暇が合ったら番外編で無印主人公×パートナー好きに25のお題とかやってみたいわ。
――居場所は人に与えられたり奪ったりするのものなのだろうか…――
ソル・セルボルトという恐るべき敵を退けた次の日、俺は何時ものように訓練をしていた。
あの時、俺は後ろから召喚術を使うしかできなかった、
クロと正面から渡り合いその上、こっちの召喚術にも対処するあの強さ、
ソルの桁外れの強さに俺は実力の違いを実感せざるえなかった。
少しでも強くなろうと訓練にも力を込めてしまう、
だが師範に動きがいつもと違いぎこちない事を指摘され相談に乗ってもらっていた。
「なるほど、ソル・セルボルトか」
「はい、恐ろしいほどの実力の違いを感じました」
「あの時の小僧がそこまでの実力になっていたか…」
師範の言葉に俺は驚いた、ソルと師範が知り合いだったなんて。
だけど考えれば普通だろう、師範は昔のクラレットと知り合いだったんだ。
ソルの事を知っている可能性があってもおかしくはない。
「剣の才能は無いと思っていたが、ある程度使いこなすようになっているようだな、話を聞くと召喚術の補助のような役目か」
「クロの攻撃を正面から止めたり色々規格外でしたよ…」
「そう不思議なものでもない、魔力で身体能力を強化してるだけだ、おぬしが普段やっている事の上位のようなものだ」
ソルの強さは俺の上位ってことか…、じゃあ俺も鍛えればそこまで行くのか?
いや、今から鍛えてもそこまでいかないだろう、じゃあどうすれば…
俺が悩んでいると師範がそれを察して声をかけてきてくれた。
「ふん、何を悩んどるか知らんが二人がかりで負けたなら3人4人、10人で袋叩きにしてしまえばいいだろう、相手の数に律義に合わせる必要などない」
「えっ…?」
「貴様とソルの戦いは殺し合いだ。殺さなくてもいいがな、とにかく殺しに来る相手にいちいち合わせる必要などないということだ」
確かにそうだ、よく考えればこの世界に来てからほとんど一対一の戦いが多かった、
相手の中には殺しに来る連中も多い、ならこっちが数を律儀に合わせる必要もないんだな。
みんなの力で戦えばいいってことか。
「ありがとうございます。一人で抱え込みすぎてたみたいです」
「まあいい、今日はもう終わりだ。クロも不調のようだからな」
「はい、お疲れ様でした」
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師範との訓練が終わり、俺は玄関の方から孤児院の中に入ろうとすると、
そこにはクラレットとリプレに子供たちの姿があった。
どうやら出かけるのはラミとフィズ、リプレのようだ。
「みんな揃って、どこかに出かけるのか?」
「あ、ハヤト。訓練お疲れさま。ちょっとこの子たちと服を見にね」
「見に行くだけで、買うわけじゃないけどね」
ニヤニヤしながら元気に答えるフィズ、
その発言にリプレが顔を少し赤くして怒った。
「フィズッ!よ、余計なことは言わなくていいのっ!」
「ふふ、そんなに恥ずかしがることでもないですよ?」
「でも、恥ずかしいのよ!」
クラレットとリプレの会話でもよくわかってない俺にラミが裾を引っ張って答えた。
その腕の中にはいつもの人形と不調なのかいつもよりムスッとしてるクロが居た。
「おてほん、なの」
「お手本…、ああそういうことか」
「そうよ、売っている服をお手本にして、リプレママはそれを作っちゃうの」
「ラミたちのふく、みんなそうなの…」
「へぇ…」
そういえば俺たちの服もリプレが作ってくれたものだったよな。
キルカの反物で結構丈夫なんだよなぁ…。
というかこんなにいい服を作れるなんて感心する。
「リプレは凄いなぁ、料理もできて服も作れて子供たちにも好かれてるし、リプレと一緒になれる奴は幸せ者だな」
俺の言葉を聞いてリプレの顔が真っ赤に染まる。
「そ、そんなことないって!」
「いや、ここまで色んな事出来るなんて凄いことだよ」
「そ、そう?みんな行くわよ、じゃ、じゃあね!」
「はあぁー、お兄ちゃんはまったく、ご愁傷さま」
「いってくるね…」
「…」
なぜか焦りながら家をリプレたちは飛び出していった。
「充分に凄いと思うんだけどなぁ…」
「ふふ、ところでハヤト?」
「どうしたんだクラレッ、イデデデデデッッ!!」
「勘違い発言やめてくださいって何度言ったらわかるんですか!!」
俺の耳を引っ張り耳元で大声をクラレットは叫ぶ、
耳がキーンッとするのを我慢しつつクラレットに弁解をした。
「いや、だから何のことか全然わからないんだけど…」
「もういいです、私も出かけますから!」
「ちょっと待ってくれよ!悪かったよクラレット!」
「何が悪かったんですか?」
「えっと………なにが?」
「ふん!」
プイッとしながらクラレットが外に歩いてゆく、俺もそれを追って街に向かうのだった。
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クラレットを追いながら南スラムを歩いていると壁に背を付けてのんびりしてるガゼルが居た。
ガゼルは俺達を確認すると苦笑いをしながら近づいてくる。
「まったく、お前らはイチャイチャしてるか痴話喧嘩してるかどっちかだな」
「ガゼル、そんなんじゃないって」
「そうです、全部ハヤトが悪いんです!」
「いや、だから何が悪かったって…」
「ふん!」
ガゼルはそんな俺たちの様子を見て微笑しながら答えた。
「…、しかしよ。お前らも随分と馴染んだもんだな」
「「え?」」
「最初に来た時よ、やれ元の世界だ、迷惑かけたくないわで随分ゴタゴタしてたじゃねぇか。半月で随分馴れるもんなんだな」
「最初の頃か…、ガゼルの顔面を殴ったのが印象深い」
「私は押さえつけられたことですね、あれ?あれってガゼルさんでしたっけ?」
「あ~、まああの時は悪かったな。金を貯めることばっかり考えててよ、まあ今も変わらねぇけど」
お金を貯める…、確かにその通りだが俺たちが来たときのフラットには余裕があった、
ならなんでガゼルはお金を貯めようとしてるんだろ…
そう考えているとクラレットがその疑問を質問し始めた。
「ガゼルさんはなんでお金を集めてるんですか?今でもある程度は平気だと思いますけど…」
「チビ達がよ、大きくなったらそうもいかねぇ、食べる量も増えるし色々と物入りにもなる。そういうのを我慢させたくねぇんだよ。まあ、結局のところ、世の中の仕組みが変わらねぇとどうしようもねえんだけどな」
「「………」」
「なんだよ、二人して黙ってよ?」
「「意外と考えてるんだなぁ(いるんですねぇ)」
「ほっとけ!」
不貞腐れるガゼルと別れ俺とクラレットはアルク川へと向かってゆく、
喧嘩してた二人だが何時の間にかいつもの調子に戻っていた。
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「そうかぁ、ユエルの服かぁ」
「はい、ユエルと同じ大きさの服がないんで作ろうって話になったんです」
確かに今着てる服はクラレットやリプレの服だ、ぶかぶかで大きさがあっていない。
その上、二人はスカートな為、動き回るユエルとマッチしていないのであろう。
フィズの服などが合ってはいるがあれだと少し小さいのだろう。
そんな話をしていると、アルク川付近の木の根元で休んでいるスウォンの姿が見えた。
「あれ、スウォンじゃないか?」
「ああ、ハヤト、クラレット。こんにちわ」
「こんにちわ」
「どうしたんだ、こんなところで?」
スウォンの顔はやや疲れているようであった、
彼の近くに買い物した後であろう荷物がいくつか置いてあるのも見える。
「いや、ちょっと休んでいただけですよ。久々に街に出たら賑やかな人混みで酔っちゃって…」
「なんで街に出たんだ?」
「ユエルの生活用品を買いに来たんですよ、流石に召喚獣でも女の子だからね。色々と物入りなんです」
「ああ、そっか。ごめんな」
スウォンにはユエルの保護者を頼んだんだっけ、
確かに前に二人暮らしって言っても一緒に住んでたのは父親だったんだよな。
なら女の子のユエルは少しいろいろ必要そうだよな。
「これからこの世界で住んでいくんですから、ある程度は用意しますよ、僕と同じですから…」
「あの、ある程度は私たちも負担しましょうか?」
クラレットはそう尋ねるがスウォンを首を振った。
「ユエルは狩人ですから、狩りとか手伝ってもらえますし、そこらへんは大丈夫ですよ」
「そっか…、そういえばユエルはどうしたんだ?何時もならうちかスウォンのところに居るのに」
「今日は森でジンガと会って、なにかストラを教えてもらってるみたいです」
「ストラ、ジンガが?」
スウォンの話を聞くと森で修行していたジンガを見つけたユエルがその理由を尋ねたそうだ。
自然の中で訓練するとより強いストラを生み出せる、
ストラが傷を治せるっと知ったユエルはそれを使いたくなってジンガに教えを乞うたそうだ。
だけど…相手がジンガじゃなぁ…
「あ~、たぶん無理だと思うぞ、一緒に訓練するけどジンガって人に教えるの全然だし」
「ハヤトも簡単なストラ使えるじゃないですか?」
「序の序ってとこだよ、長時間動いても息が乱れにくくなるだけだし、俺が覚えるときも師範に教わったからなぁ…、師範ってストラ使えるのかな…」
悩んでいるとクラレットが何かを思い出したようにハッとした。
「…そういえば、ハヤトが前に大怪我したとき治療に来たお医者さんがストラを使っていたような…」
「そうなのか?あの時気絶してたからあんまり覚えてないなぁ…」
「もし会える機会があれば聞いてみますね」
「はい、よろしくお願いします。きっとユエルも喜ぶと思います」
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スウォンと別れたハヤトとクラレットは特に考えなく歩いてた。
何か考えているのか今は無言で歩いているハヤト、
そんな彼の横で歩きながらクラレットは思ってた。
―この世界でもこうやってハヤトの横を歩けるなんて…
彼女がこの世界に来てから色んなことがあった、特にこの前のガレフとの戦いはそれこそ危険だった。
それでも二人は生き残りこうやって二人で歩けることにクラレットは幸福を感じていたのだ。
そう思いながら歩いているとハヤトは立ち止った、そこはサイジェントの領主が住む城の前だった。
「ハヤト?」
「あ、ああ、街の騎士はオプテュスの事どう思ってるんだろうなぁって」
「そうですね…」
「被害にあってるのは俺達だけじゃないみたいなんだし取り締まったっていいと思うだけどな…」
「この街の騎士たちは召喚師の言いなりです、上級階級の人が被害にあわないときっと動かないんだと思います…」
うつむきながら答えるクラレットを見ながら酷い格差だと思った。
やっぱり俺たちの世界とは全然違うんだなっと思っていると門の付近に居る一人の女性が近づいてきた。
「そこの貴方たち、さっきからここで何をしているのですか?一般市民の出入りは、裏門からですよ。受付をしてきなさい」
「え?いや、俺は別に…」
「私たちは散歩でここを通っただけなので」
「…あやしいですね」
「「!?」」
二人は自分たちの迂闊な行動に焦った、何せ剣は持ち歩いているのはいい、だがサモナイト石まで持ってるのだ。
まともな召喚師ではない二人が捕まったら厄介なことになるのは間違いがなかった。
その場から逃げる算段を考え始める二人に金色の髪をした男性が近づいてくる。
「どうした、サイサリス?」
「イリアス様…、この者達が先ほどから、城の前で不審な行動をとっていまして」
「そんな、私たちはただここを見ただけで…」
「なるほど…、が、わざわざ詰め所で調べることもあるまい」
「しかし、もしこの者がよからぬことを企んでいたとしたら…」
「サイサリス、騎士団長である自分が必要ないと判断しているんだぞ?」
「……」
騎士団長、その言葉を聞いとき頭を過ぎったのは赤い鎧の剣士だった。
あの人も確かソルに騎士団長って呼ばれてたよな…
「あの、騎士団長なんですか?」
「ああ、サイジェント騎士団の騎士団長、イリアスだ」
「あの聞きたいことがあるんでるが、ラムダさんって人を知ってますか?」
「!?」
俺がラムダさんの名前を出すと二人は驚愕を現していた。
いや、サイサリスという少女は目つきを鋭くしてこちらを見つめなおしたようだ。
「イリアス様!やはり…」
「待てサイサリス…、君はどこでその名前を知ったのかな?」
「実は…」
ハヤトはソルと戦ったことを伏せてはぐれ召喚獣やオプテュスから助けてもらったという事で伝えた、
それを聞いたイリアスは少しばかり考えたようだがすぐに言葉を出す。
「確かにラムダ先輩はこの騎士団の元団長だよ、といっても少し仲違いをしているんだがね」
「仲違い?」
「詳しく聞かない方が身のためですよ」
イリアスさんもサイサリスもどうやら深い事情があるようだ、
あまり首を突っ込まない方がいいのかな?
「いえ、こちらこそ教えてくれてありがとうございます」
「いや、こっちもラムダ先輩の事を教えてくれて礼を言うよ、しかしあまり迂闊な行動をしない方がいいぞ?君のような立場の人間は捕まると困るんじゃないか?」
それを聞いた俺とクラレットは内心驚いた、自分たちの事がばれているのではないかと、
だがそれはどうやら勘違いだったようだ。
「君達はスラムで暮らしているんだろう、雰囲気でわかるぞ」
「あ…」
「ははは、心配するな、捕まえたりはしないさ、どこで暮らしていようとも、住民は守るべき存在のはずだからね、自分は騎士としてそうありたいと心がけているつもりなのさ、さあ行きなさい」
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イリアスさんと別れて城から離れるように道を歩いていく、
騎士団長があんなにいい人なのにその上が悪いとここまで大変なのか…。
自分じゃ何とかできないって分かってるのにどうしても何とかしたいと考えてしまう。
とりあえずこの世界にいる間はリプレたちの手助けをしないと…
「あの…、ハヤトここって…」
「ん…、あ」
周囲を見ると同じスラム街、だが南スラムとは違いやたらと空気が重いというか殺伐としている。
ここは恐らく…
「北スラム…」
「少し遠くに来すぎましたね…、すぐに離れましょう」
「ああ、そうだな」
クラレットが俺の手を掴みその場から離れようとする、
だがそれは一つの怒号ともいえる声で叶わなかった。
「おい、そこのてめェ!」
「この声って…」
「呼ばれているのがわかんねぇのか?このはぐれ野郎ッ!!」
その声の方を見ると今一番会いたくない相手がいた、
色白の肌に髪、赤い瞳の青年がそこに立っていた。
「バノッサ!?」
「しばらくぶりだなァ、おい?」
「あ、ああ…」
「で、俺様の縄張りにわざわざ顔を出すたぁ、どういうつもりだ?」
「ぐるっとサイジェントを一周してたらこちらまで来てしまったんです、他意をありません」
「そんな嘘みてェな話に引っかかると思ってるのか?」
「嘘じゃないんだけどな、ホントに散歩してただけなんだよ」
「まあいい、本当の事を話そうとしねェんなら…」
バノッサが腰に掛けている剣に手を伸ばそうとする、俺も剣に手を伸ばしかけたが…
「まあまあ、まあまあ、待ってくださいよ、バノッサさん」
バノッサの後ろの方から近づいてくる人影がいた、カノンだ。
カノンはバノッサを宥めようと声をかけている。
「邪魔すんじゃねェ、カノン!」
「そうコワい顔しないでくださいよ、そんなに怒ってばかりだと、体に良くないですよ?…ねえ?」
「そ、そうだよな?」
「は、はい、笑顔は元気のもとですから」
こちらにいきなり話を振られて少し混乱したが何とか答えた、
まあ、バノッサが笑顔とか全然想像できないんだけどな、むしろ怖い。
バノッサはそんなカノンの雰囲気のせいで不貞腐れたようだった。
「…チッ!やめだ!やめだッ!!おい、はぐれ野郎ッ!さっさと俺様の前から消え失せろッ!」
「見逃してくれるって言ってるんですよ」
「このへらへら笑ってる馬鹿野郎に感謝しな、クソッ…!!」
バノッサが苛立ちながら俺達から離れてゆく、
やがてバノッサが居なくなった辺りでカノンが声を上げた。
「へらへらしてるなんてヒドイなぁ」
「カノンさん、ありがとうございます」
「俺の方も礼を言うよ、流石にここでバノッサとやり合うのはちょっと勘弁だったからさ」
「あ、いえいえ、いつもの事だから気にしないでください、でも、お兄さんも気を付けてくださいよ。あんまりバノッサさんを刺激しないようにね」
俺はカノンを見ていて、思う。
カノンは優しい性格をしている、自分達がこの世界に来たせいでオプテュスとの抗争がが激しくなったならそれをなんとかしたかった。
カノンを通じてもしかしたら分かり合えるかもしれない。
「どうしたんですか?早く帰らないとバノッサさんが戻ってきますよ?さ、早いところ退散しちゃってくださいね」
「ハヤト?」
クラレットが俺の顔を覗き疑問を抱いているようだ。
確かにバノッサが戻ってくればめんどくさい事になりかねないな、
すぐに用件を伝えないと…
「なあ、カノン、実は頼みたいことがあるんだ」
「僕にですか?」
「カノンと話をして思ったんだ、成り行きで俺はオプテュスと対立してるけど、できれば俺は、君たちと和解したいと思ってるんだ」
「…ボクも同じです」
「じゃあ!」
俺が声を上げるが、カノンの表情は硬いままだった。
「けど、バノッサさんはそうじゃない、バノッサさんは、南スラムを縄張りにするためにフラットの人を狙ってました。お姉さんがフラットに入るまでは…」
「わ、私ですか?」
思いもよらない言葉にクラレットは驚いていた、
だけどクラレットが理由ってことはやっぱり…。
「召喚術なのか?」
「はい、お兄さんたちが使う不思議な力…、あれが召喚術なんでしょう?今のバノッサさんは、それを狙っています。お二人の力を手に入れたがっているんですよ」
「そんな…、でもあの人に召喚術は…」
「それがかなわない限りあの人はあなた達をつけ狙います。そういう人なんです…」
「そんな…」
そう伝えるとカノンは去っていく、
そして突き付けられた現実を受け止めながら俺とクラレットは孤児院へと戻り始めた。
そんな時、クラレットが俺に問いかけた。
「あの…、なんでカノンさんに聞いたんですか?」
「え?」
「ほら、和解しようとしたことですよ」
「…、オプテュスとの対立が悪化したのは俺が原因だろ?だからその責任を取りたくてさ…」
「それはそうですけど…、もしかして自分が行けばいいと思ってなんていませんよね?」
「そりゃ…、まあ少しは思うけど、クラレットの事もあるしそれに…」
「それに…、なんですか?」
頭をよぎったのはあのソルの事、自分がもしフラットを抜けたら確実に攫いに来る。
その事を考えると迂闊な行動は出来ないよな。
やっぱりみんなにバノッサの事を話さないといけないな。
それにしてもどうしてバノッサは召喚術が欲しいんだろう…。
「バノッサはなんで召喚術を使いたがってるんだろう…」
「恐らく、手に入れることそのものが目的だと思います」
「手に入れること?」
「ハヤトも知ってると思いますけど、召喚術は使えるというだけで武器になるんです。実際に使わなくても召喚術の絶大な威力はこの世界に広まっていますから」
「使えるだけでおどしになるってことか…」
俯きながらクラレットは再び答える。
「それだけじゃありません、召喚術はお金にもなります、権力を持ってる人に力を貸せば出世なんてあっという間なんですから、この街の召喚師たちもそういう人たちです」
「あ…」
確かガゼルは少し前まではサイジェントはこんな街じゃなかったって言ってた…、
召喚師が街に来て全部変わっていったって…
「それだけの力があるんです、私たちの使う召喚術は…」
「そうだな、気を付けないとな」
俺はバノッサが召喚術を求める目的がそれが理由なのか確信が持てなかった。
だけど召喚術はそれだけ強い力を持つという事を改めて認識した。
命を左右するだけじゃない、街という枠すら崩すほどの力だったんだ。
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「…ということなんだけど、俺はどうしたらいいんだろう」
「どうもこうもあるか!そんな無茶な要求叶えられるかよ!?」
孤児院でそろったフラットのメンバーにバノッサの目的を話した、
当然誰もその要求に賛成はしなかった。
特にガゼルやユエルは凄く嫌がってるようだ。
「ユエル、ヤダよ!そんな悪い人が召喚獣使うの!」
「僕はそのバノッサって人には会ったことは無いですけど、話を聞く限り、さすがに問題がありますね」
「しかし、このまま永久にやりあうのも困りものだろうな…」
エドスの言葉には賛成だ、具体的にバノッサが納得するか、
もしくはバノッサがいなくなるしか解決策は残っていない。
「きちんと説明したらバノッサも納得してくれないかな…?」
「…(ふるふる」
「彼にとって重要なのは召喚術が自分のものになるかどうかだ。説明をしたところで、納得するとは思えない」
クロが首を振りレイドさんも俺の考えを否定する。
「むしろお前さんの力を妬んで、より敵意を燃やしてくるかもしれんし」
「そう、だよなぁ…」
エドスの言葉を俺は肯定した。
クラレットの話では俺の召喚術は普通の召喚術とは違う。
ガゼル達が使うような初歩の技でバノッサが納得するとは思えないし。
「そもそも、バノッサの野郎はなんで召喚術にこだわるんだ?」
「それはわからないが、彼が力に対して異常なこだわりを持っていることは間違いないな」
「……」
エドスが何か考えているようだが表情からはそれを読めない。
「今の状態で結論を出すのは無理だろう。続きは、またにしよう」
レイドさんのその一言で今日は解散した、
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その日の夕飯を食べ終え、ユエルとスウォンを見送り自室の扉を開けるとクラレットが何やら悩んでいるようだった。
俺が部屋の扉を開けたことも気にしないで考え事を続けている。
「どうしたんだ、クラレット?」
「あ、ハヤト。お帰りなさい」
「うん、ただいま」
何時もの挨拶をしてクラレットの悩んでいることを聞いた。
内容はやはりバノッサの事だった、異常なまでの力のこだわり、
なぜそこまで力にこだわるのか考えつかなかったようだ。
「力と言っても色々あります。彼が欲しいのは何のために使う力なのか気になって…」
「なんの、為にか…」
何のために力を欲してるか、俺の場合はクラレットを守る為だ。
ならバノッサは一体何をしたいんだ…?
「…復讐だろう」
「エドスッ!?、あ、エドスさん」
「何、今更さん付けじゃなくても気にはせんさ」
「あの、先ほどの言葉ってどういうことなんですか?」
廊下から部屋の中のクラレットにエドスが口を開いた。
「あいつの口癖さ。「復讐してやる」っていつも繰り返しとった、なにに復讐したいのかまでは知らんがな、下らん理由だよな本当に…」
「エドス…」
「くだらない…のでしょうか?」
「クラレット?」
クラレットがエドスの言葉を否定する、
ただ否定するだけじゃなく悩みながら否定していた。
「復讐と言ってもきっと…、バノッサさんの生きる理由なんだと思います、今でも思っているなら…、きっとその人は相手に大切な何かを奪われたのかもしれません」
「…そうだな」
その一言を言うとエドスも自分の部屋へと帰っていった。
復讐、バノッサの目的がそれでそれを果たすために召喚術が欲しいってことなのか?
もし、クラレットを奪われたら俺も同じようになってしまうのか…。
その日は俺もクラレットもお互い何も聞かないでそのまま寝ることにした。
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次の日、俺とクラレットは北スラムに来ていた。
理由はバノッサが召喚術を求める理由を聞くためだ。
できればカノン、最悪バノッサに直接聞きに来たのだ。
クラレットはバノッサの復讐する理由を聞きに来たそうだ。
なぜそれを聞こうとしてるのかは俺は聞いていないがきっと重要な理由があるのだろう。
「バノッサさんが召喚術を欲しがる理由ですか?」
北スラムに着いた俺たちはすぐにカノンを見つけることが出来た、
カノンは呆れるような仕草で俺たちを迎えてくれた。
「ああ、それがわからないことには話にならないんだ、召喚術はそれだけ危険な力だから…」
「……」
「教えてくれないか、カノン」
しばらく虚空を見つめていたがどこか悲しそうな顔をしてカノンは答えた。
「きっと…、自由になりたいからだと思います…」
「自由…、ですか?」
「誰にも負けない力を手に入れれば、だれからも邪魔されることなく生きていける、バノッサさんはきっとそう思っているんです」
自由に生きる…、だけどバノッサが今、束縛されているなんて考えつかない。
「ちょっと待ってくれよ。今だってバノッサは好き放題に生きているじゃないか?」
「……本当にそうでしょうか?」
俺の言葉を聞いてクラレットが口を開いた。
どこかカノンの言葉を理解しているような雰囲気を出していた。
「見かけはそうかもしれません、でも本当にその人が自由なのか自由じゃないのかはその人の考え次第です…」
「じゃあバノッサは自由じゃないっていうのか?」
「それも、わかりません。でも私の場合は…」
クラレットのその一言で3人とも何も言えなくなった。
カノンも事情は知っているし、あの暴走の事も知っているだろう。
もし、クラレットの考えているようにバノッサが自由じゃないっているなら…
「カノンッ!!」
「「「!?」」」
突然の怒声に3人は驚きながらその方向を見る、
そこには憤怒の表情を浮かべるバノッサの姿があった。
「そんな野郎と、何を喋ってんだ…?」
「バノッサさん…」
「何を喋ってんだって聞いてるんだよッ!!」
「うあっ!」
バノッサはカノンの髪を無造作に掴み身動きが取れないようにする。
こちらの都合で付き合わせたのにそのせいで苦しんでいるカノンを見過ごせない!
「やめろ、バノッサ!」
「すっこんでろッ!はぐれ野郎!!」
こちらの声に耳も貸さずバノッサはカノンの方を見ていた。
「カノン…、テメェ、俺様を裏切る気なのか?」
「そんな、こと…」
「口では何とでも言えるよなァ、カノン?だがな、それだけじゃ納得できねェッ!!、証明してくれよ…、お前の手で、こいつらをぶちのめせッ!!」
「なっ!?」
「あの時の誓いを忘れてねぇなら、できるはずだよなァ?」
「・・・・・・」
カノンは悩んでいる、見も知らない相手なら問題ないだろう、
だけど仮にも俺たちはそれぞれ関わってしまった、そのせいで…
「返事はどうしたんだ、カノンッ!?」
「バノッサ!!」
決めた、カノンにつらい思いをしてもらうぐらいなら…
「戦おう、バノッサ。これで終わりだ」
「なにッ?」
「お兄さん…」
「ハヤト、なんで…」
「どの道、カノンはバノッサの頼みを断れないんだろ?ならもういい、そんなに力で解決したいなら決着をつけてやる。だが約束しろ!これで俺たちが勝ったらもうフラットのみんなに手を出すな、負けたら召喚術でもなんでも教えてやる!!」
仕方なく戦うぐらいならこっちのペースに引き込んでやる、
これでこっちの力が上だと証明すればもうバノッサも手を出してこないはずだ。
今回でこんな戦いは終わりにする!!
「ククククッ!聞いたかカノン!どうやらはぐれ野郎は決着を付けるそうだぜ?」
「お兄さん…、わかりました。ボクも皆さんを倒すつもりで行きます」
「…ああ」
「というわけだ、このまますぐに始めてェがそれじゃあアイツらは納得しねえだろうなァ?さっさとお仲間を呼んで来いよ?俺様達とテメェらの決着をつけてやる。楽しみに待ってるぜ!」
多少乱暴な解決になったがこれでオプテュス抗争を解決できるかもしれない。
できれば俺達だけで解決したかったけどそれじゃ俺達が居なくなった後に問題が起こるかもしれない、
そう思いながらフラットのみんなを呼ぶために孤児院に戻ろうとするが…
「あの、ハヤト。私はここで待ってます」
「クラレット!?」
「心配をかけるのはわかってます、でもバノッサさんに聞いておきたいことがあるんです」
「…本当に今しか駄目なのか?」
「できればハヤトにも聞いてほしくは…」
ここにクラレットを一人残して置くのは不味いかもしれない、
だけどカノンもいるし、多少は問題ないと思うけど。
「…わかったよ、すぐにみんなを連れて戻る、無茶はしないでくれな?」
「はい、大丈夫です」
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ハヤトが去ったあと私はバノッサさんの前に立った、
どうしても聞いておきたいことがあったからだ。
「なんだ?化け物女、俺様になんか用かよ?」
「化け物女…、まああの時の事を考えると仕方ないですけど…」
「それで、なんか用か?」
「バノッサさん、あんまりひどいことは…」
「うるせェ!カノン、テメェは手下どもをありったけ集めておけ、いいかありったけだぞ!!」
「…わかりました」
カノンが街の方に消えてゆく、それを見届けた後、
私はバノッサさんの目を見て答えた。
「貴方は…、召喚術を手に入れて何がしたいんですか?」
「クククッ、そんなの決まってるだろ?召喚術の力で見せつけてやるのよ、俺様をバカにしやがった連中に復讐するためにな!!」
「・・・・・・」
バノッサさんの復讐の目的、自分を馬鹿にしてきた連中に復讐すること…?
違う、彼の本当の目的は…、私と同じだ、だから、これほどに彼の言葉が空虚に聞こえるのだから。
「貴方は…、居場所が欲しいんですか?」
「…なんだと?」
「私と同じで居場所が欲しいんじゃ何ですか?」
「テメェと同じだと…、おい、お前にはあの生ぬるい連中がいるだろう!」
「…、確かにフラットのみんなは私にとって家族です。でも…、あそこに、ううん。リィンバウムに居る限り私は逃げられない、きっとこの世界に私が居るべき居場所はないんです」
「………」
「ハヤトは私の居場所のために戦ってくれます…、でもハヤトじゃ私の居場所を守り切れない。きっとそうなんです、でもバノッサさんには居場所があるじゃないですか」
「ッ!!」
「本当に戦わなくてはいけないんですか?もしあなたが歩み寄ってくれれば、私たちは…」
「うるせェ!!」
「あぐッ!?」
バノッサさんは私の腕を無理矢理締め上げる、その痛みに耐えきれず悲鳴を上げる。
「化け物女、覚えとけ、最初は単なる切っ掛けだった。だがなあの男が、はぐれ野郎が現れなきゃ良かったんだよ!」
「ハヤトが…?」
「戦う度にとんでもねぇ速さで強くなりやがる、おまけに召喚術だと!?あの野郎に最初に負けてからずっと頭に残ってやがる、アイツをぶちのめさねぇと俺の中からアイツからもらった屈辱は消えねぇんだよ!!」
ハヤトからもらった屈辱、確かにハヤトは強くなっている、
最初にバノッサさんと戦った時より雲泥の差だ、でもバノッサさんは本当にそれだけなのでしょうか…?
「おまけにアイツは召喚術まで使いやがる、アイツが現れなきゃ俺様の召喚術へのこだわりを思い出さなくて済んだんだッ!!」
「もしかして、貴方は…」
わかった、この人がなんでフラットを…、ハヤトに執着してるのか。
「羨ましいんですか…?」
「…何?」
「バノッサさん、貴方はハヤトが羨ましいんですか?」
「…!!!」
「ぐうぅぅぅッッ!!!」
「余計な事言ってんじゃねぇ!!!」
私の腕をさらに締め上げる、このまま腕が折れると思っていたが…
「やめろ、バノッサ!クラレットに何してるんだ!!」
どうやら、私は助かったようです。
でもバノッサさんが少しばかり嬉しそうな顔を一瞬していたのを見た気がしました。
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「クラレットから手を離せ!!」
俺がみんなを連れて戻ってくると腕を締め上げて苦痛の表情を浮かべているクラレットが居た。
クラレットの顔は喜び一瞬表していたがすぐに申し訳ないような顔になった。
たぶん、俺がいない時に何かを聞いたんだな…
「お前、クラレットを放しやがれ!!」
「お望み通り、放してやるよ。オラッ!」
「キャアッ!」
ガゼルの言葉を素直に聞いたバノッサはクラレットを掴んでいた手を放す、
捕まってたクラレットがこちらに押し飛ばされた、それを俺は抱き留めた。
「大丈夫か、クラレット」
「大丈夫です。それに私も言い過ぎました、バノッサさんが悪いわけじゃないんです」
そうクラレットが答えたがそれだけじゃないんだろう、
俺はまずみんなのほうを見た、ちょうど孤児院に全員集まっていた。
「悪いなみんな、俺のせいで決闘なんて巻き込んじゃって」
「気にすんなよ、もう慣れっこだぜ」
ガゼルの一言に少し気が抜ける、まあ確かに問題を引き込み続けた自覚はあるけど…
それからスウォンたちのほうに振り返った。
「本当にいいのか?スウォン、ユエル」
「はい、僕は皆さんに助けてもらいました。恩返しもありますし、それにフラットが好きですから」
「ユエルもみんなが好きだよ!」
二人の覚悟を確認した、スウォンは恩返しを兼ねているがフラットのメンバーであることには違わない、
そしてユエルは縄張りを守るのは家族として当然だそうだ、一度戦った身としては安心できる。
「覚悟はついたか?はぐれ野郎」
「自分から言い出しといてアレだけど、本当に戦わないとだめなのか?」
話し合いで解決できるのが一番、その考えは今も変わらない。
今まで成り行きで戦ってきた、だけど戦いたくない気持ちが一番大きい。
もしクラレットと話をして何か変わっていればもしかしたら…
「そういう風にしちまったにはテメェだろうが、テメェらが現れなければよかったんだよ…」
「バノッサさん…」
「テメェらが現れなきゃ俺様は…、召喚術へのこだわりを思い出さなくて済んだんだッ!!」
「バノッサ…」
バノッサの叫びにクラレットもエドスも思うところがあるんだろう、
だけど戦いしかもうないのなら、俺は戦う!
「バノッサさん!」
北スラムの奥の方から手下を引き連れたカノンが姿を現した。
その目には俺たちと同じような覚悟が感じられる。
「来たかカノン、さあ行け!お前の忠誠を、俺様に見せるんだッ!!」
「お兄さん…、いえ、ハヤトさん。ボク、本気で行きます!!」
「カノン、ああ本気で来い!」
「覚悟してください!!」
カノンの声が引き金になり戦いは始まった、
オプテュスの数は流石に多かった、その数は20人以上だ。
その中に一匹突っ込んでゆく小さい影、クロの姿見えた。
「ジンガ、ユエル。クロの援護を頼む、まだ病み上がりだ!」
「任せてくれアニキ!」
「よーし、行くぞー!」
二人なら問題はないだろと思い、周りを見ていると俺に男が一人迫ってくる。
「食らえぇぇぇーー!!」
「ッ!」
無造作に振り下ろされた鉄棒を避け顔面に拳を叩きこむ、
吹き飛ばされた男はそのまま動かなくなった。
正直ただの不良にもう負ける気はしないな、っと油断は不味いな。
クラレットの方を見ると、召喚術を使ってるようだ。
「来てください…、ポワソ、プニム!」
『ポワァー』
『プニニ!』
現れたのは何時ものような戦う時の召喚獣ではない、
どこか愛らしい、帽子を被った幽霊と耳の長い犬のような獣だ。
「プニムは私の護衛をポワソ、ドリームスモッグ!」
『ポワワー!』
杖が振られるとクラレットを守ろうと戦っているプニムの前方の敵を煙が包み込む、
すると相手の目元が閉じてゆき、その場に倒れ眠ってしまった。
クラレットの方は大丈夫だな、なら俺は…
「バノッサ!!」
「来たな、はぐれ野郎!!」
バノッサと対峙した俺は覚悟を決めていた、
実はここに来る前に二人以上で戦うべきだと言われたが断った。
俺自身バノッサと決着をつけたかったし、何より相手が負けを認めさせるために一対一である必要があると感じたからだ。
「行くぞ、はぐれ野郎!!」
「来てくれ…、フレイムナイト!」
フレイムナイトを憑依させ、バノッサの両手から同時に迫りくる剣を受け止める。
すさまじい力を感じるが憑依召喚のお陰で何とか食い止められる!
そのまま足に力を入れバノッサを吹き飛ばし一気に接近する!
「ッ!オラァ!!」
バノッサが回転するように剣を振り、体勢を崩させる、そしてそのまま体当たりをくりだしてきた!
「ガッ!?」
バノッサの肩についてる角に刺さり体制を崩したがすぐに後ろに飛び召喚を行う、
召喚するのはあいつだ!
「来てくれ、アーマーチャンプ!」
現れたのは巨大な盾を構えた鉄巨人、
アーマーチャンプはただの壁だ、召喚術を防いだり敵の一斉射などを防ぐのが主な使い方。
ハヤトはそのアーマーチャンプをに突っ込んでゆく!
「そんな盾野郎出してもな…、なにッ!?」
「うおおぉぉぉーーー!!!」
バノッサはアーマーチャンプが出てくる間は攻撃がないと思っていた、
だがハヤトがアーマーチャンプにぶつかる直前、送還し消えてゆくのと同時に突っ込んできた!
不意を突かれたがバノッサはその攻撃を防ぎきったがハヤトはすぐにバノッサを蹴り飛ばす!
魔力の込められた蹴りで吹き飛ばされ後方の壁にバノッサはたたきつけられた。
「はあ…はあ…」
「は、はぐれ野郎、よくもやりやがったな…」
戦いはハヤトが優勢だがハヤト自身も魔力を消耗し過ぎていた、
召喚術や自身の魔力強化はハヤトは後回しにし過ぎていたせいで安定はしない、
だがこれをふんだんに使わなければバノッサと戦うのは不可能に近いのだ。
幸い、ストラの使い方をある程度学び始めたおかげか体力自体はまだ余力はあった。
「まだだ、来てくれ、鬼神将ガイエン!!」
ハヤトの声に応えてガイエンが呼び出される、
その巨大な刀を振りバノッサに迫ってゆく!
「召喚術ごときで勝てると思うなよ、はぐれ野郎!!!」
バノッサも普通の人間なら逃げ腰になる鬼神を前に正面から突っ込んでいった。
ハヤトとバノッサの戦いはさらに熾烈なものになってゆく。
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バノッサとハヤトが戦ってる時、他のメンバーの戦いはほぼフラット優勢だった。
それもその筈である、スウォンは野生の獣やはぐれ召喚獣と戦う狩人、
ガゼルやエドスもそれなりの実力者、レイドに至っては騎士だ。
そして、今、オルフルのはぐれ召喚獣ユエル、ハヤトの護衛獣のクロ、拳士ジンガは苦戦を強いられていた。
「なに、硬いよ…」
「どんな体、してんだよ!」
「!」
三人で戦ってるのはカノンだ、カノンの力はジンガ以上、その上ユエルの爪やジンガの拳を通さない硬さを持っている体。
異常なまでの強さだった、単純な実力ならおそらくバノッサ以上だ。
「…」
それだけではなかった、クロがやはり病み上がりで不調だったのだ。
召喚術やストラで回復してもまだ治りきっているわけではないため、
攻撃する時に違和感が生じてしまう、そのせいでいつもの力が出し切れないのだ。
「やぁっ!!」
「!」
クロはカノンの剣を避け、その顔面に拳を叩き込む、
しかし、カノンは怯まず開いてる手でクロを殴り飛ばした!
「クロ!?このぉ!!」
「ぐっ、だぁ!」
「ぎゃうっ!!」
クロを殴り飛ばした手にユエルが噛みつくがその硬さに牙が上手く刺さらない、
カノンはユエルの噛みついている手で壁にユエルごと叩き付けこのまま押し込もうとする!
「グウウゥゥッッ!」
「まず、一人…はっ!?」
「!!」
「ユエルを放しやがれッ!」
このまま意識を奪おうとするがクロとジンガがカノンに襲い掛かってくる、
カノンはユエルを手放し、二人から距離を取った。
「…」
「みなさん!」
「ぐっ!」
クロがカノンを観察していると横から矢が飛んできてカノンの腕に刺さった、スウォンだ。
スウォンの矢を避けながらカノンはスウォンに近づいてくる、腕に刺さった矢もまるで意味がないような感じだ。
「!?」
微かに感じた匂い、かつて島で自分の同胞の一人と同じ血の匂い、
戦いに戦いを重ねてきたクロだからこそ気づけた、違和感がカノンの正体を感づかせた。
強靭な肉体、常識外れのパワー、そしてあの匂い、勘違いならそれでいい、でもそうじゃないなら…
「ムイムイ!!」
「えっと、何、クロ?」
「ムムイ!ムイ!」
「う、うん、わかったけどそれでいいんだね?」
「!」
ユエルに何か伝えるとクロはカノンに向けて突っ込んでゆく、
攻撃ではなくまるで撹乱させる動きでカノンの動きを制限させている。
「このっ!」
「!」
カノンが剣を振りかぶりクロに振り落とすがそれを避け、クロはカノンの足を払う。
「俺っちもいくぜ!おりゃぁぁっ!!」
体勢を崩したカノンにジンガの拳が炸裂し、カノンは弾き飛ばされるがダメージはなかった、
その後、スウォンが矢で追撃をかけるがそれも怯まずに突っ込んでくる!
「ウォォォォォッッ!!!」
「なっ!?」
突然横から飛び出した、ユエルによってカノンは弾き飛ばされた!
飛ばされた正面にはある人物が居た、クラレットだ。
「来て、魔精タクェシーミザリ!!」
現れるのはサプレスの魔精、クラレットが今使える最強の召喚術、
クロの考えは単純だった、自分たちの攻撃で倒せないならそれを上回る火力で押せばいいだけだ、と。
「ゲレゲレサンダー!!!」
『ゲレゲレー!!』
「うわあぁぁーーっ!?」
膨大な電流に飲まれ、カノンは吹き飛ばされ崩れ落ちた、
余りの衝撃で気絶してしまったようだ。
「みなさん、大丈夫ですか?」
『プニニー?』
「うん、ユエル達、平気だよ」
「でも、全員で戦ってやっと倒せるなんて、人間離れした強さでした…」
「…」
人間離れ、その一言で片づければ確かに楽かもしれない、
だけどクロだけは気づきかけていた、この少年から漂う異界の血の匂いを。
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ハヤトはバノッサと戦いながら焦り始めてきていた、
なぜならバノッサの動きが良くなりはじめ、一撃が重くなってきてるのだ。
「はあ…はあ…」
「クククッ、便利な力だな、おい」
バノッサの奴、もしかして魔力で身体強化してるのか…!?
才能が有れば基本的なことだって聞いてたけど、バノッサは才能があったのか。
元々、力のある方だから魔力で強化されたら手に負えない…!
「こんな便利な力だったなんてな、はぐれ野郎、テメェが使ってる力が俺様をさらに強くしたってことだ!!」
「くっ!」
突っ込んでくるバノッサの剣を防ぐ、しかし重く速い連撃、おまけに二刀流の為受け流すのが精一杯だった。
ハヤトは防戦一方だったが戦いながらバノッサの動きを観察し始めていた。
クロとの訓練で鍛えた観察眼、ウィゼルとの訓練とは違い相手の隙を見抜く目を。
「オラオラッ!!反撃してみろよ!!」
「……」
解ってきたぞ、バノッサの奴、来たばかりの俺と同じだ。
魔力を吹き出し過ぎてろくに制御が追い付いてない、このままなら…
ハヤトは自身の魔力を抑えながら最小限の動きでバノッサの攻撃を防ぎ続ける。
ウィゼル師範との訓練で培った敵の動きを見る目、どこから敵の攻撃が来るか理解し避ける。
「と言ってもこのままただ防いでるだけじゃ駄目だな、来てくれ、タケシ―!!」
『ゲレゲレー!』
「ゲレレサンダー!!」
クラレットの用意してもらった魔精タケシ―の召喚石、
召喚されたタケシ―はバノッサに向かいながら電撃を放つ!
バノッサはハヤト同様、剣に魔力を込め力尽くで電撃を切り裂いた!
「そんなもんで、俺様を倒せると思ってるのかよ!」
「だったら息切れするまで耐えてみな!」
召喚石と回避、それを続けるハヤトの前にバノッサは攻め込んでゆく、
しかし、徐々にバノッサの動きが鈍り始めてきた、ハヤトの待ち望んだ展開が回ってきた。
ハヤトは再びフレイムナイトを憑依して突っ込んでゆく!
「だりゃぁ!!」
「くっ、っそぉぉぉ!!!」
バノッサの剣を弾き、攻め込んでゆくハヤト、バノッサも負けじと正面から立ち向かう。
バノッサの元々の力もあるがハヤトは知っている、魔力切れを起こすと途端に意識が遠くなっていくことを。
そしてハヤトを弾き飛ばすとバノッサは剣を杖代わりにして地面に膝をついた。
「な、なに…、はあ…はあ…」
「やっと魔力切れを起こしたのか、見かけ以上の馬鹿魔力だな…」
正直驚いた、あそこまで魔力が高いなんて…
俺なんかよりずっと上の魔力だ、クラレット並みかもしれない…
「たりめぇだ…、俺様は召喚師の血を引いてんだぜ、オメェのようなはぐれと一緒にするんじゃねぇ!!」
「召喚師の血…!?」
「そうだ…、俺様の父親は召喚師さ、もっとも、顔も名前も知らねぇがな…、捨てられさえしなけりゃ、俺様は召喚師の子として生きているはずだったのさ!それがこの俺様の本当の居場所になる筈だったんだ!!」
バノッサが目を血走らせる、そうか、バノッサが力を求める理由が俺にはわかってきた。
召喚師としての子、すりこみのように自分に刻まれたそれを掴むために俺たちの力を手に入れようとしてたのか。
だけど…
「だから俺を目の仇にしてたのか、召喚師でも何でもない人間が、召喚術を使う俺を…」
「あァ、そうさ、俺様はテメェが許せなかったんだよ…、俺様が手に入れるはずだった力を!なんの苦労もしてねぇテメェが持ってることが気に入らなかったんだ!!」
「…だけど、俺にはこの力が必要だ。お前のように過去に縛られてるあいつを助けるために必要なんだ!!」
「殺してやる…、はぐれ野郎!テメェをぶち殺してあの女を俺の物にして俺様は召喚師になってやるっっ!!!」
バノッサの残された魔力が膨れ上がる、同時にハヤトもフレイムナイトに魔力を通し更に力を高めた。
「はああぁぁぁーーーっっ!!!」
「うおおぉぉぉーーーっっ!!!」
ハヤトはバノッサと目の前に剣を振り下ろした、地面にぶつかりそこから衝撃が吹き飛ぶ!
「なにっ!?」
ハヤトの剣が折れたが衝撃はバノッサを襲う、大量の砂利がバノッサの体を打ち続ける。
そしてその砂利の中に突っ込んでハヤトの右手が大きく振りかぶられた!
「お前に…、お前にクラレットを渡すもんかぁぁぁっっ!!!」
「がああぁぁーーっっ!?!?」
ハヤトの拳はバノッサの腹部を強打し、バノッサは衝撃で後方の壁に吹き飛ばされる!
そしてバノッサは壁に直撃しその場で崩れ落ちた…
「はあ…はあ…、ゲホゲホッ!」
危なかった、既に魔力はほとんどない…、おまけに立っているのもやっとだ。
バノッサが運良く魔力を制御できてなかったお陰で何とか勝てた…。
だけどバノッサが召喚師の子供だったなんて、だけどそれでも俺は…。
「ハヤトッ!」
「クラレット…」
「大丈夫ですか、どこか怪我は…」
「大丈夫だよ、見かけだけだから、うん」
「そうですか、よかった…」
心配してるクラレットを見て改めて思う、
俺はクラレットを守る為にこの世界に来たんだ、
だからそれまで何があっても負けるわけにはいかない…
「おい、ハヤト、大丈夫か!」
「ガゼル…」
周りにみんなが集まって来た、
ガゼル、エドス、レイドさん、ユエル、スウォン、ジンガ、クロにクラレット、
みんな傷ついているが大怪我は誰もいなかった、
オプテュスはほとんどその場に倒れており一部は逃げ出した後だ。
俺達フラットの勝ちだ。
「遠目から見てたが、大丈夫か?剣も折れてるじゃないか」
「ははは、レイドさん。すいません心配かけちゃって」
「ハヤト、ユエル達も頑張ったよ!」
「といっても、クロさんのお陰なんですけどね」
「…」
「しかし、正面から勝てないなんて、あのカノンって兄ちゃんどんでもねぇな」
レイドさんが俺を心配してくれる、
しかしクロたちが4人がかりでやっと倒せるなんてカノンってもしかしてバノッサ以上なんじゃないか?
「なんでだ…」
振り返るとバノッサが気が付いていた、地面を叩きながらうなっている。
「なんでッ、なんで勝てねぇんだよォ!?」
そんなバノッサにエドスが近づく、エドスは哀れみながらバノッサを見つめていた。
「もうやめておけ、バノッサ…」
「うるせェ!召喚術さえつかえりゃ、召喚術さえ…、どうしてテメェなんだよッ!?召喚術を使う資格ならこの俺様にだってあるじゃねぇかよォ!!」
「バノッサさん…」
「な、何をわけのわからねぇこと言ってんだコイツ?」
何も知らないガゼル達はバノッサの言っていることを理解できないのだろう、
クラレットは何となく気づいているようだ。
バノッサをどうするか悩んでいるとそこに倒れたはずのカノンが現れた。
「まだ、です…、まだ、終わりじゃありません…」
「うそっ!?ユエル、ちゃんと倒したよ!?」
「!」
「カノンさんから魔力が…!?」
「みんな気を付けろ!」
カノンの体が赤く染まり始める、確かにカノンから魔力を感じる…
だけど、俺の使っているような感じじゃない、まるで体そのものが変わっていくようだ。
「ぐルっ…ぐルルルルっ…!」
「…カノン?やめろ、カノン!【本気】にならなくてもいいんだッ!!」
「ぐルルがアァッ!!」
カノンの体が膨大な魔力だけではなく妖気的なものが吹き出して変質する、
この力は…
「シルターンの魔力…、鬼神の力です!」
「どういうことなんだ、クラレット!」
「カノンさんの使っているのは、召喚獣の能力です!!」
鬼神の力…、だけど憑依召喚なんかと全然違うぞ!?
まるでカノン自身が鬼神のような…
「がアァァッ!!」
「うわあああーーー!?!?」
カノンの放たれた一撃は大地を抉るほどの破壊力を繰り出した。
その一撃でフラットのメンバーは吹き飛ばされる!
「ぐぅっ!?」
「ハヤト!!」
カノンの近くに一番近かったハヤトはクラレットを咄嗟に庇ったが衝撃に耐えきれず体が動かなかった。
無理もない、バノッサとの戦いでハヤトはほとんどの力を使い果たしていたのだから。
「なんて力だ…、地面が抉られちまうなんて!?」
「逃げろっ!ハヤト!!」
ガゼルとエドスの声が聞こえる…、駄目だ。体が言うことを聞かない…
「!!」
「がアッ!!」
「ク、クロッ!!」
クロがカノンに攻撃を仕掛けるが、その攻撃はまるで通じなかった。
そのまま本能でクロは殴り飛ばし、クロは地面に叩きつけられて動かなくなった。
ユエルが碌に動かない体を動かしてクロのもとに向かってゆく。
「ク…クロ…、動け、クソォ!!」
「ハヤト、まずいっ!!」
「うルルがアァッ!!」
「うおおぉぉぉっ!!」
俺とカノンの間に割り込んだのはエドスだった、
その巨体でカノンの力を抑えるがカノンの鬼神の力に抵抗できず押され始める。
このままじゃ…、エドスが…
「え、エドス…」
「ぐぐぐっ…ぐおおおっ!?」
「ぐルルルッ…コ、殺ス…!!」
エドスが殺される…、駄目だ。誰も死なせる訳にはいかない!
俺の家族を死なせる訳にはいかないんだ!!
力を貸してくれ…、俺の残された魔力を全部渡す、だから仲間を守らせてくれ!!
ハヤトの声が召喚獣たちに届いたのか赤いサモナイト石が光り輝く!!
「俺の家族を…、殺させてたまるかぁぁぁーーッッ!!!」
ゲートが開かれ現れたのは巨大な鬼神、鬼神将ガイエンだ。
ガイエンはハヤトの魔力はゲートのみに留まらせシルターンから持ち込んだ自身の魔力を滾らせていた!
「召喚獣が…、自分自身の魔力で!?」
「いけぇぇーーーっっ!!!」
放たれたのは鬼神将最強の奥義、真・鬼神斬、その大太刀から放たれた巨大な斬撃はカノンを襲った!
「ギゃアアアッ!!」
その一撃で粉塵が巻き起こりカノンの様子は確認できなかった。
ガイエンも魔力を使い果たし元の世界に還っていった。
「はあ…っはあ…、あ」
ハヤトはその場に崩れ落ち倒れた、全ての魔力を使い果たしたのである。
クラレットはそのハヤトの傍に近づきハヤトを抱きかかえた。
「ハヤト…、よかった…」
「カノンは無事なのか…、嘘だろっ!?」
「ぐぎぎ…ガアァ」
カノンはボロボロの体を引きずりこちらに迫ってくる、
フラットのメンバーもそれぞれ身構え、クラレットもハヤトを抱えながら石を握った。
「やめろ、カノン!!」
だが、死力を尽くすカノン止める男がいた、バノッサだ。
「もういいッ!もういいんだッ!!」
「バノッサ…?」
エドスは必死にカノンを止めようとするバノッサに違和感を感じていた、
戦う前に感じてたバノッサではなく、まるでかつてのバノッサと同じ雰囲気を。
「それ以上、命を無駄に使うなッ!!」
「ぐッ…ぐガガガッ…」
カノンから滾っていた魔力が徐々になくなってゆく、
カノンの鬼神化ともいうべき力が消えてゆくのだ。
「バノッサ、さん…、ボク、頑張りましたよ、勝てなかった…、ですけど…許して…くださいね…」
そうバノッサに伝えるとカノンも意識を手放した…
---------------------------------
戦いが終わる頃にはオプテュスのメンバーもほとんど居なくなっていた。
カノンはバノッサに担がれて、ハヤトもエドスの背中で気を失っている。
クラレットは先ほどのカノンの変異をバノッサに問いかけた。
「一つだけ教えてください、カノンさんは…、はぐれ召喚獣なんですか?」
「はぐれじゃねェよ…」
背中を見せながらバノッサは話し始めた。
「こいつは人間だ…、少なくとも半分は人間のはずなんだッ!!」
「…響界種、なんですね?」
「アロザイド…?」
「リィンバウムの人と異界の生き物との混血、不安定な生き物の事です」
バノッサはクラレットの言葉を理解した、カノンの鬼神化は不安定で命を使うほどのものだと。
「…ああ、カノンは魔物を父親にして生まれたんだ、ただそれだけの理由で母親に捨てられてよ、スラムに来たのさ、人一倍優しいくせに人以上の力を持ってしまったことでアイツは迫害されたんだ」
カノンさんの境遇を私は理解し始めた、あんなにやさしい人が捨てられる。
そんな人はたくさんいるかもしれない、カノンさんが特別じゃない。
でもそれでも優しい心を持っているあの人が捨てられたなんて…そんなの。
「おかしな話だと思わねぇか…?自分より劣った連中にこいつは居場所を奪われたんだぜ!?だから、俺様は教えてやったのさ、居場所が欲しけりゃ力尽くで奪え、ってな!」
バノッサさんの考え方は理解できます、でも…
「でも、カノンさんは人から奪おうとはしなかった…、ですよね」
「…ああ、こいつは人から奪おうなんてこれっぽっちも思ってねェえ、今で満足だっていっつも言ってやがる」
「…同じですよ」
「なに?」
「貴方がカノンさんに居場所をあげたんです。優しい心と歪な力しか持たないカノンさんに居場所を与えたのは貴方なんです、バノッサさん、私たちがフラットのみんなに救ってもらったように貴方がカノンさんを救ったんですよ!」
「・・・・・・・」
私の言葉を聞いてバノッサさんは何か考えていた、
だけどそれをどうしても認めたくないと考えているようだった。
そんなバノッサさんの前にエドスさんが出る、何かを伝える為に。
「バノッサ…、お前には居場所があっただろ。だが今はカノンの隣がお前の居場所だろ?」
「エドス…、だがな、割り切れねぇもんがあるんだよ、俺達の様な中途半端だった、たったそれだけで捨てられたんだ、だから!俺達を捨てた連中に復讐してやりてぇんだよォッ!!テメェらが捨てた奴の力を見せつけてやりてぇんだ!!」
バノッサさんの悲痛ともとれる叫びが私たちの心に響いてくる、
捨てられる気持ちはほとんどフラットのみんなは理解できる、
でも、バノッサさんは周りとは違う、きっと違う…
「…おい、化け物女、はぐれ野郎に伝えておけ。約束通り南スラムには手を出さねぇ」
「それじゃあ…」
「だがな、はぐれ野郎は別だ。テメェは必ず俺がぶっ潰す、覚えておけ!!」
そう伝えるとバノッサさんはカノンさんを抱えスラムへと消えていった、
私たちもボロボロの体を抱えて私たちの居場所へと戻ってゆく、
そして、私たちフラットとオプテュスの抗争は終わったのだった…
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「…お腹空いた」
最初の一言がそれだった、その後、体中に鈍痛を感じ尚且つ倦怠感が酷い、
自分の眠っていた場所は何時も寝起きする自分の部屋だった。
「おはよう、ハヤト」
横を見るとクラレットの姿が見える、
良かった、無事だったんだ。ということはバノッサは倒せたのか…
「はい、お水です。ゆっくり飲んでくださいね」
「ああ、ありがとう」
クラレットから飲み水を渡される、少し温いけど今の自分にはちょうどいい。
言われた通りにゆっくりと飲んでゆき、コップはすぐに空に変わった。
「ふぅ…、なあ、あの後どうなったんだ?」
「あの後ですか…」
クラレットは少し悲しそうな顔をしながら話し始めた。
カノンの生まれ、境遇、バノッサの葛藤、俺が倒れた後にそんなことがあったのか。
何より俺が戸惑ったのはバノッサの最後の言葉だった。
「俺をぶっ潰すか…、まあフラットじゃなくなっただけマシ…なのか?」
「バノッサさんのやり方を考えますと集団でなんてないと思いますし」
「うーん…」
正直、次にバノッサと戦うとしたら勝ち目は薄い。
今度は魔力強化も普通にしてきそうだし、何より魔力量がクラレット並みだからな…
「もっと強くならないとな」
「でも、無茶はしないでくださいね、最後の召喚術のように」
「最後の…?」
「あの時、鬼神将を召喚したじゃないですか!」
話を聞くとあの時の俺は殆ど暴発の様な感じで召喚したそうだ、
それをガイエンがコントロールしてくれたおかげで無事だったらしい。
「通常の召喚術であんなことすれば魔力を吸い尽くされて命を落としてたかもしれなんですよ!」
「そうだったのか…、でも俺召喚術使った感覚がなかったんだよなぁ…」
「…たぶん召喚獣の方から力を貸してくれたんだと思います、あの鬼神将は自分で魔力を持ち込んでいましたから」
「そうなのか?」
「はい、本来召喚獣が自分自身の魔力を持ち込むのは殆どありません、持ち込んででもあなたを助けたかったんですよ」
「そうか、今度会ったらお礼言っとかないとな…」
「ふふ…、そうですね。でも無茶はほんとに駄目ですよ?まあ言っても聞いてくれそうにないですけど」
諦めていながら優しそうな笑みを浮かべるクラレット、
それを見てホントに安心した、今回も彼女を守ることが出来たんだなって…
「しかし、おなかすいた…」
「動けますか、何か作りますよ?」
「じゃあ、お願いしようかな」
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広間に来たハヤトは椅子に座り、クラレットは暗くなっている厨房へと入ってゆく、
広間に設置してある時計を見ると23時を指していた、フラットはみんな早寝なので殆どの人は寝ている。
「わざわざ起きててくれたのか…」
自分の事を大事に思ってくれるクラレットに感謝しながらハヤトは考えていた。
正直な話、これ以上強くなれる気がしないのだ。
実際ハヤトはこの短期間で既に一人前の騎士すら超える実力を身に着けている。
レイドと同じくらいの強さであろう、しかしバノッサはそれ以上だった。
魔力の操作を身に着ければ間違いなくさらに強くなるだろう。
そんな小難しい事をハヤトが考えているとクラレットが軽食を持ってきた。
「そんな顔して、また深刻に考えているんですか?」
「あ、ああ。うわ、意外にしっかりとしてるな…」
「保存できるものですけどね、さあどうぞ」
「うん、あ、あれ?」
スプーンを掴もうとするが、するりと抜けてしまう、
どうやら剣を握りしめすぎてうまく力が入らなくなったのか…
俺はしっかりと掴もうと悪戦苦闘するがそれに耐えかねてクラレットがスプーンを握った。
「く、クラレット?」
「食べられないなら行ってくださいよ。さ、あーん」
「え………、あ、あ~ん」
特に気にする様子もなく食事をクラレットが食べさそうとする、
俺も冷めるといけないと思い口を大きく開ける…、食べさせてほしいわけじゃないからな。
「おお、お前さんたち、起きてたか!」
「ひうっ!?」
「ムグッ…、アッツゥッ!?」
突然現れたエドスにクラレットは驚いてスプーンを突っ込んでしまった。
ハヤトもそれを飲み込んでしまい喉が焼けるような熱さがハヤトに襲い掛かる!
「え、エドスさん!?」
「ひ~ひ~、みずぅ…」
「ああ、ハヤトどうぞ!」
「…なんか悪いことしたようだな」
エドスが苦笑しながら二人の様子を見る、
水を勢いよく飲むハヤトを心配しているクラレット、
何処からどう見ても恋人同士にしか見えない姿だった。
エドスは酒を飲みながらこちらを見ている、
クラレットはなんか吹っ切れたのか俺にご飯を全部食べさせた。
軽い食事だったけど、おかげでぐっすり眠れそうだ…
「そういえば、エドス。大丈夫だったのか?」
「そりゃ、お前さんの方だろ、あの後、倒れてから今まで起きんかったからみんな心配してたんだぞ」
「なんか…、迷惑かけたな」
「なに、これで心配事も一つ減ったようなもんだ、バノッサもフラットには手を出さないって言ってるからな」
「ハヤトには手を出すって言ってましたけどね」
洗い物を終えてクラレットが厨房から出てくる、少しばかり呆れているようだ。
「しかし、カノンのあの力はなんだったんだ…、クラレット。お前さんは知っとるか?」
「あれは、シルターンと呼ばれる世界の鬼神の血です」
「鬼神…?」
「俺の召喚する鬼神将ガイエンとか、あれも鬼神だよな?」
「はい」
「なるほど…、あれか」
「シルターンの鬼神は強靭な肉体と破壊の力を持っているんです。恐らくはぐれになった鬼神がカノンの父親なんでしょう」
「クラレット、バノッサの奴があの力は命を削ると言っていたが…」
クラレットはエドスの問いかけに俯き、そして答えた。
「響界種、【アロザイド】と呼ばれるせいです」
「アロザイド…?」
「はい、アロザイドは異世界間の間に生まれる子供の事です。親と同等、もしくはそれ以上の力を持つ生き物、昔見た記述ではアロザイドをわざと作り兵士にするという話もあったぐらいです」
「異世界間…、じゃあカノンはそのアロザイドなんだな」
「はい、ですが、アロザイドの殆どは自身の力に耐え切れずに死んでいくんです。生き残るには自分でその力をコントロールするか、もしくはその力を封じ込めるか、カノンさんは後者に属します」
じゃああの時カノンが鬼神化してまで俺達に挑んだのはそれこそ命がけだったのか…
「そうか…、バノッサの奴、それであんなに必死に止めたのか…」
エドスは何か安心したように頷いている、
そういえばバノッサの事をやけに知ってる気がするが…、
「なあエドス、もしかしてバノッサと結構長いのか?」
「ああ…、あいつとは随分と長く付き合ってきたからな」
エドスは酒を飲むのをやめこちらをしっかりと見て答え始めた。
「ワシは元々、北スラムの出身なのさ、バノッサとはガキの頃からの付き合いだ」
「そうだったんですか…」
「バノッサの母親は体が弱くてな、バノッサ自身も昔は体が弱かった、ワシがよく家に連れて帰ったもんだよ。あいつの母親は優しい人だった。生活するのも大変なのにワシらに気をかけてくれたんだ」
バノッサの母親、優しい人だったのか…
「だが、突然気が狂ったのさ…、人が変わったようにな。まるで何かに憑りつかれたように気が狂いそして死んじまった…、それからだよ。バノッサが変わっていったのは…、毎日のように復讐するっていってアイツは家を飛び出していった。次に出会った時にはアイツはゴロツキを集めてオプテュスを作っとった…、今のアイツはワシの知っていたバノッサとは違う、そう思っていた…、だけどカノンを気遣うあいつを見て思った。まだアイツにも変わってないところがあるんだってな…」
バノッサの過去、それを聞いた俺達は何も言葉が出なかった。
召喚師の息子とバノッサは言っていた、つまり召喚師の親に捨てられたのか…。
それに母親が突然狂うって、きっとそれも召喚術のせいなんだろうな…。
…、できればバノッサともう戦いたくはない、話して和解したと思う。
それが…無理だと解っていても…
毎日1時間半書いてます、戦闘シーンがある話は長いわ!
今回はカノン君の話ですね、これ以降カノン君は鬼神化しません!(原作もしなかった)
あとハヤトは頭打ちです、これ以上強くならねぇよ…、てかできない。
次は…ああ、ローカスか、どうするかな、圧倒的空気なんだよ、あのキャラ。
でもスカーレル関連キャラだし、気張りますか…