サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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今回の話は色々弄れる点があったのに、もっといじればよかったと思うほどでした。
一部の話をカットしてるけど、そこらへんは、別に変らないとこなんで。
少しばかりハヤトの過去話も出るので、長いですがごゆっくりどうぞ。


第17話 思い出の絆

 

「怖かったー、ホントに怖かった―」

 

机に突っ伏して情けない声を出してるのはハヤトだった、考えなしとはまさにこの事、

ガゼルを助けるのに夢中で後で自分のやった行いに恐怖していたのだ。

 

「見ていた私が一番怖かったですよ。一度翼を切り落とした相手に何やってるんですか」

 

殆ど呆れた口調でクラレットがハヤトを責める、

実際真横であのような行いをされてはたまったもんではなかった。

 

「まあ、ワシから見ればお前さんたち二人とも無茶しすぎだぞ?」

 

エドスから見れば二人とも毎回無茶をしてる、

しかし、この二人、毎回厄介ごとを呼び込む天才だと内心思っていた。

事態がとんでもないことになっているのだが、孤児院の広間に居たのはたった4人、

突っ伏してるハヤトとその横に座ってるクラレット、そしてジンガとエドスだ。

リプレは気を失ったガゼルを看病してる為、広間には居なかった。

 

「スタウトはさっさと帰るし、アカネはアカネで、わざとらしく用事思い出して逃げるし…」

「アカネの場合は用事を思い出すじゃなくて、用事から逃げるためにここに来ますから」

 

アカネがここに来たとき、ハヤトの顔に不穏な物を感じ取った瞬間、

「いっけなぁーい、アタシってばぁ、用事忘れてたぁ!」っと

白々しいセリフを吐きながらUターンしてそのまま逃げていったのだ。

 

「面倒ごとを本当に避けるよなぁ、結局、話聞いてくれたのスウォンだけだし」

 

スウォンはミニスの事をユエルから聞いていて、ユエルはミニスの事が嫌いと言ってたそうだ、

だが、ミニスの境遇も理解してくれたスウォンは親身になって相談に乗ってくれた。

家の片づけとユエルの説得が終わり次第、すぐに戻ってくれると約束してくれた。

ユエルも理解ある子なので説得はすぐに済むだろう。

 

「しかしさ、みんな薄情だよな…」

「みんなというより、アカネとスタウトさんに求めても仕方ないですよ」

「無理もなかろうさ。今まで起きたこととは、かなり事情が違う問題だからな」

 

それは確かに、その通りだった。今までは明確な目的や緊急性が高いものばかりだった、

今回は最悪の形としてだったら騎士団に押し付ければそれで終わりなのだ。

 

「どうすればいいか、正直、ワシにも訳が分からんよ」

「ハヤトの予想も当たってましたし、確認も取れましたからね…」

 

ハヤトの予想は当たってた、翼竜を呼び出したのはミニスで、彼女は召喚師だったのだ。

目を覚ました彼女が、そのことを認めたのである。

 

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少し時間が遡り、帰って来たばかりでミニスが目を覚ました時にそのことを教えてくれた。

 

「黙ってるつもりじゃ、なかったの…」

 

言いにくそうにしながらスカートのポケットから出てきたものは金の鎖でつながれた宝石だった。

 

「メイトルパのサモナイト石ですね」

 

ハヤトがそのサモナイト石を見ると愕然とした、

直に見るとその内部に秘められた力に驚いたのだった。

ハヤトの呼び出せる召喚獣は中級召喚獣と分類されており、

白金の翼竜は最上級に限りなく近い上級召喚獣ではないかとクラレットは見立てを立てていた。

つまりハヤトでは召喚することすらままならない力を秘めている召喚獣だったのだ。

 

ってことはミニスは俺以上に強力な召喚師なのか…。

 

その事に驚いたが、それ以上に衝撃を受けたのは次にミニスが口にした、とんでもない告白だった。

 

「けどっ!私がワザと呼んでるわけじゃないんだよっ!!どうしアイツが出てくるのか、本当にわからないんだもんっ!!」

 

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「兄貴の話通り、召喚術が暴発してるってことか?」

「うん、最初の時もクラレットが暴走してた時に似てたし、瓦礫の山が崩れた時、ミニスが召喚術を使える状況じゃなかったはずなんだ」

 

召喚術は精神を集中が不可欠だ、パニックを起こしていた彼女が召喚術を使えたと考える方が不自然なのだ。

 

「召喚術の暴発…」

「え?」

「ワイバーンは召喚術の暴発で呼び出されたんです」

「召喚術の暴発?」

 

召喚術の暴発、具体的にどういうモノか、よく考えるとイマイチはっきりしていない。

 

「召喚術の暴発って、どういうのなんだ?」

「暴発で呼び出された召喚獣は、召喚師の制御を受け付けないんです。衝動の赴くままに暴走するんです。あ…」

 

そういうとクラレットは何かを思い出した様だった。

 

「姐さんどうしたんだよ?」

「今となって思えば、ハヤトを召喚してしまった時、いつもと違いましたよね?」

「そういえば…、感情が高ぶってた気がするなぁ、今になって思えば変だよな」

 

ハヤトがクラレットの召喚され、リィンバウムに初めて来たとき、ガゼルと戦った。

その時、倒したガゼルに手をかけようとするなど、普段の温厚なハヤトとは思えない行動をとったのだ。

 

「たぶん私が召喚術を暴発させたせいで、感情が普段より高ぶって暴走していたんじゃないかと思います」

「ん?じゃあ俺より、あのワイバーンの方が感情を制御できるのか?」

 

翼竜は暴走というより、明らかにミニスを守ることを優先に行動していた、

しかし、こちらの言葉を理解してミニスを託してくれたりなど理解ある行動を起こしていた。

 

「長い年月を生きるワイバーンは私達よりも深い叡智を持ってるんです。恐らくあのワイバーンもそういったものなのでしょう」

「なるほど…」

 

翼竜は理解ある存在だが、敵対者には容赦がない、

ミニスの話では、繁華街ではゴロツキに絡まれたのが原因で暴発したそうだ、

つまり、ミニスは爆弾なのだ。

激しすぎる感情の高ぶりが原因でサモナイト石が暴発し召喚される、

召喚されたばかりでは叡智ある翼竜も感情のままに暴れてしまう、まさに爆弾だった。

 

「なあ、兄貴。あの子からサモナイト石を取り上げることは出来ねぇのか?」

「やってみたけど、ダメだったんだよ」

「まさかあんな方法を取れるなんて、余程上級の召喚獣ですよ。あのワイバーン…」

 

実はミニスと石を離そうとしたのだが、触れた瞬間、火花を散らして退けてしまった。

これはミニスではなく、翼竜側の力によるものらしい。

 

「それに、ミニスの話じゃ、遠くに捨てても、戻ってくるそうだ」

「戻ってくるって、石が一人でにか!?」

「石のまま戻ってくるわけじゃないんですよ…、まさか残存した魔力を使うなんて…」

 

クラレットは頭を抱えてホトホト困り果てた、なんと勝手に召喚されて戻ってくるそうだ、

これはきちんとした誓約をかわしてないせいで、ゲートが開きっぱなしらしい、

つまり暴発を自発的に起こして自分からこっちに召喚されるそうだ。

 

「深刻に考え過ぎても仕方あるまい。とにかくワシらは、できることをしよう」

 

対策が思いつかず、深刻な空気をを振り払う様にエドスが大きい声を出した。

 

「そうだな、まだミニスは子供なんだ、俺達が守ってやらないとな」

「なんで、キムランさんが狙ってるのかも調べないといけませんからね」

 

出来ることはまだまだある、ミニスを守る為ことに誰も異存はなかった。

 

「そうだよな…今のミニスにゃ、俺っちたちしか頼る相手がいないんだもんな!」

 

パンッ!っと拳を打ち鳴らしてジンガが立ち上がった。

 

「それじゃあ俺っち、ちょっと外を見回りしてくるよ」

 

敵の襲撃に備えて警戒を怠らない。

それは格闘家である彼にとって、ふさわしい行動であった。ではあったのだが…。

 

「なあ、クラレット」

「なんですか?」

「なんだかんだ言って……、ジンガの奴も、逃げたんじゃないのか?」

「……あはは」

 

クラレットはそれを笑いながらごまかすことしかできなかった。

 

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二人はミニスからもう少し話を聞くことにした、

ガゼルを除くとそれができるのは比較的親しいハヤト達だけだったからだ。

ちなみにガゼルは部屋で寝ていた、いびきをかいて寝ているので、ムカついて鼻を摘んでやった。

リプレも心配して損したと言っている始末だ、お腹が減ったら起きるだろう。

 

そしてハヤト達が問題の子供部屋まで来ると。

 

「そんなぁぁ!?またモナティの負けですのぉ!?」

 

ドアを開けた途端情けない声が聞こえてくる。

 

「あのねぇ……。いくら弱いって言ったって、限度があるわよ」

「仕方ないわよ、レビットは頭の中までお花畑なんだから」

「…」

 

そこにはなぜかエルカにクロ、そして涙目のモナティがいた。

遊んでるゲームはクロ特製の将棋だった、ちゃんとした形ではないが、

子供達にもわかるようにクロが作ってくれたものである、器用すぎるテテだ。

こういった手作りの遊び道具がいくつか用意されており、大抵クロが作ってくれる。

 

「でも、負けは負けよ。覚悟なさい」

 

ミニスは心底楽しそうに宣言すると、クレヨンの箱へ手を伸ばした。

モナティが暴れないようにエルカが後ろから押さえ付けている、勝負には厳しいんだな。

 

「ひゃ、ひゃめてくらはいれるすのぉぉぉ」

「なによ、負けたアナタが悪いんじゃない、ちょっとエルカもうちょっとしっかり押さえ付けなさいよ!」

「うっさい、暴れるんじゃいわよ。レビット!」

「ふみゅぅぅ~~」

 

情けない悲鳴を上げるモナティ、それをハヤトが止めようとするが…。

 

「なあ、二人ともその辺で…ぐっ!?」

「モナティ…、ふふぅ…、あはははは!!」

 

だがモナティの顔を見た瞬間、二人は大笑いしてしまった。

 

「なんだよ、モナティその顔、はははっはははは!!」

「笑うなんてヒドイですの、マスタぁー!」

 

モナティの顔はタヌキだった、前にムジナを召喚してるのをエルカは知ってる、

恐らくそれをミニスに話して、よりタヌキ顔に仕上げようとしたのだろう。

かなりの数の落書きがされており、どれほど負けたのかわからないほどだった。

 

「………うにゅうぅぅぅぅぅ!」

「やり過ぎちゃったかしら…」

 

マスターとそのパートナーに大笑いされるモナティを見て、

ミニスが少し罪悪感にとらわれる、肝心のモナティはすでに涙目だ。

 

「きゅーっ!」

 

ガウムが勇敢にも原因を作ったミニスに挑む、

モナティの膝の上に飛び乗り、かかって来いよ。っといった感じでミニスを威嚇した。

ただ、既にその頬にネコひげが書かれてしまっているという事実が憐れみを誘う…。

 

「えー?アナタたち弱すぎるから、私もう飽きちゃったわよ、ねえクロやエルカはやらないの?」

「結果が見えてるのにやるわけないでしょ」

「……」

 

媚び諂いもしないで、素のままにエルカは答えた、クロに至ってはめんどくさそうにする始末だ。

ミニスはハヤトから事前にここの召喚獣たちの事を聞いていたので特に気にしなかった。

そしてミニスは、今度はハヤトの顔を見た。

 

「どうせならハヤトさん、アナタが相手になってくれませんか?」

「ひー……ふう、俺が?」

 

余程モナティの顔が効いたのか、まだ笑った顔が取れないハヤトが返答に答えた。

 

「別にいいぞ、ただし俺は強いぞ?」

 

特に考えもせず、その勝負をハヤトは受けた。

将棋は自身があるほうだ、兄妹がいるとそういうのにも強くなる。

 

「面白いじゃない、もちろん、手加減なしの真剣勝負よ。子供扱いされるのはお断りなんだから」

「いいけど、条件がある」

「条件…?」

 

ミニスはハヤトの条件が気になった、自分にとって不利なものだったらどうしようと、考えてしまう、

しかしハヤトが出した条件は思いもつかないものだった。

 

「他人行儀、やめような?」

「え?」

「まだ会って少しだけど、これから遊ぶんだ。堅苦しいとつまらないじゃないか」

「…えっと」

 

ミニスは返答に困った、召喚術の暴発のせいでミニスは友達がほとんどいない、

貴族という立場もあり、彼女と遊んでくれる人物は少ないのだ。

だからハヤトの出した条件はミニスにとって理解が及ばないものだった。

危険だと知ってるのに相手を思って自分から入ろうとするハヤト、

それを自然に行える、ハヤトの人柄にミニスは好ましく思えた。

 

「ダメか?」

「あっ、ううん!よろしくねハヤト!」

「それじゃ、手加減なしで勝負だ!」

「うんっ!I

 

元気よく年相応の笑顔で答えたミニスを相手にハヤトはゲームを開始した。

そして一時間近くの時間がたった……。

 

「……う~」

「やりすぎた?」

「やり過ぎですよ、普通に手加減してください、手加減」

 

ミニスの顔はしっちゃかめっちゃかな感じで落書きされていた、

ペナルティはどうするか、と聞くともちろんするとミニスは豪語したのだからハヤトは特に気にせずミニスの顔に落書きした。

ちなみにハヤトの顔は一つも落書きの後がない、彼は普通に強いのだ。

ミニスも後半あたりから強敵との戦いで揉まれたのかメキメキ実力が上がって来た、

少しばかりハヤトを追い詰めることもあるがあと一歩が足りない。

 

「ほらほら、ミニスさんの番ですの―」

「わかってるから黙っててよっ!!」

 

モナティを怒鳴りつけ、再度盤をにらめ付けるミニス、

ふと、ハヤトの様子が気になったミニスはチラリと視線を上げると。

 

「あー、お茶が美味い」

 

完全に翼竜の事を忘れてるのではないかと思うハヤトの態度にミニスは呆れた、

だが同時にイライラがすっと抜けていった、落ち着いて盤を見つめる…。

 

「あれ?」

「ふふ」

 

今まで、ハヤトと何度も打ち合ったミニスはハヤトの癖に気づき始めた、

その事を察したクラレットがミニスを見て笑い、ミニスもそんなクラレットを見て笑顔になった。

 

「ここよ!」

 

一つ駒を進める、ハヤトもそれに対処するように進める、

そして、何度も打ち合いをし続けて、やがてハヤトの表情が変わり始めた。

 

「…ん?やばい」

「それなら、こうよ!」

「なっ!?」

 

完全に劣勢に何時の間にか追い込まれたハヤトは逆転しようと奮闘するが……。

 

「ま、参りました…」

「やっっったぁぁぁーー!!」

 

大きく手を上に挙げ、ミニスは喜んだ。

その笑顔はこの街に来て一番の笑顔だった。

 

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「負けた…、手加減してないのに…、うごご」

「ハヤト強いのに癖に気づかれると途端に弱くなりますよね」

「気づかれないと思ったんだよ…、あー、しかし久々に楽しかったぁ」

 

あの後も何度がやり合ったが癖に気づかれたハヤトはケチョンケチョンにされる始末だった、

やがて反撃なのか、顔は塗りたくられまくられた、ちなみにクラレットは一敗もせず、

ミニスに勝てる気がしないと言わされるほどの実力を示すほどだ、実際強すぎる。

 

「まあ、喜んでもらえたからいいか」

 

庭の井戸から水を引き上げ、バシャバシャとやってると、子供たちの声が聞こえる。

 

「アタシは嫌よ!あんな奴と一緒の部屋になんて、いたくないんだもん!」

 

見かけないと思っていた子供たちは中庭の隅っこに集まっていた。

建物の陰から二人で様子をうかがっていると、どうやらミニスの事でもめてるらしい。

 

「だって約束が違うじゃない?ガゼルもハヤトも、ちゃんと今日のうちにあいつを家に帰すって言ったのに……、だからあたしだって、今まで我慢したんだよ!」

 

フィズの言葉を聞いたハヤトの耳は痛かった。予期せぬ出来事が起こったとはいえ、

約束を破ってしまった事実には変わらない。

 

「フィズの気持ちはわかるけどさ、兄ちゃん達を責めるのはかわいそうだよ」

「わかってるわよ!だからこうやって、面と向かって文句は言わないようにしてるんじゃない…」

 

フィズとミニスは水と油だ、些細な出来事のせいで仲違いをしてしまったとはいえ、

先入観もあるせいでもう修復不可能な所まで来てしまってるのかもしれない。

 

「私達の部屋に平気な顔で居座っちゃってさ、図々しいったらありゃしない!」

「…ねえ、おねえちゃん」

「なによ?」

 

不機嫌な姉睨まれた妹は、ちょっとためらったものの、浮かんだ疑問を口にした。

 

「でも…、ミニスはべつに、ラミたちのこと……おいだしてないよ?」

「うっ、うるさいわねぇ…」

 

事実、ミニスは三人を追い出したわけではない、自分たちが勝手に出て来ただけなのだ。

出てゆくフィズをラミとアルバが追いかけて今の形になっただけだった。

 

「戻りたかったら、ラミは戻ればいいじゃない?あたしは絶対、戻らないけどね!」

「………」

 

ラミは黙ってフィズのそばにちょこんと座る。当然アルバも、二人に付き合うことになる。

 

「どうするかなぁ…」

 

ハヤトは心底困った、このまま出て弁解すればとりあえずは何とかなるだろう、

でもそれじゃあ、何の解決につながらない、やっぱりアレしかないかと考えていると…。

 

「ハヤト、クラレット」

 

二人が後ろを振り向くとそこには洗濯籠を抱えた、リプレがいた。

庭の隅に固まってる子供たちを見るとしょうがないわねぇっといった表情をした。

 

「あの子が戻って来てからずっとあんな調子なの。随分頑張ってるみたいだけど、そのうち諦めると思うから、気にしなくていいよ」

「気にしなくていいですか…、でも」

「クラレット、リプレの言うとおりだ。気にしなくてもいいと思う」

「ハヤトまで」

 

二人の素っ気ない答えにクラレットは信じられないという顔をした、

ハヤトは家族思いで特に面倒見がいい、自分や春奈も随分助けられた、

リプレも子供たちの母親として立派に育ててる、だからこそこの二人の答えが信じられなかった。

 

「だったらなおの事、ほおっておけないじゃないですか、ミニスだって何時までいるかわからないんですよ?」

 

ミニスが家に帰るまで、どれだけの時間がかかるかわからないのだ。

その間、子供たちがこんな調子ではあまりにもかわいそうだ、とクラレットは言う、

だけど、それを言うであろうとわかってたハヤトは、かつての事を話し始めた。

 

「同じだよ、ミニスはクラレットと同じなんだ」

「え?」

「覚えてないか?クラレットがうちに来て何か月かしてからの事を…」

「あ…」

 

クラレットは思い出した、自分が新堂の家に来て、初めて起きたあの事件を―――。

 

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それは、まだクラレットが新堂家に来て数か月も経ってもいない頃だった。

当時、クラレットは言葉以外、ほとんどの事がわからなかった、

色々あったが、少しずつ物事を覚え始めていった。しかし…。

 

「いい加減にしろ、春奈!」

「ずるい、ずるいよぉ!」

 

クラレットばかり構って貰ってばっかりだと、春奈が癇癪を起したのだ、

今、思うと当時の春奈は5歳、我慢強い年齢でもなかった。

 

「おねえちゃんばっかりかまってもらってずるいよぉ!おねえちゃん、うちのいえのこじゃないのに、なんで!」

「…春奈」

「春奈、いい加減にしろっ!!」

「ひぐっ!?」

 

当時、クラレットが新堂家の住人になると知って俺も喜んでた、

だけど、春奈の事を考えずに自分の事を優先して春奈を怒鳴りつけてしまったんだ…。

 

「…おにいちゃんも、おねえちゃんも、だいっきらい!!」

「まって、春奈!」

 

春奈は泣きながら外に出て行った。どうせ幼稚園児だ、遠くに行けやしないと決まりつけて、

俺も部屋に閉じこもって、イライラしながらそのまま寝てしまった。

 

しばらく達、外が夕焼けになっているのを確認する、

するとちょうどドアが開いてクラレットが飛び込んできた。

 

「勇人!春奈が、春奈が帰ってこないんです!」

「…それだけだろ、俺知らないよ」

「…勇人っ、わたし、探してきます!」

 

それだけを言うと、クラレットは家から駆けだすように出て行った、

それを窓から見る、クラレットの目に涙が浮かんでいた…。

 

しばらくしても、クラレットも春奈も帰ってこなかった、

家族は事件に巻き込まれたのではないかと心配で警察に連絡もし始めた、

俺も心配になり、家を勝手に抜け出した。

その時、初めて気づいたんだ、春奈がどれだけ我慢してたのかを――。

 

『おにいちゃん、一緒にあそぼう!』

『ごめんな、今日はクラレットと一緒にいてやりたいんだ、また明日な』

『うん…』

 

『今日は、夏美の所に行って来いよ、俺はクラレットにこの街の事、教えるから』

『じゃあ、わたしも…』

『あー、もう夏美に話してあるんだ、ごめんな』

『…』

 

『おにいちゃ…』

『こういう事なんですか?』

『そう、で、これが…』

『……』

『ん?』

『どうしたんですか?』

『今、誰かいたような…』

 

馬鹿は俺だ。ずっと春奈は我慢してたんだ、なのに、なのに俺はクラレットばかり優先して、

ずっと春奈をないがしろにしてた、クラレットまで嫌いにさせちゃって、ごめん、ごめん春奈!

 

自分の過ちに気づいた俺は必死に走った、近くの駄菓子屋、幼稚園、学校、夏美の家、

手当たり次第に走りまくった、だけど見つからなかった。

でも、まだ行ってないところがあったんだ、俺達兄妹が出会った、あの公園が…。

 

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私は後悔してた、甘えてたんです。優しい家族、記憶のない私を受け入れてくれた優しい人たちに。

でも、甘えるだけで、私は大切な物から目を背けてた、私が優しくされる事で傷ついてる人がいる事を。

春奈は優しい子です。私の事をお姉ちゃんと言ってくれて、笑顔でずっと構ってくれていた。

一緒に居るだけで、とても心が温かくなってゆく、私にないものをいっぱいくれた。

だから…、だから…、お願い、春奈。謝るから、私のそばからいなくならないで!!

 

必死に春奈がいる方向に走っていった、街の事をまだわからない私は少しづつ迷っていった。

日は完全に沈み、街灯に熱が籠り、光を発する、必死に体を動かし、私は春奈を探し続けた。

そして、見つけたんです。公園のベンチで一人の少年に慰められている春奈の姿が…。

 

「春奈!」

「おねえ…ちゃん…」

「……(こくり」

 

左目に泣きぼくろが付いている少年が会釈をしたので、こちらもそれに応えた、

そして、少年に勧められ、春奈がゆっくり立ち上がり私の前に出てくる。

 

「おねえちゃん、わだじ…っ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、春奈…」

 

私は春奈の体をしっかりと抱きしめた、ビクッっと震えたがそれでも謝り続けながら抱きしめる、

放したくない、もう、家族と離ればなれになりたくない。

記憶にないはずの事を体が、心が覚えた、そしてずっと抱きしめていると、後ろから足音が聞こえてくる。

 

「春奈!」

「おにいちゃん…」

 

勇人が来てくれた、やっぱり勇人は家族思いだ…、私と居る時も春奈の事を話してくれる。

だから、きっと勇人が来てくれると思った…。

春奈は苦い顔をして、勇人を見ていた、やっぱりまだ許せない部分があるのだろう。

 

「ごめん、春奈」

「……」

「俺、ずっと春奈に甘えてたよ。平気だろうとか、大丈夫だ、とか情けないこと言って、ごめん春奈!」

「……んぶ」

「…え?」

「おんぶ!」

「あ、うん」

 

勇人が腰を下げると、飛びつくように春奈が勇人にしがみ付く、

足も手も絡めて、全力で抱きしめているようだ、勇人が苦しそうにしていた。

 

「く、くるしい…」

「やくそくして、おにいちゃんとおねえちゃん、二人とも一緒って!」

「う、うん」

「はい、一緒に居ましょう」

「えへへ…」

 

泣き後が残った顔だったが春奈は笑顔になってくれた、

そして春奈が自分を慰めてくれ続けた少年に挨拶しようと振り返ると既にいなくなってた。

周りを見るが、少年がいないので仕方なく、三人は家へと足を戻ってゆく。

親や周りに迷惑をかけ、三人はそれはそれは怒られたそうだが、三人の兄妹の絆は更に深まった。

その日、本当の意味で三人は家族になったのだ。

そして、春奈は少年を探そうと奮闘し、街中を走り回ったそうだ「必ず見つける!私を慰めた責任取ってもらうんだから!」

そんなことを言いつつ、何年も探しに探し続けて………、ついに捕まったそうだ。

 

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「そんなことがあったのね…」

 

ハヤトの話した三人の兄妹の話、

クラレットいう存在が、兄妹の中に入り、少しづつずれてしまった話だった。

それを聞いたクラレットは、あの事を思い出し懐かしむ。

 

「確かに、その時とは少し違う状況だけど、根底の部分は同じだと思うんだ」

「同じ…」

「ミニスもフィズも、互いの接し方がわからないだけど、だけど何かきっかけがあればきっと分かり合えるはずだ」

 

現に、ラミとアルバは仲良くしてるだろ?っとハヤトは言う、

確かに、少しばかり、あの時と状況が違うがハヤトの言う様に底は同じなのだろう。

 

「私だって心配してるよ?ミニスもフィズも我儘で意地っ張りだから、どうしてもぶつかっちゃうんだろうね」

「そうだな」

 

リプレの言葉をハヤトが肯定する、あの二人は似た者同士だろう、

ただ、育ちが違うからあのようになってしまっているのだろう。

 

「子供たちが…、解決することなんですね」

「うん、これはあの子たちが解決すること、私達が口を出していい事じゃないんだと、私は思うの」

 

その言葉を聞いた瞬間、私の中にあった心配がスッと消えていった、

私も同じように姉妹の絆がある、それ以上に母親としての子供たちを信じるリプレの強い優しさを感じた。

クラレットは理解したのだ、リプレの中にある、母親としての強さを、

今まで私達を守ってきた、ハヤトの家族を守る思いを。

まだまだ、ですね。と思いクラレットは理解した、手を伸ばし、ただ助けることだけが優しさではないと。

 

「ミニスはいい子さ、一緒に遊んで本当のミニスを知ったからな。ただまだ素直になれなくて、周りの人を困らせてるけど、それが本当は間違ってることに、ミニスは気づいてるはずだ」

 

だから変われるはずだ。

そうハヤトが言うとクラレットは優しそうな顔をして、自分のやるべきことを理解した。

 

「そうですね…、いま、私達がやるべきと事は、子供たちの中を取り持つことじゃない」

「ああ、ミニスを狙う連中からミニスを守ることだな」

「はい、ごめんなさい。色々いっぺんに考えていました」

 

無色の派閥、召喚師と暗殺者の襲撃、キムランの追跡、そしてミニスの白銀の翼竜。

あれこれ悩んでたせいで、また自分で抱え込み過ぎてたことにクラレットは気づいたのである。

 

「うん、いい顔。クラレットは悩んでるより、優しそうな顔の方が似合ってるわよ」

「リプレ…、心配かけてすいません、ハヤトもありがとう」

 

二人のおかげで道をまた間違えずに済んだクラレット、

そんなクラレットに安心して、リプレはクラレットに頼みごとをすることにした。

 

「そうね……、それじゃあ、罰としてお買い物に行って来てもらおうかな」

 

エプロンのポッケから取り出したメモを、リプレはクラレットに手渡した。

そこには几帳面な字面でいくつかの料理のレシピらしきものが記されている。

 

「ペルゴさんが教えてくれた、ミニスにも食べれそうな料理のメモよ。スタウトが帰るときに、私にくれたの」

「私もリプレも、家庭料理全般ですからね」

「じゃあ、初めて作る料理だし、なるべく早くね」

「はい♪」

 

笑顔でクラレットがリプレに応える、ハヤトがクラレットに付いていこうとするが。

 

「ハヤトまで居なくなったら、少し危険なのでここに残っててくださいね?」

 

と言われた、確かに今の孤児院のメンバーでは少しきついかも知れないと思い、仕方なくここに待つことにした。

 

「……なんか偉そうなこと言っちゃったわね。ゴメンね」

「いや、そうでもないさ、姉や兄より、お母さんの方が偉いんだからな」

「そう?それならよかったわ」

「……はぁ~」

「どうしたのよ、溜息なんてついちゃって」

「妹の事、思い出してな…、夏美の奴は大丈夫だと思うけど、アイツはとばっちり受けてないかなぁ」

「??」

 

理解できないリプレは、すぐに洗濯物を干す作業に戻った、

ハヤトは妹に付いている、もう一人の人物を思い出した。

泣きぼくろの少年、俺と同じくらい春奈に弄られてる少年の事を…。

 

「ま、あいつなら大丈夫だろ」

 

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「へー、そんなことが起きちゃってたんだぁ?」

「起きちゃってたって…、理由も聞かないで逃げたのは誰なんですか?」

 

ジト目でアカネを見るクラレット、やはり彼女としても突然逃げたアカネには困っていたのだ。

 

「失礼ねぇ。別にアタシは、逃げ出したんじゃないってばぁっ!」

「どーですかね」

 

クラレットが今いる場所は、薬屋あかなべ。

渡されたレシピの中で、サイジェントの商店街では取り扱っていない香草の類があったのであかなべに来ていた。

野草に詳しいここの主人なら、香草の類を持ち合わせていると思ったからだ。

 

「……お待たせしました。多分、これで足りないものは無いと思いますよ?」

 

のれんを潜って奥から姿を見せたのはシオンだった。

常に笑顔を見せている優男に見えるが、実際はシルターンでも凄腕の忍びとの話らしい。

もちろん、それを言ったアカネから口止めされてはいるが。

 

「忙しい中、どうもありがとうございます」

「いえいえ。不肖の弟子がいつもおかけしてるご迷惑に比べれば、これぐらいお安い御用です」

 

アカネが別に忙しくないから~とか言ってる気がするが、自業自得過ぎて、

私は気にしない、これは社交辞令です。日本人の基本スキルですから。

 

「それよりも気を付けてください。昨日の火事といい、どうも物騒な連中がうろうろしているようですから」

 

一応商売人、もしかしたら、それに私達が関わってることに気が付いているのかもしれない。

 

「本当なら、送っていかせたいのですが…」

 

そこで言葉を区切り、アカネを一瞬だけ見る。

 

「友達がいのないような者では、かえって貴女がご迷惑でしょう?」

「いえ、そんな、アカネはこの前も…」

「お師匠っ!アタシ、是非ともクラレットを送っていかせていただきます!!」

 

アカネが見えない位置でシオンとクラレットが目を合わせる、お互いアカネの扱いには慣れている。

二人の口車にまんまとアカネは引っかかってしまったのだ。

 

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「しかしさぁ、聞けば聞くほどややこしい話だよねぇ?」

「ハヤト次第ですからね。残念ですけど、今、一番ミニスが心を開いてるのはハヤトですから…」

 

ミニスを家に帰してあげるためには、彼女の心を開き、

なぜ家に帰らないのか原因を聞きださなきゃいけない。

そして、それが出来るのはミニスの事を普通の女の子として見てあげられるハヤトだけだった。

 

「ハヤトは、ミニスの暴発の事をほとんど気にしてません。召喚術が使えますし、なによりミニスの事を妹の様に思ってますから」

「本当にハヤトはそういうの気にしないわよねぇ~」

 

アカネが関係がない様に言ってくる、暴発したら孤児院の一角吹っ飛ぶんですけど…。

 

「クラレットだってさ、召喚師なんだから、なんかいい方法とか考えられないの?」

「ありますけど…、あまり使いたくない手ですし」

 

非道な所に目を瞑れば、ミニスの魔力を生成する機関を壊せばいい、

そうすれば暴発なんか起きるわけがない、ただミニスに後遺症が残ってしまうが…、

クラレットの知識は非道な部分が少々多い、その為、手段が危険なものがほとんどなのだ。

 

「それに、私達なんかが解るぐらいなら、ミニスの保護者がもうやってますし」

「…そっか、ならさ、いっそのこと、その子を狙ってる連中を締め上げて聞き出すとか」

 

アカネの考えなしの発言にクラレットは振り返りアカネを見てため息をついた。

 

「はぁぁー・・・、アカネ、そんな都合よくあの人たちが現れるわけ…」

「あのさ、クラレット……」

 

アカネはクラレットの後ろを見てどこか呆れ顔をしている。

 

「アカネ、ごまかそうとしても…」

「そうじゃなくって!前見てよっ、ま・え・を!」

 

渋々アカネのいう事を聞いて正面を見るクラレット。

 

「…えぇぇ」

「あそこに立ってるアイツって、三兄弟の次男坊じゃないかなー?」

 

こんなタイミングで現れなくても、

そう思いながらクラレットが調子付くアカネの頭を軽く小突く。

あたっ、とアカネが言うのを聞いてると、キムランはクラレットの元へと歩いてきた。

 

キムランさん、もしかして、私を待ち伏せしていた?

 

キムランが待ち伏せしていた事を、気にしていると、キムランはクラレットの正面に立った。

 

「ちょいと手前に話がある…、悪ぃが、そこの裏まで付き合えや」

「…キム」

「ダメだよクラレット!コイツきっと裏に来たところで、きっと押し倒す気だよ!!」

「誰がするか!」

「何言ってるのよ、普通に考えてアンタみたいな厳つい奴が、クラレットを路地裏に連れていくってそれしかないでしょ!」

「人を見かけで判断するんじゃねぇ!!」

 

小突かれた頭を擦りながら、アカネがキムランに指を指して抗議する、

キムランもそんな気は一切ないのに、決めつけられて猛抗議した。

そして、当のクラレットは。

 

「……ええ、私、キムランさん信じてますから」

「お前も、離れるんじゃねぇ、傷つくじゃねぇか!」

 

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人気のない路地裏で、二人の男女は向かい合っていた。

美女と野獣、それを体現したような組み合わせだが、

別にこの二人の関係は特別なものではない。

クラレットはアカネに先に孤児院に戻るように言ったが、

アカネは「本当に、本当に大丈夫?」と念を押していた、気にしないことにした。

でも流石にそこまで心配されると身の危険を感じるわけで…。

 

「ホントに一人でついてきやがるとは、いい度胸…、おい!露骨に離れるんじゃねぇ!」

「大丈夫です、声聞こえますから」

 

失礼な態度を取ってるのはわかってます。

でも私も生娘なので、そこらへんはとても大事にしてるんです。

もしもですよ、私、悪くないです。

 

「まあ、キムランさんは騙し討ちなんてしないと思ってますし、これは保険みたいなものですから」

「何の保険だよ…」

「………貞操?」

「あの女…、覚えてろよ…」

 

アカネのせいで意識したせいで、キムランさんの恨みはアカネに移ったようですね。

でも、アカネのせいなので、仕方ないです。私は悪くないです。

 

「それで、話って何ですか?」

「そうだな、まぁ、適当に座れや」

 

一応、こっちの警戒を解くためなのか、武器や石を此方の方に投げてくれる。

キムランさんが石畳に座るが、私は流石に湿ってる地べたに座るのは引けた。

 

「誓約の名の下に――」

「なっ!?」

 

突然召喚術を使い始めた私にキムランさんが驚くが、

物騒な物を呼び出す気はない、呼び出したのは古い学校で使われているような机と椅子、

【メモリーデスク】と呼ばれる召喚術だ。

そして、机に石や杖を置き椅子に座った。

 

「驚かすなよ、しかし、そんな風に召喚術を使うのか、俺達みたいだな」

「召喚獣を召喚するつもりはありませんよ。誰にも迷惑はかけてませんし…」

 

机の中を見ると教科書が入っていた………、少しだけですからね?

 

「まあいいか、とりあえずよ。話ってのはな、アレの事だ」

「アレ?ですか…」

「お前らが連れていた、あの可愛らしい女の子の事だってんだよ!」

 

キムランさんはモミアゲを掻きながら大声を上げた、

照れてるみたいですね。まあミニスは可愛いですから、口に出すのは恥ずかしいのでしょう。

 

「あ、あの子の名前はよぉ……その、なんていうんだ?」

「たぶん、知ってると思いますけど、ミニスですよ?」

「やっぱりそうなのかっ!?」

 

ぐっと乗り出してキムランさんが叫ぶ。

やっぱりって、もしかしてキムランさんはミニスを狙ってたのに、ミニスの事をあまり知らない…?

 

「キムランさん、ミニスと知り合いじゃないんですか?」

「あ、いや、そのな…。俺がアレと最後にあったのは、この街に来る前の話だからよぉ。しばらく見ねぇうちにでっかくなっちまったから…」

 

この街に来る前…、確かリプレの話じゃ、2.3年前にはもう来ていたらしいですけど、

つまりキムランさんはミニスを…。

 

「そんな小っちゃいときから狙ってたんですか!?」

 

微妙な話の食い違いが出始めているが、

キムランは気づかずにクラレットに質問してしまう。

 

「…なあ、お前はあれについてどれだけの事を知ってんだ?」

 

キムランの質問をクラレットは歪曲して考えてしまった。

幼いころから狙う→幼女趣味、または光源氏計画と考えてしまったのだ。

恐らくミニスが家の事を話さないのも、キムランが婚約者とかそういうのなんだろう、

貴族では幼い時からそのように決めることが稀にある、クラレットは超ド級の勘違いをしてしまった!

 

「………キムランさん、失望しました」

「あァ?」

「キムランさんがロリコンだったなんて、幻滅しました!」

「ちょ、ちょっとまて、ロリコンってなんだよ?」

「幼女趣味の事ですよ。それにゆくゆくは自分好みの女性に育て」

「なんで俺が姪っ子に手を出さなきゃいけねぇんだよ!!!」

 

………姪?キムランさんがミニスのおじさん…?

いや、でも…、まさか…。

 

「い、隠語か何かでしょうか?」

「ちげぇよ!!」

 

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少し間が空きましたが、お互い落ち着きました。

まさか普通に叔父と姪の関係だったなんて、なんであんな勘違いを…、アカネのせいですね。

キムランさんの話によると、ミニスの正式な名前は、ミニス・マーン。

金の派閥の議長、ファミィ・マーンの一人娘だそうです。

つまりミニスは金の派閥の後継者に一番近い人物という事だそうです。

 

「でしたら、先ほどどうして召喚術で攻撃してきたんですか?」

「ありゃ、おめぇ……ちっとばかし、頭に血が昇っちまっただけよ」

「頭に血が上って…、姪を攻撃する人がいますか!」

「す、すまねぇ…」

 

俯いてションボリとしてしまったキムランさんは置いといて話を続ける。

キムランさんの話によると彼の目的も私達と同じ、ミニスを家に連れていくことだった。

 

「詳しく説明してくれないですか?」

「身内の恥を晒すのはつれぇが、お前には迷惑かけちまったからな…。俺らのおふくろは後妻でよ。ファミィ姉さんは死んだ前妻の一人娘で、俺らとは腹違いの姉弟なんだ」

 

腹違いの姉弟というところで、少し思い出すことがあったが、思い直し話を聞き続ける。

ファミィさんはキムランさんたちの召喚術の師匠で強烈なスパルタ教育で三兄弟を鍛え上げたそうだ。

 

「今も思い出すだけで震えちまう。とはいえ、あの人の期待に背いたりすりゃ、おふくろの身がやばそうだったしよォ、……俺らは必死になって、一族の名をあげて来たもんだぜぇ」

「……はあ、悪名じゃないんですか?」

 

一族の名をあげる、確かに大切なことかもしれないが、実際、被害を被ってるこっちは迷惑だ、

オプテュスが悪ぶってたのも、アキュートが出来たのも、……孤児院で彼らが苦労してるのも、

元をただせば全部、三兄弟の搾取政治のせいだ。これでは続かない。

 

「一応、聞いておきますけど。ミニスのお母様はそんなにおっかない人なんですか?」

「いや、別に外見がおっかねぇとか恐ろしいとかそういうんじゃねえよ」

 

思い出したのか顔を青くしながら、キムランさんは話してくれた。

 

「見た目だけなら子供がいるとは思えないほど美人だし、物腰はいつも穏やかで、人畜無害ですって見本のような女性なんだがよ」

 

ただし、彼女は自他問わず、厳しい性格をしている。

温和な雰囲気を崩さず、相手に折檻する姿から本人はもちろん回りも恐怖するそうだ。

今度、ハヤトにやってみようとクラレットは変なことを考えていた。

 

「兄弟の中じゃ、俺が一番出来が悪かったからな…。詠唱を失敗するたび、カミナリでバリバリ撃たれたもんだぜ…」

「だから雷に耐性があるって言ったんですか…。しかしお仕置きにタケシーを使うなんて流石ですね」

「いや違うんだよ。これがな、手から電撃がよ、バチバチって現れてな…」

「……え?人間ですか、響界種?」

 

言ってる意味が解らない、普通の人間が電撃を出す?

召喚獣でも響界種でもない……、ファミィさんとは何者なのだろう…。

混乱し続ける私の事を置いといて、キムランさんは話を続ける。

 

「姪っ子のアレだがな、実は家出したのは初めてじゃねぇんだよ」

 

ミニスが家出した回数は5回、未遂を含めれば十数回に膨れ上がるそうだ。

そして家での目的地は決まって三兄弟の居る場所だったそうだ。

だけど、それでとどうしてもわからない事がある。

 

「でも、ミニスはキムランさんの顔を見たら逃げちゃったじゃないですか」

「いくら強がったところで、アレはいわゆる箱入り娘だからな」

 

キムランさんの話では、一人で身の回りの事が出来るように育てられてないらしい、

貴族の娘でそのうえ10歳にも満たない少女だ、当然ですね。

普段なら三兄弟の所に転がり込み、しばらくして本家に連れてかれるそうだったのだが…。

 

「そこを私達が拾ってしまったと…」

「そのせいでややこしいことになっちまったからなぁ…」

 

それを聞くとお互い頭を抱えてしまった、ハヤトが連れて帰らなければ、

それで解決だったのだ。だが連れてきてしまい、しかも自分を理解してくれる人物に出会ってしまった。

またハヤトのせいで厄介ごとが…。

 

「すいません、ハヤトがミニスを連れて帰ってきてしまったせいで…」

「まあ、やっちまったことは仕方ねぇだろ?それによ、ほれ…、物騒な護衛連れてるだろ?」

「あのワイバーンの事ですよね。白銀の」

 

あの白銀のワイバーンは通常のワイバーンよりも強力な個体、そして少し気になることがありました。

それは召喚術の属性について、召喚術の属性は4つと誰でも使える一つのはず、

ミニスの適正は幻獣界メイトルパの者だった。そのせいで姪っ子と繋がらなかった。

ハヤト?あれは例外ですから。

しかし、なぜミニスがメイトルパの属性を持ってるのかは置いといて、今回はそれが問題だった。

 

「アレの持ってるサモナイト石はよぉ、別の召喚師からせしめた戦利品なんだよ」

 

マーン家には古くから敵対する召喚師の一族がいた。

その一族と戦った時に手に入れたのが、あのワイバーンと誓約したサモナイト石だそうだ。

ミニスは幼いながら高い魔力を持っていたそうだ、そんなミニスに兄弟たちは召喚術を教えたが、

どういうわけかミニスはサプレスの召喚術を使うことが出来なかった。

ところが、宝物庫にしまわれていたあのサモナイト石をミニスが手にしてしまったのである。

上級…、最上級に匹敵する力を持った白銀の翼竜をミニスは暴発という形で呼び出してしまった。

心の準備もなく翼竜と対面したミニスは、パニックを起こしてしまい、その結果翼竜は暴走。

彼女の魔力が枯渇し、眠るまでの間、暴れまわり、その結果、本家の屋敷は壊滅したそうだ。

 

「それ以来、姉さんはあれに召喚術を学ぶことを禁じたんだが、石を取り上げることはどうしてもできなかったそうだ。で、アレはそのことに不満を抱いてよぉ…」

「それでミニスは家出を繰り返してるんですね。直接話しても許してもらえないから…」

 

多分、ファミィさんはいまだ不安定な状態のミニスに召喚術を教えるのは危険だと判断したのでしょう。

暴発というのは非常に危険な物です。あの翼竜はミニスを守っているが、いつミニスに危害が及ぶかわからない。

だから、今、召喚術を教えず、後々に改めて教えようと考えているんでしょうね…。

 

「そこで、お前を優秀な召喚師と見込んで頼みがある!」

 

キムランさんはその場に膝をついて土下座をする。

 

「大人しくあれを返してくれッ!アレをきちんと納得させたうえで、俺達の所に帰ってくるように説得してやってくれ…、頼む、この通りだっ!!」

「キムランさん…」

 

人目を気にしたのはこういう事だったんですね。

一応、貴族じゃない一般市民の私に頭を下げるのは彼の立場上出来るはずがない。

キムランさんがどういう人かは大体わかってるつもりです。

おっかなくてすぐに頭に血が上る人ですけど、根はやさしい人だってわかってますから。

 

「どれだけ時間がかかるかわかりませんけど…、ミニスの事は引き受けました。みんなが納得する形できっと解決して見せますから」

「すまねぇ……。恩に着るぜッ!!」

「きゃっ」

 

分厚い両手でクラレットの手を強く握りしめながら、キムランは男泣きに泣いた。

キムランさん…、ファミィさんの恐怖から解放されたのが、そんなに嬉しかったんですかね。

まあ、話を聞く限り、畏怖の大将みたいですから、私はちょっと会ってみたいですけど…。

そういえば、キムランさんに言っておかなければいけない事がありましたね。

 

「そうでした、キムランさん。あんな風に手下の召喚師や傭兵まで使って私達を襲うのは勘弁してくださいね」

「あ…あァ?」

 

広場で受けた襲撃の事を私は話したがキムランさんは良く分かっていない顔をしていた。

そして、これ以上私達を襲わないように約束をしようとしたのだが…。

 

「ちょっと待ってくれよ…。俺達はあれの一件に関しては、自分たちの部下を一人も使っちゃあいねぇぜ」

「え?」

 

キムランさんたちが部下を使っていない…?

確かに今回の一件はあまり公開出来るようなものではない、彼も秘密裏に動いてるはずだ。

でも、あの暗殺者の言った言葉…。

 

――クライアントの命令でね、この女も手を出すなってことなんだが…

 

「おい?どうした、顔が真っ青じゃねぇか」

「そんな…、まさか」

 

クラレットは確信した、今回関わってるのは間違いなく。

 

「無色の派閥…」

「なっ!?お前なんで」

「キムランさん、ミニスは…、ミニスは無色の派閥に狙われてます」

「な、なんだとォッ!?」

 

無色の派閥、その組織の危険性はキムランも理解していた。

そして、その組織がミニスの身柄を狙ってることに気づいた、

あの男は自分は襲うなと言われていた。

もし、これが三兄弟の仕業なら、そこまで指示は出さないはずだ。

つまり、自分の存在を必要とする組織…、無色の派閥しかなかった。

これを知ったキムランもクラレットも、ミニスの身を守る為に動き出すのだった。

 

だが…、その判断が遅すぎることを彼らは知らなかった……。

 

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クラレットが買い物に出かけて一時間ほど経っていた、

少し遅い気もするが、香草も用意すると言っていたので、

あかなべに行ってるのだろうと思い気にしないことにした。

 

「どうしたの、洗濯物、畳んでくれるのはうれしいけど、心此処に在らずって感じじゃない」

「それって、アカネから聞いた言葉?」

「ううん、クラレットよ」

「綺麗に畳めましたのー」

 

何もしないのもあれなので、リプレの手伝いをすることにした。

こういった些細なことでも手伝うことに意味があるからな……。

ふと畳む衣服の中に女性の服も入ってることに気づく、

そういえば、向こうにいた時は洗濯物、畳ませてくれなかったなぁ…。

 

「…あのー、女の子の服を真面目に見てると、勘違いされるんですけど」

「えっ…、あ、はははは、いやこれは違うんだ。ちょっと思い出をな」

「はぁ…、ま。手伝いごくろうさま、あとはやっておくわ」

 

そういうと畳んだ衣服を持ち上げてリプレが動き始める、モナティもついていくようだ。

俺もとりあえずミニスの様子を身に子供部屋に近づくが…。

 

「イヤァァーーッッ!!」

「なッ!?フィズ!!」

 

突然、フィズの悲鳴が聞こえた、まさか奴らがフィズたちに手を出したのか!

なぜ子供たちにずっとついていなかったのか後悔しながら、駆け出し子供部屋に駆け込むと、

そこには頬を抑えて倒れている、ミニスと、ミニスを厳しい目で見下ろすガゼルの姿があった。

 

「大丈夫か!?」

「あ、兄ちゃん…」

「…!(ぎゅ」

 

ラミが俺の姿を見て腕に抱き着いてくる、ラミを宥めながら、

ミニスとガゼルに視線を向けなおした。

 

「謝るんだ、ミニス…」

 

ガゼルの声が恐ろしく低い、この声は一度だけ聞いたことがある。

バノッサにフィズが捕まった時、たぶんガゼルが本当に怒ってる時しか出さない声だ。

 

「フィズに謝るんだ、ミニス!」

「ぶった…」

 

呆然とした顔で、ミニスはガゼルを見上げていた。

まるで、今起こってることが信じられないといった顔をしていた。

そして、彼女の目に涙があふれ、彼女は泣き叫んだ。

 

「どうしてっ!?どうして、私がぶたれなくちゃいけないのよっ!?」

「悪口を言い合っても、とっくみあっても、それが喧嘩で済むんなら、俺だってお前を殴ったりしねぇ…、けどな!お前が今しようとしたのは、ケンカで済むようなことじゃなかっただろうが!!」

 

ガゼルがはっきりとミニスに言い放った、

ミニスの手には翼竜のサモナイト石が握られている、そして先ほどの悲鳴。

ミニスは……、フィズとの喧嘩で召喚術を持ち出したのか…。

ハヤトは後悔した、もっとミニスについてやるべきだった、

全部自分で解決できるはずがない、周りに頼れと言われても、

ミニスについてやることが出来れば、ミニスがこんな手を使わなかったのかしれない。

なまじ強力すぎる力を手にしてしまったこそ、起こってしまった悲劇だった。

 

「力ずくで言うこと聞かせるなんて、恥ずかしいとは思わねぇのかよ!?」

「わかんないわよっ!!」

 

ミニスは泣き叫びながら頭を抱えた。

 

「どうして私が悪いって決めつけるのよっ!?その子が私に酷いことを言わなかったら、私だってそんなことしなかったのにっ!!」

「それとこれとは話が別だろ!?俺が怒ってるのは…」

「もういいっ!!」

 

ミニスは立ち上がってガゼルや俺を睨みつけた。

その表情は悲しみで溢れかえるほどの悲痛な表情をしていた。

 

「ガゼルなんか大嫌いよぉっ!!アナタも、やっぱりお母様と同じだっ!うっく、どうせ……だ、誰も私の気持ちなんてぇっ…、わかってくれないのよぉぉっ!!」

 

そして、ミニスは俺やラミをはじいて止める間もなく、

外に飛び出して行ってしまったのだった。

 

「ラミ、大丈夫か!?」

「うぅ……」

「ガゼル…」

「………クソッ」

 

ガゼルも辛そうな表情をしている、一番辛いのはガゼルかも知れない、

俺も春奈を本気で叱るときは、結構くるからな…。

そう考えていると、フィズが突然立ち上がって、ミニスを追いかけて外に駆け出していった。

 

「フィズ!…あー、アルバ、ラミを頼む」

「うん、兄ちゃん気を付けて」

「大丈夫だよ、ちょっと二人を連れて戻ってくるだけだから」

 

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「うひゃああっ!?」

 

外に飛び出たミニスは玄関でちょうどクラレットから頼まれた荷物を手にしたアカネとぶつかった。

我武者羅に走る少女に突き飛ばされ、アカネは抱えていた荷物をそこらじゅうにぶちまけてしまった。

 

「こらあっ!ちょっと、待ちなさいよぉぉっ」

 

尻餅をついたアカネがお尻をさすりながら、見知らぬ少女に文句の声を挙げた、

しかし、少女は振り返ることもなく路地の向こうへと消えてゆく。

 

「まったく、最近の子供ときたら……」

 

クラレットがそこに居たら、お年寄りですか?と突っ込みを入れるようなことをアカネがぶつぶつ呟いている。

品物を拾おうとした彼女の前に、今度は良く知ってる少女、フィズが駆け寄ってきた。

 

「ああ、ちょうどいいところに、荷物を」

「今、生意気そうな女がここを走っていかなかった!?」

「このアタシにぶつかってった無礼者なら、あっちの角を曲がってたけど…、とりあえず荷」

「ありがと、アカネ!」

 

言葉を言い切る前に、フィズが言われた方に走って行ってしまった。

 

「……なによー!」

「フィズ!待つんだ!!」

 

今度はハヤトが出てくるが、アカネがそのハヤトの服をしっかりの握った。

 

「わっ!?アカネは放せよ!」

「荷物拾って、誰のせいで荷物ぶちまけたと思ってるのよ!」

「今は、それどころじゃないんだよ!」

「いいから、拾えぇ~~~!」

「離せぇーー!!」

 

二回も無視されたせいでアカネは怒り心頭だった、

結局リプレが来るまで二人のやり取りは続いたそうだ。

 

---------------------------------

 

路地をフィズが走っていた、既に夕焼けが沈みかけており、夜に変わりつつある街を彼女は走り続ける。

走りながら、フィズはどうして自分がミニスを追いかけるかその理由を考えていた。

 

「あたしと同じだからだ…」

 

フィズも昔、あんな風にガゼルに本気で怒られたことがあった。

ぶたれて、泣きながら外に飛び出し、リプレが迎えに来るまで帰らなかったのだ。

 

「苦しかった、心細くて、涙がちっとも止まってくれなかった…」

 

ガゼルに謝りに行くまでフィズは苦しかった、とても辛かったのだ。

でも、それ以上に許してくれたガゼルの顔はとても辛そうで…、悲しそうだった。

 

「あの子は今、あの時と同じ気持ち…、それ以上に辛いのかもしれない」

 

そして、自分と同じ間違いをしようとしている。

フィズはミニスに自分と同じような辛い思いをさせたくなかったのだ。

 

「逃げちゃダメなのよ…、きちんと謝らなくちゃ、いけないんだから!!」

 

フィズは必死になって走った、ミニスが行ける道は限られている、

ハヤトから何があったかは既に聞いていた、だから何処へ行ったかは限られいた。

繁華街へ続く道を走り続けるとやがて、一人の少女の影が見えて来た。

 

「見えた!」

 

走りつかれたのか、少女は夕焼けの方を見ながら立っていた。

疲れ果てたのか、動きもせず夕焼けの方を見つめていた。

重い足にフィズが力を籠め、ミニスのそばに近づいた、

ゆっくりと足を遅くして、ミニスのそば歩いてゆく。

 

「ねえ、アンタも分かってるんでしょ?ガゼルがどんな気持ちで引っ叩いたのか…」

 

不本意だったが、泣いていたミニスを宥めながら話そうとフィズが声をかける。

 

「………」

「ちょっと聞いて…?」

 

ミニスの肩に手をかける、そして自分に影がかかった事に気づき、そちらに視線をやった。

 

「あ…あぁ」

 

悲鳴にも鳴らない声が喉から沸き上がる、ミニスに触れ、ミニスと同じ方向を見たフィズは気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニスに恐ろしいほどの敵意がぶつけられていることに……。

 

 

夕焼けに背を向けて一人の青年が立っていた。

その眼光は恐ろしいものだった。

かつてバノッサににらまれたそれの数倍の恐怖をフィズが感じ取る。

ミニスは無意識にフィズにしがみ付いた、それに応えるようにフィズもミニスにしがみ付く。

ゆっくりと青年は歩き、そして10メートルほどの距離で立ち止まった。

 

「ミニス・マーンだな。来てもらうぞ」

 

夕焼けの逆光に目が慣れてゆく、そしてフィズとミニスはその男を全貌を目撃した。

文様の入ったパーカーのような衣服、紋章で止められている長いマフラー。

腰には長剣を引っさげ、何より全身から発する敵意が彼女たちを怯えさせていた。

 

「あなた…、誰よッ!」

 

恐怖を必死に押し殺して、ミニスは叫んだ、仮にも貴族、

その誇りが彼女に最後の勇気を与えていた。

青年はその言葉を聞くと、ゆっくりと口を開いた。

 

「ソル・セルボルト。お前の母親に苦汁を飲まされた、オルドレイク・セルボルトの息子だ」

 

そう言い放つと、ソルはサモナイト石を天に掲げ召喚術を発動させる。

漆黒に光り輝く闇傑の武具が出現し、ミニス達に襲い掛かったのだった。




ついに登場、ソル君。うちのソル君悪度マシマシだからな、一人だけU:X仕様だから。
ソルがなぜあそこにいたのかは、近くに来たから出て来ただけです。
待ち伏せとかそういうのじゃないから。(ウンガイイナー

ハヤトの過去の話の少年はピンと来る人は気づくでしょう、
彼の出番はまだまだ先ですけど、出せるキャラ出す派なのです私は。

ご感想の方をよろしくお願いします。

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