サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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結構書き進んでたのですが、FGOとかグラブルとか
色々とイベント重なっててすまんかったわ、
そんなこんなでもう25話です。一話で3話分使ったわw


第25話 少女は苦しむ

戦いは更なる佳境に入っていた、

バノッサを打ち破ったハヤト達に今度はソルが姿を現したのだ。

そしてソルはハヤトを始末するべく召喚術を発動させた!

 

「握り潰せ、シェルプレッシャー!!」

 

ソルは黒のサモナイト石に魔力を通し召喚術を発動させる、

召喚したのは、シェルプレッシャーと呼ばれる巨大な機械兵士の手だった、

それがハヤトたちを押しつぶす為に突き進んでゆく!

だが、彼らもただこっちに来るのを待っているだけではなかった。

 

「エルエル、憑依解除。そのままスペルバリアです!」

「誓約の名の下に――我らを守れ!【グラヴィエル】!!」

 

ハヤトから光の粒子が抜け出て形が構成される、

同じタイミングでギブソンも再び大盾を構えた守護天使を召喚した。

 

『グラヴィエル、あなたがメインです!守る事こそ天使の本分、防ぎなさい!』

 

エルエルの補助を受けてさらに巨大化する大盾がシェルプレッシャーを正面から防いだ。

霊界サプレスに住む者たちは純粋な魂の者たちがほとんどだ、

自身の存在の一部を他者に分け与える事によりその力をさらに高めさせることが出来る、

その効果で大盾を更に巨大にしたのだ、召喚獣側のサモンアシストの要領だ。

 

「凄い…、流石は光の賢者だ」

「ギブソンさんの守護天使が協力してくれたお陰ですよ。今度はこっちの番です!」

 

クラレットはシェルプレッシャーを抜けて出る二つの影を見た、

ユエルとクロだ、クロは先手をうちソルを止める為に突っ込んでいた。

ユエルは異常な恐怖を感じるソルに毛先一本までピンと立てて震えていた、

だがそれと同じぐらい、ここにいる全員を守りたいと思った、

そしてクロが突っ込むのを見ると勇気が湧いてきて、気づいたら突っ込んでいたのだった。

 

「ウオオオオォォォーーー!!」

「!!」

「ッ、邪魔だ!」

 

ソルが剣を抜き放ちユエルに攻撃するが、それをユエルはわざと受けた、

オルフルの硬い筋骨がソルの剣を防いでそのまま手放さないようにソルの手を握った。

 

「何ッ!?」

「これで逃げられないよ!」

「!!」

 

クロがユエルの考えを察してソルの顔面を打ち抜いてすぐに終わらせようとするが、

ソルは倒れるように体勢を崩して自らの影の中に沈んでいく、

元々バノッサを迎えに来るのが目的だったため、影のゲートを開きっぱなしだったのだ。

 

「うおッ!?」

 

ついでなのか、跪くバノッサも影の中に沈めた。

 

「ムイ!」

「う、うん!」

 

ユエルはクロの忠告を受けてソルの手を外した、その瞬間、影から刃が飛び出て、

クロに引っ張られる感じでユエルがクラレットたちの所に引っ張られていった。

 

「ユエル、直ぐに治療します。エルエルお願いします!」

『動かないで』

「うん」

 

傷口にエルエルが手を当てると光が迸り、傷があっと言う間に塞がっていく。

 

『……お前、単体回復できたんだな、駄天使』

『五月蠅いですよ!治癒の奇跡など天使には当然の能力です。それより感知はどうなんですか!』

 

ギブソン達やガルマザリアが影のゲートで逃げたソル気配を探っている、

すると工場の外から強い魔力を彼らは感じたのだ。

 

「外です!工場ごと吹き飛ばす気です!」

「なにっ!?」

 

その瞬間、巨大な二つの鉄の拳が工場に直撃し工場を倒壊させたのだった。

 

---------------------------------

 

工場の外にはバノッサとソルがいた、ソルが召喚したのは星空の機神と呼ばれる機界大戦の時に使われた大型の機械兵士だ。

巨大な拳を撃ち放ち敵を打ち崩す攻撃に工場はなすすべもなく倒壊したのだった。

 

「おい、やっちまったんじゃねェのか?」

「このぐらいでやられる訳がない」

 

倒壊した工場をじっと見つめるソル、

だが工場から何かがこちらに向かう気配がなかった。

違和感を感じてより周りの気配を探ろうと意識をソルは集中させた。

 

「……ん?」

 

ジャリと足元の影に不意に意識を向けると、僅かだが影が揺らめいているのに気づく。

 

「くそっ!」

「あァ…? ガッ!?」

 

ソルはバノッサを蹴り飛ばして召喚術、ダークブリンガーを自身の影に向けて放とうとした。

しかし僅かに遅く、影の中からハヤトが姿を現して魔力を宿した剣を思いっきり振ったのだ!

 

「は、はぐれ野郎!?」

「影を使うとはな、奴の仕業か!」

「逃がすかぁ!!」

 

倒壊する工場の中でクラレットが行ったのはソルが通った影のゲートを再使用する事だった。

不意を突き、尚且つ相手の居場所を完全に把握できる手段、それに選んだのだ。

ハヤトはガルマザリアを憑依してサプレスの適性の高くしてあるキルカの衣服を纏っていた為、

影のゲートを使いソルに奇襲を仕掛けたのだった。

 

「シャインセイバー!!」

「ふんっ」

 

ソルは落ち着いてシャインセイバーを正面から防ぐ、

ハヤトがいくら魔力が高くなろうと彼の扱う魔力には限度がある、

それはソルを超えられるモノではなかった、シャインセイバーを全て防いだソルは召喚術を使う。

 

「焼き尽くせ、狐火の巫女!」

 

召喚したのはシルターンの妖怪変化、狐火の巫女、

札を操り浄化の炎を発動させハヤトを襲うが…。

 

「エルエル、スペルバリアです!」

『任せなさい!』

「なにっ!?」

 

閉じ欠けたゲートから出てきたのはクラレットとエルエルだった、

飛び出した彼女は放たれる召喚術からハヤトを守る。

 

「ハヤト、行きますよ!」

「ああ!」

 

クラレットがハヤトに合わせて憑依されたガルマザリアを援護する、

彼が剣を振れば剣に魔力を流し、移動に力を入れれば足腰に魔力を注ぎ込む。

ガルマザリアはエルエルと違い、攻撃的な魔力を持ってるせいで制御が難しいが、

それをクラレットは完璧に制御してソルに対抗していた。

 

「潰せ、金剛鬼!!」

「そんなもので!」

 

巨大な鬼を召喚してハヤトをこん棒で叩き潰そうとするが、

それをハヤトはかわして、金剛鬼の切り倒し、送還させる。

そのままソルに斬りかかり、攻撃し続ける、ソルは召喚もままならない状況だった。

 

「…なぜ」

 

ハヤトの剣も憑依召喚によるブーストも逸脱している、

原因はやはり鬼神を憑依したことだろうとソルは思った、

魂殻にガイエンの記録が一部上書きされそのせいで実力を底上げされている。

だがそのせいで…。

 

「鬼神を降ろした代償か、そのせいで強くなったようだな」

「代償…?」

「気づかなかったのか? お前の魂に負荷が掛かり寿命が犠牲になっている事に」

「……やっぱりそうなのか」

 

ガイエンを憑依した時、胸の奥の何か…、たぶん魂なんだろうな、

それが磨り潰されそうな感覚があった、アレの事なんだな…。

 

「自分の命を削って、それでもあの女を守る価値はあるのか」

「! あるに…、決まってるだろ!!!」

 

魔力を全力で剣に宿して爆発させるようにソルにぶつける、

ソルはその攻撃を防いで後ろに吹っ飛ばされた!

 

「命を懸けてでも守るって決めたんだ! それぐらい懸けてやる!!」

「……ハヤト」

 

嬉しかった、でも同時に辛かった、想いだけでなく彼が実際に命を削ったことが、

だからここに立つ、ソル兄様と戦うのはつらいけど、それ以上に…。

 

「ハヤトをこれ以上犠牲になんてできない、だから私も戦います!ソル兄様!」

「なら、防いで見せろ!――ベズソウ!ギア・ランペイジ!!」

 

ソルが召喚したのは二体のベズソウ。

左右に飛びハヤトの体を切り裂こうと左右からビームソーを展開して接近してくる!

 

「エルエル、ハヤトを!」

『お任せください!』

 

ハヤトが一体のビームソーを防いで後方から迫ってくる、

もう一体のベズソウをエルエルが割り込んでそれを防ぐ、しかしソルは更に召喚術を行使してきた。

 

「動けまい、――誓約の名の下にソルがその力を望む…、来い!エレキメデス!!」

「エレキメデス・・・!」

 

ハヤトとエルエルが攻撃を防いでる隙をつき、召喚されたのはエレキメデスだ。

端子から電気をバチバチと打ち鳴らしてハヤトたちに膨大な電撃を撃ち放った!

 

「ボルツテンペスト!!」

「くそっ!」

 

目の前のベズソウに足止めをされているハヤトには何もできない、

電撃がこちらに迫ってくるのを感じてグッと体に力を入れて堪える準備をする。

 

「させません!」

 

クラレットは走り出し、ハヤトの横に立つと全力で結界を展開する。

それはエレキメデスのボルツテンペストを防ぐことに成功してハヤト達を守ることが出来た。

だが、それを見たソルはそのままエレキメデスを維持し始めた。

 

「何時までもつかな」

「!?、クラレット!」

 

電撃を防ぐクラレットの結界が段々と小さくなっているのをハヤトは気づいた、

つまりクラレットはソルの攻撃に対抗しきれてないという事を意味している。

このままじゃクラレットは…、そう考えるが当人はそうは思ってなかった。

 

「選んだのがエレキメデスだったのが敗因ですよ、ソル兄様!」

「くっ!?」

 

結界が一気に収縮しハヤトとクラレット、エルエルだけを防ぐ、

多少電撃の影響を感じるが、二体のベズソウはエレキメデスの電撃を受けてしまい、

爆散して送還されてしまった。

 

「ガルマザリア、憑依解除!」

『任せろ! 駄天使、道を開け!!』

『誰が駄天使ですか! バニッシュレイド!!』

 

クラレットの指示で憑依解除されたガルマザリアがエルエルに指示を出す、

エルエルは光の剣で電撃を弾き飛ばし、その瞬間を狙ってガルマザリアが上空に飛び出した。

魔力を高めたガルマザリアはエレキメデスに突っ込んでゆく。

 

『ドゥームクェイク!!』

 

ガルマザリアは広範囲に拡散するデヴィルクェイクを一点に圧縮させてエレキメデスに直接叩き込んだ!

そのあまりの威力に耐え切れずエレキメデスが爆散されて送還されてしまう。

だが、その効果はそれだけではなかった。

 

「グゥゥッ…!」

 

ソルはクラレットの膨大な魔力の逆流を受けて膝を付いた。

サプレスのエルゴを身に宿す彼女の魔力は質も量も段違いだった。

細い管に無理やり液体を押し込んだのに近い現象がソルを襲っていた。

だが、苦しんでいるのはソルだけではなかった。

 

「はあ…はあ…、ぐぅ!」

 

杖で体を支えてクラレットは顔に手をやり苦痛の表情を浮かべていた。

ガルマザリアにエルエル、最上位に匹敵する召喚獣二体が彼女に負担をかけていたのだ。

誓約の縛りによる魔力の消耗は殆ど無いが、護衛獣の様に使うには二人は余りにも強すぎる存在だ。

魔力も十分だったが、二人の力を制御する分、クラレットに負荷が掛かっていた。

単純に二人の力に慣れ切っていないのが原因だったのだ。

 

「今しかない…、来てくれ!鬼神将ガイエン!!」

 

ハヤトはソルに決定的な隙が出たのに合わせて鬼神将を呼び出す。

撃ち放たれるのは鬼神将たちの最大の奥義だった。

 

「真・鬼神斬!!」

「な…めるなぁ!!」

 

ソルは召喚する時に反動がほぼかからない無色の召喚石を使用する。

召喚するのはダークブリンガー、幾多にも重なってガイエンの大太刀にぶつかってゆく。

防ぐのが目的ではない、回避する時間を稼ぐのが目的だった。

重い体を無理やり動かしてソルはガイエンの攻撃をギリギリ回避して吹き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

「くっそぉ…はあ、はあ」

 

ハヤトもガイエンの攻撃を回避され、ガイエンは送還されてゆく、

ハヤト自身の魔力は少ない、真・鬼神斬を使えば憑依状態ではない彼の魔力は枯渇気味になってしまう。

剣を構えて、クラレットを支えなおし、ハヤトはソルを睨んだ。

そして同じように二人を挟むようにガルマザリアとエルエルも武器を構える。

 

『負荷をかけすぎです。悪食悪魔!クラレットを殺す気ですか!!』

『どっちが酷使してるんだ? 今は奴を倒すのが先決だろ、貴様がすぐに攻撃を仕掛けてればそれで終わっていたんだ。この駄天使』

『あなたは…!』

「すいません…、少し戻します」

 

そう言うと二人の了承を得ずにクラレットはガルマザリアとエルエルを送還する、

落ち着くように呼吸を整えて、クラレットはソルの方に視線を合わせた。

 

「まだ…、戦いますか?」

「………」

「まだまだ戦えるぞ。お前に至竜は使わせる暇は与えない!」

「ギブソンさん達もいずれここに来ます。そうなればソル兄様に勝ち目はありません!」

「確かにそうだな…」

 

体を起こしてソルはそう伝える。それを聞いてクラレットは杖を降ろすが、

逆にハヤトは警戒を高めた、この男の切り札があれほど使いにくい代物だけとは限らないからだ。

 

「これまで使う羽目になるとはな…」

 

ソルが自信の影を見つめると影が揺らめき始める、

そしてソルが影に手を伸ばして影の中に手を入れると、何かを掴んだ。

ゆっくりとそれが引き抜かれようとして……。

 

「!?」

「な、なんだ!?」

 

突然、ソルの影が肥大化してソルを包み込もうとする。

同じようにバノッサの影も彼を包み込み始めるのが見えた。

 

「戻れという事か…ッ」

 

舌打ちをしつつ影に飲み込まれるソル、

ハヤトは逃がすわけにはいかないと剣を構えて攻撃を仕掛けようとするが。

 

「ハヤト、ダメ!!」

「クラレット!?」

 

クラレットが俺にしがみ付いて首を振る、

それは警戒ではなく恐怖の表情を現していた。

 

「近づいちゃダメです。アレに近づいたら…!」

「……わかった」

 

クラレットが何を感じ取ったのかは分からないが、

ソルたちを回収するために影の悪魔を使役している存在は恐ろしいってことだよな、

クラレットがここまで恐怖するんだ、近づいたらきっとやばい…。

そう思いながらソルを睨んでいるとソルが口を開いた。

 

「お前たち二人は強い、だが次会う時が最後だ。貴様は必ず殺す、その事を忘れるな」

「……ああ、次で最後だ」

「…ふん」

 

そう言い放つとソルは影に飲み込まれてこの場から消失した。

しばらくたって何も感じなくなると俺達は息をついて安心した、どうやら乗り切れたみたいだな。

 

「…あ」

「クラレット!?」

 

安心するのと同時にクラレットが倒れてしまう、

俺はそれを支えたのだった。

 

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ハヤトがクラレットを支えながら寝かせているとギブソン達がここに来てくれた。

急いできたようで、全員息を乱している。

 

「ハヤト、大丈夫!?」

「大丈夫だよ、クラレットは少し疲れてるだけだから」

「あはは…、ごめんなさい。流石にあの二人を同時に召喚するのはつらくって…」

「おめぇが無事ならそれでいいぜ、全く二人して影に突っ込むからビビっちまったぜ」

 

ユエルとガゼルがホッと息を吐いて安心してくれる、

あの場で逃がしてるとゼルゼノンを召喚される可能性があったからちょっと無茶したな。

 

「それで、ソル・セルボルトは?」

「影の中に飲まれて行きました。多分、もうこの辺には居ないと思います」

「そうか…、逃してしまったか」

「逃したっていうより、逃がしてもらったってのが近いんじゃない?」

「……確かにな」

 

ギブソンさん達が苦い表情をしている、多分ソルの強さを知ってるんだ。

だから倒せるはずなのに引かれたから、逃がしてもらったと思ってるんだな。

 

「…………」

「ミントさん、大丈夫ですか?」

「え…う、うん、平気だけど…、あ!平気ですけど」

「そうですか…それならよかった…、ッ」

「自分が一番平気じゃないだろ? もう少し休んでなよ」

「そうですね、流石に無茶が過ぎました」

 

クラレットの様子も気になるがやっぱり今はミントだな、

意気消沈してるっていうか…怯えてるっていうか…、

多分、今回がもしかしたら初めての戦闘なのかもしれないな。

とりあえず、皆に声をかけないと…。

 

「取りあえず今日は戻りましょう、ギブソンさん達は泊まる所とかありますか?」

「いや、近場の街に派閥の部隊が駐在している、そこまで戻るつもりだが…」

「だったら今日はうちに泊まっていきませんか? 明日色々話したいですし…、いいよなガゼル?」

「まあいいけどよ、金は置いてけよ、泊めるのだってタダじゃねぇんだ」

 

ミモザさんが「それなら大丈夫よ」と言って指でOKサインをしてくれる。

単純にお金はあるって合図かも知れないけど、とにかく孤児院にみんな泊まることになったようだ。

歩けないクラレットを背負って俺達は孤児院へと帰ることにしたのだが…。

 

「おいおい、なんだよこりゃ!?」

「あ~…、面倒なことになったな…」

 

そこに現れたのは何人かの兵士と召喚師を連れた男、

オールバックの髪に白いコートを着て、腰にはドスを下げている、キムラン・マーンだ。

 

「おい、そこのお前たち!」

 

兵士の一人が俺達に気づいて武器を構えてくる、

それに反応したのかギブソンさん達の目つきが少し変化したのを感じた。

 

「マズいわね、彼らって金の派閥でしょ?どうするギブソン」

「ここで厄介ごとを起こすわけにもいかないが…」

「…また」

 

蒼の派閥と金の派閥はそれぞれ仲が悪いが直ぐにでも戦闘になるわけじゃないと思うけど…

それにミントが俯いてる、もしかして戦いに苦手意識が付いてしまったのか?

そう思っているとキムランがこっちに気づいてくれた。

 

「おお、ハヤトじゃねェか。まさか工場をぶっ壊したのはお前か?あァん」

「そう威圧する癖やめろよキムラン、ギブソンさん達が勘違いするじゃないか」

「っと、それもそうだったな。おいお前たち、こいつらは俺に任せて他に怪しい奴がいないか調べてこい!」

 

そう指示を出すと兵士や召喚師たちが動き始めて散ってゆく、この場に残ったのは俺達とキムランだけだった。

キムランはギブソンさん達に目を向けると挨拶を始めた。

 

「俺はマーン三兄弟、次男のキムランだ。この街の警備隊長をやっててな、お前さん達は何者だ?」

「我々は蒼の派閥の召喚師だ。私はギブソン・ジラール」

「私はミモザ・ロランジュよ」

「…ミント・ジュレップです」

「蒼の派閥だとぉ!?」

 

キムランが大声を出して蒼の派閥の名を叫んだ、そしてジッと睨んでるクラレットの目線に気づき咳を鳴らして落ち着く、

キムランもクラレットに顔が上がらないみたいだな……、ファミィさんって人に似てるのかな?

 

「済まねぇな、驚いちまってよ。で、蒼の派閥の召喚師さんがこの街に何の用だ。あァん?」

「それは…」

 

ギブソンさんが口を濁す、多分魅魔の宝玉の事を知られたくないんだろう、

だけど今、そんな事を言ってる場合じゃないからな…。

 

「キムラン、今はクラレットを休ませたいんだ。それに工場をぶっ壊したのはソルだから」

「ソルって…、あのソル・セルボルトの事か、早々仕掛けてきやがったってわけだな?」

「ああ、だから明日、孤児院に来てくれないか?」

「はい、関係者を集めて話し合いをしておきたくて…」

「そうだな、あんなやばい奴を放って置いたらマズいからな、じゃあ明日にでもフラットに向かう事にするぜ」

「それと、イムランさんには明日の講義をお休みという事も」

「おう、兄貴には俺から伝えとくからよ。お前さん達はゆっくり休んどきな、じゃあ蒼の派閥の連中も明日にでも話すという事で構わねぇよな?」

 

キムランに話を振られてミモザさんがそれに答えた。

 

「ええ、私達も出来る限り情報を伝えるわ」

「ミモザ」

「仕方ないわよギブソン、これ以上は私達や派閥の部隊じゃ対応できないわ」

「…それもそうだな」

 

やはり派閥の問題は派閥でなるべく解決したいのだろう、

だけどサイジェントが既に関わってる時点で協力し合わないとマズいからな…。

 

「よーし!お前ら撤収だ。あと騎士団の連中に任せときな!」

 

そう指示を出すとキムラン達は部隊を引き連れて去っていった。

するとミモザさんが興味津々で俺に声をかけて来た。

 

「凄いじゃないハヤト、まさか金の派閥の人と普通に喋れるなんて」

「えっと…、色々ありまして…」

「彼らはマーン家の客分召喚師という事らしい、それでつながりがあるのだろう」

「え…うぎゅ!?」

「?」

 

余計な事を言わせないために背ってるクラレットが俺の首を軽く締めた、

聞こえないように「話を合わせてください」とクラレットは言っている。

どうやらミモザさん達は気づいていないようだ、良かった…。

 

「ええ、一応。ミモザさんの時は蒼の派閥って聞いてたんで少しテンパっちゃって」

「あー、通りで…。ところでハヤト、貴方って全部の属性の召喚術使えるの?」

 

あ…、マズった。そういえばクロが護衛獣って言ったし、リプシーでミントを治療したよな。

それにガイエンとアーマーチャンプも使っちゃったな…、どうしよう。

 

「えっと…その…」

「それについても明日でいいですか?」

「クラレット、もしかして君の話していたその人と言うのは」

「はい、ハヤトの事です」

 

ギブソンさんが俺の事を見ている、確かに色々とクラレットが話したみたいだな。

だけど、俺から余計なことをいう事が出来ないのでとりあえずこの場を切り抜けることにする。

 

「とりあえず、俺達の住んでる所に案内しますよ。今回の事に関わった人たちも多くいますから」

「そうか…、とりあえず明日だな」

 

それで納得してくれたのか、ギブソンさんはそれ以来あまり会話に参加しなかった。

何か考え事をしてるようだ、面倒な事にならなきゃいいんだけど…。

それとミントの事も気になる、やっぱり今回の戦いで少し辛いのかもしれない。

まともな戦いは今回が初めてだと思うし、人が悪魔に変わる所も見てたからショックなんだろうな。

何とか声をかけてあげたいが、言葉が見つからずそのまま俺達は孤児院へと到着したのだった。

 

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夕飯が終わり、私は最後にお風呂に入っていた、

体には召喚術で治しているが少し残った傷跡や、杖を握りしめている為出来てしまったタコなどが目に映る。

この二か月で随分と変わった自分の体を見ながらこれから起きることを考えていた。

 

「ふう…」

 

あの後、孤児院の全員に声をかけて明日の話し合いに付いて伝えておきました。

ラムダさん達も明日はこちらの方に来てくれるそうです。ってアカネが言ってましたけど大丈夫なんですかね。

 

「あの影…もしかして…」

 

最後にソル兄様たちを飲み込んだあの影、あの影からうっすらと記憶に残る魔力が感じられた。

もしあの魔力の持ち主が私の知っている人物なら、もうすぐ最後の戦いが近いかも知れない。

この街を、皆を守る為には私一人の力じゃ絶対に足りない、むしろ全員の力を合わせても…。

 

「もうすぐなんですね…」

 

最後の戦いは近い、ハヤトを守る為に頑張らないと…。

そう思いながら私はお風呂から出る、着替えてから部屋に戻りハヤトに明日の事を伝えようとするが。

 

「……すぅ」

「ハヤト…もう寝たんですね」

 

静かに寝息をたてるハヤトの姿を見て少しほっとした、

今回の戦いはそれほど負担になっていないようだったから…。

 

「…………」

 

ハヤトの顔にゆっくりと触れる、何時もと変わりない顔、

だけど戦う時のハヤトの表情は変わって来ているのに気づいた。なんというか…。

 

「頼もしくなりましたよね…」

 

私を守る、ただその為に彼はこの世界に来てくれた、そう言っていた。

その為に剣を握って召喚術を使って戦っている、だけど少しだけ気にかかることがあった。

なぜここまで彼が強いのか…?

私達の世界の住人がこの世界に来れば、召喚術を知ることがあるだろう。

だとしたらそれこそ4つの世界の術を操り、そしてその豊富な魔力で名を挙げるはず。

なのにそんな記述は幼いころの記憶には一切残っていなかった。

もしかして、ハヤトは特別なのかもしれない、私と出会ったのもその特別性の為によるもの…。

そんな事を考えながらハヤトの事を考えるが…。

 

「考えても無駄ですよね…。だってハヤトなんだから」

 

ハヤトが不思議な力を持っていたとしてもハヤトがハヤトである事には変わらない、

そう思いながら、私は窓から月を見た。

あの日、ハヤトは私と一緒に元の世界に戻ると約束してくれた…。

あの時よりずっと状況は厳しくなっているけど、もしかしたら、ハヤトなら…。

 

そう思っているとと外の方で人影が見えたのだ、月の光で少しだけ光る金色の髪を。

 

「あれって…」

 

私は夜遅くに外に出ているその人が気になり私も部屋を出た。

 

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「どうしよう…」

 

私達は派閥の待機している街へは戻らず、こうしてクラレット達が住んでいる孤児院に世話になることになった。

ギブソン先輩は迷惑をかけたくないそうだけど、狙われているのは彼らも同じそうで、

自分たちも狙われているのなら一つの所に固まった方が安全だという事で、ここに泊まることになりました。

ここの住人の何人かはメイトルパの召喚獣だったみたいでミモザ先輩が喜んで少しトラブルになっちゃったけど、

なんとか落ち着いたみたいでよかった……でも。

 

「なんで…止まらないんだろ…」

 

震えが止まらない…、あのソルって人と戦ってから止まらない、

それに人が悪魔に変わっていく姿なんて初めて見た、人が人じゃなくなるなんて…。

話には聞いていたけど、実際に感じたのは大違いだった。

これが殺し合いなんだ…、派閥で動植物の研究をしてるのとは大違いで…、

これが外の世界で起きている事なんだ…。

 

怖かった、この街に来て危険な目に合って、助けてもらって、

今度は私が力になろうと決めたのにそんな覚悟を磨り潰されそうな恐怖に出会って…。

私は…私は…!

 

ミントはただ敬愛する派閥の先輩たちの力になりたかった。

新米だが素質があり、普通の召喚師より高い将来性を持つ少女ミント。

彼女は戦う事を良しとせず異界の植物、特にメイトルパの植物に興味を抱いていた。

自身がメイトルパの召喚師のせいか異界の植物から食べられたり特別な効果を持つ植物を研究するある意味異端の研究者、

真理を解き明かすべく研究を続ける召喚師の中では自分の興味と実用性を重視に考える少女だ。

そんな彼女に目を付けたのがミモザ・ロランジュ。

同じ学者系の彼女はミントのやり方に賛同し支持してきた、

だからこそ、彼女はそんな先輩たちに力を貸したくてこの任務に就いたのだ、しかし…。

 

それは既に後悔に飲まれていた、街に来て襲われ、人が悪魔になる所を見て、

そして途轍もない魔力と強さを感じる召喚師に襲われた、それだけで優しい少女の心を折るには十分だったのだ。

 

「……帰りたい」

「どうしたんですか?」

「!?」

 

突然声が聞こえてミントは後ろを見る、そこにいたのはクラレットだった。

戦ってる時の険しい目つきは無く、年相応の少女がそこにいた。

 

「クラレット…さん」

「ふふ、さん付けなんてしなくていいですよ? そんなに歳、離れてないですよね? 私もミントって呼びますから。ね?」

「うん、そうだね。改めてよろしくクラレット」

「うん、ミント」

 

クラレットはそう言って彼女の座っている切株の横に座った。

どうしてかクラレットが来てからミントの震えが止まっていた、

それに安心したのかミントはクラレットに問いかけることにした。

 

「クラレットは…」

「ん?」

「クラレットは凄いね」

「凄い…ですか?」

「うん、だって先輩たちが驚くほどの悪魔と天使を召喚できるし、あの…ソルって人と正面から戦う事が出来るんだから」

 

ミントは自分とさほど変わらない年齢のクラレットのその実力に驚いていた、

召喚師の技量も魔力も自分とは桁違いだった、それに嫉妬せず素直に彼女を称賛したのだ。

だがミントのそんな言葉にクラレットは顔を下げて俯いた。

 

「もしかして、何か悪いこと言っちゃった?」

「ううん、そうじゃないんです。ただ…ただ、こんな力が無ければここに来ることもなかったんだなぁって」

「どういうこと?」

「ミントなら…平気そうですね。明日皆にも話しますし、ミントには先に伝えておきますね」

 

明日、協力してくれる皆さんには私達の事情を話すことにした。

流石に深すぎるところまでは話さないし、皆にも話してない…。

ソル兄様の事もハヤトとあの場にいた人たちしか知らない、言わないように言ってあるから安心だけど、

だからせめて言えることはみんなに言っておかないのきっと色々と手を貸せないと思った、

信じてもらえるかは別なんですけどね…。

 

「私はこことは違う世界から来たんです」

「それって…もしかしてサプレスから来たの!?」

「ううん、名も無き世界。たぶんこの世界で一番知られてない世界だと思う」

「名も無き世界……」

「その世界はね…」

 

私は名も無き世界の事から話す、地球と呼ばれておりその世界には召喚術は存在しない、

アジア地方と呼ばれるところはシルターンに似た文化があり、

メイトルパの様な幻獣は古い記述にのみ残っている、またその文化に近い文明も存在した、

サプレスの様な天使や悪魔は宗教として信仰されており、実在しないと言われている、

ロレイラル程、機械は発達してないが十分に機械文明と言えるぐらい世界に浸透していた。

取り巻く四界、全ての要素を持つ異世界、それが名も無き世界。

私はそうミントに説明すると、ミントは楽しそうに聞いてくれた。

 

「じゃあつまり、名も無き世界って四界の要素を全て兼ね備えてるってことなんだね?」

「そう、多分だけど。そのせいでハヤトが全ての属性を使えるんだと思う、関係ない世界かも知れないけど、それでもここまで似てる要素が多いからもしかしたら名も無き世界が全ての世界の元なのか…あるいは逆かも知れないけど」

「…ハヤトさんが全部の属性を使えるのはその世界の住人だからってことかー…じゃあクラレットは?」

「私は元々この世界の人間なんです」

 

それを聞いたミントは名も無き世界の話とは別の意味で驚いた、

それはつまり、彼女は自身の力で界を渡ったという事を示しているのだから。

 

「もしかして、あの無色のサモナイト石を使って?」

「うん、でも無色のサモナイト石を使って分かったの。たぶんだけどあの石は名も無き世界に繋がってる訳じゃない、色々な世界に繋がる可能性を持った石なんだと思う」

「色々な世界…」

「四つの世界か、私達の世界、もしくは全く異なる世界にも繋がってるかもしれない、そんな不安定な道を私は幼い頃通り抜けてしまった…、記憶を失っただけで済んだのは幸いでした」

「記憶を失ってた…」

「記憶を失ってなかったら多分、向こうであんなにのんびり出来なかったと思う、だって記憶を取り戻して自分の境遇に驚いたんだから」

「……クラレットは、あなたは一体なんなの?」

 

ミントは世界を渡ったクラレットに驚いたがそれ以上に聞きたいことがあった、

あれほどのサプレスの召喚術を操るのは不可能に近いのだ、クラレットは記憶喪失だと言っていた、

つまり幼い頃から特別な訓練を受けた召喚師の家系という事を現してたのだ。

 

「私は…、私は無色の派閥のセルボルト家によって生み出された贄、魔王をこの身に宿すために作り出された存在なんです」

「…!?」

 

無色の派閥!? 魔王を宿す!?

クラレットは何を言ってるの!? それじゃまるで自分が…!

 

「私は生贄なんです…、無色の派閥が行おうとしている魔王召喚の儀式、その核になるのが私なんです」

「そん…な…、そんなのって…!」

「幼い頃からそういう風に育てられました。お前は贄だ、悲願を果たすべき道具だって」

「だって…だってそれじゃあ!」

 

悲しすぎる、クラレットは私に気にかけてくれた、

今だって不安がる私に話題を振ってくれている、人を優しくできる人なのに、

それなのにどうしてこの人が生贄なんかに!

 

「でも、そのおかげで会えたんです」

「…え?」

「向こうの世界に行って大切な家族に、ずっと居たいって思う人に…だから私は戦うんです」

「…そっか、よかった。うん」

 

クラレットは自分の家族の下に帰りたいから…、

大切な人と、ハヤトさんと一緒に居たいから戦ってるんだ。

じゃあ、私は、私は何のために…。

 

「ミント?」

「クラレット…、私怖い」

 

私は呟くように話した、自分が戦うのを恐怖している事を、

今日起こった事のせいであれから震えが止まらない事を、

もう、戦いたくないと思ってしまった事を…。

呟きは徐々に大きくなってやがて叫びに変わってしまった、それでも彼女は私をジッと見てくれていた。

 

「怖いの!もし、もし少し変わっていたらこんな風に無事じゃいられなかった…、もしかしたら私は死んでたかもしれない…だから」

「なら……戦わなくてもいいんですよ?」

「…え?」

 

クラレットが私の手を握ってジッとこっちを見てくれていた、

髪と同じ瞳の少女の目に自分の姿がうっすらと映っている。

 

「怖いなら戦わなくてもいい、無理に戦ったらきっとダメになってしまうから」

「ダメになる…?」

「一週間ほど前、一人の女の子がここに居たの、彼女は強い力を持っていたけど、自分を信じきれてなかった、でもミント貴女は違う、貴女は自分の実力をわかってる自分のできる事をよく理解できてる、だから…怖いんだと私は思う」

「自分の出来ることを分かってる…」

「今回の事件はミントの力量を遥かに上回ってる、そんな貴女が無理してもきっといい結果にならない、ダメになってしまう。だから…自分の出来る事だけをすればいいと思う」

「どんなふうに?」

「拠点…、ここを守ったり。戦いじゃ本当に後方から援護を心掛けたりね。私やハヤトみたいに突っ込まなくてもいいんですから」

「そっか…そんな感じでいいんだ」

 

指針を示してくれるクラレットの気持ちが嬉しかった、

こんな事、先輩たちに話したくなかった、せっかく頼りにしてくれたんだから、

ダメです。なんて言えないもんね…、だからクラレットの言葉はとてもありがたかった。

私は私の出来る事だけをやればいいんだ、そうだよね。私はまだまだ新米なんだもの。

 

「うん、ありがとうクラレット。少し気分が楽になったよ」

「ふふ、よかった。ミントは笑顔の方が似合うよ?」

「そっか…、ねえクラレット、ところでその女の子ってどうなったの?」

「彼女は…、自分の居場所を見つけて帰りました。きっと次に会う時はもっと大きくなってると思います。だから…必ず次を手に入れます」

「クラレットは本当に凄いね、諦めないで前を向けるんだもん」

 

私のそんな言葉に彼女は照れながら答え始めた。

 

「っと言っても、私も一月ほど前は諦めかけてたんです。でも諦めないハヤトを見ていて自分も頑張らなきゃってね?」

「そっか、羨ましいなぁ…」

「ミント…?」

「ううん、何でもない。ちょっと、ね」

 

私にも自分を支えてくれる人がいればこんな風に悩むことは無かったのかもしれない、

ううん、きっと悩んでただろうなぁ、でもその人が支えてくれるんだろうなぁ。

…ほんの少しだけ、本当に少しだけ勇気が湧いてきた、

私も彼女を助けたい、自分に出来ることはほとんどないかも知れないけどそれでも、

力になりたい、そう私は心の誓ったのだった。




ミントの口調を再度勉強中、
お姉さん口調と礼儀正しい口調だけだから分からん!

あとこの話書いてて、途中思った事。
「ソルの出てくるところ…別にいらなくない?」でした。
いらなくないけど必要でもないんやなこれが。

関係ないけどサモコレの忍び装束のミントさんいいなぁ、装備だけなら可能だっけか

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