サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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遅れましたー、メモ帳破損や喘息再発など色々あってねぇ。
ここから大きく物語はうねります、よろしくー。


第29話 二人の死

あえて言うなら嫌悪感が酷い。

目の前にいる男は何というか、ソルとは違う。だけど魔力の感じが少しクラレットに似ている気がする。

それが凄く嫌だ。目の前の男とクラレットが少しでも同じ部分がある事が俺は嫌だった。

横を見るとクラレットはまるで何かと戦っているような顔をしていた。

 

「お前が、オルドレイク・セルボルトなのか?」

「………」

「答えろ!」

「黙れ。召喚獣風情が」

「!?」

 

オルドレイクは俺の姿を人として見ていないそこらにいる動植物のような目で見ている、

色んな召喚師がいるがオルドレイクは更にそれが極まった感じがする。

俺がオルドレイクを睨み付けていると横から飛び出す影がいた。

 

「ムイィィィィーーーー!!!!!!」

「クロッ!?」

「ほう…」

 

普段聞かないような怒声を叫びクロがダッシュとチャージを併用して豪速でオルドレイクに突っ込んでゆく。

飛んでもないスピードだ、あれを食らえば普通の体なら持つことはないはずだ。

 

「父上に手を出させん!」

「!?」

 

ソルがオルドレイクの前に立ち、鬼神将ゴウセツを召喚してクロに攻撃を仕掛けるが、

クロはその攻撃を受け流しゴウセツの体に体当たりを繰り出す、そしてそのままゴウセツを送還させた。

たがその反動なのかクロは全身から鮮血が噴出し始めていたがすぐさまオルドレイクに跳びかかる。

 

「ムイィ!!ムゥゥゥーーー!!!!」

「…覚えやすい容姿だから思い出したぞ。あの時震えていたテテか偶然ではないか」

「!!!」

 

オルドレイクの顔面にクロがその拳を繰り出す、当たれば恐らくオルドレイクの命はなくなるだろう。

だが、オルドレイクは落ち着いており、コンと杖で床を叩くと影が伸びてクロを拘束した。

 

「クロ!!」

「ムッムゥゥゥー!!!」

「父上、直ぐに始末します」

「待てソルよ。この召喚獣は私の過去の汚点の様なものだ…、最もこやつもそう思っているだろうがな」

 

必死に影を千切ろうとするクロに向かってオルドレイクはまるで旧友にあったように話しかけ始めた。

 

「20年…20年ぶりか、あの時の復讐か? ソルから報告のあったテテと聞いていたが随分と鍛え抜いたようだな。クラレットやあの男を守るのは適格者と重ねているのか?」

「……!!」

「そう怒るな。我は嬉しいぞ? あの時の失敗、ただ唯一の失敗のせいでセルボルトは衰退した。だがついに我らが悲願が達成する時が来たのだ。その光景をたとえケダモノだとしても我らの計画を阻止した一味に見てもらえるのだからな」

「ムッ…イ!?」

 

影が突然伸び、クロは壁に影で貼り付けにされる、無理やり引きちぎろうとクロは暴れるがどうやってもその影は千切れなかった。

 

「クロ!!」

「無駄だ、その影の悪魔はお前のようなテテに…」

「!!」

「むっ?」

 

クロの手から水流が飛び出してオルドレイクを吹き飛ばそうとする。

だがオルドレイクは軽く結界を張るだけでその水流を無力化させた。

 

「…テテノワールの水操作能力か、やはりテテノワールだったのか。ふん」

「ム!? ムイィ……!!」

 

影が揺らめくクロから力を奪い取るように絡みついてゆく。

しばらく暴れまわっていたがやがてクロは動かなくなってしまった。

 

「クロっ!!」

「案ずるな、意識は奪っておらん。さて……クラレットよ。よくぞ戻ってきてくれた。父は嬉しいぞ?」

「……」

「父親って…、どういうことなの?」

「おい、クラレット。あいつは何を言ってるんだよ!?」

 

ガゼルやミモザさんがクラレットに問いかけるがクラレットは何も言えない。

 

「ふふふ、どうやら話してなかったようだな。それはそうだ、真実を伝えることなど出来るはずもない。よく聞くがいい、クラレットは本当の名はセルボルト。クラレット・セルボルト。この私の娘だ」

「ッ!?」

「嘘だろ…? お前があんな奴の子供なんて嘘だろクラレット!!」

「ガゼルッ!」

「ハヤト、お前は知ってたのかよ!?」

「………知ってた」

「だったら!」

「必要以上にいう必要はないから、クラレットが言いたくないことをこれ以上言いたくなかったんだ」

「……そうかよ」

 

ガゼルが俺とクラレットに食い下がったが引き下がる。

代わりにオルドレイクをにらみつけ始めた、俺はクラレットを肩に寄せオルドレイクに叫んだ。

 

「クラレットは…、クラレットの新堂の家の子だ! お前の子供なんかじゃない!!」

「否定しようがそれは必ずついて回る名だ。我が子に生まれたからにはその者の生まれを否定することなど不可能だ。召喚獣よ」

「そんな訳!」

「…ハヤト、残念だがそうはいかないんだ」

「…ギブソンさん?」

 

オルドレイクの言葉にギブソンさんが肯定した?いったいなんで…。

 

「召喚師にとって血筋とはとても重要な物なんだ。たとえ望まれぬ子として生まれようとその血筋は必ずその子について回る。否定してそれで終わるものではないんだ」

「よくわかっているな、蒼の召喚師よ」

「下らない事を…、オルドレイク。お前たちの目的はクラレットから話は聞いている。魔王を召喚して世界を滅ぼして自分の世界を作らせはしない!!」

 

ギブソンさんの言葉にオルドレイクは顎に手を当てて面白そうに笑っていた。

自分の目的が知られている事をどうにも思っていないのか!?

 

「一つ訂正させてもらおう」

「なに?」

「私の目的はただ世界を滅ぼすことだ。その後のことなどに興味などない」

「な、なんだとっ!?」

「貴方はただ世界を滅ぼすために魔王を召喚しようとしてるわけ!?」

「お前たちにこの崇高な目的は理解できまい、この偽りの楽園に終止符を打ち。全てをやり直さなければならないのだよ」

「狂っている…、貴方狂ってるわ!」

「クククッ、とうの昔に狂っておるわ。だが正気に戻ったという取り方もあるぞ?  しかし……」

 

ギブソンさんたちの話を区切りオルドレイクはクラレットを見る。

まるで観察するようにクラレットを見つめていた。

 

「お前が消えたときは失望したものだ。あそこまで実験しついに完成した器がいなくなったのだからな。だが、クラレットよ。お前は帰ってきた!代用としてサプレスのエルゴとこのソルを器に儀式を行ったが魔王の代わりにお前が来たのだ!!向こうの世界の影響か、より相応しき器になりさらにサプレスのエルゴをその身に宿し戻ってきたのだ!」

「サプレスのエルゴ…」

「分かっているのではないか、お前の中にある異物の事を?」

「……」

 

サプレスのエルゴの事まで気づいてたなんて…、

俺の隠してる事の殆どを知られてるって思ったほうがいいかもしれないな。

 

「召喚獣よ。お前には礼を言っておこう。クラレットを育て、そして真実を隠していたことをな。もし伝えていれば我らに不都合な事が起きていただろう」

「クッ!」

「ハヤトは知っていたんですか…?」

「……全部知ってた。オルドレイクの子供かもしれない事もサプレスのエルゴはメリオールから」

「そうですか…」

「さて……では本題に入るとするか、クラレットよ。我が元へ戻れその身に宿る宿命を受け入れ、我らの悲願を果たすのだ」

 

オルドレイクが手を差し伸べてくる、だがクラレットはその手を見ると首を振り否定した。

 

「…私は、その手を掴む事は出来ません」

「なぜだ、クラレットよ。理由を聞こう」

「私達はこの世界を変えるための生贄にして道具。そうお父様は昔私に言いました。小さなサイジェントの街を見ただけでも私はこの世界がどれだけ悲しみに溢れている物だと理解したつもりです。でも…、それでもこの世界を破壊する理由にはならない! こんな世界で一歩一歩一生懸命生きている人たちだっているんです。あんなに酷かったこの街も変わることが出来ました。変わる事が出来るのならわざわざ破壊する必要なんてありません。だから……私はその手を掴めないんです。私が掴む手は……ハヤトの手なんですから…」

「クラレット…」

 

クラレットの言葉はこの世界に来て自分が感じた苦しみを語っていた。

貧困、差別、暴動、サイジェントの街はいい街というわけではないだろう。

だけど少しだけ、ほんの少しだけ変わり始めていた、どんなに辛くても変わることが出来る。

それが世界単位だと変えるのは余程大変だろう、だからと言って世界を破壊する訳にはいかない。

俺の手をしっかりと握りながらクラレットは恐怖に戦いながらオルドレイクを説得しようとしていた。

 

「考え直してくれませんか? 世界を破壊するというのはこの世界に生きている人を…無関係な人まで巻き込んでしまうはずです。だからやめてくれませんか?」

「………それがお前の答えか、クラレットよ」

「…はい」

「そうか……そういう事なら仕方がない」

「お父様…!」

 

クラレットの顔に喜びの顔が浮かぶ、だけど手が更に力が入っていた。

それと同時に不安があるのだろう、本当にオルドレイクは受け入れたのかが。

 

「クラレットよ。相応しき器になったのはいいが余計な知恵と厄介者を連れてきたようだな…いいだろう。まずはその心を殺すか」

「お父様っ!?」

「ソルよ」

「…これを」

 

オルドレイクの横に立っていたソルは自身の持っている魅魔の宝玉をオルドレイクに手渡した。

そしてそれに魔力を通し始めるのを確認すると俺たちは身構えた。

 

「え…?」

 

クラレットはいち早く気づいた、極小の魔力が自分たちの影に注がれてる事を。

 

「みんな! 逃げて!!」

「!?」

 

突然クラレットの叫びと共に全員の影が自分達を押さえつけるように絡みついてきた。

クラレットとその近くにいたハヤトは瞬時に展開した結界によって影の悪魔を防いだが、

他のみんなはそうはいかなかった、影の悪魔に捕まってしまったのだ。

 

「みんな!? オルドレイク、みんなを離せ!」

「そうはいかない、こやつらは人質だ」

「人質…!?」

「このままクラレットを攫ってもいいだろう。だが悪魔を降ろすというのは非常に繊細なものでな、心に余計な感情があると失敗する恐れがあるのだ。その為、自発的にクラレット。お前にはこちらに来て貰わなければならない」

「私は…行きません。たとえ行ったとして皆が無事な保証なんてありませんから」

「ふふふ、確かにそうだな。それにお前自身がそう望まなければならないのでな、そこでだ…。このソルと戦い勝てばお前を含むこの者たちを開放しても構わんぞ?」

「そんなの…でまかせです!」

「確かに嘘かもしれん。だがそれを判断する事がお前たちにできるのか?」

 

俺たち以外の全員が影の悪魔に捕らわれている。

魅魔の宝玉を使った影の悪魔は通常よりも強力なモノになってるはずだ。

このまま断ったら見せしめに何人か殺されるかもしれない……やるしかないのか?戦うしか。

そう思っているとソルがこちらに歩いてきた。

 

「下らない事を考えるな。戦うか、戦わないか選べ」

「……やるしかないか」

「エルエル、ガルマザリア。行きましょう!」

「クラレット、頼む!一気に攻める!!」

「はい!」

 

クラレットに召喚術を頼むとエルエルとガルマザリアが粒子に変わって俺の体に入るこむ。

クラレットとの膨大な魔力が俺の中を駆け巡り、体にエルエル、武器にガルマザリアを宿す。

そして剣を抜き放ってソルの目の前に立った。

 

「二重憑依。器としては素晴らしいな召喚獣よ。通常のものなら精神が耐え切れずに四散するところだ」

「……始末してよろしいですね?」

「許す」

 

オルドレイクのその一言でソルが召喚術を発動させた。

召喚されたのは捕らわれの機兵と呼ばれる機械兵士。砲身をこちらに向けて撃ち放つ!

俺はその攻撃をエルエルの魔力を使って避けて一気にソルに跳びかかった!

 

「うおぉぉぉーー!!」

「……!」

 

ソルはダークブリンガーを召喚してそれを俺に撃ち放つ。

その攻撃を捌きながら確実に俺はソルに近づいて行った、ソルもそれに気づいていたのか後ろに下がろうとするが。

 

「迎え撃てソルよ。余興だ」

「…ッ。分かりました」

 

ソルは俺の目の前に躍り出て剣を振るう。魔力を込めたその剣はさすがに威力は高かったが、

ガルマザリアを宿した今の俺の剣の前では役不足だった。そのままが弾かれて無防備な姿をさらす、しかし。

 

「タケシー!」

「なっ?!」

 

悟られずにタケシーを召喚したソルはタケシーの電撃を俺に向かって放つ。

その電撃を受けると膝をついて体がしびれ始めた。まずいこれは!?

 

「エルエル!ハヤトの麻痺を治して!」

『はい!』

 

エルエルが俺の体の麻痺を治療し始めるがその前にソルの召喚術を発動させようとしていた。

 

「誓約の名の下に―――。来い、ツヴァイレライ!」

 

召喚されたのは深闇の大公である骸骨の騎士。騎馬を駆りつつその槍を振るう!

 

「ガルマザリア!!」

『任せろッ!』

 

クラレットの呼び声に応え、ガルマザリアが俺の体から出る。

ツヴァイレライと正面からぶつかり合い徐々にガルマザリアが押し始めた。

 

「クッ!」

「行けます!」

 

クラレットは自身の中にある異物がサプレスのエルゴであると理解した。

意思を持つ異物なのではなく膨大な力の塊なら怖がる必要はない。

自分に体は魔王を受け入れるための器、つまりエルゴといえどその力の受け皿になる資質がある。

そう理解した後は早かった、エルゴにパスを繋げてそこから直接魔力を引き出す、

その力を得たガルマザリアは正面からツヴァイレライを打ち砕く強さを得ていた。

 

『はぁぁっ!!』

『!?』

 

ガルマザリアの槍がツヴァイレライの顔面を打ち砕き送還させた。

そのままガルマザリアがソルに向かって突っ込んでゆく!

 

『デヴィルクエイク!』

「ッ!」

 

舌打ちしつつソルは結界を全開にして床から溢れ出る魔力の奔流を防ぐ。

やがてデビルクェイクが終わると同時にその瞬間を狙ってきたようにハヤトが突っ込んできた。

その攻撃をソルは剣で受け止めるがハヤトは空いている手に赤いサモナイト石を握っていた!

 

「鬼神将ガイエン!」

 

現れた鬼神の将は大太刀を振りかざしてソルに振り下ろす。

それをソルは自身の影の悪魔を操り攻撃を回避するが衝撃までは躱しきれなかった。

吹き飛ばされたが体勢を立て直しつつハヤトとクラレットの二人を見る。

 

「…勝てないな」

「ソル兄様?」

 

ソルは冷静に判断する、サプレスのエルゴを理解しその力を行使するクラレット。

エルエルを始めとした強力な召喚獣すら憑依しその力を扱えるハヤト。

この二人を同時に相手するのは不可能に近かった、長年の付き合いなのか阿吽の呼吸ともいえる連携も行える分、一人で戦うソルに勝ち目は薄かった。

勝てる見込みがあるとすれば遠距離からゼルゼノンを始めとした強力な召喚術を使う事だが、

それもこの状況では意味がない事だった。

 

「父上、魔剣の使用を」

「ふむ…、これ以上頭に乗られても困るからな。いいだろう魔剣の使用を許そう」

「ありがとうございます」

「…魔剣?」

 

怪訝に思う俺を余所にソルは剣を捨てて背中に背負っている剣をゆっくりと抜く。

白く輝く純白の魔剣、ソレが抜き放たれた瞬間今までに感じたことない悪寒を感じた。

殺意のみを凝縮したような力をあの魔剣から感じ取ったのだ。

 

「ある程度素養はあるようだな。この魔剣の力を感じ取ったのか」

「なんだよその剣は…」

「ハヤト?」

 

俺の後ろにいるクラレットはあの剣を理解しきれてないようだ。

こんな嫌な感覚に陥るなら俺も理解したくなかったよ。

 

「気を付けろハヤト! それは通常の魔剣とは違う!」

「そうよ! 私達を含む召喚師5人がかりでも手玉に取るほどの武器なのよ!」

「なっ!?」

 

ギブソンさんやミモザさん達すら相手にしないほどの武器なのか!?

あんな武器一つで召喚師多数を相手に出来るっているのか。

 

「困惑してるようだな召喚獣よ。その剣こそ、かの魔剣鍛冶師ウィゼル・カリバーンの手で作り出された最高傑作の一品よ」

「ウィゼル・カリバーン……!? まさか!」

「その通りだ、この魔剣はウィゼルが作り出し派閥に捧げた剣だ」

「嘘だっ! 師範がお前たちにそんな武器を作るはずがないだろ!!」

「奴は元々こちら側にいたのだ。より強き武器を、それだけを求めて武器を打ち続けてきた。むしろ貴様に剣を渡した事の方が俺には意外だったな」

 

オルドレイクとソルが俺にそう言い放つ、そういえば師範は昔の償いって言ってたよな。

もしかしてこの魔剣の事なのか、師範が言っていたことは。

 

「この剣を抜いたからには貴様に勝ち目はない、終わりにする!」

「くっ!」

『させるか!!』

 

剣に魔力が注がれそこからソルに魔力が逆流すると膨大な魔力を纏ったソルが突っ込んでくる!

あの剣は使用者の魔力を強化する能力もあるのか!?

混乱するがそれを食い止めようとガルマザリアがソルの魔剣に向けて攻撃を仕掛けるが、

それを軽くソルは防いでしまった。

 

「邪魔だ」

『な…にぃ…!?』

 

ソルが魔剣を振るうとガルマザリアの槍が砕け散りガルマザリアが二つに分けられる。

 

「うあ…ああぁぁーーっっ!?」

「クラレット!?」

 

ガルマザリアが倒される瞬間クラレットが頭を抱えて膝を付いた。

その表情は苦痛が現れていたが片手を俺の方に向けて召喚術を発動させる。

 

「ガル…マザリ…アッ!!」

『無茶をっ!』

 

四散したガルマザリアが粒子に変換されて俺の体に入り込んだ。

そのまま迫ってくるソルの魔剣を宿りなおしたガルマザリアの魔力を剣に込めて迎え撃つ。

エルエルの力とガルマザリアの力で魔剣を防ぐがあまりの威力に徐々に押され始めた。

 

「お前…! クラレットに何をした!!」

「魔剣には色々な種類がある。この剣は精神の剣、使用者の感情と意思でその力を左右させる剣だ」

「それがどうした!!」

「わからないのか? つまりだ、クラレットは俺の意思をまともに受けたという事だ!」

 

空いている手で召喚術をソルは発動させた、召喚されたのは鬼神将ゴウセツ。

今までと比較にならないスピードで召喚されたゴウセツは膨大な魔力をソルと同調させ凶刃を振り下ろす!

 

「鬼神烈破斬!!」

『「スペルバリア!!」』

 

ハヤトはそれに対して左手を出してエルエルのスペルバリアを発動させる。

しかしあまりの威力のためにスペルバリアは徐々に削られて行く。

 

「ぐぐっ!…ぐっ!!」

「ほう。憑依召喚の状態にも関わらず召喚獣の能力を発動させるか。中々興味深いものだな」

「確かに召喚獣の攻撃は防げるだろう。だがこの剣はどうする?」

 

ソルが魔剣を振るう、ゴウセツの攻撃を防ぐのに精一杯だったハヤトはそれをまともに受けて吹き飛ばされてしまった。

鮮血が舞いながら吹き飛ばされたハヤトは痛みに耐えて必死に体勢を立て直そうとしていた。

 

「エルエル…ッ。ハヤトを治療して!」

 

頭を押さえながらクラレットがエルエルに指示を出してハヤトの傷が癒えてゆく。

苦痛の表情は変わらないがどうやら先ほどよりも楽になっているようだ。

 

「召喚獣を通して魔力を押し込んだのに随分と復帰が早いな」

「兄妹ですから…、魔力の質が似てるのが幸いしました…」

「ふん」

 

勝ち目は薄い…。あの魔剣はとんでもない力を持っている。

今までに隙のあったゴウセツの技をあんなに早く出せるし、魔力もかなり上がってる。

ガルマザリアを一撃で倒した事を考えると召喚獣に対する威力もかなり高いはずだ…どうすれば。

 

「次はこれだ」

 

ソルは機械に組み込まれている黒いサモナイト石を取り出す。

あの石は確かゼルゼノンの召喚石!?

 

「待てソルよ。貴様はこの城を吹き飛ばす気なのか?」

「……」

「それを使うことは許さぬ」

「ッ…。分かりました父上」

 

ソルはゼルゼノンのサモナイト石を仕舞。別のサモナイト石を取り出す。

赤いサモナイト石と黒いサモナイト石だ、あの二つは確か…!?

 

「誓約の名の下に――。来い!ウィンゲイル、狐火の巫女!!」

「来る! アーマーチャンプ。アストラルバリア!」

 

狐火の巫女の放つ炎がウィンゲイルの送風機で強化されて俺たちに迫ってくる。

俺はアーマーチャンプを召喚してその威力を完全に防ぐことに成功していた。

だがソルはダークブリンガーを召喚してアーマーチャンプの影響のない位置から攻撃を仕掛ける。

 

「はぁぁっ!」

 

クラレットはそれを結界を展開して防ぐ。しかし防戦一方の状況で事態は悪化し続けていた。

徐々にクラレットの力が弱まっていくのを感じた、無尽蔵の魔力を持とうと彼女自身普通の人。

魔力を扱う精神がサプレスのエルゴの力を全て引き出せるものではなかった。

 

「くっ…うぅ…!」

「何時まで持つだろうな」

「…クラレット。跳ぶぞ!」

「え? きゃっ!?」

 

クラレットを抱きかかえてハヤトは大きく跳躍する。

空中でクラレットを自分の背中に回して壁を蹴ってソルにハヤトは突っ込む!

 

「ダークブリンガー!」

「だりゃぁっ!!」

 

ハヤトは迫りくる凶刃をクラレットの結界と自身の剣で弾きながらソルに近づく!

そして掲げた剣にガルマザリアの魔力を通して思いっきり振り下ろした!!

 

『「ドゥームインパクト!!」』

「!」

 

振り下ろしたガルマザリアの魔力が宿る剣を魔剣にハヤトは叩き付けた。

剣さえ壊せばソルに勝つことは出来る。そう信じた一撃だったが…。

 

「なっ…なんで壊れないんだ!?」

「魔剣は精神の剣。単純な魔力で壊せるとでも思っていたのか?」

「ハヤト!引」

 

引いてと言おうとした瞬間、先ほど叩き付けたガルマザリアの魔力をそのまま利用されて二人が弾き飛ばされる。

自身の魔力だったクラレットは吹き飛ばされたもののダメージは少なかったがハヤトはその場に仰向けに倒れこんでしまう。

ソルはハヤトに迫り彼の腕を踏みつけてその動きを封じた。

 

「ハヤ」

「ダークブリンガー!」

 

クラレットがハヤトを助けようとするが、ダークブリンガーをクラレットに撃ち放ち、

彼女は身動きが取れない状況に陥ってしまう。

ソルは目線をハヤトに向けて魔剣をハヤトに突き付けた。

 

「終わりだな」

「くぅ…!」

「僅か二か月ほどで随分と強くなったものだ」

「褒めてるのか…?」

「まさか、改めてお前たちの世界の住人が規格外だと理解したぐらいだ。潜在的な魔力、全ての属性の資質、そして器。全てにおいて名も無き世界の人間に価値があると理解できた。お前の事は残念だが…。終わりだ」

「やめて!ソル兄様!! ハヤトォッ!!」

 

ソルが魔剣に魔力を注ぎ剣を振り上げる、憑依しているエルエルもガルマザリアも何かに押さえつけられているように動かない。

強い…強すぎる…。俺なんかの力じゃ敵わなかったのか…このまま負けたらみんなも…。

そう思い全身に力を入れようとするが体がいうことを聞かずに俺は魔剣が振り下ろされるのを見ていた。

後ろから声が聞こえる、みんなの声が…こんなところで…!

 

だが俺が覚悟を決めかけたその瞬間、ソルの首元に光る刃が迫るのを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アタシはソルを初めて見たときある事を実感した。

正攻法ではおそらく勝てないという事、ああいうタイプは切り札の一つや二つ普通に用意しているもの。

だから次の戦いの時、アタシは隠れる事にした。

皆の強さはよく理解出来ている、アタシなんかがいなくたって何とかできるぐらいってね。

だからソルが出てくるのをずっと待っていた、バノッサの奴がハヤトを追い詰めたときは焦ったけど…。

 

「………来た」

 

思った通りソルが出てきた。オルドレイクって言う親玉も一緒ね、強くはなさそう……訂正。

クロが突っ込んで気づいたよ、何アイツ、隙なんて全く無いじゃん! 影を使った攻撃って便利すぎよ!!

それにクラレットがアイツの娘って……そりゃ言いたくないわよね。

だって自分の父親が敵の親玉ってどんな話よ全く……、そう考えるとクラレットの無茶が理解できた。

クラレットは自分が殺される事がないって気づいてたんだ。それでも攫われるかも知れないって考えといてって…全く。

 

ハヤトとクラレットがソルと戦う感じになったみたい。

最初は優勢だったけど、あの魔剣っていう武器が出てきてから押され始めた。

アレはやばい…何アレ殺気とかそう言うのの塊なの?

精神の剣って言ってたけどつまりソルの精神って殺す事しか考えてないって事?おかしいじゃない。

アイツは狂人には見えない。なのに武器だけ狂人のように狂ったように殺気を孕んでる。なにこの矛盾。

 

そう考えながら息を殺して見ているとハヤトが押され始めて、倒された。

あの二人に勝てない事は考えていた、人間勝利を確信した瞬間が一番隙が出る…。

オルドレイクにも目線を動かすがこちらに気づいている訳でもないみたいだけどたぶん奇襲は無理……なら。

 

「終わりだ」

 

そうソルが告げた瞬間アカネは物陰からサルトビの術を併用して全速力でソルに突っ込む。

そして抜いていた短刀をソルの首元に突き刺すように鋭く突き出した。

 

「!?」

 

遅いよ。気づいたときはもう対処できない、クラレットには悪いけど殺す。危険だからね。

確信を持って凶刃がソルに触れる瞬間アタシは師匠の言葉が頭を過った。

 

―――どのような時にも必ず最悪の状況を考えなさい、それに対処できるように、分かりましたね?

 

………ホント考えとくんだった。だって目の前でアタシの…アタシの腕が切り飛ばされちゃったんだもん。

ホント影を使った攻撃ってインチキ臭いわ。他人の影でも可能だなんてどうなってるのよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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倒れている俺は驚いていた、この戦いに参加してないはずのアカネがソルに不意打ちを仕掛けてるのだから。

だがそれは敵わなかったソルの首元に短刀が刺さりかけた瞬間、アカネの腕は影によって切り飛ばされていたんだから。

 

「!?…マッダァ!!」

 

アカネは空いている手で苦無を取り出してソルの心臓に突き刺そうとする。

しかし影はそのままアカネを拘束して床に叩き付けてしまった。

 

「がはっ!」

「アカネ!!」

「…申し訳ありません父上」

「ネズミが入りこんでいるとは思っていたがシルターンの忍か。ソルよ。一人では殺されておったな?」

「………」

 

ソルは無言で腕から血を流すアカネの睨んでいた。

 

「く…がはぁっ!?」

「このまま縊り殺しておくか」

 

影がアカネの首を絞めつけ始めアカネの表情が青くなってゆく。

腕からドクドクと血が溢れてドンドンと血だまりが大きくなってゆくのもマズ過ぎる。

 

「アカネッ!! くっ!」

「貴様も自分の事を考えるんだな」

 

ソルは再び剣を振り上げてそれを俺に振り下ろそうとする。

もうだめだ…本気でそう思った瞬間。

 

「もうやめてっ!!」

 

彼女の心からの悲鳴が玉座の間に響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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もう見てられなかった。ハヤトが殺されかけて、

アカネも自分の腕を切り落とされて…、このままじゃ二人とも死んじゃう。

そう思ったら無意識に私は叫んでいた、どうしようもない…もうどうにもならないから。

 

「クラレットよ。それを願うというのなら分かっておるな?」

「………」

 

皆を見逃してもらう、そんな虫の良い話を頼む方法は一つしかない、私にだってわかっている。

 

「ダメだ。クラレット! 彼らの言葉に乗ってはならない!」

「そうよ! こいつらが約束を守る保証なんてないじゃない!」

 

ミモザさんとギブソンさんが叫ぶが保証自体はある。

私の命、私が悪魔を受け入れなければ魔王は完全には召喚されない、それが私の保証。

 

「やめろクラレット! 行くんじゃねぇ!!」

「お前さんが行ったら今まで戦ってきたハヤトの思いはどうなるんだ!」

 

ガゼルさんとエドスさんが私を止めようと声をかけてくる。

ハヤトの思い…? でもここでハヤトが死んだら思いも何もない…何も…。

ゆっくりと私はお父様に近づいてゆく、そしてお父様を見上げて答えを伝えた。

 

「私は……」

「ダメだ。言わないでくれクラレット…!」

「私は…!」

 

ハヤトが私を止めようと声を出してくれる。

でもごめんなさい、ハヤト私は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父様、貴方の下に戻ります。宿命を受け入れます」

 

その言葉を口にした瞬間、私の中で色々な思いが崩れてゆく。

たぶん、もう戻れない…あの優しい世界に帰ることが出来ないと確信した。

 

「だからみんなを…許してあげてください」

 

だからせめて彼らを許してほしい、だって全員私のせいで巻き込まれたんだから。

私が居たからあの日、バノッサさんたちが襲ってきた。

私が居たから森がトードスに襲われる原因になった。

私が居たから無色の派閥がサイジェントに来た。

私が来てしまったから……彼を呼んでしまった。

全部私のせいだ、だから誰かが消える前にせめて私が…。

 

「お願いします…。お願い…」

「…いいだろう。ソルよ、クラレットを連れて来るのだ」

「はい」

 

そういうとソル兄様がハヤトから離れて私に近づいてくる。

その目は油断も隙も無い、たぶん私の事を信用してないのだろう。

横目で見るとアカネの束縛も解除されていた。

 

「分かっているな?」

「はい、どうぞ」

 

胸のペンダントと杖をソル兄様に手渡した、これで二人は召喚できない。

ハヤトの体の中のエルエルとガルマザリアも送還させた。

それを確認するとソル兄様は私をお父様の下へと促した。

ゆっくりとお父様の下に歩いてゆく、大丈夫。元に戻るだけ、私が元の存在に…。

 

「ダメだ…行かないでくれ」

「…ハヤト」

「行かないでくれクラレット!」

「………さようなら」

「クラレット…!」

 

倒れているハヤトを通り過ぎて私は再びお父様の下へと歩いて行った。

 

「おお、よくぞ戻ってきた。我が子よ。これで我らが悲願が達成される!」

「はい…あの…」

「分かっている。手出しされない限り手は出さん。奴らにはこの世界の終末を見届けさせることにしよう」

 

これでとりあえずみんなの命が繋がった…、

どのくらいの命なのだろう、でも今失いよりはずっと…ずっといいはず。

そう思っていた、私がただ居なくなるだけ、それだけなんだと、でも…。

私は彼の事をしっかりと理解してなかったのだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

「待てよ」

「え…?」

「連れて行かせはしない…絶対!」

 

ハヤトは剣を支えに体を無理やり立たせた。

すでにエルエルもガルマザリアもハヤトの体から失われている。

それでも彼は立ち上がる、今までもそうだったのだから。

 

「俺は諦めないぞ。死ぬまで、絶対に諦めないぞ!! ガイエェェーーーンッ!!!」

 

ハヤトの体から赤い魂殻が湧き出して剣にその力が宿ってゆく。

今日で2回目、彼の表情から激痛が走っていることはわかるがそれでも力を止めなかった。

 

「ソルよ」

「はい」

「なっ!? 約束が、約束が違います! みんなを…ハヤトを見逃すって!?」

「手出しされない限りだ。やられるかもしれんのにわざわざ食らうわけにもいかないだろう」

「そんなっ! ハヤト、やめて!やめてぇっ!!」

 

クラレットはハヤトに駆け寄ろうとするがオルドレイクがそれを阻止する。

彼女には叫ぶことしか出来なかった。

そして紅い魂殻をハヤトの剣に纏わりつかせ、再び極光の輝きを放つ!

その剣を掲げてソルへとハヤト迫る。

 

『「鬼神剛断剣!!』

「……ッ!」

 

鬼神将ガイエンの持つ最上の技がソルの魔剣にぶつかり衝撃と共に魔力が弾ける。

ソルの足元にはその衝撃で生まれた亀裂が生まれるが、ソルはそれに全て耐え抜いた。

 

「お前はわかってないようだな」

「なにっ!?」

「魔剣とは精神の剣、単純な魔力と技でどうにかできるモノではない!」

「なっ!? そんな!」

 

紅い極光を放つ剣の魔力が四散してただの剣に戻ってしまう。

ソルが魔剣を通し剣の魔力を四散させたのだった。

 

「終わりだ」

「ッ!?」

 

剣が砕かれ、掲げた魔剣をハヤトは見つめた。

殺意、殺気、それを凝縮したような魔剣の存在にハヤトは動けない。

鬼神憑依で疲労困憊の彼にはそれに対抗する余裕などなかったのだ…。

そして魔剣を振り下ろされ大量の鮮血と共にハヤトは仰向けに崩れ落ちた。

 

「嫌ぁぁぁぁ!!ハヤトォォォ!!!」

「……ふん」

 

小さくため息を吐いたソルは魔剣を背に戻しハヤトに背を向けた。

軽く失望していた、やはり一人ではこの程度かと思いオルドレイクの下へと歩き出す。

だがオルドレイクとクラレットの顔を見た瞬間、後ろを振り返る。

 

「ま…まだだぁ…! 俺はまだ戦えるぞ…」

「………」

「俺は…まだっ!」

 

ハヤトのサモナイト石が光り輝き手に一本のシャインセイバーが召喚される、

しかしそのシャインセイバーは所々刃こぼれしており彼の魔力が枯渇寸前であることを表していた。

だがそんなハヤトにソルはニヤリと口が上がるのを感じた、やはり自分の予想を超える男だ。

想定外の事態は混乱させられるが何度も続けば楽しみにも繋がる。

そんな感情はとっくの昔に抑え込んだが随分と戻ったものだとソルは思い背中の剣に手を回す。

しかし、その手は魔剣を握ることはなかった、突如後ろからくる何かに気配を感じて手を伸ばす、

手にあったのは一本の杖、その杖を見た瞬間ソルの表情は変わりオルドレイクへと視線が向いた。

 

「よろしいのですね?」

「許す、我らに逆らう愚かしさを見せしめとしてほかの連中に見せてやるのもいいだろう」

「はっ」

「アレは…そんな…、お願いハヤト。もういい、もういいからだからやめて、来ないでハヤトォ!!」

 

クラレットがその杖の存在に気づき叫ぶように声を張り上げる。

だがその声はハヤトに届くことはない…。なぜなら彼は正気ではなかったからだ。

 

「俺が…守るんだ…俺がクラレットを…守る、俺だけが…!」

 

正気ではない虚ろな瞳でハヤトはソルを睨んでいた。

魔剣の一撃を受けてソルの殺意の一部を受けてしまったハヤトは正気ではない。

彼に残されたのはクラレットを守るという強迫概念とも言える感情だった。

度重なる自身の限界を無視した戦い方の根底にあったのは歪ともいえる感情だったのだ。

 

「最後がこんな幕切れか、不服だが、我らの目的のために死ね」

 

ソルがそういうと杖に取り付けられたサモナイト石に魔力を送り始める。

膨大な魔力の奔流と共に悪寒を感じさせるような魔力が膨れ上がった。

 

「裁きを下す偉大なる死霊の王よ、古の誓約の下、セルボルトの名の下にソルが命じる―――」

 

その詠唱を聞いた瞬間、縛られているギブソンとミモザの表情が変わった。

 

「ハヤト正気に戻りなさい! その召喚術は本当にまずいわよ!!」

「セルボルト家の秘伝召喚獣だ。君の力では敵わないぞ!!」

 

だが、その声はハヤトには届かなかった。

彼の意識は目の前にいるソル・セルボルトと後ろにいるクラレットだけだった。

そしてソルは魔力をさらに集中させて召喚術を完成させる!

 

「来たれ!身の程を知らぬ愚者に裁きの鉄槌を――砂棺の王!!!」

 

現れたのは死霊達を統べる断罪の王。

二つの杖を両手で重ねるように持ちその視線をハヤトへと向けた。

ハヤトは本能なのかその召喚獣を見た瞬間、体の震えが止まらなくなっていった。

 

「お父様離して! ソル兄様お願いやめて! 逃げてハヤト! 逃げてぇぇぇぇ!!!」

「クラレットよ。目を離すな、我らに逆らうものの最後の瞬間をお前は目にしなければならない」

「お願い、やめて、許して…!」

 

涙を流しながらクラレットは懇願するがそれをオルドレイクが聞き入れることはなかった。

あくまで手出ししない者は見逃すという約束だ。自分に敵対する者は許さない、そういう約束だった。

だからこそハヤトが剣を下さない限り彼らはハヤトを殺そうとすることをやめないのだ。

 

「う…っくぅ!? 俺は…!」

「無様だな」

「!?」

「感情に呑まれながらも立ち上がったその意思は認める。だが実力の差を理解出来ていないようだな」

 

ソルが杖を掲げると砂棺の王に魔力が集中し死霊達が集まってくる。

ハヤトは震えながらも一歩一歩とソルに迫っていった。

 

「俺が守るんだ…俺がクラレットを…俺が…俺がぁぁぁぁーーー!!!」

「砂棺の王よ!!!」

 

ソルが砂棺の王に指示を出すと一斉に死霊達は断末魔と共にハヤトに迫ってくる。

それをハヤトは避けることも防ぐことも出来なかった、ただその光景を目にしていただけだった。

そんな彼の目に映ったのは、断末魔の叫び声で聞こえない泣き叫ぶクラレットの姿だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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死霊達が叫び声と共に俺の中に入り込んでくる。

死霊達の断末魔が俺を正気へと戻してくれた、だけどたぶん長くない…。

 

「う…あ…」

 

体が破裂するように苦しい、俺の目の先には泣いているクラレットの姿があった。

……もうだめなんだよな。俺は守れなかったんだ…。

そう理解したとき、一つの言葉が頭を過る…。

 

―――貴方達の中で、だれか死ぬわよ

 

ずっと前にメイメイさんが教えてくれた言葉…。

そっか分かって来た、俺はただ長引かせてただけだったんだ。

あの中で死ぬのは……。

 

「俺だったんだ…」

 

手を伸ばす、届くはずがないのに、守れなかったから伸ばしたかった。

あの涙を無くしたいから戦ってきたのに、結局俺はあの涙を流してばかりだった…。

 

「クラレッ…!」

 

もっと謝りたかった。だけど俺の意識はそこで完全に途絶えてしまった…。

だって…俺は死んでしまったんだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…………あ」

 

目の前でハヤトが四散するのを見てしまった。

死霊達に魂殻諸共食われ果ててもう何も残っていない…。

そこには彼が流していた血の跡しか残っていなかったのだ。

 

「…嘘ですよね? だってハヤトは私を守るって」

 

ハヤトが居なくなった、ハヤトが消えてしまった、ハヤトの姿が無い、ハヤトはもうこの世界にいない、ハヤトの姿が見えない、ハヤトがハヤトがハヤトがハヤトがハヤトハヤトハヤトハヤトハヤト勇人勇人勇人勇人勇人勇人勇人勇人はやとはやとはやとはやと!!!!

 

頭の中で彼の事ばかりがグルグルと回り続ける、認めたくない認めれば全部が終わる嫌っ嫌っ嫌っ嫌っ!!!

 

「嫌ぁ……」

「クラレットよ。奴は死んだ」

「………え?」

 

お父様は何を…ハヤトが…?

 

「お前を守る為に死んだのだ、お前がすぐにでも受け入れればこうはならなかったかもしれんな」

「私が…受け入れなかったから…?」

 

言わないで…、その先の事を言わないで信じたくない信じたくない認めたくない!!

 

「そうだ、奴を殺したのはクラレット、お前だ」

 

私が…ハヤトを…殺した?

 

「お前が殺したのだ」

 

私が呼んだから…、私が助けを求めたから、一緒に戦ったから彼は…ハヤトは…。

 

「死んだ…?」

 

私は認めてしまった、私が彼を殺したことを…。

 

私は、認めてしまったのだ。

 

「嫌ぁぁぁぁァァァァァァァーーーーッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その事実を認めてしまったその瞬間。私は【自分】を殺した。


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