サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

4 / 81
「ふあぁ~~」

大きな欠伸を開けて勇人が階段を下りてくる。
今日は学校も休みで9時前まで勇人は眠っていた。
もし親が居たり、学校があったならたたき起こされていただろう。

「♪~~♪~~」

綺麗な歌が勇人の耳に届く、それは母親の部屋からだった。
少し古風だが物を大事にする母親の部屋、色々な物が置いてある。
その中に前に結婚祝いで貰ったという少し古い三面鏡が置いてあった。

「おはよう」
「♪~~?、おはよう勇人。もう9時ですよ?」

俺の視線の先には三面鏡の前で髪を梳かしているクラレットの姿が見えた。
そういえば、ずっと気になっていた事があった。
何げなく俺はその疑問を聞く機会がなかったがこの際聞いてみよう。

「なあクラレット」
「?、どうしたんですか勇人?」
「クラレットは髪を染めたりしないのか?」


藤納戸

「染める……勇人は染めた方がいいと思いますか?」

「え?いや俺はクラレットの髪の色好きだから染めない方がいいと思ってるけどさ」

「なら良かった」

 

 ホッと一息安心したようなクラレットの表情を見て俺も安心する。

 迂闊な事言って不機嫌にさせるのはしのびないしな。

 

「嫌なんですよね」

「嫌?染めるのが?」

「はい」

「それってなんでなんだ?」

「何というか、昔の事なんですけど私って記憶喪失だったじゃないですか?」

 

 昔というかほんの一年ぐらい前の話なんだけど…

 まあ、色んな事あったし昔に感じるか。

 

「自分が他とは違う、だから同じになったら本当の家族に見つけてもらえなくなるんじゃないかってちょっと意地になっちゃってて」

「んー、何となくわかる」

「おかしいですかね?」

 

 ちょっと困り顔で話すクラレット。

 あの頃確かにクラレットの髪の問題は大変だった。

 瞳の色はまだいい、だけど黒紫色、たしか藤納戸って色は結構目立つ。

 いまでこそ色々言われても平気だが、あの頃は本当に大変だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ---------------------------------

 

「ひっぐ…えっぐ…」

「なあ、泣くなよ。な?」

「私…おかしいんですか?」

「う、う~ん」

 

 子供ってのは残酷だ、あの頃のクラレットはその容姿のせいで虐められてた。

 瞳の色も肌の色も、そして髪の色も普通とは大きく異なる。

 人間は相手を差別する生き物だ、それが子供であればより大きくなる。

 当時の俺はどうすればいいかわからなくてただ困っていた。

 

「なあ、どこがおかしいんだ?」

「だって…髪だって紫だし、目の色だって違うし…」

「それだけだろ?夏美や春奈なんて羨ましいとか言ってるじゃないか」

「そうですけど…」

 

 頭をガシガシ掻いてハヤトはどうすればいいのか悩んだ。

 悩んだ末に彼は可笑しい行動に出てしまう。

 何を思ったのかクラレットの髪に手を伸ばして触り始めたのだ。

 

 ふわり

 

「ん!?」

 

 ふわりふわり

 

「お、おぉ…」

「は、勇人…?」

 

 ふわりふわりふわり

 

「おーおー」

「え、えっと…あの…」

 

 ふわりふわりふわりふわり

 

「や、やめて…」

「おー、え?あ!? ご、ごめん!痛かったか!?」

「痛くないけど、やっぱりおかしい?」

「いやその…」

 

 メッチャ触り心地良かったです。

 そう思った勇人だが恥ずかしくて言えない、悩んでる姿を見るとクラレットの表情が沈み始める。

 

「やっぱりおかしいんですよね…はぁ」

「ち、違う!すっごく柔らかくて軽くってそれにいい匂いもしてサラサラしてホントに……あ」

「え?」

 

 本音を全部言ってしまった勇人は焦って全部ぶっちゃけてしまった。

 顔を真っ赤にした勇人はクラレットから距離を取り始めるとそのまま走り去ってしまう。

 と、思ったらすぐに戻って来た。

 

「お、俺クラレットの髪、凄いいと思う!他の人たちがどう言ったって最高だよ!」

「………ぁ」

 

 クラレットが自分の髪を手で持ちながら顔の前に持ってきた。

 

「良かった」

「!!」

 

 その優しそうで儚い少女、クラレットの姿を見た時勇人に何かが芽生える。

 ドキンと胸が高鳴った、幼心故にその感情の正体に気づく事はない。

 だが今すぐにでもこの場所から離れたいと思い少年は駆け出した。

 

「じゃ、じゃあ俺帰るから!?―――だあ!?」

 

 クラレットの方を見ながら勇人は走ってたせいでポリバケツにぶつかり転倒するがそのまま走り去ってゆく。

 

「………」

 

 クラレットの勇人が走り去った後を見ていた。

 

「あれ?クラレット?勇人と一緒に居ないの?」

「橋本さん」

「あはは、夏美でいいってそれで勇人は?」

「分かりません、顔を真っ赤にしてそのまま走って行っちゃって」

「ん? へ~ほ~、お母さんが言ってたなぁこれって青春って奴?」

「??」

 

 夏美の言っている事にクラレットは気づかない。

 そんなクラレットを夏美はニマニマと妙な表情で見ていた。

 

「はし――夏美さん、聞きたいことがあるんですけど」

「だから夏美でいいって、それで何?」

「夏美は私の髪って好きですか?」

 

 勇人以外の答え、クラレットはそれが聞きたかった。

 夏美はクラレットの問いかけに、クラレットの髪をサラサラ―と触り答えた。

 

「いいよねぇ、ふわふわでサラサラでおまけに一点物だもん、切望の対象だよ」

「切望?」

「みんな羨ましくって嫉妬してるって訳、そんな目立つ髪なら本当の親もすぐに見つかるんじゃない?」

「本当の…親…」

 

 この髪をしてれば見つかるのだろうか、なら髪の色を変えようなんて考えないようにしないと、それに。

 

「みんな私の髪が羨ましいんですね」

「お、自慢になって来た?」

「とりあえず、自信は付きました」

「そっか、じゃあ途中まで一緒に帰ろう♪」

「はい♪」

 

 皆が羨ましがってるならそれに誇りを持たないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ---------------------------------

 

「という事思ってたんですね」

「というか、今思うと優越感に浸ろうとする少女って感じでやばいな」

「まあ、子供ですし。虐められてへこむよりマシなんじゃないんですか?」

「どっちもどっちだなぁ…」

 

 お互いその時どう思ってたのか話しながら俺はクラレットの髪を梳かしていた。

 サラサラで今でもふわふわしてる、それにツヤも出て来た。

 クラレットはロングヘア―だから俺でも簡単に梳かせて良いな。

 

「あーそっか」

「?」

 

 あの頃を思い出して勇人は初めて理解できた。

 自分の中に芽生えたあの感情をあの時は理解できなかったが今は理解できる。

 

「俺、あの時クラレットに恋したんだな」

「ふーん……え、えぇ!?」

「暴れるなって、上手く梳かせないだろ?」

「いやだって!?こ、恋したって!?」

「今更だろ?俺達もう恋人じゃないか」

「今更って…初めては大事なんですよ初めては!」

 

 顔を真っ赤にしてそう話すクラレットを他所に俺は髪を梳かしていた。

 この世界で異性なら俺だけが触れる髪、世界で一番愛しい人の髪。

 そう想うと、とても愛おしく感じてしまう。

 

「ありがとな」

 

 勇人はそう藤納戸の髪に呟き、優しく髪を梳かしてゆく。

 こんな日が永遠に続いてくれればなぁと想いながら……。

 




今回はクラレットの髪のお話でした。
クラレットのイメージカラー藤納戸、
ホントはもっと鮮やかな色合いだけど、
この作品では黒紫よりの色合いです。
実際にサモンナイトシリーズ見ると僅かに黒ではない色をしています。
ていうか原作じゃ前髪はねてて堅そうだけど、
この作品じゃちゃんとお手入れしてるからホントにサラサラやから。
ちなみに勇人の初恋の話でもありました、自然にぶっこめた。
自覚しても勇人はあんまりそういうのに興味なくてクラレットは大事にするそんな関係。
うん、いいですね。

では次回【サマービーム】太陽光線…どんな話にするかぁ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。