サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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筆が進む進む、オリ話は何も考えずに書けるから好きです。(良くない)
今回、ハヤトはちょっと後衛ですけど、動けないんで仕方ないね。


第20話 鬼神憑依

時は少し遡る、アカネやスウォンが戻ってきて、ミニス達の居場所を伝えたすぐ後の事、

既にあと2.3時間も経たず日が出るほどの時間、リプレは眠気も一切起きず、

広間でみんなの帰りを願っていた。

今回ばかりは今までと訳が違う、フィズとミニスが攫われ、ハヤトは重症。

そんな状況がリプレの心身を苦しめていた。

自分はただ、皆の帰ってくることを願い待つだけしかできない、

それはとても重要なことと、分かっているがそれでも心配だった。

 

「みんな…、無事でいて…」

 

両手で誰かに祈るようにリプレが願っていると、大きな物音とモナティの声が聞こえてくる。

リプレが何かが起きたんじゃないかと思い、モナティの居るハヤトの部屋に向かうと。

 

「ダメですの、マスター!休んでいないとダメですの!

「離してくれモナティ、俺は行かなきゃダメなんだ!!」

「ちょ、ちょっと何やってるのよ!」

 

リプレもハヤトを止めるために、ハヤトの前に立つ。

頼まれたのもあるが、それ以上に彼にこれ以上、傷ついてほしくなかったからだ。

 

「リプレ、そこをどいてくれ」

「ダメよ!ハヤト、貴方心臓が止まってたのよ。それなのにそれ以上戦ったら本当に死ぬかもしれない!」

 

リプレはハヤトが自分の命を軽視してるように見えた、

その人の命はその人の一番大切な物のはずなのに、仲間を理由にそれを捨てようとするのを見ていられなかった。

 

「わかってる、でも!」

「わかってなんかいない! わかってなんかいないよっ!」

「リプレ…、だけど」

 

俺がリプレを説得しようとすると、リプレの目に涙腺が浮かび始めてる、

そこまで必死になって俺を止めようとしてくれている事が心苦しい…。

 

「ねえ、どうして貴方がそこまで戦わなくちゃならないの? みんなを信用してるのは分かる、それでもハヤトは一番前で戦って傷ついて…、そんなのやっぱりおかしいよ!?」

「リプレ…?」

「わかってるよ、ハヤトがどれだけみんなの事を大切に思ってくれてるか…、でもね!? ハヤトがみんなの事を大切に思ってくれてるように、みんなだってあなたの事を大切に思ってるんだよ!だから…、お願い今回だけは…」

「………」

 

リプレが俺にしがみ付く形で泣き始める、普段は絶対にここまで必死にならない、

ただ、待つことしか出来ないから、一緒に戦う俺達とは違う苦しみを抱いてるんだ。

 

「こわいのよ! みんなの帰りを待ってるのが…!! もう二度と会えないんじゃないかって、怖いのよ…」

「リプレ…、それでも、俺は…、行かなきゃいけないんだ。クラレットを守りたいんだ」

「ハヤト…」

 

リプレの肩を掴んで引き剥がす、俺は重い体を引きずりながら、外に出ようとする。

 

「モナティ、俺の武器はどこにあるんだ?」

「…にゅう」

「モナティ…?」

 

モナティが唇を噛みながらスカートの裾を握って、何かをぼそぼそと呟き始める。

 

「―――の」

「え…?」

「武器も石も、隠しましたの!」

「モナティ…」

「ねぇマスター、戦う方法がないなら、もう行かなくていいですよね? だから今は休んで…」

 

ハヤトはモナティの静止を聞かず、そのまま孤児院から出ていこうとしてしまう

それをモナティは呆然と見るしかなかった 

 

「やっちゃったわね」

「…エルカさん?」

「この馬鹿レビット。アンタ自分が今やったことわかってるの?」

「…モナティのやったこと?」

「アンタはね。あいつからただ武器を取り上げただけなのよ」

「にゅっう!?」

 

モナティはただハヤトに行ってほしくないために、ハヤトの武器を隠した。

戦う手段が無ければ行くことはない、自分の事が嫌いになってもきっと残ってくれる。

そう信じていた、だけどそれは、彼から武器を取り上げるだけだった…。

 

「アイツは大切な人の為だったら一人で城にまで乗り込むって言った男なのよ。武器も石もなしでみんなを助けに行くなんて当然のようにやるに決まってるじゃない」

「じゃあ…モナティは…」

「アイツから戦う手段を奪っただけってことね…」

「マスタぁ―!!」

 

モナティが外に出たハヤトにしがみ付き、泣き叫ぶように懇願する。

そのあまりの必死さは今までモナティが出すことがなかった、表情だった。

 

「行かないで、行かないでくださいですのっ!!」

「ごめん、無理なんだ」

「モナティ、怖いんですの…、マスターがいなくなっちゃったらモナティはまた一人になっちゃうんですの…」

「そんなことないだろ、みんなが…」

「モナティのマスターは、マスター、ただ一人なんですの!!」

 

モナティは怒るように涙を流して俺にその思いを訴えた。

 

「モナティを救ってくれたのは他でもないマスターなんですの。他の皆さんもやさしいですけど、モナティのマスターは…、マスターは…」

「……」

 

モナティをギュッと抱きしめて俺はモナティに告げた。

 

「それと同じように、クラレットは俺の中でただ一人だけなんだ」

「…マスター」

「きっと、ここでクラレットがいなくなったら、俺は一生後悔する。死ぬよりも後悔すると思う。だから行かせてくれ…」

「…モナティも一緒に行きたいですの。でも、モナティは戦うの苦手だから…、守る自信がないから…」

「だったらアタシが行ってあげるわよ」

 

二人が振り向くと、武器と石を持ってきてくれたリプレと、爪を研ぎ澄ませているエルカがいた。

 

「エルカさぁん…」

「この馬鹿レビット、泣き顔なのか嬉しい顔なのかどっちかにしなさいって」

「エルカ、いいのか?」

「アンタはね。アタシをメイトルパに戻すって役目があるのよ。それに比べれば戦うのなんて楽勝よ」

「だけど、今回の相手は危険すぎるんだぞ?」

「一人より二人の方がまだ可能性はあるでしょ?」

 

そういいながら、エルカは俺の腹を小突く、痛みで顔をしかめると、

ほらね? と言いながら俺の前に立った。

 

「そんな状態なんだから無理すんじゃないわよ」

「……わかった。エルカ、頼むな。モナティもそれでいいよな」

「…はいですの」

 

モナティの頭を撫でながらゆっくりと自分から放してゆく。

あっ、と言っていたが、帰ったら思いっきり構ってあげようと思った。

そして、武器を持ったリプレが近づいてくる。

 

「私には何もできないから…、一緒に戦ってあげることが出来ないから…」

「……」

「前にね、クラレットに言われたの。私がここで待ってるから、帰る場所があるからみんな戦えるって」

「クラレットが…」

「だから、約束して…、絶対に帰ってくるって、約束して!」

 

小指を差し出す、シルターンの小さなおまじない、指切り。

 

「ああ、約束するよ、俺は必ずここに帰ってくる。クラレットも…、みんなも一緒に」

「待ってるから…、休んで、体調が回復したらいっぱい御馳走作ってあげるから、頑張ってね…」

「じゃあ、行ってくるよ。リプレ」

 

そうリプレに伝えると、エルカに支えられる形で、俺もミニスとフィズを助ける為に波止場へと向かって行った。

 

「行っちゃったですの…、リプレさん」

「……待ってるだけっ……て、こ…んな…に辛いのね。ひっく…」

「にゅぅ……」

 

二人の少女が泣いている。家族を取り戻すために戦うみんなの事を想い、

ただひたすらに、泣きながら彼女たちは無事を祈った……。

 

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そんな彼女たちの想いを受けて、俺は今、ここに来た。

やっぱり来てよかった、来てなかったら少なくとも、アカネは死んでたかもしれなかったからな。

 

「ぐうっ!」

「いきなり走り出して、無茶するんじゃないわよ!」

「悪いな、エルカ」

 

再び支えられながら、俺はソルの目の前に立つ、後ろには傷ついているが、無事なミニスとフィズの姿があった。

二人は俺の姿を見て、驚いたが同時に嬉しそうに笑顔になってくれる。

 

「お兄ちゃん!エルカ!」

「生きてて…、生きててくれたんだ」

「当たり前だろ、そう簡単に死ねるかよ」

 

二人に笑いかけた俺は、そのままソルを睨み付ける、

しばらく沈黙が続いていたソルが、口を開いた。

 

「生きてたとは思わなかった、どうやって蘇生した」

「詳しいことは分からないさ、あの電撃を受けて意識を失ったら、気づいたらボロボロになってただけだったからな」

 

確実に殺したはず、心臓も動いてはいなかった。

ソルはそう考える、そして一つの答えを予測した、あの状況で唯一ハヤトを蘇生できる人物を。

 

「そうか、クラレットだな。貴様を蘇生したのは、なるほど…」

「?」

「どうやら、計画の決め手は貴様のようだな」

 

何を感づいたのかソルの魔力が膨れ上がり始める、

同時にミニスとフィズを召喚獣が送還されるのを確認した。

 

「手錠が!?」

「どういうこと…?」

「マーンなど、どうでもいい。今は…」

 

ソルの懐から黒いサモナイト石が取り出され、召喚術が発動する!

そして異界のゲートから機械兵士が召喚された。

 

「貴様を殺すだけだ!来い、【オペイロス】!!」

 

召喚されたのは所々剥げた塗装の緑の機械兵士、俺達に向けて巨大な鉄球を振りおろした!

 

「俺はいい、飛べエルカ!」

「信じてるわよ!」

 

それぞれ、左右に回避して、エルカはソルを狙う様に飛び込む、

俺は緑のサモナイト石を取り出して、相棒を呼ぶのに意識を集中した。

 

「来てくれ…、クロォ!!」

 

ソルとの因縁を断ち切る為、ハヤトはクロを呼び出す、決着をつけるために!

 

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クラレットが霧の中で戦っていると、突然クロが光を発し始めた。

 

「!?」

「クロ、どうしたんですか!」

 

その光に導かれクロの姿が消えてしまう。

この光は召喚術の光…、まさかハヤトが!?

 

「おい、クロの奴はどうしたんだよ!」

「ガゼルさん…、ハヤトが、ハヤトが来てしまったんです!」

「な、なんだとっ!?」

 

クロを呼んだという事は…、ハヤトはソル兄様と今戦っている…。

そうだったんだ、ハヤトがひた隠しにしていたのは、ソル兄様の事だったですね。

あの日、クロと一緒にボロボロで帰って来た時から気になっていた、

ハヤトは知ってたんだ、ソル兄様が私の事を狙ってることに、だからあそこまで強くなろうと…。

でも、このままじゃハヤトは!

 

「ガゼルさん、何とか霧を突破します。道を切り開いてください!」

「道を切り開くってよぉ…、あぁ、やってやる!アイツに死なれたら目覚めが悪すぎんだよ!!」

 

ガゼルさんが何とか霧を突破するために、私の召喚術をサポートする、

待っていてください、必ず…、必ず間に合わせます!

 

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「ムイッ!?」

 

突然呼び出されたクロは状況を理解できなかった、

だが、目の前にいる、召喚獣オペイロスが口からミサイルを放つ瞬間だった!

 

「クロ、ミサイルを跳ね返せ!!」

「!?」

 

突然呼び出したハヤトの滅茶苦茶な命令に混乱するが、

半場ヤケクソ気味にクロは迫り来るミサイルを、その手で掴み投げ返す!

燃料が不足してたのか、推進しなくなったミサイルは簡単に投げ返されてしまった。

そして、オペイロスに直撃し爆散して、送還されてしまう。

 

「ッ、ハズレか!」

 

オペイロスは強力な機械兵士だが、時折外れが混じるときがある、

ソルは舌打ちしつつ、攻撃を仕掛けるエルカを凌いでいた。

 

「はああぁぁぁーー!!」

「ッ!」

 

エルカの魔眼が光り輝き、ソルを襲うが、魔力を全身に巡らせそれを弾く。

そのまま、赤いサモナイト石に魔力を通し、エルカを迎撃した。

 

「捻り潰せ!【金剛鬼】!!」

 

――グオオォォォォーーッッ!!

 

召喚されたのは巨大な大鬼の召喚獣、まさに鬼といったその容姿は一撃で全てを砕く威圧感を秘めていた。

エルカの体格の数倍の巨大な金棒をエルカの脳天へと振り降ろす!

 

「!!」

 

クロがチャージを溜めながら突っ込み、振り下ろされる金棒に向けて頭突きをかますと、

金棒は大きくのけ反り、クロも吹き飛ばされながらエルカを掴み距離を取った。

 

「おっっらぁぁ!!」

 

ハヤトは跳躍し、金剛鬼の首を魔力を通した剣で跳ね飛ばす!

流石の鬼も首を跳ね飛ばされては維持できずに送還されてしまった。

 

「ぐっ!?」

「貰った、断ち切れ!【ブレイドガンナー】!!」

 

次にソルが召喚したのは三基の浮遊銃器、発射口から光刃が大量にハヤトに殺到する。

ハヤトは着地の衝撃で動けず、防御態勢に入るが、突然、分銅付きのロープがハヤトの体を巻き上げ、引っ張られる。

それを引っ張ったのはアカネだった、今だ、痛みが取れないのか苦痛の表情でハヤトに吼える。

 

「動けないのに、何近くに寄ってるのよ!」

「アカネ!?」

「!」

「行くわよ!」

 

クロとエルカが浮遊銃器に突っ込み、クロが2基、エルカが1基破壊する。

しかし、ソルは更なる召喚術を使用する!

 

「全てを焼き尽くせ、フレイムナイト!!」

 

召喚されたのはフレイムナイト、その火炎放射器から、ハヤト達に向けて炎が迫ってくる!

ハヤトは防御の為に同じようにロレイラルの召喚獣を呼び出すため魔力を高めた。

 

「来てくれ…、アーマーチャンプ!!」

 

ハヤトが召喚したのは二つの盾を持つ鉄巨人、アーマーチャンプ。

その炎を正面から防ぎ、ハヤト達を守る。

 

「その程度で防ぎ切れるか!ダークフレイムだ。そして来い、ウィンゲイル!!」

 

フレイムナイトの炎が黒い炎、ダークフレイムに変化し、

ソルが次にウィンゲイルと呼ばれる機械が暴風を生み出し、その威力を更に膨れ上がらせる!

 

「アチチッ! 何とかしなさいよぉ!!」

「ム…イ」

「くっそぉ…ッ!」

 

必死に魔力を流し込み、アーマーチャンプの防御を維持する、

だが、鉄巨人の装甲がドロドロに溶け始め、送還されるのは時間の問題だった。

 

「ムイ!」

「思いっきり投げろって?」

「クロ…、行けるのか!」

「b」

 

それしかないのか、クロはニヤリと笑うと、上空にエルカが投げ飛ばす!

上空に飛び出たクロは、火傷しているが、ソルへと一直線に突っ込んでく!

 

「クソッ!」

 

ソルは召喚術を解除し、クロを迎え撃った、二体同時召喚は両腕を使い、精神も普段より集中しなければいけない為、

片手間でクロを相手することは出来なかった。

二体の召喚獣が送還されると、アーマーチャンプも送還され、ハヤト達も動き始める。

 

「エルカ!力を貸してくれ、フレイムナイト!」

「行くわよッ!!」

 

フレイムナイトを憑依したエルカが、クロと戦っているソルに突っ込んでゆく、

強化されたエルカとクロを同時に相手するソルの顔に余裕がなくなってくる。

 

「…流石に、きついな」

「!」

「行けるわよ、もっと攻めるわよ。クロ!」

 

エルカの爪が、クロの拳が、野生の呼吸なのか、息をぴったり合わせてソルを攻めてゆく!

近距離専門の召喚獣二人組を相手にソルは追い詰められてゆく。

 

「よし、召喚術で…」

 

ハヤトが召喚術を使おうと、赤いサモナイト石を取り出し魔力を送り始める。

 

「これを使うか…」

「何を使おうとね……ッ!?」

 

――パンッ

 

一発の破裂する音と共にエルカの左肩に激痛が走る、普段感じない痛みのせいで、

エルカの攻撃は止まり、膝を地面に突いてしまった。

 

「痛ゥッ!」

「ム…イッ!?」

「余所見とは余裕だな、はぐれ者!」

 

剣でクロに腹を切り裂き、ソルはその場から離れる、右手には剣、そして左手には…。

 

「銃だって!?」

「貴重な代物だがな、一応持ち歩いといて正解だったな」

 

ソルが持ってたのはハンドガンと呼ばれる銃だ。

リィンバウムにも銃器はあると聞いているが、まさかソルが持っているなんて…!

迂闊だった、召喚術が使えるのに、あんな武器まで隠し持ってるなんて!

 

「そうそう、使うつもりはない。お前たちはこれで十分だ!」

 

紫のサモナイト石を取り出し、膨大な魔力と共にソルはゲートを開く!

 

「セルボルトの名の下に――、来たれ深闇の大公。誓約の下に我が敵を切り裂け!【ツヴァイレライ】!!」

 

召喚されたのは悪魔の大騎士。ツヴァイレライと呼ばれた召喚獣は俺達に突っ込んでくる。

俺は体を起こし、それを迎え撃った。

 

「負けて…たまるかぁぁぁっ!!」

 

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ミニスとフィズはハヤトの戦ってるところを見るだけしか出来なかった。

ボロボロに関わらず、必死に剣を振るい、召喚術を使いハヤトは食い下がる。

だが、実力の差が歴然としているのか、確実にハヤトは追い詰められていった。

 

「お兄ちゃん…!」

「ハヤト…、ねえアナタ。ハヤトを助けられないの!?」

「助けたいのは山々なんだけどねぇ…」

 

アカネの背中から血が吹き出ているのを二人が見ると言葉を失った。

ソルの召喚術の威力が大きすぎて彼女は動くのもやっとなほどの傷を負っていた。

そのうえ、無理にハヤトを助けたせいでアカネは碌に動けなくなっていたのだ。

 

「せめて、回復の召喚術が使えれば別だけど…、あたしは召喚術使えなくてね」

「そんな…」

 

今この場で彼らを助けられる人物はいなかった、霧からまた誰かが出てくるかもしれないが、

それはあまりにも低い可能性だった、手段はない。

たとえあったとしても、あの男相手にまともに対峙するのは不可能だ。

 

「まだ……、方法はある」

 

ミニスが緑のサモナイト石、白銀の翼竜に手を伸ばす、

今、この場で召喚でき、そして彼らを救う事の出来る唯一の手だった。

 

「あの子を召喚できれば、もしかしたら」

 

白銀の翼竜は間違いなく並みの召喚獣を凌駕する力を持つ召喚獣だ。

例え不意打ちでも召喚できれば、ソルに大きな隙を作ることが出来るかもしれない、

運が良ければ、そのまま倒せる可能性を持つ召喚獣だった。

 

「でも、あんたは自分の思う様に召喚術を使えないんじゃ…」

「それでもっ!」

 

不安そうなフィズにミニスは真剣な顔で訴える。

 

「それでもやりたいのっ! 何もしないままじゃ、イヤなのっ!!」

「ミニス…」

 

ハヤトが一度、死んでいるにも関わらずに助けてくれようとする人が、

今、自分の目の前で戦ってくれる、あれだけ怖い人相手にあんなに必死になって戦ってくれる。

なのに、自分はただ信じてるだけでいいの、何とかする可能性があるのに私は…。

 

「私は今まで、逃げてばかりいた。自分に都合の悪い全てから、立ち向かおうともしないで逃げていただけ…」

 

でも…、今はもう違う。

 

「フィズやガゼルが…、ハヤトが教えてくれた! どんなにつらくても、怖くても、立ち向かう事から逃げちゃダメだって教えてくれたのっ!!」

 

フィズは優しさで、ガゼルは怒りで、そしてハヤトは守ることで教えてくれた。

ただ受け身に回ってたらきっと後悔する、自分から立ち向かわなければ行けないことを。

だから…、私は…!

 

「うまくいくかどうかはわからないけど、何もしないで諦めたりなんかしたくないの!!」

 

みんなから貰い、そして自分自身で決意した、強い思いを漲らせて、ミニスは二人を見た。

 

「どうせ何もしなかったら、み~んな死んじゃうだけなんだしさ、やってみる価値はあるんじゃないかな?」

 

痛みを我慢しながら、笑顔でアカネは頷いた。

 

「……信じてるから」

 

フィズは自分の力の無さを悔やみはしなかった、ただ自分の想いをミニスに送る。

 

「きっと、お兄ちゃん達を助けてくれるって、信じてるから!」

 

その言葉に込められた想いを受け止めて、ミニスは強くうなずいた。

そしてミニスは翼竜のサモナイト石のついたペンダントを握りしめる。

手が震える…、それを片方の手で押さえ、目を閉じて、手の平にギュッと力を籠める。

どうすればいいかなんてわからない…。

だけど、絶対に逃げ足したりはしない。諦めもしない。

呼吸を落ち着けて、自分の中に眠る魔力を引き出してゆく。

体の芯から強い力が溢れるのをミニスは感じ取った……、だが。

 

ここまでなの…。

 

そこから先に進むことが出来ない。どれだけ強い魔力でも、それを解き放てなかった。

結局いつもと同じだった…。

 

やっぱり、私には無理なの……?

 

浮かんできた不安にミニスが押しつぶされそうとする、怖い、自分が失敗すればあの人が死ぬ。

死んじゃう、また自分のせいで、傷ついて死んじゃう、ハヤトが死んじゃう。

震えが止まらくなり息が激しくなる、怖い、怖い、怖い!

先ほどの決意も恐怖で塗りつぶされそうになる。そしてミニスは石をその手から……。

 

 

誰かが、優しくその手を支えてくれた…。

ミニスがゆっくりと目を開けると、そこには優しく笑うフィズの顔があった。

 

「フィズ…」

「……ん」

 

フィズからゆっくりと魔力の糸がミニスの中に流れてくる。

 

「あたしもね、ラミと同じ召喚師の才能が無いか、お姉ちゃんに調べてもらったんだ」

 

少し前、クラレットに自分にも召喚師の才能がないか調べてもらっていた。

 

「でも、あたしには才能がなかった…、だけどお姉ちゃんが教えてくれたの」

 

魔力は誰にでもあるもの、たとえ使えなくても、その魔力は相手を支えられることを。

サモンアシストと呼ばれる技法、クラレットはフィズにそれを教えていた、きっと役立つときが来ると思い。

 

「お兄ちゃんも言ってたよ。召喚獣はみんなあたし達と同じだって」

 

その言葉はミニスも聞いていた、人も召喚獣も彼にとっては同じだと。

同じように悩み、苦しみ、そして喜ぶと…。

 

「…うん」

 

ミニスは再び目を閉じ意識を集中する。

フィズの魔力の糸を伝い、自分の中の魔力をゆっくりと引っ張り上げる、

そしてミニスは決めた。全てをあるがままに受け入れる事を、

楽しいことも、悲しいことも、嬉しいことも、辛いことも、

どれか一つを選ぶことしか出来ないのなら、全部を受け入れよう。

だって、それらの感情全ては……。

 

全部、私なんだよね?

 

自分は弱虫だ。泣いて泣き続きて、きっとまた苦しんでしまう、

でも泣き止めばまた立ち上がれる。頑張ることが出来る。

 

「だから…、貴方の声を私に聞かせて…」

 

フィズの手ごと手にしたサモナイト石を抱きしめるように、ミニスは語り掛けた。

 

「もう耳を塞いだりしないから、貴方の気持ちを私に伝えて…」

 

暖かな光が、掌から伝わってくる、それをフィズも感じ取り、優しく笑顔になる。

そして二人は石を通して今まで気づくことのなかった優しい気持ちが、彼女たちの胸に流れ込んできた。

 

貴方も、ずっと寂しかったんだね?

 

呼びかけに気づいてもらえず、冷たい石の中で泣いていた。

大切な物がすぐそばにあるのに、それが傷ついていくのを黙って見ていることしか出来なかった。

名前さえ呼んでくれれば、いつだって守ってあげられるのに…。

 

「ごめんね…、気づいてあげられなくて…、でも」

 

もう大丈夫だよ…。

今の私なら、貴方を呼んであげられる。

優しくて強い貴方の為に、ふさわしい名前を付けてあげることが出来る。

 

ゆっくり深呼吸して、ミニスは目を開く、

光り輝く緑の輝きが、彼女の周りを飛び交っている。

待ち焦がれたその時を祝う様に、激しく、優しく、眩しく輝いている。

 

「――古き盟約の鎖ではなく、新たなる友誼をもって、ミニス・マーンが願う……」

 

自然に必要な言葉が口から出てくる

 

「――幻獣界より来たりて、我にその力を貸したまえ……」

 

その誓約はエルゴに誓う友誼の証、古の時代に失われし召喚術の原点

 

「貴方の名前は【シルヴァーナ】!猛き翼を打ち鳴らせ、心優しき我が友よ!!」

 

銀の輝きが闇夜を切り裂き、歓喜に満ちた咆哮が天地を揺るがす。

今ここに、白銀の翼竜シルヴァーナは新たな誓約の下、召喚されたのだった。

 

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彼らは必死に戦った、恐らく万全の状態でも勝ち目は薄い相手に良く持ったと言えるだろう。

クロは突っ込み、エルカも片手を動かせないながら魔眼で攻撃し、

ハヤトもなけなしの魔力で攻撃を仕掛けるが…。

 

「うわあっ!!」

「きゃぁっ!」

「!?」

 

ソルの放った召喚術、囚われの機兵のヒュプノブレイク。

その一撃を受けて、ハヤト達は為すすべもなく吹き飛ばされる。

 

「随分と持つものだな…」

 

エルカは肩から血を流し、その場に横たわる。痛みが激しすぎてもう動けないほどだった。

 

「…ムィ」

 

クロも暗殺者との連戦、そしてこの戦闘ではエルカやハヤトを庇いすぎてダメージを受けすぎたため、

動きが鈍ぶってしまう、さっき切り裂かれた傷のせいでダメージが蓄積しすぎていた。そして…。

 

「う…くぅ…、ま…けるかぁ…」

 

ハヤトは剣を杖に立ち上がる、既に視界はブレて自分自身では立てないほどだった、

体の痛みで感覚が麻痺してしまい、意地でソルの前に立っていたのだった。

 

「良く持ったとでも言っておこう、だがな…」

 

ソルは黒のサモナイト石に魔力を通す、空間が揺らぎゲートが出現する。

そこから現れたのは両手がプラグで出来た、召喚獣だった。

 

「そいつは…!」

「もう一度、こいつで終わらせてやろう!」

 

機界ロレイラルの上級召喚獣、エレキメデス。

両手から放たれる電撃は広範囲に広がり多数の敵を感電させる召喚獣だった。

そしてバチバチと電撃が手から流れ始め、彼ら三人にもう助からない事を現してるようだった。

 

「諦めるか…、最後まで…、諦めるかぁぁっ!!」

「今が最後の時だ、ボルツテンペスト!!」

 

ソルがエレキメデスに指示を与える、そして電撃か彼らを包み込もうとしたその瞬間。

 

――シギャァァァァーーッッ!!!

 

「なにっ!?」

 

大きな咆哮と共に、いくつもの爆炎がエレキメデスに降り注ぎ、バチバチと電流を発しながら、

エレキメデスが爆発四散してしまい、送還されてゆく。

ソルは爆散したエレキメデスを、結界で爆炎を防ぎ、状況を確認しようとした。

ハヤトは何が起こったかわからなかった、ただ、爆炎に感じたこの魔力、それは…。

 

「ミニス…?」

「馬鹿な!白銀の翼竜だと!?」

 

全身を覆っている白銀の鱗が魔力で反射して虹色の輝きを放つ翼竜がそこいた。

翼竜、シルヴァーナは暴風を吹き荒らしながら火球をいくつもソルに向かって打ち放った!

 

「同じ手が効くか!天繰日傘!!」

 

前回と同じように防ごうと、召喚されたシルターンの妖怪変化。

再び巨大化し回転しながらその火球を弾き防いでゆくが。

 

「お願い、シルヴァーナ!!」

 

――シギャァァァーーッ!!

 

主に頼りにされるのがそんなに嬉しいのか、歓喜の咆哮をあげ、

シルヴァーナは大量の火球を一斉に吐き出して、ソルを襲う。

【カトリングキャノン】と呼ばれるワイバーンの強力な攻撃方法だった。

次第に天繰日傘は防ぎきれず、火達磨になりながら送還されてしまう。

 

「威力が…、上がってるだと!?」

 

ソルは炎から逃れるように、その場を駆ける。

驚きながらも天空を舞うシルヴァーナの様子を見る、前回のシルヴァーナは魔力が安定しておらず、

垂れ流しで暴れくるっていたが、今はその魔力が彼の体を覆う様に安定している。

それだけではなく、攻撃するときに、まるで魔力が生きているようにシルヴァーナを補助しているのだ。

そんな事例、今までない…、いやこいつも同じような事をしていたな。

つまり、これは名も無き世界、限定では無く、全ての召喚師が持てる可能性なのかと考察する。

だが、その考察も今は捨ておく、まずはこいつらを始末するを優先するようにソルは召喚術を放った。

 

「再び腐らせてやろう。ネウロランサー!!」

 

召喚された、4つの瘴気を纏った魔槍が、シルヴァーナに向けて撃ち放たれる。

それを撃ち落そうとシルヴァーナが火球を放つが、ソルはそれを操作して回避する。

今度は足ではなく、顔面に打ち込み一気に勝負を決めようとするが…。

 

「させるかぁぁぁぁーー!!」

 

ハヤトがシャインセイバーを召喚し、4つの内3つを撃ち落す、

しかし、残り一本がシャインセイバーを回避してシルヴァーナへと向かう!

 

「ムイッ!」

 

クロはアカネの投げたと思われる苦無を使い、豪速で投げ飛ばし残り一本の魔槍を弾き飛ばす。

ギリギリ、シルヴァーナの顔面に当たるところだったが、二人はそれを何とか防ぐことが出来た。

 

「死にぞこないが!」

 

ソルはハヤトに攻撃を仕掛けようとするが、シルヴァーナの火球が降り注ぎ、

攻撃に出れなくなる、再び回避しつつ、召喚術を行使した。

 

「ベンソウ!ギアランペイジ!!」

「シルヴァーナ、頑張って!」

 

二体のベンソウが左右からシルヴァーナを切り裂こうと召喚されるが、

ビームソーはシルヴァーナの鱗に弾かれダメージが入らない。

そしてシルヴァーナの火球と尾撃により、二体は粉砕され送還される。

 

「なんだ…、なんだコイツは!」

 

ソルは悪態をついた、規格外だ。並みの召喚獣の領域をはるかに超えるシルヴァーナ。

纏ってる魔力もそしてシルヴァーナ自身も恐ろしい強さを誇っている。

かつての暴発状態が嘘のような強さを誇るシルヴァーナにソルは戦略を練る。

 

「……なるほどな。そういう事か」

 

ソルはあることに気づく、それは当然と言えば当然だった。

それに気づいたソルは、攻撃をやめ、撹乱と防御に召喚術を行使し始めた。

ソルが攻撃を辞めたその理由は……。

 

「二人ともしっかり、倒れちゃダメだからね!」

 

アカネが懇願するような声が聞こえる、アカネの視線の先には、

二人の少女の姿がある、汗を流し、苦痛に悶えながらも必死に石を握る二人の少女だ。

 

「フィズは休んでなさいよ…、召喚師じゃないでしょ」

「ミニスだけにやらせるつもりなんて、ないんだから!」

 

フィズとミニスは二人でシルヴァーナを制御していた。

シルヴァーナは上級の中でも上位の召喚獣だ。その維持する魔力は相当な物だろう。

本来なら、それを訓練するために召喚術の訓練をし、効率化を感覚で覚えるべきなのだが。

ミニスが召喚術をまともに行使するのは今回が初めてだった。

 

「いっ…け!シルヴァーナ!!」

 

――シギャァァァァーーッッ!!

 

「うっく…!!」

 

シルヴァーナが咆哮をあげ、火球を撃ち放つ、それだけでも二人に途轍もない負荷がかかっている。

もし、ミニスに母譲りの膨大な魔力がなければシルヴァーナの力を十全に引き出せなかっただろう。

もし、フィズがクラレットにサモンアシストの指導をされてなければ、シルヴァーナの維持にミニスが耐えきれなかっただろう。

フィズが垂らした魔力の糸、それがいまミニスの膨大な魔力をつるしてる状態だった、

もしフィズの適性がメイトルパならまだ楽だったであろうが、彼女の適性はサプレス。

それもあり、いつ切れてもおかしくないほどの負荷がその糸にかかっている状態だった。

そう長くはもたない、だから、ソルは攻撃をやめたのだ。

時間が立てば自滅する、そんな相手に攻撃を仕掛ける理由などないと割り切った。

 

「ミニス…、フィズ…」

「!」

 

それにハヤト達も気づいていた、このまま二人を放って置けば間違いなく魔力切れを起こす。

前にメリオールを召喚したときに経験している、膨大な魔力と維持のかかる召喚獣はそれだけ負荷がかかるのだ。

しかも二人とも召喚術に関しては初心者と同じだ。持たない、このままじゃ!

 

「どうにかして、ソルを倒さないと」

「…」

 

エルカは痛みが激しすぎるのか、意識はあるようだが動けない。

クロと俺も、相当ダメージは負っているがまだ動ける、俺達がやるしかない。

 

「…ムイ」

「え?」

「ムイムイ、ムイム!」

「なっ!? わかってるのかクロ、それをやったらお前は!」

「ムイ!!」

「………」

 

口をあまり開かないクロが叫ぶようにハヤトに作戦を伝える、

その作戦はあまりに危険だが、決まればソルに勝てる可能性があった。

ハヤトは考える、今できる一番の行動を…。

 

「本当に…、いいのか」

「b」

 

サムズアップをし、クロはハヤトの前に立つ、小さい体だが、

ハヤトにはクロの背中がとても大きく見えた、そして改めて実感したのだ。

 

「なぁ…、クロ。俺さ、お前を最初に召喚して、本当に良かったって、今一番実感してる」

「…」

「決めるぞ、クロ!これで全部決める!!」

「ムイ!!」

「ミニスッ!!」

 

ハヤトとソルがソルに向かって駆ける、そしてハヤトが大声でミニスの名を呼んだ!

 

「な、なにっ?」

「ソルに向かって、一番デカいのを撃ってくれ!!」

「わ、わかったわ。シルヴァーナ!!」

 

咆哮と共にシルヴァーナの口から焔が漏れ始め、膨大な魔力と共に爆炎が出現する!

【フレアキャノン】と呼ばれる、ワイバーンの持つ最大の砲撃がソルに向かって撃ち放たれた!

人どころか家さえも飲み込むほどの大火球がハヤトとクロ、ソルに向かって迫ってくる。

 

「お兄ちゃんっ!?」

「ダメよ、ハヤト止まって!!」

 

二人はハヤトが爆炎に包まれると恐怖し、悲鳴を上げる。

ソルはその行動が理解できなかった、ハヤトは今まで召喚術に対する防御は召喚術しかなかった。

だが、ハヤトが召喚術を発動する兆しが見えない、これではまるで…。

 

「自滅覚悟の特攻か!?」

「今だ、クロッ!!」

「ムッ…イィ!」

 

火球が直撃する寸前、クロがハヤトを上空に投げ飛ばす!

ソルは爆炎を結界を張り防ぐがクロは炎に飲まれてしまった。

そして浮遊感と共に上空に投げ飛ばされたハヤトは地上で炸裂した爆炎で更に高く上昇した。

ハヤトは剣を上に向けて魔力で姿勢制御をし、ソルに向かって落下する!

 

「これで、どうだぁぁぁーーーっっ!!!」

「なにっ!?」

 

上空からソルに向かって一直線に突っ込んでくるハヤトをソルは避けられなかった。

シルヴァーナのフレアキャノンを防いでしまい、すぐに行動が出来なかったのである。

剣を抜き放ち、今まわせる魔力を剣に込めて、ソルはハヤトの攻撃を防ぐ!

だが、ピシリと不吉な音を立てて、パキィンといった決定的な音を立てながら剣が折れてしまった。

ハヤトの剣は彼が乱暴に扱うせいで耐久重視で打たれた剣だ。

その為、ソルの持つ剣とは耐久性が圧倒的に違い、何より上空から落下した威力もあり、

その一撃にソルの剣は耐え切れなかった。

 

「ぐっ!」

 

ソルが痛みに耐える声を出す、彼の胸部はハヤトの剣で切り裂かれ、鮮血が吹き上がる、

だが、ソルはハヤトを始末するべく、召喚術を行使しようと石に魔力を通そうとする!

 

「今だ、クロォォーーッッ!!」

「ムイィィーーー!!」

「なぜこいつが!?」

 

フレアキャノンに直撃したはずのクロが地面から飛び出す形で姿を現した、

背中は焼けただれ、左手の拳は砕けていた。

彼はハヤトを投げた後、左手粉砕の覚悟で地面を砕き、その中に隠れたのだ。

穴を塞ぐ余裕など最初からなかった、そのため彼の背中は大きく焼けてしまい、

血が吹き出始めるほどのダメージを負っていた。

それでもハヤトの声に応え、クロはソルに向かって全力の拳をその胸部に打ち込んだ!!

 

「ぐおぉッッ!?」

 

ベキバキといった聞こえてはいけない音をクロは肌で感じた、

これで決まらなければ…、そう思ったクロだが、ソルは血を吐き出しながら、召喚術を発動させる!

赤く輝いたサモナイト石がゲートを出現させ始める。

妄執ともいえるほどの眼光をハヤト達にぶつけ、ソルは鬼神将を召喚しようとする!

 

「危険だ…、貴様らは危険だ、排除する…、組織の為に、父上の為に、……くそっ!邪魔するな!!」

 

ソルの言ってる言葉が一致しない、まるで何かに操られているかの様に…。

だが、それを無理に振り切り、ソルは意識を戻す。目の前にいる危険分子を排除するために。

そして、鬼神将ゴウセツを召喚してしまった、そしてソルの魔力とゴウセツの魔力が同調する!

 

「貴様らを排除する! 鬼神烈破斬!!!」

 

鬼神将はその究極の剣をハヤトに振り降ろすため、剣に力を高める。

ハヤトはその状況を見るしかなかった…、どうしようもない、決め手は全部使った。

もうこの技に対抗する手段が無い……、もういいんじゃないか?

 

 

……いいわけないだろ!! あと一歩なんだ、こいつさえ凌げは倒せるんだ!

考えろ、何か方法ああるはずだ、目の前の奴を倒せればそれで、でも俺にソルの様な真似は…。

 

――召喚獣の魔力と同調することで限界以上の技を引き出せる技法だ

 

あいつはそう言ってた、でも俺に魔力を同調させるなんてマネは出来ない。

だったらどうすれば……、そうだ、俺が合わせる必要なんてない。

【この体を渡せばいいんだ】そうすれば…、きっと俺にも使える、きっと!!

だから、力を貸してくれ、ガイエン。みんなを守る為に、アイツを…、クラレットを守る為に!!

 

「うおおおぉぉぉぉオオオオォォォォッッッ!!」

「!?」

「どうなってる!?」

 

ハヤトの赤いサモナイト石が光り輝き、何かがハヤトの中に下りてくる。

そして彼の体から赤い泥のような物が湧き出る。

それは魂殻と呼ばれる魂の器、ハヤトはガイエンの器を纏い姿が変貌していゆく!

ハヤトはギリギリのラインで人間だった、ガイエンはハヤトを壊す気などない。

本当はこんなマネをしたくなかった、だがここでハヤトが死ねばそれで終わりなのだ。

そう割り切ったガイエンはハヤトがギリギリハヤトでいられるラインで自身を下ろす。

そして、魂殻の魔力を剣に宿し、ハヤトの剣は紅き極光を放つ!

ゴウセツの持つ、鬼神烈破斬にならぶ、ガイエンの究極の一撃が今、放たれた!!

 

「『鬼神剛断剣!!!』」

 

重なる二つの声がハヤトから聞こえる、そしてその極光の剣はゴウセツの大太刀とぶつかりあう!

凄まじい衝撃と共に、ゴウセツはその衝撃に耐え切れず、消し飛ばされ、送還されてしまった。

そしてハヤトの剣も二つの威力に耐え切れず、粉々に刀身が砕け散ってしまう。

 

「うっ…、がああぁぁーっっ!? ……あ…ぁ」

 

ゴウセツの受けた衝撃が軽減されず、ハヤトの剣の一撃はソルの胸部を打ち抜く、

大量の鮮血が噴出し、ソルが吹き飛ばされ、そのまま倒れてしまう。

 

「…ぁ………」

 

ソルは視界は真っ赤に染まっていた、痛みすらもうわかない、全身が寒さで凍えるようだった。

自分がどうなったのか、確認することも出来ずにいた。

 

負けた…? 手加減をしていたわけでもない、確かにイレギュラーは発生したが、

それでも自分に負ける要素はなかったはずだ…。

ならなぜ負けた…、分からない、

あの男はなぜあんなことをしてまで戦うのか…、わから…な…い。

 

彼は自身の血で出来た血だまりの中、そのまま息を引き取ったのだった……。




決着!圧倒的決着!

ハヤトは新しい技、鬼神剛断剣と鬼神憑依を覚えました…、二度と使わんわ!
これ書いてて、ハヤト死ぬんじゃない?え?死ぬの?って何度も思っちゃったよ。

うーん、簡単に言うと安定しないモノシフト、
固定化するはずの魂殻がデロデロ出まくりの状態ですね。
どう考えても死ぬ一歩手前の自殺技です。

クラレットに知られたらひっぱだかれて号泣されるな……。

ああ、あとソル君出番終了、お疲れー(次回も頑張ってね)

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