落ちていた意識を取り戻そうと体を動かす。
「…え?」
自分がどこにいるか気づく、椅子に寄りかかって寝ていたのだ。
それだけじゃない、シクシクと痛かった胸の痛みも無くなり、
何より…。
「もー、やっと起きたのね! やる事ないからって寝てばっかりじゃダメなんだからね。お兄ちゃん!」
「…フィズ?」
「フィズ、ハヤトは最近忙しかったんだから、今日ぐらい休ませてあげなさい」
「…そうだよ、おねえちゃん」
「リプレママが言うなら、でも寝てばっかりじゃ体に悪いんだからね!」
そういうとフィズが離れていく、俺は自分の頭をガシガシと掻いて周りを見た。
「嘘だろ…?」
戦いを覚悟していた俺の目の前に広がる光景は、
いつの間にか失われていた何時ものフラットの光景だった…。
今回の簡単な補足。(メイメイさんの説明がというより作者の説明がへたくそすぎるので)
メイメイは未来を予測すると他の時間軸の観測が可能
(サモナイ6より実際出来るか不明。3で手紙送れるので不可能ではないかも)
ズレの影響か、観測者としての誓約が緩んでいる。
(本来より活動可能、直接介入は不可能だがバックアップは可能)
別の時間軸と自分の時間軸のズレが気になり始めて焦る。
(過程が違っても結果が同じならいい。でも過程も結果も違くて焦る)
星の巡りを読んで未来を予測してもまるで違う結果が返ってくる。
(先生犠牲、オルドレイク生存が決定的。危機感最高潮)
クラレットが向こうに行って誓約者候補の性格が変わる。
(いい方向に変わっていった為、今まででは初めていい方向に向かった)
他の時間軸より明らかに激しい戦いで自分なりに援護する。
(エルエルの杖、人身御供のお守り、占いなど)
自分の無茶に付き合ってもらったハヤトを元の世界に返す。
(意識だけを別の時間軸のハヤトに投射、ゲームでいう2週目)
簡単に説明してこんな感じですね。
メイメイさんの説明にアレ?って思う点がありますけど嘘ついてるだけです。
真実を話すにはまだまだ若すぎる。