サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

13 / 81
サモンナイトの動画でクラレットの喋り方を勉強しようとしたら、
意外に違うという事実が待ってた。
ま、まあうちのクラレットは10年ほど名もなき世界にいたから、ほぼオリだしな!
※書き直したら以外に誤字大杉、最後とか設定ミスってるし、好きな話だったからショックでかいわ


第3話 月夜の約束

―あの人が隣にいて私を守ってくれる、でもそれで苦しむのは自分なのかそれともあの人なのか―

 

 

フラットの家に泊まった俺たちは朝はみんなでご飯を食べた

少しばかり起きる時間が遅かったので俺たちはみんなより少し遅めに食事を取り終えたところだった

 

「朝ご飯どうだった?たいしたもの作れなくて、ごめんね?」

「そんなことないですよ、普段食べているものよりずっと美味しかったですし。」

「うん、特に昨日も思ったけどパンがホントに美味しかったよ。」

「そりゃあ、タダで食うメシだもんなぁ、味の文句なんか、言えるわけねぇぜ。」

「「・・・」」

 

この世界の通貨を持っていない自分たちは確かにそのことを突かれると何も言えなかった

 

「ガゼル!憎まれ口をたたいてる暇があるなあ、まき割でもしなさいよ。」

「へいへい、そうさせていただきますよ…ケッ!」

 

最後に一言いうとガゼルは庭へと向かっていった

 

「ごめんなさいね、あとで叱っておくわ。」

「いえ、いいんです御厚意に甘えているのは私たちのほうなので…」

「アイツ、たぶんすねてるのね、まったくいつまでたっても子供なんだから。」

「それより、俺たちに何か手伝えることはあるか?」

「あ、いいのいいの!あなた達はお客さんなんだから、それにこれからのこととかを、考える時間も必要でしょ?」

「でも…。」

「ハヤト、まだ1日しかたってないですし、これからの事を考えないと…」

「…そうだな、じゃあ悪いけどそうさせてもらうよ。」

「なにかわからないことがあったら、遠慮しないで聞けばいいよ、私は台所で洗い物とかやってるし、レイドやエドスもまだ出かけてはいないはずだから あ、でもガゼルのやつには近づかないほうがいいかもね」

「確かに…」

「それから、絶対に外に出たらダメよ、迷子になったら大変だからね。」

 

それから俺たちはフラットの中を見て回ることにした、まだわからないところもある場所の確認だ

確認してると空いている部屋を見つけその部屋の中をのぞく、そこには子供たちがいた

 

「あ、お兄ちゃんにお姉ちゃん!」

「お、おはよう…」

「おはようラミちゃん、昨日はおいしいパンありがとうね。」

「・・・」〈コクン

「そういえば、自己紹介がまだだったな、俺はハヤト、こっちがクラレットだ。」

「あたしはフィズよ。」

「オイラはアルバだ、なあオイラ達と遊ぼうぜ!」

「そうですね、何して遊びます?」

「海賊ごっこ!」

「おままごと!」

「お話…して…」

「ははは、いっぺんには無理だよ。」

「海賊ごっこだよ!!」

「イヤよ、つまんない」

「海賊のどこがつまんないんだよっ!?」

「何から何までぜーんぶつまんないわよっ!!」

「ままごとのほうが、ずっとずーっとつまんないじゃないかよ!!」

「すくなくとも、将来の役には立つわよ」

「なんだよっ!」

「なによっ!」

「二人とも、喧嘩したらダメェ…」

 

お互いにらみ合っている、それの仲裁をしようとするラミだが彼女の性格では少々つらい

そんな中クラレットが間に入って二人をなだめた

 

「フィズ、アルバ、二人は兄妹なんですから仲良くしないとダメですよ?」

「でも…。」

「なら俺がアルバと海賊ごっこして、クラレットがフィズとおままごとした後ラミとお話すればいいんじゃないか?」

「そうね、それならいいわよ、ラミもいいでしょ?」

「・・・」〈コクン

 

俺たちはそれぞれ分かれて行動することに、そういえばクラレットっておままごととかしたことあったのか…

そんなこと考えながらアルバと海賊ごっこを始めたが童心に返りかなり熱中してしまった

落ち着いたら俺たちの世界の海賊の話をしたりなどしてアルバとの仲を育んでいた

 

「兄ちゃんのとこの海賊って面白いなぁ!」

「まあ、大概は創作だろうけどね、でも実際はどうなのかはわからないよ。」

「作り話でもカッコいいよ!ああ、どうして女には海賊のかっこよさってものがわからないのかなぁ?」

「アルバは将来海賊になりたいのか?」

「ううん、違うよ、オイラは騎士になる!」

「騎士かぁ… 俺の世界じゃもういないもんだけどこの世界じゃあるんだなぁ。」

「騎士は強くて偉くてカッコいいもん!」

「そうなのか…」

「早く大きくなって、オイラは騎士になるんだ!そんでもって、リプレ母さんに楽させてあげるんだ!」

「そうか… だったら、頑張って強くならなくちゃな。」

「うんっ!」

 

アルバの言葉に凄く俺は感動した、親のために強くなる、子供ながらだなっと思ったがアルバが本気であることは伝わってた

その話を聞くと家族の事を思い出した、春奈のやつ心配してるんだろうなぁ・・・

そのことを考えながら俺は広間に戻るとそこにはフィズがいた、たぶんクラレットとのおままごとは終わったのだろう

 

「おにーちゃん♪」

「ん? どうしたフィズ?」

「お兄ちゃんに聞きたいことがあるんだけどいい?」

「おお、何でも聞いてみな。」

「そっかぁ~じゃあね、お兄ちゃんってお姉ちゃんの事好きなの?」

「え!?いや、あの…」

「なんでもって言ったよねぇ~、もしかして嘘つくの?」

 

ニヤニヤしながら俺に聞いてくるフィズ、その姿を見てるとどことなく自分の妹を思い出した

 

「あー、いや一昨日も同じこと聞かれたなって思ってな。」

「え、そうなんだ。」

「うん、妹でさ、これがよくつっかかってくるんだよ。」

「ふーん、あたしに似てる?」

「たぶん似てはいないと思う、でも仲良くはなれると思うぞ。」

「ホント!じゃあ会ってみたいなぁ~」

 

ニコニコと上機嫌なフィズからゆっくりと離れてゆく・・・

この手の技は随分とこなれてるから初見は逃げやすいと思う

 

「(よし、すり足で退散)」

「きっといい趣味した妹なんだろうね、そういえば結局お姉ちゃんは…って居ない!どこ~?」

 

フィズが俺を探そうとしてるがとりあえず隠れるか、そういえば二階の階段があったな

その階段を見つけ俺は屋根裏に到達した、ここならフィズも覗きには来ないだろう、階段も急だったし

 

「使わないっぽい椅子にこれは絵画か・・・?絵本見たいのも置いてあるな…」

 

一つの絵本を取り出して中を見る、小さい生き物がドラゴンを倒すお話のようだ、

小さな生き物の中に一匹の黒い生き物がドラゴンに向かってゆく話らしい

 

「とは言ってもなんて書いてあるか全く読めないな…?」

「…ゆうしゃテテのおはなしだよ?」

「うおっ!?」

 

胡坐をかいて本を見ているとそこにラミが寄り添って覗いてた

俺がびっくりしたせいでラミをびっくりしたようで怖がるように少し離れてしまう

 

「ああ、ラミか別に驚いただけだから気にしなくていいよ。」

「・・・」〈コクン

「(うーん、この子のようなタイプの事はあんまりあったことないからよくわからないな…)」

 

ハヤトは妹の友達などの付き合いもあるが春奈の性格のせいで元気な子が多いのだ

そのため物静かな性格の事はなかなか縁がないため扱いに困っていた

 

「(クラレットも物静かだがだいたい考えることはわかるし、樋口は意外に積極的だしな…)」

「・・・・・・ねえ。」

「ん?どうした。」

「このえほんのはなし、しりたい?」

 

ハヤトが絵本の内容を知りたがっていると思いラミは少し目を輝かせながら聞いてくる

 

「ラミはこの絵本好きなのかい?」

「うん、ラミのいちばん、すきなはなし…」

「じゃあ、教えてくれるか?俺もこの話を知りたいんだ。」

「わかった…えっと… ずっとむかしえるごのおうがうまれるよりむかし・・・」

 

どうやら幻獣界と呼ばれる場所にいるテテ族がドラゴンに襲われ、テテたちが助けを求めた話だそうだ

だけどテテは弱い種族で他の種族の誰も助けてくれなかったそうだ、

でもそんな中、一匹の黒いテテが姿を現しドラゴンと戦った、

激闘の末、黒いテテはドラゴンを倒したが深手を負い戦えなくなったそうだ

そしてテテたちの里に住みその黒いテテの子供たちが代々里を守っていき平和になったという話だ

 

「へ~、いい話だなぁ…黒いテテか。」

「おにいちゃんもくろいよ?」

「え?」

 

自分の姿を見る学生服は確かに黒い、しかも胸の部分はワイシャツで白かった、絵本に出てくるテテだな

 

「おにいちゃんはゆうしゃ?」

「さすがに勇者じゃないよ、俺は…迷子なのかな。」

「……おうちに、かえれないの?」

「・・・・・・」

 

さすがに子供に言われると悲しくなってきた、

クラレットを追ってこっちに来たとしても俺が帰れる保証なんてなかった

もしかしたら、一生帰れないかもしれない・・・

 

「・・・さみしい?」

「さみ…しいかな…やっぱり自分の好きなものも食べれないし家族にも…」

「・・・ここ。」

「ん?」

「ここ…おうちにすればいいよ… リプレママのこどもになればいいよ、おねえちゃんもいっしょにそれならさみしくないよ…」

「リプレの…子供か…、ははどう見ても同い年ぐらいに見えるんだけど。」

「・・・へん…かな?」

「いや、変じゃないよ、じゃあラミは今日から俺の妹だな。」

「・・・うん」〈コクン

 

ここから帰るまでこのうちの子でもいいと思った、ってガゼルの件があったな…

さすがに働かないと住ましてくれそうにないよなぁ・・・

 

「あ~!!こんなとこにいた!さあ、お兄ちゃん!教えてよ!」

 

はあ、もう一人の妹に見つかったか…しかも出口一か所じゃないか、

どうするかなぁ・・・

 

------------------------------

 

少し前、おままごとを終えたクラレットがリプレに会いに台所に顔を出していた。

 

「あらどうしたの?」

「洗い物のお手伝いをしようと思いまして… すごい量ですね。」

「いつもの事だもの、気にしないで、お客様なんだから座って座って。」

「じゃあ、お皿拭きだけでも、これで拭くんですね?」

 

リプレの近くにある拭きものを取りお皿をドンドンと拭いていく

 

「なんか、手馴れてるわねぇ…。」

「家では家事を担当してたんですよ?たまに妹が手伝ってくれたりしてましたけど。」

「じゃあ、私と同じね。」

 

二人でドンドン作業を終わらせてゆく、どちらも家の家事を担当する女性なためいつもの倍以上のスピードで終わっていった

 

「ところで…ガゼルさんのことなんですけど。」

「気にしなくていいわよ。」

 

まるでいつものそうだという感じであっけらかんとリプレは答えた

 

「ずっとアイツを見てきた私が保証するわ、あれはすねてるだけね、昔っからそうなのよ困ったもんだわ、

 あなたが召喚師だって言ってたけどあなたの態度が自分の知ってる召喚師と全然違うからよくわかってないだけなのよ、

 素直になれないだけであなたを嫌ってるわけじゃないの」

「やっぱりあそこまで嫌うのは召喚術のせいなんですね…」

「女の子相手にあの態度はないと思うけど許してあげてね。」

「そういえば、あのフィズちゃんたちやリプレさんはどうしてここに住んでるんですか?」

「え? そっか…、そういえば話してなかったね、私はね、この孤児院で暮らしてたのよ。」

「え?」

「ガゼルもおんなじ、私たち同じ年で拾われた捨て子なんだ。」

 

クラレットはその言葉に自分は無神経なことを聞いてしまったと思った

同時に境遇は違えど自分と同じなんだと思ったりもしていた

 

「私とおんなじですね…」

「おんなじ?」

「私は7歳のころに記憶を失って公園で泣いてたそうなんです、その時ハヤトと春ちゃんが私の事を助けてくれて、新堂の家の子になったんです。」

「シンドウ…?あなた貴族だったの!?」

「あ、違います、私の居た所だと住んでる人全部が苗字を持ってたんです。」

「ああ、そうなのね、ごめんね勘違いしちゃって。」

「いえ、だからリプレさんと同じです、私の親はハヤト達のお母さんとお父さんですから。」

「私もね孤児院の先生たちが、本当の親だって思ってる、いろいろあって孤児院もなくなっちゃったんだけど… まだ一人では生活できない子供もいて、私とガゼルで面倒を見ることにしたの。」

「それがあの子たちなんですね、優しい子供たちですね。」

「ちょっと、やんちゃだけどね、ああそうだ、クラレット?」

「はい…?」

「私の事はリプレでいいわよ、さん付けじゃなくていいわ、だって私たちいい友達になれそうじゃない?」

「リプレさん…」

「ほ~ら、さん付け。」

「ふふ、はいリプレ、よろしくね。」

「うん、よろしく、じゃあもう少しで終わると思うから終わったらお茶にでもしよっか?」

「はい。」

 

洗い物を終えてポットを持ち出して紅茶を入れる、緑茶もあるそうだがシルターン自治区という場所からしか買えないらしく

高級品だそうだ、私たちは広間に出るとそこにはレイドさんとエドスさん、それとなぜかやつれてるハヤトとラミとフィズがいた

 

「やあ、クラレットおはよう、その様子から見ると少しは落ち着くことができたかい?」

「はい、レイドさん昨日はどうもありがとうございます。」

「彼には元の世界に帰る手段を話して置いたよ、予測だけどね。」

「なんか、召喚師?っていう連中の力を借りないとダメなんだってさ、ただ協力してくれる召喚師がほとんどいないらしいって。」

 

召喚術は基本は秘匿するべき技法、それは確かに善意で手伝う奇特な考えを持ってる人はそうそういないだろう

 

「そういえば、お前さんも召喚術を使ってたよな、召喚師なのか?」

「あ、えっと…」

「クラレット、子供の時にハヤトの世界にいたらしいわよ、そんな子供の時から召喚術っての使うのかしら?」

「…じゃあ、ありゃなんだ?」

「…わかりません、あの穴の近くに人の持っていた石が光って勝手に」

「・・・ううぅ」

 

その時ラミが震え始めた、まるで何かを思い出して震えているようだった

 

「ラミ、大丈夫、ここは平気だからね、ね?」

「…うん」

「ラミは何を怖がってるんだ?」

「召喚術よ、ラミがもっと小さい時召喚術のせいで私と一緒に捨てられたのよ。」

「え!?」

 

フィズは苦そうな顔をして答えた、普通ならその日であった人に話すべき内容じゃないが

どうやら心をかなり許しているようだ

 

「昔、気づいたら持っててね、綺麗な石だと思ったら突然お化けが出てきて家が壊れてね、捨てられたのよ…」

 

召喚事故…条件さえそろえば普通のサモナイト石でも起きてしまう事故だった

ラミはなまじ才能があったため、心無い親に捨てられたということだった。

 

「君はラミと同じで召喚事故で召喚術を使ってしまったのだろう、彼を呼び出したのもおそらくそれだ」

「じゃあ、全部ワシらの勘違いだったってことか、ホントに昨日はすまんかったな」

「いや、こっちもケガとかなかったし、泊めてもらったからさ」

 

あれから強盗をした理由などレイドさんが元騎士だったりなどの話がをしていたが頭に入らなかった

記憶で私が嘘をついたこと、ラミちゃんの話、それに召喚事故によってのハヤトを召喚したこと・・・

あの時サモナイト石が砕けたということはハヤトは元の世界に返れなくなったということ

あの人たちがこの近くにいる、もしこの家を出なきゃいけなくなったら私はハヤトを庇えなくなる・・・

だからハヤトにはフラットにいてもらって私は外に出て帰る方法を探さないと・・・

 

------------------------------

 

そう考えていたらお茶と話し合いも終わりそれぞれが解散した、ハヤトはどうやらフィズちゃんたちに連れてかれたようだ、

私はガゼルさんに会うためにまき割の音が聞こえるほうに歩いていくとそこにはガゼルさんがいた。

 

「…! 何しに来やがった?」

「あの…お話があって」

「別に聞きたかねぇよ」

「大事な…大事な話なんです!」

 

私が大声を上げるとガゼルさんはびっくりしてその手を止めた、鉈をおろし、こっちに顔を向けた。

 

「…それでなんの用なんだ?」

「あの、実はハヤトを家に置いてほしいんです。」

「…あいつだけなのか?」

「はい、私が間違って召喚してしまったハヤトはあなたの嫌いな召喚師じゃないんです。」

「アイツは被害者ってことか」

「…はい、だからハヤトをここにおいてほしいんです、私は外に出ますから…」

 

ガゼルは何か考えている、少し考えると真面目な顔をして答えた。

 

「悪いがそれは聞けねぇ」

「な、なんでですか?」

「あんたを昨日襲ったのはおふざけなんじゃねえんだ、食べてくための金が欲しかったからさ、今朝の朝飯だってなリプレが無理して用意したもんなんだぞ、お客様が来ているから…ってな。」

「あ…」

 

クラレットはリプレの優しさをガゼルの言葉から感じた、この世界じゃその日のご飯も用意するのは大変なんだ、

なのにリプレは私たちのために…

 

「恩を着せるつもりじゃねぇよ、だが、あんたたちの面倒をいつまでも見ていられる余裕なんて俺たちにはないんだよ…」

「それでも…ハヤトだけはお願いします、私にできることは何でもします、私はここから出ていきますから」

 

苦しかった、ハヤトがこの世界にいることが、それに満足している自分が憎かった、

いずれあの人たちが私を見つけるかもしれない、そんなときハヤトがそばにいればきっと…だからどうしても…

 

「……まあ、どのみちあんたが出て行ってもあいつはそれを追って出てゆくと思うぜ」

「…え?」

「仮にも戦った俺だからわかるけどよ、アイツはあんたの事第一だと思うぜ、だったら一緒にいてやること考えな」

「でも、それだと皆さんに迷惑が…」

「ああーー!めんどくせぇ!要するにだ、俺が言いたかったのはお前が俺たちにアイツを押し付けて逃げるなってことだ!!」

 

ガゼルの一言にクラレットは驚いた、

自分がハヤトから逃げようとしていたこと、

人に言われて初めてクラレットは気づけたのだった。

 

「あんたがアイツを元の世界に戻してやりたいならあんたが面倒見ろって話だ!さっき様子見てリプレたちと仲良くなったみたいだけどな、俺はこれっぽっちもお前らを信用してねぇんだ!だからお前が面倒見ろ!それとリプレやレイドに感謝する気持ちがあるんだったら、ちゃんと恩返ししろってことだ!仲間の親切を裏切るようなことしたら女でもただじゃおかねぇからなっ!!」

「…つまりここに住んでもいいってことですか?」

「ちゃんとその分働くんなら構わねぇよ、ちょっと大きい【孤児】みたいなもんだ」

「…カゼルさん、ありがとうございます」

 

ガゼルさんが後ろを向く、少しばかり耳が赤いような気がした。

 

「ケッ… 礼よりも、恩返しの方法でも考えな!」

 

そう伝えるとまき割を再開し始めた、私はガゼルさんに一礼をしてその場から離れる。

 

------------------------------

 

それからしばらくして昼食をみんなでとる、カゼルさんはまだ不貞腐れてるがそれも時間の問題だろう

昼食が終わりみんながそれぞれ解散した後、私とハヤトはリプレに呼び出されてた。

 

「あ、二人ともちょっといいかな?」

「何か御用ですか?リプレ。」

「これから買い物に行くんだけど、町の案内がてら一緒に行かない?」

 

ハヤトとクラレットがお互いアイコンタクトをかわし了承する

 

「ああ、行くよ、町の事も知りたいし気分転換にもなるかもしれないからな。」

「本当にいいの?荷物持たせちゃうよ?」

「それぐらいはさせてもらうよ、昔から荷物持ちはよくやってたし。」

「ふふふっ、そんなことしないわよ、荷物持ちは別にいるし。」

「それって・・・」

「ガゼル―!ちょっと来て―!」

「はは・・・・・・」

 

ガゼルがリプレに呼ばれて俺たちと合流した、昼食から気になっていたが

少しにらんでくることは少なくなってる気がする、なんかクラレットがよそよそしいがなんかあったのか?

 

「ったく… なんで俺が付き合わなきゃならないんだよ。」

「いいじゃない、どうせ特に用事があるわけじゃないんでしょ?ボディーガードの代わりぐらいしてくれたって罰は当たらないわよ。」

「あの…、ガゼルさん本当にありがとうございます。」

「もういいって!で、どこに行くんだ?」

「まずは用事をすませなちゃわないとね、商店街に行きましょ?」

 

南スラムを歩いていくとやがてお店が並んでいるところに出る

色々な人たちがいろんなものを買ってゆくのが見えてた

 

「はい、ここが商店街、いろいろなお店が並んでるから大抵の品物はここで買えちゃうよ」

「遠目からみてましたけど、意外に賑やかなところもあったんですね…」

「クラレットは遠くから街を見たのか?」

「はい、ちょうどあちらの崖の向かうから…」

「荒野地帯のほうか、あっちは何にもなかったよな」

「はい、周りに何もなくて黒い煙が見えたのでそちらに…」

「ああ、工場から出る蒸気だな。」

「蒸気?何か作ってるのか?」

「織物を作ってるのよ。」

「【キルカ虫】ってのが吐き出す糸を紡いだものでよ、ここらの特産品ってやつだ、そいつを使った交易がサイジェントの大きな収入源なのさ」

「でも、あんな煙出してちゃ公害が酷くなりそうだよな…」

「公害…?ってのはよくわからねぇがそのせいでここらの自然はダメになっちまったけどな」

「昔はね、このあたりも畑だったのよ、今みたいによその街から食料を買わなくたって暮らしていけたのにね…」

「……(確かキルカ虫も召喚獣、じゃあこれも召喚師のせいなのね)」

「俺たちの世界じゃこういう公害で世界が汚染されててさ、それに気づいた時にはもう遅いんだよなぁ、ああいう工場見ると召喚術ってやつのせいで俺たちの世界とかより早く悪くなりそうな気がする。」

 

ハヤトが自分の世界の事を話し公害の危険性を語る、実感はわかないようだが二人にもその危険性が伝わってるようだ

 

「…さて!じゃあ暗い話はおしまい!さ、何から買う?」

「「え?」」

「おいリプレ、もしかして買い物ってのは…」

「そうよ、二人の身の回りの品を買うの」

「ちょ、ちょっと待ってください、そこまで甘えるわけには…」

「大丈夫よ、お金の事ならレイドから預かってるからね」

「で、でも…。」

「まあ、クラレットは家事が出来るみたいだしあたしの手伝いすればいいでしょ?ハヤトは……あ~、まあおいおいってことでそれの前払いよ!」

「いや、そこまで甘えるのはな…」

 

二人が渋ってると痺れを切らせたのか、ガゼルが口を出してくる

 

「遠慮できる立場じゃねえだろうがよ?」

「え…?」

「着る物一つ持たずにこの先どうやって生活ができるっていうんだよ、いいからそいつらの親切に甘えとけ!!」

「もうっ!ガゼル!!」

「ケッ!」

「…なあクラレット、みんなの好意に甘えるとするか」

「そうですね…、リプレありがとうね」

 

俺たちはそれぞれ買い物をした、俺は学ランがあるから肌着だけにした

クラレットはリプレに頼み込み紙とペンを購入してた、肌着のほうはリプレと一部兼用するらしい

その一部が何か少し聞いて見ようとしたがガゼルに引っこ抜かれた、なぜだ…

 

「じゃあ買い忘れはない?」

「ああ、ないと思う。」

「さてと、買い物も終わったことだし、今度は街を案内するわね。」

 

リプレに連れられて道を歩いていくと少し向こうに常に見えていた

城の事をハヤトが気になりそれをリプレに聞いてみることにした。

 

「なあリプレ、あの城って誰のお城なんだ?」

「サイジェントの領主様が暮らすお城よ。」

 

リプレが少し不満そうな顔でこの城が誰の城であるかを教えてくれる

 

「領主…、うーん別に領主ってあんなお城に住まなくてもいいんじゃないか?」

「全くだな…、それには賛成だぜ。」

「…庇護する気はないんですけど、先ほどレイドさんにこの世界の地図を見せてもらったんですけど、この街は国境付近にある街だそうで防衛も兼ねてると思うんです。」

 

クラレットの言葉に少しばかり悩みを見せる二人

 

「えっと…つまりこの城はちゃんと意味のあるものってこと?」

「政治的な意味合いですけどね、まあ実際貧困が起きてますし、ただの見栄っ張りですね」

「ケッ!そんな見栄に付き合わされてるこっちはたまったもんじゃねぇぜ!」

 

クラレットの言葉に二人は肯定していた、クラレットの話によると城を立てたり城砦を強化することは侵攻を防ぐに重要らしい

ただ、そのせいで内部の貧困が悪化すると攻められてる時に暴動が起きる可能性があるので本末転倒だそうだ

そのまま街を抜けて大きな川へと俺たちはたどり着いた

 

「街のすぐ側にこんな大きな川があったのか。」

「アルク川っていう名前でね、ずっと北の山脈から流れてきてるの。この川があるおかげでサイジェントは水に困らないのよ。」

「しかし、こんな大きな川だと釣りがしたくなるな。」

「おめぇ、釣りができるのかよ?」

「こう見えて結構やってたんだぜ、家族でたまに行ってたよ」

「まあ、一人は待ってるの面倒って言ってそこらを歩いてましたけど」

「そうなの…、うーん釣り道具は家にはないわね…」

 

釣り話をしているとクラレットが何かに気づいた

どうやら工場から流れる汚水が川に流れてるようだ。

 

「工場の下水はこの川の下のほうに流れてるんですか…。」

「まあな、ここらの川はきれいだがな、下流に行くほど汚れていくのさ。」

「召喚術って便利なのがあるんだから汚れを綺麗にする召喚獣がいてもいいのにな…」

「召喚師どもはそんなことまで考えねぇよ、特にこの街の連中はな。」

「(自身の利益だけを求めるなんて…、ううんきっとそれが本来普通の形なのね。)」

 

アルク川を出て再び街のほうに向かう、そこは大きな公園で幾人か人たちが遊んでいるようだ

 

「ここはサイジェントの市民公園、お祭りなんかはここで行われるのよ。」

「お祭りか… これだけ大きい場所でやるんだから、かなり賑やかになんだろうな。」

「そうよ、特に秋の収穫祭なんかは、みんなで仮装して大騒ぎしちゃうの、私もちっちゃい頃はすごく楽しみにしてたなぁ…」

 

リプレは懐かしそうにそのころを思い出しているようだ

 

「楽しみにしてた?じゃあ今はやらないんですか。」

「ああ、2.3年前からかな領主が祭りを開かなくなっちまったんだ。」

「んー、この街の領主はあまり有能ではないんですね。」

「クラレットってなんか結構言うのね。」

「仮装するほどの大きな祭りなら他の街からも人が来ますからお金落とすはずなんですけど。」

「言われてみればそうだよな。」

「まあ、祭りをやったとしても、今の状態じゃ誰もろくに楽しめやしねぇさ。ゆとりのない生活しかできないありさまだからな。」

 

ガゼルの一言でこの話を終わりにさせ市民公園を離れてゆく、

俺たちはそのまま繁華街のほうに足を向けていた

やがて酒場のような店やお食事処などが並んでる場所にたどり着く

 

「説明するまでもねえとは思うが、繁華街ってやつだ。夜になると、町で一番活気がある場所さ。その分トラブルにも出くわしやすいがな。」

「随分と詳しいんですね。」

「へっ、俺は盗賊だぜ?このあたりは庭みたいなもんさ。」

 

ガゼルが自信満々に語りクラレットがやっぱり盗賊だったんだと考えているとリプレが青筋を立てて笑顔でガゼルに詰め寄る

 

「…ねえ、ガゼル?」

「あ…。」

「あんたひょっとして。まだ悪さしてるんじゃないでしょうね…?」

「あ、いや…。」

「どうなの!?」

 

ハヤトは悩んでいた、ガゼルを助けるべきか様子を見るべきか

ここで助ければ信用は得られるかもしれないが、なんか釈然としないので様子を見ることにした

静止を決め込んでいるハヤトの横でクラレットがリプレに話しかける

 

「あのリプレ、確かに私、ガゼルさんに会ったとき襲われましたけどガゼルさんにも事情がありますし。」

「お、襲ったですってぇ~~~!!」

「止めさしちゃダメだろ、クラレット…」

「ガゼル!!あんたクラレットになにを…」

「な、なあ!リプレ、それは俺たちの間で解決したことだからさ、いまは街の案内を続けてくれないか?」

 

俺はさすがにこのままじゃマズいと思いリプレをなだめることにした

横ではガゼルが顔を真っ青にしてリプレはすごい形相をしている、正直怖い…

 

「……そうね、とりあえずその件については、帰ってからきっっっちり!説明してもらうわよ…。」

「はい…。」

「あ、あの私…」

「クラレット、それ以上言わないほうがいい」

 

そんな話をしながらフラットへと足を進めることにした俺たちだが

そんな俺たちの前に2人ほど不良のような人物が姿を現した

 

 

「おい、お前らちょっと待ちな!おう、そこのお前ら、ここらじゃ見かけねぇツラだなぁ?」

 

いきなり話しかけてきて難癖つけてくる男たち、クラレットは俺に寄り添って様子を見ている

どんな連中か考えていると、ガゼルが小声で忠告してくる

 

「…無視しろっ!こいつらは【オプテュス】っていうろくでもない連中だっ!関わるとロクなことならねぇから無視するんだ!」

 

オプテュス…?フラットが穏健派ならオプテュスは過激派みたいな感じかっと考えると男がさらに詰めよってきた

 

「なに黙ってんだよ、オラ!口がきけねぇのか?」

「お前らとかかわってる暇はねえんだ、わかったら、とっととそこをどけよ」

 

ガゼルがそう言い放つと男がガゼルの顔を見て嫌味ったらしい表情をする

 

「おお、誰かと思えばコソ泥のガゼルじゃねぇか?」

「女二人と子分をはべらせていいご身分じゃねぇか…。」

「こいつらはそんなんじゃねぇっ!!」

「いいからいいから、照れんなよ、チビ?」

「そうだぜ?つれなくするなよ?」

「ひっひっひ、いくら乳臭くっても女は女じゃねぇか、二人もいるんだ俺達にもお零れ分けてほしいもんだな?」

 

男の1人が品定めをするようにリプレとクラレットを見ている、俺はその二人の前に出て視線を遮った

 

「関係ねぇって言ってんのが聞こえねぇのか!?このうすらバカが!」

「お、なんだよ、やるっていうのか?」

「うひひっ、望むところだぜ!!」

「おい、ハヤト!ぼけっとしてないで二人を連れてここから逃げろ!」

「え!?」

「乗せられちまったのは俺だ… お前らには関係ねぇ。さっさと行けっ!!」

 

ガゼルは俺たちを庇うために一人で引き付けようとしている、今日一緒に話してて分かったがガゼルはいい奴だ、

この街の理由があって仕方なくクラレットを襲ったんだ、それに気づいたんならもう悩むことはないな!

 

「クラレット!リプレを連れて逃げてくれ!」

「ハヤト!?」

「俺はここでガゼルと一緒に残る。」

「馬鹿野郎ッ!武器も持ってないくせにどうする気だッ!」

「その武器を持ってない男に負けたのは誰だったかな、こんな奴ら素手で十分だ。」

 

俺は覚悟を決めて前に出る、大丈夫だ行ける!

 

「…リプレ、行きましょう、二人なら平気です」

「クラレット…、うん!レイドたちを呼んでくるから、二人とも絶対無事でいてよ、絶対よっ!!」 

 

クラレットがリプレの手を引っ張り走ってゆく、それを見た不良はそれを追おとした

 

「ひっひっひ、逃がしゃしねぇぜ!」

「さっきから薄気味悪い笑い声出しながらで俺の家族を見るな!」

「うぎゃあっ!?」

 

俺の横を抜けようとする男に蹴りをかまして吹き飛ばす、そいつはそのままぶっ倒れたが再び立ち上がった

 

「あ…」

「リプレ、止まっちゃダメ!」

「急げっ!!」

「う、うんっ!」

 

二人が俺達の視界から消える、オプテュスの連中はいつの間にか4人に増えていたどうやら近くに仲間がいたようだ

数は多いが大丈夫だ、昨日と同じ感覚が体中に感じる、この世界に来てから向こう以上に力が出せることに気づいてた

意識すればさらに引き出せる、今の俺ならこんな奴らに負けることはない、絶対に負けない!!

 

「ふざけやがって、ぶっ殺してやる!!」

 

男の一人が突っ込んでくるが俺は顔を隠してそのまま体当たりで吹き飛ばした

そのまま男は後方に置いてある樽に突っ込んで動かなくなる

 

「な、なんだアイツ…!?」

「よそ見なんてしてて余裕じゃ…ねえかッ!!」

「ぎゃあぁ!?」

 

ガゼルは相手の手をナイフで切り裂き、物を握れなくした、俺とは違って容赦がないな…

 

「うひひ、ぶっ殺してやる!!」

「お、斧!?」

 

さっき蹴り飛ばした気味の悪い男が斧を振り回しながらこっちに突っ込んでくる、

俺はその男から離れるように動いていた

 

「逃げんじゃねぇ!!」

 

マズい、斧なんか持ってたのか、どうすればいい!?

逃げ回っていると俺は消火用の水桶を見つけそれを相手に投げつける

放置されていた水桶だったため砂利などが入っていたようで相手の目は潰れた、そして手ごろな看板を持って突っ込んだ

 

「こい…つっ!!」

「ガァッ!?」

 

看板を思いっきりそいつの頭に叩き込んで看板はバラバラに壊れるがその男はまだ倒れてなかった

 

「テメェ…死ねぇッ!!」

「うわ!?(足が滑って…、や、やばいッ!?)」

 

俺は恐怖してしまい、顔を庇って目をつむった…

だがいつまでたっても痛みがこないことに疑問を抱き目を開けるとガゼルが息継ぎしながらこっちを見下ろしている

 

「はあ…はあ…ったく、手伝うならドジ踏むなよ。」

「ガゼル…」

 

どうやら後ろから男を攻撃して気絶させたようだ、残るオプテュスも一人になっていた

さすがに3人もやられればうろたえているのはまるわかりだった

 

「それで、おめぇはどうするんだ? あぁッ!!」

「やるっていうなら相手になるぞ?」

「お、覚えてやがれ!!」

 

最後の一人が一目散に背を向けて逃げてゆく、仲間をおいて逃げるなんてやっぱりロクな連中じゃなかったようだ

 

「ケッ!負け犬が吠えてやがる。それにしても… 意外にやるな、お前」

「なんかこの世界に来てから妙に力が湧くんだ、まあガゼルが助けてくれなかったらケガしてたけどな」

「なるほどな、戦い方めちゃくちゃだったけどよ、まあ何にせよ、おかげで楽させてもらったぜ。へへっありがとよ、さあ帰ろうぜ。リプレのやつが心配してるだろうからな」

 

ガゼルと一緒に戦ってこの人はホントはいい人だって気づけた、ついさっきまでの険悪な雰囲気は完全になくなった

 

------------------------------

 

帰りながら話を聞くとクラレットを襲ったのは生活するために仕方なかったそうだ、子供たちの事を考えるとそれを責めるつもりはなくなった

フラットが見えてくるとそこには今にも出かけようとしてるレイドさんの姿が見えた

 

「あ、レイドさーん!」

 

レイドさんがこちらに気づくと少し安心したような顔をして落ち着いた

 

「ああ、無事だったようだね。リプレが飛び込んできたときは、焦ったよ」

「どうもすいません、迷惑をかけてしまって」

「ははは、無事ならそれでいいさ。さあ、二人も心配してる、家に上がりなさい」

 

家の広間に上がると全員そろっていた、子供たちまでいるようだ

リプレは少し涙目だったがこちらを確認すると安心したようで笑顔を浮かべてた

クラレットはうれしそうにしてたがすぐに悲しそうな顔に戻った、また何かを考えてるようだ

やがて夜が更けていき子供たちは部屋へと戻りリプレは今日の買い物を整理するといって玄関のほうへ戻っていった、気づかないふちに普通の買い物もしてたようだ

 

「しかし、マズいことになっちまったな。」

「マズいことって、あのオプテュスの事か?」

「ケッ!あいつらが俺らを目の敵にしているのは今に始まったことじゃねぇだろ?」

「だが、今まではそれだけですんでいた。おそらく連中は、今日の事を口実にして、直接手を出してくる気だろう。」

 

それだけならまだいいが、どうもそれだけではないようだ、詳しいことを聞こうとするとクラレットが問いかける

 

「あの…、子供たちやリプレは大丈夫なんですか?」

「問題はそこなんだ。」

「ああ、やつらは女子供であろうと、容赦はせん。そういう連中なのさ。」

「くそっ!!」

 

その言葉を聞くとクラレットの顔が青くなっていく、おそらく自分のせいだと思っているんだろう

 

「(私が…来てしまったから皆さんに迷惑が…、もしリプレたちが…)」

「おい、お前自分のせいだって思ってるんじゃないだろうな?」

「え?」

「アイツらはこの南スラムが欲しいんだよ、だけど俺達がここにいるからうかつに手が出せねえんだ。気にすんなって!どうせいつかはこんなことになるはずだったんだしな。」

「それでも、切っ掛けは私でしたから…」

 

ガゼルがクラレットに気をかけるがそれでも彼女の顔は晴れない、このままだと行けないと思い俺は少し話題を変えることにした

 

「あのレイドさん、オプテュスってどんな連中なんですか?なんか危なそうな奴らでしたけど。」

「バノッサという頭目が率いてる犯罪集団の事さ。繁華街に集まってくるならず者のグループで北スラムでは其れなりの力を持っている。正直、関わり合いたくなかった相手だよ。」

「・・・・・・・」

 

それを聞いたとき後悔した、まさかそこまで危険な集団だと思わなかったんだ、

あそこでガゼルが残ったのはもしかしたら厄介ごとを自分一人で背負うつもりだったのかもしれない。

 

「ガゼル、今までこんなことあったのか?」

「何度かあったけどよ、大抵は逃げてたんだ。ここまでとっちめたことはねぇよ。」

「そうなのか…」

 

だんだんと不安が積もってゆく、本当にこのままここに居てもいいものなのか

この状況になって俺たちは自分たちの立場を再認識することになるんだった

そして対処しようにももう時間が残されていないことも

 

「ち、ちょっと!?あんたたち、いったい何のつもりよっ!!」

 

「…来やがった!リプレ!!」

 

玄関の扉が壊される音とリプレの叫び声が聞こえる、全員が一目散に玄関へと向かった

俺たちが外に出るとそこでは10人以上のオプテュスと思われる連中とそれに捕まってるリプレの姿がいた

 

「ガゼル!みんな!!」

「てめえら…、リプレを離しやがれっ!!」

「ひっひっひ、運がいいぜ、なんせ扉ぶち壊したらあの女がいるんだからよ」

「お前はたしか、昼間にいた斧を持ってたやつだな」

 

買い物の整理をしていたせいでリプレは捕まったようだ、今は平気のようだがこのままじゃ大変なことになるのは目に見えている

彼女の悲鳴を聞いたせいなのか子供たちも玄関に姿を現していた

 

「…っ!リプレママ!!」

「お前らリプレ母さんを離せ!!」

「リプレママっ!!」

「みんな!外に出てきちゃダメ!」

「お前らは家の奥に行ってろっ!表へ出んな!!」

 

子供達の事を気遣いフラットのみんなが家の奥へと誘導しようとする、だがそこに一人の男が現れる

 

「ガキども下がらせんじゃねぇ!この女が傷物にされたくなければなぁ」

「うひひ」

「ひっ!?」

 

リプレの目の前に手斧を見せつけ彼女の顔を恐怖に染めあげる、

そしてそれを指示した男の姿を俺たちは認識した、髪も肌も真っ白で真っ赤な瞳をした男、あれがバノッサなのか

 

「よぉ、昼間の事で挨拶にしに来てやったぜ?」

「バノッサ…」

「聞けば俺様の子分どもを、随分と可愛がってくれたそうじゃねぇか。一体どういうことなのか、きっちり説明してもらわねぇとな?」

「説明も何も、先に俺らにちょっかいを出してきたのはお前らのほうだろうが!それにこんな抗争にガキどもを巻き込むんじゃねぇ!!」

「そのガキどももお前らの家族なんだろ?だったらスラムでの掟ぐらい知っとかねぇといけねぇじゃねぇか。社会勉強みたいなもんだ」

 

バノッサはスラムでの上下関係を強調してるようだった、自分たちが上で逆らったらどのような目に合うか子供たちに教えつけるつもりでここに残させたのだ

そして子供たちを守るフラットのメンバーにもそのことを改めて思い知らせようとしている

そんな状況の中、レイドが一人前に出てバノッサに問いかけた

 

「…何が望みだ?」

「ことの張本人を、俺様に引き渡しな。今ならそいつの始末だけで勘弁してやる」

「断ると言ったら?」

「クククッ、言われなくても手前ならわかるだろう?おい!改めてわからせてやれ!!」

「はい、バノッサさん!オラァ!」

「ひぐぅ!!がっは…」

「リ、リプレママ!!」

「リプレッ!!(…私のせいなの?)」

 

私の目の前でリプレが傷ついている、私がこの世界に来たせいで、私がフラットにいたせいで、私がガゼルさんに目をつけられたせいで

頭の中で自分自身が許せなくなってくる、ほんの1日だったが楽しかった日々が私のせいで壊れてゆく、そんな状況を私はもう考えたくなかった

私が犠牲になれば、誰も傷つかないで…すむ…

 

「私です」

「あァ?」

 

私は一歩前に出て自分の胸に手をやった、そして今度ははっきりと答える

 

「私がいたせいでみんながあの繁華街にいたんです」

「クラレット!!」

「いいのリプレ、私がそっちに行けばみんな傷つかなくて済むなら、それで…」

「ん?見かけん顔だな」

「はい、この街には来たばかりですから。ですからあなたたちの事も知らなかったんです」

「ほォ…クックック」

 

私を鑑賞する目つきをいくつも感じる、気持ち悪い、何度か感じてきたことはあったが今回はさらにだ

ただ、それだけではなく目の前のバノッサさんはそれ以外の事を考えてるようでもあった

 

「つ、つまり、私がフラットに来たせいでみんなは巻き込まれただけなんです。みんなは関係ありません」

「クククッ、震えているわりにカッコいいこと言うなぁ?」

「…ッ!?」

 

震えている…、覚悟なんてもうできてるのに、なんで?

 

「いいだろう、手前がそういうのならそういうことにするさ。さあ、来てもらうぜ!」

 

私はバノッサの言葉に従い彼についてゆこうとする、しかし私の目の前に人影が現れ私の行く手を遮る

 

「待て、俺が代わりにいく、そいつらを叩きのめしたのは俺だ!」

「ッ!?ハヤト!」

「なんだと?おい、それは本当かァ?」

「ああ、この野郎だ!ガゼルと組んで俺たちを叩きのめしたのは!」

 

昼に逃げ出した男が俺を指さして叫んでた、もう言い逃れはできない、だけどクラレットが連れていかれるよりはましだ

 

「そうか、いい事思いついたぜ。手前ェ俺と戦え。もし勝ったらこの女は離してやる」

 

俺が勝てばリプレが助かる・・・

この状況を考えれば最善だ、とりあえずリプレは助かるし俺が負けてもこいつらに付いてゆくだけだ

 

「おい、ハヤト!やめとけ。こいつらはお前を嬲り殺しにするつもりだぞ!!」

「ハヤト、彼らは約束を守るつもりなどない。君がもし勝ってもリプレを離すかわからんのだぞ?」

「確かにそうかもしれない。でも、いま状況じゃ何も変わらないじゃないか」

 

レイドとガゼルがバノッサのことを言っている、俺もそう思うが付いて行ってもどのみちろくな目にはあわないはずだ

なら、ここでバノッサを倒せばまだチャンスはあるかもしれない!

 

「おい!俺とこのガキの問題だ!邪魔すんじゃねェ!!」

「勝負は受ける!勝ったら絶対リプレを離せよ!!」

 

体が震えるが口の中で舌を噛んで我慢をする、バノッサに近づこうとすると俺の足をラミが掴んでいた

 

「・・・!」〈フルフル

「…ラミ、リプレママを助けるためなんだ。待っててくれよ」

 

涙目のラミを振り切り俺はバノッサの前に立った

 

「随分慕われてるじゃねぇか。見た目通り同類だな」

「見た目通り…?」

「ガキみてぇな面ってことだよ」

「人の気にしてることを…、絶対ぶっ飛ばす!」

 

ハヤトが怒りを露わにするとそれをあざ笑うかのようにバノッサは微笑する

そしてバノッサの2本の剣の一本をハヤトの目の前に投げ捨てる

 

「さすがに素手の野郎をぶっ殺してもつまんねぇからな。精々楽しませてもらうぜ!」

「吠え面かくなよ…ッ!(お、重い…剣ってこんなに重いのか!?)」

「ケッ、ビビッてんじぇねえよォ!!」

 

初めての剣の重さに戸惑っているハヤトに向けて剣が振り下ろされた

 

「ッ!うわ!?」

 

咄嗟に剣を引き抜きバノッサの攻撃を防御するがあまりの反動で吹き飛ばされてしまう

 

「オイオイ、そんなんで俺に勝つつもりかよ?」

「…ッ!うおおおおぉぉぉーーーー!!!」

 

我武者羅に剣を振りバノッサに攻撃を仕掛けるが、軽く弾かれ腹に空いた手で拳を食らいのけぞる。そして剣を振るわれ横っ腹を切り裂かれた

 

「…!?」

「ハヤト兄ちゃん!!」

「クッ、バノッサやめるんだ!」

「勝負にもなってねぇじゃねえか!お前、そんなことして面白いのかよ!!」

「あァん?ハッ!面白れぇに決まってるじぇねぇかァ!調子こいたやつをぶっ殺すのは気分がいいもんだぜ!」

 

バノッサのその一言にフィズやクラレットは恐怖する、ハヤトが殺されるかもしれないだけで手を出せばリプレがどうなるか分からない

この状況を変えられるのは実際戦ってるハヤトだけだった

 

「…ッ!舐めんなよ、漂白男・・・!!」

 

ハヤトが剣を上段から叩き落しバノッサに仕掛ける、だがバノッサはそれを片手で防ぎ残った片方の手でハヤトを殴り飛ばした。

そして倒れて悶えてるハヤトの先ほどの切り傷に蹴りをくわえる。

 

「ケッ!活き込んどきながらこのザマかよ。おい!やる気を出させてやれェ!!」

 

バノッサの一言にリプレを縛ってる男が斧をリプレに近づける

 

「リプレ!バノッサ、手前ぇ!!」

「どのみち手前ェには俺を倒すしかねぇんだよ!まあ満足させたら考えてもやらんことはねぇがな!」

「ゴホゴホ…ッ!!こんな奴に負けてたまるか…!!」

 

ハヤトは痛みに耐えながらバノッサの前に立つ。今までの相手とは格が違いすぎるがそれでも彼は立ち上がった

リプレたちは行き場のない自分達を助けてくれた、サイジェントを回りどれだけこの街で人を助けるのが大変なのか、

それを誰よりも知っている彼らが自分のせいで苦しんでいるのを見過ごせなかったのだ。

 

「おいおい、アイツ立ちやがったぜ!ひっひっひ!」

「お願い!立たないで!バノッサはあなたを殺す気よ!!」

「戦う理由は恩返しだけじゃないんだ…」

 

ハヤトは話した、元の場所に戻れないだったらこの孤児院の子になればいいといった話だった

子供が話したことと思い気に留めなければそこで終わったかもしれない、だがハヤトはそうは思わなかった

クラレットが居場所を無くして泣いていたとき自分たちの家に来て安心してる姿を見て知っているから、

自分たちの帰る家の大事さを自分たちがいるべき場所の大事さを・・・

 

「だから…お前たちにみんなの家を壊させはしない、リプレを人質に取ってわかってる。お前らはここをぶっ壊す気だ!絶対に壊させない!!」

 

たった一日の付き合い、だけどこのフラットがどれだけ暖かい場所だと知ったハヤトは絶対にこの場所を守りたいと思っていた

 

「そうかよ、じゃあ守って見せな!ガキがァ!!」

 

 

 

どんなに強い思いを持っていても実力が備わっていなかった、ハヤトはバノッサに手も足も出ず一方的に蹂躙されていた

腕は切られ、足も刺され、瞼も青く腫れている、全身傷だらけでも彼はバノッサに挑んでいた――しかし――

 

「あ…」

「…ハヤト!!」

 

ハヤトは膝を地面についた、痛みが激しすぎて意識が朦朧としていた。そんなハヤトを見下ろし、バノッサは苛立っていた

 

「チッ!手間取らせやがって、もう終わりにしてやる」

「やめろバノッサ!もう十分だろ!!」

「だったら止めてみろよ!止めたらどうなるかわかってるだろうな!」

 

レイドがバノッサを止めようとするがリプレを引き合いに出され声を濁す、やがてバノッサが剣を上段に構えた

子供たちがその光景をじっと見てしまう、決してみるべきではないのに普段と違いあまりに異常な光景に目を離せないのだ。

 

 

「…ッ!!見るな!!」

 

ガゼルは子供たちにその悲惨な光景を見させないようしようと声を荒げる

 

「やめて…お願い!やめて!!」

 

リプレが叫んでバノッサを止めようとするが意味のない行為だった、彼がリプレの言うことを聞く理由なんてないのだ。

 

「あ…あぁッ!」

 

そして私はその光景を見ててそれを止めることが出来なかった、だけど私は気づいた。今日であったリプレ、そして今まで自分を守ってくれたハヤト

どっちを助けるのかは明白だった、リプレを助けてもハヤトが居なくなる、そんなのは嫌だった、だから私は走ったハヤトに向かって駆けたのだ

しかし覚悟を決めるのが遅かった、既にバノッサの凶刃がハヤトの顔めがけて振り下ろされていた・・・

 

意識が朦朧とする、なんでこんなことをしてるのかも理解できなくなっていた、

体中が痛くて呼吸も上手くできない、目の前に誰かが現れた、その誰かが俺に向かって刃を振り下ろした

ゆっくりと近づいてくる刃、これで俺は終わるのかと思い意識を落とした

 

 

 

――俺は、なんでここにいるんだ――

 

 

 

「ハヤトォォォーーー!!!!!」

 

一気に意識が覚醒する、そうだ俺がここに来たのは彼女を迎えに行くためだ、

ずっと隣にいてこれからも一緒にいたいと思っている彼女を助けるために俺はクラレットを迎えに来たんだ!

刃が既に振り下ろされはじめどうにもならない俺は剣を握ってない左手を差し出した

ミチミチと肉が引き裂かれる音がする恐らく骨も傷ついただろう、だけど俺はバノッサの剣を止めることが出来た

 

「なッ!?テメェ!?!?」

「うぐぅっ!?うおおおぉぉぉーーー!!!」

 

剣を限界まで握りしめバノッサの頭に振るい落とした、意識してはいなかったが片刃の刃のないみねのほうをバノッサの顔面に叩き付けた

この世界で体の力がかなり上がっている、その力を頭に叩き付ければ結果は見えていた、バノッサは倒れたのである

 

「なッ……!?」

「あ、あいつ…やりやがった…!」

 

誰もが呆然としていた。どう考えても勝ち目はなかっただが最後の一瞬の隙を無理やり作りハヤトは勝利をもぎ取ったのである

 

「はっ! リプレ!!こっちにこい!!」

「う、うん!!」

「うわっ!?テメェ!!」

 

呆然としていた男の手を振り切りリプレは倒れているバノッサの横を通りフラットのみんなのところに辿り着いた

 

「「「リプレママ(母さん)!!!」」」

「ごめんね、みんな心配かけてごめんね…!」

 

子供たちを抱きしめながら泣いて謝るリプレそれを見た瞬間、ハヤトの緊張が完全に解けた

 

「はあ…はぁ…ぁ…」

 

俺は足に力が入らなくなりその場に仰向けに倒れる、その拍子で左手に食い込んでいた剣が抜け血があふれ出てくる、一気に意識が遠のいていった…

 

「ハヤト!ハヤト!!」

 

傷口を抑えながらクラレットは泣き叫んでいた、このまま血が止まらなかったらハヤトは死んでしまうかもしれないからだ。

 

「……ァッ!?なんだと!?」

 

バノッサは気が付きすぐに立ち上がる、だが頭に強い衝撃を受けたせいでしっかりと立てないようだ。

下を見下ろすと左手をクラレットに抑えられ意識を失いかけているハヤトの姿があった。

 

「ちくしょうッ!俺様が、俺様がこんなガキにッ!!!」

「待てバノッサ!この勝負は彼の勝ちだ。これ以上手を出すのなら私も黙っていないぞ!」

「そいつはな、ワシらの大事な新しい仲間なのさ。このままじゃ死んじまうかもしれん手を出すなら容赦はしないぞ?」

 

レイドが剣に手を当てエドスも斧を持ち出して構える、後ろのほうでは子供たちを庇いながらガゼルもナイフを構えていた

 

「バノッサさん、さすがにレイド相手じゃマズいですよ!」

「どうするんだ?このまま挑んでもいいんだぜ。そんな足で勝負になるのか?」

 

手下の一人がレイドの強さをバノッサに問い、ガゼルはバノッサを煽っていた。バノッサは無謀な男ではない自身が不調の今、レイドほどの騎士を相手するは不可能だった

 

「…忘れねぇぞ。俺様にたてついたことを絶対に後悔させてやるからなァ…!!」

 

そう言い残しオプテュスは引き下がっていく、完全に人の気配が消えて全員その緊張を解いた

だが、問題は残っていた。バノッサの攻撃を防いだハヤトの左手の血が止まらなかったのだ

 

「血が…血が止まらない!ハヤト!しっかりして!!」

「マズい…!リプレ、私はすぐに知り合いの医者を連れてくる。彼の止血を頼む、これ以上血を失えば助からないかもしれない!」

 

レイドはすぐに街へと走ってゆく。リプレもすぐに治療道具を取りに家の中に入っていった

 

「死なないで…お願いハヤト…!」

 

その日、俺が見た最後の光景がクラレットの泣き顔だった。こんな顔を見たくて戦ったわけじゃない、そう思いながら俺の意識は暗闇に落ちていった・・・

 

 

------------------------------

 

 

 

 

夜が更けみんなが寝静まったころ俺は一人目を覚ました。窓から入る月の光が俺の知っているものと違い光り輝いている

体は予想以上に痛くなかった、左手は包帯がかなり巻かれているがそれ以外の傷は殆ど痛みがなくなっていた。代わりに頭がぼーっとして意識がうまく纏まらない

 

俺、何やってたんだっけ…

 

目を覚まして一番に思ったことはそれだった。自分は何をしていたのか、それを頭の中で整理した

自分は確かバノッサと戦って…

 

「そうだ、勝って……!?クラレットは!! 痛ぅッ…」

 

一番最初に思ったのは彼女の事だった。ここに来てからやけに自己犠牲的な行動を起こしていた家族、そのクラレットを庇いバノッサに挑んだんだ。

そして最後に見た光景がクラレットの痛いほど泣いている顔だった・・・

そのことを思い出した俺は彼女を探すことにした、寝ている姿でも確認したいそれ一心で体を起こしベットから出て外に出た。

部屋には居なかった、ならリプレか子供たちと一緒にいるのではないかと思い、孤児院の中を歩いていく。すると小さな人影が見えた

 

「ラミ~、もう終わったー?」

「……まだぁ」

「早くしろよ、なんかお化け出そう…」

 

二人の子供たちフィズとアルバが扉の前で立っていた、確かあそこはトイレのはずだ。じゃあ中に入ってるのはラミなのか

俺は無事だった子供たちに気を許して二人に話しかけることにした

 

「なぁ…」

「ひっ!?いやぁぁぁーーー!!!」

「うわあああ!?ミイラ男こっちくんなぁ!!!」

「…!!ううううぅぅぅーーー!!」

「いや、ちょっと落ち着けって。俺だよ、ハヤトだよ。」

 

いきなり顔を真っ青にいて叫んだ二人はよく俺を見ると安心したようにため息をついた

ラミはトイレから飛び出してフィズに抱き着いていた、悪いことしたなぁ・・・

 

「お兄ちゃん!いきなりびっくりさせないでよ!!」

「ああ、悪かったよ。ビックリするなんて思わなくて…」

「…だいじょうぶ?」

「うん、まだちょっとふらつくけどもうだいたい平気だよ」

「へへ、よかった。兄ちゃんすっげぇ血が出ててもうだめかと思ったんだぜ」

「レイドが連れてきてくれたお医者さんがパーッって治してくれたのよ」

「きれいだった…」

 

どうやらレイドが連れてきたお医者のおかげで命拾いしたようだ。明日はレイドにお礼を言っとかないとな

 

「ところで…クラレット、見なかったか?部屋にもいなくて別の部屋で寝てるのか?」

「え?看病するんだぁって同じ部屋に居る筈なんだけど…?」

「…みたよ」

「ホントかいラミ?」

「うえにいったよ…」

「上…?」

「屋根裏の事だよ。ラミの気に入ってるとこなんだ」

 

昼間にラミと絵本を読んだ所、どうやらあそこにいるようだ。だけどどうしてあんなところにいるんだ?

 

「わかったよ、驚かせてみんなごめんな?」

「…おやすみ」

「じゃあおやすみなさい」

「おやすみー!」

 

子供たちは俺から離れて自分の部屋に戻っていった。それを見届けた後、俺は屋根裏部屋に足を運んだ。

屋根裏には誰も居なかったが周りを確認すると窓が一つ開いていた、そこに近づくにつれ泣き声が聞こえてくる、ずっと小さい時に聞いた記憶がある声だった

 

「私…私のせいで…ハヤトが…」

 

俺の求めていた人物、クラレットがそこで泣いていた。すぐに声をかけられなく俺はしばらく彼女の姿を見ていた。

 

「私が呼んだせいで…死にかけて…ただ一緒に居たかっただけなのに。もう帰れないないかもしれないのにそれに巻き込んで…」

 

ずっと彼女が俺を見て悲しそうな顔をしていた理由がわかってきた。やっぱりクラレットは記憶が戻っているんだ。

それでわかったんだ、元の世界に戻るのがとてつもなく難しいということに、だからああやって泣いてるんだ、自分の中に押し込んで。

 

「きっと、ハヤトも気づいたら私の事を…」

「嫌いにはならないよ」

「ッ!?」

 

窓から顔を出し彼女のほうを見て顔を確認したらそれはもう酷かった。目元は真っ赤で顔もくしゃくしゃどこから出たのかわからないほど涙も出ていた

彼女は泣かない、全部自分の中に飲み込んでしまうんだ。だから泣くときはホントに泣いている、ずっと一緒だったんだそれぐらいは知っている

 

「ハヤト…」

「少なくとも俺はクラレットの事を嫌いにはならないよ」

 

クラレットの横に座り彼女の顔を見ていた、やはり痛々しく泣いており俺の言ったことにも納得してないようだった

 

「でも、もう元の世界に戻れないかもしれないんですよ!…私の」

「なあ、クラレットここってクラレットの故郷なのか?」

 

彼女の言葉を遮って俺は核心を突くことにした。このまま流れて行ってもきっとお互いが悲しむだけだ、なら一気に近づくだけだ

 

「なんとなくこの世界に来てからクラレットの事を考えてたんだ。まるで知ってるように行動してたし召喚術ってやつも知っているようだった。なあクラレット、もしかして全部記憶が戻ってるんじゃないか…?」

「・・・・・・」

 

息を飲み彼女は俯いていた。1分10分もしかしたら1時間もたったかもしれない、それぐらい長い時間を待っていた。やがて彼女は口を開け俺の問いかけに応えた。

 

「…はい、記憶は戻っています」

「…そっかぁ」

「何時から…」

「ん?」

「何時から気付いてたんですか…?」

「たぶん、居なくなった時に気づいたんだと思う、あの時つぶやいてたし。」

「……そうですか」

 

クラレットは悩んでいる、それから先の言葉を選んでいるようだった。だからこそ俺はそんな彼女に問いかけた

 

「迷惑…だったか?」

「え?」

「ほら、ガゼルだって結構いい奴だったじゃないか。もしかして俺が来るのはクラレットに負担を「そんなことないです!!」」

 

俺の言葉を遮り彼女は俺の顔を見てはっきりと答えた

 

「あなたが来てくれてホントにうれしかったです!でもっ!でもっ!私のせいでもう戻れないかもしれないんですよ。誓約を刻んだはずのサモナイト石もあの召喚で砕けてしまいましたし、あの石がないと召喚獣は送還できないんです!私なんかの所為で…家族と離ればなれにさせてしまった、それなのにあなたに守ってもらうわけなんて…!」

「クラレットも俺の家族だろ!!」

 

クラレットの言葉の中に認めたくないものがあった。家族とはなればなれになる、だけどそれはクラレットも同じことだ。だから俺は迎えに来たんだ

 

「ここに来たのは自分の意思なんだ、公園で石を見つけてそれに答えたんだよ。もし行きたくなかったらすぐに手放してたよ」

「ハ…ヤト…」

「クラレット…」

 

俺は今だ泣いている彼女の肩に手を乗せ彼女の顔を見る

 

「誕生日、おめでとう」

「え…?」

「一日遅れだけどおめでとう、ありがとなクラレット」

 

クラレットは何を言われたのか分からなくなっていたようだったそんなクラレットに俺は言葉を伝える

 

「あの日、クラレットが俺たちの前に現れてからホントに楽しかったよ。一緒にいて楽しかった、今だってクラレットと一緒に居たいんだ」

 

俺は自分のポケットに手を入れる、あの戦いで傷がつかなくて本当に幸いだった

 

「これ、誕生日プレゼントだ」

「これを…私が…?でも私なんかが受け取っても…」

「これは俺がクラレットの為だけに用意したんだ。だから受け取らないなら誰にも渡さない」

「・・・・・・・」

 

くしゃくしゃになってしまったが包装された袋を開け中身を確かめている。そこから取り出されたのは少し崩れた形をした腕輪だった

 

「これって…ミサンガでしたか?」

「うん、春奈が昔、手作りのを買ったらしいんだけど使わなくてな頑張って作ったんだけどちょっと不出来だったみたいだよ」

 

苦笑いを浮かべ俺はクラレットに話した。自分が誕生日を忘れて徹夜で仕上げたんだって、手作りなんだぜと伝えた。すると彼女はミサンガを抱きしめて泣いている

 

「ハヤト…ありがとう、私にこんな素晴らしい贈り物をしてくれて…」

「当たり前だろ、俺はクラレットからもっといろんな物をもらってきたんだから」

「…記憶戻ったんです。つらい記憶でした」

「・・・・・・」

「家族はいたけど本当に家族なのかよくわからないですし。今思うと親にも子供とみられてませんでした。そんな私が向こうの世界に来てたくさんのモノをいただきました。家族に友達に…大切な人に…、だから私はそんな温かい世界から貴方をこの世界に引きずり込んでしまったことが怖かったんです。元の世界に戻れないって知ったら私の事を…嫌いになってしまうんじゃないかって…、怖くって…」

 

クラレットは戻った記憶の事を話していた。自分が子供として見られてなかった、召喚術の知識を得てしまい元の世界に戻れないことを知ってしまった、

だから怖かったんだ、本当の意味で一人になるのを誰よりも怖がっていたんだ。俺はそんなんで嫌ったりしないのに心配性だな

 

「なあ、クラレット」

「はい」

「帰ろうな」

「はい」

「その時は一緒だ」

「はい」

「じゃあ約束だ、それまでクラレットは俺が守る。いや守らせてほしいんだ」

「…わかりました。ハヤト、必ず一緒に帰りましょう。それまでよろしくお願いします」

「違うだろ、これからもずっとだ、クラレット」

「…はい!」

 

こちらを見つめ涙を流していたが笑顔に戻ったクラレットの姿はあの日夕焼けに照らされてみた彼女の笑顔に匹敵するものだった

これからきっともっと大変なことが待っているかもしれない。だけど俺は必ずクラレットを守ってみせると彼女の約束した

あの大きな月に誓って必ず元の世界に戻るとクラレットと約束したのだった

 

 

 




戦闘シーン書くのきっついす。もともとバノッサにズタボロにする予定だったがこれ真面目に戦うよりきついですな。
3話を書いてて思ったことがいろいろあって書き直しを多く行いました。
読みやすくなってるのかなぁ。とりあえず擬音は全部排除な、あれいらねぇわ
この話書くとき思ったのは(原作沿いだから楽だな!)でした、実際は(原作沿いのせいで文字数がやべぇ!)でしたわ
初めての交流とかのシーンなためカット出来ないんでそこがきついです。
一番の問題点はエドスゥ…どう扱えばいいんだあの半裸、難しすぎだろ
あとラミちゃんはやばいな、天使や

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。