サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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仕事忙しいと書けないし、ソシャゲ―のイベント詰まってたせいで遅れました。
FGOとグラブル、時間かかるね!
さっくり書くつもりが意外にも、文字数増えましたわ(いつもの事だな!


第14話 炎情の剣

――想いは時に重荷となる、そしてその荷を狙う者たちもいる――

 

「ほらほら、頑張って!」

「うぐぐ…、ふん!」

 

買い込んだ荷物を魔力で強化した体で持ち上げる、

本来なら戦い以外で魔力を使うのは良くないけど…、訓練と思えば!

 

「じゃあ、次は…」

「ま、まだ買うのか…」

 

今、俺はリプレの買い物を手伝っている…、

事のきっかけはアキュートの戦いが終わり、少したってから、

少し久々に川で釣りをしていると釣れたのは黄金の魚、

前にも少し釣れたが今回はやたらポンポン釣れた。

家に持ち帰ると、黄金の魚は缶詰でかなり高値で売られているという事、

どうせ食いきれないのなら売りに行こうとという話になり、専門の店に売りお金が入った。

それで食材や足りないものを買い込むのだが…。

 

「ガゼルの奴、逃げやがって…」

「ま、諦めなさい」

 

誘ったガゼルは逃げた、普段働かないくせに、こういう時はすぐに行動するんだからなぁ。

クラレットは買い物してる間に家事を終わらせておきたいと言ってたしな。

他の連中もいつの間にかいなくなってたし、まあそろそろ帰ってきてるだろうな。

 

「…ところでさ、ちょっと気になったんだけど」

「ん?」

「ハヤトってさ、女の子にモテたりしてたの?」

「えっ、な、なんでそう思ったんだ!?」

 

ちょっと照れながらリプレが話を進める、

何か話題を出そうと思って話題間違えたような気がする、というか…。

 

「…なんで、周りキョロキョロしてるのよ」

「いや、そのー」

「あ、わかった。クラレットが居ないか心配なんでしょ!」

「…正解です」

「まあ、ちょっとばかり心配性っていうか独占欲強いっていうか、ハヤトも大変ねぇ」

「そりゃ、大変だけどさ。大変の意味が違うからな」

「嬉しいって事?」

「…す、少しばかりは手加減してほしいけど」

「ふふ」

 

そういえば新しく来る人とか、よく俺達が恋人なのか聞いてくるけど、

まだ違うんだよなぁ、元の世界に帰るまで告白しないって決めてるし…。

したらなんか…、満足してこの世界に残りそうになりそうだからな。

 

「それで、話ズレちゃったけどハヤトって…」

「ああ、モテるだっけ?いや、モテたことはないなぁ」

「…あっ」

「どうしたんだ?」

「いや、ハヤトがモテなかった理由が何となく察した気がして」

「??」

 

ハヤトがモテない理由、たぶんクラレットのせいだとリプレは思った。

この二人正直ずっと一緒に居る為、恋人と勘違いしてたり、

常に彼女の目が届くところからクラレットが離れないのだろう、そうリプレは思う。

 

「無意識なんだろうなぁ」

「なにが無意識なんだ?」

「貴方とクラレット両方よ」

「???」

 

リプレが何を言ってるのかわからないハヤトはまた新しい荷物を持たされ、孤児院へと戻ることになる。

 

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「しかしまた、随分買い込んだな…、重っ」

「まあね、どの位増えたのかしら、私とレイド、エドスにガゼルと子供たちに貴方達」

「それから、ジンガが来て、クロとモナティにエルカ、たまに師範とスウォンにユエルだったっけ?」

「そうねぇ、本当はメリオールとかも呼びたいんだけど…」

「召喚するのは無理だからな、魔力消費デカすぎる」

「あんまり会いに行けないからねぇ、よっと!」

 

リプレも重い荷物を持ち直して歩いている、

ハヤトもそんなリプレに置いてかれないと必死に荷物を持った。

 

「大人数になった分、こうやってまとめ買いして節約しないとね、自分のお腹に入るものなんだから、頑張れるでしょ?」

「はいはい…」

「はいは一回!」

「はい…」

 

口調も矯正してくるリプレママ、この孤児院で彼女に勝てるものは誰もいないのだろう。

 

「おいおい、坊主、今から女の尻にしかられてんのか?」

「今からというか、子供のころから…ん?」

 

この声ってつい先日聞いた気がするな、たしか…。

 

「スタウトさん?」

「へへへっ、大当たりってかぁ」

 

スタウトは南スラムに立ち並ぶ屋根の上に立っていた。

 

「うそ…、屋根の上に居たなんて」

「俺に何かようなのか?」

「つい先日やりあったばっかなのにまた随分とのんびりしてるなお前は」

「何となく悪い人には見えないからな」

 

戦ってあれだけど悪い人には見えない、ユエルはどうにもスタウトさんが苦手みたいだけど、

立場の問題だからな、こればっかりは仕方ないだろう。

 

「案外話が分かるじゃねぇか、用事があるのはな、あのレイドって野郎だ」

「レイドに…」

「俺は臆病者だからな、お前らのねぐらに入る度胸はねぇんだよ。悪いがよ、呼んできてくれねぇか?」

「わかったよ、庭で待っててくれ。すぐに呼んでくるから」

「ハヤト、本当にレイドと会わせるの!?」

「まあ、レイドなら問題は無いよ、強いし…」

「おう、悪いな」

 

とりあえず、まずは荷物を置かないとな。

そう思いながら俺達は孤児院へと入っていくのだった。

 

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「しかし、レイドはあの男と何を話しとるんだろうな」

「うぅ~、ユエル、あの人苦手だよ」

 

エドスが突然来たスタウトさんがレイドと何を話しているかに気になっているようだ、

ユエルはやっぱり苦手みたいだな。まあ境遇を考えれば当然か…。

 

「なんなら、偵察してきたげよっか?」

「アカネ、あんまり盗み聞きとか感心しませんよ」

「大丈夫だって、普段はしてないから、普段わね」

「なんか含む言い方ですね…」

 

クラレットとアカネがなんか話してるけど、

普段は盗み聞きしてないってことはたまにしてるってことなんだよな。

アカネには要注意だな…、でも気配とか全然わからないんだよなぁ。

 

「あ、どうやら終わったみたいだぜ」

 

ジンガがそう声を上げると奥からスタウトさんとレイドが出てくる、

レイドが何か考えているようだけど何かあったのか?

 

「邪魔したな」

「いえいえ、お構いもせずに恐縮ですのー」

「ちょっと、あんた何普通に対応してるのよ、敵でしょ!」

「にゅ~!でもまだ何もしてないですの」

「…!」

「なによ…、わかったわよ」

 

エルカがモナティの言葉に口を出すが、クロがそれをたしなめる、

ってクロの奴、エルカより上の立ち位置なんだな…。

 

「何の用だったんですか、レイドさん」

「ラムダ先輩が会いたがっているらしい、これから行って来るよ」

「そうですか…、お気をつけて」

「いやいやいや、レイド、本当に一人で行くのか!?」

「そのつもりだよ」

「馬鹿言うなよ!何があるかわかんないんだぜ!?」

「心配しなくても、あの人はそんな卑怯なことはしないさ」

 

それが然も当たり前の言うレイド、

俺はそれを了承したクラレットの方に視線を向けた。

 

「クラレットも賛成なのか?」

「ええ、一日でしたけどアキュートがどのような人たちなのか分かった気がしますし、本当に敵対してないなら罠にはめるようなことはしませんよ」

「んー、そっか…」

「そんなに心配だってんなら、誰か一緒に来てもかまわねぇんだぞ。こっちは別に後ろめたい用事があるわけじゃねぇからな」

 

スタウトさんがこちらに橋渡しをしてくれる、その様子から後ろめたい事情はほんとにないみたいだ。

そうだな…、2,3人連れていけば安心だよな、腕の立つ人を選んで…。

 

「わかった、ハヤト。君が付いてきてくれるか?」

「ああ、わかったよレイド、スタウトさん、もう何人かいいですか?」

「一応、隠れ家だからな。あんまり大人数じゃなければいいぜ」

 

フラットのメンバーに目線を移動させる、まずクラレットは確実だ、召喚術使えるし戦い馴れてる。

他のメンバーは…。

 

「クラレットと……、クロかな」

「!」

「クロさんですの?マスター」

「まあ、実力はあるし。もしもの時も安心だからな」

「よろしく頼みますね、クロ」

「…」

 

無言で腕を組み、クラレットに抱きかかえらえるクロ、最近良く抱かれてるよな。

そして俺達はスタウトさんに着いてゆき、アキュートの本拠地へと向かっていった。

 

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スタウトさんに付いてゆき、俺達は繁華街までやってきた。

場所が場所の為、俺が近寄らなかった地区だ。

 

「こんなところにアキュートのアジトがあるなんて…」

「木の葉を隠すなら森の中ってな、さあ、ここが俺達の隠れ家だ」

 

スタウトさんが案内したのは酒場だと思う店の入り口だった、

看板がしっかりついてるけど…。

 

「…なあ」

「告発の剣って書いてあるんですよ」

「なんだ坊主、文字が読めないのか?」

「仕方ないだろ、異世界出身なんだから」

「勉強不足ですね。帰ったら勉強しましょう」

「う…」

「…」

 

変なこと聞くんじゃなかった、まあ、本当に文字の勉強しないとマズいよなぁ。

 

「そうか、子供の頃から尻に敷いてる女ってのはお前さんのことだったのか」

「ハヤト?」

「さ、さあ!早速入ろうか、レイド」

「そうだな」

 

酒場の中に俺達は入ってゆくがクラレットが「後で聞かせてくださいね」

と、俺に小声で伝える…、本当に口は災いの元だな。

 

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「お帰りなさいスタウト」

「あら、貴方たちもついてきたのね」

「こんにちわ、セシルさん、それにぺルゴさんも」

「え、えっと、こんにちわ」

「ああ、心配そうなんでな、こちらさんの保護者みたいなもんだ」

 

案外普通にぺルゴさんとセシルさんが俺達を迎えてくれた。

っていうか、レイドの保護者って言い方はどうなんだ、

まあ、レイドが普通についていこうとしたときは驚いたけど。

 

「ラムダは?」

「ラムダ様は奥にいます。私が案内しましょう」

「わかった、二人はここで待っていてくれ」

「うん、大丈夫とは思うけど、気を付けてくれよ」

「ああ、わかっているよ」

 

そう言い、セシルさんにレイドが付いてゆき奥の部屋に入ってゆく、

なんの話し合いかはわからないけど、できればいい方向に行ってくれるといいよな。

少し経つとセシルさんも戻って来てくれた。

 

「しばらく待っていてもらえるかしら?」

「はい、こんなこと言うのもアレなんですけど…、裏切ってすいませんでした…」

「まあ、ね、正直な話、苛立ったけど私たちがあなた達に会いに行った時点できっと阻止されるのは決まっていたと思うわ、それに思いっきり蹴っ飛ばしちゃったし、それでお終い」

「あはは、骨まで折れてましたよ」

「笑い事じゃないだろ、クラレット」

 

女同士何となく伝わるのか、軽く許し合う二人、

セシルさんもラムダさんのやり方に少し気がかりな所がもしかしたらあるのかもしれないな。

 

「せっかく酒場に来たのですし、何か飲まれてはいかがですか?」

「そうだぜ、昼間に酒を飲んでも罰は当たらねぇぜ」

「お酒……、いや、絶対ダメ!絶対ダメだ!!」

「は、ハヤト?」

 

クラレットに酒を飲ませたらとんでもないことになる、あれは勘弁だ。

しかもアキュートで飲んだら迷惑も尋常じゃないだろ…。

 

「なんだ、酒乱なのか?」

「俺は単純に飲めないだけ、酒乱はクラレット」

「え………、ああぁっ…!」

 

顔を両手で隠して思い出したように真っ赤になるクラレット、

その光景を見てスタウトさんがニヤケてセシルさんは苦笑している。

 

「その様子じゃいい思い出がないみたいね」

「もう飲みません、絶対飲みません…、だからハヤト…、忘れてください!!」

「ちょ、ちょっとっ!忘れるとか、大丈夫、思い出さないようにしてるから!」

「覚えてるじゃないですかぁ!忘れてください!!」

 

もしかしてクラレットはあの事を記憶から抹消してたのかもしれない、

そんな事を思いながら暴れるクラレットをなだめようと何とかする。

そんな中、セシルさんがクラレットに近づいて、落ち着かせる。

 

「はいはい、落ち着きなさい。ここは酒場だけど暴れる場所じゃないわよ」

「そ、そうでしたね。すいません」

「ふう、まあ、あんなこと思い――」

「この話は終わりです!もう話題に出さないでください!!」

「は、はい…」

「なあ、坊主たち一応ここが俺達の隠れ家って分かってるのか?」

「わかってるけど、クロも居るしさ、少し余裕を持とうかと」

「余裕持ちすぎて痴話喧嘩するとか聞いたことないわよ」

「…」

 

少し気楽になり過ぎたみたいだな…、まあ問題はないだろう。

クロの視線がやけに痛いけど…。

俺達はぺルゴさんが果物のジュースを出してくれたので飲むことにした。

リプレが作ってくれるけどさすがお店用、味が全然違うよ。

 

「どうですか?」

「すごくおいしいです、たまに飲むのとも全然違う味ですよ」

「まあ、あれは子供たちの飲めるようにしてますからね、店に出すのとは違いますよ」

「やっぱり、本当に営業してるんですか」

「ええ、そうですよ、ちゃんと営業しています。もっとも、私が一人でやっているようなものですけどね」

「………」

 

その発言に少しジュースを飲みながら何か悩んでいるクラレットがいる。

それに気づいたのかぺルゴさんがクラレットに声をかけた。

 

「どうかしましたか?」

「いえ、料理を作る人としてこの味を覚えておこうかなって…」

「そんな、大したことはありませんよ」

「そうだよ、クラレットは俺達の世界の料理を再現できるって特技があるじゃないか」

「あくまで再現ですから、単純な料理の腕はぺルゴさんやリプレには及びませんよ」

「お互い、自分より料理上手な人が近くにいると心苦しいわね」

「それが異性なら尚更じゃないですか、セシルさん」

「そうなのよ、私の立場がなくなっちゃうじゃない」

「おや、これは失敬」

 

女性の方が料理が上手いって考えはこっちの世界でも固定なんだな、

まあ、料理人となると男性の方が多い気もするけど。

 

「そういえば、気になったのですが、この子。かなりの実力でしたけど、なんなのですか?」

「…」

「確かにぺルゴの奴を一対一で食い止めてたしよ。おまけに滅茶苦茶鋭い目つきだな」

「ええ、しかも傷だらけですしね」

 

アキュートのメンバー全員に言われてクロが眉をしかめる、

確かにどれをとっても普通のテテじゃないよな、

ちょっと前に普通のテテを召喚してくれたけど似ても似つかなかったし、

あとなんでかクロを見て威嚇してた。

 

「なんか、リィンバウムの何処かから召喚されたみたいなんですよ。そのせいで戦いなれてるらしくって」

「へぇー、そんなやつもいるんだな」

「そういえば…、皆さんはどうしてアキュートに来ることになったんですか?」

 

クラレットのその言葉を聞いて、全員少し言葉を濁す、

やっぱり何か事情があるようだな、俺達と同じように。

 

「…まあ、お前さんたちの事情も知ってるし、フェアじゃねぇよな」

「私は元々ラムダ様の部下だったんです。彼が騎士団を追放されたとき、そのまま着いて来たのですよ」

「じゃあほかのメンバーも…」

「ええ、私以外にもラムダ様を慕ってついてきた方々は何人かいますよ」

「前回の戦いでやけに強かった人たちはそういう人たちだったのか…」

 

ラムダさんを慕う人たちはレイド以外にもいるんだな、

仲違いせずにその言葉を信じてる人も。

 

「私は…」

「セシルはな、看護婦さ」

「やっぱりお医者さんだったんですか?」

「スタウト!」

「いいじゃねぇか、隠さなくたってよ」

「そういえば俺を助けてくれたのもセシルさんでしたよね」

「ええ、夜に医者を探してるレイドにあってね、その縁よ」

「彼女はストラを学んだ、優秀な女医なんですよ」

 

ストラってジンガもそういえば使えたよな。

 

「ストラは元々、女性の方が強いんですよ。治療目的にそれを習得するお医者さんも多いですし」

「そっか…、そうだ!セシルさん、実はストラを覚えたい人がいるんですよ」

「ストラを?」

「ユエルってオルフルの…、はぐれ召喚獣の女の子なんですけど、うちに居るストラを使える人じゃうまく教えられなくて…」

「そうね…、機会があればね」

「そういえば……、ユエルってスタウトさんの事、やけに敵視してますよね」

「あ~、まあそうだな」

 

スタウトさんが何か言いづらそうな顔をしている、もしかして何かあるのか?

 

「敵視、スタウト、貴方何かやったの?」

「いや、俺じゃねぇんだけどな、たぶん俺の匂いだな」

「匂いですか…?」

「なあ、坊主、ユエルってあの青い召喚獣だよな」

「え、はい、そうですけど」

「…なあ、そのユエルってやつ誰かから逃げ出した奴じゃねぇのか?」

「「!?」」

 

俺とクラレットはその発言に驚く、つまりスタウトさんは何か知っているという事なのか?

 

「ああ、ユエルは召喚師に召喚されて強制的に利用されるところを逃げ出したそうなんだ」

「スタウトさんは何か知ってるんですか?」

「まあ、な、たぶん同業者だな…」

「同業者?」

「暗殺者ってことさ」

「暗殺!?」

「今はもうやっねえけどな、たぶんそのユエルってやつが感じたのはそれさ、同じ匂いってか雰囲気みたいなものを嗅いじまったみたいだな」

 

暗殺…、まあ確かに同じ暗殺者ならアカネもいるし、

リィンバウム限定なんだろうな。

 

「つまり、そのユエルって子は暗殺者の一味に召喚されたってことなの?」

「もう離れて随分経つからな…、だとすればこりゃ厄介ごとを多く抱え込んでるってことになるぜ」

「厄介ごと…?」

 

確かに今でも多くの厄介ごとを抱えてるけど、

スタウトさんが言ってるのはたぶん俺達がまだ知らない事なんだよな。

 

「嬢ちゃんになら察しがついてるんじゃないのか?」

「…赤き手袋」

「ご名答」

「赤き手袋?」

「まさか、嘘でしょ?」

「あのような少女、赤き手袋に利用されそうだったなんて…」

 

赤き手袋、みんなの反応を見る限り随分とキナ臭い組織みたいだけど…。

 

「クラレット、赤き手袋ってなんなんだ?」

「それは……」

「暗殺ギルドさ、それもどでかいな」

「暗殺ギルド!?」

「人殺し、傭兵、強奪、誘拐、なんでもする暗殺ギルド、それが赤き手袋さ、俺は違うが暗殺者として裏では結構有名だからな」

「赤き手袋は無色の派閥とも親交があるんです」

「じゃあ、ユエルを召喚した召喚師って!?」

「もしかしたら無色の派閥なのかもしれません、確証はないですけど…」

「人間の暗殺者だけじゃなくて召喚獣まで使おうって訳か、とんでもねぇな」

 

ユエルが暗殺用に召喚された召喚獣…、

確かに誓約の首輪で雁字搦めにされて、

スタウトさんのような元暗殺者の人と同じ匂いを嗅いでる、

思ったよりも厄介なんだな…。

 

「ま、精々守ってやるんだな、お前らにはそのための力があるだろ?」

「そう、だな」

「はい、ユエルは私達の仲間ですから、当然です!」

 

どのみち無色の派閥が俺達を狙う可能性が高いのは間違いないんだ、

ならユエルだって同じように守ってやれば問題ないな、

とりあえず帰ったらユエルに事情を話してなるべくフラットにいてもらわないとな…。

 

それからも談話を続けていると奥の方からラムダさんとレイドが出てくる。

 

「待たせたな」

「いえ、皆さんがいてくれたので」

「そうか」

「さあ、二人とも帰ろうか」

「…」

「クロもだな」

「!」

 

今回大人しくしてたせいで、忘れられてるなクロの奴、

まあ、普段から大人しいんだけどな。

 

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俺達は繁華街を出て孤児院へと向かう最中、俺はラムダさんとレイドの話が気になり聞いてみることにした。

 

「ラムダさんと、なんの話をしたんですか?」

「この前の事、そしてこれからの事だよ。もう、君たちが彼らと戦わなくてもいいように話をつけて来たんだ」

「そうなんですか…」

 

あの計画はラムダさんにとって致命的なもののはずなのに、簡単に許せるものなのか?

クラレットも同じように納得がつかないようだし…。

 

「…」

「二人ともどうしたんだ?」

「えっと…」

「いえ、何でもないんです。話し合いで解決できたのならそれが一番ですから…」

「そう、だな…」

 

やっぱりレイドさんは何かを隠している…、そう思いながら俺達は孤児院へと戻る、

そして、その日は特に何も無かった、ただやっぱりレイドさんの様子が少しおかしかった気がする。

 

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「やっぱりおかしい…」

 

私は納得が出来なかった、昨日の話し合い、本当に話し合いで済んだのだろうか…。

ハヤトは今日、ガゼルさんと出かけてるし、やっぱりレイドさんを問い詰めるべきなのでしょうか…。

 

「…ガルマザリア、私はどうすればいいんですか?」

 

ペンダントを取りだす、そのペンダントにはめられているサモナイト石、

大悪魔、地の悪賊、魔臣ガルマザリア。今になって思えば私の事をずっと見守ってくれた召喚獣。

このペンダントは母の形見であり、そして無色の派閥の秘宝の鍵。

組織にとって最重要物、そのはずなのに彼らは一向に姿を見せない…、いえ、もしかしたら。

 

「ハヤトがまだ私に隠してることがある…」

 

だけどきっと私の事を思っての事、なら私は…。

そう思い詰めていると部屋にノックする音が聞こえる。

 

「空いてますよ?」

 

部屋の扉が開かれ、そこにはエドスさんが居た。

 

「クラレット、レイドがどこに行ったのか知らんか?」

「レイドさんですか…?部屋には居ないんですか」

「おらんのだよ、今日は道場も休みだというのに…」

「…まさか」

 

頭の中で一つの考えが浮かぶ、ラムダさんとレイドさんは元騎士、

ううん、二人とも今でも騎士だと思う、そんな二人が出す答えの出し方は…。

 

「決闘…」

「どういうことだ?」

「私たちに嘘をついてたのかもしれません、話し合いで解決なんてできるはずがなかったんです!二人は…、二人は決闘をして全てを自分たちで決めるつもりなのかもしれないんです!」

「まさか!?」

「私、すぐにレイドさんを探してきます!」

「わかった、ワシも心当たりがあるところを回ってみる」

「お願いします!!」

 

どうして…、なんで自分で決めようとするんですか!

それ以外の方法があるかもしれないのに、オプテュスの時とは違ってみんなで話し合えるのに!

 

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「リプレ!」

「どうしたのクラレット、血相変えちゃって」

 

玄関の掃除をしているリプレに出会ったクラレットはレイドの事を聞く。

 

「レイドだったら、出かけたみたいよ」

「どこに行くのか聞いてませんか?」

「ううん、別に何も、あ、でも剣を持ってたから稽古かしら?」

「そう、ですか…」

「何かあったの?」

 

私の表情を見てリプレが心配してくれる、話すべきなのか…。

ううん、リプレは今まで心配ばかりかけてたし。

 

「いえ、何でもないんです。ちょっとレイドさんが気になって」

「本当に…?」

「はい、ラムダさんとどんな話し合いをしたのかなって…」

「それならいいんだけど…、でも何かあったら伝えてよね」

「ええ、じゃあちょっと外まで探してきますね」

「ああ、そういえば庭に子供たちがいるから聞いてみるといいわよ、もしかしたら何か知ってるかもしれないし」

「そうですか、ありがとうリプレ」

 

リプレにこれ以上、気づかれないように自然に離れてゆく。

何時も迷惑をかけてるんですから、今回ぐらいは私たちの手で解決しないと…。

 

「………また抱え込んで、顔を見ればすぐに分かるわよ」

 

クラレットに聞こえない様にリプレはそうつぶやいた。

 

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「あ、お姉ちゃんどうしたんだ?」

「クラレットさんですのー」

「きゅーっ!」

 

庭には子供たちにガウムやモナティが居た、近くの丸太にはエルカも座っている。

 

「あたしたちに何か用なの?」

「実はレイドさんを探していて…」

「レイドさんでしたら先ほどここに来ましたですの」

「そういえば来てたわね、妙に神妙な顔して」

 

レイドさんはやっぱりここに来てた…、じゃあもしかして私の予想が当たってるのかもしれない…。

 

「うん、オイラ達と少し話したんだよな」

「…(こくん」

「でもさ、あたしたちの顔をじっと見てさ…、なんか、変だったよね」

「モナティも、これから子供たちをよろしく頼むなんて言われちゃったですの」

「……まあ、大体わかったけどね」

「あの…、モナティにエルカだけちょっと来てもらえますか?」

「別にいいけど…」

「はいですのーっ、ガウム、みんなの事、よろしくお願いしますの!」

「きゅーっ!」

 

二人を連れてその場から離れようとするとラミが私の裾を掴んでいる。

 

「ラミ?」

「…気を付けてね」

「…はい、必ず」

 

たぶん、子供たちも何となく察してるんだと思う、フラット、家族は繋がっていますから…

 

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表に出た私はモナティ達に事情を話した、モナティはすごく驚いていましたけど、

エルカはやっぱり気づいてたのか、同じように考えていたようです。

 

「大変ですの!すぐにレイドさんを連れ戻さないと!」

「ちょっと、待ちなさいよ!レビット!!」

「うにゅう!?」

 

モナティがすぐに走ってレイドさんを探しに行こうとするけど、

エルカが尻尾を握って無理矢理引き留める、そのせいでこけちゃいましたね。

 

「痛いですの、エルカさぁん~」

「アンタ、あの男がどこに行ったか分かってるの!?」

「………あ!!」

「これだからレビットは…、そういえばハヤトは今どこにいるのよ」

「それが…、ガゼルさんと出かけたみたいで居場所がわからないんです」

 

こんな時にハヤトと連絡が取れないなんて…、どうすれば。

 

「マスターでしたら、川に行くって言ってましたの」

「本当ですか?モナティ」

「はい、マスターにご一緒しようとしたら、川に行くぐらいだから今日はいいとのことだと」

「なら、ハヤトに事情を伝えてきてくれませんか?私たちは街の中を探しますから」

「わかったですのっ!!」

 

そう元気よく答えたモナティは川の方へと駆けて行った。

 

「それで、あたし達は何をすればいいの?」

「とりあえず、街の中を…」

「あれ、姐さんたちじゃねぇか」

 

帰って来たジンガが私たちに声をかけてくれた、

外に行っていたみたいだし、もしかしたらジンガさんならなんか知ってるかもしれない…。

 

「あの、ジンガさん。レイドさんを知りませんか?」

「ああ、俺っち、レイドが出ていくのを見たんだけど、普通じゃなかったんだ。なんていうか…、何かを覚悟してるみたいだったんだ…」

「それで、レイドさんはどちらに行ったんですか!?」

「繁華街の方へ行ったよ」

「あの、エルカ、すぐにモナティを追ってもらえますか?」

「全くタイミング悪すぎでしょ、あのレビットは!」

 

そう不貞腐れつつエルカは川の方にモナティを追って走っていった、

モナティより足が速いみたいだからすぐに追いつけるはずですね。

 

「なあ、レイドに何があったんだ?」

「実は…」

 

ジンガにレイドさんの事を伝えるとジンガさんも探すと言ってどこかに行ってしまった。

繁華街って自分で言ってたのに繁華街以外の所に行ったみたいですけど…。

とりあえず、私はレイドさんの行くへを追う為に繁華街に向かうことにした。

 

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「りゃっ!」

「はあぁっ!!」

 

お互いの武器がぶつかるが、ハヤトがそのままガゼルに体当たりをする。

ガゼルはそれをかわしてナイフを投げてながら距離を取るが…。

 

「行け!ロックマテリアル!!」

 

ロックマテリアルを放ちガゼルの動きを制限させハヤトは突っ込む、

それに対応するようにガゼルが攻撃を仕掛けるが…、

 

「!!」

「なっ!?」

 

ハヤトはそれを先読みするように武器を弾き飛ばし、そのままガゼルの顔面に拳を付けた。

 

「はい、勝負あり」

 

その様子を見て、アカネが声を出し勝敗を伝える、

お互い疲れたのか地面に腰を下ろした。

 

「だぁーー!勝てねぇ!」

「そりゃ、毎日訓練してるからな、でもガゼルだって中々のもんだぜ」

「うるせぇな、平和なとこでのんびりしてる奴にここまで差を付けられるなんてよ」

「ここ一か月平和じゃなかったけどなぁ…」

「アタシからすれば、ガゼルも十分凄いけどねぇ、そうだ!ねえガゼルアンタ、忍者にならない?そうすれば多少は…」

「オメェは自分が楽したいだけだろ」

「クラレットから聞いてるぞ、修行がキツイキツイってよく言ってるってさ」

「あはは…、ばれちゃってるし」

 

3人の平和な会話が続いている、ガゼルがなぜ訓練を始めたのには理由があった。

前回のアキュートとの抗争、そして少し前の騎士団との戦いなど最近物騒なことが続いているからだ。

そしてこれから無色の派閥が攻め込んでくる危険性もあったため、ハヤトと一緒に訓練をしていたのだ。

 

「しかし、戦ってて思ったけどさ。ガゼルって最初に会ったときもしかして手加減してくれたのか?」

「ん、あの時か?」

「確か、クラレットに馬乗りしたって聞いたけどそれ本当なの?」

「俺じゃねぇよ!!」

 

危険は迫っているがのんびりとした会話が続く、

だけどそんな空気も唐突に終わりを告げるのだった…。

 

「大変、大変ですの~!」

「モナティ?」

「マスター、大変です、うにゅっ!?」

 

モナティとエルカが走りながら近づいてくるが、モナティが俺の少し前でズッコケてしまう。

俺は何が大変なのか気になるけど、とりあえずモナティを抱き上げた。

 

「大丈夫か、モナティ」

「お鼻、ぶつけましたの~」

「たくっ、焦って走ってるからよ、レビット!」

「はっ!そうでしたの!大変ですのっ!」

「何かあったのか!」

「実は…」

 

モナティはレイドがラムダさんの所に行ってしまったと伝えてくれた。

やっぱり話し合いじゃ解決しなかったのか、このまま放って置いたらきっと…。

 

「それで、レイドはどこに行ったんだ!」

「繁華街の方に行ったみたいよ。クラレットに言われてあたしたちはこっちに来たのよ。クラレットも多分繁華街にいるんじゃないかしら」

「ガゼル」

「ああ、とりあえず俺もみんなを集めてすぐ向かうぜ」

「アカネは…」

「アタシはあんた達と一緒に行くよ。少しでもアキュートが相手だと逃げれる人も必要でしょ?」

「わかった、じゃあモナティ達はガゼルと一緒に戻ってくれ」

「マスター…」

「ほら、さっさと行くわよ、レビット!アンタじゃ役立たずでしょ!」

「マスター!お気をつけてくださいですの!」

 

エルカに引きずられる感じで連れてかれる、モナティ、

ガゼルもそれを追い越すように孤児院に戻っていった。

 

「じゃあ、アタシ達も急ぐとしますか!」

「ああ、行こうアカネ!」

 

俺達もレイドが居るであろう、繁華街の方に向かった。

 

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「エドスさん!」

「おお、クラレットか。お前さんの方はどうだった?」

「それが…」

 

私は繁華街に着いて、エドスさんと合流した。

そしてレイドさんの行方を調べるために周りの人の話を聞いたけど…。

 

「いなかったのか?」

「はい、アキュートの幹部の皆さんだけ消えてしまったみたいなんです。ただ、レイドさんを見かけたとは聞きました」

「レイドがアキュートの所に来たのは間違いないと言うわけか…、だけど、どこに行ってしまったんだろうな?」

「ここ以外となると…、上級区か城前、ですよね」

「あとは川か商店街だが、そこはあり得んな」

「はい、川はハヤトたちが居ますし、城前や上級区には行く理由がありません…」

 

残ってるのは…、北スラム。

だけどあそこに行く理由が思いつかない、でも確かスラムって城壁が壊れてるところにできるんでしたよね。

もしかして北スラムの城壁の壊れてるところから出て行ったんじゃ…。

 

「もしかして…」

「おーい!」

 

声がする方を見ると走って来たのか息を乱してるハヤトの姿が見えた、

横にはアカネもついていてくれている、ハヤトと違って息を乱してないのは流石ですね。

 

「ハヤト!それにアカネまで」

「クラレット、モナティから聞いたんだけど、レイドがいなくなったって!」

「はい、実は…」

 

私はハヤト達にレイドさんが居なくなった事を伝える、

レイドさんが子供たちの顔を見たこと、武器を持って出かけたことを伝えると、

ハヤトもアカネも神妙な顔をしてレイドさんがラムダさんたちと決着を付けようとしてることを確信した。

 

「騎士ってのはどうしてそう小難しいこと考えるんだろうねぇ」

「そういうなよ、アカネ。それでクラレット、レイドは何処に行ったんだ?」

「あと探してないのは北スラムだけなんですけど…」

「北スラムか…、だけどあそこには」

「バノッサか」

 

エドスさんのその一言で大体私たちが来たスラムに行きたくないのが全員に伝わる。

バノッサさんはハヤトの事を狙ってる、もし北スラムに足を運んだら厄介なことになるはず…。

 

「だけど、行かなきゃダメだよな。とりあえずクラレットはここで…」

「ハヤトが行くなら私も行きます!」

 

ハヤト一人で行かせたらきっと厄介なことになるはず。

なら一人でなんて行かせられません!

 

「じゃあさ、二手に分かれたら?ここでみんなが来るのを待つのと、北スラムってとこに行くので」

「それが一番ですね…、アカネ。私達と一緒に来てくれますか?」

「うひゃー、私がそっち側なわけ、まあ頼りにしてくれるのはうれしいけど」

「ワシはここでみんなを待つことにするさ、無理についてっても厄介なことになりそうだからな」

「みんなが来たら、俺達を追ってくれ、北スラムに居なかったらそのまま町の外に出てると思うから」

 

そうエドスさんに伝えたハヤトが北スラムに向かって走ってゆく、

しばらく落ち着いたのか息の方は元に戻ったようだ。

私とアカネもそれに続いて北スラムに向かって行った。

 

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「始めて来たけど、なんか辛気臭いとこねぇ」

「南スラムもそんなに変わらないと思いますけど」

「そういうのじゃなくて、なんか雰囲気がね」

 

北スラムに初めて来たアカネがその雰囲気を嫌がっている。

俺達もここにはいい記憶がないし、確かに同じスラムでも妙にギスギスした感じがあるからな。

だけどとりあえず今はレイドたちの居場所を探さないと。

 

「とりあえず、聞き込みをしないとな」

「それなんですけど…、聞き込みして素直に話してくれますかね」

「あ…」

「あちゃ~、そりゃそうだよね」

 

そうだよ、北スラムであんなにド派手な戦いをしてたんだ、

素直に教えてくれるわけないよな、それになんか怯えられてる視線がそこらじゅうからするし。

お金でも払って聞き出すしかないのか…、脅すのはさすがにやだからな。

 

「よォ、はぐれ野郎、血相変えてどうした?」

 

声がする方を振り向くとそこには会いたくない男が居た、

ここに来れば会ってしまう気もしてたが、やっぱり会ったか。

 

「バノッサ…」

「ごめんなさい、バノッサさん。今あなたと揉め事を起こしてる場合じゃないんです」

「ねえ、この人がバノッサ?ホントに白いね」

「おい、アカネ!」

 

アカネがバノッサに対してめんどくさいことを口に出す、

ちょっと待て、今コイツとやり合ってる場合じゃないってのにアカネは何やってるんだ。

 

「…アカネ、シオンさんに人の事を考え無しに貶したって言いますよ?」

「えぇ!?嫌ちょっと…、ごめんなさい」

 

シオンさんかぁ…、あの人ちょっと怖そうだよな、

アカネがすぐに謝るとこを見るとやっぱり怖いんだろう。

バノッサの方を見るが本人はあんまり気にして無かったようだ、

もしかして馴れてるのかも知れない、なんかやけにニヤついてるのが気になるが。

 

「別に今更だからな、気にはしてねェよ」

「じゃあ、俺達はちょっと用事があるからこれで」

「まァ、そう言うなって、ちィとばかし、俺様の相手をする時間ぐらいあるだろうがよ?」

「だから俺達は…」

「手前ェ、ひょっとしてあの騎士崩れを探してるんじゃねぇのか?」

「「「!?」」」

 

俺達全員が驚愕した、まさかバノッサの奴、レイドの行方を知ってるのか。

 

「レイドさんを見たんですか、バノッサさん!?」

「アキュートの連中たちと一緒だったからな、手下につけさせたのさ。ククククッ、手前ェがどうしてもっていうなら、居場所を教えてやるぜ?」

「お願いです。バノッサさん、教えてください!!」

「お前らには散々苦汁を飲まされてきたからな…、誠意を見せてもらえるか?」

「誠意…?」

 

俺達に誠意を見せろってことか…、

俺はクラレットの方を見る、クラレットの俺の方に目をやって頷いた。

俺達二人は、膝をついて頭を下げる、つまり土下座だ。

 

「あァん?」

「お願いします、皆さんの居場所を教えてください」

「頼む、教えてくれ、バノッサ」

「ちょ、ちょっと二人とも、マジ!?」

「おい、赤いの、こいつらは何やってるんだァ?」

「赤いのって、土下座って言ってシルターンの誠意を込める最大の礼式の一つだよ。これやる意味、二人ともわかってるの!?」

 

アカネはシルターンの世界の為か土下座の意味がわかってるんだな、

レイドの為だったらこのぐらい、簡単だ。

それを聞いたバノッサは俺の頭に足を乗せて体重をかけてつぶそうとする。

俺はここでバノッサの機嫌を損ねないために耐える。

 

「どうか教えてくださいバノッサ様、だろォ?」

「……どうか教えてください、バノッサ様」

「ヒャヒャヒャッ!そうまで言われちゃぁ教えてやるぜ、野郎の言った際はな、死の沼地さ」

 

俺たち二人が顔を上げてバノッサの顔を見る、気分がいいのかむかつく顔をしてる。

 

「死の沼地?」

「北スラムから荒野に出てその果てにある沼地さ、燃える毒水の沼ってのがあるんだよ…、あそこはいいぜェ?死体も沼に沈めれば勝手に腐って溶けちまうんだ…、クククッ、今頃どうなってるのかねェ?」

「…くそっ!クラレット!アカネ!急ごう!!」

「オッケー!」

「はい、バノッサさん!ありがとうございます!」

「ハハハハハッ!せめて骨ぐらい、拾えるといいなァ!!」

 

バノッサのそんな言葉を後ろで聞きながら俺達はそのまま北スラムを抜けて死の沼地を目指す、

レイド…、無事でいてくれよ!!

 

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ハヤトが居なくなった後、バノッサはその場に立っていた。

優越感に浸ったのはその時だけ、しばらくして不機嫌そうな顔に戻っていた。

 

「…ッ!」

 

不機嫌になった理由はハヤトだった、ハヤトがした土下座、

最大の礼式とか言ってたがつまり家族の為だったらそのぐらい容易いという事だ。

その余裕に気付いたバノッサが不機嫌になるのは当然だった、

そしてもう一つ不機嫌になってる理由は…。

 

「あの化け物女がな…」

 

クラレットの事を考える、腹違いの妹だと奴から聞いている。

あの爺を殺すためには完全な隙を作りだす必要があると言っていたが…。

 

「…何を考えてやがる」

 

自分の記憶に残る母の姿、狂い死んだ愛すべき母親、

オルドレイクと同じことを自分はしてるのではないかと、葛藤がバノッサを悩ます。

 

「下らねェ、他人を気にして何会ってるんだ俺様はよォ」

「こんなところに居たのか、バノッサ」

 

物陰からソルが姿を現す、実のところアキュートの事を調べたのはソルだった。

アキュートのイムラン暗殺が失敗したあとどういう行動に出るかを調べていたのだ。

 

「手前ェか、何の用だ?」

「なぜ、あいつらに話した、言ったはずだ。贄の感情が弱まれば弱まるほど悪魔に受け入れやすくなると、レイドと言う男が死ねばそれだけ」

「あァ、そんなことはわかってる、だけどよ。目の前で死体を見た方が随分と苦しむだろ?つまりそういう事だ」

「それならいいが」

 

そういい、ソルがバノッサに丸い水晶を手渡す、

紫色の超高純度のサモナイト石で出来た水晶、魅魔の宝玉を。

 

「締めはキッチリ決めろ、使える駒はそこらへんにいるだろ?」

「…ああ、もし失敗しても、目の前ではぐれ野郎を殺しちまえば問題ねェな」

 

水晶に魅入られるようにバノッサが魅魔の宝玉を手にして、スラムに消えてゆく。

ソルはその後姿を見ながら口を開いた。

 

「憎しみや復讐心が宝玉の力を引き出すか…、碌でもない代物だな」

 

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「ここが死の沼地…、この匂いって」

「石油です、石油が湧くなんて…、凄い」

「それにしても酷いにおいじゃない、も~」

 

燃える毒水か、石油は確かにそうだよな。

加工方法もないリィンバウムじゃ、災害だろう。

枯れ果てた木々を避けながら進んでいくと、剣のぶつかり合う音が聞こえて来た。

 

「ハヤト、あれって」

「ああ、レイドとラムダだ、戦ってる!!」

 

ギリギリ間に合った、二人は互いにかなりぶつかり合ったのか、

傷だらけになりながら剣劇を続けている。

俺達はそれを止めるために二人に向かって走った。

 

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ラムダとレイドが互いに剣をぶつけ力勝負に入る、

既に二人ともかなり疲労困憊だが、その目は互いに闘志を煮え滾らせていた。

 

「腕を上げたな」

「必死でしたから…、少しでもあなたに近づくために!【断頭台】と呼ばれた先輩の剣技を超えるために!!」

 

レイドが一歩下がり、剣を振り下ろす!

それをラムダが、その剛剣で弾き飛ばそうとするが、レイドはその攻撃を正面から受けきった!

 

「だが、お前は超えられなかった!俺の願いは…、叶わなかった…」

「願い…?」

 

ラムダが何かを後悔するように俯くが、すぐにその考えを捨て、剣に力を籠める。

 

「全ては過去の事、過ぎ去ってしまった事はやり直せないのだ!今はただ…、目の前のお前を切る!」

「ぐううっ!」

 

ラムダの剣がレイドを弾き飛ばす、レイドもその攻撃に必死になって耐え、

僅かな隙に反撃を叩きこんでゆく、守りの剣技で耐えながらラムダにレイドは食い下がっていく。

 

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「止めないと、あの二人が殺しあうなんて間違ってる!!」

「…!?」

 

近づこうとする俺達の前にアキュートの幹部たち、セシルさんにスタウトさん、

ペルゴさんが立ちふさがる、それぞれ自分の得物を持ち俺達に攻撃の意思を見せた。

 

「セシルさん、そこをどいてください!」

「余計な手出しは無用よ」

「だけど!」

「これがあの二人の望んだ決着の付け方なの」

「彼らの望むものは対極にあるもの、争うことは避けられません、だからこそ、あの二人は決闘と言う形で決着を付けることにしたのです」

「そんなのって…」

「余計な犠牲を出したくない、っていうあんた達の望みどおりにな」

 

確かにスタウトさんの言ってることは間違ってない、

決闘なら余計な犠牲は出ない、あの二人の内、どちらかが死ぬだけだ。

だけど…、俺は…。

 

「そんなの…、そんなの認められるわけないだろ!!」

「…!?」

 

ハヤトの突然の叫びにセシルを初めとするアキュートは驚く。

 

「俺はあの二人に命を助けられたんだ!レイドが居なかったらきっと俺とクラレットはフラットのみんなと分かり合えなかった、ラムダさんが居なかったら荒野で殺されてたかもしれない。あの二人に命を救われたんだ、あの二人の内、どちらかが死ななきゃ行けないなんて認めらるか!」

「これはあなた一人の個人的感情で決める事じゃないのよ!」

「俺一人じゃない!ガゼルやエドス、リプレにラミにフィズにアルバだって、みんなみんな死んでほしくないに決まってる!お前達だってそうじゃないのか!」

「そ、それは…!」

「お前達だってラムダさんに死んでほしくないはずだ!ただあの人の言葉を聞くだけじゃ駄目じゃないのか!分かり合えないのか!酒場じゃ一緒に話し合えたじゃないか、なんでこの結果を止めようとしなかったんだ!」

「………」

「俺はこの街に一月少ししか確かに居ない、だけど願ってることは貴方達と同じだ。街の人を救いたいってう願いは同じだろ!戦う必要なんかない、必要なのは、力を合わせることのはずだろ!」

 

セシルさんが苦い顔をしながら悩んでいる、迷ってるんだ、

迷ってなければあんな辛そうな表情なんてしないはずだ。

 

「話はそれだけか?」

「スタウトさん…」

「悪いけどな、うちの旦那が決めたことだ、一応部下なんでな、それを汲んでやるのも仕事なんでな」

「そうね…、あの人が望んだことなら…」

「………」

「というわけだ、止めるなら。俺達を倒してでもやってみるんだな」

「クラレット!アカネ!行くぞ!」

 

剣を握り、サモナイト石を確認してアキュートに武器を向ける。

クラレットも杖を握りしめ、アカネも苦無を構えた。

 

「俺は、あの二人を止める、こんな終わり方絶対認めない!!」

「へへっ結局のとこ、こういう形にしかねぇってか」

「やむをえませんね」

 

俺は武器を構え、突っ込む!

 

「そこを、どけえぇっ!!」

 

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ちょうど3対3、俺は一番厄介だと思う、スタウトさんに突っ込む、

剣を振り下ろし、スタウトさんの武器を弾こうとするが、

その剣を受けずにするりと抜けられ、刃が迫ってくる。

 

「うぐっ!」

 

スタウトさんの剣が俺の肩を切り裂く、武器を落としそうになるが、

両手で握りしめて距離を取った。スタウトさんが突っ込んでくる。

 

「悪いが旦那には借りがあるからな、死なない程度には手加減してやるよ」

「くっ!?」

 

軽業師の様に剣を自在に動かす、殺気がある攻撃だけ防ごうとするが、

フェイントも含めて全ての攻撃に殺気が混ざりこんでいた、

ウィゼルやラムダとは別の強さの前にハヤトは追い込まれてゆく。

離れて、召喚術を使わないと…。――ッ!?

離れようとするが一定の距離から離れようとせず、攻撃を躱すが、

頬に鋭い痛みが走り、血が飛ぶ、ハヤトは完全にスタウトに術中にはまっていた。

 

「全部が終わるまで、悪いがここで俺に足止めされててくれや」

「くっそぉ!!」

 

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対してアカネはペルゴに食い止められていた、

正直な話、さっさと抜けて、ラムダに不意打ちでもかまして終わりにしたいと、

アカネは思っていたのだが、アキュートが思った以上に強敵だったため、

それが中々うまくはいかなかったのだ。

 

「真面目一直線…、やり難いなぁ」

「私もあなたの様な方が相手だとやり難いですよ」

 

アカネが飛び回りながら苦無を投げるが、如何せん足場が悪かった、

周りには沈んだら終わるような毒水が湧いている、そんなとこの上を跳ぶほど度胸はない、

動く範囲を制限させられているアカネが苦無を投げるが、それはペルゴに落とされていく、

弓矢程早くはないがそれでも鍛えた投擲術を防がれる。

 

「爆弾でも持って来ればよかった、そうすればすぐに終わりだったのに」

「ここで使ったら恐ろしいことになりかねませんがね」

「そりゃそうか…、まあ、アタシもレイドには世話になったからね、悪いけど倒させてもらうわよ!」

 

アカネは再び苦無を何本も同時に投擲する、自分に当たるものだけを認識し、

ペルゴがそれを防いでゆく、ペルゴはアカネの攻撃を自分から受けるだけで、

攻撃を仕掛けてはこなかった、彼もラムダの考えに悩んでいるためだ。

その為、自分から攻撃を仕掛けたくなかったのだ。

ならばせめて壁としてこの場に立つ、それが彼のラムダへの忠誠だった。

 

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「はぁっ!!」

「なっ、くぅ!?」

 

なぜ、こんなことになっているのか、

あり得ない、こんなことありえない…。

 

「なんで…」

 

なんで【クラレット】が接近戦を仕掛けられるの!?

そう思いながらセシルがクラレットの攻撃を防ぐ、

防いだものの思いがけない威力に体が浮き後ろの弾き飛ばされた。

 

「はぁ…はぁ…、ふぅ」

「まさか、召喚師が接近戦を仕掛けるなんてね」

「ハヤトと同じですよ、魔力操作なら負ける余地なんてありませんし」

 

真剣な目をしながらクラレットはセシルにそのことを伝える。

ハヤトと同じで魔力で身体操作し、ガードするときやインパクトの時に魔力を膨れ上げてぶつける。

口で言えば簡単だが、そんな難しい事をやりのける召喚師など殆どいない、

天性の才能、そして膨大な魔力を持つクラレットだからこそ可能なのだ、

普通の召喚術に制限がかかっていても魔力自体はそれこそマーン三兄弟とは比較にならないほど高い。

 

「そうだとしても、召喚術で攻撃すればすぐに決まるんじゃないの、大事な彼もスタウトに苦戦してるようだし」

「そんな事はどうでもいいんです、ハヤトは負けませんから。それより私はセシルさんを直接叩きたいだけです!」

 

クラレットが魔力でブーストし一気に近づく、セシルもストラで強化してその攻撃を正面から防いだ。

ジンガと違い、ストラの操作は凄まじいが身体能力は普通の人の少し上である彼女はクラレットと大して変わらない力の差だった。

 

「セシルさんは自分に嘘をつくんですか?」

「どういうことかしら…、私は」

「後悔しますよ…、間違いなく」

 

一瞬歪んだ表情、それを逃さず、クラレットがセシルの足に手をやる。

そして思いっきり魔力を直接流し込んだ!

 

「あぐっ!?」

「!!」

 

強制的に魔力を注ぎ込まれ、魔力操作が出来ないセシルはその痛みで苦しむ、

その隙を逃さず、クラレットが杖を使い、セシルの体を押し倒した!

 

「あなた…!」

「私は…、後悔しました、ハヤトが無茶ばっかりしてボロボロで帰ってきてばかりで、何度も…何度も死にかけて怖かった、今だって怖いです。貴女だって同じ気持ちじゃないんですか!?」

「………」

「仕方のない事ばかりだったんです。バノッサさんの時や森のはぐれ召喚獣、戦わなければ奪われる事ばかりで怖かった…、だから私たちは戦ったんです。でも、でもこの戦いは意味があるんですか!?レイドさんが死んでもラムダさんが死んでもきっと、きっと後戻りできなくなる、もう救えなくなるんですよ!」

「ッ!」

 

空いてる手で無理矢理クラレットを弾き飛ばして立ち上がるセシル、

クラレットも杖を使い、再びセシルに対峙した。

 

「私じゃ、私じゃ止められなかったのよ!だからあの人を支えてあげる事しかできなかったのよ、自分ばかり犠牲にして、側にいる私たちでさえ守ろうとしてる。そんなあの人をどうやって…」

「セシルさん、貴女はなんでアキュートに入ったんですか」

「私は…」

 

セシルが自分がアキュートに入った理由を思い出した、しがない軍医、

ただ最初は隻眼である彼を治したかった、次第に無茶ばかりする彼を支えてあげる。

傷をおして無茶をする彼を支えるために自身も戦うことにした、それが私の理由。

でも根底にあったのは、あの人にこれ以上、無茶をしてほしくない…ただ、ただそれだけだった。

 

「それが答えですよ」

「えっ?」

「私と同じなんです。誰よりも大事な人を心配する、その想いを伝えればきっとわかってくれます、まだ間に合うんです。行きましょうセシルさん」

「まだ、間に合うのね」

「はい」

 

クラレットは笑顔になり手を差し伸べる。

 

「貴女…」

 

クラレットの手は手が擦り切れたのか血が多く付いていた。

無理な魔力強化、武器に魔力を込めるなど慣れないことをした為、

体に相当無理が入っていた、召喚術を使えばすぐに決まってたかもしれない、

それでもクラレットはセシルに直接その思いを伝えたかったのだ。

そしてセシルもそのクラレットの思いを理解してその手を両手で優しく包む、

ストラの光が手を包み込んで傷を癒し始めた。

 

「あ…っ」

 

不意に力が抜けたクラレットをセシルが支える、完全に身を委ねてる様子にセシルは困惑した。

 

「すいません、その気が抜けて…」

「それはいいけど、さっきまで戦ってた相手に気を抜き過ぎよ」

「だって、セシルさんですから」

「そう…、ふふふ」

 

互いに人を想う二人、だからこそ分かり合えた、

そしてセシルは自分の想いを伝えるために戦いを止めるため動き始めた。

 

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「ほら、もう一発だ!」

「ぐうっ!」

 

ハヤトは完全にスタウトに翻弄させられていた、当然と言えば当然だ。

ハヤトは知らないがスタウトは裏世界に置いて【騙しのスタウト】呼ばれるほどの屈指の実力者なのだ。

暗殺という歪な戦い方をするスタウトにハヤトが対抗できないのは当然だった。

 

「ここらへんで勘弁してくれねぇか?武器に毒でも塗ってればもう終わりだろ?」

「諦めるか…、俺はあんな意味のない戦いを…」

「そうかい、じゃあ」

 

スタウトが剣の持ち手を逆さに変える、目つきも若干鋭くなり、

スタウトはハヤトを本格的に再起不能にする為に動き始めようとする。

 

「待ってスタウト!」

「セシル…?」

 

止めをさそうとしたスタウトをセシルが静止する、

今までと違うその態度にスタウトは察した様に武器を下した。

 

「ハヤト、大丈夫ですか!」

「クラレット、それにセシルさん?」

 

クラレットがリプシ―を呼び出し、ハヤトの怪我を治療を始める、

手加減してたのかかすり傷ばかりだったためドンドン傷がふさがってゆく。

セシルはスタウトに色々話し、スタウトも何か納得したらしく、武器をしまった。

その様子を見ていたのかアカネとペルゴも戦いをやめていた。

 

「まあ、セシルがそう決めたのなら俺は別にいいけどな、ペルゴもそうだろ?」

「私達は全員、ラムダ様の言葉を信じて動いてます、それに疑念を感じたのならそれを聞いてみればいいでしょう」

「ええ、そのつもりよ。後悔するぐらいなら嫌われてでも止めて見せるわ、それでも無理だったら…その時に考えるわ」

 

そういい、今もなお戦っている二人にセシルは足を動かしてゆく。

 

「クラレット…、何があったんだ?」

「自分に素直になっただけですよ。大人になると素直になれなくなるんですよ」

「なるほど…」

 

なんで和解できたのかは全く理解できないが、セシルさんは止めたいようだ。

なら協力しなくちゃな!

そう考えた俺は体を動かして二人の所に向かった。

 

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「二人ともやめてくれ!二人が戦ったって何の意味もないじゃないか!」

 

二人は俺の言葉が届いたのか、武器を構えたままこちらに視線を動かす。

ラムダさんは俺達の周りにセシルさん達がいるせいか、その視線は厳しいものだった。

 

「ハヤト…」

「これは、俺とレイドで解決せねばならん問題なのだ。貴様が口を出す筋合いのものではない!」

「違う…」

 

俺はもう一歩、足を進めて二人の顔をしっかりと見て口を開いた。

 

「二人はそこでもう間違ってるんだ。この問題は、二人だけのものじゃない、この街で暮らす人、全ての問題だ!」

「なんだと?」

 

俺は怒ってる、全部を抱え込んで自分で何もかも片を付けようとしたレイドを、

人の事は言えないが、ここまで人に心配させたことはない気がする。

 

「レイド!」

「…っ」

「どうして…、一人で全部背負おうとするんだ!?俺達の事、そんなに信用できなかったのか?この決闘で二人の間で決着はつくかもしれない、だけど、それじゃ俺達は納得ができない!みんな…、誰かを犠牲にしてまで解決を望む訳ない、それで得た平和なんて…、俺はいらない」

「ハヤト…」

 

俺の思った事をラムダさんに伝える、きっとみんなも同じ気持ちのはずだ。

クラレットも小さくうなずいてレイドを見ている。

 

「私は…」

 

後悔し始めるレイド、今度はセシルさんがラムダさんに近づいてゆく。

 

「……セシル」

「ラムダ様…」

 

目を瞑り、自分の伝えるべきことをセシルは考える、

そして目をしっかりと開き、セシルは口を開いた。

 

「貴方が犠牲を出してでも、この街を正しい姿に戻す。私もこの街で生まれ育ったわ、だからその気持ちはよくわかってるつもりよ。でも…、本当に街の人がそこまで望んでることなの?」

「セシル、望むか、望まないかではない、俺はこの街が、人々が疲れ果てていく姿を見過ごせなかっただけだ」

「ラムダ様…。そこに貴方の居場所はあるのですか?」

「人々が俺の事をどう思うと構わん!この街を救えるのならそれでいいんだ!!」

 

そう強く言い放つラムダにセシルは首を振った。

 

「この街は救えるかもしれません、でも私達は、私はきっと後悔します。彼が居なくなった貴方の事を後悔したようにきっと私たちも後悔するはずです」

「!!」

 

かつてレイドに自分の想いと願いを託して騎士団をラムダは去った、

しかしその犠牲は意味をなさず沢山の騎士は騎士団から離れていった。

 

「ラムダ様、貴方が犠牲になれば、この街は救われるはずです…、だけど、私はきっとずっと後悔続ける、ああすればよかった、こうすればよかったんじゃないかってきっと…、私はラムダさまに居なくなってほしくないんです!」

「…セシル」

「お願いです、自分を犠牲にするのはやめてください、レイドや他のアキュートの人たちもきっとそれを願ってるはずです!」

 

セシルの必死な訴えにラムダは目を閉じ、考える。

思えばずっとセシルは自分を支えてくれた、隻眼になった自分の目を治そうとし、

アキュートにまで来てくれた、それと同じように自分を慕うアキュートの仲間、

自身が犠牲になれば、彼らは…。

 

「……犠牲、か…、自分がそうなれな、他には誰も傷つかないと俺はずっと思っていたが」

 

視線をセシルに向ける、辛さを堪えながらこっちをしっかり見つめていた。

 

「フフッ…、思い上がりだったな、ここまで俺を心配してくるものがいたのだからな」

「ラムダさま…」

「レイドよ、ここで俺達が戦っても、決着はつかない」

「ラムダ先輩…」

「もっとふさわしい形で終わらせよう、俺達の決着ではなく、お前達との決着を、犠牲を生む力ではなく言葉と言う力で」

「…はい!」

 

---------------------------------

 

俺たちとアキュートの戦いは終わりを迎えることができた。

傷つけあった二人の騎士は、新たな絆で結ばれたんだ。

それはきっと、彼らが理想を導くための力になるのだろう、

だが…。

 

「クククッ―――」

 

それを嘲笑うものがいた。

 

「アーッハッハッハ!とんだ三文芝居じゃねェか!?そのまま二人で仲良く殺し合ってくれりゃあ手間が省けたのによ」

「バノッサ!?」

「つけて来たんですか!」

 

バノッサはゆっくり歩みを続ける、その背後からは二、三十人はいるだろう、

オプテュスのメンバーだ、いや、こんなに多かったか?

 

「街を変えるゥ?犠牲を作らないだァ?ふざけんじゃねェ!!どいつが街を治めても変わらねェんだよ!犠牲は出るんだよ!!」

「そんなことありません!きっとみんなで分かり合える街は作れるはずです!!」

「じゃあ、それは何時できるんだ?答えてみやがれェ!!」

「――ッ」

 

自分の唇を噛みクラレットは答えられなかった、

今の自分たちでは街そのものを変える切っ掛けがない、

方法は知ってるがそれを実行できる影響力を彼女は持っていなかった。

 

「そんな事だと思ったぜ、手前ェらに任せられるかよ…、あの街は俺様がもらう、この力のある、この俺様がなァ!!」

「バノッサ!お前の力で何ができるんだ!!」

 

そう声を上げ、俺は剣を抜き放つ!

前回のバノッサも強かったが、今はみんながいる、負けやしない!

 

――だがバノッサは俺が想像するよりも遙かに恐るべき成長を遂げていた。

 

「出来るさ…、今の俺様なら…、この悪魔の力があればなァ!!」

 

バノッサが取り出した、水晶の玉から膨大な魔力が膨れ上がる、

その魔力が形作り、悪魔の姿を形成する、そして――

 

「なっ!?皆さん散ってください!」

 

クラレットの叫び声を切っ掛けにそれぞれバラバラに散る、

そして俺達のいた場所に火の玉が降り注ぎ大爆発を起こし死の沼地を炎で包んだ。

 

「霊界の幽火!?触れてはいけません、魔力を操作出来ない人が触れればそのまま燃え尽きてしまいます!」

「バノッサ、お前!」

「はぐれ野郎!化け物女!手前ェのしみったれた力なんぞ、もう俺様に入らねェのさ。そこで焼け死にな!」

 

幽火はまるで生きてるように俺の体に纏わりつこうとする、

剣を振い、火の魔力を切り裂いて切り抜けようとするが――。

 

「切っても切っても…、駄目だ!」

「ちょっと、どうなってるのクラレット!?」

「死の沼地に沈んでる骸を利用してるんです。生者を呪う死者の念を、このままじゃ!」

「クククッ、仲間たちもすぐに送ってやるからよォ…、みィィんなまとめて死んじまいなァっ!!」

 

そのまま幽火は俺の体を包み込む、まるで体の内側から焼けるような痛みが走る!

 

「ハヤトォ!!」

「やられて…、たまるかぁ!!」

 

このままではまずいと思い、

全身から魔力を放出し、幽火を吹き飛ばす、そのまま幽火は空気に溶けていった。

 

「やるじゃねェか、まあいい、こんなんでくたばっちまえばつまらねェからな?」

「はぁ…はぁ…、行くぞ、バノッサ!」

 

サモナイト石を握り、魔力を込める!今の状況で呼び出すのはあいつだ!

 

「来てくれ、クロ!!」

 

ゲートが形成され、そこからクロが召喚される。

この状況で召喚すればいい顔はしないが、きっと助けになる。

 

「…!?」

「クロ、話はあとだ!バノッサは俺が抑える、他の連中を頼む!」

「!」

 

俺がそう指示を出すと、他のオプテュスのメンバーに突っ込んでゆく、

クロなら万一にも負けることはないだろう、

そして俺はバノッサとの戦いを集中するために意識をそっちに向けた。

 

「行くぜェ!はぐれ野郎!」

「バノッサ、やっと分かり合えたんだ、ここで終わりになんてさせないぞ!!」

 

---------------------------------

 

「さっさと、助けに行きたいんだから、どいてよね!」

 

アカネが苦無を投げつけ、関節に突き刺す、そのまま通り過ぎようとするが――。

 

「ガアァッ!」

「えっ!?」

 

まるでその痛みを感じる様子もなく、人とは思えない剛腕でアカネを吹き飛ばした。

アカネがそのまま倒れるとそれに人が群がろうとする。

 

「ゲホッ…、ちょ、ちょっとっ!?」

「アカネ!ゲレサンダー!!」

 

クラレットが無詠唱でタケシ―を呼び出し、アカネに群がるオプテュスたちを吹き飛ばす。

アカネはすぐに立ち上がり、クラレットの方に跳んできた。

 

「どうなってるの!?」

 

他の仲間たちもそれぞれオプテュスに攻撃を仕掛けているが、

まるで痛みを感じる様子もなく、そして予想以上の力で反撃をしてきている。

 

「はぁっ!!」

「ガッ…!」

 

セシルの蹴りで相手は吹き飛ぶがそれでも効果が薄かった、

しばらくすると、立ち上がり動き出す。

 

「これは一体、どうなっている?」

「こりゃ、いくら倒してもらちが明かねぇな」

「そんな、こんなことをするなんて…」

「クラレット、どうしたの?」

 

クラレットはこの現象に心当たりがあった、人とは思えない所業、

怒りを顔に出して、バノッサに吠える。

 

「バノッサさん、貴方は彼らに悪魔を憑依させたんですか!!」

「悪魔だと?」

「じゃ、じゃあもう人間じゃないってことなの!?」

 

バノッサがその問いかけに笑いながら答えた。

 

「クククッ、感謝してほしいぐれェだな?俺様はこいつらに力をやったんだ、役立たずのこいつらによ!!」

 

バノッサが水晶を掲げると光と共に魔力がオプテュスのメンバーに注ぎ込まれる、

明らかに分かるように、彼らの力が膨れ上がった。

 

「クラレット。彼らを何とかする方法はないの?」

「………」

「クラレット!」

「ありま、せん…」

 

悲痛な表情を浮かべ、クラレットがそう答える、今もなお、襲ってくるオプテュス、

既にその表情に人の名残はなく、まさしく悪魔と言える存在だった。

 

「多少の魔抵抗があれば何とかなったかもしれません、ここまで取り込まれたら、もう…」

 

既に彼らの魂は悪魔に食いつぶされ、生きた傀儡と化してしまった。

これではどうやっても彼らを助けることは出来ない。

 

「そうか…、はぁっ!!」

 

ラムダはその言葉を聞き届けるとその剣でオプテュスのメンバーの首を跳ね飛ばす、

同じようにアカネもそれに続き、相手の喉を短刀で切り裂いた。

 

「グウゥ!?」

 

鈍い悲鳴を上げてオプテュスのメンバーはその場に崩れ落ちた。

 

「若い身ですぐさま決断できるとはな」

「そういう風に仕込まれてるからねぇ、やるときはやれって――さっ!」

 

苦無を投げ飛ばし、次々とアカネはオプテュスを始末してゆく、

クラレットも召喚術で援護しようとするが…。

 

「…くっ」

「クラレット、貴女はいいのよ」

「セシルさん…」

 

セシルが優しくクラレットの肩に手を添える。

 

「辛かったら無理をしてその手を染めなくてもいいわ、こういうのは…」

 

セシルはそのまま敵に近づいて、燃える沼地に蹴り飛ばす、そのまま燃えながら相手は沈んでいった。

 

「本当に覚悟できる人に任せればいいのよ!」

「……!シンドウの名の元にクラレットが汝を望む――、聖母よ!その癒しで人々に祝福を!【聖母プラーマ】!!」

 

クラレットが聖母プラーマを呼び出して、傷ついた仲間たちを癒してゆく。

人を殺める決心の付かない彼女が出来る唯一の戦いだった。

 

---------------------------------

 

「おりャァっ!」

「このぉ!」

 

ハヤトとバノッサの戦いは熾烈を極めていた、

互いに召喚術、剣技を駆使して戦っていたが、バノッサのその圧倒的魔力による攻撃に苦戦を強いられている。

 

「来やがれ!悪魔ども!!」

 

ハヤトの周りに妖霊が姿を現す、数多くの死体が沈むこの沼地は悪魔召喚するにあたり、

一種の儀式場となっているため、容易に悪魔を召喚できるのだ。

逆にハヤトは悪魔の召喚術を所持していない、ハヤトの持つ召喚術は誓約が刻めず、

召喚獣の好意に頼ったものになってしまう、その為、人にあだなす悪魔の大半は彼に協力しないのだ。

 

「なんだコイツら!?」

 

妖霊は漆黒の炎をまき散らし、その熱でハヤトの体力と魔力を奪い取ってゆく、

ハヤトはその妖霊を切り裂き、対処し続けるが、バノッサはさらに召喚術を行使してきた。

 

「はぐれ野郎!くたばりやがれ!!」

 

バノッサの咆哮と共に現れた悪魔、漆黒のローブを纏い、

骸骨が顔を覗かせている悍ましい悪魔だった、黒の衝撃を打ち放ちハヤトに襲い掛かる!

 

「来たれ光将の剣、シャインセイバー!!」

 

放たれた極光の剣影が悪魔に襲い掛かり、吹き飛ばす。

それに慢心せず、足に魔力を集中してハヤトは跳びバノッサに接近した。

 

「フレイムナイト!!」

 

跳びながら機界の召喚獣を憑依させ、その力を跳ね上がらせる、

熱の様に熱い魔力がハヤトの全身に行き渡り勢いそのままにバノッサに切りかかった。

 

「なめてんじゃねェ!」

「うぉぉぉっ!!」

 

近距離なら召喚術を行使するのもままならない、

スタウトとの戦いでハヤトが学んだことだった。

 

今、バノッサがなんで強力な召喚術を容易に使えるのかは気にしなくていい!

このまま召喚術を使わせたら絶対に負ける、攻めろ!攻めるんだ!!

 

心の中で自分に激励をかけ、剣に魔力を込めてバノッサに攻撃を仕掛け続ける。

だが、ハヤトがいくら攻撃を仕掛けても易々とバノッサはその攻撃を捌いていた。

 

「はぁ…はぁ…」

「随分と息苦しそうじゃねェかよ。はぐれ野郎、俺様がどうして魔力切れを起こさねぇのか解らねェって面だな」

「くそっ!」

「おりゃっ!!」

 

両手に魔力を込めたバノッサがハヤトを吹き飛ばす、

そしてバノッサが水晶を掲げて召喚術を発動し始めた。

 

「はぐれ野郎!覚えとけ、俺様の手に入れた圧倒的力をな!!悪魔ども、力を寄越せェェェ!!!」

 

咆哮と共に水晶が光り輝き、周辺に漂う死者の魔力さえバノッサに纏わりつく、

明らかに魔力が膨れ上がり、その膨大な力を纏いつつハヤトに近づいてくる。

 

「憑依…召喚…!」

「そうだ!今まで手前ェが頼ってきたような、貧弱な召喚獣とは訳が違うぜ!悪魔を取り込んだ俺の力を思い知りやがれェ!!」

 

振り下ろされた二刀の剣を正面からハヤトは受け止める!

膨大な魔力を纏った剣が徐々にハヤトの剣にヒビを走らせる!

 

剣が――!!

 

パキィン、と言う破砕音が鳴り響きハヤトはバノッサに切り裂かれた、

深々とハヤトの腹部が切り裂かれハヤトはその場に倒れる。

 

「ぐ、ぐぅぅ…」

「ヒャハハハ!良い様だな、はぐれ野郎。安心して死ぬことだな」

「バノッサ、お前のその力は誰が寄越したんだ…」

「あァん?そうだな、手前ェは知ってるんじゃねぇのか、アイツは手前ェに会ったって言ってたぜ」

 

俺が会った…、もしかしてアイツが、ソルがバノッサに会ってるっていうのか!?

だとしたらバノッサか召喚術を使える理由も理解できる。

 

「まあ、手前ェはここで終わりだがよ!!」

「くそっ!」

 

バノッサの凶刃が俺に振り下ろさる、

しかし、その剣を咄嗟に入り込んだ、レイドが受け止めそれをいなした。

 

「ハヤト、大丈夫ですか!」

「バノッサ、これ以上好き勝手はさせんぞ!」

「レイドが、クククッ、もう手前ェら騎士どもすら俺の力には敵わねぇんだよ!さあ、来やがれェ!!」

 

再び膨大な魔力を滾らせて、バノッサは召喚術を発動させる、

死の沼地の泥が盛り上がってゆく、しかし朽ち果てた死体や死んだばかりのオプテュスのメンバーで形作られていた。

腐臭と汚泥で作られた悪魔はその口から猛毒の吐息を吐きハヤトたちを包もうとする。

 

「メルヒ・ダリオ!?いけない!」

 

悪魔の吐息に対抗するべく、瞬時にペコをクラレットは召喚し、

ペコを起点に天使の結界を発動させる!

かなりの息苦しさは感じられたがハヤトたちはそれを凌いでいる。

そして結界を維持したまま、クラレットがさらなる召喚術を行使し始めた。

 

「シンドウの名の元に、クラレットが汝の力を望む――、魔精、タクゥシーミザリ!!」

『ゲレゲレ~』

「打ち砕け!ゲレゲレサンダー!!」

 

放たれた電撃の柱は汚泥の悪魔を打ち貫き、霊界へと還らせる、

しかし、疲労困憊のクラレットとは違い、バノッサの様子は平然としたものだった。

 

「やるじゃねェか、化け物女。そうだな…、良いことを思いついたぜ!手前ェのその大事にしてる奴に手前ェらを殺させることにするか」

「え――、そ、そんな!?」

「クラレット、どうしたんだ!」

「ペンダントが…、お母様のペンダントが」

 

突然クラレットのペンダントが光り始める、サプレスの魔力を強制的に送り込まれ、水晶の力で制御しようとしてるのだ。

必死にその魔力を抑えようと奮闘するクラレットだったが、度重なる召喚術の行使に体力を奪われ、それもままならない。

 

「やめろ、バノッサ!!」

「ヒャーハハハハ!自分の身内に殺されちまいな、俺様の様にな!!」

 

そう叫び、バノッサがペンダントの召喚獣を召喚させようとする、しかし。

 

「グ、ガァ!?」

「ペンダントが…」

 

ペンダントの魔力が落ち着き、逆にバノッサが苦しみ始めた、

周囲に漂っていたサプレスの魔力がまるでバノッサに襲い掛かるように纏わりついている。

 

「なにが、起こっているんだ?」

「制御できてない…、サプレスの悪魔たちは人に仇名す存在なんです。恐らく度重なる召喚で限界が来たんです!」

「今なら…、力を貸してくれ…!」

「ハヤト、駄目です、そんな体で!!」

 

今ここでバノッサを逃がしたらもっと沢山の人が犠牲になる。

ここでバノッサを倒す、たとえそれが…。

 

「バノッサを殺すことになっても…、倒す!来てくれ、鬼神将ガイエン!!」

 

ハヤトの呼び声に応え、現れた鬼神の将、明確な殺意を持ちその大太刀がバノッサに振り下ろされた!

しかし、バノッサに振り下ろされる瞬間、突如バノッサの影から影その物が伸びその刀を防ぐ。

 

「な、なにが起こってるんだ!?」

「影の悪魔…?」

「なに、こいつは…うお!?」

 

バノッサも状況を理解できていなかったようだ。

だが、そんな状況にもかかわらず、影はバノッサの体を飲み込み始める。

 

「影を使って転移術、そんな事ができるのは…」

「畜生!俺様はまだ戦えるぞ、放しやがれ!」

「誰かと話してるのか?」

 

バノッサが影の中の何かと話をしている、やがて叫んでいたバノッサは落ち着き始め、満身創痍の俺達に視線を動かした。

 

「しかし手前ェらも往生際の悪い奴らだな、だがこの力を寄越した奴の命令だ。今は引いといてやる、だがな!すぐに思い知らせてやる、ここで死んだ方が、ずっとマシだったと思うような目になァ!!」

「バノッサ!!」

 

俺の叫びも空しく、バノッサが影の中へと消えていった、

そしてその場に残ったのは悪魔にとりつかれたオプテュスのメンバーと俺達だけだった。

 

「…くっ!」

「ハヤト、貴方は休んでください」

「だけど…」

「ここは、我々に任せるんだ、この程度の相手に苦戦するような我らではない」

 

武器を構えるラムダさん、それに肩を並べるレイド、

セシルさんやスタウトさん、ペルゴさんにアカネにクロ、みんな一緒に戦ってくれている。

 

「ハヤトは悪魔の瘴気でかなり疲労してます、今は…」

「そう…、だな。じゃああとは、任せる…よ」

 

クラレットの腕の中で安心したのか意識が沈んでゆく…、

最後に頭に過ぎったのはバノッサの言葉。

 

――だがな!すぐに思い知らせてやる、ここで死んだ方が、ずっとマシだったと思うような目になァ!!

 

また、バノッサは必ず俺達を殺しにやってくる、みんなを…、クラレットを守るんだ。俺が…必ず…。

 

---------------------------------

 

「ん…?」

 

誰かに運ばれている感覚がしてゆっくりと目を開ける、

硬いがとても大きな背中、ちょっと汗臭い気がするし、ヌメリが…!?

 

「うわっ!?」

「おお、気が付いたか」

「お…、はぁ、なんだエドスか」

「ハヤト、お前なぁ…」

 

周りを確かめるとすでに死の沼地ではないようだった、

俺たちフラットとアキュートのみんなも無事の様だった。

フラットのみんなが俺が目を覚ましたことに気づいてこちらに近づいてくる。

 

「気が付いたか、遅くなって悪かったな」

「大怪我だったのよ。しばらく動かないで休んでおきなさい」

「ガゼル、セシルさん…」

 

既にみんなとは和解してるようだ、バノッサの介入が合ったせいか、わからないが、

それを抜いてもみんながそれぞれ認め合ってる姿に感傷深く感じる。

 

「しかしよ、助けられちまったな、坊主」

「それはお互いさまでしょ?オジサン」

「オジサンねぇ、まだ29歳なんだけどよ」

「それじゃあ、もうオジサンよオジサン」

 

アカネがスタウトをからかって、笑っている。

変な熱が入り始めてるのか、アカネの奴…、あ。

 

「アカネ?」

「ひっ!クラレット…、あ、あはははは冗談よ冗談、ね?」

「それならいいんですけど、あんまり人をからかうのは良くないですよ」

「はい…」

 

クラレットがアカネを咎める、そりゃあ、シオンさんに告げ口するっていう手段あるからなぁ。

 

「それで…、決着はつけるんですか?」

 

クラレットのその一言で場の空気が鎮まる、

確かにここで蔑ろにすればきっと後々の問題になる。

ラムダさんは目を瞑り、静かに言葉を出した。

 

「その必要はなくなった」

「はあっ?なんだそりゃ!?」

「えと…、どういうことなの?」

 

ユエルやガゼルが今の言葉の意味をよく理解して無いみたいだな、

他のみんなは何とかく察してくれたようだ。

 

「正しい答えは、一つとは限らない事でしょうかね?」

「そうですか…、そうですね」

「なんだよっ!おい、クラレット。わかるように説明しろよなっ!」

「ふふ、後でしてあげますよ。ユエル、ガゼルさん」

「まあ、もう戦う必要はないってことだな」

 

不貞腐れるガゼル、ユエルはやっぱりよくわかってないような顔をしている。

ラムダさんはアキュートのみんなを視界に入れた。

 

「今まで世話をかけたな、ぺルゴ、スタウト、そしてセシルよ」

 

ラムダの言葉にそれぞれ感じるものは違うが、

これからどうするべきか、それは一つの考えにまとまっていた。

 

「これからもですよ、ラムダ様…」

「俺は、彼らともう一度考えてみようと思う、犠牲を出さず、この街を救う方法を、…構わないか?」

「旦那のお好きにどーぞ」

「言わずもがなです」

「はいっ」

 

アキュートのみんながそれぞれ新たな誓いを立て、ラムダさんの言葉に集った。

これでもう安心だな…、お節介から始まった俺達の戦いはやっと終わったのだった。

 

「ってわけだから、坊主。よろしく頼むぜぇ?」

「はは、こっちもよろしくな」

 

軽口を叩きながら俺達はサイジェントへと足を進める、

その背中を見ながら不貞腐れてる男が一人いた。

 

「で…、結局何なんだよ…」

 

ガゼルが悩みを解消できたのかは…、誰も知らなかった。

 




今回は戦闘を結構意識して書きました、
ほぼ負け戦闘ですね。(勝てるわけねぇんだよ!
ハヤトはもう天井にぶつかってるんでこれ以上は強くできないので、
クラレットにこれから期待ですね。

書いてて思ったけど、クロの出番、そんなにいらないんじゃ…。

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