サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

19 / 81
凄く遅くなりました…、一応言い訳します。
まず、単に仕事忙しいからが一番の理由だがその2番が問題だった。

サブイベントら―、少し書き足すか。
   ↓
クロとメイメイさんの絡みを書こう!
   ↓
2のキャラ出すぞー、あの子なら問題ない!
   ↓
スウォンの扱い難しい、これだから影薄いキャラは…
   ↓
戦闘ムズイ!文字数が増えてゆく…
   ↓
サモンナイト6発売!わーい( ^q^)
   ↓
クラアヤの二人職務重視すぎじゃね…?
   ↓
結果、ミルリーフはかわいいな♪

まあ、そんなもんだ。


第7話 オルフルの少女

―真実から目を背き復讐に走る、それはある意味人間らしいのかもしれない―

 

少し前の子供たちは孤児院から離れることは稀だった。

しかし、今子供たちにはとても心強い用心棒がいるのだった。

そのせいか子供たちは今日はアルク川まで来ていた。

 

「ほらー、こっちだぞー!」

「待ちなさいよ~!」

「…まってー」

 

アルバとラミとフィズがアルク川付近で追いかけっこをしていた。

子供たちが元気よくはしゃいでいる姿を少し離れたところから一匹のテテが見ていた。

 

「…」

 

通常のテテより黒くまだら模様の特異個体といえるテテ、

フラットのみんなは彼のことをクロと呼んでいる、ハヤトに召喚された最初の召喚獣だ。

 

「…(くわぁ~」

 

大きな欠伸をしながら子供たちの様子をクロは見守っていた。

なぜフラットのメンバーがこのクロ一人に子守を任せたはクロの性格のためだった。

見かけによらずしっかりしておりその容姿もあるためか子供たちに人気だ。

ゴーグルは壊れており肌もボロボロだが本人がそれを望んでおり修理や治療は受けてはいない。

そして何よりこのクロはかなり強い、すさまじい速さで走れるし、力も予想よりもかなり強い、

クラレットの話によると普通では覚えてないような特殊な技もいくつか体得している。

そんな彼の過去をフラットのメンバーは知らないが、クロはいい奴というのが全員の感想だった。

 

「……」

 

クロ自身も今の生活を不満とは思ってなかった、

ウィゼルが言ったように島のことが彼には頭に残っていたが、

自分がいなくても島の住人は平気だろうと、それに何よりあの頼りない主人を守らないといけないと。

あのかつての自分の【主人】と似た雰囲気を持つ全然似てない主人を……

 

「……」

 

クロが過去を思い出しながら黄昏ているとそんなクロに金色の少女が近づいてくる

 

「…クロ、これあげる」

「!」

 

ラミは綺麗な花をクロに差し出した、クロはそれを受け取るとゴーグルに着ける。

 

「あたしもこれあげるわ!」

「オイラはこれだ!」

「!?」

 

今度はフィズとアルバがそれぞれ持っている物をクロに渡そうとしてくる。

流石のクロも子供の勢いに負け、その場から走って逃げだした。

 

「あ、逃げた!」

「まてー!」

「…ふふ」

 

しばらく速さを調整しながら、クロは逃げていた…

 

「…!?」

 

だが、突然クロがその場で止まり子供たちを静止する。

 

「どうしたのクロ?」

「!」

 

危険を知らせるようにフィズたちを睨み自分から離れないように促す、

それに子供たちもすぐに理解してラミを庇う様に一か所に集まった。

 

「…ウウウゥゥ、ガウアア!!」

「!?」

 

川の近くの茂みから青い影が飛び出すが、クロが突っ込みその人影に体当たりをかました!

 

「ギャウ!?」

「!?」

 

クロはその姿を見て驚いた、布をただ身に纏い、まるで獣の本能をさらけ出した少女だったのだ、

しかしその少女の耳はオオカミのもので尻尾も生えていた。

 

「…!?」

 

何かを察知したのかクロはすぐに反転し子供たちのところに突っ込んでゆく、

そして勢いに任せて子供たちの衣服を掴むとその場から逃走を始めた!

 

「な、なんだよ!?」

「……!!」

 

「ワオオォォォォーーーーン!!!」

 

「な、何の声なの!?」

「!!」

 

クロはそのまま後ろを振り返ることなく街に向かって駆けて行った、

だが子供たちは見たのだ、一人の少女の周りに集まる、狼たちの群れを…

 

------------------------------

 

その日の夕方、フラットのメンバーが全員集まった時に子供たちの口からそのことが話された、

 

「ホントに見たんだって!狼女だよ!」

「そうよ!狼を引き連れてあたしたちを襲おうとしてたのよ」

「…こわかった」

 

狼女、その言葉を聞いてフラットのメンバーの視線がクラレットに集まっていた。

 

「なんでこっち見るんですか?」

「いや、クラレットならなんか知ってんじゃねぇか?召喚師だしよ」

「そうですね…、幻獣界の亜人といっても数が多いですし…」

「そうだ、クロ、まじかで見たんでしょ、教えなさいよ!」

「…」

 

なにか考え事をしていたクロにフィズが尋ねた、その言葉を聞いてクロがこっちを向く

 

「あのもしかして、オルフルなんですか?」

「…(こく」

 

クロが静かに傾くとクラレットは難しそうな顔をしはじめた。

 

「ねえ、クラレット。そのオルフルってなんなの?」

「そうですね…、簡単に言えば狩人です」

「狩人?」

「【さまよう狩人】幻獣界でも五大種族、その中でも戦闘部族として数えられる力を持った召喚獣です」

「それって危険な召喚獣なのか!?」

 

クラレットの言葉にハヤトは叫んだ、そんな危険な召喚獣が街の近くにいたなんて、

おまけにどうやったかサイジェントのアルク川にいたのだ。

クロがすぐさま逃げ出したということもあり恐ろしい存在であることは間違いなかった。

 

「私もメイトルパの召喚術はあるていど素養がありましたから少しばかりなら知っています。たしかオルフルは集団で狩りをする種族だったはずです。フィズ、そのオルフルの周りに別のオルフルはいませんでしたか?」

「ううん、いなかったけど、代わりに狼がいっぱいいたわ」

「狼…?」

「オルフルは狼の亜人ですから、でもこの街の周りにそんなのがいるなんて…」

 

狼、人を襲う、幻獣界の召喚獣、その言葉をハヤトは頭の中で考えていた。

つい最近そんな話を誰かから聞いたような気がした…

 

「そうだ、森だ」

「森ですか?」

「ああ、森に棲んでる狩人のスウォンが言ってたんだ、その森には最近人を襲う獣が出たって」

「それではその獣が子供たちが見たオルフルだっていうのか?」

「確かにスジは通っているな」

 

ハヤトの言葉にレイドとエドスが納得している、

だがクラレットはどうにもしっくりこなかった。

なぜなら召喚獣は自分から人を襲うことはそうそうないのだ、だからかクロも悩んでいた。

もし、裏に召喚師の存在がいれば子供たちが危ないかもしれない、クラレットはそう思い行動を移すことにした。

 

「もしかしたら、召喚師がかかわってるかもしれません」

「それって城の召喚師か?」

「わかりません、でも外道召喚師が関わってるかもしれませんし、とにかく調べてみないといけませんから」

「そうだな、では明日にでもそのスウォンという人物にあってきてくれないかハヤト?」

「ああ、わかったよ、レイドさん」

 

レイドの一言でフラットのメンバーが解散してゆく、

ハヤトも今からアルク川に行くわけにも行かないためどうするか悩んでいた。

 

------------------------------

 

街に出たハヤト、その近くにはクロの姿があった。

特に二人は一緒に出てきたわけではなく、街中で再び出会ったのである。

 

「なあ、クロ。なんか様子が変だけど何かあったのか?」

「…」

 

クロの様子がいつもと変だった、毎日訓練に付き合ってくれるときは自身たっぷりなのだ、

だが今はかなり不機嫌な様子だった、恐らくだがアルク川に現れたオルフルが原因なのだろう…

なにも伝えないというか、口を開けることの少ないクロの心情を知りたかったハヤトは悩んでいた。

 

「…ん~、そうだ!あの人のところなら!」

「…?」

 

ハヤトが路地裏に入ってゆく、それにクロも続いて進んでいった。

 

 

路地裏を進んでゆくと、そこには周りの雰囲気にまるであっていない建物が一つ。

 

「メイメイさん、居ますか?ハヤトです」

 

扉を叩いて中にいるであろうメイメイさんを呼び出そうとするハヤト、

クロはなぜかその近くで目を丸くして驚いていた。

 

「ん?どうしたんだクロ、そんな顔して」

「はいはーい、呼ばれて飛び出てメイメイさん登場~♪旅人さんじゃない……ん?あらクロじゃない久方ぶりねぇ~」

「ムイ!ムイムムイ!!」

「え!?」

「ん~?私がなんでここにいるかって?、そりゃどこにでもいるわよ。あの時話した通りそういうこともできるんだから」

「ムイ~!」

「にゃははは♪まあ、久々に会った仲なんだからお入んなさいな」

「えっと…クロ、お前喋ったか今?」

「……」

 

クロがまた黙り始める、ちょっとばかし顔が赤くなっている。

 

「まあ、人見知りの激しい子だったからね、ってもっとひどくなってるみたいだけど」

「メイメイさんはクロと知り合いだったんですか?」

「まあね、とりあえず入りなさい」

 

メイメイさんに案内されて中に入るとお茶菓子などが置かれており、

机の上に置かれたお茶からまだ湯気が立っていた。

 

「お客さんでも来てたんですか?」

「ちょっとした昔なじみよ、ついさっき帰ったばっかよ。さあ座って座って」

 

メイメイさんに進められ椅子に座るとお茶を新しく出された、メイメイさんは…

相変わらずお酒を飲んでいるようだった。

 

「しかし久しぶりじゃない、なによ、どうやってきたの?」

「ムイムイ」

「は、は~ん、召喚術で召喚されて…、まあなんとも2重召喚とか随分と不幸なのか幸運なのか…」

 

メイメイさんがクロと話をしている、クロの言葉が解るだけじゃなくてクロ自体とも知り合いだったなんて

そういえば、メイメイさんはどこでクロと出会ったのだろうか…?

 

「メイメイさんはクロとどこで知り合ったんですか?」

「私…?そうね、【島】かしらね、そこでね。彼の主人と知り合いだったのだよ。まだ年若い彼をその主人が保護してね、それで知り合ったってわけ」

「それじゃ、その主人がいま心配してるんじゃ?」

「それはないわね、2重召喚のことクラレットから聞いてないの?」

 

確か…、2重召喚は誓約が弱くなった召喚獣が召喚されるって言ってた…、

それじゃクロの前の主人は…

 

「あ…、ごめんな。クロ」

「……」

「こんなにズタボロになってクロ。あなたどれだけ無茶したの?」

「ムイ」

「まあ、死んでないだけましね。私はただ伝えるだけがお仕事だし、あまり関わらないからねぇ」

 

クロが傷だらけなのはもしかして昔の主人を守れなかったせいなのだろうか、

じゃあ俺を守ってくれるのはその昔の主人に似てるからなのか?

 

「なあクロ、俺って昔の主人に似てるのか?」

「……!」

 

クロが突然俺のこめかみを軽く殴った、普段の威力から考えれば低いがそれでも痛い

 

「痛った!?いきなり殴るなよ!」

「ムイ!」

「あらあら捻くれちゃって、そういうとこは変わらないのねぇ」

「いつつ…、メイメイさん」

「ん~?似てるかって、そうね。あの人はどちらかといえば戦うのが嫌いだったし、話し合いで解決できればそれが一番って考えだったわね。あとみんなに慕われてたし、まあその気になれば何でもできる人だったわね」

「え?何その完璧超人…、全然違うんですけど…」

「そうね、どちらかといえばクラレットにそっくりね、にゃははは~♪」

「…」

 

自分とのあまりの違いに落胆した。クロの前の主人ってどんだけすごいんだよ…

こりゃ、クロが俺のことをよく小馬鹿にするのも納得できるな。

 

「まあ、色んなのを自分一人で抱え込むところもそっくりね」

「え?」

「彼女も自分一人で抱え込んでるんでしょ、支えてあげなさい、あの人には支えてくれる人はいなかったんだから…」

 

お酒を飲みながら頬を赤く染めるメイメイさんのその時、一瞬だけ悲しそうな顔をしていた。

師範やクロが島のことを濁すように話すのは俺なんかが聞いちゃいけないような事情があるからなんだな…

そんなことを考えているとメイメイさんがこっちを向いて話を切り替えてきた。

 

「それで、ここには何しに来たの?」

「はい、実は…」

 

俺はアルク川でオルフル族と狼たちに子供たちが襲われたことを話した、

幸い子供たちはクロが守ってくれたおかげで怪我はなかったが、

その時からクロの様子がどうにもおかしいのでここに来たというわけだ。

 

「なるほどね、あなたしっかり話してあげなさいよ?」

「…」

「全く…、しょうがないメイメイさんに任せないさいな~♪」

 

そう答えるとメイメイさんが水晶玉の上に手を置いて念じ始める、

すると水晶から子供たちの姿が浮かんできた。

 

「これって…」

「答えないなら私たちの目で見るまでよ、ちょ~っと目を借りるわよ♪」

「!?」

 

クロの了承を得ずに水晶に移したのは恐らくその時クロが見ていた景色だろう、

やがて問題の場面に、そこには目を血走らせた少女の姿が確認されていた。

まるで野生で育ったような獣だった、耳は犬のように尖っており尻尾も確認できた。

 

「うわぁ…」

「これは確かにオルフル族ね、ちょっと待っててね」

 

メイメイさんがその場を立ち上がり本棚にから巻物のようなものを取り出す、

表紙には達筆に幻獣界と書かれてるように見えた。

 

「げんじゅうかい…?」

「あら、読めるのね?」

「達筆ですけど、なんとか」

「えっと…、あったあった。オルフルね。ん~」

 

メイメイさんの出した巻物は各種族のことが記されているもので

召喚辞典を自分でしたためた物だそうだ、

それによるとオルフル族は狩りはするが相手の領地を荒らすことはなく、

時には他種族とも交流があるとても友好的な種族であるらしい。

 

「そんな…でもこいつは子供たちを襲ったんですよ!?」

「襲わせた、という考え方はできないかしら?」

「!?」

「あなた達のことが邪魔で誰かが仕掛けたということは考えられないかしら、とにかくこの子は正気じゃないわね」

「正気じゃない…?」

「誓約によって縛られてるのか、また別の容認なのか…、とにかくクロが悩んでるのはこの子の事情よ」

「……」

 

そういえばクロは幻獣界の盟友と呼ばれるテテという種族だったな、

もしかして自分の世界の住人がこんなことをしでかしてることが納得できてないのだろうか

 

「クロ…」

「とにかく事態は以外に複雑よ、何よりこの子は厄介よ」

「厄介?」

「オルフル族は剛腕と俊敏な動きを持つ召喚獣、そして集団で戦うのが得意なの、同じ狼たちを従えてるならそれこそ厄介よ。まともに相手するのも危険すぎるわ」

「…それでも、もし俺たちがいないときにみんなが襲われたら」

「まあ、とりあえずこのことを頭に入れておきなさい、あなた達がこの子を排除するか助けるかはあなた達で決めるのね」

 

そういうとメイメイさんはその話を終えた、

俺とクロは重い足を動かしながら孤児院へと戻ることにした。

あのオルフルの少女が利用されている…、だけどそれを知ったところでどうすればいいのだろうか…

あの少女を倒せば元の世界に還ってくれるのだろうか…、だけどホントにそうなのか…

頭のなかがぐるぐるしながら俺は孤児院へと戻ってきた、

 

------------------------------

 

「ハヤト、大丈夫ですか?」

「え?あ、ああ…」

「明日のことが気になると思いますけど、きっと大丈夫ですから」

「うん、わかってる、わかってるよ」

「それなら…いいんですけど」

 

クラレットに心配されたがどうしてもこのことを話せなかった、

もしみんなに話せばもしかしたら助けようとするのかもしれない、

だけど…、助けようとしてこっちがやられたりしたら……

メイメイさんはそのことを教えてくれた、あとは自分で決めないと……

 

 

森の中を俺とクロで歩いていく、クロが先頭に立ってスウォンのところに案内してくれるそうだ。

 

「…」

 

クロはずっと無口だった、メイメイさんの所にいた時は結構喋っていたがやはり今回のことは悩むらしい。

同じ世界の住人が利用されている可能性がある、そして手をこまねいていたらこっちがやられる危険もある、

解決策が思いつかないまま、俺とクロは森を進んでいた。

 

「なあ、クロ。やっぱりクロも思いつかなかったか、何とかする方法」

「…(こく」

「そっか…、どうすればいいんだろうな…」

「!」

 

やがて森の奥の方に人影が見え始める、金髪の神に緑の服を着た青年、スウォンだ。

 

「やっと会えた…、やあスウォン」

 

スウォンはこっちを見ると驚愕の表情を浮かべる、そりゃそうだ、

危険な獣の居るこんな森にまた入るなんて正気の沙汰とは思えない。

 

「やあ、じゃないですよ、言ったでしょ!この森には凶暴な獣がいるんだって!」

「ああ、その事で話があるんだ」

「話…、ですか?」

 

スウォンにこちらで起きた事情を説明した、子供たちが川で獣の群れに襲われたことを、

そのことを聞くと驚いたが少し考え事をして、やがて納得したように俺たちに話しかけてきた。

 

「そんなことが…、危なかったですね」

「ああ、クロがいなかったらと思うと、ゾッとする話だよ」

「実は、ガレフ達が餌を取るスピードが速いようでこの森から獣たちが少なくなってるようなんです」

 

オルフルじゃなくて、ガレフ…?

もしかして俺たちの知らない召喚獣の事か?

 

「スウォン、ガレフってなんだ?」

「この森に棲む、狼の召喚獣らしいです。体格は普通の狼よりも大きく、大きなもので人と同じくらいあるそうです」

「その狼がそんなに大きかったのか」

 

俺たちが見た映像はクロの視点だった、そのせいで大きさを間違えたのか。

 

「そのオルフルという召喚獣が増えたことでさらに活動領域を広げたのでしょう、このままじゃ街中にも姿を現すかもしれません」

「そうなのか、俺たちは南スラムに棲んでるから一番狙われるかもしれないな」

「狼などの獣は一度撃退された相手の匂いを忘れることはありません、時間がたち過ぎればあなた達の家もいずれ…」

 

スウォンは俺たちの話を聞いた後、手に力を入れなおしこちらを見つめて答えた。

 

「その前に僕がガレフを倒します、安心してください!」

「倒すって、相手は集団だろ、それにオルフルまで加わってスウォン一人で敵うわけないじゃないか!」

「…っ」

「なんでそこまで一人なってまでガレフと戦おうとするんだ…?」

「それは…」

「何か理由があるんじゃないか?」

 

俺の言葉を聞き届けスウォンは悩んでいた、そしてその重い口を開き始めた。

 

「僕の父さんが…、最初の犠牲者なんです…」

「!?」

「この森の主と呼ばれる【朱のガレフ】に殺されたんです!!」

 

スウォンの父親が殺された…、

その事を知ったとき理解できた、スゥオンがなぜ一人になってまでこの森で戦うのか、

それは自分の肉親を失ったためだ、その敵討ちのために一人になって戦ってるんだ。

 

「僕たち狩人とガレフは今まではこの森で共存してきました。縄張りに入りさえしなければガレフたちは僕らを襲わない…、そのはずだったんです、なのに…っ!」

「最初は…襲わなかった…?」

「僕は絶対に許さない!父さんを、僕の大好きな父さんをっあんな姿に…!!絶対復讐してや…!」

「!?」

 

その瞬間、クロが何かを察知したかのように危険をハヤト達に伝える

 

「クロ、どうしたんだ!?」

「!!」

「もしかして…、そのガレフたちが近づいてるのか!?」

「ガレフが!?」

 

クロがハヤトとスウォンを引っ張ってこの場から逃げようとするが

スウォンは立ち止まり迎え撃とうと弓に手を添える。

 

「ガレフっ!!」

「何やってるんだ、スウォン!」

「父さんの仇、今日こそ…」

「!!」

「がっ!?」

 

クロが思いっきり腹を殴りつける、スウォンはいきなりで対応ができず酸素が足りなくなり。

その場に崩れ落ちた、それをクロが掴むとその場を勢いよく、離れてゆく

 

「ま、待ってくれクロ!!」

「…ムイ!!」

「え!?」

 

一瞬だがクロが何かを俺に伝えたのか理解できた…

まるで言葉の意味が頭の中に入ってくる感じがして、

とにかく今はクロの指示通りにムジナの召喚石を取り出し召喚術を行使する!

 

「ムジナ…!煙幕を頼む!!」

 

召喚されたムジナはかなりの量の煤を用意してくれているらしく、

それをこれでもかっ!という感じで振りまいてゆく、凄い匂いと煙だ、これならガレフも追ってこれないだろう。

そして何とか俺とクロにスウォンは森から抜け出しサイジェントの街へと戻れたのだった。

 

「っはあ…はあ…、クロありがとな」

「…b」

「へへっ…、なあクロ俺決めたよ」

「?」

「やっぱりみんなに話すことにする、それから倒すかどうするかみんなで考えよう」

 

一人で抱え込めばきっと大きな失敗をする、

悩んで無理をしてみんなに迷惑かけるぐらいならみんなに最初から伝えたほうがいいからな、

さっきクロが俺に力を求めてくれた、些細なことだがクロは俺を頼りにしてくれたのだ、

なんでもできるぐらい強いのにそんなクロでも人を頼る、なら俺も頼るべきだよな。

 

---------------------------------

 

孤児院へと戻った俺たちは倒れたスウォンを休ませ、集まっていたみんなにこのことを話した。

 

「ハヤト、その話は本当なんですか?」

「ああ、メイメイさんの所でも確認したけど正気じゃなかったんだ、それに森に棲む狼…ガレフたちも少し前までは縄張りを守ってるようだったんだ」

「じゃあ、ガレフって奴らはここ最近人を襲うようになったのかよ?」

 

ガゼルが俺に確認してくる、実際にガレフが前から人を襲うのかはわからない、

そんな問題を解決してくれたのはレイドさんだった。

 

「森の獣、ガレフだな。確かに騎士団にいたころ討伐依頼があったよ、だけど縄張りに入らなければ手を出してこないとわかりお流れになったな、3年前ほどの話だったか…」

「じゃあ、3年も昔から守っていた縄張りをここ最近破り始めたってことなのか?」

「それっておかしいよな、俺っちも野生の獣のことは知ってるけどたいてい自分の縄張りを広げようとはしないぜ」

 

エドスの問いにジンガが答えた、はぐれ召喚獣で自分の縄張りを持っている者はめったに縄張りを広げたりはしないそうだ。

なぜなら人間などの自分たちを脅かす危険がある連中に比較的に関わらないようだ。

 

「となると考えられる方法は二つあります」

「何かあるのか?」

「一つは召喚師の誓約による更なる命令が下ったことです、2重召喚で知ってると思いますけどはぐれ召喚獣はさらに強い魔力で新しい誓約を刻めるんです」

「じゃあ、あの子たちを襲ったのはその召喚師の命令だっていうの!?」

 

クラレットの答えにリプレが怒りを現して叫ぶ、それをクラレットは焦りつつ諫めた

 

「落ち着いてリプレ、あくまで可能性ですから…、二つ目は操られていることです」

「操られている?」

「召喚獣の数は膨大です。なかには相手の意識を操る召喚獣がいるんです、もしその召喚獣がはぐれになり人を襲うように指示を出しているとすれば…」

「じゃあ、ガレフは操られているってことなのか!?」

 

 

お客用の部屋で金色の髪をした青年がゆっくりと目を開けた、

自分がなぜここで寝ているかを思い出そうと記憶を探り始める…

 

「そうだ、僕はガレフと戦おうとして…、あの召喚獣に…」

「だい…じょうぶ?」

 

声の方へ振り返ると椅子に座りながら人形を抱きしめてこっちを見ている少女がいた。

 

「え…、ああ僕はもう大丈夫だよ。僕はスウォン、君の名前は?」

「…ラミ」

「そっか、ラミちゃんか、ありがとう、ここで看ててくれたんだね」

「げんきになってよかった…」

「あの人…、ハヤトさんたちがどこにいるかわかる?」

「…おにいちゃんなら、ひろまにみんなといるよ」

「案内、してもらえるかな?」

「…(こくん」

 

ラミに連れられ廊下を出て広間に向かってゆくスウォンだったが、

その彼の耳に届いたのはハヤトの叫んでいる声だった。

 

「じゃあ、ガレフは操られてるってことなのか!?」

「えっ!?」

 

ガレフが…、操られている…、父さんの仇が…

 

「あ…」

 

スウォンはラミの静止を振り切ってハヤトに問い詰めた、

 

「ガレフが操られているってどういうことなんですか!?」

「スウォン、起きたのか。大丈夫か、思いっきり殴られたみたいだったけど」

「そんなことはどうでもいいんです!ガレフが操られているって…」

「ああ、それは…」

 

ハヤトは今までの事をスウォンに伝えた、何より幻獣界出身のクロがそう感じているのだ、

そのことを全て伝えるとスウォンは力尽きたようにその場に崩れ落ちた。

 

「…そんな、ガレフが利用されてるだけだったなんて」

「スウォン、まだ決まったわけじゃ」

「いえ、何となくわかってたんです。他の狩人の人たちも言ってました。縄張りにも入ってないのに突然襲うなんておかしいって…」

「それはここ最近の事だったんですか?」

「ほんの1、2ヵ月ほどのですよ。突然ガレフが人を襲う様になって、それで父さんは殺されて…」

 

スウォンの声に力がなくなっていた、たぶん自分でもわかってたんだ。

突然変わることなんて決してない、きっと何か原因があることに、だけどそれを知りたくなかったんだ、

知ってしまえば自分の今の思いを捨てなくちゃいけなくなるから…

 

悲しみに暮れているスウォンに声をかけたのはラミだった、

ラミはスウォンの手を握り声をかける、その姿は泣いているときの自分を励ますリプレと同じものだった

 

「げんき…だして…」

「…ラミちゃん」

「かなしんでると…しあわせがどこかに行っちゃうよ?」

 

ラミの優しい言葉を聞きながらスウォンはゆっくりと立ち上がる

目は赤くなっていてまだ落ち着いてはいないようだが何かを決めたようだった。

 

「ハヤトさん…」

「ハヤトでいいよ、年だってそっちの方が上だろ?」

「うん、じゃあ改めて、ハヤト。僕に力を貸してくれないか?」

「ああ、みんなもいいよな!」

 

フラットのメンバーがそれぞれに声を上げて賛成した、

それを見てスウォンは驚くがすぐに感謝の笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう、みなさん!」

 

---------------------------------

 

スウォンが新しくフラットのメンバーに迎えられた、

実際にはそうではないかもしれないは仲間になったということには変わりはない

そして、今自分たちがやらなくてはいけないのがガレフたちをどうするかだ。

 

「それで、クラレットさん。ガレフたちを助ける方法はないんですか…?」

「……ガレフは召喚獣なんですか?」

「はい、おそらく召喚獣だと思いますけど…」

 

スウォンは少し自信なさげにクラレットに答えた、

ガレフは体格は大きいが純粋な召喚獣なのかはイマイチよくわからないのだ。

 

「先ほども話しましたが誓約で襲ってるのならもうどうしようもありません、なにせそれの指示を出した召喚師を倒してもその誓約が解除されるわけではありませんし…」

「じゃあもう一つの方は?」

「操られているという話ですよね、ガレフたちとは何度か戦ったんですがどれも正気じゃないような気がしたんです」

「だとすると、操られているということですけど…、ハヤト。その時の対処はわかってますか?」

「対処…、やっぱり召喚術ってことなのか?」

「問題はどのように操られているかなんです、スウォンさん、ガレフは集団で行動してるんですか?」

「ほとんどが集団ですね」

「普通の洗脳なら召喚術で何とかできますが、もし寄生型なら…、そのときは覚悟してください」

「……」

 

覚悟、それはガレフたちを救えず殺さなければいけない事、

確かにそれを考えておかないといざという時に危険が伴う…

俺はいつもより力を握りしめながら剣を掴みみんなと一緒に森へと向かった

 

---------------------------------

 

森に着いたハヤト達は薄暗い森を進んでいく、先頭はクロとスウォン、

クロの感覚とスウォンの案内に頼りながら先へ進んでいった。

 

「なあクラレット、おまえは召喚術を使えないのにどうやって洗脳を解くんだ?」

 

ガゼルがクラレットにそれを訪ねた、クラレットのトラウマは重症だ。軽いものでも倒れるほどの負担がかかる、

そんな彼女はどうやって召喚術を使うのか話してなかった。

 

「そういえば話してませんでしたね。サモンアシストという技を使います」

「サモンアシスト?」

「はい、召喚術を使うほかの人の召喚をサポートすることで限界以上の力を使う技法です。話によれば通常は一体の召喚獣を集団で呼び出すこともできるとか」

「使う召喚術は?」

「聖母プラーマは異常状態回復効果がありますからそれを…」

 

クラレットが作戦の確認をハヤトにしていた。まず主格となる朱のガレフかオルフルの少女、

このどちらかの洗脳を解けば可能性はあるそうだ。

あとは数次第だそうだ、クラレット自身、魔力はかなりあるし、

ハヤトの召喚術は特殊で呼び出すときの魔力消費がほとんどかからない利点もある。

かなり危険だがガレフたちを助けるのは現状それしかなかった。

 

「しかしなんだ、いつ襲われるかわからないってのは…」

「なんだよ、ビビってんのか?」

 

エドスが周りを見ながらつぶやくとそれをガゼルがからかっているがすぐに否定する

 

「そういうわけじゃない、ただ、油断はするなと言いたいだけさ」

「それにしても、さっきから同じところを何度も回っていないか?」

 

レイドの言葉にクロとスウォンは足を止め振り返り答えた。

 

「ええ、そうです、クロと考えたのですけどガレフの縄張りの周りをジグザグに進んでいるんですよ」

「クロと一緒に考えた?」

「はい、最初はただ誘い出すことを考えてたんですけど、戦いやすい場所を選べみたいに言われてるようで、それで戦いやすい広場を選びながら移動し続けているんです」

「…」

「だからたまに止まったり進んだりしてたのか…」

「さすがアニキの召喚獣だ!」

 

 

ハヤト達が森を進んでいくとクロが何かを感じ取ったようにその場に止まる、

その瞳は一瞬の油断も感じさせない眼光を放っていた。

 

「クロ、もしかして近くにいるのか…?」

「……」

 

クロの無言の言葉にそれぞれ武器を握りしめながらその場で構えている。

それぞれ背中合わせになりながら森の奥を見つめているがまだ見えてこない。

 

ぱきっ…

 

「!? ムイ!!」

 

クロがわずかな音を聞き俺に向かって口数の少ない口で吠える!

その言葉をすぐさま理解した俺は背後にいたクラレットに飛びついてすぐにその場から下がる

 

「ガアアアァァ!!!」

「きゃっ!?」

 

木の上から少女がクラレットの居た地点に落ちてくる、

その肉をえぐったあとが残っている手がもし彼女が飛びつかれなければ助からなかったことを物語っていた。

 

「なっ!?木の上からだと!」

「ハヤト、クラレット!!」

 

仲間たちに呼ばれるが倒れるように飛びついたせいですぐには立てない、

それを知っていたのオルフルはすぐさま俺たちに飛びつく!

 

「!!」

「ガッ!?」

 

飛びつかれる一瞬、クロがその少女を思いっきり蹴り飛ばす、

だが少女は空中で体勢を整え、すぐに突っ込もうとするが、

少女の近くに矢が飛んできて動きを制限させた。

 

「ハヤト、クラレットさん!すぐに立ってください!!」

「スウォン、ありがとな!クラレット、立てるか?」

「は、はい!」

 

スウォンが牽制してるが、そのスキを突き少女がこっちに近づいてくる!

 

「ここは俺っちに任せろ!」

「ウガァ!!!」

 

ジンガが少女に取っ付き力任せに押さえつけようとするがそれを正面から受け止める

 

「うぎぎ…!なんて力だ!」

「グググ…!」

「ハヤト今です、召喚獣を!」

「ああ、来てくれ、聖母プラーマ!!」

 

クラレットがハヤトの石を持っている手を握り、魔力を込め召喚獣の力を底上げさせる

普段のプラーマよりさらに強い力を感じさせる光がジンガと少女を包み込んだ!

 

「アウ…!? んんん…」

「どうなったんだ?」

 

少女の様子が少し変わり始めるが、再びその様子に変化が起こりまた狂気をまとい始めた!

 

「グアアアァァ!!」

「アニキ!変わってねぇよ!」

「な、なんだって!?」

 

つまり、少女を縛っているのは寄生型…、じゃあこの子を俺たちは…

 

「ジンガ!すぐにその子の手足を折ってください!そのあとに考え…」

 

クラレットが指示を出そうとするが少女がすぐにジンガから離れて次の行動に移した

 

「ウオォォォーーーーン!!!」

「いけない!ガレフたちに合図を送っている!

「じゃあなんだ!?狼たちが来るのかよ!」

「みんな構えろ、来るぞ!!」

 

スウォンが叫びレイドが全員に指示を出す、その声が届き始めるころ周囲に狼達が姿を現した。

 

「こいつらが…ガレフたちか」

「クラレット、俺の後ろに!」

「はい、気を付けて!」

 

するとガレフたちの中から更に大きく赤いガレフが姿を現した。

 

「なんだ、あの赤いやつは!?」

「朱のガレフ…、ガレフたちの親玉です!」

 

ほかのガレフとは大きすぎる…、これが朱のガレフ…!

 

「…!!」

 

クロが朱のガレフに向かって突撃する、恐らく相手が体制を整える前に先制攻撃を狙ったのだろう。

それを迎え撃とうと近くにいた少女がすぐさまクロに攻撃するが、

さらに加速してそれを回避する、そして朱のガレフの正面に飛び出した!

 

「ガアアアァァッッ!!!」

「!!!」

 

朱のガレフがクロに噛みつこうとするがそれを回避し、

その体格に合わない剛腕で顔面を殴りつける!

 

「!?」

 

朱のガレフは多少食らった模様だがギロリとクロのほうを睨み付け今度は爪で引き裂こうとする!

 

「!」

 

クロはそれを回避し今度はクロが体制を立て直す。

 

「そんな、クロの攻撃が効かないなんて…」

「ガレフたちも動き始めたぞ!」

 

ガレフたちもそれぞれ動き始める、それにそれぞれ対応し始めた、

朱のガレフに比べ少しばかり大きいだけだから対応はできる!

 

「朱のガレフは僕に任せてください!」

「!!」

「わかってます、クロ、頼みます!」

 

スウォンとクロがそれぞれ二人ががりで朱のガレフに立ちふさがる、

二人だけで倒せるかはわからないが少なくとも時間を稼ぐことはできるはず。

そしてハヤトとクラレットもオルフルの前に立ちふさがっていた。

 

「グウウゥゥッッッ!!」

「ハヤト気を付けてください!」

「……」

 

ハヤトは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた、

朱のガレフとオルフル、その二匹をを釘付けにすればほかのガレフの動きが制限されるはずだ。

それにハヤトは絶対的にはぐれ召喚獣のどの獣のようなタイプとは戦うことがほとんどない。

そのためオルフルの少女と戦うのがハヤトになるのは必然に近かった…

 

「グワウッッ!!」

「動けなくすれば…、来てくれ、フレイムナ…」

 

召喚術を使うとするが、少女の恐ろしいほどのスピードにハヤトは召喚術を行使できない!

その肉すらえぐる爪がハヤトに迫るが石を手放してすぐに剣を抜きその攻撃を防ぐ。

剣を掴む形で少女がハヤトの剣を弾き飛ばそうとするがハヤトは少女を蹴り飛ばしその場から離れた。

 

「速過ぎる、召喚術が間に合わない…」

「ウガァッッ!!」

「ハヤトォッ!」

 

獣なのか見かけと違い正面から突っ込んでくるだけなためハヤトは少女を回避できた。

そして反撃の機会はあったのだがどうしても最後の覚悟が彼には出来ていなかった。

 

人をその手にかける、この世界にきて2週間以上経過してハヤトは命を奪う機会はあった。

森に向かう時もはぐれ召喚獣を倒すこともあったが撃退がほとんどだった。

そんな彼はまだ覚悟ができていなかった、平和な世界に生まれた彼には覚悟は出来なかったのだった。

 

そんなハヤトに今、試練が訪れている、目の前の少女は自分の命を刈ろうとする。

やらなければやられる、そんな弱肉強食の掟がハヤトに襲い掛かっていた。

 

「このままじゃ…!」

「ハヤッ…!? きゃっ!」

「クラレット!?」

 

ハヤトが横目でクラレットを見ると、ほかのガレフにクラレットが襲われていた。

クラレットは持っている杖でガレフの顔面を弾き飛ばし意識を奪っている。

 

「私は大丈夫です!目の前のオルフルを…、くっ!」

 

このまま時間をかければクラレットが…、やるしかない…

この女の子を…倒す!!

 

---------------------------------

 

ハヤトが覚悟を決めていたときクロとスウォンは苦戦を強いられていた。

朱のガレフの剛毛に矢はほとんど刺さらず、クロの攻撃もあまり効果はなかった。

 

「はあ…はあ…、強いこんなに強かったなんて」

「…」

 

スウォンが弱音を吐いているとき、クロは冷静に朱のガレフを観察していた。

効くのは顔面だが殴りつけるときに首をいなして威力を下げている…

その行為を見てクロは確信していた、こいつは操られていない。

恐らく周りのガレフたちが全員操られているせいで人質になっているのだろう。

 

「ガッ!!」

「!!!」

 

朱のガレフの爪を避け、クロは朱のガレフの足に思いっきり殴りつける。

 

「ギャウッ!?」

「!!」

 

ひるんだ一瞬を突き、顔面に強力なアッパーを食らわせてガレフを朦朧とさせる

その隙を逃さず、横っ腹に蹴りを食らわせ吹き飛ばして大木に叩きつけた!

 

「す、凄い、あれだけの相手を一瞬で…」

「……」

 

相手がどれだけのものを抱えようとクロは冷静に物事を運んでいた、

かつて自分の主は全てを救おうとして結果自分というものを死なせてしまった。

だからこそ戦う時は相手の抱えているものを考えずクロは戦っている。

 

「グウゥゥゥッ!」

「!」

「まだ立つのか…」

 

朱のガレフが立ち上がりクロの前に立つ、

何かを抱えている者は理不尽に強い、そのことをクロは知っている。

だからこそ事態が変化するときまで朱のガレフを倒さないとクロは決めていた。

自分の主の、ハヤトの決断次第でクロはその後の行動を決めていたのだ。

 

---------------------------------

 

「来てくれ、フレイムナイト!!」

「!?」

 

ハヤトは隙を作りフレイムナイトを自分の体に憑依させる。

体全身に熱が周りはじめ力が湧き上がってくる!

 

「ウガァァァッッ!!!」

「行くぞぉぉッ!!」

 

正面から少女の攻撃を防ぎ、剣で弾き飛ばす。

 

「ロックマテリアル!」

 

体制を崩した少女に頭一つ分の岩を食らわせる、

クラレットに聞いたが召喚術は通常の物理攻撃と違い、

この世界に召喚されたばかりだと魔力で一時的に体を構成してるらしく、

それに耐性が薄いとかなりの痛手を受けてしまうらしい。

つまりただの岩でも魔力を帯びているため少女は予想外の痛手を受けていた。

 

「これで決める、鬼神将ガイエン!!」

 

空間に開かれたゲートから鎧を着た鬼が出現する、

 

――鬼神将ガイエン、シルターンでも名の通っている力のある鬼である。

 

その巨大な刀から放たれる剣技、鬼神将たちに伝わる秘剣が少女に振り下ろされた!

 

「ギャゥッ!?」

 

鬼神斬の一撃を受け、少女の体が宙を舞い地面に崩れ落ちた。

 

「はあ…はあ…、やったか?」

 

自身の出せる最大の召喚術を行使し、ハヤトは倦怠感を多少感じてるが、

少女の様子を確認するため、剣を握りしめならが近づいてゆく。

 

「ううゥゥ…」

 

ギリギリで回避したのか体中に青痣が浮かび痛みが表情に現れていた。

やはり見かけは普通の少女だった、

ショックを受けたせいなのかその目は狂気を持っていなかったがそれでも油断はできない。

 

「…ッ」

 

ハヤトは少女の手をかけることをギリギリで覚悟を持てなかった。

見かけは自分より年下のぐらいの少女そのもの、自分の妹と同じくらい、

そんな少女を前にハヤトは覚悟が持てづ怖気づいてしまった…

 

「……ウガァァッ!!」

「はっ!うわっ!?」

 

手が震えているハヤトの不意を突き、その剣を弾き飛ばした少女はハヤトに飛びついた!

ハヤトはそれに対応できず少女に馬乗りにされた形になり、

首をかき切ろうとするその手を握り、必死に攻撃を防いでいた

徐々に自分の首に近づいてくる手に恐怖しつつハヤトは力を籠めるが相手の力のほうが上だった

 

「ギギギッッ!!」

「だ…駄目だっ!」

 

やがて少女の爪がハヤトの首筋に届き、首から血が流れ始めた。

 

「ハヤトッ!!」

「ガッ!?」

「クラレット!!」

 

クラレットはハヤトに馬乗りになっている少女に飛びかかり無理やり引きはがす、

クラレットはそのままハヤトが体勢を立て直すまで時間を稼ごうとするが、

少女に弾き飛ばされ木に叩きつかれ、そのショックで意識を失いかけた

 

「クラレット!!」

「ハ、ハヤト…」

 

少女は邪魔されたことに対してクラレットに怒りを抱きクラレットに飛びかかった!

それを見たハヤトは少女に向かって突っ込んでゆく!

 

 

クラレットに助けられて俺がクラレットのほうを見るとクラレットが木に叩きつかれていた。

少女は俺のことを無視してクラレットに飛びかかろうとする、

俺は無我夢中で落ちている剣を掴み、少女に飛びかかった!

 

「やめろぉぉぉぉーーーっっ!!!」

「!?」

 

こっちを振り返る少女、大声を上げて飛びかかる俺に対応できず足を止めた少女の胸に俺は…

 

 

その胸に剣を突き刺した。

 

「が…がぁぁ…」

「………ッ」

 

俺の手に少女の胸から伝わる血が俺に手に伝わってゆく。

生暖かくまるで少女から命が流れているようだった…

 

「………」

 

少女の体に力が抜けて俺にもたれかかる、そして少女の口が大きく開かれ…

 

 

俺の首筋に食いついた。

 

「なっ!?」

「ぐぅぅっっ!!」

 

驚くが少女を振りほどけない、相当深く食いついたのかどんどん深く食い込んでゆく

やがて俺の首からだんだん痛みが消えてゆく、腕を切られた時と同じで意識が遠くなってくる

おびただしい血が俺の首から流れているのが少女の顔から見えていた…

俺は…、結局誰も守れなかったのか……。

意識が完全に途切れる瞬間、俺は大切な人の悲鳴を聞いた。

 

---------------------------------

 

私が目を開けるとそこには血塗れのハヤトの姿が見えた。

少女の体から剣が突き抜けているのが見える、ハヤトは私を守るために少女に手を…

そしてハヤトはその反撃を食らって、そんなハヤトが…

私の中で何かが膨らんでいるのを感じる、これがハヤトを救えるのなら私は…

この力に飲まれてもいい!!

 

「ハヤトォォォッッーーー!!!」

 

クラレットが自分の中で膨らんでる力を解き放つ!

かつて暴走していた力だったがその力が、クラレットの杖に伝わる。

杖に封じられていた封印が力尽くで破られ、召喚術が発動した!

 

「なんだアレ!?」

「天使…なのか?」

 

サプレスのゲートから現れたのは天使だった。

金色の髪をなびかせ、白く輝く羽が彼らの周りに待っている。

 

「あ、あなたは…」

「……」

 

天使は何も言わずに剣を構え虹色の光を周辺に迸らせた!

 

――オーロランジュ

 

クラレットから魔力を吸い出し、その光がその場にいるものを癒してゆく。

その聖なる光がガレフたちにも降りかかり彼らを蝕むもの全てを取り除いてゆく。

そして、その光が収まり天使がその剣を下し、クラレットのほうを見つめる。

 

『また、会いましょう』

 

天使がサプレスへと還ってゆくのを見届けるとクラレットの意識が暗転してゆく。

 

そして戦いは終わった…

 

---------------------------------

 

戦いが終わったあと一番に行動したのはクロとスウォンだった。

朱のガレフに近づき、ガレフたちもうこちらに敵意を持ってない事を確認したのだ。

 

「スウォン、もうガレフたちは大丈夫なのか?」

「…」

「はい、大丈夫のようです…、ガレフたちはただ利用されていたようですから」

「こっちにクロの奴がいて助かったぜ、言葉が通じない奴とも話せるんだからな」

 

ガゼルがクロの存在をありがたく思っている、しかしスウォンの表情は晴れなかった。

 

「どうしたんだよスウォン、やっと終わったんだぜ?」

「…僕と同じでガレフたちもつらい思いをさせてしまった…」

「…確かにな」

 

ジンガが表情の晴れないスウォンを気に掛けるがスウォンは自分と同じ思いをさせてしまったことを悔やんでいた。

先ほどの天使の光が呪縛を解き傷を癒した、だが失った命は戻っては来なかった。

傷ついたガレフたちの中には傷が深すぎて助からなかった命も多数いたのだ。

 

「ガウゥ…」

「!」

 

そんなスウォンに朱のガレフが近づく、クロもその近くにいた。

 

「ガレフ…、僕はあなたたちの家族を…」

 

静かにスウォンを見つめる朱のガレフ、しかしガレフは怒りを露わにもせずその横を通り過ぎる。

 

「…」

 

クロは朱のガレフが怒らない理由はわかっていた、自然とは弱肉強食、強きものが上に立ち弱きものは淘汰される。

ガレフたちは強きものに負けたのだ、それを朱のガレフは知っている、だからスウォンにも怒りはしない。

そのことをクロはスウォンに自覚させる気はない、苦しんで悩むのは人間の専売特許、

無理してこちらの法則を理解させる気はなかった、まあしつこいようなら対処はするが。

そんなことを考えながらクロは自分の主のもとに歩いていった。

 

---------------------------------

 

俺はどうなったんだ…?

たしか少女に首を噛み切られて、それで…、だけど首から血が出ていないし…。

 

ハヤトが自分の首に手をやるが痛みも残っていない、

だが服も手も血塗れだったため勘違いではないことは理解できた。

 

やっぱり噛まれたんだ、それにこの状況って…

 

「くぅぅ…?」

 

ハヤトの目の前には少女の姿があった、先ほどのような狂気を抱いた瞳は無く、澄んだ青い瞳をしていた。

こんな瞳の色だったんだ…、などとのんきなことを考えていたが少女の顔が突然近づいてくる。

 

「がうっ!」

「な、なんだ!?」

 

少女はハヤトの首元を触りさすっていた、ハヤトはその行動に吃驚したが敵意などを感じないため受け入れてた。

しばらく触ると少女はほっと安心したように息を吐いていた。

 

「もしかして、心配してくれたのか?」

「がうっ♪」

 

俺に向かって笑顔で返事をする少女、尻尾をふりふりと振っている様子からうれしい様だ。

実際犬と同じでいいのかはわからないけど、とにかくもう敵ではないようだ。

だけど、なんで傷が治ってみんな正気にもどったんだ…、もしかして…

 

「クラレット!!」

「キャウッ!?」

 

俺が突然大声を上げたせいで驚かせてしまったが今はそれどころではない、

周りに目をやると木の根元で倒れているクラレットの姿が見えた。

そのそばにすぐに近づき彼女を抱き起す…、よかった、気絶してるだけのようだ…

そんな俺の様子を心配したのか少女も近づいてクラレットの顔を覗いていた。

その表情は申し訳なさそうでどこか辛そうだった。

 

「くぅぅ…」

「大丈夫だよ、クラレットはやさしいから理解してもらえば怒らないさ」

 

俺のそんな言葉を理解できたのか小さくうなずく、やっぱりこう見ると普通の女の子なんだな…

先ほどお互いに殺し合いをしてたなんて考えられなかった、

もしあのまま何も変わらなかったらどうなってたんだろう…

そんなもうありもしない事を考えていると腕の中にいたクラレットがゆっくりと目を覚ました。

 

「ハヤト…?」

「クラレット、大丈夫か?」

「……ッ!ハヤト、ハヤトハヤト!!」

「わわっ!?」

 

目を覚ましたクラレットが突然俺に抱き着く、手が俺の首筋に置かれ傷を確かめているようだ、

顔も近いしこんなこと普段の彼女がする行動じゃない…、心配かけすぎたんだな…。

俺は彼女の背中をてでさすり彼女を慰め始めた。

 

「ごめん、迷惑かけたよな」

「そう思うなら、あんなこともうしないでください!!」

「ごめん…」

「またあなたが血塗れで…、あなたが死んだら私は一人になっちゃうんですよ、お願いですハヤト。もう一人にしないで…」

「うん…、できる限り気を付ける」

「…馬鹿です、そこは嘘でもはい、って言って元気づけるところですよ」

「クラレットに嘘をつきたくなくて…ホントごめんな」

「しばらくこうしてください、お願いです…」

「うん…」

 

また彼女につらい思いをさせてしまったな…、俺はやっぱりまだまだだ。

優しく彼女を抱きしめている、顔の辺りが濡れているように感じるからたぶん泣いてるんだな。

俺も生き残れて安心したのかクラレットをしっかりと抱きしめてゆっくりと時が流れていった…

 

---------------------------------

 

しばらくすると俺たちの周りにガレフたちスウォン達が集まっていた、

恥ずかしいがクラレットは俺にしがみついたままだ、さすがにこれは…

 

「クラレット、そろそろ離れてくれないか?」

「もうすこし、このままでお願いします」

「だけどさ…」

「私をあんなに心配させた罰です」

 

こうなるとクラレットは意地でも離れないだろう、自分で言ったことを後で後悔する性格なんだよな。

その様子をフラットのみんなが見てる、ガゼルたちは特に気にしてないようだが新参者のスウォンは顔を赤くして照れているようだ。

やめてくれそんな新鮮な反応、あと狼少女、興味津々に目をキラキラさせないでくれ。

 

「えっと…あの」

「気にすることねぇぜスウォン、こいつらはこれが普通だ」

「まあ、ある程度慣れが必要だがね」

「そうなんですか、それならいいんですけど」

「…」

「くぅん♪」

 

レイドの言葉にスウォンが納得するがこれ、普通なのかそんなにこんな事してるわけじゃないと思うけど…

そしてエドスが少女を見ていて何か悩んでいるようだった…

特に気にしてなかったが半裸と布切れ一枚の少女の組み合わせはなんか犯罪的だな…。

 

「なあ、クラレット。こいつもやっぱり召喚獣なのか?」

 

その一言に少女が強張るのを見た、もしかして召喚獣にいい思い出がないのか?

 

「はい、間違いなくオルフルです、ですけど…」

「くぅ…」

「もしかして喋れないんですか?」

「…(こくん」

 

少女は辛そうに頭を下げた、人間のような姿なのに喋れないのか…

でもこっちの言葉はわかっているようだけど。

そう思っているとクラレットは俺から離れて少女の前に立つ、そして優しくその体を抱きしめた。

 

「くぅ!?」

「…辛い思いをしたんですね、大丈夫ですよ。私たちはあなたを虐めたりはしませんから」

「……」

「何もわからないで召喚されて逃げてきたんですよね、でも大丈夫です。ここにはあなたを苦しめる召喚師はいないんですから…」

「うっ…ううぅ…うわぁぁぁ~~~んっ!!」

「ん」

 

まるで見透かしているように少女に言葉を投げ掛け少女を優しくクラレットは抱きしめていた。

それに答えるように今まで貯めていたものを吐き出すように少女はクラレットの胸で泣き叫んでいた。

俺はその光景を見て召喚獣も人間なんだなって思った…。

 

---------------------------------

 

やがて少女が泣き止む、だがクラレットが気に入ったのか彼女に抱き着いたままだ、

そんな彼女の様子が気になったのかクラレットにスウォンが問いかけた。

 

「あの、クラレットさん」

「なんですか?」

「どうしてこの子は泣いていたんですか、こんなにも甘えるように…」

 

まるで親が子に縋るように泣いている、俺もそう思っていた。

 

「恐らくですが、彼女は外道召喚師に召喚されたんです」

「外道召喚師?」

「正式に召喚術を学ばなかった召喚師です、現にこの子の言語機能に不備が発生してますし」

「言語機能に不備って…どういうことだ?」

「ハヤトは違和感を持たなかったんですか?私たちの世界も国ごとに言葉が違います。なのになぜリィンバウムという世界が違うにもかかわらず言語が同じことに」

 

そういえばリィンバウムにきてゴタゴタしてたから忘れてたけど、確かに言葉が同じだったな…

 

「いや…、なんかファンタジーものだと言葉とか同じだったし、そういうのかなぁって…」

「ファンタジーやメルヘンじゃないんですから…、もうそのぐらい気づくべきですよ」

「面目ない…」

「話を戻しますね、召喚術には相手がこちらの言葉を理解する機能と向こうの言葉がこっちに伝わる機能の二つが組み込まれているんです。なのにこの子の言語機能に異常が見られてます、おそらく召喚術が碌なものでなかったからでしょう」

「だけど召喚術は召喚してすぐに戻すものだろ?」

「この子が…純真な性格のようですから、きっと利用したのでしょう、でもこっちの言葉は伝わるが相手の言葉は伝わらない、おそらく無理に言うことを聞かせようとしていたんでしょう、この首輪がその証拠なんです」

 

少女の首をよく見ると鉄で作られた首輪が付けられていた、無理してはがそうとしたのか首の周りは血がこびりついていた。

 

「ひでぇ、首回りが血だらけじゃねぇか」

「クラレット、これって…」

 

クラレットが俯きながらその首輪の事を説明し始めた。

 

「これは誓約の首輪と呼ばれる道具です。これをつけられた召喚獣は命令に逆らうと精神に激痛が走り命令に服従させる道具なんです。私も…昔使ったことがあります」

「なんで姐さんがこんなもの使うんだよ!おかしいじゃねぇか!」

「これは元々新米召喚師の教育用の道具なんです、召喚獣は生き物ではなく道具であると思わせるための…召喚術の負の遺産ともいえるものなんです」

 

辛そうに少女を強く抱きしめながらクラレットは答えていた、

この世界にいるときは恐らく気にはしなかっただろう、だが俺達の世界で過ごし色んな事を知った今は自分のやってきたことがきっとつらいはずだ。

 

「クラレット、これは外せるのか?」

 

クラレットは首を振り俺の問いに答えた、少しばかり予想していた答えだった。

誓約は絶対、そうクラレットに教わったんだ、同じ名前の付いた首輪が取れない事なんてわかっていた。

俺は少女の頭に手をやり優しく撫でることにした、こんな事しか今の俺にはできないが何かしたかった。

 

「ん、なんだ?」

 

少女の頭を撫でていると耳の後ろの部分に何かついているのに気づいた、

それは少女の肌に食いついているような感じがする。

 

「えっと…なあ?」

「?」

「ちょっと気になるもの見つけたんだけど?」

「どれですか、ハヤト」

 

俺はクラレットに声をかけそれを見せようとし、少しばかり力を入れるとベリッっと肌から引き剥がしてしまった。

少女は悲鳴を上げ痛がってしまい、むくれる少女に謝りつつ手に取ったものを見るとそれはキノコだった。

 

「これって…キノコか?」

「見たことのないキノコですね…」

 

狩人のスウォンも知らないキノコが少女の頭から生えてる…?

そのキノコを見ているとクラレットが近づきそのキノコを俺から受け取った。

 

「これは…、確か…」

 

クラレットが額に指をあてながら思い出そうとしている、

それを見ているとクロやガゼルもガレフたちから同じキノコが生えていることに気が付き始めていた。

 

「ほとんどのガレフに同じキノコが、偶然なのか?」

「グルルルッ!」

 

朱のガレフが持っているキノコに対し敵意を出している、もしかしてこのキノコって…

 

「思い出しました!」

「何を思い出したんですか?」

 

先ほどから悩んでいたクラレットが何かを思い出したようだ、

持っていたキノコを手のひらに乗せてみんなの前に差し出した。

 

「こんな姿をしてますがこれは召喚獣なんです」

「これでも召喚獣なのか!?」

「こんな小さいやつもいるんだな…」

 

エドスとジンガは驚いているようだ、

確かに今まで出した召喚獣は獣とかやけに大きいのばかりで小さいのはほとんどいないからなぁ

 

「これはトードスと呼ばれるメイトルパの密林に棲む寄生型の召喚獣なんです、自身の胞子を相手に寄生させ操る、そして自分の都合のいいように利用するんです」

「都合がいい…?」

 

クラレットの言葉にレイドが反応する、都合がいいってどういうことなんだ…?

 

「トードスはこれと同じようにキノコの姿をしている召喚獣なんです。そして強く成長するには地面から魔力を吸い上げ自分の養分にするんです。でもそれ以上に成長するためには他の生物から魔力を奪い取り自身に養分に変えるんです」

「もしかして…、ガレフたちが人を襲っていたのは!?」

「はい、トードスの養分にするためです、たぶんラミちゃんが襲われたのもラミちゃんが人より多くの魔力を持っていたせいです」

 

全部そのトードスっていう召喚獣が原因だったのか…、じゃあそいつを倒せば。

 

「そのトードスを倒せば、ガレフたちのような犠牲はもう出ないのか?」

「少なくともこれ以上増えることはないです、トードスの幼体はメイトルパの環境でしか生まれないはずですし」

「このキノコのせいで…、父さんが…!」

 

スゥオンは奥歯を噛みしめて怒りを抑えてるようだ、その怒りは恐らくトードスにぶつける為に。

俺はそんなスウォンを心配している、何となくスウォンの肩に手を置いた。

 

「ハヤト?」

「行こう、スウォン。そのトードスを倒すために…」

「…確かにトードスは倒さなければいけないです。でも…」

「もしかして、トードスも被害者だと思っているんですか?もしそうならそれは間違いです」

「え…?」

「トードスを倒さなければこの森は狂ったままです。私達の世界にも他から動植物が持ち込まれ生態系が狂わされることがあります。狂った生態系はそう簡単には治りません、これは私たちの大切なものを守るためなんです。その為に私はトードスを倒すべきだと思います」

 

クラレットの話したことは俺の世界の話だった。

確かに他から持ち込まれた動物のせいで絶滅や絶滅危惧種が増えているそうだ。

トードスは恐らく話は通じない連中なんだろう。

だからクラレットはトードスを駆逐するべきだと思ったのか。

 

「私たち人間の身勝手ですが、それでも私達が皆の為にやらなければいけないんです。これ以上被害を…悲しいことを増やさないために」

「悲しいことを…起こさないために…」

「復讐でもいいじゃないですか、それが人間なんです」

「…ありがとう、クラレット。行きましょう皆さん!」

 

俺たちがスウォンの声に賛同し、装備を確認して森の奥へ進もうとする、

だがクラレットにしがみついた少女がそれを拒んでいた。

俺たちがトードスに挑むのを恐れているようだ、必死にしがみついて首を振っている。

 

「くぅん!!」

「…大丈夫ですよ、私達は負けませんから。だからあなたは待っていてくださいね?」

「…がう」

 

クラレットの思いが伝わったようで少女は手を放し、朱のガレフの方に向かってゆく。

朱のガレフはこっちをジッと見つめているようだ。

 

「じゃあ行ってきますね」

「安心して待っててくれよ、必ずこの森を救ってくるから」

 

俺はそう言いながら少女の頭を撫でてから森の奥に向かってゆく。

この森の奥にガレフたちを狂わせた召喚獣が……

 

---------------------------------

 

森の奥地に向かった俺たち、森の奥に進めば進むほどジメジメした空気が流れてきた。

日はほとんど差さず足場をぬかるんでおり、周りの木々にはキノコが生えているのが見える。

どうやらトードスの住みやすい環境のようだ。

 

「・・・・・・・」

 

俺の後ろを歩いているクラレットの様子が少しおかしかった、

サモナイト石を握り確認してるようで何やら違和感を感じているようだ。

 

「どうしたんだクラレット?」

「あ、大したことじゃないんですけど…、もしかしたら今なら召喚術を使えるかもしれません」

「本当か!?」

 

クラレットの言葉にエドスを初めとした俺達は驚いた、

クラレットが召喚術のトラウマを克服しようとよく練習しているのは知っているが、

このタイミングで克服したなんて…

 

「もしかしてさっきの?」

「ずっと怖くて使えないと思ってたんですけど、もしかしたら原因は別だったのかもしれません」

「原因ってなんなんだ?」

「そこまでは、わかりません」

 

流石にクラレットでも何でも知っているわけじゃないんだな。

そんな彼女の気をかけながら森を進んでいくと嫌な気配が周りに漂い始めた。

クロが俺たちの前に立ち警戒のさらに強め始めた。

 

「!」

「こ、これってまさか…」

「人間の死体なのか…」

 

俺たちの視線の先には人間だったらしき死体があった、

それだけじゃない、多くの動物が積み重なって腐臭がすさまじいことになっていたのだ。

 

「うっ…ひでぇ匂いだ」

「これも、トードスたちの仕業なのか」

「はい、こうやって死体を溶かして自分たちの養分に変えるんです。実際見ると…、さすがにつらいです」

 

顔を青くしながら目を背ける彼女の背中に手をやりつつ俺たちは更に奥へと進んでゆく、

そして、森の奥の方に胞子を常にばらまく巨大なキノコを見つけたのだった!

 

「あれが…、トードス!!」

 

――ケケケケケ……

 

巨大なキノコが俺達を敵と察知したのか自身の体をちぎり小さなトードスたちを生み出してゆく。

 

「手下を出して来やがったか、うちの子供たちに手を出したんだ。思い知らせてやる!」

「トードスの吐き出す胞子に気を付けてください!ガレフたちのように狂わされてしまします!」

 

クラレットの言葉に全員頷き、武器を取り出してトードスたちを迎え撃つ!

 

「みんな、行くぞ!!」

「!!」

 

初手はクロだった、スウォンの弓を援護に回しながらプチトードスたちを自慢の拳で砕いてゆく。

胞子を受けているが、それを無効化できるため気にせずドンドン打ちのめしていった。

俺達もクロから漏れ出たり対処できないプチトードスたちをそれぞれ倒してゆく。

 

「いける!ガレフたちより全然弱い!」

 

トードスに近づいた俺だが、トードスは突然胞子を塊のように打ち出す!

それに一瞬気づきすぐさま飛びのいて直撃を回避するが爆弾のように爆発し俺の体に胞子がかかってゆく。

 

「しまっ!?…ぐが…」

「おい、ハヤトしっかりしろ!」

「ハヤト!!」

 

――ケケケケ……ッ?!

 

頭の中でトードスの声が響くが淡い光が俺の体を包み込み、

頭の中で響いていた声が消えてゆく、これって…

 

「聖母プラーマ…、力を貸して!!」

 

クラレットの声が聞こえた、光は更に強くなり俺の体の傷まで癒してゆく、

俺の使ってた召喚術より数段に強力な力、これがクラレットの召喚術!?

 

「クラレット、悪い!」

「援護は私がします、ハヤトはトードスを!」

「ああ!」

 

武器を握りトードスに再び突っ込んでゆく、

トードスは俺を操れずに戸惑ってるようだがプチトードスたちを生み出し壁にするつもりのようだ。

そのプチトードスたちを打ち破ろうとすると後ろから凄まじい魔力が迸る!

 

「来たれ、古の英雄の武具、打ち砕け光将の剣!!【シャインセイバー】!!」

 

俺の目の前に武具が多数出現する、見るからに膨大な魔力を纏った剣がプチトードスに炸裂し四散させてゆく!

クラレットの召喚術は俺の使っている物よりも遥かに正確で凄まじい威力を誇っている。

これがクラレットの力なのか…

 

「これならいける!」

「!」

 

俺の横に飛び出たクロと俺はトードスに向かってゆく、俺は自分よりもクロを優先することにした。

石を取り出し呼び出すのは俺が多用する召喚術。

 

「クロ!受け取ってくれ!フレイムナイト!!」

「!!」

 

フレイムナイトを憑依したクロがダッシュを使いトードスに体当たりをかましてその巨体を浮かす、

そして目にも止まらない猛連撃を打ち放ちその体を削り取っていく!

 

「!?!?!?」

「!?」

 

クロの連撃の前に怯んだトードスが全身を震わせ胞子を広範囲にばら撒き態勢を立て直そうとする、

ギリギリのところで後方にジャンプしてクロは躱すが再びプチトードスたちが現れる。

 

「あと一息なのに、クロの連撃でも倒しきれないなんて」

「キノコは殆どが水分で出来ています、おそらく地面から水分を吸い取って自分の体を再生してるんでしょう」

 

そうなると中途半端な攻撃じゃ倒しきれないってことなのか…

強大な一撃なら倒しきれるということは…

 

「はい、召喚術を確実に決めます、でもこう距離が離れていると…」

「危険だが一丸となって突っ込む以外にあるまい」

「おっしゃぁぁ!行くぜぇぇぇ!!」

「ちょっと待てジンガ!!」

 

――ウオオォォォォォォンッッ!!!

 

ジンガが一人つっこうとするのを止めようとすると後方から突然遠吠えが響き渡る、

するとガレフたちが姿を現してこっちに向かってきた!

 

「ガレフ…?まさかあいつらに操られた残り!? 」

「いけない、聖母プラーマ…もう一度力を…」

「待てクラレット、あれを見ろ!」

 

俺が指を指す方向には朱のガレフとその横にいるオルフルの少女の姿が見えた、

操られている様子はなく強い意志を感じる瞳がそこにはあった。

ガレフたちは俺達を通り過ぎてプチトードスたちを攻撃し始める!

 

「ガレフたちが、力を貸してくれる?」

「恩返しというところか?」

「とにかくチャンスだッ!一気に行くぜ!!」

 

ガレフ達に続き俺達もそれぞれ攻撃を始めた!

数の差の有利は殆どなくなり、胞子で攻撃してもすぐさまクラレットが回復を始める、

やがてトードスは追い詰められてゆく。

 

「ウォォォォォォッッッ!!!」

 

トードスに一気に接近した少女がその爪で切り裂く、

胞子に寄生されかけるがリプシーを召喚しすぐさま治療する。

プチトードスの殆どが倒されトードスも回復を始め隙が生まれるのをクラレットは見逃さなかった。

 

「みなさん!離れてください!!」

 

俺たちはトードスから離れると一段と強力な魔力を石に送り込むクラレットの姿に目をやった。

 

「…来て、霊界に住みし、魔精よ。」

 

石が紫色の光を放ちこの世界と異世界をつなぐゲートが出現する。

 

「宿命の意味を知りその命を捧げるものの声を聞いて…、シンドウの名の元にクラレットがあなたの力を望む!!」

 

普段使っている召喚術とは違い意味のある言葉を呟くクラレットその姿は今までよりもより神秘的に見えた。

 

「魔精、タクェシーミザリ!!」

 

ゲートから現れたのはタケシーと呼ばれていた召喚獣、

だがその纏っている魔力が俺の対峙したのとは桁違いだった。

 

「放て!ゲレゲレサンダー!!!」

『ゲレレ~!!』

 

タケシーから放たれたのは雷なんかではない、まさしく電気の柱が上空からトードスを圧殺しようと降り注ぐ!

傷ついたトードスではそれに対処することも出来ず、まともに直撃を受け破裂音が周辺に轟いた!

 

「凄い…」

 

誰が呟いたのかはわからないがまさしくその通りだった。

同じ召喚術でもここまで威力に差が出るとは俺も思ってなかった。

俺たちがその光景に唖然としているとクラレットの声が響く。

 

「まだ倒しきれてません!止めを!!」

「!?」

 

トードスの方を確認すると黒焦げだが確かに動いている、

表面が焼け焦げてるが中身はまだ無事なのだろう。

それに気づいた俺達が攻撃しようとするが、朱のガレフ達が群がりトードスをその牙で引きちぎってゆく!

 

――ピギィィィィィーー!?!?

 

トードスの断末魔が森に響き渡る、やがて暴れ苦しんでいたトードスが動かなくなり、その命は潰えた。

 

---------------------------------

 

「終わった…?」

 

全員いまだ武器を握りしめている、確信が持てるまで安心できなかった。

時間が経ちトードスに群がっていたガレフたちも離れてゆく、

その中から少女と朱のガレフが近づいてきた。

 

「召喚獣は…、死んだんですか?」

 

スウォンの問いに少女はただ首を傾けて答えた、トードスは間違いなく死んだのだ。

俺はスウォンに近づいて肩に手をやった。

 

「ああ、そうだよ。スウォンが終わらせたんだ」

「…ッ」

 

もしスウォンがこの森に残っていなければガレフたちの事を知ることはなかった、

そうだったら子供たちも助からなかったしガレフたちもきっと助けられなかった。

スウォンがこの森に残っていたからこそ終わらすことが出来たんだ。

 

「…ううっ、父さあぁ~ん!!」

「くぅ…」

 

全部終わり緊張が解けたのかスウォンは泣き、その場に崩れる、

それを心配そうに少女がスウォンの顔を覗いている。

朱のガレフもそれを見守るように二人の近くに立っていた。

 

そしてこの森で起こった悲しい復讐はここに終わりを告げたのだ。




次は少女の名前公表しなくちゃな。
しかし、書いてて思うが他の人の書き方勉強しながら書いてるから、
文の変化が激しいかもしれないけどすまんな。
プロローグと1話はいつか書き直す予定、今は先の話を書く。

次こそサブイベにしよう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。