サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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チョイと色々あってまた遅れたわ…、
本編はこの倍の量書かなきゃいけんのになにやってるんだろうなぁ。

今回はネタバレってかU:Xのネタが少し、バレになるけど発売から数か月たってますから。
なんか仕事中、旧王国のお話し考えたりしてたわ(旧王国って舞台にし難いらしいね


サブイベント5 彼女の中に在るもの、無色の派閥

「「つ、つかれた……」」

 

お互い、床に座り肩をくっ付けているハヤトとクラレット、

別にイチャイチャしてるわけではなく本当に疲れてた。

理由は、先日のメスクルの眠りの件である。

 

「以外に感染者多かったな…」

「でも、一回で消費する魔力が多過ぎますよ。まさか一回であそこまで魔力を使うなんて…」

 

南スラムの感染者、それを一か所に集めて治療を施したのだ。

フラットは別に支配してるわけではないが色々と融通が利く、

薬の配布が間に合わなくて困ってるところを召喚術で一気に治療しようという作戦だ。

だが問題だったのは妖精メリオールだった、なんたって消費魔力がでかすぎる、

メスクルの眠りに限定にしても上級召喚獣クラスの魔力を消費するのだ。

ハヤトが言うにはガイエンの真・鬼神斬の方が楽というほどだ、あっちは協力ありだったが。

 

「お疲れさま♪はいコレ」

 

渡されたのはあまーい果実と滑らかクリームの多重奏! まさにごほうび!、

っと売り文句で知られているデザート、ごほうびパフェ。

 

「「うっぷ…」」

 

実はこのパフェ、召喚術を使う際のMPを回復できる効果があるのだ、

たまたま、クラレットが食べてた時に気づいたのが始まりだった。

最初はフルーツにあると思ったそうだが、特定の数のフルーツを一定量のクリームと一緒に食べることで、

MPが回復するという効果らしい。

 

「食べなきゃダメなんですか…?」

「魔力が回復しないといざという時危ないって自分で言ってたじゃない、ほらハヤト、貴方が食べさせてあげなさいよ」

「それより二人で食べ合いっこしてよ、お兄ちゃんたち♪」

 

ぶんぶんと首を振って食べるのを拒否する二人、

ハヤトは別に甘いものは嫌いじゃないし、クラレットはむしろ好きな方だ。

しかし今回、この魔力回復の事を知っていたクラレットが南スラムのみんなから集めた資金で、

沢山の量を作ったのだ、薬代より安かったおかげか数は用意できたが、その数を二人で消費するのはきつかった。

ハヤトは顔が真っ青になる始末、クラレットは食がそれほど太くないせいか吐きそうになってた。

 

「いい加減にしなさい!無色って連中に狙われてるんでしょ!」

「で…、でも…」

「…ラミお願い♪」

「…ごめんね、スライムポット」

 

緑のサモナイト石を取り出し、ラミが召喚術を行使する。

現れたスライムは俺とクラレットの体を雁字搦めに拘束する。

 

「きゃぁっ!?」

「うわっ!!」

 

「さあ、フィズ!クラレットの口を開けなさい!」

「は~い♪」

「ちょっとフィズ…、くふふ…、あはははははは!!ちょっと、やめて、あはははは!!」

 

フィズにくすぐられ笑うクラレット、

本来この程度のスライムポットなら魔力を全身から放出すれば軽く消し飛ばせるが、

今、俺たちの魔力はほとんどないせいもありそれもできない状況だ。

よってラミやフィズになすがままのクラレットだ…、俺もだけど。

 

「はい、あ~ん」

「あははは!まって、まってぇ~~!!!」

 

そんな笑い声をさせながら口の中に放り込まれる甘味、

散々食べたせいもありもう、顔を青くしながら飲み込んでいくクラレット…。

そんな姿を見ながら次は俺にもその魔の手が迫って来た……。

 

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前回、クラレットが死の眠りに倒れ、それから目覚めたクラレットは全てを話した。

自身がかつて無色の派閥と呼ばれる組織に居たことを、

大悪魔の依代になるべく生まれ育ったことを話してくれた。

語りながら顔を青くして苦しさと恐怖が混じり合った顔をしながら必死に語るクラレット。

その場にいるフラットの全員はそれを真剣に受け止め聞いていた。

最後にクラレットはこう言ってくれた。

 

「こんな…こんな私ですけど、ここにいたいんです。ここに、ここに居てもいいですか?」

 

自分の抱えてるもののせいでフラットのみんなに危険が近づく、

スラムの連中や騎士団に召喚師とは比べ物にならないような連中だ。

それでもクラレットはここにいてもいいと聞いてきてくれた。

 

「いいよ、クラレット。ここに居なさい、だって私たちは家族じゃない」

 

そのリプレの言葉でクラレットは涙腺は決壊し大泣きしながらリプレに抱き着いていた。

それを見て、俺はほんとにうれしかった、最初に出会ったのがガゼル達でよかった。

確かに出会いは少しアレだったけど、それでもこんなに素晴らしい家族のみんなと出会えたんだから…。

 

無色の派閥の事はレイドさんが少知っていた、それに合わせて詳しい部分はクラレットが補足する。

無色はこの世界の裏に関わる組織で、金のように表で動かないが裏で非道なことをするテロリストだそうだ。

内部組織もかなり多く、それぞれが独自の正義を勝手に振りかざして自分勝手に動いてるそうだ。

だが、クラレットの居た組織はその中でも最も力があり無色の派閥でも影響力の高い男がいる。

 

破戒召喚師、オルドレイク・セルボルト。

 

クラレットの語ってくれたその男の名前を聞いて、表情に出さないようにして俺は驚愕していた。

セルボルト、つまりあのソルという男の同姓という事は、親子という事なのだろう。

クラレットとの関係はいまだわからないが、それでも組織の中でもかなりの力があるという事は確実だろう。

そして、クラレットはオルドレイクの計画している恐るべき野望も話してくれた。

 

魔王召喚、クラレットを生贄にしてサプレスの大悪魔をこの世界に召喚する計画。

サプレスの魔王の力を使い、リィンバウムの全てを破壊しつくし召喚術によって自分の思い通りの世界を作る計画。

その計画の要は恐らく自分だと彼女は言う、ならなぜ襲われないのかとガゼルが聞きクラレットはそれに答えた。

 

「たぶん…、私がここに来たことを知らないか、もしくは一度失敗してるせいでまだ、手間取ってるんじゃないでしょうか」

 

前者は間違いなくない、ソル自身がクラレットの事を話してたから、

後者も…たぶん違う、再準備に手間取るなら一々あんなところで俺を待ち伏せなんかしない。

クロもそれを悟ってるのか腕を組み、目を瞑っている。

 

その後、色々と今後の事を話したが、やはり一番は元の世界に帰ることだった。

名も無き世界はリィンバウムの住人ではほとんど手が出せない。

人口だって60億人ぐらいいるんだ、ピンポイントでクラレットを狙うのはほぼ無理だ。

それにクラレットは言ってくれた、向こうに帰ったら魔力の全てを消すと。

自分の魔力を生成する部分を壊して永久に魔力を使えなくするそうだ。

そうすれば、クラレットを感知することはほぼ不可能になる、クラレット自身、誓約など刻んでいないから安心だ。

無論、激痛や後遺症が出るかもしれないそうだが、それでも呼び出されるよりましと判断した。

 

「それに、動けなくなっても。ハヤトが面倒みてくれますよね?」

「あ…うん」

 

そんなこと言われたら…、断れないだろ…、まあ断る気なんて一切合切ないんだけどな。

 

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その後、俺たちは元の世界に帰る手掛かりを調べるために森に向かっていた。

 

「…気持ち悪い」

「大丈夫…、うっぷ、か、クラレット」

「お前ら大丈夫かよ?」

 

ガゼルがそう言ってくれるが、その手には飲み物らしき物を持たされている。

俺が辿り着いたあの場所、とても綺麗な場所といったら「じゃあピクニックでもしましょうか♪」

そうリプレがいいってくれた、あの妖精、メリオールに対するお礼も兼ねてるそうだ。

メンバーは、ガゼルとリプレ、子供たちに俺達、エルカとモナティ、森に居るスウォンたち、あとガウムだ。

 

「リプレさんのお弁当…、楽しみですの♪」

「きゅーっ!」

「あんたらねぇ、私たちの目的はメイトルパに帰るってことわかってるの?これだからレビットは…」

「…」

 

本来の目的を忘れているモナティで、エルカは早く行きたいのか妙に急かしてくる。

クロはそんな3匹を見ながらのんびりしていた。

 

「ところで、クラレット。メイトルパの妖精ってみんな彼女みたいな力を持ってるの?」

 

調子を整えたクラレットがリプレの問いに答え始めた。

 

「妖精といっても色々ありますけど、たぶん古き妖精だと思うんですよ」

「古き妖精?」

「それって、どんな妖精なの?」

「わかりません」

「え?」

 

かなり物知りなクラレットでも知らない召喚獣、その事実にリプレは驚いていた。

俺自身もなんか普通の召喚獣と違う気がするなぁとは思ってたけど…。

 

「古妖精は記録はほとんど残ってないんですよ。いたかもどうかすらわからないんです」

「そうなのか、エルカ?」

「いるってのは聞いたことあるわ、でも実際にあうのは殆ど不可能だったわね。住んでる世界が違うから」

「そうなんですの?」

「あんたねぇ…、仮にもメイトルパのレビットでしょ、そのぐらいわかってなさいよ!」

「にゅうっ!?」

 

エルカがモナティの頭を掴み揺する、そんな光景を見ていると俺たちは森に着いた。

 

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森に着いた俺たちはそのまま森の中に、ユエルやスウォンとも合流していた。

 

「そっか、やっぱり残っていたのか」

「ええ、森の奥地を調べたんですけど少しだけ数が残ってたようです。殆どは倒したみたいなんですけど」

「もう安心だよ、ハヤト」

 

俺たちの話しているのはトードスの事だ、やはり森の奥地に少しばかり残っていたそうだ。

俺が会ったのはその中でもかなり大きめの群れだったようだ。

ガレフやユエル達が森中を探しまくってほとんど討伐してくれたようだ。

 

「しかし、この森に長く住んでますけど、そんな妖精が住んでいるなんて…」

「普段は身を隠してたって言ってた気がするし、出入り口も分かりずらかったからなぁ」

「…おにいちゃんは、どうやってあったの?」

「え、えっと…」

 

ラミに突然聞かれて答えに困った、

召喚術で地面を抉って地割れに呑まれたなんて言ったら心配されるし…。

 

「えっと…、困ってたらさ、光に包まれて呼ばれたんだよ、な!クロ」

「……」

 

クロは何も言わずにジト目で俺を見ている、こいつ…話ぐらい合わせろよ!

 

「ホント…?」

「えと…、ごめんなさい」

「ウソついちゃだめだよ!」

「クロさんから聞いてますの、マスターは無茶し過ぎだって、気を付けてほしいですの!」

 

クロの言葉わかる人には全員伝わってるよなぁ…、はぁ

 

「ハヤト、ここですか?」

 

クラレットの声に気付きそっちの方を見ると、地下水が流れている切れ目が見えた。

確か、ここから出たんだよなぁ…。

 

「えっと…、ここからだったけど…、ん?」

 

不意に魔力を感じてサモナイト石を入れてるポーチからその石を取り出す、

メリオールと誓約を交わした石が光っており何となく地下水の湧き出る水に漬けると水で出来たゲートが作られた。

 

「こりゃすげぇな」

「水で出来たゲート…、それに召喚術と違って維持できるなんて…」

「この奥から懐かしい匂いがしますの、メイトルパの匂いですの!」

「確かにこれなら見つかりませんね」

 

各々が感想を言いながら俺を先頭に水の中に入ってゆく、

そして先日見た光景が俺たちの目の前に広がった。

 

『みなさん、御出でくださいました♪』

 

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メリオールの領域、【森の聖域】では全員がのんびりしていた、

空気は特に住んでおり、地下水は直接飲めるほど澄んでいる。

洞窟なのに光は差し込んでおり、草花も生えているためラミやフィズは喜んでいるようだ。

リプレの弁当もメリオールは気に入ってくれたようだ。

 

『はぁーこんな料理なんて食べたの何世代ぶりでしょうか…』

「そんなに食べてないの!?」

『私たち妖精は花が本体なのですよ。日の光と澄んだ水があれば十分なのですが、やはり食事はいい娯楽ですねぇ』

「だったら、うちに来ればいいじゃない、御馳走するわよ?」

『まあ、お言葉は嬉しいのですが…、私はここから離れられないんです、召喚されれば別ですけど…』

「だったらハヤトに召喚してもらえばいいじゃない、ねえ、ハヤト」

「一回召喚するだけどどれだけ疲労すると思ってるんだよ、リプレ…」

『ふふ』

 

そんな感じでメリオールは俺達との会話を楽しんでいた。

別に人嫌いではなく、単に信用できる機会が中々ないだけだったそうだ。

メリオールが守っている物の関係で人との接触を断っていたがその守るものがなくなった今、それもないと言っている。

 

『しかし…、サプレスのエルゴが失われたのが魔王を召喚する為だったなんて…』

「サプレスのエルゴってさ、どんな力なんだ?」

『界の意思…、エルゴより与えられた自身の欠片です、其れその物が意思をもっており、かつての誓約者と呼ばれる人物の中にあった力なんです』

「誓約者ぁ…」

 

確か…、ラミの絵本にも書いてあった話だけど、

ホントの話だったのか…。

 

『詳しいことまでは法の天使長さまから聞いてはおりませんけど…』

 

チラリとメリオールがクラレットの方を見る、

クラレットはこの場所に安置されていた碑石…、妖精の扉を調べている。

その横にはエルカやモナティも同じように扉を見てるようだ。

モナティはメイトルパの魔力を~とか言ってるけど。

 

『まさか…、あの方にサプレスのエルゴが入ってるなんて…』

「それ内緒で頼むな」

『わかってますよ、本人まで自覚したら色々感づかれるかもしれませんし…』

 

ここに来て、また問題が発生していた。

クラレットの中にサプレスのエルゴというのが入り込んでるらしい、

どうやらメリオールの話じゃそれは間違いないそうだ。

数世代に渡ってずっと守ってきた本人が言うのだから信じるしかないだろう…。

 

「じゃあ、クラレットが召喚術をうまく使えないのって…」

『サプレスのエルゴのせいで自身の魔力とうまく噛みあってないのが原因でしょう。ですが暴走の危険性があるにも拘らずよく制御なさってる方ですよ』

「暴走かぁ…」

 

クラレットの魔力の暴走、普通なら感情で暴走したりするそうだが、

事実上一度しか暴走していない、しかもその時は儀式後のせいで不完全に召喚が行われたせいだ。

そこを見るとホントにうまく制御してるようだ。

 

『しかし…、このままサプレスのエルゴを押さえつけたままでは…』

「いけないのか?」

『いえ、悪くはないんですけど…、少し問題があって…』

 

メリオールは何か言いづらそうにしている、結構深い事を話してくれたけど、

どうやらもっと重要な話があるようだ。

 

「まあ、何か重要な事なら言わなくてもいいけどさ、その…、俺たちが帰るときにでも返せればいいんだろ?」

『ええ、それなら問題はありませんけど…、でも…』

「でも…?」

『どうやって、抜き出せばいいんでしょうか…?』

「いや、そこはホラ、妖精パワーとかでさ、何とかならないのか!?」

『そんな便利な物じゃないですよ、具体的に言うと詰まってるんですよ、それはもう、ジャストフィットですよ!』

「クラレット…、詰まってるのかぁ…うーん」

 

理由はよくわからないけど、取り出せないようだ、、

まあ、出来れば今すぐにでも取り出すよな…。

 

「私が詰まってるって何の話ですか?」

『「うひゃっ!?」』

 

変な声を二人して出してしまい、それのせいで少しムッとしてるクラレットの姿があった。

 

「あ、ああ、クラレット。いや、詰まってるってなんかさ、扉を調べるのが上手くいってないみたいで詰まってるなぁって…」

 

俺の言葉に合わせてメリオールもコクコク頷いている、

クラレットも何となく理解したのかこれ以上踏み込むのをやめたようだ。

 

「ええ、あの扉なんですけど…、かなり特殊な仕様みたいなんです」

「特殊な仕様?」

「……」

「エルカさん…元気出してくださいですの」

 

一緒についてきたモナティの様子だとどうやら帰れないようだ。

だけど特殊な仕様ってどういう事なんだ?

 

「あの扉、魔力によってその世界とこのリィンバウムを繋ぐゲートを展開できるんです」

「魔力によって…?」

「はい、この世界の周りにある四界、それに合わせて魔力も四つに分かれているんです、ですからメイトルパのゲートを開くためにはかなりの量の魔力が必要かと…」

「かなりの量って?」

「…ざっと、メリオールを召喚するときの10回分ぐらいでしょうか」

「だったら!」

「問題はあの門が少し壊れているんですよ。たぶん劣化ですよね?」

『はい、時が経ち過ぎて魔力を貯めておくことができなくなってしまったんです、起動させるには一瞬でその数を用意しないと…』

 

そっか…、だから俺が初めて来たとき魔力が常に流れ出てたのか。

 

「ですから、ほとんど不可能なんです…、まああれが使えても私たちの世界には帰れなかったようですけど」

「え、なんでだ?」

「ハヤト、私たちの世界に魔力なんて存在してましたか?いえ、してるかもしれませんけど…」

「ああ、そっか…、専用の魔力なんてあるかどうかわからないもんな…」

 

結局のところ、ホントに詰まってしまったようだ、

ちなみに妖精の扉は結局壊さないって方向で落ち着いた。

あの扉、メイトルパの妖精卿というところに通じかけているようで、

壊すとあの聖域に悪影響を与えてしまうようだ、そのせい壊せないと言っていた。

それを聞いたメリオールが驚いてたようだけど、意外にうっかりなんだな…。

 

「じゃあ、私たちはそろそろ帰るわね」

『ええ、楽しい。時間をありがとうございます』

「気にすんなよ、一応、命の恩人なんだからよ」

「一人じゃこれないけど、また来るわね」

「姉ちゃん、またな!」

「…ばいばい」

 

子供たちとガゼルにリプレが挨拶をしてゆく、

モナティ達もメリオールに挨拶をするが、エルカはやっぱり元気がなかった。

 

「……」

『ごめんなさい、お力に為れなくて…』

「別にいいわよ、それに…、ここはメイトルパと同じ空気だから、落ち着いたわ」

『そうですか、ではまたいらしてくださいね』

「はいですのー!」

「きゅーっ!」

 

メリオールは今度はクラレットの方を向いて口を開いた。

 

『クラレット、たぶんこれから辛いことが続くと思いますけど、頑張ってください。私も力が及ぶ限りお手伝いいたします』

「はい、メリオール、これからよろしくお願いしますね」

『ええ、ハヤトもお元気で』

「ああ、ありがとな、メリオール」

 

そうして、俺たちは森の聖域を後にした、

帰りになると流石に遊び疲れたのか子供たちは眠ってしまい、

おんぶしながら帰る事に、だけど今日は問題もほとんどなくて充実してたなぁと思った。

今日以降の問題は増えてしまったけど…。

 

「ところで…」

「ん?」

「メリオールと何を話していたんですか?」

「あ、ああ、メリオールの守っていたものが、召喚儀式で失われたんだって、そのこと」

「…そうですか」

 

少し暗そうにするクラレット、俺はそんなクラレットの手を握った。

 

「大丈夫だよ」

「ハヤト?」

「クラレットが苦しむなら俺がそれから守ってやるからさ」

「…ハヤト、ありがとう」

 

優しく笑顔になるクラレット…、

クラレットの中にある力とか関係ないな、

俺はクラレットを守りたいと強く思った、

まだまだサイジェントは問題が山積みだけど、みんなと一緒なら乗り越えられる、そんな風に考えていた。

 

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時は少し遡る、ハヤトとクラレットが森に向かっている頃、とある森。

その森は異常だった、人に害をなす魔力を含んだ霧が森を包み込んでいる、

空気は淀み、草木は枯れ、近づいた生き物は呑まれる様に消えてゆく。

サイジェントの人は決して近づかないこの森を【迷霧の森】と呼んでいた。

 

「………」

 

一人の青年が森の中を歩いている、

その森は青年にとって庭と呼んでもいい場所だった、

沢山の兄弟たちがその森で育ち鍛え、そして芽が出ぬまま森に呑まれ消えていった。

今では無事な人数は片手で数えられるほど少ない…。

 

「…ふう」

 

青年が溜息を吐く、視線を前にやるとそこには一つの建造物があった、

古の時代に作られたほど古めかしい建物、

周辺にはそれを守るサプレスの召喚獣…、悪魔たちが守っている、

それを通り過ぎて青年が建物に入っていった…。

 

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「ぐ…うおおおぉぉーーっ!!!」

 

召喚術の訓練場、そこでは一人の男が石を掲げ召喚術を発動させていた。

現れた悪魔はその力を持って目標の傀儡を打ち砕く、

しかし、男の精神が切れたのか悪魔が送還されてすぐにその場に倒れてしまった。

 

「バノッサさん!!」

 

カノンがその男、バノッサに近づき介抱する、

それを拒否しようとするが、碌に体が動かないためバノッサはなすがままだった。

 

「畜生…、まだ制御が安定しねェ、でけェのを召喚するたび反動がこっちに来やがるな」

「仕方ないですよ、ソルさんも自分のペースでやれって言ってたじゃないですか、そんなに無理しなくても」

「うるせェ!アイツはな、そういいながら手を抜いたら罵倒してくるに決まってんだよ!そんな奴だ!!」

「そんな風に意固地になって、兄弟なんですから」

「あんな奴、兄弟だなんて思っちゃいねェよ…」

「奇遇だな、俺もお前を兄弟とは思ってはいないがな、まあ血の繋がった他人だ」

「ッ!」

 

バノッサが舌打ちしながら体を起こし声のした方に体を向ける、

そこに居たのはソルだった、霧の中を歩いたせいか、水の滴ったローブを身に着けていた。

カノンはソルに近寄り、そのローブを受け取った。

 

「ご苦労様です、どうでしたか?」

「どういうわけか、フラットでも発症した死の眠りが治っているな、何かの召喚術を使ったようだが、何の召喚術かはわからなかった」

「使えねェな、何のためにいったんだ?」

「少なくとも召喚術を碌に制御できないお前とは違い、死の眠りが治ったという事は調べたけどな」

「んだと!?」

「ちょっと二人とも喧嘩しないでくださいよ」

 

この二人、根本的に相性が悪いのか喧嘩ばかりしている、

だけどお互い利益がある為か、敵対とかはしないためそこにはカノンは安心していた。

 

「立てるようになったら行くぞ」

「あァ?どこへだよ?」

「報告だ、その時、お前も紹介しておく必要があるからな」

「紹介だと…?」

「誰に何ですか?」

「お前が会いたがっていた父上だ」

 

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沢山の本が所狭しと並べられている空間、そこに一人の男が居た、

名をオルドレイク・セルボルト。

無色の派閥の大幹部、セルボルト家の当主である。

 

「ん?」

 

コンコンとノックする音が音のない部屋に響く、オルドレイクは目を通していた資料を置いた。

 

「入れ」

 

その言葉が放たれると扉はゆっくりと開く、

そこから現れたのはソルとバノッサ、そしてカノンであった。

 

「失礼します、父上」

「ソルか、ここに顔を出せたという事はある程度の成果は上げたようだな」

「はい、既に贄の事は心配ありません」

「…心配ないだと?ソルよ、わかっているのか、サプレスのエルゴは失われ、実験に使うための贄も無い。それが心配ないと申すのか?」

 

オルドレイクから静かな殺気が流れ出す、立て続けの失敗のせいで既に後戻りできない状況、戯言を許すことはできない状況だった。

しかしソルはそんな事を気にせず次の言葉を続けた。

 

「父上、何も失われてはいません。むしろ確実性が増したと言えます」

「どういうことだ?ソルよ」

「贄が召喚されました、そしてその体内にサプレスのエルゴも内包しているのも確認済みです」

「贄…だと…、ククククッ、フハハハハァ!そうか、帰ってきていたのか。しかもサプレスのエルゴと融合を果たしているとは、次の召喚は失敗はあり得ぬという事だな」

「そうでもありません…、どうやら向こうで余計な自我を獲得したようで」

「なに?」

 

ソルは今までの経緯を話し始めた、クラレットか召喚されたこと、そしてクラレットが召喚したハヤトの事。

森に放っていた魔獣が倒されたことや、一度暴走したサプレスのエルゴを抑えられたことまで。

 

「ふむ…」

「うかつに同行者を始末すれば暴走は必須です。かと言って無理に実験を強行するればまた失敗につながる危険性も危惧できるでしょう」

「手は勿論考えておるのだろうな?」

「はい、サプレスのエルゴといえそれの引き金は贄の魔力です。今は無理にそれを抑えているせいで暴走の危険性がありますが、まずは同調させ、その後、捕らえ再適用させて召喚を実行すれば問題はありません」

「多少の手間暇は掛かりますが、それと同じくらいに此方でも準備すれば問題はないかと」

「では、贄の準備の方を任せるぞ、ソルよ」

「はい、父上」

「そういえば…」

 

オルドレイクは視線をソルから外し後ろにいる、バノッサとカノンに目をやった。

カノンはオルドレイクの雰囲気に完全に飲まれており体が少し震えていた。

バノッサは少し前にソルに言われたことを思い出し必死に殺気を抑え込んでいる。

 

「この者たちは何者だ?我ら派閥の者ではないようだが」

「現地協力者…、しかし、この者は私たちと繋がりがあるものです」

「ほう…?」

 

バノッサを見定めるように視線を動かすオルドレイク、そしてカノンに目をやり、何かに気付く。

 

「響界種か、シルターンの魔力を持つところを見ると鬼神の血を引いておるな」

「はい、この男、バノッサの僕です。並みの召喚獣よりかなりの力を持つ者の血を引いています」

「そうか、随分と使える掘り出し物を拾ってきたではないか、ソルよ」

 

その言葉にバノッサが舌を噛み、必死にこらえる。

カノンを道具扱いするその態度が心底気に入らなかった。

 

「そして、この男がバノッサ。魅魔の宝玉の適合者です」

「魅魔の宝玉だと?いつ手に入れたのだ」

「先日、ゼラムの青の派閥本部に攻撃を仕掛けました、平和ボケしてる連中など大したことはありません」

「そうか…、まあ奴らがこんな失態を大々的に公表するのはあり得んからな、問題は無かろう、しかし魅魔の宝玉を見ず知らぬ男に渡すのは早計ではないのか、ソルよ」

「そんなことはありません、この男は、私達の兄弟です、父上の息子でもあるのですから」

「む、なんだと?」

 

オルドレイクはバノッサを再度見定める、すると何かに気付いたのか、

嬉しそうにバノッサを迎え入れた。

 

「そうか、アレとの子か。虚弱児だと思い、捨て置いたが…、よくぞ我もとに戻って来た、お前は果報者だぞ。一度捨てられながら戻ってこられたのだからな、父は嬉しいぞ…、我が息子よ?」

「……ッ!」

 

バノッサとオルドレイクの距離は5mほど、飛び込めばそのまま殺せる距離だ。

しかし、オルドレイクから見えない位置の手でバノッサに静止をかける。

これ以上の時間をかければ不味いと思いソルは話を切り上げることにした。

 

「父上、バノッサは魅魔の宝玉の悪魔たちを制御する訓練で疲労してます。贄に魔王を堕とすのはバノッサの力が必要不可欠、今日はここで…」

「うむ、バノッサよ。我ら派閥の為に尽力するのだぞ」

「……」

 

バノッサは静かに頷く、そしてソルも一礼してその場を後にした、

当主の言葉は絶対だ、無駄な会話を省きすぐにその場から下がることにした。

 

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「…ぐっ、がぁ…」

 

オルドレイクの部屋から離れ、ソルの管理区間に入る3人、

人払いをした後、ソルはその場で苦しむ様に崩れ落ちた。

 

「ソルさん!!」

 

カノンが直ぐにソルの傍に近寄る、そのままソルを抱え、ソルの私室に連れてゆく。

部屋に入るとソルをベットに座らせ、指示通りに薬品をそろえ、それをソルは口に含んでいく。

 

「また発作か?そんなになってまでアイツに逆らおうとするなんてな」

「き…さまと同じだ、許せない理由がある…ぐっ!」

 

ソルが服を脱ぎ肌を露出させるとそこには巨大なミミズ腫れの様なものが体内で蠢き、

体のいたるところから出血し始めていた、魔力でそれを操作し、強制的に無力化してゆく。

 

「大丈夫ですか?」

「大丈夫…、ではないな。期間が早くなっているな。父上は俺を急かしてるようだ、それだけではないが…」

「召喚呪詛だったか?」

「ああ、これのせいで碌に反発も出来ないからな…」

 

召喚呪詛、外道の法として存在が抹消されている憑依召喚の一種、

災厄をもたらす召喚獣を憑依させ、呪いとして対象を苦しめる術、

ソルは服従の呪いを植え付けられており、反発したり対象者の敵意や殺意などを持つと激痛が走る、

暴れる召喚獣を無理やり魔力で押さえつけ、沈静化してゆく。

普通の召喚師ならそれも不可能だがソルは仮にも無色の派閥の召喚師、外法にも精通していた。

 

「ふう…」

 

大きく息を吐き、傷口を召喚術で治療してゆく、服はすぐに取り換え、

悟られないように血の匂いも念入りに消した。

 

「しかし、バノッサ。あそこで手を出すのは不味かったぞ、この呪いがかかってる時点で強制的に従えることも可能だ。無闇に手を出せば俺がお前を殺す羽目になる」

「ッ!うるせェな、そんな事わかってる」

「それで…、お姉さんを贄にするって本当なんですか?」

「……ああ」

 

カノンの問いにソルは無言の後に肯定した。

 

「他に…、他に方法はないんですか!?」

「嫌なら帰れ、少なくとも北スラムに籠っていれば此方からは手を出さない様に言っておく」

「そういう事じゃないです!ただ…、あんなに必死になってる人を生贄にするなんて…」

「その考えが間違ってるんだ」

 

カノンの考えをソルはバッサリと切った、カノンがソルを見ると興味が無い様に答え始めた。

 

「そういう役目だ、今が歪なだけで元に戻す、ただそれだけだ、そこにあいつの意思はない」

「だけど…、お姉さんはソルさんの妹さんなんですよ!?」

「…説得するためにここに来たのか響界種?」

「ッ!?」

 

ソルがカノンに対して敵意を持った視線を刺した、その視線にカノンは言葉を飲む。

 

「自分の考えを無理に他人に押し付ける事をなんて言うか教えてやる……、傲慢だ」

 

そういうと、ソルは監視を続けるために、サモナイト石を選別して、サイジェントに戻る為、部屋を出る。

カノンはその言葉に何も言えずに黙っていた。

 

「…バノッサさん、ボクは間違っているんですか?」

「知らねェよ、だがよカノン、どの道もう戻れねェのはわかってるだろが、俺ははぐれ野郎とあのジジイを殺す、それだけは変わらねぇ」

「………」

 

妹を歪だと言い、嘗ての家族を利用するソル、そして家族を否定し妄執に囚われてるバノッサ。

何処か似通った二人を見てカノンは悩んでいた、自分ではこの人たちを助けられない…。

血縁ですらないカノンがそんな事を考えるのすら筋違いだが、誰よりも優しい響界種の少年はそう考えざるを得なかった…。

 

 




今回は書いてて、ハヤトサイドとソルサイドの空気の違いがやばかったわ。
まあ、フラットみたいな連中が敵だと戦いづらいから仕方ないな!

召喚呪詛は3から登場した召喚術で縛るにはとても便利な外法ですね(強制させるのに便利
実はU:X見ててオルドレイク温いなぁって少し思ってた、手当たり次第に召喚呪詛で縛り上げちまえばみんな何にも出来んやろって、
まあそんな事しちゃえば組織として成り立たないんですけどね。(うちはするけど

次回はちょっと誤字修正と線を引くのでまた遅れるかも。

カノン君は天使、ハッキリわかるんだね。(鬼だけど

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