サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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「おかーさん!おかーさーん!」
「あら?どうしたのその子?」

買い物から帰って来たあの子たち、きっと余計な買い物をしたのねと思った。
でも、あの子たちが連れて来たのは予想もつかない子だったわ。
今でも覚えてる、あの子が家族になった日の事を…。







無印主人公×パートナー好きに25のお題編(全話ネタバレ)
はじまりの日


「勇人?その子は?」

「えっと…その…」

「おかーさん!お姉ちゃんの名前ね…!名前……!……??」

「はいはい、分かったわ」

 

 全く誰に似たのやら勢いだけは春奈は一人前ね。

 私は腰を下ろして女の子と視線を合わせる。

 

「貴方のお名前、教えてくれる?」

「はい、クラレットだと…思います」

 

 クラレット、外国の子かしら…?

 でも、よく見ると瞳の色が紫?それに髪の色も少し紫よりね。

 

「勇人?この子どこの子なの?」

「公園で泣いててさ、その何も覚えてないって」

「きおくそーしつって奴だよね!この前テレビで見たよ!」

「…そうなの?」

「……(こくん」

 

 悲しそうな顔をしてクラレットは頷いた。

 何も覚えてない、でもいきなり記憶喪失なんて…。

 

「ホントに何も覚えてないんだって、だって電柱とか横断歩道とか車とか全部に吃驚してたんだぜ」

「うん、アタシびっくりしたよぉ」

「ご、ごめんなさい…」

「……どうしようかしら」

 

 警察に連絡?でもいきなり連絡しても…。

 そうね、とりあえず…。

 

「とりあえず、勇人?お風呂に入れて上げなさい、この子汚れ凄いじゃない」

「お、お風呂!?お、俺嫌だって!」

「なにませてるのよ。貴方子供でしょ」

「だから嫌だって!」

「私…何か悪い事しましたか?」

「え?いやそういう事じゃなくて?一緒にお風呂入れって、嫌だよな?」

「…お風呂って何ですか?」

「あーそこからなのか」

「あはははは♪」

「笑うな春奈!」

 

 顔を真っ赤にしてる息子を見て少し楽しく感じる自分がいる。

 もう、夏美ちゃんにはこんな反応しないのにこの子にはするのね。

 

「じゃあ、おばさんと一緒に入ろうか?」

「えっと…よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」

 

 とりあえず悪い子ではないみたい。

 ただ、やっぱり罪悪感があるのか余所余所しいわね。

 

「ねえ」

「?」

「クラレットちゃんが良ければいくらでも家に居ていいからね?」

「そうそう!ずっと一緒に居よう!」

「……はい」

 

 あらこの子、笑顔が本当に可愛いわね。

 ふふ、うちの子が惚れるのも分かるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「そうか、大変だったな」

「ええ、ホントにでももう一人家族が増えたみたいで楽しかったわ」

「その子…えっと、クラレットちゃんだったか?」

「うん、今三人で一緒に寝てるわ」

 

 今日はたまたまあの人の帰りが遅かった。

 おかげでクラレットちゃんと会うのは明日になりそうね。

 

「でも、驚かないのね?」

「これでも驚いてるさ、まあ春奈を妊娠した時ほど驚いてはいないけどな」

「あの時はねぇ…私も驚いたわ」

 

 春奈を妊娠したことが判明した時、そういう行為を全くやっていなかった。

 おかげで不安が過ったが、無事生まれた時、夫にそっくりで安心したのを覚えてるわ。

 今でも迷惑かけるし、あの子はホントにトラブルメーカーね。ま、根はいい子なんだけど。

 

「それで、お母さんはどうするんだ?」

「そうね…出来れば一緒に居てあげたいわ」

 

 あの子は一人ぼっち。何も覚えてないというのは予想以上に恐怖みたい。

 シャワーの熱もタオルの感触もその全てを怖がっている。

 幸い私の事は受け入れてくれるけど、手放せばあの子は人を拒絶するかもしれない。

 

「あの子は一人ぼっちなのよ。だから私がいてあげたいって思ってる。でも貴方がいうなら…」

「俺は構わないさ。今家族が増えても大丈夫な程度に余裕はあるしな」

「増えるって…あの子を養女にするわけじゃないのよ?」

「同じことさ、この家に置くって事は俺達の娘になるって事だろ?」

「もう…あなたったら…」

 

 こんな厄介ごとを受け入れる。

 それを笑顔で受け入れてしまう夫の懐の大きさに安心した。

 私もあの子を手放したくない、出来れば本当の家族に出会えるまで。

 

「そうだな。とりあえず明日は仕事を休んで警察に行こうか。家族全員で」

「仕事はいいの?」

「ああ構わない、家族の事だからな」

「あら、ありがとう」

 

 お互いの事を理解しあってる夫婦が笑う。

 その笑い声が響く横の部屋では三人の少年少女が眠りについていた。

 誰もが安心して眠っている、それを守る大人たちの優しさを感じて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あの子たちが消えて二か月が過ぎた。

 もしかしたら帰ってこないかもしれない、常に不安が胸いっぱいに膨れる。

 仕事を休み、春奈の傍に居てあげなきゃあの子までダメになるかもしれない、そんな毎日だった。

 だがある時、私は夢を見た。

 

 勇人が光の剣を握り、大きな怪物と戦う姿を…。

 クラレットが苦しみ、悲鳴を上げて泣き叫ぶ姿を…。

 

 唯の夢だと思えばそれでいい、だけど私にはそんな風に思えなかった。

 その夢は毎日のように見るようになった、勇人は必死に走っていた。

 あの子の周りに多く人たちが集まっている、あの子を助ける為に全員が一つになっている。

 

 ああよかった、消えた先でもあの子たちを支える人がいてくれて…。

 

 そして勇人はクラレットを助け出した。

 二人は本当に幸せそうで、それを見ていた私も幸せだった。

 

 目を覚ましたその日の夕方、春奈が言った。

 

「お母さん!お兄ちゃんとクラ姉、帰ってくるよ!!」

 

 私はその言葉を否定しなかった。

 私も思っていたのだ、あの子たちは帰ってくるって。

 

「じゃあ誕生祝いしないとね?」

「! うん!」

 

 あの子の誕生祝いを私達は出来なかった。

 それが辛くって苦しくって悲しかった。

 だからやり直さなきゃいけない、あの子の為にも私達の為にも。

 

「それじゃあ、買い物行ってくるわね」

「じゃあ私、皆集めてくるね。お兄ちゃんたち迎えに行って皆でいっぱいお祝いしたいもんね♪」

「ええ、お父さんにもすぐに伝えとくわ」

「うん♪」

 

 夫にこの話をしたら信じてくれた。

 

「君達がそういうなら信じるさ、何年家族をやってると思ってるんだい?」

 

 そう自慢げに言うが、多分夫もあの夢を見たんだろう。

 何せ既に会社に仕事を休むと連絡をしていたそうだ。

 あの子たちが好きな食べ物を準備する、普段パーティーで作らないラーメンを作らないとね。

 夕焼けがこの街を包み始める、料理の準備は出来た。

 あとはあの子たちが帰ってくるのを待つだけ、そう思った時チャイムが鳴った。

 私はエプロンを外して玄関へ顔を出す、そして扉が開いた。

 

「………お母さん」

「お帰りなさい」

 

 涙を流しながら嬉しそうで安心したような顔でこっちを見るクラレットが居た。

 後ろでは同じように嬉しそうだが少しバツの悪そうな息子がいる。

 まあ相談も無しに突っ走ったのだからあとで勇人はお説教ね。

 クラレットに私は歩み、彼女をギュッと抱きしめた。

 しばらくクラレットの手が宙を動くがやがて私をギュッと抱きしめた。

 

「お母さぁん…!」

「お帰り、クラレット。よく頑張ったわね」

 

 私は知っている。

 この子が本当の家族に出会ったことを。

 私は知っている。

 それでもなお、私達の下へと帰って来てくれたことを。

 この子が何であろうと私は受け入れる、クラレットは私の愛すべき娘なのだから。

 




今回から新シリーズ、25のお題編です。
なんか色んなサイトに名残が残ってたりするんだけど、
誰も全部書いてないので私が書く。

時系列は結構バラバラの短編集、あとがきで説明します。

今回は母親の独白。クラレットが来てそれを受け入れた母親。
実はクラレットのレゾンデウムでの性格は彼女譲りで相手を気遣い優しい性格。
父親は勇人を更におおらかにした感じの人。

二人は勇人たちを叱ったりしません、
なぜなら二人がどんなに頑張ってたか何とかく分かっているから。

ちなみに春奈をいつの間にか妊娠してたのでかなり驚かれたらしい。
ちゃんと二人の子供なんでそういうやましい話はないぞ、

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