古の遺跡が無色の派閥によって復活したり、悪魔王が聖王国転覆を狙ったりあった。
ホントはもっともっと色々あったがとにかく言えることは……。
「平和だなぁ~」
俺、新堂勇人は今、那岐宮の自宅で平和を満喫しているという事だ。
今の季節は8月後半、そろそろ涼しくなってきて秋の訪れを感じさせる頃合い。
今日、降り注ぐ太陽光線は暑いが流れてくる風がとても心地よかった。
つまり絶好の日向ぼっこ日和と言える。
「海にも山にもキャンプに行ったし、宿題も終わったし、充実した夏休みだった……ま、それやってたのヒトカタなんだけど…」
自分の代わりに夏休みというか、学校生活を度々変わってくれるヒトカタに感謝しつつ少し物足りない。
確かに記憶として転写してもらってるのだが僅かな実感が薄い、
まあ二足の草鞋を履きながら上手くやってるのだから文句なんて言えないんだけど…。
ヒトカタが居なかったらどっちかの生活を捨てなきゃいけないって考えるとやっぱり助かっている。
「ま、つまらない事考えてないで寝よ寝よ」
ゴロリと勇人は体を転がして縁側で枕片手に横になる。
太陽の日差しが暑かったがそれでも流れる風がとても心地よい。
そのまま彼の意識は薄れ始めてゆく、ゆっくりと眠りについてゆく。
(そういえば隙だらけで寝るのいつぶりだろうな)
いつからか夜寝るとき以外、隙を出すことがなくなってた。
そんな事を考えながら意識を深く沈めてゆく。
そして彼は眠りへとついた。
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「……………むぅ」
眠りについていた勇人だったが、小指で耳をほじくっていた。
痒い、何か詰まっているのではないか?
そんな事を考えながら彼は耳をほじくる、だが取れない。
諦めて再び寝始める、太陽の日差しが少し傾いてちょうどいい温度に感じる。
(気にするだけ無駄無駄、さっさと寝よ)
そう思い、勇人は再び眠りについた。
あたたかな日差しも空気が流動する流れも今は心地いい、耳の痒さを除けば。
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「ただいまー」
ガチャリと玄関が開かれると少しだけ汗を流したクラレットが入ってくる。
勇人のいる縁側とは違い、コンクリートの上を歩いていたクラレットはかなり暑そうだった。
そんな彼女は制服ではなく、白を基調としたワンピースを彼女は来ていた子供っぽいとこがあるが大人になれば着れないと考えた彼女は今だけでも着ようとよくそういう服を着ている。
「暑っつ……えっと、麦茶っと」
首元の衣服に汗がべっとりと付いておりパタパタと胸元を開いて空気を送り込む。
魅惑的な行動だがここは新堂家、親もおらず春奈も出かけている、今いるのは惰眠を貪る勇人しかいない。
玄関からリビングに歩み、キッチンに入ったクラレットは冷蔵を開いた。
ゴムが外れる音が鳴りカランカランと瓶が響きあう音も鳴る。
(あ、カルピスあるんだ。これにしよ)
原液カルピスに手を伸ばし机の上に置いたら製氷機から氷を取り出してグラスに沢山いれる。
そのあと最近取り付けたという浄水機がつけられた蛇口を捻って水を入れた。
それなりに入れた後、原液カルピスを注ぎマドラー代わりに箸で混ぜてゆく。
ゴクリゴクリと飲んでゆき、ほんの少し口から零れて服を濡らすがクラレットは今の暑さの冷やす為気にしなかった。
「はぁ~~」
半分程減り満足と思い、溶けた後の事を考えほんの少し原液カルピスを入れて冷蔵庫に戻す。
(そういえば「カルピスは原液に限るわ!」って言って春ちゃん拳骨受けてた事あったなぁ)
かつての春奈の阿保みたいな行動を思い出してくすりと笑うとそのままリビングを見回す。
勇人の姿がない、夏にも拘らず部屋の窓が開いていなかったので部屋にはいないはず。
靴はあったしリビングじゃないどこかにいるのかなと思い、一階を歩いてゆく。
(居た)
グラス片手にこくりと飲みながら歩いていたクラレットはハヤトの姿を見つける。
枕片手に和室の縁側で眠りこけている姿、だが時折腕が動き耳のへと吸い寄せられていた。
何度かほじほじとほじくるが諦めたのか手を戻す。
「………ぁ」
また手が動き、再び耳をほじくり始める。
(耳痒いんだ)
寝ながら耳をほじくるという器用な事をしている勇人にくすりと笑いクラレットはリビングに戻る。
飲み途中のカルピスを机の上に置き、引き出しの中から耳かきを取り出して勇人の下へと戻っていった。
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勇人は不思議な感覚に襲われていた。
ゆさりゆさりと頭が揺れ動かされる。
その後、柔らかなモノに頭を乗せられて耳を触られていた。
そして耳の中に何かを入れられたが勇人は驚かなかった、むしろ気持ちよかったのだ。
それに何より、勇人が今感じているこの暖かさも匂いも彼がよく知っているものだった。
(………そっか)
眠りながら勇人は安心する、この柔らかさも暖かさも全てが自分の大切な人の者であると気づいたからだ。
そして勇人の耳掃除を行っているクラレットも同じように思っていた。
(なんかいいなぁ)
自分が望もうとしても決して永遠に手にし続ける事はない今この瞬間。
誓約者とその守護者に至った今、二人は平穏は訪れない。
だが今この瞬間だけは、誓約者でも守護者でもない、ただの少年と少女だった。
「後ろ、向いてもらえます?」
そう呟くと勇人はくるりとクラレットのお腹の方に顔を動かす。
もう片方の耳の掃除に取り掛かるクラレット、だが勇人がある行動をしてその動きが止まる。
「ヒャ」
突然の出来事で変な声が出て赤面する、勇人がクラレットを抱きしめたのだ。
ギュッとお腹に顔を押し付けるように両手でクラレットを抱きしめた。
勇人の鼻息の感触がクラレットのお腹に感じられるがくすぐったいというよりも嬉しかった。
何度か勇人の黒い髪をなでで再びクラレットは耳掃除に作業に戻る。
出来ればこの行為が永遠に終わらない事を望みながら……。
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「たっだいまー!!」
バァンと扉が開いて今度は新堂家のトラブルメーカー、新堂春奈が帰ってきた。
全身から汗を滝のように流してすごく気分よく帰って来たのだ、まさに体育会系だった。
ルンルン気分で靴を脱ぎ棄てて家に上がるとリビングに飛び込んだ春奈は冷蔵庫に向かうが机の上に置いてあるカルピスに目をやる。
「お、いただきまーす♪」
ゴクゴクと了承も聞かずにカルピスを飲み干した春奈、プハァと全て飲み干して一息つく。
ちょうどよく冷えていたカルピスは彼女にとって美味だった。
「クラ姉~?お兄ちゃ~ん?」
居るであろう二人の名前を呼びながら家の中を歩く春奈にあるものが目についた。
それをジッと見ていた春奈は口に手をやり苦笑いしていた。
「相変わらず……うっぷ、砂糖吐きそう」
視線の先にいたのは横になっている勇人とクラレットの姿だ。
ギュッとクラレットを抱きしめて眠っている勇人、そんな勇人の頭を包み込むように眠るクラレット。
二人ともとても幸せそうな顔をして眠っていた。
決して永遠には続かない青春、限りあるであろう平穏な日々、そんな中で幸せを満喫する二人。
それを太陽が燦燦と輝きながら二人を照らしていた……。
「……………私も寝よ」
ちなみにこの後、夜まで寝てたため三人して風邪を引いたそうな。
今回はサマービーム、時系列は大体サモナイ2後ですね。
この話、実は結構前から考えていた話だったので形にしやすかったです。
耳掃除の話だったんだけど、日向ぼっこ→昼寝→耳掃除という流れで、
沢山の戦いが行われる彼らの物語の中でわずかにある平穏な日常の話です。
ちなみにクラレットの独白が少し口調違うのはしゃべっていないからです。
丁寧分で基本喋るけど、心の中では結構口が悪い方です。
作中でもわかってますけど結構自己中心的で悪よりですから、秩序・悪ってやつですから。
ちなみに春奈は二人のイチャラブ見てて砂糖吐きそうなのはガチです。