サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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今回は説明会……今回も!
結構早い段階で後半まで書いてたんですけど、
モチベーションが上がらず仕上がるのに時間がかかりました。

頑張って書くんでよろしくね!

あと誤字修正してくれる人たち、どうもありがとう!
なんかフィズとフォズって書き間違えてたよ、DQ7かな?


第26話 目覚める鬼神

 

 

孤児院の広間には色々な立場がある多くの人物が居た。

元アキュートのラムダ、金の派閥のキムラン、蒼の派閥のギブソン。

本来ならこうして顔を合わせて話し合う事など出来るはずがない人たちだ。

それを可能にしたのはこの街を良くしようと戦い続けた二人の子供だった。

驚きながらも真面目な顔をした少女の、クラレットの話を全員が聞いていた。

 

「これが私の境遇です。私が高位の召喚術を使えるのもハヤトが全ての召喚術を使えるのもすべて話しました」

「…信じられないな」

「でも、本当の事だぜ。ハヤトが召喚される所を俺達は見たんだ」

「ああ、クラレット達が言っている事は間違いない」

 

エドスとガゼルが信じきれないギブソンを説得しようとする、

しかしギブソンが信じられないのも無理はなかった、

千年以上の歴史を誇る召喚術に名も無き世界の住人は全ての召喚術を行使できるという記述は無いのだ。

 

「まるで【エルゴの王】ね」

「エルゴの王って…、あのおとぎ話の?」

「ええ、召喚師を超えた究極の召喚師。あらゆる術を使ったと言われる英雄よ」

 

伝説の英雄。まあ俺なんかとは比較にならない人物だな。

直ぐに魔力切れるし、召喚術も全然だからな。

 

「とりあえず、彼が異世界から来たという事は分かった。それでクラレット、君は自分自身がどういう存在なのかわかってるのか?」

「魔王の生贄、それが私です。これだけはどう否定しても絶対に付いて回るものですから」

 

キッとギブソンさんを見つめてクラレットが力強くそう答えた。

今のクラレットはそれに動揺したりしない、一緒に戦うって決めたんだもんな。

 

「クラレット。君の身柄は我々、蒼の派閥で預かるべきだ」

「待ってくれ、彼女を拘束するというのか!?」

 

ギブソンさんの一言にレイドが声を張り上げた、それを聞いてもギブソンさんは構わず言葉を続ける。

 

「拘束というのは言葉が悪い気がするが、この事件が解決するまで、蒼の派閥本部で彼女を保護するべきではないのか?」

 

ギブソンさんの言う事も一理ある、でも召喚師が律儀にクラレットを保護するかは別だ…。

閉鎖的な組織って聞いてるし、もしかしたらクラレットに何かするのかもしれない。

 

「だがよ、本当に蒼の派閥本部は安全なのか?あァん?」

「何が言いたいんだ、キムラン」

「魅魔の宝玉っつお宝が盗まれたのが原因なんだろ?だったらその本部に連れてっても攫われるだけじゃねぇのか?」

「ッ…あの時とは警備の厳重差も違う、そんな事はあり得ない!」

「ちょっと、落ち着きなさいよギブソン、まずはクラレットの意見を聞きましょう?」

「意見など聞く必要はない、彼女が奪われればそれで…」

「少しいいか?」

 

口論を続けるキムランとギブソンさんの間にラムダが口をはさんだ。

流石の二人も歴戦の雰囲気に呑まれて口を慎んだ、そしてラムダさんはクラレットに問いかけた。

 

「クラレット、俺は召喚師ではないので詳しくは分からんが、その魔王召喚の儀式という者はお前が必須なのか?」

「……恐らくですが、必須ではないです」

「それホントなの!?」

「私には多くの兄姉がいました…同じように魔王召喚の為の贄として作られた子供たちが…」

「君だけでは無かったのか…」

「そんな…」

 

ミモザさんは驚き、ギブソンさんも口を噛んでいる、

ミントは顔を俯かせて悲しんでるようだった。

 

「その中の殆どがもういないとソル・セルボルトは言っていました。でも可能なんです。魔王を召喚する為の生贄は他にも用意できている可能性がありますし……、ソル・セルボルトでもそれに該当するはずです」

「もしかしてバノッサもか?」

 

クラレットが俺の方を見て頷くと、それを確認したエドスが「バノッサ…」とつぶやく。

 

「ですから、私が手に入らなくなれば間違いなく二人のうちどちらかを犠牲にして魔王を召喚するはずです」

「つまり、クラレットを拘束してもしなくても魔王は召喚されるというわけね?」

「たぶん…確実性は無いと思いますけど、それでも間違いなく」

 

召喚されるのは間違いない、それを聞いてミモザさんは息を吐きながら天井を見た。

ギブソンさんも同じように手を組んでじっくりと考えてるようだ。

そのまま沈黙が続くなか、耐え切れず俺は話を進めることにした。

 

「なあ、とりあえず魅魔の宝玉って何なのか教えてくれないか?」

「…そうだな、このままではらちが明かないからな、分かった説明しよう」

「頼むぜギブソン、俺も流石に魅魔の宝玉ってのは聞いたことねぇからよ?」

「ああ、なるべくわかりやすく説明することにしよう」

 

そういうと、ギブソンさんがミモザさんに視線を向ける、

ミモザさんが頷いて魅魔の宝玉について話し始めた。

 

「魅魔の宝玉はずっと昔の召喚師たちが作り出した道具なの。昔の召喚師たちは今よりもずっと強い力を持っていて彼らは霊界サプレスに住むありとあらゆる悪魔を従える為の道具を作り出した。それが魅魔の宝玉よ」

「ずっと昔に作られた召喚術の道具か…」

「なんでそんな物騒なものがあるんだよ」

 

ミモザさんの発言にガゼルが問いかける、

確かに魅魔の宝玉なんて作る意味がない、悪魔なんて支配しても碌なことにならないし…。

 

「戦争です…」

「戦争? クラレットは知っているのか?」

「はい、今より千年以上も昔にリィンバウムは異世界の侵略者と戦っていました。荒ぶる鬼神、機械兵士、そして悪魔。今でこそ召喚術として呼び出されている者たちと戦争をしていたんです」

「しかし、それは伝説やおとぎ話では…?」

 

クラレットの言葉にレイドが疑問を抱く、

確かにずっと昔とはいえ、千年ぐらい昔なら普通の人たちだって知られていると思うよな…。

 

「普通の人はしらなくても仕方ないわね。召喚師たちの手で秘密にされたんだもの」

「どうして秘密にされてきたんだ? 戦争の歴史って俺達の世界じゃ後々の反省とかに繋がったりするのに」

「それは…」

 

戦争の歴史、悲惨さは後々の人々に伝わるように結構明確に俺達の世界では残っている、

武勲とかそういうのを知る為でもあるけど、ならどうして召喚師たちはその事実を隠してたんだ。

 

『ニンゲンが戦争の事実を隠すという事は召喚術の起源を隠すことに繋がるからだ』

「ガルマザリア?」

 

クラレットのペンダントから声が出てくる、ガルマザリアが召喚術の起源を隠すと言う。

召喚師たちは戦争の事実を隠すことで召喚術の始まりを知られないようにしてるってことなのか?

 

「ガルマザリアそれって…」

『私は胸糞悪い話は嫌いなんだ、聞くならエルエルにしろ』

『………はぁ』

 

今度はクラレットの杖から溜息が聞こえてくる、恐らくエルエルだろう、

俺達の話を聞いていたようだ。

 

「エルエル、出来れば魅魔の宝玉だけでも教えてもらえませんか?」

『私自身、あの悪魔と同じなのはいただけませんが、確かに魅魔の宝玉を伝えるならあの戦争の事を話すのが最適ですからね…』

「まさか…、光の賢者の貴女が語ってくれるのか!?」

「驚いたわね…」

「え…、皆さんは召喚師なのに聞いたりしないんですか?」

 

それを聞くと召喚師たちはそれぞれ困ったような顔をする。

 

「確かに天使から話を聞くことはあっても、過去の事などを伝えたりするのは稀なのよ」

「基本、彼らが我々に協力するのは魔力による等価交換ぐらいだからな」

「そうなのか…」

『それも今から話す事を伝えれば理解できるはずです、クラレット。私を召喚してくれますか?』

「わかりました。――誓約の名の下に…」

 

クラレットが魔力を杖に通すとゲートが開きエルエルが召喚される、

だがそのエルエルは衣服を纏うだけで鎧も剣も装着してなかった。

 

「あれ、いつもと…」

『護衛獣体…、まあいつもより魔力を抑えた形態と思ってください、流石に戦いをする時の姿だと魔力の消耗が激しいですからね』

 

エルエルが全員に顔を向けて真面目な顔をする、そして答えた。

 

『これから話す事に口出しは許しません、分かりましたね』

「ああ、わかった」

「俺もいいぜ、そういうのに口出しすればどんなことが待ってるか知ってるからよ」

「エルエル、お願いします」

『分かりました、戦争の話と魅魔の宝玉に付いて話しましょう、再度言います。私の言う事に口出しは不要です』

 

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『千年ほど前、リィンバウムは大戦が行われました。機界ロレイラル、霊界サプレス、鬼妖界シルターンから侵略者がリィンバウムに侵攻してきたのです』

「あれ…、メイトルパは?」

『メイトルパは侵攻というよりも他の世界から連れてこられる形でリィンバウムに引っ張られて来てましたね。あの世界はある意味リィンバウム以上の被害者側ですから…』

「うにゅ…」

「当然よ、私達亜人がどれだけ苦労してきたか…!!」

「そうなんだ…」

 

メイトルパ出身の亜人たちは身に覚えがあるようだ、

ユエルはイマイチ実感が湧かなく、エルカは色々と聞いてるのか怒っていた。

 

『話を戻しますね。そしてその侵略者に対しリィンバウムの人間たちは対抗できなかったんです。当時の彼らは鉄を精錬するのが精一杯だったと聞きます』

「他の世界は?」

『ロレイラルの技術は今と左程変わらなかったそうです。シルターンは基本妖怪変化や鬼神が主流なので変化せず、悪魔どもも同上です』

 

つまり、リィンバウムの技術力じゃ勝ち目ないって事だったのか…。

そりゃそうだよな、手槍とか剣で銃やミサイルに対抗しろって無理だよな。

 

『しかし、それに手を貸す者たちが居ました、侵攻してきた世界の住人です。シルターンの龍神や鬼神、サプレスの天使、悪魔に恨みを持つメイトルパの聖獣や竜たち、彼らは侵略者と戦う為にリィンバウムに降り立ちました。しかし、人間たちもただ見ていただけではありませんでした…彼らは生み出してしまったのです。送還術を』

「送還術!?」

『送還術というのは対象のエルゴに干渉し相手の意識を支配して元の世界に送還する。そういうモノです。』

「じゃあ、その送還術を使えば…」

「無理ですよ」

「そうよ、送還術はずっと昔に失われた術なの。残念だけど今の時代に送還術を使える召喚師は存在しないわ」

「そうなのか…送還術があれば元の世界に帰れたかもしれないのに」

「実は…」

 

残念がる俺にクラレットは更に追い打ちの言葉を告げて来た。

 

「ハヤトは帰れるかもしれませんけど私はたぶん送還術では帰れないと思うんです」

「え?」

「ハヤトは名も無き世界がハヤトの故郷です。でも私はリィンバウムが故郷になります。ですから送還術では私は帰れないんです…」

「そっか…、ごめんなエルエル、話を続けてくれ」

『ええ、でも人間は送還術では満足しなかった…彼らはこう思った「還せるなら呼び出せないのか?」と』

「それって…」

『そう、貴方達が使っている召喚術、その源流を作り出したのです。ハヤト、貴方の使っている召喚術こそ古の召喚術なのですよ』

「俺の…召喚術が?」

『そう、ゲートを開き界を超える事で魂の力を成長させてその力を高める、それがかつての召喚術なのです。だから誓約に拘らずにあの子たちは貴方に協力してたんですよ』

「そうだったのか…」

「そうか、だから鬼神将を彼は誓約なしで召喚できたのか」

 

そっか…、皆が俺に力を貸してくれるのはその古の召喚術って奴だったからか、

そう考えるとみんなに助けて……あれ? じゃあなんで…。

 

「じゃあなんで誓約なんてモノが出来たんだ?」

『それは……』

 

誓約は召喚獣を縛る鎖だ、強力な誓約ともなるとユエルの首輪の様な物も確認できる。

そう考えると全ての召喚師が誓約なんて使うのはおかしいんじゃないか?

 

『彼ら人間は…』

『エルエル!!それ以上話すな!わかっているのか!』

 

ガルマザリアの怒声に身に着けているクラレットが驚き、

周りの人たちも全員驚いていた、そしてガルマザリアは言葉を続ける。

 

『戦争の話は終わりだ、魅魔の宝玉の話に移るんだ。わかったな?』

『…ッ、分かりました。ハヤトすいません、私はその事をあなたに伝える事は出来ません』

「うん、なんか悪かったよ。その話は聞かないで置くよ」

 

誓約が出来た理由、予想は出来るけどたぶん彼女たちにとって認めたくないモノなんだろう。

 

『魅魔の宝玉でしたね…、私も天使長から聞いた話なので詳しくは知りませんが、対戦も末期に近づき始めたころの話です。悪魔の軍勢に対抗していた召喚師達の中である一族はこう思ったんです。「侵略する悪魔の上位固体なら悪魔たちに抵抗させずに誓約をかけれるのではないか?」と』

「上位固体…?」

『悪魔王…、貴方達が呼ぶ魔王の正式な名称です』

「ちょっと待ってくれ、魔王ってのはそのサプレスの親玉じゃないのか?」

 

エルエルの言葉にエドスが疑問を抱いた、

俺も同じだ、サプレスの魔王っていうんだからサプレスの悪魔達のボスって事じゃないのか?

 

「ハヤト、あなた本当に強さと知識が一致してないわね…」

「彼女ら霊界サプレスの代表的な種族、悪魔と天使は階級で身分が決まっているんだ」

「えっと…」

「ヒエラルキーですよ。ハヤト」

 

ヒエラルキー…、ヒエラルキーって…?

 

「ヒエラルキーって何だ…?」

「…エルエル、説明お願いします」

『話がハヤトのせいでズレるますね、天使は基本的な種族です。天使兵やプラーマなどがそれに分類されますね、その上位が大天使。悪魔と戦う為の戦天使や守護する守護天使などが含まれます。そして最上位が天使長というわけです』

「なるほど…、悪魔側は?」

『それなら私が話そう』

 

ペンダントからガルマザリアの声が聞こえてくる、

どうやらガルマザリアも階級について教えてくれるようだ。

 

『悪魔は最下級がプチデビルや悪魔兵どもだな。その上位が大悪魔、深闇の大公や私が属している。そして最上位に当たるのが悪魔王たちだ、お前たちが呼ぶ魔王という存在というわけだ』

「魔王…」

『虚言、殲滅、略奪、狂嵐、ピンからキリまでいるが。それぞれ相応しい名を持った超越者どもだ』

「それってガルマザリア達より強いのか?」

『十全の状態で挑もうと勝ち目は薄いな、悪魔王とはそれほどの存在だ』

「そうか…、二人ともありがとうな、大体わかったよ」

 

悪魔たちや天使たちについては大体理解出来たな。

 

『では、今度こそ話を戻します。しかし他の召喚師たちは相手をしなかった。その理由は分かりますね』

「当然よ、自分たちの襲ってくる相手に力を貸してもらおうなんておかしいわ」

『そう、襲ってくるのは魔王、そして魅魔の宝玉の完成には魔王の力が必須。周りの者たちは所詮は机上の空論と称し一笑したそうです』

「だけど、諦めなかった…?」

『ええ、幾多の魔王を召喚しようとして逆に一族が消えていく中、世界を救いたい。その一心で一族は魔王を召喚し続けたと言います。そして最後の一人になった時、ついに彼らに協力する魔王が現れたのです』

「なんだって!?」

 

ギブソンさんが大声をあげて驚く、魔王っていう存在がこっちに力を貸すという事自体ありえないようだ。

 

『その魔王の名はスタルヴェイグ、餓竜の悪魔王と呼ばれた魔王たちの中でも上に位置する悪魔王でした。スタルヴェイグは侵略に興味がなかったそうです。しかし人間の負の感情が当時蔓延していたリィンバウムの事を知り、彼に協力したそうです。そこから始まりました…』

「始まった?」

『魅魔の宝玉を使い男は悪魔の軍勢を支配下に置き、敵と争わせ送還する。敵が悪魔ならば決して逆らう事は出来ない、その力を持って彼はリィンバウム中の悪魔を駆逐していったそうです』

「すげぇじゃねぇか、じゃあ戦争には勝ったって事だろ?」

『…そう美味い話ではなかったのです。悪魔王の力を人が行使するのは不可能だったんです。男はその力を行使し続けました、しかし徐々に男の体に異変が起き始めたのです』

「異変?」

『悪魔たちの持つ悪意の総称、通称原罪。それが男の体に悪影響を与え始めました。ひたすら悪魔を駆逐する男はこう考え始めたんです。侵略の原因を絶つべくサプレスを支配しなければならないと、その為にまず戦力を集めるべくリィンバウムの人々を悪魔の力で強化しなければと…』

「ちょっと待てよ!まるで意味が分からないぞ!?」

「それじゃ意味がありませんの!」

 

なぜ男がそんな事を考えたのか意味が分からなかった、

つまり男は戦力強化のためにサプレスの悪魔を人に降ろして強化しサプレスを支配するという事だ。

それじゃ本末転倒じゃないか!

 

『悪魔王の魔力、原罪により浸食、その二つが彼の魂に悪影響を与え続けた結果です。人が悪魔王の力を行使するなど不可能なのです。彼は幻獣に悪魔を降ろし魔獣に変え、人に大悪魔を降ろし悪魔兵に変え更なる戦力を集めるべく、リィンバウムを侵攻したのです。そう新たな魔王が誕生してしまったんです』

「それで…どうなったんだ?」

『男の戦力は強大なモノでした。何せ無制限にゲートを開いて悪魔を呼び出していたのですから、ですがそれも長くは続かなかったのです』

「一体何が起こったんですか?」

『誓約者。後にエルゴの王と呼ばれる英雄が彼に挑んだのです』

 

エルゴの王ってさっきミモザさんが言っていた召喚師を超えた召喚師って人だよな。

確か英雄だって聞いたけど。

 

「伝説のエルゴの王が魅魔の宝玉を鎮めたってこと?」

『いえ、いかに界の意思に選ばれし誓約者とはいえ悪魔の軍勢相手には苦戦は必須でした。しかし彼を支えた者たちもいました。誓約者に選ばれたエルゴの力を預けられし守護者たち、人の身でありながら究極の召喚術を操りし召喚師、そして誓約者に力を貸した至りし竜たる護衛獣。彼らは誓約者と共に戦い見事魅魔の宝玉の持ち主を追い込んだのです』

「至竜が護衛獣なのか…、桁が違うなぁ…」

「……」

 

チラリとクロの方を見ると妙に不貞腐れてる。

いやクロでも俺には十分すぎる護衛獣なんですけどね?

 

『しかし男は最後に恐ろしい存在を召喚したのです。それは餓竜の悪魔王スタルヴェイン、それを自らに降ろしてしまったのです。長きに渡って宝玉を使い続けたせいで男の体は器として十分な存在に作り替えられていました』

「魅魔の宝玉を使い続けると魔王を降ろす肉体に変えられるのか…、じゃあ」

「はい、バノッサさんも時期にそうなる危険があります。何とかしないと…」

『その必要はありませんよ』

「え?」

「どういうことなんですか、エルエル?」

 

俺達の疑問にエルエルが話の続きを答えることで解決していった。

 

『餓竜の悪魔王と誓約者の戦いは熾烈を極めました。しかし最後に勝利したのは誓約者でした。餓竜の悪魔王を倒しそこに残ったのは一つのサモナイト石。それが魅魔の宝玉、誓約者はその石を破壊しようと思いましたがその石を壊すことが出来なかった』

「魅魔の宝玉はエルゴの王でさえ壊せない代物だったのか?」

『そうではありません。膨大な原罪と魔王からのパスを繋いでるその石を砕けば間違いなくその場にサプレスのゲートが開いてしまう。そして砕けばため込んでいる原罪も同じように解放されてしまう、そのせいで誓約者たちは魅魔の宝玉を破壊することが出来なかったんです』

「じゃあ、魅魔の宝玉は…」

『天使長様の話によりますと、守護者たちと至竜、そして誓約者の名の下に封印されたそうです。そして召喚師の手でその原罪と魔王との誓約が消失するその時まで封印し続けると約束されたそうですけど…』

「それが今の時代で再び持ち出されたと…?」

『はい、魅魔の宝玉の原罪は殆ど失われたようで魔王とのパスも恐らく風化してるようなものだと思います。ですからバノッサが魔王に相応しい存在になるまでには幾年の月日が必要でしょう、それを無視すれば魔王になることも可能かもしれませんが』

「……まさかねぇ」

 

エルエルからの魅魔の宝玉の情報を得てギブソンさんとミモザさんが事の重大さを実感したようだ。

 

「我々の間では魅魔の宝玉は古き召喚師たちの遺産。そうとしか伝わっていなかったが…」

「実際は魔王を呼び出す禁忌の呪具って事だったのね…、もうーグラムス様にどう説明すればいいのよー」

『…慰めになりませんが貴方達の上司はこの事を知っていたのかもしれませんね』

「え?」

『このリィンバウムはかつて悪魔たちが原罪をばら撒いて悪意が生まれました。そのせいで魅魔の宝玉の事を秘密にしていたのかもしれません、魔王の力を操れる道具ではなくただの悪魔を召喚する道具として扱おうとしてたのでしょう』

「口伝でしか、伝わらないようにしたってことですか?」

『恐らくそう私は思います。人は悪にも正にもどちらにでも転がりやすい生き物ですから…』

 

そう伝えるとエルエルが光の粒子に変わりサプレスに送還されていった。

場に残ったのは事の重大さが露わになって重苦しくなった空気のみだった。

その空気を破ったのはただ話を聞いていたラムダさんだった。

 

「お前たち召喚師には色々と考えさせられる内容だったが、我々のやることは決まっている。その魅魔の宝玉を破壊し、無色の派閥を討伐することだ」

「でも、魅魔の宝玉を破壊すればサプレスのゲートが…」

「ギブソン、お前はどう思う?」

 

ラムダの問いかけにギブソンさんがじっくりと考えながら答えた。

 

「恐らくだが、魅魔の宝玉を破壊してもサプレスのゲートは開かないだろう」

「はい、魔王とのパスが深く通じてるのならともかく、千年以上も昔のパスです。二重誓約を刻もうとしても恐らくはそこまで深いモノには至らないでしょう」

 

ギブソンさんとクラレットがそれぞれそう答える。

サプレスの召喚師の二人がそういうのなら大丈夫だよな。

 

「決まりだな、無色の派閥を倒すために全員で力を合わせる、クラレットももちろん戦力に組み込む、それでいいな?」

「…そうだな、魅魔の宝玉の危険性が明かされた今、少しでも戦力を出し惜しみする訳にもいかない」

「決まりね。グラムス様に連絡して派閥の部隊もすぐにサイジェントに来てもらえるようにお願いしてみるわ」

「俺は警備部隊と騎士団に通達しとくぜ、もちろんカムランや兄貴にもな」

 

それぞれが改めて協力しあう為に言葉でとりあえず約束したみたいだ。

今は共通の目的があるから手をとりあえるけど…、これがずっと続くといいよな。

 

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蒼の派閥の陣営ではとりあえずミモザが派閥の部隊に手紙を出すために離れていた。

そしてミントは昨日思った事をギブソンに伝えたいたのだ。

 

「怖い…か」

「はい、先輩たちに認められてもらってうれしかったんです。それで舞い上がってしまってあんな目に合って怖くって…」

「いや、直ぐに話してくれて嬉しいぐらいさ。なに、我々だけではなく今だったら彼らのおかげで少人数で動かなくても済みそうだからな」

「はい、皆さんが協力してくれてよかったですね…まあ少し物事が重大になってしまいましたけど」

「そうだな……ところでミント、君はクラレットの事をどう思う?」

「え?クラレットですか」

 

ミントは言葉に悩んだ、どう思うとは一体どのような事を意味してるのか。

とりあえず自分の感じたことをギブソンにミントは伝えようと思った。

 

「私はいい人だと思いますけど、強い召喚術を使えますし、他人の私を気にかけてくれましたから」

「そうか、ミント、君には悪いが、私は彼女が得体が知れなくて不気味に感じるんだ」

「え!?」

「魔王の生贄、言うなら簡単だが彼女は重要な事を話してない、生贄という大きな要素で真実を気づかないように偽ってる様に見えるんだ」

「クラレットが私達を騙してるという事なんですか!?」

 

ミントはギブソンの予測を信じたくなかった、

彼女が昨日の夜に語った事実を嘘だと思いたくなかったのだ。

 

「そういう事じゃない、魔王の生贄は本当だろう。名も無き世界から来たという事も本当だろう、だが彼女は間違いなく何かを隠してる」

「………」

「その隠してる事実はとても大きいモノだろう、恐らくだが彼もその事に気づいてないはずだ」

「ハヤトさんも?」

「ああ、だからミント。君はクラレットのそばで彼女を見ていてくれ、不審な動きを示したら私に伝えるんだ」

「……」

「わかったな」

「はい、分かりました…」

 

認めたくない、でもクラレットが何かを隠してるのは事実だと自分でも理解できた。

それを自分から言ってくれることを信じてギブソンの指示にミントは節々と頷いたのだった。

 

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その頃、ハヤトはクラレットと一緒に情報を集めようとしていた。

その中で街を走り回るアカネの姿を見かけたのだ。

 

「アカネ!」

「お、クラレットじゃない!どしたの?デートかなぁ?」

「違いますよ。情報を集めてたんです」

「……む~つまんない」

「え?」

 

口をムスッとさせてアカネが不貞腐れる、

それを見ていたハヤトとクラレットは口を開いて唖然とした。

 

「ちょ~っと前まではあせあせしてたのに何で余裕なのよ!」

「そりゃ…色々ありましたし」

「まあな、色々あったかなぁ」

「へぇ、色々ね。うん色々かぁ。色々なら仕方ないよね?」

 

何かに気づいてニヤニヤし始めるアカネにクラレットが苦笑いしつつ聞く。

 

「ア、アカネ?何か勘違いしてませんか?」

「いやぁ~? 別に勘違いなんてしてないけどさぁ、ところで今度赤飯なんとか炊いてくるから♪」

「絶対勘違いしてるじゃないですかー!」

「あはは、真っ赤になった♪ まあ、なんていうか……あんまり盛らない様にね?」

「あ、アカネェェーー!!!」

 

真っ赤になったクラレットがアカネに怒鳴ると、

ピョンピョンと軽業師の様に屋根伝いに飛んでいなくなってしまう。

 

「くノ一ってこと隠さなくなってきたなぁ…」

「もう怒りましたよ。ハヤト。シオンさんのお店行きましょう、色々と言いつけてあげますから!」

「…あはは」

 

苦笑いしつつクラレットの横に立つと、少しだけまだ赤い顔でこっちをチラ見していた。

 

「どうしたんだ?」

「いえその…」

「?」

「ハヤトは…恥ずかしくなかったんですか?」

「…あ~、まあ恥ずかしかったけど、ある意味間違ってるわけでもないからさ、な?」

 

俺がそういうとクラレットは息をのんで少し驚く、

顔を隠して少し恥ずかしそうにしていた。言い過ぎたかな?

 

「……ハヤトの方がある意味恥ずかしいです」

「え…?」

「なんでもないですよ。行きましょう?」

 

そういうと俺の手を握ってクラレットがシオンさんのお店へと進んでいった。

しかし何というか…、好きだなぁっと俺はのんびり思っていた。

 

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「こんにちわシオンさん」

「おや、貴方方ですか」

 

あかなべに来た俺達はシオンさんと談笑を初めた、

最初はアカネの話題で色々と言っていたが段々この街の事に変わって来た。

 

「ところで…ここ最近怪しい人たちを街で見ますが何かあったのですか?」

「えっと…色々あって」

「ふむ…」

 

細い目をさらに細くして考えるシオンさん、何となーくだが気づかれている気がする。

 

「所で最近アカネさんの様子がおかしいのですが」

「どうおかしいんですか?」

「出かけるたびに生傷が増えていたり、さぼっていた稽古を急にやり始めたりしてましてね。何かあるのではないかと思いまして」

「あはは…」

 

クラレットが頬を書きながらなんとか誤魔化そうとしてる、

アカネの奴も隠してるなら気づかれないようにしろよ…。

 

「少しばかり危険なお手伝いをさせてもらってるんですよ。アカネは役立ってますよ、私達では出来ないようなこともやってくれますし」

「…そうだな」

「そうですか、不肖の弟子が役立っているなら何よりです。まだまだ分をわきまえていない未熟者ですが、アカネをよろしくお願いします。それでは…」

 

仕事があるのかシオンさんが店の中へと戻っていった。

俺達は余り長居する訳にもいかないのであかなべから離れていくとクラレットが呟くように答えた。

 

「シオンさんは…」

「ん?」

「シオンさんは、何もかもお見通しなのかもしれませんね」

「そうだなぁ…、手伝ってくれないかなぁ」

 

シオンさんが強いのは分かる、何となくだけど。

そんなシオンさんが手伝ってくれるならたぶんかなり楽になると思うけど…

 

「そればっかりは諦めましょう、無理に戦わせるなんて私達には出来ませんし」

「そうだよな、アカネだけでも十分なくらいだな」

 

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孤児院へと足を進めてる俺とクラレット、だけど俺達の視線の先に人影が見え始めていた。

 

「アニキー!姐さーん!」

 

ジンガがこっちの方に手を振りながら走ってくる、

どうやら何か焦っているようだった。

 

「あれって…ジンガですよね?」

「もしかして何かあったのか?」

「アニキ大変だ!!」

 

焦るジンガの姿に俺達も何かが起こったのではないかと焦りが募る、

そしてジンガはその原因を話し始めた。

 

「ジンガどうしたんだ!?」

「南スラムが化け物に襲われちまってるんだよ!!」

「そんな!?」

 

俺達がいない間にあいつらが攻撃を仕掛けて来たのか!?

 

「俺っちが囲いを突破してアニキ達を呼びに来たんだけど、みんながやべぇんだ!アニキみんなを頼む!」

「クラレット!」

「はい!リプシー来てください!」

 

聖霊リプシーが召喚されてそれがジンガにくっ付いて傷と体力を回復させる、

そして俺とクラレットにジンガは走り始めた。

 

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「酷い…」

「狙ったのは俺達だけじゃなかったのか」

 

南スラムに辿り着いた俺達は周りを見渡す、それは酷いありさまだった。

俺達を狙ってきたのではなくまるで南スラム全体を狙っているようだ。

倒壊する建物もいくつか存在し怪我人もそこら中に倒れていた。

 

「クラレット、あの人たちを…」

「ハヤト、堪えてください、魔力は有限なんです。酷過ぎる怪我じゃなければ治療は後回しにした方がいいです」

「そうだけど……わかったよ。ジンガ、あいつらはフラットを狙ってきたわけじゃないのか?」

「ああ、あいつら。街の外に繋がる穴から出てきて手当たり次第に暴れまわったんだ!俺っち達も必死に戦ったんだけど周りの数が多くて全員倒せなかったんだ」

 

どうやら街の外に繋がる外壁の割れ目からあいつらは来たようだ。

だけど狙うなら孤児院だけの方がいいはずなのに、南スラムじゃ俺たち以外に戦える奴はいないんだけど…。

そう思いながら孤児院へと進んでいると見覚えのある人影を見かけた。

 

「ローカスさん!!」

「ッ…、ハヤトか」

 

体中に傷を負ってボロボロになったローカスさんが壁を背に座っていた。

 

「どうしたんですか、そんな傷を負って」

「南スラムの連中が避難するまで時間を稼ごうとしたんだが…あいつ等の親玉がやべぇぐらい強くてな…、このざまさ」

「親玉…?ジンガ、バノッサじゃないのか?」

「アニキ、悪魔の連中を率いてたのは……カノンなんだ」

「カノンさんが!?」

 

カノンが悪魔を率いて南スラムを襲ってきたのか!?

だけど…、カノンがそんなことするなんて…。

 

「申し訳なさそうな顔してるくせにとんでもなく強い奴さ、ナイフも剣も弾かれるし、あの怪力も尋常じゃねぇ。ほら見てみろ」

 

ローカスさんが指さす方を見ると倒壊した建物が見える、

だけど何か変な感じだ。まるで吹き飛ばされたような…。

 

「そのカノンって奴がやったんだよ」

「カノンが…クラレットもしかして…」

「はい、響界種の能力だと思います。カノンさんもバノッサさんと同じように自身の力を使えるようになったのかもしれません」

「カノンが……」

 

あの力を知っていれば途轍もなく恐ろしいモノだと理解できる。

地面を砕くあの怪力を制御できるようになってるんだとすれば…。

 

「急ごう!クラレット!」

「はい!ローカスさん、傷を治してあげられなくてすいません。後で必ず」

「わかってるさ、召喚術ってのは力を使うんだろ。少し休めば歩けるようにはなる、お前らはあいつらを何とかしてくれ」

「わかりました、必ずカノンさんを止めて見せます」

 

そうクラレットが言い、俺の後に続くようにクラレットが走る。

ジンガも気合を入れなおして孤児院へと向かって行った。

 

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全力で俺達が走っていると孤児院が見える場所が見えて来た。

孤児院の前には十数体に及ぶ悪魔の群れと戦闘をしている集団が見える。

 

「誓約の名の下にギブソンが汝の力を望む―――弓を携えし天使よ。悪魔を射て!」

 

召喚されたのは幾多の弓を構えた天使たち。

【クピト】と呼ばれる天使たちは光の矢を放ち、悪魔の群れを撃ち抜いてゆくがそれでも悪魔は消えなかった。

だが光の矢を受け負傷した悪魔をフラットの面々は打倒してゆく!

 

「アシスト頼むわよ。ミント!」

「はい、ミモザ先輩!」

 

ミントはミモザの手を手を握り直接魔力を支援する。

サモンアシストを行いミモザの魔力を更に高めた!

 

「「ロードボレアス!!」」

 

現れたのは猪の頭部を持つ巌の様な巨獣人、手の平で大地を叩き、地面を隆起させ悪魔の群れを分断させる。

分断された悪魔はクピト達に撃ち抜かれて倒れていく。

そしてその様子を見ている少年がいた、カノンだ。

 

「これが召喚師の実力なんですね…。まさか悪魔たちが手も足も出ないんなんて」

 

そう理解して自分が出なくちゃいけないとカノンは足を一歩前に踏み出す。

しかしそれに声をかけて止める者たちがいた。

 

「カノン!」

「やめてくださいカノンさん!」

 

俺達が来たことで安心したのかフラットの面々に余裕の表情が生まれた。

 

「おせぇぞ、ハヤト!」

「悪いガゼル、皆は無事なのか!」

「子供たちは無事だ。ワシらで何とか食い止めてるが時間の問題だっただろう」

 

見かけ優勢に見えたがエドスの視線がカノンに向かっている。

カノンの本気を出した姿を知っている俺たちフラットにとってカノンは油断のならない相手だった。

 

「カノン…」

「ハヤトさん…、やっぱり来たんですね」

「カノンさん、やっぱりカノンさんは…」

「お姉さんの思っている通りですよ。ボクは無色の派閥に…、ソルさんに協力してるんです」

「やっぱり…」

 

カノンは知っててソルに協力してるのか、当然と言えば当然だろう。

バノッサがソルに協力してるってことはカノンがソルに協力してるって事は普通だ。

 

「ここに来たって事は…」

「はい、ソルさんからの指示です。悪魔を使って南スラムを潰して来いと…」

「カノンさん…」

「お姉さん、そんな顔をしないでください…。ボクは誓ったんです。どんな事になってもバノッサさんについて行くって…。バノッサさんはやっと長年の夢が叶いそうなんです。それを邪魔する訳には行きません」

「夢…それって…」

「復讐って事なのか」

 

こくんっとカノンが頷く。

そういえばソルの奴が前にバノッサと自分が兄弟だって言ってたよな、

つまりバノッサの復讐の相手はソルの父親って事なのか…。

 

「お姉さん……、ボクからもお願いします、こっちに来てください。これ以上……バノッサさんと争うのを見たくないんです」

「それは……出来ません、私が無色の派閥に行けば全部終わってしまいます。私はいけない、絶対に…」

「でも………わかりました。ならボクは戦います。バノッサさんの居場所を夢を手に入れるために、ハヤトさんと戦います。ボクはそう決めたんです!!」

 

カノンの体からシルターンの魔力が膨れ上がる、やっぱり響界種の力を制御しているのか。

 

「クラレット、カノンは俺に任せてくれ!」

「ハヤト?」

「エルエルだけ頼む。クラレットは悪魔たちを」

「わかりました! …シンドウの名の下、クラレットが汝の力を求める――光の賢者エルエル!ハヤトに力を貸して!!」

『任せてください、リカバアンジェ!』

 

自分の体の中にエルエルが憑依されるのを感じる。

クラレットの魔力が繋がり全力の力を出せるのを感じるとカノンに剣を向けた。

 

「それがバノッサさんを追い詰めた力…、行きますよハヤトさん!!」

「来いカノン!!」

 

カノンは魔力を体に滾らせて俺に突っ込んできた、そして俺も全力でそれを迎え撃つ。

ガキンッ!と大きな音を立てて剣と剣がぶつかり合ったのだ。

 

---------------------------------

 

「シンドウの名の下クラレットが汝の力を望む――、来たれ地の悪賊。魔臣ガルマザリア!!」

 

クラレットはサプレスのゲートを開き、ガルマザリアを召喚した。

 

『デヴィルクエイク!』

 

開幕ガルマザリアがデヴィルクエイクを放ち、悪魔の群れを吹き飛ばそうとするが、

悪魔たちは多少ダメージを受けたようだが、送還されずに立ち上がってくる。

 

「これって…」

『固定化が予想以上に進行してるな…、恐らく魅魔の宝玉の力が前よりも高まってるのだろう。一筋縄ではいかんぞ』

「わかりました、ガルマザリア。行きます!」

 

恐らく魅魔の宝玉の力をバノッサさんがさらに引き出せるようになってるんですね。

不安定だった召喚獣の固定化が更に強くなれば悪魔たちの力もさらに引き出される…。

ガルマザリアの言った通り一筋縄ではいきませんね。

 

「クラレット!悪魔たちを召喚術だけで倒すのは難しい。別の属性で攻めるんだ!」

「はい、ギブソンさん!ガルマザリア、デヴィルスナッチ!!」

『よし、レイド。力を与える!』

「!? わかった頼む!」

 

ガルマザリアがレイドさんに憑依してレイドさんの魔力を高める。

レイドさんは魔力操作は殆ど出来ないので私が上手く操作してその力をコントロールすることにした。

 

「凄い…、これが憑依召喚なのか」

『いつも以上に体が動くはずだ。力加減を間違えるなよ』

「ああ、任せてくれ!」

 

ガルマザリアの力を受けたレイドが一体の悪魔を一撃で切り裂いて送還させる。

その力にレイドは驚いたがすぐに気持ちを切り替えて別の悪魔を攻撃した。

そしてクラレットも彼女のもう一つの適正、メイトルパの召喚術を発動させる。

 

「シンドウの名の下にクラレットが汝の力を望む――来てください!ペンタ君ボム!!」

「クラレット、それってミモザ先輩の!?」

「よーっし!私も行くわよー! ペンタくーん、ボム!!」

 

ミモザとクラレットが同時にペンタ君ボムを召喚する。

同時に召喚したせいなのか雨の様にペンタ君が降って来て悪魔の群れをその爆発で吹き飛ばしていった。

 

「ど、どうなってるのよ~!?」

「わ、分かりません。たぶん同時に同じ召喚術使ったせいでゲートが予想以上に!?」

「……やり過ぎだ」

 

予想以上の威力の前に全員が驚くが、それを好機と思ってギブソンの召喚したクピトは光の矢を放ち続ける。

そしてフラットの面々はドンドンと悪魔を駆逐していったのだった。

 

---------------------------------

 

爆発などかなりの影響をハヤトとカノンも感じていたが二人は互いに剣を交えるのに集中していた。

しかしその結果は…。

 

「だぁっ!」

「うわっ!?」

 

カノンの攻撃を受け流し、カノンの肩を切り裂いて空いてる手でカノンをハヤトは殴り飛ばした。

恐ろしく頑丈なカノンの体にハヤトは攻撃しても平気だと理解して剣を振るう。

そしてカノンの攻撃はハヤトには効かない、どんな強力な力を持っていても当たることは無いのだ。

 

「はあ…はあ…」

「……カノン」

 

戦う意思は感じられるが、カノンとハヤトの実力の差は歴然だった。

ウィゼルという師を持ち、命を削るような戦いをしてきたハヤトはカノンでは相手にならない。

そのうえ、ガイエンの記憶を一部上書きされてる影響か彼の剣の歪みがなくなっているのだ。

本来なら何年もかけて極める剣技の真髄の僅か一部を得ている、

魔力ありの剣の実力ならレイドやラムダとも張り合えるほどにまで高まっていた。

だから分かったのだ、いくら強大な力をカノンが持っていようと今の自分には勝てないと。

 

「もうやめようカノン、これ以上戦ったって意味がない」

「意味がないわけないじゃないですか…、ボクの目的はお姉さんをバノッサさんの下に連れていくことなんです。そしてフラットを出来る限り潰せと言われました…」

「だけど、悪魔の軍勢だってもうほとんどやられてるじゃないか!このまま俺がここで時間を稼いでれば悪魔たちは全滅する」

「………」

「これ以上戦ってもカノンは俺には勝てない。戦っててわかるんだ、自惚れじゃない、カノンは俺には勝てないんだって」

 

その言葉を聞いてカノンは目を瞑る、カノン自身も分かっていた。

本気を出してないとはいえソルを追い詰め、バノッサを倒せる実力者に上がったハヤトを自分なんかが倒せないってことを。

 

「ハヤトさんは優しいですね…。敵であるボクの事を気遣ってくれるんですから」

「俺は…、カノンの事を敵だなんて思ってない。だってカノンは…」

「だからボクは……」

 

そういい、大きくカノンは深呼吸をする。

ハヤトはそんなカノンを見て思った、カノンはバノッサの頼みをただ聞いてるだけだと。

だから悪魔の軍勢を率いてカノンは南スラムに侵攻してきたのだと、そう思っていた。

だがハヤトは気づかなかった、思いもよらなかった、カノンが南スラムを襲う、

たとえどんな理由があったとしても決して彼がそんな事をしない。そう理解していれば…。

 

「本気で貴方を殺せるんです!」

「か、カノン?!」

「バノッサさんの居場所を奪った、バノッサさんに復讐を思い出させた、バノッサさんをあんな場所に連れていく原因を作ったハヤトさんが憎い!!」

 

突然のカノンの変貌にハヤトは戸惑った。

赤い目をギラつかせてカノンの魔力が更に暴力的に変わっていく、それだけではない。

 

「カノンの体が…!?」

「憎い憎いにくいにくいにくいニクイニクイニクイニグイグウゥゥゥゥ!!ウワアァァァァッッ!!!!」

「カノン!!」

 

カノンの体が変化してゆく赤い魂殻が溢れ始め、固定化してカノンの体が鬼へと変じてゆく。

体は膨れ上がり肌は変色してゆく、そして片腕が肥大化して剛腕へと変化した。

 

「なにが…どうなってるんだ!?」

『鬼神憑依…、カノンは召喚呪詛をかけられてます!』

「鬼神憑依って、俺がやってるやつとは全然違うじゃないか!」

『貴方は異例です!恐らくカノンに適性の高い鬼神を降ろして鬼人に強制的に変じさせてるんです!』

「ボグハ貴方ヲ倒ス!バノッササンノ為ニ!!」

『来ます、避けて!』

「ぐっ!?」

 

鬼の脚力から一気に突っ込んできたカノンは肥大化した右手で俺の居た場所を攻撃した。

その威力から大地は砕かれクレーターが形成される、それを見てゾッとした。

まともに受けたらバラバラになる…、この攻撃に当たっちゃだめだ!!

どうやってカノンを戻せば…。

 

「エルエル、どうすればカノンを戻せるんだ!」

『彼の魔力を消すか、もしくは気絶させるしかありません。クラレットを呼んで召喚術で対処するしか』

「それしか…ッ!?」

「モライマシタ!ハヤトサン!!」

 

エルエルとの会話に意識が向かっていたせいでカノンの動きに気づかなかった。

ジャンプしたカノンが上空から俺を叩き潰そうと手を伸ばす。

だが俺も飛びあがってカノンの攻撃を避け、今度は本気で剣を振り下ろした!

 

「な、なんだよこれ!?」

 

ガギンッ!っと音が鳴る、まるで鋼鉄を叩いたような音が響く。

魔力さえ込めたハヤトの剣は鉄さえ両断できる自信がある、それなのにそれ以上に今のカノンは硬いのか!?

その動揺がいけなかった、ハヤトは叩き落とされる形で地面に叩き付けられた!

 

「ガハッ!」

「コレデ終ワリデス!!」

 

叩き付けられたが、エルエルの自己回復能力でハヤトは何とか立ち上がった。

だがそれを狙う様にカノンがこちらに迫ってくるのを気づきハヤトは召喚術を使う。

 

「来てくれ、ガイエン!真・鬼神斬!!」

 

召喚されたガイエンはカノンの変貌に驚くが、すぐに指示通り剣に魔力を通し奥義を放つ準備をする。

そしてかつてカノンを打ち破った鬼神将の秘剣がカノンに襲い掛かるが…。

 

「ぐルルルルグガァァァァ!!!」

 

雄叫びの様な怒声を張り上げ、カノンは拳に魔力を通し真・鬼神斬を正面から捻り潰す!

衝撃で地面が抉られるが、構わずガイエンをそのままカノンは殴り飛ばして送還させた。

 

「そんな、ガイエンが!?」

「コレデ終ワリデス!ぐガァァァァ!!!」

 

再びハヤトに向けてカノンが迫ってくる、強靭な体と暴力的なその腕力から繰り出される攻撃が危険極まりなかった。

単純に強力な魔力持ちや強い召喚獣の固体、そして剣技を持つ者たちなどハヤトは相手にしてきたが、

今のカノンはそのどれにも当てはまらなかった、どんな攻撃も受け付けない体、強すぎる腕力、そして生き物としての本能的恐怖、

それがハヤトは臆してしまった、今までにない相手とあのカノンの変貌で恐怖してしまったのだ。

突っ込んでくるその姿を目視したくないせいでアーマーチャンプを召喚して心を落ち着かせる時間を稼ごうとする。

だがそれはカノン相手には余りに悪手だったのだ。

 

『それは悪手です!ハヤト、避けなさい!!』

「あっ!?」

「ぐルルルらァァァァーー!!!」

 

――怒剛!鬼神撃ッ!!

 

物理法則すら捻じ曲げ、アーマーチャンプに撃ち放たれた衝撃は鉄巨人をハヤトに向けて弾き飛ばす!

ハヤトは迫り来るアーマーチャンプを避けようと飛ぶが一歩遅く吹き飛ぶ鉄巨人に激突してしまった。

そしてそのまま後ろの建物に突っ込み建物は倒壊する、ハヤトは崩れてゆく建物の中でカノンを見た。

シルターンの魔力を全身に滾らせ狂気を目に宿しゆっくりとこちらに近づいてくる姿を…。

 

かつてクラレットが言っていた響界種は世界の異物だと、

なんで異物なのか、彼らの普通に生きてるじゃないかと。そう言うと悲しい顔をしてクラレットは「そうですね…」と言っていた。

俺は分かっていなかったんだ。どっちつかずの存在がこれほど危険だという事を…。

迫り来るカノンの姿はどう見ても人に見えなかった、それどころか召喚獣にさえ見えない…。

 

―――あれはまるで化け物だ。俺は心で否定しつつそう思ってしまったのだった。




魅魔の宝玉の設定はオリジナルです。
U:Xでカシスがメルギトスから真鍮の玉を貰っていたそうで、
なんか効果が魅魔の宝玉と同じだなって思いました。
それで魔王の力があれば魅魔の宝玉作れるのかと思い、こんな設定に。
悪魔に変わるところも同じだしね。

カノン君の事、天使とか言ってたくせに扱いを酷くしてしまった。
正直ハヤトが強くなり過ぎで…、その弊害です。
カノンをこんな風にした奴が全部悪い!(責任の押し付け

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