サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

26 / 81
時間かかった…、まさか3万5千文字書くことになるとは…。
あとサモンナイトU:X読んで今までの設定大幅に変えましたよ。
GWも重なったせいでほんと時間かかりましたけどどうぞお読みください。

見やすくするために線を引いてみました。


第12話 希望の花

――愛しい存在、でもその存在は手の平からいとも容易く落ちてゆく――

 

あのカムランとの戦いから3日ほど…、

モナティはフラットの一員になっていた、

今では子供達の世話などをしていて、随分と慣れ始めていた。

しかし、肝心のそのモナティの主が…。

 

「はぁ~、あー」

 

ハヤトは壁際に体育座りをし、遠い目をしながら壁を見ていた。

 

「ご主人様、元気出してくださいですのっ!」

「ダイジョウブ、ゲンキダヨ」

「はぁ、よかったですのっ♪」

「いやいや、その反応を見て元気とか無いでしょ」

 

少し天然の入ったモナティの反応にすかさずリプレがツッコミを入れる、

ハヤトはモナティの反応を特に気にしてはいない…、いや気にする気力もわかないようだ。

 

「くくくっ、ご主人様とは随分召喚師らしくなってきたじゃねぇかよ」

 

ガゼルがからかい半分にハヤトをおちょくるがとうのハヤトはそれすら耳に入らないようだ。

 

「ちょっとガゼル!からかうのはやめなさいよ、あんまりいうと本当にダメになっちゃうわよ!」

「…」

 

クロがそんなハヤトの情けない姿を見て溜息をつく、

流石のクロも今のハヤトの状況を何とかできるほど有能ではない。

 

「俺はただ、モナティを助けたはずなのに…、なんで…」

 

ハヤトがへこんでいる理由はクラレットである、

あれ以来、ロリコンの烙印を押され会うたびに無視される始末、

おまけにモナティのために用意したはずの部屋にクラレットは移動し、

モナティはハヤトの部屋で寝泊まりをしている、しかも朝起きるたびに「昨日はお楽しみでしたね」といわれる始末。

実際は夜にお話ししてるだけなのだが、嫌味を効かせて三日間ずっと言ってくるのだ。

 

「なあ、リプレ。何とかならねぇのかよ?ハヤトがこんなんじゃ、イザって時に何にもできねぇぜ」

「私もクラレットを説得しようとしてるんだけど、強情で…、あれは一度折れたらなかなか治らないわよ」

 

普段からハヤトの女性への優しさをいいところと割り切ってはいるがそれでも苛立ちはたまるもの、

モナティの一件でついにクラレットの堪忍袋が破裂したのである、ちなみにおちょくってたアカネのせいでもある。

どうすればいいのかとみんなして考えていたが、ハヤトがゆっくり立ち上がった。

 

「こうしてても仕方ないよな、みんな心配してくれるし…」

「ちょっと、大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫、何とかなるよ…、10年一緒に居て初めての経験だけど…」

 

ハヤトのその一言でリプレとガゼルは冷汗をかき始めた、

普段仲のいい二人がまさかここまでの喧嘩をするのが初めてだったとは…

 

「モナティも協力しますの、ご主人様!」

「うん、じゃあ早速なんだけど…、ご主人様って呼ぶのやめてくれないかな?」

「えっ…」

 

モナティが悲しい表情をしている、それを見てハヤトは焦った。

 

「ど、どうしたんだよモナティ!?」

「どうしてですの?ご主人様は、モナティのご主人様じゃないんですの?」

「ああ、違うよ。呼び方を変えてほしいだけなんだ、俺って他の世界から来たから、その…、ご主人様って呼び方はちょっと…な」

 

実際、名も無き世界ではそういう呼び方はあまり良い呼び方ではない、

特別な趣向の持ち主が嬉しがる程度だ、あくまでハヤトは「一般人」なのである。

 

「別の呼び方で頼むよ、たぶんクラレットのその呼び方のせいで怒ってるかもしれないし、あ、モナティのせいじゃないからな」

「…わかったですの、それじゃあ………、これからはマスターって呼ぶことにしますのっ!」

「うえぇっ!?いや…、マスターはちょっと…」

「…言ったのに、他の呼び方だったら、何でもいいって言ったのに…」

 

せっかく考えた呼び方を否定されて涙目になるモナティ、

周りの、【主にリプレとクロ】冷たい目がハヤトに突き刺さる。

 

「わ、わかったから、それでいいからな。ほら、泣いてちゃだめだぞ?」

「はいですのっ、マスター!」

「はあ…、ん……、はっ!?」

 

ハヤトが喜ぶモナティをあやしながら扉の方を見ると、

へこんでる一番の原因がそこに立っていた、同じ家に住んでるのだ普通に出会うのは当然である。

 

「……ご主人様の次はマスターですか…、いいですね、色んな呼び方してもらって」

「クラレット…、あ、あのさ…」

「リプレ、洗濯物干しておきましたよ?次は何しましょうか?」

「え、えっと…」

 

ハヤトの発言をガン無視してリプレの次の仕事を聞くクラレット、

普段感じない圧力に戸惑うお母さんだが、次の仕事を伝えないと色々不味いと感じ、言葉を発した。

 

「お買い物…、そう、お買い物してくれないかしら!」

「わかりました、じゃあ買い物の準備を…」

「えっと、モナティと一緒に行ってほしいのよ、ほらモナティとガウムが増えたからその分、買い込まないといけないし、モナティにも買い物の仕方を教えてほしいのよ」

「え…っと…」

 

クラレットは戸惑いながらモナティの方を見る、

モナティはリプレに手伝いを頼まれたことを喜んでいた。

 

「わかったですの!クラレットさん、よろしくお願いしますの♪」

「ええ、よろしくね、モナティ」

「じゃあ、これ。これを買ってきてほしいのよ、よろしくね」

 

結構な量が書かれてる、メモを受け取り、モナティを連れてクラレットが出ていく、

モナティと手を繋いでるところを見ると、嫌ってる訳でも無いようでハヤトは安心した。

 

「ふぅ…、心臓に悪いわよ。全く、あとはモナティしだいね」

「その…、リプレ…」

「私ができるのはここまで、ハヤト。貴方は謝り方でも考えておきなさい、わかった?」

「はい、頑張ります」

「…」

 

リプレの努力のおかげで、何とか切り抜けたが所詮一時凌ぎ、

ハヤトはどうにか謝る方法を考えるためにその場を後にするのだった。

 

---------------------------------

 

庭に出たハヤトの目の前にいたのはウィゼルだった、

最近は訓練の方に身が入ってない為少々不機嫌の様だ。

 

「あー、師範そのー」

「わかっておる、クラレットの事はまだ解決しないようだな」

「め、面目ありません…」

「別に構いはせん、だが、早く解決しなければ問題は迫ってゆくままだぞ」

「そう…、ですよね」

 

師範が言うにはたぶん、ソルの事だろう、

今の状態でソルとやりあったり100%負けるのは明白だ。

まずはクラレットと仲直りしないといけないよな…。

 

「ところであまり外に出んほうがいいぞ」

「何かあるんですか?」

「ここ最近、流行り病が蔓延してるようだ、迂闊に外に出ると感染するかもしれんぞ」

「流行り病…?」

「詳しくはしらん、だが気を付けることだ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

そういうとウィゼル師範が孤児院から出ていく、本当は俺は出るべきではないのだろうけど、

今日ぐらいは出てもいいよな、少しみんなに相談したいし。

そう思いながら俺も孤児院を後にした。

 

---------------------------------

 

クラレットとモナティは商店街を歩いていた、

買い物は意外に多くのものを買うことになった。

 

「モナティ、大丈夫?結構いっぱいだけど」

「大丈夫ですの、モナティはこのぐらいへっちゃらですの」

 

亜人は人よりも力が強いって聞いたけど、

モナティも私より力持ちなんですね、それに優しいし…、はぁ…

 

「………」

「クラレットさん…、大丈夫ですの?」

「えっ?うん、平気ですよ、モナティ」

「にゅう…、でもマスターの事、怒ってばっかりですから…」

「それは…、ハヤトが悪いんです」

 

そうですよ、ハヤトはいつも人の気を知らないで人に…、

特に女の子に優しくして、まあ男の人は女性に優しくは基本ですけど…。

……あれ?

 

「ハヤトは悪くない…、でもなんで…?」

「く、クラレットさん?」

「あ、あはは、ごめんね、少し考え事しちゃって…」

「はい、モナティは平気ですの、でも早く仲直りしてくださいね、みんな仲良く、笑顔が一番ですの♪」

「そうですよね、それはわかってるんですけど…、私はわがままですから…」

「わがままですか?」

「少し話しましょうか」

 

ベンチに座り、モナティも同じように座る、クラレットは話し始めた。

 

「一番になりたいんです、ハヤトの中で一番に」

「マスターの中で一番…?」

「モナティはハヤトとあって3日ほどですけど、思いませんでしたか、ハヤトの中で一番になりたいって?」

「…にゅう、マスターにはクロさんっていう立派な護衛獣がいますし、モナティは全然…、でもマスターのお力になりたいって思ってますの」

「私は、わがままなんです。どんな状況でもきっとハヤトの一番でいたい、だからこんな風にハヤトを困らせて、自分の事だけを考えさせたいんです。駄目な人ですよね」

 

クラレットの言葉をうまく理解しようとモナティは考えて考えていた、

そして何かを気づいたのかモナティはクラレットに向かって笑顔で答えた。

 

「大丈夫ですの!マスターはクラレットさんの事を一番に考えてますの」

「え?」

「だって、夜もずっとクラレットさんのこと考えてましたし、今日の朝だってずっと気にしてたんですの、クラレットさんはマスターの中で一番ですの♪」

「…ふふ、ありがとう、モナティ」

「よかったですの♪」

 

純粋なモナティの言葉はクラレットにの心にスッと入る、

自分はハヤトの中で一番、そんなことわかってたはずだがここ最近どうにも実感できなかった。

でも思えばハヤトは自分の為にずっと剣を振ってきた、ならそんなこと当たり前だって思ったのだった。

 

「じゃあ次にハヤトが謝ったら許してあげることにしますね、もうちょっとだけわがままで♪」

「…!?」

 

突然モナティの顔つきが変わった、何かに気付いたかのように鼻を動かし匂いを嗅いでいる。

 

「どうしたんですか?」

「懐かしい匂い…、モナティと同じ世界の匂いがしますの…」

「それって、ユエルじゃないんですか?」

「ユエルさんとは違いますの…、くんくん…こっちですのっ!」

 

モナティが荷物を持ち走ってゆく、クラレットも荷物を持ち直し、すぐにモナティの後を追ってゆく。

 

---------------------------------

 

「ここって…、確かこの前、イムランさん達のいた…」

 

クラレットがモナティを追って走っていると、

前にイムランたちのいた上流階級区に来てしまった。

 

「もしかして、モナティが探してるのって…」

「きゃっ!?」

「にゅう、痛いですのぉ~っ」

「メトラルの女の子…」

 

クラレットがモナティの方を見るとメトラルの少女がそこにいた、

モナティも頭からぶつかった様で頭を抱えている。

 

「何すんのよっ!エルカに恨みでもある訳っ!?」

「ご、ごめんなさいです、でも、クラレットさんこの人ですの!この人からメイトルパの匂いがするですの!」

「まあ、メトラルの女の子ですから…、そりゃメイトルパの匂いはしますよ」

「あ、あんたこの前の!?」

 

少女はクラレットの姿を見て少し驚く、しかしクラレットはなぜこの子が一人でいるのかそれを聞きたかった。

メトラルホーンの採取などが理由かもしれないが、それも自分の憶測でしかないのだ。

 

「でも、どうして召喚獣の貴女がここに一人でいるんですか?危ないですよ」

「そんなへんてこりんな呼び方しないでよっ!エルカはこう見えても誇り高きメトラルの族長の娘なんですからね!」

「族長さんの娘さんだったんですの?」

 

そんな立ち位置の人物まで召喚されるなんて…、

やっぱりメイトルパは召喚獣側のメリットが少なすぎる…、エルカの反応も当然ですよね。

 

「…?あんたもしかして、レビット?なんでこんなところにいるのよ」

「モナティは、マスターにお仕えしてるんですの」

「フンッ!いかにもレビットにはふさわしい理由ね、あんたがそのマスター?」

「ああ、私じゃなくて…、そうですね。私じゃないですよ」

 

少しムッとしながら思い出すクラレット、頭でわかっていても理解はしにくかった。

 

「ふーん、まあいいわ、誇り高きメトラルはね、レビットとは違うのよ。エルカを呼びつけた奴は魔眼で動けなくしてやっつけてやったわ!」

「た、倒しちゃったんですか!?」

「当たり前でしょ!召喚されて戻って来たメトラルの殆どは角無しになるのよ、そんな相手、先手必勝よ!」

「エルカさん…、はぐれ召喚獣なんですか」

 

クラレットはエルカの発言に驚き、モナティもエルカがかつての自分と同じはぐれだと理解すると悲しい顔をする、

そんなモナティの発言にエルカは怒りをあらわにした。

 

「だからっ!変な呼び方しないでって言ってるでしょ!レビットは一度言ったこともわからないの!?」

「にゅぅ~~!?耳を引っ張らないでですの~!!」

「エルカを侮辱するのは絶対に許さないわ!」

「ま、待ってください、貴女を侮辱するつもりはなかったんです、モナティも少し前はぐれだったんで、自分と重ねてただけなんです」

 

エルカはクラレットの言葉に耳を貸し、モナティの耳を引っ張っていた手を離した。

モナティは結構いたかったのか耳をさすり始めていた。

 

「フン…、だったら、エルカの前から立ち去ってよ、エルカはこの屋敷に用があるんだから、レビットや原住民とは遊んでらんないのよ」

「何か…、この屋敷に入りたい理由があるんですか?」

「あんたたちには関係ないでしょ!さっさとどこか行きなさいよ!」

「でも、このお屋敷の人、すごい酷い人たちですの…、モナティをペットにしようとしましたし…」

 

モナティは誓約の首輪を着けられそうになった時の事を思い出した、

ユエルに出会ったとき首輪を着けられている彼女の姿を見て自分が着けられたと顔を青くしてたのだ。

 

「ペット…、ですって!?」

「ど、どういうことなんですか、モナティ!?」

「はい、実は…」

 

モナティは自分がはぐれになったあと、団長に拾われその後、カムランに売られそうになったことを話した。

もし、ハヤトが助けに来てくれなかったら自分はペットとして想像も出来ない日々を過ごすことになってたかもしれなかった。

 

「そんな奴に頼んだって…」

「何か、頼みたいことがあるんですの?」

「別にレビットの力なんて借りたくないわよ!」

「そんなことないですのっ!みんなで力を合わせればきっと何でもできますのっ!それにクラレットさんはすごい召喚師さんですの!」

「そ、そこまですごくはないんですけど…」

「?、あんた召喚師だったわけ?」

「ええ、何か事情があるなら聞きますよ、私もモナティも、そして貴女も今はこのリィンバウムに連れてこられた者同士ですから」

「……わかったわ、話ぐらいはしてあげるわ、この屋敷の人間は逃げないしね」

「じゃあ、とりあえず今私たちの住んでいるところに行きましょう、ここに居たら色々と危ないですし」

「にゅう…、もう会いたくないですの」

「フンッ、いいわついてってあげるわ、案内しなさい!」

 

エルカは納得したのか、クラレットとモナティに着いてゆく事にした、

だが、それがさらなる事件の引き金になるとは今の二人は気づいてなかったのだった。

 

---------------------------------

 

「にゃはははは♪あはははは♪、あ~~~ははぁ…、面白すぎでしょ貴方達♪」

「そんなに笑うことないじゃないですか、メイメイさん!!」

 

顔を真っ赤にしてるのはメイメイさん、いつも通りお酒を飲んでいるようだ。

俺はどう謝ればいいのか悩んだ末、占いに頼ることにした、まあ占いって人生相談みたいなもんだろ。

最初は真面目に聞いてたメイメイさんだけど話を聞き続けるたびふきだして挙句の果てに大笑いされた。

 

「いや、だってそんなことで悩む旅人さんもだし、クラレットもそんなこと日常茶飯事なのに嫉妬するとかすごいじゃない♪」

「本人たちは冗談で済まないんですから、何とかしてくださいよ…」

「しょうがないわねぇ…、わかったわ。お姉さんが一肌脱いじゃう、だ~か~ら~ね♪」

「また今度、お酒持ってきますよ、はいはい」

「にゃはは♪ありがと♪」

 

笑顔で水晶玉を取り出す、そして水晶玉が淡い光を放ち始めた。

 

「恋占いとかすごく担当外なんだけど、メイメイさん頑張っちゃうわよ~」

「こ、恋占い!?ち、違いますよ、俺はただ…」

「違うの?」

「いや…、ちがくはないのですけど…」

「とりあえず仲直りで来たらそれでいいのいよ、む~、う、うん?」

 

メイメイさんはそう答えて作業に入るがどうにも難しい顔をしていた、

もしかして前に言っていた…

 

「もしかして、定まらないってやつですか?」

「そうなのよねぇ…、しょうがない、クラレットで占ってみるわ…」

 

そう言うと再び水晶が光を放ち始めた、水晶の中にいくつもの星の光のようなものが見える。

その中の一つがゆっくりと消えていった。

 

「え…いや、ちょっと待ちなさいよ、それは不味いって…、うーん」

「どうしたんですか?」

「いやね…、そのこんなこと言うのもあれだけど…」

 

酒で出来た赤い顔は既に消えている、そしてメイメイさんは真面目な顔をして俺に伝えた。

 

「……もうすぐ、貴方達の中で、だれか死ぬわよ」

「えっ…?」

 

一瞬、頭が真っ白になる、俺たちの中で誰かが死ぬ、

いや、俺はただ仲直りするためにここに来ただけなのになんで、

そして俺の中で浮かんだのあの男の顔、まさか…。

 

「相性占いよ、貴方達に関わった人間の未来を見て貴方たちにどう影響を与えるのか見たんだけど、その中の一人の命が消えたのよ、おまけにあなたが関わってるせいで誰が死んだのかは判断は出来なかったわ」

「…あの、もしかして」

「別にあなたのせいじゃないわ、そして貴方が思っている人物は間違いなく関わってる、ごめんなさいね、こんなことになるなんて…」

「いえ、あのいつ頃の話なんですか?」

「詳しくは…、わからないわ、でも前にも言ったけどあなたはそういうのに対抗できる存在なの、まあ、とりあえずいつものように気張っていきなさいってことよ」

「う、うん…」

 

突然の事実に少し暗い顔をするハヤト、そんなハヤトをメイメイは優しく抱きしめる。

 

「め、メイメイさん!?」

「辛かったら周りに頼りなさい、今回のように、自分一人でなんでもやろうとしたらどこかで必ず間違いを起こすわ、それを忘れないでね」

「……はい、ありがとうございます」

「よし、じゃあ行ってきなさい、そうね…、結局わからなかったけど次は森に行くといいわよ、今の貴方にはきっと救いになるわ」

「森ですか?」

「そう、じゃあ頑張ってね」

 

---------------------------------

 

メイメイさんに言われて森まで来たけど…、

森のどこに行けばいいんだ?

そんな風に森の中を歩いてると、ガレフが何匹か俺に近寄ってきた。

 

「ガレフ…、俺に何か用か?」

「……」

 

無言の後、「ウォン」と小さく吠えると俺が見失わない程度に合わせて案内をしてくれる、

俺も特に気にせずにガレフに付いていった。

 

進んでいくと開けた場所に着いた、周りをよく見まわすと、

結構多くのガレフとその中にスウォンとユエルの姿が見えた。

二人もこちらを確認したようでユエルが近づいて、スウォンは手を上げてくれる。

 

「ハヤト、元気になったんだ!」

「いやぁ…、まだなる途中かな?」

「こんなところまでどうしたんですか?」

 

ユエルを撫でながらスウォンの方を見る、

スウォンの後ろにはいくつもの石が置いてあるようだ。

 

「ガレフに案内されてね、ここは?」

「父さんやガレフ、犠牲になった人たちのお墓なんですよ、ただ、石を置いただけなんですけどね。このところ、あまり来てなかったから…」

「そっか…、俺もお参りさせてもらうよ」

「ええ、お願いします」

「…………」

 

黙ってお参りしながら先ほど聞いたメイメイさんの占いを考えていた、

もし誰かが死んだらこんな風にみんなから思われるだけになってしまうのか。

 

「ねぇ、ハヤト」

「ん?」

「何か悩んでるの?元気ないよ」

「ああ、なんていえばいいのかな…、ちょっとこれからのこと考えてたんだよ、新しい悩みも増えちゃってさ」

「だったらみんなで相談すれば」

「内容が内容だからなぁ…、どうすればいいのか…」

 

俯きながら考えている俺にスウォンは口を開いた。

 

「少しだけど、わかった気がします」

「スウォン?」

「父さんや死んでしまったガレフたちの為に僕がやらなきゃいけないのは…、だれにも恥じずに生きることだと思うんです。死んでしまった、彼らの分まで、誇りをもって生きることだ、と」

「………」

「とりあえず今は、ユエルを守っていくことにしてますよ。頼まれましたし、何より家族ですからね」

「えへへ♪」

 

ユエルを撫でているスウォンを家族を守るという優しさが顔に現れていた、

ただ場所がなくて押しつける感じでお願いしたけどスウォンの中ではもう大切な家族だったんだ。

あ、そうか、そうだったんだ…、

 

「なんだよ、難しく考えすぎてただけじゃないかよ…、はぁ。何時もと変わらなければいいんだな」

「ハヤト?」

「ん、スウォン、ありがとうな、おかげで悩みが解決したよ。俺は何時も通りでいいんだ」

「力になれたようでよかったです、ハヤトの今の姿は昔の僕に少し似てましたから…」

「スウォン…」

「ハヤト、これを受け取ってください」

 

スウォンから渡されたのは牙のようなものに穴をあけ、紐を通してる物、

ユエルもよく見ると身に着けているようだ。

 

「これは?」

「ガレフの牙で作ったお守りです、憎しみに負けそうになった時、これを見て思い出してください、今、貴方が思ったことを、そして、憎しみからは何も生まないということを」

「ありがとな、スウォン」

 

牙を受け取った俺はそれを首に通した、憎しみに囚われるのかはわからないが、

スウォンの思いを無駄にしたくはないからな。

 

「ところでハヤト、クラレットさんとは仲直りしましたか?」

「ん!?いや、そのぉ~」

「速く仲直りしてくださいね、なんだかんだで二人が仲良くしてるところは、もうフラットの日常だったんですから」

「えぇ…、そうなのか、恥ずかしくなってきた…」

「今更恥ずかしがられても…」

 

スウォンのお陰で悩みが少しだけ晴れた、

何時も通りでいいんだ、一生懸命少しでも強くなって、大切な人と仲間たちを守る、

一人じゃなくてみんなで、そうだな。それでいいんだよな。

そう確信しながら俺は二人と一緒に孤児院に戻ることにした。

 

---------------------------------

 

「ウソよ…、帰る方法がないなんて」

 

顔を青くしてエルカは絶望していた、話を聞く限り、1年、

1年もかけて聖王国を歩き続けた少女を絶望させるには十分だった。

元の世界に帰れる、そのために召喚師と出会う、ただそれだけの為にエルカは歩き続けたのだ。

 

「でもでもっ、本当なんですの」

「イヤよっ!エルカは認めないっ!こんな世界になんか、いたくないのよ!!」

「エルカさんっ落ち着くですのっ!」

「きゅーっ!」

 

暴れるエルカをなだめようとモナティとガウムは努力するが、

錯乱している彼女には逆効果であった、そんなときクラレットもエルカを落ち着かせようとする。

 

「落ち着いてエルカ!」

「クラレットさんっ…」

「本当なんです、召喚した人しか、元の世界に送還できない…、これは絶対なんです」

「そんなの……、そんなの認められるわけないでしょっ!!エルカは帰るのっ!どけえぇぇーっ!!」

「!?」

 

エルカの目を見て話していたクラレットは魔眼の光に直に受けその場に崩れ落ちてしまった。

そしてエルカは飛び出すように孤児院から出ていこうとする。

 

「クラレットさん!しっかりするですの!」

「きゅ~…っ」

「う…ぐぅ…、エ゛ルカ…」

「ちょ、っと!!あんた達はなんなのよ!!」

「にゅう…?」

 

孤児院の外に出たばかりのエルカは鉢合わせしたユエルに捕まっていた。

ユエルは自分と同じ世界の住人をすごく好んで抱き着いたりする癖がある、そのためにエルカは捕まっていた。

 

「なんで…!こんなところにオルフルがいるのよ!!」

「メトラルだ!メイトルパの仲間だ♪」

「なんで、うちから召喚獣が…?」

「そんな呼び方すんじゃないわよ!」

「また元気のいい…ん?」

 

混乱している一行の前に一匹の召喚獣が出てくる、

確か、ポワソだったか、じゃあクラレットの召喚した奴だったよな。

そう思っているとポワソは杖を振って煙を出しエルカとそれに抱き着いてるユエルを眠らせた。

 

「あ…」

「めとら…すぅ…」

「ユエル!?」

「いったい何が…、モナティ?」

「あ、マスター、お帰りなさいですの、そうでした!クラレットさんが!!」

「クラレットになんかあったのか!!」

「はい、中で…にゅぅ!?」

 

モナティを押しのけ、家の中に入るとリプレに支えられているクラレットの姿が見えた。

俺はすぐにクラレットをリプレから受け取って状態を確かめる。

 

「クラレット!大丈夫か、クラレット!!」

「だ、だいじょ…ですよ。ちょっ…しび…」

 

意識が朦朧としてるせいかろれつが回らないように口を動かしている。

 

「よかった…、本当に…よかった…」

「はや…と」

 

ギュッと抱きしめてクラレットを感じたかった、

あんな占いを聞いたせいでここまでダメになるなんて…、

それに三日も無視されたせいで正直へこみすぎてたし。

 

「とりあえず、ここでイチャイチャするのは勝手なんですけどそろそろ連れていきますからね」

「あ、はい」

「あ…の、」

「ん?どうしたのクラレット?」

「ハヤトの…へや」

「あ、ええ、わかったわよ」

「じゃあ俺はあの…めとらる?だったっけその女の子と、ユエルを…」

 

その二人を家のベットに連れて行こうとするがクラレットが俺の手を握り返していた。

口には出したくないのか、握ってこっちをクラレットは見るだけだ。

 

「……リプレ、俺がクラレット連れてくから、表を頼むな」

「わかったわ、でも、ちゃんと仲直りになさいよ」

「あはは、わかったよ、じゃあ行こうかクラレット」

「…(こくん」

 

クラレットを自分の部屋に連れてゆき、3日ほどモナティの使っていたベットに寝かせる、

体の不調が激しい様だが、ポワソを召喚で来たのだから心配はないよな。

 

「「・・・・・・・・」」

 

二人して無言が続いている、正直…、相当きついぞこれ…

だけど謝らないとな、なんだかわからないけど、謝らないといけない。

 

「あのさ、クラレット」

「……」

 

何も言わずにハヤトの方に視線を向けたクラレット。

 

「この三日間、こんなにつらいと思ったことはなかったよ、なんか、うん。とにかくクラレットといなかったらなんか、さ…」

「……」

「だから、ごめん!きっとクラレットに不快な思いをさせちゃったんだと思う、これからは気を付ける、だから許してくれ!」

 

寝ているクラレットに頭を下げるハヤト、クラレットはそれを見てると少し顔を赤くし始めた。

 

「いいですよ」

「えっ?」

「許してあげます…、その、ちょっと我儘なだけでしたから」

「わがまま…?」

「だってハヤト…、モナティを連れて帰ってきたら、あんな幸せそうなモナティを抱いてるんですから、ちょっと妬いちゃいますよ」

「…え、えぇ!?」

「あんまり反応しないでください!」

 

顔を真っ赤にしながら怒るクラレット、今までのような怒りとは違い、恥ずかしがってるようだ。

って…、妬くって、嫉妬してたのか、モナティに…、いやでも…。

 

「えっと…、あ、はは…」

「な、何でもないです。気にしないでください、口が滑っただけですから…」

「いやでも」

「この話はおしまいです!おしまいにしてください!」

「わ、わかったよ…、そっか」

「むぅ~、なんですかその解り切った顔は」

「いやぁ、安心しただけだよ。あーよかった、嫌われたわけじゃなくて…」

 

本当に良かった、あんなの初めてだったからな、もうあんな軽率な真似はしないでおこう。

……そういう状況にならない努力だけはしておこう。うん。

 

「嫌いになるわけないじゃないですか…」

「ん?どうしたクラレット」

「何でもないですよ!」

 

---------------------------------

 

俺とクラレットが仲直りしてフラットのみんなは安心してくれたようだ。

まあ、普段が普段だから随分心配かけちゃったみたいだな。

なんかこっちに来る前の春奈みたいだな、やっぱりみんな家族なんだな…。

だけど新しい問題が起きていた、あの、メトラルの女の子、エルカの事だ。

 

「にゅう…、エルカさん出てこないですの…」

「ご飯は食べてるんだよな、一応」

「うん、ご飯食べてくれるけど、モナティしか部屋に入れようとしないから、どうすればいいかわからなくて…」

 

モナティとリプレがエルカをどうにかして部屋から出そうとするが、

エルカはショックなのか閉じこもっているようだ。

 

「なあ、クラレット。ホントに召喚獣は喚んだ人間しか、元の世界に戻せねぇのかよ」

「ガゼルさん…、そうなんです。誓約とは絶対の法則、例外を除いて送還はされないそうです」

「例外…とは?」

「サプレスやシルターンなどの鬼神や龍神、悪魔や天使などなら一部、元の世界に自力で戻れたりしますし、それらの世界に縁の深い場所なら莫大な魔力があればゲートを開くことが出来ますけど…」

 

メイトルパは亜人や幻獣が住み着く世界、特殊な力を持つものは居るがあくまで特殊、

メトラルはメイトルパを代表するほどの種族らしいが界を超える力は持ってないそうだ、

ちなみにレビットのモナティやオルフルのユエルなども代表する種族らしい。

ガゼルとレイドもクラレットの答えを聞いてある程度予測はしていたが残念そうな顔をする。

 

「もう、一年以上も前の話らしいです」

「顔も覚えてないみたいだよな、それ以前に刃向かった相手に協力するなんてのはな…」

 

召喚獣はこの世界じゃ奴隷のようなものだ、

刃向かった相手を手助けするなんて酔狂な召喚師は殆どいないだろう。

 

「しかし、1年か…」

「あなた達もそのぐらい元の世界に戻れなかったらどうする?」

「うーん、でもなぁ、今の生活に満足してるのは間違いないけど…、やっぱ帰りたいとは思い続けるよ、待ってるみんながいるし」

「そうですね…、手立てが無くても諦められませんよね」

「そっか」

 

それからいろいろ話し合った結果、自分たちと同じ境遇のエルカをとりあえず家に置くことにした。

このまま見捨てることもできないし、同じ世界の仲間がいるここにいたほうがいいと思ったからだ。

 

---------------------------------

 

次の日、ウィゼル師範が庭に来てくれて、訓練をしていた。

相変わらずの攻撃だがいつまでも当たる気がしない、なんか当たりそうだけど当たらないのだ。

 

「あの師範」

「なんだ?」

「前より速くなってませんか、それになんか攻撃が重くなってるような…」

「当たり前だ、最初から一々本気を出して訓練などつけるか、お前に任せて少しずつ上げてるだけにすぎん」

「ははは…、そうですか」

 

当たり前だよな…、俺なんかと違って実力が桁違いなんだから、

そういえば師範の本気ってどのくらいなんだろう…

 

「あの、師範の本気ってどのくらいの速さなんですか?」

「……!」

「うわぁ!?」

 

光、一瞬光ったと思ったら訓練用の剣(師範曰く屑鉄)が根元から切断されていた。

あまりに一瞬の出来事でその場でズッコケてしまい情けない姿をさらしてしまう。

 

「まあ、こんなもんだ」

「まるで…、見えなかった」

「そういうふうに見せただけだ、実戦ではそうはいかん、お前でも見えるはずだ」

「実戦限定で見えるとか、想像したくないんですけど…」

 

底が深すぎるその強さに驚愕が増すばかりだ、

少し手が震えてるところを見るとやはりというか老いには勝てないみたいだけど、

…この人ならソルを倒せるんじゃないのかな?

 

「どうやらくだらん事を考えているようだが、自分の相手は自分で相手をするんだな」

「心読まないでくださいよ…」

 

そうして、俺は師範との訓練を続ける、メイメイさんの占いの結果を覆すには少しでも強くならないといけないからな。

 

---------------------------------

 

「フィズ、ラミはどこにいるんですか?」

「お姉ちゃん、ラミに何か用事なの?」

「はい、絵本を読んであげるって約束したんですけど…」

 

私は今、ラミを探しています。ラミと絵本を読むって約束したんですけど、

肝心のラミがいないみたいで…、いつもなら自分から来てくれるのに…。

 

「たぶんだけど…、屋根裏にいるんじゃないかしら、よくそこにいるし」

「そうですか…、ありがとうフィズ、フィズも一緒に絵本読みませんか?」

「うん、じゃあ待ってるわ♪」

 

フィズと別れ、屋根裏へと足を運んでいく、

急な階段を上った先、静かな空気が漂う屋根裏の端っこにラミが座っていた。

 

「ラミ、ここにいたんですか?」

「……」

 

ラミの様子がいつもと違う…?

いつもなら笑顔で迎えてくれるのに…、人形に顔を押し付けてなんか無理をしてるような…。

はっ!?もしかして!!

 

「ラミっ!!」

 

大きな声を上げても驚かない様子、やっぱりおかしい。

すぐに近づいて、ラミの頭に手を乗せるとかなりの高温だった、

それだけではなく全身に力が入っていないようで、体全体がとても熱い。

 

「すごい熱、ラミ大丈夫!?」

「はあ…はあ…(こ、くん」

 

意識はあるのかゆっくりと頷く、だけどどう見ても大丈夫なんかじゃなかった。

 

「どうしてこんなになるまで…」

「…めいわく、かけたくなくて…」

「ッ!?」

 

思わず自分の舌を噛んでつらい気持ちを飲み込む、

私とハヤトの喧嘩やエルカの事で少しゴタゴタしてたせいでラミに我慢させてしまった。

そのせいで、こんな辛そうに…。

 

「ごめんなさい…、ラミが辛いのにこんなに我慢させちゃって…」

「……(こくん」

 

辛いのか言葉を出せないラミを抱き上げすぐにリプレの元に向かってゆく、

自分たちの為に幼いのに頑張ってくれる、この少女を助けるために。

 

---------------------------------

 

「「ラミ(チビ)が熱を出したってのは本当なのか!?」」

「声が大きいぞ、二人とも」

 

扉を開けて突然入る二人、ガゼルとハヤト、

結構大きい声を二人して出したせいで、エドスがそれを咎めた。

 

「今、ようやく眠ったわ、これで熱が引くといいんだけど…」

「そうか…」

「…あれ、クラレットは?」

「みんなと一緒にラミの看病をしてるわ、最初に見つけたのがクラレットだったから、ちょっと責任感じてるのかも」

「アルバとフィズも一緒なのか?」

「ラミのそばにいるって、きかないの」

「無理に連れ出すわけにもいかんだろう、彼女もついてる、しばらくは好きにさせてやろう」

 

ため息交じりで少し嬉しく思うリプレ、

子供たちに熱が移ることを危惧するがクラレットがいる為、納得した様子のレイドさん。

とりあえず、俺もラミの所に行くことにした、ガゼルは来ないようだ、あとで顔を出すとは言ってた。

 

---------------------------------

 

「あ、お兄ちゃん」

 

部屋に近づくとフィズが洗面器を持って部屋に入ろうとしていた、

たぶん、ラミの感情に使う為の物だろう。

 

「フィズ、ラミの熱の具合はどうなんだ?」

「まだ高いままよ…、ラミ、平気かな…」

 

辛そうな顔をしている、たぶん熱が出る前に気づかなかったことを気にしてるんだな、

俺はラミの頭に手をおいて、少し強めに撫ででやった。

 

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!」

「その為にこうして看病してるんだろ。ラミだってみんなと一緒ならすぐに良くなるさ」

「そう、よね…、うん!」

 

扉を開けてフィズと一緒に部屋の中に入る、

そこにはラミの傍に付いてるクラレットとアルバの姿があった、

部屋の端っこの方にはクロの姿も見える。

 

「ハヤト、帰って来てたんですね」

「ああ、ガゼルと一緒にな、ラミの具合はどうなんだ?」

「熱はまだ下がらないんですけど、息はだいぶ落ち着いてきました…」

「そんなに酷かったのか…?」

 

ラミがそんなに酷かったのにむしろ誰も気づけてやれなかったなんて…。

 

「迷惑かけたくなかったみたいで、無理して我慢してたみたいなんです。それで悪化してしまったみたいで…」

「兄ちゃん、ラミ元気になる?」

「ああ、みんなで一緒にいてあげよう、そうすればラミだって元気になるさ!」

「うんっ!オイラ、ラミと一緒にいるよ!」

「あたしだって一緒にいるわよ!」

 

一緒にいるだけで病気が治るわけじゃないけど、

起きた時に家族がすぐそばにいればラミもきっと安心するはずだ…。

…まてよ、そういえばどうしてクラレットは召喚術を使わないんだ?

 

「なあ、クラレット。召喚術でラミを治すことってできるか?」

「…難しいですね、病気的なものは召喚術で治せるのは限られてるんです。それに免疫力の関係もありますし」

「あ~、なるほど」

「免疫力って、なに?」

「ん~、病気になりにくくなったり、すぐに病気が治ったりする力のことかな、だから自分の力で病気は治すのがいいんだよ」

「二人とも安心して、本当に酷くなったら召喚術で無理やり治すからね」

「無理やりって…」

 

そんなやり取りをして俺は広間に戻ることにした、

ガゼルが恥ずかしがってラミに中々会おうとしなかったり、

スウォンとユエルがどこから聞いたのか薬草を持ってお見舞いに来たりなど、

みんながフラットの一人である、ラミの為に動いていた。

それが俺はとてもうれしかったけど、どこかレイドさんの表情が重かった…。

 

---------------------------------

 

次の日、ラミは目を覚まさなかった…、

熱も下がったし呼吸も穏やかだ、だけどどれだけ起こそうとしても意識は戻らない。

昼を少し過ぎたあたり、俺たちはその異常に気付いてしまったんだ。

 

「なんでだよ、どうして、目を覚まさないんだよ!?」

「わからないよっ!熱もちゃんと下がったのに、目を開けていいはずなのに…!」

 

ガゼルがやり場のない怒りを出し、リプレはラミの異常に戸惑い泣いている。

二人とも大事な家族の身に起こった異変で戸惑っているのだ。

 

「……これって」

「何かわかったの、クラレット!?」

「いえ、でも、もしかしたら…」

「なんでもいい、この子に起きてることが知れるならなんでもっ!」

「落ち着くんだ、リプレ。焦っても駄目だ」

「エドス…、うん」

 

焦るリプレをエドスが眺めてくれる、俺も看病してた身として今起こってることが認めたくなかった。

もしかして、メイメイさんが言ってた、俺たちの中でもうすぐ死ぬって…。

 

「………」

「レイドさん?」

「みんな、ちょっと広間まで来てくれないか、話さなくてはならないことがあるんだ」

 

昨日から何かを心配して重い表情をしていたレイドさんは俺達を広間まで案内した。

 

---------------------------------

 

「【メスクルの眠り】?」

「ああ、死の眠りとも呼ばれる伝染病だ」

 

話を聞くとメスクルの眠りは発症すると体温が異常に高まり高熱に苦しむが、

その後は熱が下がる、だが下がり続け仮死状態に近くなり最後には死んでしまうという病だそうだ。

発症から5日~7日で死んでしまう伝染病らしい、おまけに子供には負担が大きく、短くて3日ほどだそうだ。

 

「あの子がかかったのもそいつらしいな、もう街では何十人も死んでるそうだ」

 

レイドのその言葉にガゼルは苦虫をかみ砕いたような顔をする。

リプレに至ってはその言葉が信じられないのか頭を抱えて泣いていた。

 

「…うそでしょ?あの子が、どうしてそんな病気にかからなきゃいけないの!?あの子が!ラミが、どうして…っ!!」

「リプレ…」

「ウソよ…、なんで…!!」

「レイドさん、薬はどうなってるんですか、知られてる伝染病なら薬ぐらいあるんですよね?」

「昨日、街中の心当たりのある医者はみんな当たってみた、しかし…、肝心の治療に使う薬がないんだよ」

「ないって…、なんでだよっ!?」

「買い占められたそうだ…、城の召喚師たちにな」

「な…、嘘だろ?」

「街の人たちに配るのでしょう…、でもそうなると南スラムには…」

 

クラレットの言葉は街としては当たり前だ、

製薬会社などないこの世界じゃ薬を作るのも手作業だ。

ならまずはこの街の資金を出す貴族、次は商店街や鉄道などの住人。

南や北のスラムなんて最後に決まってる、薬が来る頃にはラミは…。

 

「きゅーっ!」

「大変っ!大変ですのーっ!!」

 

しかし、薬が手に入らない焦る俺たちさらに追い打ちがかけられたのだ。

 

---------------------------------

 

アルバやフィズまでメスクルの眠りに発症した。

同じ部屋で寝泊まりしてたせいだろう、そのせいで二人は発症してしまった。

リプレは泣き崩れ、ガゼルもこんな状況に歯がゆい気持ちが表情まで現れている、

そんな中、泣き顔のリプレがクラレットに何かを頼もうとしてるのをそこで俺は見た。

 

「ねえ、クラレット。お願い!召喚術でこの子たちを治してあげて!」

「……」

「クラレット?」

「あ、ええ。召喚術ですね。わかりました、やってみます」

 

子供たちの病を癒そうと集まるみんなを少し下がらせ、

杖と石を握るクラレット、普段と変わらないようだが少し顔が赤いような…。

 

「シンドウの名の元にクラレットが貴方の力を望む…、来て、聖母プラーマ!!」

 

石が発光し、ゲートが開かれる。そこから現れた聖母はクラレットを確認し、

同時に子供たちを見る、苦しむ子供たちは慈しむ女性はまさに聖母といえるだろう。

 

「プラーマ、お願いします。みんなを助けてください」

 

クラレットが魔力を分け与え、プラーマの癒しの聖光が子供たちに降り注ぐ、

しかし、子供たちには何の変化もなかった…。

プラーマは自身の力では無理とクラレットに伝え送還されていった…。

 

「そ、んな…」

「…おい!ガレフの時に出てきた天使じゃ無理なのか!?」

「えっ?」

 

少し困惑するクラレット、確かにあの時クラレットは無我夢中だったのだろう、

やがて気が付いたのか、杖の先端につけてあるサモナイト石に目をやった…。

 

「やって…、みます」

 

プラーマを召喚したときに少し倦怠感があるようだが、

覚悟を決めたクラレットは杖を掲げ、魔力を高めてゆく。

 

「クラレット、大丈夫なのか?」

「大丈夫です、やってみます。ここでやらないときっと後悔しますから」

「お願いね、クラレット」

「シンドウの名の元にクラレットが汝の力を望む…」

 

杖の石に光が灯り始めるが、同時にクラレットの表情に苦痛が現れる。

 

「うっく…ッ!」

「大丈夫なのか、クラレット」

「お願い…、力を…!」

 

杖が更に光り輝き、部屋を包み込む、誰もが目をつぶったが、

目を開けると、特に召喚獣も現れず、何も起きてはいなかった。

 

「………」

「クラレット…?」

 

クラレットの体がゆらりとゆれ、力尽きたように倒れ込もうとする、

俺は直ぐにクラレットを支え、クラレットの手から杖が手放されカランカランという音が流れた。

 

「クラレット!しっかりしろ、クラレット!!」

「はあ…っあ、召喚…しないと…」

「もういい、無理しなくても…」

「で…も…」

 

そういうとクラレットは気絶したのか目を閉じてそのまま眠りについた。

息が荒くその症状は最初のラミと同じ症状だった…。

 

---------------------------------

 

クラレットもメスクルの眠りが発症した、

俺はどうにもできなかった、目の前では今、息を荒くして苦しんでるクラレットがいるのに…、

俺なんかの召喚術じゃ、クラレットを助けることなんて…。

 

「…!」

「いてっ!?、クロ!何するんだよ!」

「ムイムイイムイムイ!!!」

「あっ…」

 

クロは俺に怒鳴った、「こんなところでへこたれてるなら走れって…」

そうだよな、少しでも可能性があるなら何とかするべきだよな。

 

「行こうガゼル」

「ああ、薬を探しに行くんだろ」

「そうだな、エドスは私と一緒に、医者をもう一度探しに行ってくれ。二人は薬を頼む」

「アニキ、俺っちは?」

「ジンガはストラを使ってみんなを元気にしてやってくれ、ラミを重点で頼む、最初に発症したのはラミだったからな。よし、行こうガゼル!!」

「待っててくれよ、チビども…」

 

それぞれが役割を分けて、クラレットたちを救おうと動き始める、

そんな様子を扉の隙間からエルカは覗いていた。

 

---------------------------------

 

街の隅から隅まで走り回る、だが、薬なんて見つかりはしなかった。

何処を言っても城の召喚師が買い占めたという事だけがわかる。

 

「くそっ!ヤツら本当に街中の薬を買い占めやがったのかよっ!?」

「これだけ探したのに、一つも見つからないなんて…、もうすぐ昼か」

 

殆ど半日探し続けた、レイドさんの話じゃラミはどう伸びても明日の夜には死んでしまう、

薬が効くことを考えると今日中に見つけないといけないはずだ。

 

「こうなりゃ…、盗むしかねぇ!!」

「待てよ、ガゼル!」

「ハヤト、テメェ、クラレットの命もかかってんだぞ、わかってるのか!?」

「そんなことわかってる!!!」

「ッ!」

「だけど城の連中だってこうする奴らがいることぐらいわかってるはずだろ、盗むなら城じゃなくて貴族が住んでるとこで待ち伏せしたほうがいいはずだ!」

「一々待ってて、チビどもに何かあったらどうすんだ!無茶でも何でも、チビどもを助けるためにはやるしかねぇだろうが!?」

「おい、ガゼル!」

「うわあぁぁっ!?」

 

ガゼルが城に向かって駆けだすが、ちょうど前を歩いていた人物にぶつかってしまう。

 

「…っ、馬鹿野郎!どこに目をつけて歩いてやがる!」

 

やり場のない怒りを目の前の人物にぶつけるガゼル、

その発言に苛立ったのか目の前の人物も声を荒げた。

 

「そっちからぶつかっておいて、そーいうこというわけっ!?」

「なんだと!?」

「なによ!!」

 

その人物は特徴的なオレンジの服を着ており、俺の見知った人物であった。

 

「あれ…?、アカネ?」

「ハヤトじゃない、なんでこんなところ居るのよ、クラレットは?」

「クラレットは…」

 

アカネにクラレットの事を伝えると顔を真っ青にして驚いていた。

アカネの話じゃ、ラミやアルバにフィズとも面識があるようだ。

 

「あの子たちが、嘘でしょ!?」

「ホントだよ、みんな。今は眠ってるんだ…」

「だったら、こんなところでのんびりしてる場合じゃないわよ!こっちに来て!」

「お、おい!」

 

アカネが俺たちに背を向けて走ってゆく、きっとになか考えがあるとおもい俺もすぐにアカネについてゆく。

 

「ガゼル、行くぞ!」

「ったく、なんなんだよ!」

 

---------------------------------

 

アカネに案内されて辿り着いたのは薬屋っぽい店だった。

いや、店なのかと言われれば悩むが店の様だ。

 

「まさかこの店が、薬屋だったなんて…」

「見ただけじゃわからないよな…」

「失礼ねぇ、まあ、確かにお店の中の趣味は悪いけどさ」

「趣味が悪いというのは誰にの事ですかね?アカネさん…」

「おっ、お師匠っ!?」

 

店の奥から姿を現したのは一人の男性だった。

優しそうな人みたいだけど、何処か隙の無いような感じがする。

たぶん、師範と同じくらいの達人だろう、アカネがくのいちだったし忍者なのかな。

 

「あなたには、お使いを頼んだと思っていたのですがね…」

「実はクラレットが死の眠りっていう、病気にかかったみたいで、それで…」

 

少し緊張してるのか言葉を選んでるのかしどろもどろになっているアカネを下がらせ俺が前に出る。

 

「ここに、死の眠りに効く薬はありませんか?」

「あなたは…、ハヤトさんですね。残念ですが、今はありません」

「そんなっ!」

「ただし、作ることならできますよ」

「本当か!?」

 

シオンさんの言い回しに少し焦ってるせいか苛立ったが、どうやら薬が手に入りそうだ。

 

「そのために必要な材料を、そこの不詳の弟子にとりに行かせようとしていたんですから」

「ああ、あれって死の眠りの薬の材料だったんだ…」

「その薬を、俺達にも売ってくれっ!」

「ふむ……、貴方達には売れませんね」

「なんでだよ!?金をもってそうじゃねぇからか!?」

「いいえ、そういうわけではありません、クラレットさんはアカネさんの友人でしてね、よくこの店に来てくれるのですよ。そんな常連からお金を取ろうなどとは思いませんよ」

「それじゃあ!」

 

シオンさんが細い目を開け、アカネの方を見る、その目を見てアカネがびくついてるけど…。

いや、アカネ、怖がり過ぎだろ、どんだけやましいこと抱えてるんだよ…。

 

「アカネさん、彼らと一緒に薬草を採ってきてはくれませんか?」

「わかりました、お師匠!このアカネ、しっかりと採ってきさせていただきます!」

「では、ハヤトさん。アカネさんをよろしく頼みますね」

「はい、シオンさんもありがとうございます!」

 

---------------------------------

 

草原に向けて歩いている俺達、アカネはクラレットとの出会いの話をしてくれた。

 

「そっか…、じゃあ味噌とか醤油とか手に入るのは」

「そっ、アタシのお陰って訳よ♪」

「でもよ、お前にぶつかってホントによかったぜ」

「ぶつかられて文句言われた方はたまったもんじゃないんだけど…」

「ところで、草原のどこらへんなんだ?」

「ん?え~っと…」

 

アカネは思い出そうと考えて、そして思い出したのか、手をポンと叩いた。

仕草とか行動が日本っぽい感じがするな…、もしかして…

 

「確か、スピネル高原っていう場所に群生してるトキツバタって紫の花のはず…だぶん」

「たぶんってお前な…、チビ達の命がかかってるんだぞ!」

「わかってるけど…、平気よ平気、それっぽいの全部持ってけばいいんだもん…、まあお師匠に怒られるかもしれないけど、そこは初心者ミスって事にしちゃえば」

「おいおい…、そういえばアカネもはぐれ召喚獣なのか?」

「え?いや、ハヤト気づいてなかったの、前にくのいちだって言ったじゃない」

「いや、くのいちはくのいちだろ?」

「え?」

「え?」

 

お互い何を言ってるのかわかってないようだった、

ハヤトの認識では忍者の女版をくのいちって思っている。

だがアカネというかリィンバウムでは忍者はシルターンの召喚獣の種類に分類されているのだ。

 

「なあ、くのいちってなんだよ?」

「…あぁ!聞かなかったことにしてって言ったのに何普通に話してるのよ~!!」

「ああ、そうだった。ごめんな」

「でよ、くのいちってなんなんだよ、俺にもわかるように説明しろよ」

「シルターンの暗殺者の事よ。忍術っていう力を使うことが出来て、男は忍者、女はくのいちって別けられてるの」

「忍術って、火遁とか…水遁とかそういうのか、アカネにもできるのか?」

「え、い、いやぁ~、アタシはその…」

 

横目になってこっちを見ないようにしている、現実を見ようとしてないな。

つまりアカネは…。

 

「忍術…、使えないのか」

「し、失礼ねぇ~!使えるわよ!分身とか変わり身とか空蝉とかさ、どうよ!」

「よくわからねぇけど、三つしか使えないのかよお前」

「普通の忍びは三つも使えれば十分なの!お師匠みたいに何でもかんでもできる方が異常なのよ!」

「シオンさんも忍びだったのか」

「やばっ!?」

 

口を押えて、また焦り始めるアカネ、ちょっと口が軽すぎる気がするんだけど。

 

「この事はお師匠にはぜっっっったいに言わないで!言われたら……うぅ…」

 

顔を青くして何か思い出してるようだ。

流石にここまで怖がられちゃ迂闊に言えないよな…。

 

「わかったよ、言わないでおくから。今は薬の材料な」

「ふぅ、よかった…、それじゃあ行くわよ!」

 

安心したのか笑顔でアカネが進んでゆく、すでに街を出て草原に入りつつある、

トキツバタを集めることができればきっと…。

待っててくれよ、クラレット。

 

---------------------------------

 

「さあ、もうすぐだよ!」

 

平原から高原に変わり、足元が少し悪くなってくる。

色々な花が咲き誇っているが紫色の花は一つもなかった。

 

「あれ…、おかしいな…」

「どうしたんだよ?」

「いや、お師匠の話じゃここら辺にトキツバタがある筈なんだけど…」

「なんだって!?」

 

周りを見まわすがトキツバタらしきものはほとんど見えない、

それに焦りを抱いて、俺たちはそれぞれ分かれて探し始めた。

 

太陽が下がり少しそれが暗くなってくるころまで探したが、結局見つからなかった…、

いや、正確には見つかったがつぼみや新芽の状態では薬には出来ないそうだ。

 

「くっそっ!!なんで見つからねぇんだよ!」

「スピネル高原で間違いないはずなんだよ、ホントに間違いない」

「………」

 

何も言葉が出なかった、最後の希望が駄目になってしまったんだから…、

このまま何もしなかったら…、子供たちは、クラレットは…。

 

「お前たちか」

「お前は…、ローカスだったか?」

 

現れたのは赤く長い髪をした男、ローカスさんだった。

 

「一応、確かめに来たみたいだが。その様子じゃやっぱりなかったようだな」

「なかったって…、あんたなんか知ってる訳!?」

「採り尽されたんだよ、騎士団の連中にな」

「なっ!?」

「薬の材料にするっていって騎士団の連中は昨日ここでトキツバタを集めたらしい、まさか根こそぎ奪っていくとはな」

 

そんな…、じゃあどんなに探したって見つかるわけないじゃないか…。

 

「お前も薬を探してるのか?」

「自分たちがかかった時の為にな、表にはなくても裏にはあると思っていたが…、足元見やがって…、かなり高額だ」

「何よそれ!?人の命がかかってるのに、結局お金って訳なの!?」

「…………」

 

声は聞こえているけど、何も希望が湧かなくなり始めて来た。

手立てが無くなり最後に残った唯一の方法は…。

 

「…お前らが薬を探してるってことは誰か死の眠りにかかったのか?」

「チビどもと、クラレットの奴がな…」

「クラレット…、あの嬢ちゃんか…、一応、恩があるからな、俺達も薬が見つかり次第連絡する、子供も見殺しにしたら、後味が悪すぎるからな…」

「すまねぇな…」

「期待はするんじゃないぞ、朝から探してるが裏はそんな高額の奴しか話が無かったんだ」

「…………」

 

そう伝えるとローカスさんがサイジェントに戻ってゆく、

日が落ち始め、あたりが暗くなるので俺達もサイジェントに戻ることにした。

 

「アタシ、お師匠の所に戻って、何か別の方法がないか聞いてくる。もしかしたらだけど…」

「ああ、わりぃな、俺達の方でも何かわかったらすぐ連絡する」

「うん…、アンタも元気出しなさいよ…って無理よね。とにかく無茶はするんじゃないわよ!」

 

そう伝えるとアカネは急いでるのか、夜の為、気にしないで屋根伝いに跳んでゆく。

残った俺とガゼルも孤児院へと足を向けるのだった…。

 

---------------------------------

 

「そうか、無理だったのか」

 

レイドさんのその言葉で広間の空気が重くなる、

リプレは目元が赤くなっているが、看病を続けてくれるらしい。

ジンガもストラの使い過ぎのせいでかなり披露してるようだ。

 

「俺っちのストラじゃ焼け石に水だぜ、病気が治せるわけじゃねぇからな」

「使える分だけましだぞジンガ、何も見つからなかった俺達に比べればな…」

 

エドス達も必死に探し医者を回っていたそうだが殆どダメだったようだ。

俺達のほかにもスラムの住人に会ったようだが、どうやらここだけじゃないようだ。

 

「…乗り込むしか、ないか」

 

俺がそうつぶやくと全員こっちを見る、

予想はしてたようだが俺がそんな発言をするのは少し予想外の様だ。

 

「ハヤト、お前本気かよ!?」

「ガゼルだって最初はその気だっただろ、もう手がないんだ。城に乗り込んで薬を奪い取る」

「君は、その選択がどのような結果をもたらすかわかっているのか、君が街に追われることになるんだぞ!」

「じゃあ、どうしろっていうんですか!ローカスさんが薬を見つけるのを待つんですか!?アカネがほかの方法を持ってくるの待つんですか!?ありもしない待っていてその間にみんなが死んだらどうするんですか!!」

「………」

 

知り合いが死ぬというのに俺は馴れていない、

ガゼルたちもきっとレイドさんたちもある程度それに馴れてしまってるんだ。

だから俺は馴れない平和な世界で生きてたせいなのかもしれないが、

こんな理由でクラレットを失うぐらいなら…、俺はなんでも相手をしてやる!!

 

俺は覚悟を決めて、剣を握り、石を持ち出そうとクラレットの寝ている自分の部屋に向かう。

広間から出るとそこにはエルカがいた。

 

「…なによ」

「…別に、今から城に行くだけ」

「フン…」

 

ぶっきら棒に話す俺にカチンと来たのかエルカは目を鋭くしている、

その後ろにはオロオロしてるモナティとガウムの姿が見える。

 

「…いい気味じゃない」

「…!」

「死の眠りって言う病気にかかったんですって、あの召喚師の女が」

「エルカさぁん…」

「うっさいわね、レビット!あたしを召喚した召喚師の連中なんてね、全部死んじゃえばいいのよ!」

「…にゅう」

「もう一度言ってみろ…」

「ま、マスター?」

「いいわよ、何度でも言ってやるわよ、いい気味じゃない、あたしをこんな目にあわせた召喚師なんてね、全部死んじゃえばいいのよ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の中の何か黒いものが蠢くのを感じた、

目の前で踏ん反りかえってるエルカの手を握り、片手で吊し上げ動けなくする!

モナティは俺の突然の変貌に戸惑いを隠せないようだ。

 

「いった…!何すんのよ!!」

「クラレットが今までどんな辛い思いをしてたのかもしれないでよくそんなこと言えたな!!」

「な、なによ…、あたしだって召喚されてずっと辛かったんだからね!」

「あいつは…、クラレットはずっと怖がってるんだぞ!俺達に言えないようなものを怖がって震えて、恐ろしい奴らにいつ襲われてもおかしくないのに、必死に耐えて、みんなの前ではそんな風に心配かけないようにしてるんだぞ!そんなクラレットにお前は死ねっていうのか!!!」

「ッヒ!?」

 

普段のハヤトらしからぬ、行動をとるハヤト、彼は本来他人に自分の怒りを理不尽にぶつけたりしない。

だけど、今回クラレットの命がかかってる、この世界に来て人知れず震えている彼女を見るたびハヤトも苦しんでいたのだ。

自分では彼女を守り切れない、だから強くなろうとするがまだ足りない、ずっとそんな葛藤がハヤトを苦しめていた。

 

「マスター!やめてくださいですのーっ!!」

「きゅーっ!!」

 

モナティが俺の手にしがみつき、ガウムも俺の足に纏わりつく、

よく見るとクロも少し離れたところから目元にしわを寄せながらこっちを見ている。

 

「……だから、そんなこと言わないでくれ」

「……うん」

 

エルカを降ろす、エルカは尻餅をつき、呆然としてる、後ろからほかのみんなが来るが、

俺はそれを無視してそのままクラレットの部屋に入った。

 

---------------------------------

 

部屋に入ってもう1時間は経過したかもしれない、俺の目の前にはクラレットの居る。

 

「クラレット…」

 

彼女の名前を呟くが彼女がそれに答えてくれることはない、

熱も完全に下がったのか、健やかに寝ているように見える、

だけどこのまま放って置けば二度と目を覚まさなくなるなんて想像がつかなかった。

彼女の手を優しく掴む、家事などをしてるのか少しカサカサだけど俺にはとても愛おしかった、

少しだけ熱のこもったこの手が二度と熱を持たなくなるなんて認めたくない…。

 

「必ず…、必ず助けるから、その為に俺はこの世界に来たんだ…、だから」

 

死なないでくれ、そう伝えようとするとノックする音が聞こえる、

俺はクラレットの手を降ろして、扉に近づいてドアを開けた。

 

「・・・・・・」

「エルカ…」

 

そこにいたのはエルカだった、

先ほどとは違いどこか申し訳なさそうな顔をしている。

 

「レビットから聞いたわ…、あんた達、ここの原住民じゃなかったのね」

「うん、クラレットはこっち出身だけど、俺達の世界で家族として生きてたんだ」

「そうだったんだ…」

「クラレットさ、こっちに来る瞬間、行きたくないって泣いててさ、俺にはどうにもできなかった…、だから守ってやろうと思ってこっちに来てずっと守ってたけど、さすがに病気からは守れなかったよ…、ははは」

 

自分の無力さをあざ笑い軽く俺は笑った、結局俺は武器を持つことしかできないからな。

そんな俺をジッと見て、エルカは口を開ける。

 

「ねえ…、あんたはどうして平気でいられるの?その…、あたしみたいに八つ当たりとか…」

「一人じゃ…なかったからかな」

「一人じゃ、ない?」

「クラレットは最初からいたし、フラットのみんなは今は俺の家族だ、だから…、みんなを家族を守りたい、今はそう思ってる」

「……」

 

元の世界で春奈を大事に思ってたのと同じように、この世界でもフラットのみんなを家族だと俺は思ってる、

だからそれを守りたいって思いながら今、必死に生きているんだ。

 

「まあ、向こうで泣いてる妹を友人に押し付けてここに来てる時点、家族泣かせてるんだけどさ…」

「そっか…、あたしが悪かったわ。ごめん」

「エルカ…」

「メトラルの族長の娘としてあたしもそれに恥じないように生きてたわ、それで一人前の男の連中にも負けないように必死に強くなろうとしてたわ、でも…、あの日、突然、光が私を包み込んで気が付いたわけのわからない場所に来てた…、目の前には意味の解らない事を言う男がいてムカついて魔眼で動けなくして逃げたの…」

 

そこまで話したエルカはうつむいて自分の足元を見ている、

手をギュッと握り唇を噛んでいた。

 

「最初はそのうち戻ると思ってた、でも全然戻らなくてどうすればいいか分からなくなって…、あたしを捕まえようとする奴は全員魔眼で動けなくしてやっつけて来たわ、それでわかったのよ、あたしを召喚した連中と同じ召喚師がこの街にいるって…」

「それで、クラレットと会ったわけか…」

「そうよ…」

「……なあ、エルカ、ここに留まらないか?」

「え?」

「俺達も元の世界に帰る方法を探してるんだ、まあ、俺達の世界はなんか行くのが難しいらしいけど、でもその過程でエルカ達の世界、メイトルパに返すことが出来るかもしれないじゃないか」

「…そうね、うん、いいわよ。まあ、あたしも少し疲れたし、しばらく他人任せにしてあげてもいいわよ」

「そっか、よろしくな。エルカ」

「フン…」

 

そう鼻では言うが少しだけ頬が赤くなってるのが見える、少し安心したんだな…、だけど

 

「まずは…、クラレット達を助けないとな、行ってくるよ」

「ちょっと、どこに行く気よ」

「城に薬を奪い取ってくる」

「ちょっと待ちなさいよ!城って、あんな城から奪い取れるの?」

「そりゃ、やってみないと…」

「大体、死の眠りってどんな病気なのよ、聞いたこともないわ」

「ああ、死の眠りってのは…」

 

エルカに死の眠りの事を話すと何か考えているようだ。

 

「もしかして…、死の眠りって眠り病のこと?」

「うん、確かにメスクルの眠りって呼ばれたりしてたけど…」

「だったら…、シグマリアがあれば…」

「シグマリア…?」

「とにかく、探すのは大変になるわよ、それでもいい?」

「ああ、最悪、城には明日の明朝でもギリギリ間に合う、ほかの手があるならそれに賭けるよ」

 

そう伝えると、エルカは満足したのか、そのまま、広間に向かってゆく。

 

「クラレット…、もうちょっと待っててくれよ」

「………」

 

言葉を発しないがクラレットが薄く笑っているように見えた。

 

---------------------------------

 

「【月光花シグマリア】?」

「ええ、幸運をもたらすとされている花よ」

「メイトルパじゃ、幸運のお守りとされてるんですよね」

「…そうなんだ、ユエル知らなかったよ」

 

ちょうどついさっき、病気の事を聞いたユエルとスウォンも広間に来てくれていた、

エルカは集まった広間で自分がメイトルパで知ったことを話し始めた。

 

「前に【フバース】の呪師がメトラルの里に来た時に聞いたのよ、眠り病には月光花も効くって」

「でも、あれはメイトルパのお花ですよ、エルカさん?」

「うっさいわね、そんなこと私も知ってるわよ!」

「にゅぅ~!?」

「モナティをいじめないでよ!」

「そうね、今はこんな事してる場合じゃなかったわね、話を戻すわ、私がこの街に来る前、森に立ち寄ってたんだけど、その時うっすらと見たような気がしたのよ、月光花の光をね」

「月光花の光?」

「月光花はピンク色の花で夜になると虹色のような光を出すのよ、メイトルパじゃ月の光を吸い込んで出してるって言われてるわ」

「それが森に…、スウォンは知ってるか?」

 

俺がスウォンに聞くがスウォンは首を振る、ユエルにも目をやるがユエルも首をブンブン振っていた。

 

「僕はずっと森に棲んでますけど、見たことありませんね…、もしかしたらガレフたちの縄張りの辺りかも…」

「でも、ユエルも見たことないよ。綺麗な花だったらみんなにみせるし…」

「エルカさんは場所を覚えていないですの?」

「あの時は…、なんか変な狼に追われててそれどころじゃなかったのよ」

「ああ、そのタイミングだったのか…」

 

エルカの話を聞いて分かった、エルカがあの森に来たのはまだトードスの支配されてた時だったんだ。

そんな時に詳しい場所を覚えるなんて無理だもんな…

 

「とりあえずよ、可能性があるなら行ってみようぜ」

「そうだな、徹夜で探し回るしかないだろう」

「そうそう、言っとくけど月光花は夜しか光を発しないわよ、それ以外じゃただのピンクの花だし、結構小さいから探すのが難しいわ」

「つまり、今夜が峠という事か…」

 

ガゼルにエドス、レイドさんがそれぞれ口を開き、希望を胸にやる。

可能性はあまりに低いかもしれないがそれでもそれに賭けようという思いが全員に合った。

 

「アタシはお師匠に月光花の調合方法を調べてもらうよ、トキツバタなんかと違って幻獣界の薬草みたいだからね」

「ああ、頼んだよ、アカネ」

「アニキ、俺っちは?」

「ジンガは子供たちを頼むな、リプレも」

「うん…、絶対に採って来てね…」

「ああ、任せとけ!」

 

---------------------------------

 

森に付いた俺達はそれぞれ分かれて月光花を探し始めた、

森自体はサイジェントの街よりも大きい、しかもエルカ自身無我夢中だったため場所はわからない。

ガレフたちも操られていたせいで記憶にないようだし、ユエルの話じゃ見たことない様だ。

期間は今日の月が出ている間だけ…、つまり、今夜以内に見つけないといけないんだ。

 

「ガレフのみんなに話しといたよ、見つけたら連絡するって!」

「ユエルありがとう、行こうみんな!!」

 

時間が無いせいで二人一組でそれぞれ探すことになった、

ガゼルとエドス、レイドさんとガウム、スウォンとユエル、モナティとエルカ、クロと俺だ。

ガゼルたちは二人はお互いの事をよくわかってるからだ、

レイドさんは騎士の訓練で森の中の行軍など経験がありガウムは夜目が聞く。

スウォンとユエルは森の奥の奥に入ってくれるようだ、あの二人なら安心だ。

俺とクロはそれぞれ勝手がわかってる同士だ。

そして…。

 

「ちょっと、どうして私とレビットが同じ組なのよ!」

「そんなこと言ったって…、メイトルパ組だし」

「エルカさ~ん…」

「うっさいわよ、レビット!」

「じゃあ、ユエルにする?」

 

エルカはユエルの方をチラッと見るが、ユエルが尻尾を振りながら少し楽しそうにしている。

それを見るとエルカはモナティの方を見直して溜息を吐いた。

 

「こっちのほうがましね…、行くわよレビット」

「ああ、待ってくださいですの、エルカさぁ~ん!にゅう!?」

 

エルカを追ったモナティが早速こけた…、大丈夫なのか…

 

「!」

「そうだったな、俺達も行くぞクロ!」

「b」

 

久々にサムズアップし俺とクロも森の中に入ってゆく、

暗い森の中にある希望の花を手に入れるために…。

 

---------------------------------

 

夜もかなり更け込んできている、それと厄介なことに雲が出始めているようだ…。

夜の森は足元もかなり悪くなっており、時折つまずくがそれでも少しずつ前に進んでゆく。

他のみんなの事(特にモナティ)が心配になるが今は月光花を探すことが先決だ。

 

「ムイム」

「雨が…降りそうだって!?」

「!」

 

口を少し開き、俺の返事に合わせたのか頷くクロ、

雨が降るだなんて…、やばいかもしれない、急がないと…!

 

既にかなり時間は立っている、このままじゃ夜が明けてしまう、

俺は急ぎ足になっているが、奥の奥の方へと目を凝らしながら進んでゆく…

 

しかし一瞬の殺気を感じ取り、本能的にどこからかの攻撃を避けた。

 

「ッッ!?なんだ!」

「!」

 

完全に不意を突かれた形で現れたのは見覚えのある召喚獣…

だけど、アイツは確かにガレフ達が…。

 

――ケケケケケ!

 

「トードス!?」

「!?」

 

あの時倒したはずのトードス、あの時よりも小さい個体、

もしかしてプチトードスが生き残っていて成長した姿なのか!?

そう考えているとトードスがこちらに対して攻撃を仕掛けてくる!

俺はそれを避け、剣を抜きトードスを攻撃した!

 

――ケ!?!?

 

「あの頃のままだと思うなよ!フレイムナイト、クロ受け取れ!!」

「!!」

 

フレイムナイトを憑依したクロはその剛腕を加速させトードスを吹き飛ばす、

そして俺はサモナイト石を取り出して、自分の持つ最強の召喚獣を呼び出す。

 

「来てくれ…、鬼神将ガイエン!!!」

 

現れたのは山をも切り裂くという逸話を持つ鬼神将ガイエン、

振り下ろされた大太刀の一撃でトードスは木っ端みじんに吹き飛んだ!

 

――!?!?!?

 

消え去ったトードスを確認した後、俺は剣をしまい、

力を貸してくれたフレイムナイトとガイエンに礼を言って送還した。

クロも大きく溜息を吐くと腕を組みながらムスッとした顔をする。

 

「まさか生き残りがいたなんてな…、この件が終わったらガレフたちに伝えないとな」

「!」

 

頷くクロ、だがクロの完全な死角に何かがいることを俺が見て直ぐにクロを近づく!

 

「クロ!危ない!!」

「!?」

 

現れたのは無数のトードスの群れ、先ほどよりも小さい個体だが、数が多すぎる!

俺一人じゃこんな数…、いや手はある、それに今は時間をかけていられない!

 

「力を貸してくれ…、ガイエン!!!」

「ムイ!?」

 

後先を考えずにその力を行使する、クロからはやめろという声が聞こえるが今は時間がないんだ!

俺はガイエンを召喚する、鬼神化したカノンすら打ちのめした秘剣がトードスたちに振り下ろされる!

 

「真・鬼神斬!!!」

 

本来なら俺程度の召喚師では行使できない召喚術がトードスに炸裂した、

トードスの群れは瞬く間に消し飛ばされてゆき、その場には巨大な亀裂が生じていた。

しかし…

 

「う、うわっ!?」

 

その亀裂がドンドン広がっていき、俺の足元にまで届く、

召喚したばかりの倦怠感のせいでうまく動けずそのままその亀裂に飲み込まれた!

 

「うわあぁぁぁーーーっっ!?!?」

 

たださえ暗い森の中で更に暗い闇に俺は吸い込まれてゆく、

最後に聞いたのは叫んでいるクロの声だった…。

 

---------------------------------

 

ピチョンっと、雫が俺の顔に当たるとその冷たさと体中の痛みで目を覚ます。

 

「う…うぅっ」

 

体中が痛いが目を覚ました俺は目を覚ます。

ボロボロの体を起こして周りの状況を確認する…が。

 

「暗くて何も見えないな…」

 

光が一切入ってこない空間…、壁に手をつきながら歩いてゆく…。

やがて遠くで光りが見え始める、俺はその光に向けて歩きはじめる。

体中が痛い、特に左手はビリビリ痺れてて折れてしまったのかもしれない、

まあ、あんな大穴に飲み込まれて片腕だけだったら儲けもんだよな…。

そんなことを考えながら進んでゆく、開けた場所に出た瞬間光がまぶしく目を閉じる、

しかし、そんなにきつい光ではなかったのかすぐに目が馴れ、その光景を見た…。

 

「すごい…」

 

その光景は神秘的だった、岩が鏡の様に反射しており、きらきら光っていて。

尚且つ、地下水が流れ込んで来てるのか小さな川の姿も見える、

そして俺の目の前に巨大な碑石の様なのが目付いた…。

 

「これ…なんだ…、リィンバウムの文字じゃない?」

 

何か書いてあるがリィンバウムの文字と違い、そのせいで読めない…、

だけどこの碑石に触れていると、魔力が回復してくるのを実感した。

 

「この石…、なんなんだ、クラレットならなにか…?そうだ、花!」

 

トードスの群れのせいで一瞬忘れていたが、すぐに思い出して周りを見る、

すると少し丘だった場所、光が反射して水が光ってるところが見える、青く輝く睡蓮花が咲いていた。

 

「不思議な花だと思ったけど…、これは月光花じゃ、ないんだな…、ッ!?」

 

腕が痛みがさらに増してその場に崩れかける、傷が悪い方向に行ってるんだろう、

すぐにプラーマを召喚しようとするが左手が動かないせいでうまく石を取り出せない。

しかし、そんな時…。

 

『大丈夫、ですか?』

「!?」

 

目の前の花が光り、その花を中心に透き通った青い女の子が姿を現した。

その姿はまるで…

 

「妖精?」

『まあ、わかるんですね♪』

「あ、あってるんだ、君は一体…ッ!」

『…傷を負ってるんですね、少し失礼します』

 

女の子が俺の手に手をやると青い水が俺の傷口を包み込み、瞬く間に傷が癒される。

 

「凄い…、君は一体…」

『私はこの花に宿る妖精です、この近辺に存在していた、サプレスのエルゴの守護者、法の天使長様にお仕えしていました。しかし先月ほどの事です、積層結界が破壊され、巨大な召喚儀式が行われ、サプレスのエルゴの力が失われたのです。そのせいで私も力を失い……』

「サプレスのエルゴ…?天使長?あの、ごめん俺には何が何だが…」

 

何か重要なことを話してくれるがイマイチよくわからない…、エルゴって確か昔の王様の事だったよな、

それに召喚儀式って…あの召喚儀式後のことなのかもしれない、

俺がいきなりの事で理解できないのを理解した様子で少女は俺に謝った。

 

『あはは、すいません、久々に人と…、いえ誰かとお話しするのは久々だったもので…』

「そうだったんですか…」

『あなたですよね、この森を救ってくれたのは』

「え?」

『この森を通してずっと見ていましたよ、貴方があの魔獣を倒してくれたことを…、おかげで私は助かりました』

「助かった?」

『はい、あの魔獣は私を探していたんです。私の管理する、この妖精卿の扉を…』

 

少女は視線を向ける先には碑石が存在する、どうやら妖精卿と呼ばれる世界の扉らしい。

 

『既に妖精卿への道は断だれておりますが、その道を記されるものでもあります。悪しきものに渡ればきっと恐ろしいことになったでしょう…』

「これがそんなに危険な物なのか…」

 

妖精卿とって言うのが何かはわからないけど、妖精って言うのが強そうには見えない、

だけど不思議な力を持っているのはなんとなくわかる、たぶん、妖精卿に悪い連中が攻め込まれでもしたらきっと…。

 

「だけど、トードスが君を探すためにここに召喚されてたなんて…、はぐれ召喚獣じゃなかったのか」

『召喚したのは誰かはわかりませんが、本能で動く魔獣の誓約を長期間持続させるところを見るとかなりの力の持ち主かと…』

 

少女は少し悩んでいる様子で、俺にあることを頼むことにした。

 

『不躾がましいのですがお願いがあるのです、この妖精卿への扉を…、破壊してもらえないでしょうか?』

「え!?だけど…そしたら君は…」

『いえ、もう私は妖精卿に未練はありません、この森で暮らし、この森の住人を見守ってきました、これからもそうするつもりです』

「だけど…」

『もちろんただでというわけではありません…、私を…あなたの召喚獣にしてくださってかまいません』

「え!?」

 

召喚獣…、つまりこの妖精は俺の仲間になってくれるという事なのか。

 

『死の眠り…、私の力ならば治すことが出来ます、それに…この森を照らした天使の光…、あれは私が仕えていた方に近い魔力を持っております、あの女性を私は死なせたくないのです…』

「クラレットを…、治せるのか!?」

『はい、私の慈水の大奇跡をもってすれば』

 

少女はそう語る、だけど俺はどうにもこの扉の事が気になった…

もしかしたら…。

 

「なあ、妖精卿ってもしかして、メイトルパにあるのか?」

『はい、メイトルパの隔離された空間、その入り口に通じているんです』

「だったら少しだけ、少しだけこれを壊すのを待ってくれないか…、実はメイトルパに帰りたがってる子がいるんだ」

『…そうですか、わかりました、今はあの方を助ける為に力になりましょう、サモナイト石を此方に』

 

頷くと俺は緑色に輝くサモナイト石を取り出し、少女と誓約を交わす、

そして少女の口から知られていない、真の名が伝えられる。

 

『私はメリオール、睡蓮花の妖精メリオールです。今後ともよろしくお願いしますね』

 

---------------------------------

 

ハヤトが行方不明になった、クロはあの後、ハヤトを助けようとしたが、

亀裂はそのまま大きくなり、そして亀裂そのものを飲み込むように崩れていった。

その後、雨が降り、月光花の捜索も結局無駄になってしまった。

朝日が昇り、時間が来た彼らはフラットに帰ってきた…。

 

「…」

「にゅぅ…マスタぁ―…」

「なんで泣いてるのよ、別にアイツが…、死んだわけじゃないでしょ!死んだら嘘つきよ!」

 

そう強気で言うが、涙目になっていて声がエルカも震えている、

ユエルはあの後もハヤトを探すと言って森に残っていた。

 

「…………」

 

リプレは何も言わなかった、ハヤトが行方不明になった時は取り乱したが今は落ち着いている。

いや、諦め始めている、薬も手に入らず、このままじゃ子供たちが居なくなってしまうことに。

 

「行くしかねぇな…、レイド、エドス。お前らも行くだろ?」

「仕方ないだろうな…、このままじゃみんなお陀仏だ」

「…だろうな」

「だけど…、アニキはどうなるんだよ!」

「だからあいつは…!」

 

それぞれが覚悟を決め始めた時、ガウムが窓の外を覗いて騒ぎ始めた。

 

「きゅーっ!きゅーっ!!」

「ガウムどうしたんですの?、あれこの匂い……っ!マスターですの!!」

「なんだってっ!?」

 

殆どのメンバーが外に出ると朱のガレフにまたがり、ハヤトとスウォンが姿を現した。

その横にはユエルも追従している。

 

「ふにゅぅぅぅ~~ん!!ま゛ずだぁぁ~~!!」

 

我慢してた涙腺が完全に崩れたのか大泣き状態でハヤトに飛びつくモナティ、

ハヤトも何とかそんなモナティを抱きかかえてみんなの方を見る。

 

「みんな、遅くなってごめん」

「おせえよ!俺達がどんだけ心配したのかわかってんのか!お前も早く行くぞ!」

「それなんだけど…」

「にゅう?」

 

泣いているモナティを離してみんなを見る、

そして懐に大事に抱え込んでいた、サモナイト石を取り出した。

 

「何とかなるかもしれないんだ」

 

---------------------------------

 

子供部屋、そこに今、子供たちとクラレットが同じように並べられていた。

ハヤトは深呼吸して、サモナイト石に魔力を貯め始めている。

 

「でもさ、その…、睡蓮花の妖精だっけ?それでなんとかできるわけ?」

「本人がそう言ったからたぶん何とかできると思うけど…」

「何とかできるわよ」

 

アカネの指摘にエルカがズバッと答えた。

 

「メイトルパの妖精わね、天使の系譜に連なるのよ、いわゆる自然的な天使ってわけ、つまり病とかそういうのに凄く長けてるのよ」

「つまり、妖精さんが病気とか治せて、天使さんが怪我とか治せるわけですの?」

「……まあ、それでいいわ」

 

モナティの考えを特に否定はしないでエルカはハヤトを見る、

既に石にはかなりの魔力がため込まれている、ハヤト自身、持てる魔力全部籠めているのだ。

 

「ハヤト…、お願い子供たちを助けて…」

「わかってる、リプレ。絶対に助けて見せる…、みんなを助けてくれ…、メリオール!!!」

 

子供たちのすぐ近くにゲートが開かれる、そこから美しい青い少女が現れる、しかし現れて瞬間。

 

「ぐっ!うぐぅぅっっ!!」

 

ハヤトは自分から膨大な魔力が吸い取られていくことを感じる、

メリオールは召喚獣としてなら最上級クラスの消費量をもつ召喚獣のためだ。

あらゆる病を癒し、全ての邪悪を退ける結界を張れる、

法の天使長のあとを任されるほどの召喚獣をハヤトが召喚できる技量は当然なかった。

 

『少しだけ、持ちこたえてください…、森の滴、森の恵みよ…、我が声を聞き届け、そして今、奇跡の癒しでこの我が子を救いたまえ…』

 

彼女の手をかざすと黄金色に輝く水が現れ、子供たちを包み込んでゆく。

 

『金色の慈水よ!全ての不浄を清めたまえ!!』

 

慈水の大奇跡、死にかけた病すら癒す、彼女の持つ最上級の治癒の奇跡、

無論ハヤトが行使できるはずもないが、死の眠り程度なら癒すとが出来る。

そして水に包まれた子供たちの体から黒い水が沸き上がり水の中に溶け込んでいった…。

 

「凄い…、ここまでの召喚術だなんて…」

「すごいですの!マスター!!」

「きゅーっ♪」

 

黒い水が全て流れ出た後、黄金の水が消えてゆく、

水でありながら衣服などは一切濡れておらず、それが普通とは違うことを現していた。

 

「…あ、あの」

『もう、大丈夫ですよ。あなたの子供たちの病は全て流れました』

「ホントなの…?」

『ええ』

 

メリオールは慈愛に満ち溢れた表情を浮かべリプレに語り掛ける、

リプレはすぐに子供たちに駆け寄り全員を抱きしめて泣き始めた。

 

「ありがとう…、本当にありがとう!」

 

メリオールは笑顔のまま、ハヤトに顔を向けると口を開いた。

 

『お疲れ様です』

「ああ、お疲れ…」

 

そう伝えると全ての力を使い果たしたのかハヤトの意識はそこで途切れたのだった…。

 

---------------------------------

 

黒い、黒い膿のようなものが私に纏わりついてくる…。

 

目の前の光景を認めたくない…。

 

子供たちが死んでいる、一人は首が無い、もう一人は下がない、もう一人は連れてかれた…。

 

親たちが死んでいる、同じように首のない子供を抱きしめながら死んでる女性。

 

それを守ろうとしたのか全身が溶けている男…、

 

――オマエガ居タカラダ

 

「違う、私は…ただ…」

 

後ろを振り向かされると両腕が潰れた少年がいる…。

 

その近くにも黒焦げになった鎧を着た青年が立っていた。

 

――オマエガコノ世界ニ来タカラ

 

「来たくて来たわけじゃないの…、私は呼ばれて…」

 

呑まれるように黒が私の視界を変える、

 

次の光景は狩人、狩人は狂った少女に食い殺されていた。

 

その近くでは頭の一部を切り取られ息絶えた少女、そしてそれを守ろうとした少女とゼリー状の物体。

 

そして立ちながら絶命している、一匹の小動物…。

 

――オマエニ関ワッタセイデミンナ死ンダ

 

「違う違う違うちがうちがうちがうちがうチガウチガウチガウチガウ!!!」

 

否定続ける、そこでこの悪夢は繰り返される、ずっと…ずっと繰り返される…。

これ以上先に行かないで…、この先は…。

 

黒は私の視界をまた変えてゆく、見たくないのにその視界は変わってゆく。

そこに立っていたのは一人の少年、自分の全てを変えて、自分を大切に思ってくれる人。

私が愛してる人…。

その人に手を差し伸べる…、その手が彼に届くと瞬間…。

 

 

 

 

 

彼の体が破裂した。

 

 

 

 

「あああアアぁぁァァァ!!!??」

 

息もせずに彼の無事だった部分を抱き上げる、認めたくない、

これは悪夢なんだ、目を覚ませば、また…、またきっと!

彼は私を…私を安心させて…。

 

「どうして…」

「え…?」

 

悪夢が口を開く、認めたくないものが口を開いた…、

違う…、これは彼じゃない、だってだって…。

彼は【そんなこと絶対に言わない】だからこれ以上喋ったりなんか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして俺をこの世界に呼んだんだ」

 

「ああ…アアアああああああアアアアアぁぁぁアアアァァぁぁぁあああ!!!!!!」

 

 

私の心は…、壊れた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い黒の奥底で私は悪夢を見続ける、

自身が思ってしまった未来を見続ける、

こうすれば良かった、こうすればみんな救われたかもしれない…、

そんな【もしも】をずっと頭の中で考えさせられる。

結局その先は悪夢しかないのに…。

 

「誰か…、助けて…」

 

望んでしまう、自分で何をしても救われないから、

自身が望んでしまう、自分をいつも助けてくれた人を…。

 

「助けて…、ハヤト」

 

 

 

 

 

 

その時、世界が輝いた、黄金色に輝く水が私に纏わりついた黒を流してゆく。

そしてその光は私を包み込み、壊れ切ったはずの心が癒されてゆく。

 

「この光…、ああぁ」

 

私は気づいた、この優しい光にハヤトが居ることを。

 

「ありがとう、ハヤト」

 

いつもの様に口に出す、おまじない、お互いを繋げる言葉を口にしたクラレットは目覚めた。

 

---------------------------------

 

私は目を覚ました、先ほどの夢はきっと夢だった、

でもあれはきっと私が恐れている未来だと理解できた。

周りを見渡すとこっちに椅子を向けながら器用に寝ているハヤトの姿…。

 

「良かった…」

 

あの黄金色の水にハヤトの魔力が宿っていた、

それだけでハヤトがどれだけ頑張ったのか私にはわかった。

 

「私も…、頑張らないと…」

 

夢で見たあの選択肢、その中で唯一選択してなかった答え、

私を救ってくれたハヤトを見て決心がついた。

 

「全部、話す。それがみんなを救う道」

 

自分の知っていることを全部伝える、

自分が何のために生まれたのか、自分を追っている敵はなんなのか。

それを伝えて、その後みんなに決めてもらおう、もし追い出されてもきっと諦めがつく。

 

「ん…んぅ?」

 

呟いているとハヤトが目を覚ましてくれた。

 

「あれ…、クラレット?」

「おはよう、ハヤト」

 

そう伝える、いつも通り起きた彼に声をかけた。

しかしいつも通りにいかないのも彼なのである。

 

「・・・・・・・」

「は、ハヤト?」

「クラレット!!」

「きゃっ!?」

 

---------------------------------

 

目を覚ました俺はクラレットに無我夢中で飛びついてしまった。

抱きしめて柔らかくて暖かいのを理解してすぐに理性が戻ってくる。

 

「えっと…ハヤト?」

 

ずっと抱きしめていたいが、ここからどうすればいいのか悩み始めた、

抱きしめてから悩むって…、なんだ俺は…。

 

「…全く、仕方ないですね。ハヤトは」

 

そう言うとクラレットは俺の背中をさすって抱きしめてくる。

 

「心配かけてごめんなさい、ハヤトが助けてくれたんですよ」

「…みんながいてくれたからだよ、クラレットか連れ帰ってくれたエルカだっていなくちゃどうにもならなかった」

「エルカが?」

 

細い糸の様につながった奇跡、

もしエルカをクラレットが連れ帰らなければ、もしガゼルがアカネとぶつからなければ、

もしトードスの生き残りが俺達を襲わなければ、

きっとどれか一つでもなければここまでこれなかった…、ホントに…。

 

「良かった、生きててくれて本当に!」

「ハヤト…」

「俺、クラレットが居なくなるかもしれないって思って…、ホントにつらかった、一人にしないでくれ…」

「…私はここにいますよ、あなたの横にずっといますから」

 

自分の弱音を吐き続ける、クラレットはそれを優しく聞き届けてくれた、

俺は抱きしめている手を緩め、クラレットの顔を見つめる。

 

「クラレット…」

「…ハヤト」

 

お互いの名前を呼び合いながら、次第に顔が近づいていく、

まるでそれが当たり前の様に俺達の影が重なろうとしてゆく。

だが、突然ドアノブが動かされ、二人して驚いて互いに顔をそむけてた。

 

「まーっすーったーっ!起きましたの?あ、クラレットさん起きたんですの!!」

 

そして、そんな二人の空気をものの見事にぶち壊しにする狸がここに。

 

「も、モナティ!?」

「ちょっとレビット!あんたには気づかいってものがわからないの!!」

「うにゅぅ!?やめてくださいですの、エルカさん!」

「クラレット、起きたんだ!よかったぁー!」

「きゅーっ!」

 

モナティを初めとする、メイトルパガールズ、おおよそ気づかいをよくわかってない2人である。

 

「はぁ~、お前たちは全く」

「なによ!あたしをこんなレビットとオルフルと一緒にしないでほしいわね!」

「エルカ、ユエルの事名前で呼んでよ!」

「モナティも名前で呼んでほしいですの!」

「うっさい!あんたたちは種族名で十分よ!」

 

人の部屋だってことがわかってるのか知らないが三人ともギャアギャア言っている。

そんな状況を見てクラレットはニコニコしていた。

 

「ハヤト」

「ん、なんだクラレッ」

 

その瞬間、俺の頬に柔らかく暖かいものが触れる、

チュッという音小さく立てて、クラレットが少しばかり顔を赤くして答えた。

 

「お礼ですよ♪」

「は…ははは、最高のお礼だよ、クラレット」

 

メスクルの眠りのせいで半壊しそうだった、俺達の繋がりは、

この問題を乗り越えた時、更に強い繋がりに変わったと俺は確信した。

でも、惜しかったなぁ、あそこでモナティが入ってこなかったらどうなってたんだろう…。

 




どうしてこうなった…。
最初はイリアスに土下座する予定でした、
次は森の奥にあるトキツバタを採取する予定でした(実はあるという設定だった)
次はエルカの見た、月光花で薬を作る予定でした(書いてる段階ではこれ)
決定版が、睡蓮花の妖精、メリオール登場(オリキャラ追加するなよ!!)
ま、まあクロと同じ枠だし、そんなに出番はないから…(震え声

ノリで書いてるとホント文字数増える、良くないですね。
まあ満足するために書いてるんでそうでもないですか。

次はサブイベ書きそう、メリオールとソルサイドの話でも。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。