闇のナノマテリアル。
そうとしか形容できないものが、イ401のセイルの上にたゆたっていた。
何だあれはと思う間に、黒いナノマテリアルは人間の形を取り始めた。
禍々しい色のナノマテリアルから生まれたとは思えない、ふわふわした栗色の髪。
深緑の瞳に白人特有の白面、瞳と同じ色合いの折襟の軍服、手にはギャリソンキャップを持っていた。
服の胸元には「38M」と刺繍が入っているが、意味は良くわからない。
そして、
「スミノ、あれは霧?」
「……違う、と思う」
スミノが、珍しく歯切れが悪かった。
しかし雰囲気は違うが、あれは確かにナノマテリアルだった。
ナノマテリアルから形勢された人間は、それはつまり霧のメンタルモデルのはずだ。
だが、霧のスミノはあの男を霧では無いと言う。
紀沙にもわかる。
あれは霧では無い、が、霧の気配を漂わせている。
わからない。
体内にナノマテリアルを持つ紀沙は、今スミノが感じている気持ちの悪さが理解できる。
女性形しか存在しない霧のメンタルモデル、なのに目の前には男のメンタルモデルがいる。
「誰だ、お前は……!?」
この時点で、群像もその男の存在に気付いた。
そして皆が自分に気付いたことを知ったのだろう、男はにっこりと笑みを浮かべた。
柔らかな風貌と相まって、その笑顔は見る者を安心させるはずだった。
しかし状況が、全てを台無しにしてしまっていた。
安心など、出来るはずも無い。
拍手。
男が拍手していた。
パチパチと乾いた音が響き、他の音は消えてしまったかのようだった。
皆の視線が彼に集まった時、ただひとり――翔像だけが口を開いた。
翔像は言った。
「――――<騎士団>か」
<騎士団>。
今や緋色の艦隊とヨーロッパを二分する勢いの新興勢力。
ロシアの軍事攻撃を三度跳ね返した、正体不明の集団。
彼の正体はそれ、そして彼は名乗った。
「僕の名前は『トルディ』。<騎士団>のエース、なんて呼ばれることもある」
<騎士団>を碌に知らないのにエースも何も無いが、自信満々にそう言ったのだ。
とにもかくにも、ついに、と言うべきだったのかもしれない。
来るべきものが、ついに来たのだ。
<騎士団>の側から、人類へとコンタクトを取る時が。
◆ ◆ ◆
そもそも、<騎士団>とは何か。
<騎士団>と言う名前が広まったのは、ここ1、2年のことだ。
クリミア半島を拠点に侵略を開始した
何の、そして何に対する騎士なのかも名乗らぬ、
そして彼らは、霧の艦艇と良く似た力を持っていた。
一時は霧の地上侵攻が始まったのかと各国に緊張が走ったが、霧の艦艇との戦闘が確認されるに及び、人類は彼ら<騎士団>が霧の艦艇とは別個の、しかしより直接的な脅威であることを知った。
陸地に関心の無い霧の艦艇と異なり、<騎士団>は地上を侵略し始めたからだ。
「群像」
『トルディ』と名乗った男から目を離さずに、イオナが口を開いた。
その瞳は、霧特有の電子的な明滅を繰り返している。
「奴は私のセンサーに映っていない」
「どういうことだ?」
「わからない。ただ、奴の身体はナノマテリアルで構成されている」
「……『トルディ』とか言ったか。お前は何だ、霧の艦艇なのか!?」
「ボクが霧だって?」
それは何の冗談だ。
まさにそんな風に肩を竦めて、『トルディ』は答えた。
「言ったろ、僕は<騎士団>だって。霧なんて言う、あんな……」
霧。
そう言葉にした時の『トルディ』の表情は、まさに
むしろ、どこか見下しているようにも見えた。
「あんな下等な奴らと一緒にされちゃあ、困るね」
「……下等と来たか」
ぼそりと呟いたのは、誰だったか。
誰が言ったのかには興味が無いのだろう、『トルディ』は手振りを大きくして言った。
「下等じゃないか。だって、お前達は自分がどうして存在しているかもわかっていないんだろ?」
それは、事実ではあった。
霧の艦艇は「人類を海洋から追い出せ」と言う不完全なコードを実行しているだけで、そこに彼女達の意思は無かった。
存在しているのかどうかもわからない何者かの命令をこなすだけの、いてもいなくても一緒の存在。
だが、自分達<騎士団>は違う。
自分達は崇高な目的と使命のために行動しており、戦いも侵略も、全てそのための手段に過ぎない。
海洋封鎖を手段では無く目的とする霧の艦艇とは、存在の格が違う。
『トルディ』は、そう言った。
「では聞かせて貰おう。お前達の目的とは何だ?」
群像が返す。
若干、声に固さが見えるのは、イオナを――霧の少女達を侮辱されたと感じたからだろうか。
それに対して、『トルディ』は答えた。
つい、と、あるものを指差しながら。
「今はとりあえず、彼女に興味があるね」
『トルディ』が指差したのは、沙保里の棺だった。
◆ ◆ ◆
「彼女は、僕達の仲間になるかもしれなかった人だ」
『トルディ』の言葉は、紀沙にとって示唆に富んだものだった。
紀沙はすでに父・翔像が自分と同じようにナノマテリアルと取り込んだことを知っていて、母が何かを語るためにタカオに自らを託したことを知っている。
そう言う中での『トルディ』の言葉は、嫌でもある可能性を想起させる。
千早の――いや。
かつて『アドミラリティ・コード』を起動させた3人の内の1人。
そして、ナノマテリアルの身体を持つ男の存在。
紀沙の頭の中では、すでに一つの答えが出ていた。
「もちろん、そちらにも興味がある――千早翔像提督」
イ401のセイルから『ムサシ』を見上げながら、『トルディ』は言った。
「世界は、ナノマテリアルに選ばれた我々が統べてこそ価値がある。そう思うからこそ、緋色の艦隊を率いて我々に対抗したわけだろう」
「ナノマテリアルに選ばれる? どう言う意味だ?」
「……言葉通りの意味だ。最もお前には無理だったようだがな、千早群像」
そして、群像にはわからない。
彼は翔像の話を聞いていない。
また紀沙が聞いた話は霧の共有ネットワークにも上がっていないので、イオナも知らない。
まして、ナノマテリアルと言う未知の物質に関することだ。
「あまり喋り過ぎるな、『トルディ』」
一方、紀沙はぎょっとした。
何故なら背後から声が聞こえたからで、振り仰いで見れば、イ404のセイルにも誰かがいた。
『トルディ』と同じ軍服を着た、似たような風貌の青年だった。
人間離れした美しさを持つ青年で、こちらは『トルディ』と違い立っていた。
「わかってるよ、『トゥラーン』。別にお喋りに来たわけじゃないしね」
霧の艦艇は、それぞれに己の本体とも言うべき艦体を持っている。
それは全てナノマテリアルによって構成されているもので、条件さえ揃っていればどこへでも現れることが出来る。
……何故、ここで改まってそのようなことを説明したのか?
それは、霧の艦艇の例を持ち出さなければ、目の前の出来事を説明できなかったからだ。
『トルディ』の背後、イ401のセイルを押し潰す勢いで突如として出現したそれは、当然セイルからずり落ち、甲板に降りた――もとい、落ちた。
紀沙があっと叫んだ時には、イオナが群像を抱えて海に飛び込んでいた。
突如として現れたもの、それは……。
「――――戦車!?」
それは、戦車だった。
不整地走行のための履帯、鋼鉄に包まれた車体、大きな砲塔。
ずんぐりとした独特のフォルムは、かつて陸上の覇者と呼ばれた兵器だった。
そして誰もが唖然としている中で、『トルディ』の砲塔が火を噴いたのだった。
◆ ◆ ◆
『トルディ』が放った砲弾は――いわゆる
物理的な効果以上に、砲弾にウイルスのような物が仕込まれていたようで、棺の封印プログラムを強制解除されてしまった。
母の、沙保理の最後の時間が……!
「母さん!!」
群像に悪いと思いつつも、イ404が突っかかって行った。
イ401の艦体に404の艦首をぶつけるようにして、同時に紀沙は跳んだ。
衝撃で傾くイ401の甲板で足を滑らせながら、紀沙は叫んだ。
あたりには、砕け散った氷が散らばっている。
「ははははっ! どうだい、美しいだろう!? 水の上に浮かぶだけの鉄屑とはわけが違うよ!」
『トルディ』の笑い声が聞こえる。
(戦車って……!)
だが理解した、<騎士団>は霧の艦艇と似て非なるものなのだ。
陸上版の霧とでも言おうか――言動から察するに、本人は否定するだろうが――<騎士団>は、おそらくは前時代の戦車の姿を取るのだ。
狭い甲板の上でキュラキュラと履帯の音が響く、そして視界の端で、何かが動くのに気付いた。
海風が、
そこに、女性が1人立っていた。
誰かなどと言うまでも無い、氷の棺から解放された沙保里だった。
履帯の音が響く中、紀沙は駆け出した。
「艦長殿!」
背後から砲撃の音がするのと、スミノの声が聞こえたのはほとんど同時だった。
まだ起きたばかりだからだろう、沙保里はぼんやりとした様子で立っているだけだった。
ほとんど勢いのままに、紀沙は沙保里に飛びついた。
母の身体は冷え切ってしまっていたが、ふわりと感じる優しさは子供の頃のままだった。
一瞬、安堵と悲哀を覚える。
(こんなはずじゃ無かった……!)
こんなことばかりだ。
良かれと、良くなると信じていても、何も良くはならない。
酷いこと、嫌なことしか起こらない。
何だこれはと、絶望が常に傍にいる。
氷の棺が解かれた以上、沙保里は死ぬ。
それは、受け止めざるを得ない――哀しい、苦しい程に、狂える程に。
ならせめて、最後の時間は家族みんなで過ごしたかった。
それくらいの願いを持ったとしても……
「あらあら」
けれども、当の沙保里は穏やかだった。
目を覚ましたら娘が体当たりをかましてきていて、いやそれ以前に大海原のど真ん中で船に乗っていて、しかも目の前に戦車がいると言う意味不明な状況なのに、穏やかなままだった。
『トルディ』の再度の砲撃とスミノがそれを受け止めた衝撃で、イ401の艦体が大きく傾いた。
「仕方の無い子ね」
そんな中にあって、沙保里は昔と何も変わることが無かった。
何も言わずにお腹のあたりにある紀沙の後ろ髪に手をやって、ゆっくりと撫でる。
甲板から滑り落ちて、逆さまになっていても。
あるいは、海に落ちてしまっても。
沙保里は、変わらずにいられるのだった。
◆ ◆ ◆
海に落ちる。
霧にとっては何でも無いことでも、人間にとっては大きなことだった。
しかも、長らく謎のままだった<騎士団>の登場である。
「イオナ姉さま!?」
「あ、姐さぁ――んっ!?」
千早兄妹とその艦に縁のある者は、まずそちらを案じた。
普段なら心配などしないだろうが、状況が状況である。
なんだ、あの戦車は!?
普通は潜水艦の上に戦車のような重量物は乗せられない。
それが普通に乗り、かつ砲撃までしているのはイ401、あるいは戦車そのものが通常の物質で構成されていないためだろう。
つまりあの戦車は、間違いなくナノマテリアル製だ。
「くっ……!」
この時点で、ヒュウガは僅かに迷った。
交戦か、探索か。
もしヒュウガが大戦艦『ヒュウガ』であったなら、まず交戦を選んだ。
イ401の艦上にいる戦車や<騎士団>の2体を狙撃することなど、大戦艦『ヒュウガ』であれば造作も無いことだったはずだ。
「トーコ! あんたもついて来なさい!」
「お、おうっ!」
結果、ヒュウガが選んだのは探索だった。
潜行し、海中で群像達を探すのである。
(<騎士団>、戦車……ああっ、もう! 戦車なんて良く知らないったら!)
ヒュウガは憤慨していた。
調べればわかるだろうが、霧の中で戦車などに興味を持っている者がどれだけいるか。
蓄積されていない知識や情報に対して、霧は極めて弱い。
これが航空機であれば、以前艦載機として運用していた記録からある程度はわかるのだが。
そして、そうして海中へと姿を消していくヒュウガを横目に、『デューク・オブ・ヨーク』達は遠巻きのまま、『ムサシ』周辺で起こっている変事を眺めていた。
このまま停戦かと思っていたところに、第三者の介入である。
経験豊富な欧州艦隊のメンタルモデルと言えども、流石にこれは予想外だった。
「こういうのを、人間は「肌が粟立つ」って言うのかしらね」
『デューク・オブ・ヨーク』はひとまず艦隊を停止させた。
『フッド』は今頃は『フューリアス』達のコアの回収に忙しいだろう。
それは、もしかしたら運が良かったのかもしれない。
何故ならば、『デューク・オブ・ヨーク』が今感じている肌の粟立ち、冷や汗、そして恐怖を、感じなくて済んでいたのだから。
「姉さん、こわい……」
「大丈夫よ『アンソン』ちゃん、お姉ちゃんがついてるわ」
姉妹艦にはそれと悟らせていなかったが、『デューク・オブ・ヨーク』も恐怖していた。
びりびりと伝わってくる圧力感に、メンタルモデルの肌が焼かれてしまいそうだった。
「……『ムサシ』が、怒っている……」
超戦艦の放つ、これ以上無い程の存在感。
ただそれを感じただけで、『デューク・オブ・ヨーク』達はそれ以上進むことが出来なかった。
◆ ◆ ◆
離さなかった。
離してしまえば、今度こそ会えなくなってしまうような、そんな気がしたからだ。
冷たい海の中で、紀沙は沙保里にしがみついていた。
(泳げな、い……!)
しかし、成人女性を抱えて泳ぎ切れる程、ドーバー海峡は穏やかな海では無かった。
おまけに衣服が海水を吸い、泳ぐどころか浮かぶことすら出来ない。
1人ならばあるいは、とも思うが、それは論外だ。
だから紀沙は、沙保里の背中に回した腕を離さなかった。
「ぐ、んん……っ」
それでも、気持ちだけで息が保つわけでは無い。
いやむしろ、海の寒さに青白くなった唇から漏れる気泡は徐々にか細くなっているように見える。
すでに胸は苦しく、今にも息を吸ってしまいそうだ。
水中で息を吸えばどうなるか、海兵である紀沙は嫌と言う程に良くわかっている。
それがどうした。
苦しいとか、寒いとか、そんなことはどうでも良い。
母親を見捨てて生き延びることを是とするなら、ヨーロッパくんだりまで来ていない。
だから離さない、たとえ――たとえ、それで再び海上に出れなかったとしても!
(ぜったいに、はなさない)
その時、不思議なことが起こった。
視界の端、だんだんと光を失っていく海の中で、蛍のような光を見たのだ。
いや、蛍と言うよりは光の粒子と言うべきか。
それは、ナノマテリアルの粒子だった。
――――スミノ?
違った。
そのナノマテリアルは、もっと身近なところから発生していた。
紀沙を取り巻くように発生したそれは、彼女を守るように温かく包み込んでいった。
それは。
(――――母、さん?)
沙保里が、ぎゅっと紀沙を抱き締めていた。
困ったような、何かを言いたそうな、そんな顔で紀沙のことを見つめていた。
きっと、何か話したいことがあって『タカオ』に封印処理を頼んだのだろう。
しかしこんなことになってしまって、それも適わなかった。
最後の一時を、言葉も交わせずに終わってしまう。
「か……ごぼっ」
最後の呼気で、母さん、と言おうとした。
せめてそれだけでもしたかったが、それすらも出来ないようだ。
涙は、海水の中に溶けて消えてしまう。
それでも母の本能なのかどうなのか、娘が泣いていることには気付いたのか、沙保里の指は紀沙の涙を拭うような動きをした。
そして、ぽんぽんと背中を叩いてくる。
まるで子供の頃にそうしたように、あやすように、寝かしつけるように。
淡いナノマテリアルの輝きが、紀沙を包み込んでいく。
それは、沙保里の身体から出ているように見えて。
(……かあ……さん……)
冷たい海の中で、どうしてか温かだった。
紀沙の意識は、沙保里と一緒に、ナノマテリアルの海に溶けていった。
◆ ◆ ◆
――――さて、どうしたものか?
事の一部始終を眺めていた少女、『ユキカゼ』は、自分の次の行動をどうすべきかを思案していた。
と言うより、目の前で起きた出来事の解釈について考えていた。
「はてさて、我が総旗艦はこれを想定していたのでしょうか」
『ユキカゼ』の前には、ナノマテリアルの保護壁で覆われた少女がいる。
いる、と言うか、本人の意思でなくそこにいるわけだから、「ある」、と言うべきか?
そう言うどうでも良いことを考える時間が、最近は本当に増えた。
メンタルモデルを得たからだろうか。
『ユキカゼ』は思考する。
思考の蓄積こそが、メンタルモデルの経験値を増やしていくのだ。
まぁ、それはそれとして。
「はたしてこれは、回収するのが正解なのかそうでは無いのか。イ8はどう思う? ……うん、まぁ、判断情報が足りないのはわかってたよ」
『ユキカゼ』がメンタルモデルを得て学んだことの一つは、世の中にははっきりとした正解は無いと言う事だった。
いや、それは少し表現が違っている。
何を選んでも正解で、何を選んでも不正解なのだ。
矛盾しているが、『ユキカゼ』の理解する「世の中」と言うものはそう言うものだった。
「興味深い」
実際、興味深い現象ではあった。
そもそも『ユキカゼ』は、人間がナノマテリアルを取り込むなど想像したことも無い。
だが今日、目の前でナノマテリアルを宿した人間を見た。
もしかするとこれは、自分たち霧にとっても重要なことなのでは無いかと思う。
「あるいは、我らが創造主への道標なのかもしれない」
千早紀沙。
あの千早群像とはまた別の、違った可能性を持つ人間。
ナノマテリアルの
母の揺り籠の中で眠る赤子のように、眠っている。
「思考には苦しみが伴う。まったく、その通りですね」
ああそうか、と、『ユキカゼ』は思った。
もしかしてこう言う時に、人間は哀しみたくなるのだろうか。
ふわり、と降りて来た紀沙の身体を両手で受け止めるようにして、『ユキカゼ』は言った。
「痛みと苦しみだらけの世界を、人間はどうして生きているんでしょう?」
その問いに答えられる人間が、はたしてどれだけいるのだろうか。
◆ ◆ ◆
――――年末のドーバー海峡での海戦は、英仏両岸の民衆を恐怖に陥れた。
特に戦場が近かったロンドンでは市街地にも被害が出て、人々は地下の防空壕で身を寄せ合って震えていたと言う。
「やっぱり、海まで出ないと見れないよな。くそっ」
海戦の翌日、まだ誰もいない早朝に、フランス側の砂浜を歩く青年がいた。
茶色の髪に黒い瞳の、鼻の高い白面の男で、動きやすそうな服装にライフジャケットを着ていた。
そしてその手には、今時は珍しいフィルム式の一眼レフカメラが握られていた。
随分と長く歩いてきているのか、砂浜のずっと向こうまで足跡が続いていた。
ジャケットの襟元に、名札がついていた。
レオンス・シャルパンティエ、国籍フランス。
その
「霧の艦艇に従軍記者制度があればなぁ、こんな砂浜をずっと歩かなくても良いのにな」
レオンスは今、霧の艦艇を追いかけていた。
今、世界で何が起こっているのか?
それを知るためには、今はとにかく霧の艦艇に近付くことだった。
しかし人間の身で、それはなかなかに困難を伴うことだった。
だからこそ、不満そうにブツブツと愚痴りながら砂浜を歩いていると言うわけだ。
「せめて飛行機でもあれば……うん?」
レオンスにとっては、それは変わらない日常のはずだった。
欧州大戦の戦場を渡り歩き、霧の艦艇を追いかけながら海沿いを歩き続ける一日。
ところがその日は、いつもと少しだけ違った。
真っ白な砂浜に、それこそ砂と貝殻しか無いような砂浜に、その日は別のものを見つけたのだ。
「何だ、何か流れ着いて……いや、人だ! おい、大丈夫か!?」
砂浜に、人間が倒れていたのだ。
それも女性、しかも若い。
迷うことなく、レオンスは彼女に駆け寄った。
レオンスはジャーナリストとして常にネタを求めているが、それは人間として取るべき行動を取らないということを意味しない。
「ん、
そんなレオンスが驚いたのは、別に彼が人種差別主義者だからでは無い。
単にアジア人――それも生粋の――は、今時ヨーロッパ都市部でもなかなか見ない。
それも自分より明らかに若い女性となると、さらに珍しくなる。
いったい彼女は何者なのか?
一瞬頭を過ぎった疑問をひとまず振り払い、レオンスは介抱を始めた。
「……かあさん……」
最後までお読み頂き有難うございます。
騎士団は戦車で男だった!
ここで私は女性読者を確保に走るわけです(今さら)
またどこかで騎士団募集とかしたいですねー。
さて来週の更新ですが、申し訳ありませんがお休みとさせて頂きます。
リアルでGWに旅行に行くため、感想やメッセージの対応もできなくなります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、ご容赦下さい。
一応、ここからイ404のクルー編もとい、ちょっぴり過去編みたいなのを描いてみたいと思います。
紀沙とイ404のクルー達の関係をちょっとでも描けたらなと思います。
紀沙が学院卒業間近とか、そのくらいの時系列でしょうか。
ではでは、執筆のため(ほんとか)、実際に見てこようと思います。
――――ドイツを。