サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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今回から原作一話を一話で投稿してましたけど、
ちょっと長すぎるんじゃないと思い、区切りのいいところで切ることにしました。
これって前から切っていれば60話近くの量になってたかもしれないね。

あと最初の謎の分、アレ無くしました……、なんであんなん書いてたんだろうな。


サモンナイト ー生贄の花嫁ー 終章
第23話 蒼き召喚師たち


サイジェントに朝日が差し込める頃、一つの馬車がサイジェントの停留所に到着した。

彼らはあまりその動きを公にするわけにいかず、その為にこうして早朝に到着するように馬車を動かしたのだ。

 

「うぅ~んっ!流石にずっと馬車の中だと体が硬くなるわねぇ」

「ミント、きみは平気か?」

「はい、先輩方は大丈夫ですか?」

 

馬車の中から人が出てくる、少し薄い金色の髪をしたローブを纏った青年、

緑の服を着た、茶髪のメガネの女性、そして少し幼さが残る金髪の少女だ。

蒼の派閥の召喚師、霊界サプレスの召喚師、ギブソン・ジラール。

同じ蒼の派閥のメイトルパの召喚師、ミモザ・ロランジュ。

そして新米召喚師のミント・ジュレップだ。

彼らは蒼の派閥の召喚師で奪われた派閥の秘宝を求めてサイジェントへとやって来ていた。

馬車がその場から去ったのを確認した彼らはそれぞれの行動を決める事にした。

 

「じゃあ、みんなそれぞれ情報収集ってことでね」

「わかりました、ミモザ先輩」

「ちょっと待つんだミモザ、私達はいいがミントには少し早いんじゃないか?」

「あぁ…、そうねぇ。どうするミント」

「なるべく、人気の多い所で調査するようにします。人がいるなら問題はないと思いますから」

 

しばらくギブソンは考えたが、流石に奴らが人の多い所で仕掛けてくるとは思わなかった。

サイジェントに地図を見て、危険なのが北スラムと南スラムのどちらかと判断したギブソンはそちらを調査することにした。

 

「わかった、私は北スラムの方を調査することにしよう」

「じゃあ私は南スラムね」

「私は…」

「ミントは危険だから人気の多い商店街や繁華街を頼むわ、あとなるべく」

「はい、召喚師という事を隠すんですよね」

 

サイジェントの状況をある程度調べた3人は金の派閥の召喚師によって遠回しに圧政が敷かれている事に気が付いていた。

その為、召喚師であることのせいで有用な情報が得られない可能性が

あると考えて情報収集には召喚師である事を知られない様に心がけることにしたのだ。

 

「情報が集まらなくても昼にはあそこのカフェに集合だ。わかったな二人とも」

「ええ、分かったわ」

「わかりました、ギブソン先輩」

 

こうして、こうして三人の召喚師がサイジェントに入ったのだった、

それがサイジェントに住む、二人の人物の物語を大きく進めることになるとは彼らは気づいてなかった。

 

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「じゃあ、私行ってきますね?」

「気を付けてるんだぞ。ユエル、クラレットの事頼んだぞ?」

「うん、任せてハヤト!」

 

朝食を食べ終わり、レイドやエドスが仕事に出かけた頃、

同じようにクラレットも出かける事になっている。

あの戦いから1週間、4日目からよく出かける事が多くなっていた。

何処に出かけてるのかというのかは…。

 

――話、付けといたぞ。

 

そうガルマザリアから連絡が入り、次の日にはキムランが家に来て、

街の運用に関することの指導をお願いしてきたんだ。

話を聞くと、なんとガルマザリアはマーンの元締めにあたるファミィさんの護衛獣だった時期があるそうだ。

ガルマザリアは既に話を付けていてくれたそうで、

手紙が届くのと同時に三兄弟に指示を送ったそうだ。

内容は「異界の街の運用技術を学び、サイジェントを永続的な運用法を実用化」だそうだ。

イマイチよく分からないが、クラレットによると、街が救われる可能性が出て来たそうだ。

これには戻って来たレイドやラムダも目を丸くしていた。

そりゃそうだよな、湯治から帰ってきたら街の問題が解決しかけてるんだもんな。

そんなわけでクラレットは三兄弟に屋敷に毎日向かっているそうだ、

中々確執…、というよりイムランのせいでよくプリプリしてるが、まあそこらへんは仕事ってことで。

 

「ふう…」

「大丈夫か、クラレット?」

「ええ、平気ですよ。ちょっと色々と大変で…」

「悪いな…、頭が良かったらいろいろ手伝えるんだけどさ」

「人には短所と長所がありますから、こういう仕事は私に任せてください、ハヤト」

「そうだな、じゃあ頼んだぜ」

「はい!」

 

そういいながら笑顔でクラレットはユエルと共に出かけて行った、

ユエルなら鼻がいいから護衛にも十分だし、戦闘もかなりできる、

でも、やっぱりまだクラレットの調子は完全に戻ってないみたいだな…。

少しだけから元気だったみたいだ。他のみんなには気づかれてないけど、

やっぱり無色の派閥だよな……。

 

あの事件で無色の派閥が本格的に動き出す危険性があると全員が理解した。

フラット、騎士団、元アキュートで一時的な共同戦線が約束されている。

あくまで無色の派閥限定だけど、それでも街を守る為に協力し合えるのは助かる。

 

「さって……、もう少しだけ休むかな」

 

今だ少しばかり、だるい体を引きづりながら俺は自分の部屋に戻っていった…。

 

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「マースーター!お布団干したいので部屋から出てってくださいですのー」

「えぇ…、まだだるいからさぁ…」

「お姉ちゃんがもう具合は良いって言ってたわよ。普通に生活する分だったらもう平気って、なまけ過ぎよ」

「なまけ過ぎかなぁ…」

 

モナティとフィズに急かされてハヤトは仕方なく布団から立ち上がった、

そして二人は俺の布団を取り出して、そのまま出てってしまう。

こうして働いてるのに流石に俺はさぼり過ぎだよなぁ。

新しく用意された剣を握る、師範には会ってないが、もう壊すなだそうだ。

……仕方ないじゃないか、壊れちゃうんだから。

 

部屋を出たハヤトは庭に出ることにした、そこには意外な人物がいたのだった。

 

「ラムダじゃないか!」

「ハヤトか、久しいな」

「あ、ハヤト兄ちゃん!」

 

庭ではラムダがアルバに剣を教えているようだ、

奥の方ではスウォンとラミが木の笛を作っている、邪魔しないでおこう。

俺はそのままラムダへと近づいた。

 

「何しにここへ?」

「剣の稽古だ、少し握ってないだけでも鈍ってしまうからな」

「あぁ…、よくわかる」

「荒野へと行こうと思ったが、ここでも十分訓練できると思ってな、足を運んだという事だ」

「警護も兼ねてですか?」

「それもあるな、俺達がいない間に奴らが動いたそうだな、スタウトから聞いたぞ」

 

どうやらラムダは無色の派閥の襲撃に備えて、足を運んでくれたみたい、

ラムダほどの剣の使い手なら十分に対応できると思うし頼りになるな。

 

「しかし…、お前たちにこれほど世話になることになるなんてな」

「それって」

「ああ、召喚師たちの話だ、俺も聞いている。ある程度目途が立ったみたいだな」

 

ラムダも金の派閥とクラレットの事を聞いているんだな。

 

「お前たちには世話になってばっかりだ、こうして剣を振るう事しか俺にはできないからな」

「でも今は頼りになりますよ。あいつらは本当に強い、俺だけじゃみんなを守り切れるかどうか…」

「お前は強い、俺以上にな」

「え?」

「見てわかる、ここ数日で会わなかっただけで、実力なら俺と差異は既にないだろう」

「でも、俺の剣なんかじゃ」

「単純な剣の腕の話ではない、なんのために戦うかの話だ」

 

なんの為に戦う…、か。

決まりきった答えだけど、それが俺の強さなんだよな。

 

「それなら、尚更頼りにしてますよ」

「任せておけ、いざという時はこの剣を振ろう」

 

この人は一度剣を交えればわかる、本当に強くて頼りになる人だ。

 

「兄ちゃん!おいらもリプレ母さんを守る為にもっと強くなるから期待しててよ!」

「ああ、アルバにも期待してるぞ!」

「えへへ」

 

アルバの頭を撫でて俺はその場から離れることにした、

やっぱり奴らが気になるし、その為にちょっと調べないといけないな。

 

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俺が準備を整えて、家を出ることにした。

以前の様に連中に襲われる危険もあるため、とりあえずクロを連れていくことにしたが…。

 

「クロの奴どこ行ったんだ…」

 

クロの奴がいなかった、アイツは勝手にいなくなったりしないはずなんだけど。

もしかして何か事件に…、そう思っていると南スラムの路地に何か走ってる姿が見えた。

 

「あれって…」

「ムイイィィィーー!?」

「待ちなさい希少種ぅぅ~~~!!」

「……え?」

 

リュックを背負った緑の女性がクロを必死に追いかけまわしていた、

まるで子供の様に目新しいモノを求めるような感じだ。

 

「逃がさないわよ!こんなところで、新種のテテに出会うなんてついてるわ!スライムポット!!」

「!!!」

「えっ!召喚師!?」

 

女性が召喚術、スライムポットを召喚しクロを捕まえようとするが、

憑依するものを無効にする能力を応用して、クロがスライムを殴り飛ばしてしまう。

 

「なっ…!? す、すごいわ!あんなことできるなんて! やっぱり絶対に捕まえるわよ!」

「!?」

 

これで諦めるだろうと思っていたクロは更に驚いて逃げ出す、

これはマズいと思い、俺はクロに声をかけることにした。

 

「おい、クロ大丈夫か!?」

「!」

「うわっ!?」

 

クロが俺の体をよじ登り頭の上に抱き着いてしまった、

ふーっふーっと息遣いが聞こえ、相当切羽詰まってたようだ。

そして、そのクロを追いかけまわしていた女性も息を荒くして俺に近づいてきた。

 

「はぁっ!はぁっ! そのテテってもしかしてボクの?」

「ボクって…、えっと、一応俺の護衛獣なんですけど」

「護衛獣…、なんだ残念、はぐれ召喚獣だったら連れて帰ったのに…」

「はぁ…」

 

心底残念そうな顔をする女性、だがどうやら悪い人じゃないようだ。

 

「えっと、どうしてうちのクロ…、あ、このテテです。こいつを追いかけてたんですか?」

「そりゃ、まだら模様のテテよ?しかも彼らが大事にするゴーグルは壊れてるのにそれを気にしない、これはまさしく新種よ!希少種、あるいは突然変異よ!!」

「そうなのか…?」

「…」

 

頭の上で何も言わずにめんどそうな顔でクロは女性を見ていた。

敵意を持ってないようだから、どうやら面倒なことに巻き込まれただけの様だ。

 

「じゃあ、ちょっとお願いがあるんだけど…、その子、ちょっと触らせてくれない?」

「え、いいですけど。はい」

「!?」

 

頭にいるクロを掴んで普通に、女性に手渡した、

バタバタとクロが暴れるが、女性が近すぎてお得意の殴り飛ばす行動が出来ないようだ。

女性は殴らないんだよなぁこいつは。

 

「へぇ、ホントに地毛なのね、それにゴーグルは割れてるけど手入れされてるみたいね、思い入れがあるのかしら…、それに思った以上にゴツゴツしてるのね、普通のテテとまるで違う、そういえば黒主体だからもしかしてテテノワールの亜種なのかしら…、うーん、調べたいわねぇ」

「えっと…」

「ああ、ごめんなさいね。まさかこんな辺境でこんな珍しい子に出会えるなんてね。貴方もありがとうね」

「!!」

「痛って、いたたたた、悪かったって!!」

 

クロが再び俺の頭に上って今度はギリギリと締め付けてくる、流石に痛いぞ!

それを見た女性はニコニコしてしながら話しかけてきた。

 

「貴方達仲いいわね。なんか後輩の子を思い出すわ」

「後輩?」

「ええ、私召喚師なの、貴方も召喚師でしょ?」

「……えっと」

「…」

 

なんか言えよ!もとはといえばお前が連れて来たんだろ!

っとクロを睨むがこいつはめんどそうな顔をしたままだ…この野郎。

仕方ないので、クラレットと考えたでっち上げを話すことにした。

 

「えっと、ハヤト・シンドウです。サイジェントに隠れ住んでる召喚師です」

「シンドウ…、聞いたことないわね」

「ずっと昔に召喚師を辞めて、俺の代でたまたま召喚術を使う機会が出まして」

「なるほどね…、記録にも残ってるわね。いろいろな理由で召喚師を辞めた家系……ってホントに?」

「うっ…」

 

ニヤニヤしながらジッとこっちを見る女性、

少し無理がある設定だったか…、やっぱり三兄弟の部下とかの方が分かりやすかったか…?

少し経つと、ふう、と息を吐いて笑顔でこっちを女性は見直した。

 

「まあいいわ、色々と事情があるのよね。私はミモザ。ミモザ・ロランジュよ、ハヤト・シンドウでいいのよね?」

「はい、シンドウは嘘じゃないです。……あ」

「貴方嘘つくのへたねぇ…、まあいいけど、その子を見ればわかるわ、悪い子じゃないみたいだし」

「ミモザさんは召喚師なんですよね」

「そうよ、蒼の派閥の召喚師なの」

「蒼…」

 

確か、クラレットが言っていた召喚師を取り締まる召喚師だったよな…。

もしかして俺達の事を気づいて…。

 

「ねぇ、ところで聞きたいんだけどね。この町で一番物騒な場所ってどこにあるかしら?」

「物騒…、なんでそんなことを?」

「貴方と同じよ、ちょっと訳ありでね。そういう場所を探してるの…知らない?」

 

サイジェントの問題の大半が解決したと言ってもそれは組織的な話だけだ、

まだまだ物騒な所は多く残っている、繁華街や北スラムとか物騒だよな…。

 

「ここらへんも物騒と思ってたんだけど…、結構治安いいのね、挨拶とかされちゃったし」

「ほんの一二か月前は全然でしたよ、最近からですよ」

「へぇ…」

「ところで物騒な所ですけど…、一応知ってますけど一人で行くのは…」

「大丈夫よ、お姉さん召喚師だし。それにちょっと頼りないけど相棒と後輩もいるからね」

 

連れがいるのか…、相棒と後輩、

多分召喚師だよな…。でも3人なら平気だよな。

 

「それなら繁華街と北のスラム辺りがまだ治安が悪いはずですよ」

「北スラムはいいとして…、繁華街ね。どうもありがとう、それじゃあね!ボク!」

 

女性は手を振りながら歩いて行ってしまった、

俺もその様子を見て見えなくなるまで手を振っていた。

そして見えなくなるのと同時に肩で息を吐いたのだった。

 

「なんか嵐のような人だったな…」

「ムイ…」

 

そういえばあの人、見かけに似合わずへそ出しだったなぁっと変なことを考えながら

俺も街の見回りに街へと繰り出したのだった。

 

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「うぅ~んっっ! 疲れましたね…」

「お疲れクラレット!」

 

クラレットは上流階級区のマーン三兄弟の屋敷から出て来た所だった。

ユエルも同じようにクラレットにくっ付いて出て来た。

 

「しかし、今日も色々言われましたね」

「そうなの?」

「ユエルに話しても仕方のない事ですから、気にしなくていいですよ」

 

彼女が気にしてるのはやっぱりイムランの事だ、

まあなんというか頭が固いというか、とにかく色々あるのだ。

説明するのが非常に手間がかかりなかなか進まないのが現状だった。

だが短い日数だが少しずつ進歩を彼女は感じていた。

これでこの街が良くなってくれれば、そう思いながら必死になって御教授させていただいてるのだ。

 

「せっかくのチャンスなんだから、頑張らないと!」

「うん、頑張ってクラレット!」

 

二人が笑顔で歩いていると、ユエルは何かを嗅ぎ取った、

ユエルが見る方向をクラレットが確認すると、それは北スラムの方だった。

 

「ユエル、どうしたんですか?」

「うん、あっちからガゼルの匂いがして…」

 

ガゼルさんは確か、偵察に出るとか言ってましたけど…。

危ないからやめた方がいいって言ったのに北スラムまで行ったんですね。

危険が少しあったものの、クラレットは石を確認して北スラムに足を向けた。

 

「クラレット?」

「ガゼルさんの事が気になりますし、少しだけ北スラムに足を運んでみましょうか?」

「うん、そうだね!」

 

二人は揃って北スラムへと足を向けた、

危険はあるが、やはりバノッサの力の事が気になったため、

クラレットもそれを調べたいという欲求はあったようだ。

 

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北スラムに到着した二人は周りを確認する、

前よりも幾分か人が少なくなっている気がした、そして何より…。

 

「悪魔の気配…」

「うん、嫌な感じがする」

 

ユエルは野生の感、クラレットは微弱に漂う悪魔の気配を感じ取る。

それはつまり北スラムに無色の派閥が関与している可能性があるという事だ。

それだけでも十分な成果だと思いすぐにガゼルを見つけようと周りを確認すると。

 

「よう、クラレット。お前らも偵察か?」

「ガゼルさん!」

 

そこに無事な様子のガゼルがいた、それに安堵したクラレットはガゼルに声をかけた。

 

「ガゼルさん、危ないんですから一人でこんなところに来ないでください!」

「だけどよ、バノッサの使ったっていう召喚術が気になるじゃねぇか」

「それはそうですけど…」

 

あの力、召喚術の様に魔力を使ったものであるのは間違いけど、、

少しばかり普通の召喚術とは違うモノだった、何というか…。

 

「あの力は危険です。普通じゃありません」

「普通じゃない?」

「ええ、恐らく」

『召喚呪具の一つでしょうね』

「な、なんだ今の声は!?」

 

クラレットが魔力を感じ取り杖の先端を見ると、僅かに石が光っていた、

恐らくエルエルだろうと思う、そして声のした方、杖に向かってユエルが問いかけた。

 

「ねえ、しょうかんじゅぐってなんなの?」

『色々特殊な力を持つ召喚術に関係する道具の事ですよ。召喚術を強化したり、召喚獣を洗脳したり、碌な物ではありませんね』

「う…」

 

ユエルが首輪に手をやり、苦しそうな顔をする、

誓約の首輪、ユエルを苦しめる召喚呪具の一つでしたね。

 

「なるほど…ってお前は誰なんだよ?」

『私は光の賢者エルエル。あの時にいた天使よ』

 

ミラーヘイズの戦いやガレフの戦いを思い出したガゼルは、

「そういやいたな」と勝手に納得してくれてこれ以上追及はしなかった。

 

「とにかく、北スラムには悪魔の気配も少ししますし。このままここに居れば危険ですから、直ぐに戻りましょう」

「待てよクラレット、召喚呪具ってやつも分かるがよ、俺は俺なりに手がかりを見つけたんだぜ? こっち来てみろよ」

「ちょっと、ガゼルさん…、もう!」

 

物陰に隠れながらガゼルさんに付いてゆくと少し場違いな格好をした人物を見つけた。

大きなローブを纏っている人物だ、確かに少し普通の人とは違う雰囲気がします。

 

「あの格好、最初に会った時のお前の格好に似てるだろ?」

「まあ、確かにそうですけど」

「つまりアイツは召喚師だぜ、間違いねぇ!」

「召喚師ですか…ん~」

 

じーっとその人物を私は見つめていた、薄い金髪の男性、

見たことない人物で何より体からサプレスの魔力を微弱に感じる。

多分感づかれないように力を押さえ付けてると思う、更に確認しようとじっと見ていると。

 

「おい、アイツの顔がいいからってあんまり見んじゃねぇぞ。ハヤトに言っちまうぞ?」

「な、なななっ!?何言ってるんですか!!」

 

突然予想外の事を言われてクラレットは赤面しながら焦った。

 

「そりゃ、男をじっと見つめてたからよ。良く怒るじゃねぇかお前」

「違いますよ!私はただあの人の魔力を確認してただけでそんな気持ちこれっぽっちもありませんから!」

「それハヤトも理解してやれよ」

「……だって、なんか嫌で…」

 

だってハヤトが他の女性を見てるとなんか嫌なんです。

そりゃ、ハヤトのこと好きですけど、この前ももうちょっと待ってくれってお流れになりましたし、

あ、なら私が誰かを好かれてるって思わせれば少しは焦るんじゃ…。

いやいや、私も待つって行った傍からそんな裏切る行為なんて…。

でも、もうちょっとぐらい、私に…。

 

そんな感じで色々考えて夢中になるクラレットをガゼルは呆れながら見ていた、

ユエルはそんなのを気にしないで男を見ていると視線から消え始めるのに気づく。

 

「ねえ、行っちゃうけど、追いかけなくていいの?」

「おう、そうだな。つけてみるか、だろクラレット?」

「だって、ハヤトがもっと私を」

「おい、クラレット!」

「は、はい!そうですね。つけるべきです!」

「決まりだな、行くぜユエル」

「うん!」

 

二人が気づかれない位置から男を追って歩いて行ってしまう。

考えなしに返答したため、少しボーっとしてから気づき焦ってクラレットは二人を追いかけた。

 

「ま、待ってください!ガゼルさん、ユエル~!」

 

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その頃ハヤトはクロを頭に乗せて繁華街を周っていたが特に問題が無かったため、

【告発の剣】亭によることにした、実はすれ違いでクラレットたちが、

店の前を通った事をハヤトは気づかなかったが…。

店の中に入ると、セシルが店番をしているようだった。

 

「セシルさん、こんにちわ」

「あら、いらっしゃい。聞いたわよ、色々とあの子がやってるみたいじゃない」

「あはは…、俺は全然ですよ」

「そんなことないわよ?少なくとも私達の考え方、変えてくれたじゃない?」

「そうですね…」

 

クラレットの現在やってることはセシルさんたちも既に聞いている。

元アキュートとの面々の処遇もある程度は理解してくれているようだ。

命を狙われたイムランは相当渋ってるそうだが、

まあ、それも時間が解決してくれるはずだろうしな。

 

「でも、留守番ですか。ぺルゴさんは?」

「ぺルゴは買い出し、ラムダ様は孤児院で会わなかった?」

「ラムダとはあったよ、なんかアルバに剣を軽く教えてた、こう考えるとアルバの奴、相当羨ましがれるよな、レイドとラムダに剣を教えてもらってるんだから」

「それを言うならあなたもよ、あのお爺さん、ラムダ様が言うには自分以上の強者って話なんだから」

「まあ、師範は…」

 

規格外だよな…、ジンガから聞いた話じゃ、距離関係なしに斬撃飛ばしたとか言ってたし。

もし本当ならなんか次元が違うってレベルなんだけど…。

 

「そんな人に教えてもらってるのに…はぁ」

「一二か月でそんな強くなれるわけないじゃない」

「それもそうか、それでスタウトは?」

「ん」

「え?」

 

セシルさんの指さす方向を見ると机に突っ張って泥酔してる姿があった、

空っぽの煙草箱を握っていて、どこか微妙に哀愁が漂ってる。

 

「あの事件以来ね、妙に沈んでるのよ、聞いても気にすんなっていうし」

「…まあ、放って置きましょう。きっと色々あると思いますし」

「そうね…って、よく見ると貴方、頭にその子乗せてるのね」

「あ、忘れてた…」

「zzz」

 

ヒマなのか、クロは眠っているようだ。あの戦い以来、少し疲れがたまっており、

良く眠りについてる姿が見える、殺気とかそんな気配で起きるから気にして無いけど。

 

「こいつ、結構疲れがたまってるみたいで、寝かせてやってください」

「じゃあ、簡単な飲み物出すわね」

「うん、ありがとうセシルさん」

 

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セシルさんと雑談をした後、俺は繁華街をもう一度周りなおすことにした、

あのミモザって人ともう一度会って話がしたかったのだ。

セシルさんにミモザさんの事を伝えると、他から召喚師が来ることはそうそうないそうだ、

おまけに金の派閥が牛耳ってるこのサイジェントには近寄らないはずだそうだ、

つまり、無色の派閥が関連してる可能性があると思った、

だからミモザさんからもう一度話を聞けば力になれるかもしれないし、

何より、アイツらの情報をもう少し得ることが出来るかもしれないと思ったから、

そんな中、街を周っていると、見知った人物に出会った。

 

「よう、ハヤトじゃねぇか」

「ローカスさん!」

 

そこにいたのは赤毛の男性のローカスだった、何か手に持ってるようだ。

 

「随分と面倒ごとに相変わらず巻き込まれてる見てぇだな」

「まあ、何時もの事だから…、ところでどこか行ってたんですか?」

「ん、ああ、墓参りにな」

「墓参り?」

 

持ってる手荷物をローカスさんは見直して、再び下げる。

 

「こんなの興味ないんだが、新作出るたび見てたって言ってたからよ」

「その本って…」

「恋する乙女シリーズって名前らしいぜ、馬鹿にしたいがもう20年以上続くベストセラーってやつだからなんも言えねぇな」

 

恋する乙女ってあの、こっぱずかしい内容が満載の本だったよな、

処世術みたいなものも書かれてるとか、じゃあ墓参りの人って女性だったのか。

 

「その女性の好きな本だったんですね?」

「女性…? ああ、なんていえばいいんだろうな、中間見てぇなもんだ」

「え…?んん~?」

 

中間って…中間だよな、気にしないで置こう、うん

 

「まだスラムに住んでた頃な、世話になってよ、一年も一緒に居なかったけど色々と教えてもらったんだ、だから墓参りも習慣見てぇなもんさ」

「そうなんですか…」

「ところでよ、さっき見かけない奴を見たんだがよ」

「見かけない人?」

 

それって、もしかしてミモザさんの事なのか…、

そう思った俺はミモザさんの容姿をローカスさんに伝えることにした。

 

「それって茶髪のメガネかけた緑の人?」

「いや、俺が見たのは金髪の女だったな、割と若い感じだったぞ、ただな…」

「ただ?」

「オプテュスの残党と一緒にいたんだよ」

「なんだって!?」

 

オプテュスはあの死の沼地の戦いで数が激減し、

殆ど自然解体に近い形で消滅した、残党らしき連中は居るが、

影響力がかなり落ちているせいなのか、威張り散らすこともなくなっているが、

それ以上の悪行もすることがたまに起きているようで非常に危険な連中だった。

 

「なんていうか、世間知らずな感じがしてな、付いて行っちまったからよ、少し気になってな」

「ローカスさんは声をかけなかったんですか!」

「こっちは墓参りの事考えててあんまり気にして無かったんだよ。今思うと不注意だったな」

 

マズいぞ…、もし蒼の派閥の召喚師の一人だったら結構な問題になる。

召喚師って召喚術が使えないと少し実力が低い方だし。

とにかく、その子を探さないと!

 

「ローカスさん、そいつらって今…」

「繁華街の裏手の路地の何処かのはずだ、俺も帰るついでに探すことにするか」

「ありがとうございます、おいクロ起きろ!聞いてるんだろ」

「…!」

「ああ、そうだ。その人を探すぞ!」

「!」

 

クロが俺から降りて、近場の路地裏に入ってゆく、俺もすぐにその後を追いかけた。

 

「ホント厄介ごとに自分から飛び込み奴だな」

 

面倒ごとの好きな奴だと、思いながらローカスもハヤトとは別の路地に入っていった。

 

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なんでこんな事になってしまったのか、

もっと危機感を持つべきだったのかもしれない、

先輩たちに認められてるのが嬉しくて少しでも力になりたくて…。

世間知らずだった、街中でも危ないて先輩たちに言われてたのに…。

 

「やめてください!離してぇ!!」

「うるせぇ!黙ってればいいんだよ!!」

「うひひっ!こんな簡単にホイホイ付いてくるなんてなぁ」

 

不意打ちだった、魅魔の宝玉の事を知っているという人物の所まで案内すると言い、

路地裏に付いて行ったら、突然後ろから殴られて倒れてしまった。

召喚師の事を知ってるのか、すぐに隠していた石も杖も取られれしまい、もうどうしようもない。

 

「お願いします!離してください!!」

「うるせぇって言ってるだろうがよ!」

「きゃぁっ!?」

 

頬を思いっきり殴られて恐怖があふれ出してくる、

ジンジンと痛みが広がり、口の中にも血の味が広がっていく。

召喚術の使えない召喚師なんてこの人たちの前だと無力だと実感してしまう。

 

「やめて……おねがい…します」

「ひっひっひ!こんな誘うような格好してるのに我慢なんて出来るかよ」

「バノッサの奴のせいでここ最近、碌な事なかったからな、久々の女だ」

「もう我慢できねぇよ!剥いじゃえ、剥いじゃえ」

「やめて、やめてぇぇぇーー!!!」

 

無理やり衣服を引きちぎろうとし、びりっと音が鳴り始める、

もうダメ…、私この人たちに…、来ないと思ってるのに私は助けを求めてしまう、

 

「助けて…誰かぁ…」

 

ぼやきのような声が口から零れる、

目の前の男たちに慰みモノにされるんだろう。

でもその瞬間まで認めたくなかった…。

そして男の手が私の体に伸びてゆき……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その手は届かず、男は真横に吹き飛んでいった。

 

「おごっ!?」

「ひっ? うぎゃぁっ!!」

「……え?」

 

目の前で自分に群がっていた男達が吹き飛ばされるように蹴散らされてゆく、

何が起こっているのかまるで分らなかった、良く目を凝らすと黒い何かが動き回っている。

やがて男たちが全て蹴散らされると一匹の小さい生き物がいた。

 

「…」

「テテ?」

「おい、お前ら!!」

 

私は自分の歩いてきた方向を見ると一人の少年がいた、

剣を腰につけて先輩と同じ茶髪だった、その顔は怒りを表している。

その少年を見ると吹き飛ばされた男たちは驚愕と恐怖で顔を染めた。

 

「お、お前、フラットの!」

「な、なんでこんなところにいるんだよ!」

 

フラット…?

何かの組織名なのか、どうやら少年はその組織の人なのだろう、

7人以上いるはずなのにたった一人の少年にここまで恐怖するなんて…。

 

「お、おい!」

「えっ?」

 

もっとも私の近くにいた男は自分を捕まえようと走る、

でもその手が私に届く前に、あの少年が割り込んできて、

思いっきりそのお腹を殴りつけて吹き飛ばしてしまう。

 

「おごっ!?がっぁぁ!?」

「やっべ…、手加減できなかった」

「……(はあ」

 

溜息をつくテテがトコトコと男たちに近づく、

そしてその拳が近くの男を殴り飛ばして、そのまま壁に叩き付ける。

それに恐怖して逃げ出そうとする人たちからテテは回り込んで殴り飛ばし続けていた。

 

「来てくれ、リプシー!」

「召喚術…」

 

少年が召喚術を使い、サプレスの魔精リプシーを召喚する、

そしてリプシーが私の頬に光を送って傷を癒してくれた。

 

「その、大丈夫だったか? 何とか間に合ったみたいだけど」

「…あ…ぁぁ」

 

優しく声をかけてくれた彼の声を聞いた時、私の心に熱が籠った。

それと同時に恐怖が膨れ上がって、助かった安心感で涙がボロボロと出てしまう。

 

「ひっぐ、うあぁぁ…ぁぁっ!!」

「えっ!? いやその!?」

 

助けてくれたこの人に私は抱き着いてしまい、そのまま泣き続けてしまう。

助かった、助けてくれた、そんな事を考え無意識に安心したくて目の前の人を力いっぱい抱きしめてしまった。

この時、この人はかなり焦っていただろう、でもしばらく泣き続けていると。

 

「ごめん、もう少し早く来てればよかったな」

 

そんな事ない、貴方が来てくれたから私は助かった、

本当に感謝してる、だからそんな困った声をかけないでください。

 

「ありがとう…!本当に…!!」

「うん」

 

結局、私が泣き止むころには男たちは全員ボコボコにされてたみたい、

そして目の前の男性に泣きついてたせいで本当に慌ててしまいました。

ちなみに横にいたテテはなにか白い目で彼も見ていたような気がします。




今回の話書いてて思った事なんですけど、ミニス編の小説を書いてて、
書き方がなんとなく成長してる感じがして嬉しく書いてました。
物書きは初めて(もう半年)だから成長してると嬉しくなるわ、
2話とか見直してたら黒歴史かしそう、ホント酷い。直さないけどな。

あとテンパるクラレット書けて少し安心しました、
最近泣いたり病んだりしてばっかだからこんなシーン書けてホッとした。女の子らしくって

それと問題が、ミントの口調なんですけど、4だとお姉さんキャラがあるんだけど、
4から7年ぐらい前の時代なんでハヤトたちと同じくらいなんですよね。
だから少し口調がしっくりこない気がしますけど、そこらへんは寛容な心で!
(16歳ぐらいであの口調はちょっとなぁ…)

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