今の所没にしたSSの供養場   作:曇天紫苑

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 ◆アナウンスーン◆途中から地の文がなくなり、展開が飛び飛びになる
 ニンジャスレイヤーのSSだがニンジャスレイヤー的表現を減らした事でほんやくチーム行為の対象となった為に本作は送られました。今は憩っているのでご安心ください。


原作知識有のスカムオリ主が行く忍殺第三部(ニンジャスレイヤー)

 どうも、突然だが俺は……俺は?

 

 

 よく分からない。

 俺はノードラッグだ。宇宙の彼方に精神が飛んでる訳じゃないと思う。サイバーイルカも見てないしな。まあそれはいい。問題は。

 

「どこだよ、ここ」

 

 気づいたら、この妙な空間の中に居たんだ。それが、問題だ。

 無限に広がってる感じがする。ここには、上空に黄金の立方体が有った。俺の身体はそんな場所の大空を飛んでいて、風も無いのに髪がなびいた。

 

 まったく、どういう事だ。気づいたらこんな所に来ていたなんて。悪夢か? 使ってもいないドラッグのトリップか? まあそれは良い。俺はイルカだったんだ。いや、イルカなのか。

 ダメだ。考えが纏まらない。混乱しているのかね、そうだろうな。当然だ。

 

 ともかく、ここには誰も居ない。いや、俺以外はね。

 でも何だろうな。こんなに寂しい場所だのに、俺はまるで寂しいと思わない。荒涼とした砂漠なんかよりもずっと人気の無い世界に取り残されている筈だけど、それがまったく気にならなかった。

 不思議と解放感がある。俺が裸だからか。露出狂って奴なのか。不味いな、自分がそんな性癖を持っているとは思わなかった。どうでも良いが。

 

 それよりも、記憶が曖昧で、俺の身に何が起きたのかも分からないのが問題だ。この精神世界の様な場所で、黄金の何かの傍を飛ぶという体験をしている俺は、一体誰なんだ。

 

 俺に残されたものは、俺が俺だという感覚と、もう一つ。

 この空間に近い物を知っているという事だけだ。ああ、それはつまり、呟きによる電子小説の記憶に他ならない。

 つまり、ここは……

 

「コトダ……なんだっ!?」

 

 身体が、急に何かへ引き寄せられていく。

 何だ、吸い込まれてる。ああ。違うこれは追い出されているのか。何だこれ。分からない。しかし、いや、俺はこれを知ってるぞ。知ってる。知って。

 黄金の立方体。いや、そうじゃない。これは黄金の。待て、何か来た。何かが俺に近づいてきた。

 

 ソクシンブツめいた形、謎の。何か。それが沢山、多く、一杯だ。

 

「「「ドーモーモーモーモーモーイイイイイイインクィジターターターターターターター」」」

 

 それは俺の傍を飛び、俺を弾き出す様に両腕を拘束した。

 抵抗するが、無駄だ。俺はこいつらに、どこか01001010101010101010101010001011101010101010101101010101010101010101010101011101000110010010100101000100001001001010101010キ101010101000101110101010101010110101010101010101010101010101110100011001001010010100010000100100101010101010101010100010111010101010101011010101010101010101010ン101010111010001100100101001010001000010010010101010101010101010001011101カ01010101010110101010101010101010101010101110100011001001010010100010000100100101010101010101010100010111010101010101011010101010101010101010101010111010001100ク10010100101000100001001001010101010101010101000101110101010101010110101010101010101010101010101110100011001?001010010100010000100100101010

 

 

 

「?」

 

 ハッ、とした。

 

 意識が戻って、賑やかな声と都会の明かり、そして太陽の見えない黒い雲が視界に飛び込んできた。

 

 

 どこかは分からないが、ハイ・テックの香りがする。遙か太古や、ファンタジー世界という訳ではなさそうだ。

 

「って、しまった! 服は……?」

 

 良かった。着てる。あの妙な場所では裸だったけど、この妙に現実じみた非現実的な町並みに居る俺は、ちゃんと服を着ている。

 下はジーンズだ。膝や股、付け根に亀裂の走ってる……ダメージドジーンズって奴か? そいつだ。上は、ああ、セーターだな。もこもこだ。触り心地が良くて大変結構。

 

 どうやら公衆の面前で全裸は避けられた様だ。安心したよ。俺は真人間だからな。

 

 安心したお陰で、人の顔を見る余裕が出来る。道を行く人達の顔は少し暗い。相撲取りの様な体躯の男、それに着物を着た女が歩いていて、何やら不思議な雰囲気を漂わせていた。ビジネス街ではなさそうだ。

 だが、だからといってキョートめいて歴史的空間を彩る和風な何か、でも無いらしい。何せ看板が一々性的だ。歴史表現的観光名所では、こういった物は排除されるだろう。

 

「おはよ!」

「おはようございます」

 

 挨拶の会話が耳に届く。声の元へ目を向けると、男装をした二人の女が、手を挙げて挨拶をしていた。それなりに奇抜だ。しかし、ありふれた日常風景にも見えた。

 

「んー……」

 

 町中を歩けば、奇異の目で見られる様な派手な格好をした人々が、当たり前の様に受け入れられている。 

 包容力というか、マイノリティを受け入れる空気が町全体に流れている様に感じられた。異なる人を受け入れる心、暖かみが有るのだ。

 此処は、どこだろう。何となく昼間の繁華街に見えるが。

 

「どこだー……? 参ったな」

 

 見知らぬ土地で一人になるのは、心細い。

 町中に居るのは話しかけ安そうな人ばかりだが、俺の身体は何となく動かなかった。話す事に勇気は要らない。だが、何となく踏み出せない。

 記憶の中の空より、この町の空はかなり暗い。空気も淀んでいる様に感じられる。それがまた居心地の悪い物で、俺は話しかけられる相手を捜す。

 

 周りをよく見て、どこかに良い人が居ないものかと考えてみる。俺の方を見て、着物の女が舌なめずりをした。目を逸らした。そういうのも好きだけど、今はその気分じゃない。

 今度は男が俺の方を見つめた。熱っぽい目つきだ。勘弁して欲しい。

 うんざりしながら顔を背ける。その先に、ジャージを着た、女子大生くらいの女の子が二人で歩いていた。

 

 片方の、短髪の子を見た。

 その時、俺の背中に何かが走り、あの子に話しかけるべきだ、という確信が宿った。獣じみた直感だった。

 

 二人の女の子は、すこぶる仲良く笑い合っている。

 ジャージ女子。カワイイな二人。この繁華街らしき場所を二人っきりで、手を繋いで歩いている……こういう場所で二人きりだ。売春でなければ……いや、売春じゃないだろう。二人の面持ちは酷く綺麗だ。という事はつまり、世に言う百合カップルなんだろうか。ドキドキしてきた。

 

 中でも、俺の目を釘付けにしているのは片方の女の子だった。黒髪の短髪で、綺麗な目をしている。口元に浮かんだ微笑みは、片割れの女の子へ向けられていた。その胸は薄かった。平坦だ。

 もう片方の子は余り気にならない。元々髪を三つ編みにでもしていたのだろう、ストレートロングだが、微妙に癖がついている。どうにも地味な顔立ちだったが、それを彩る幸福そうな笑顔が、愛らしさを際だたせていた。その胸は普通だった。

 二人とも、幸せそうな顔だな、と思う。

 ……片方の子がその手に刀を持っていなければ、ただの素敵な光景だ。

 

 見た所、そこそこの腕を持っている様に感じる。その身から微かに溢れる桜色の粒子が、周囲を警戒している様だ。どうやら、俺にしか見えていない様だが。

 

 しかし、俺はどうにも目が離せなくなっていた。

 

 邪魔かな。申し訳ないな。そう思いながら、俺は二人の元へ駆け寄った。

 

「ドーモ、すみません」

「……あ、はい」

 

 二人の内、地味めな女の子が俺の方を向いて、ぼんやりとした顔で俺の言葉に答えてくれた。

 その頬は赤い。やっぱりカップルなのか、デート中なのか。やはり、俺は邪魔だな。

 

「……」

 

 刀を持った女の子が俺を睨んでる。そりゃそうだ、カップルの邪魔をした上に、俺自身が怪しい事この上ないんだから。

 疑われるのも嫌だが、それより俺は彼女に質問をしなければならないんだ。

 

「いや、すみません。場所を聞きたくて。ここ、どこですかね?」

 

 警戒を滲ませていたロングの女の子は、俺が道に迷っているだけと悟って、少し肩の力を抜いて、答えてくれた。

 

「えっと……ネオカブキチョのニチョームですよ?」

「はあ、歌舞伎町の二丁目ですか」

 

 今、発音がおかしかったな。もしかして海外から来た子で、日本語を覚えたてなのかもしれない。それでも頑張って答えてくれた所を見る感じ、良い子みたいだ。

 話しかけた相手が良い人だった。俺は運と直感に優れている様だ。

 そして、ここは歌舞伎町か。行った事無いけど、歌舞伎町なら日本だ。いや……ん? 日本? 歌舞伎町? 俺はなにを考えている?

 よく分からないが、とりあえず道を聞かねば。

 

「じゃあ、どこから出られるかって、分かります?」

「あ、それは……」

 

 ロングの女の子が答えようと、周りを見回した。この子も、あまりこの辺りには詳しくないのだろう。

 

「ええっと……ごめん、私じゃ分からないの、代わりに教えてくれないかな」

 

 ロングの女の子には道が分からなかったのか、隣の子へ尋ねかけようとした。俺も、注意をそちらへ向ける。

 

 その瞬間、ショートの女の子が刀に手をかけた。

 

「え?」

「お前は……」

 

 女の子が、絞り出す様な声を出す。

 瞳に、仄かな桜色が光っていた。

 細身と刀、そして桜色の取り合わせが、何やら幻想的な空気を纏っている。

 

 

「や、ヤモトさん!? 何で刀なんか……」

 

 

 ……?

 

 

 ……っ!?

 

 えっ? ……ヤモト=サン!?

 

 

 聞いた事の有る名前だ。

 俺はその名前を知っている。その平坦な胸を知っている。彼女が何者なのかを知っている。

 しかし、実際に顔を見るのは、初めてだった。

 

「どうも……ヤモト・コキです」

 

 両手を合わせた素早いお辞儀に、俺は対応出来なかった。戸惑いが、俺を止めていたからだ。

 

 え、本当にヤモト=サン?

 

 

 

 

 ……って事は、なに。ここ忍殺世界?

 

 

 

 

 改めて見ると、看板にオイランドロイドの宣伝が有るし、『実際安い』とか『アカチャン』とか、そういう感じの変な日本語広告が有る。

 そういえば、通ってる人間にサイバー感溢れるサイバネ義肢やサイバーサングラスが着いてる様な、ニューロマンサーかブレードランナー的なアトモスフィアだ。間違い無いぞ。ニューロマンサーって何だろうな?

 まあいい。だけどまるで気づかなかった。だけど、ここは確かにニンジャスレイヤーの世界だ。

 

 

 

 ニンジャの……世界!

 

 

 

 

「や、ヤモトさん?」

「アサリさん、そいつから離れて」

 

 おっと、現実逃避している間に、ヤモト=サンが隣の子を退けていた。

 ……待った。俺は詳しいんだ。分かったぞ。つまり、今俺が話しかけていた相手は、アサリ=サンだな?

 ああ、通りで。ちょっと地味めだけど、素直で純朴で良い子そうだ。よく見ると、『ラストガール・スタンディング』のウキヨエ版の外見に、心なしか似てる。

 ニチョームにアサリ=サンが居たのは、『サツバツナイト・バイ・ナイト』後の四日目の朝までだから、今はあの後ヤモト=サンと一緒に居た時間なのか。空白の三日目はデートだったのか。

 尊い時間を使わせてしまって、何だか申し訳ない。

 

「そうか、君達はヤモト=サンとアサリ=サンなのか」

 

 なんだか、警戒されている事に完全な納得をしてしまった。

 ああ、そりゃ何だかんだ言ってもニチョーム治安悪いし(この場合は観光客の方が悪いらしいが)、アサリ=サンと自分に話しかけてくる奴が居たら警戒するよな。アサリ=サンが知らない人と喋ってたら心配だもんな。良い子だし、騙されて薬物強制前後とか、このマッポーの世ならあり得る。

 

 そういえば……この子、もうヨタモノにファック&サヨナラされかけた経験持ってるんだよな……無軌道学生に薬物前後未遂……

 マッポーの世にも関わらず見ず知らずの俺に道案内をしようとしてくれた、こんな良い子が……何か腹立ってきたぞ。変態野郎は殺す、慈悲は無い。

 

「っ」

「あっ、待って。違うから、威嚇とかじゃないから」

 

 まずい。殺気立ってんのがバレた。違うよ、君達みたいな素敵な女の子達を傷つける外道クソ野郎をネギトロにしたいだけなんだ。

 でも、その気持ちは伝わらなかったらしい。滅茶苦茶殺気立って、俺の事を睨んでくる。

 大切なんだろうな、アサリ=サンの事。でも、こんな所で怖い気配だだ漏れにしてたら、店の人に迷惑なんじゃないか。

 

「あ、あー……こんな白昼でニンジャ気配を出したら、モータルが発狂しちゃうんじゃないかな?」

「……心配しないで良い。隠すのは、慣れてるから」

 

 ヤモト=サンが目を細めて、俺を観察している。マゾじゃない俺には少し居心地の悪い視線だ。

 ニンジャに睨まれているのに、俺は不思議とNRSを起こさない。俺がこの世界の人間じゃないからか。はたまた、何か理由が有るのか。

 

「あ、あの……ヤモトさん……」

「アサリさん、大丈夫?」

「うん、でもあの人、道を聞いただけだよ?」

「うん。だけど……」

 

 あ、ヤモト=サンこれ信じてないわ。アサリ=サンを、じゃなくて、俺を。

 絶対これ、道を聞いて暗がりに連れ込んで前後するとか、そういうゲスだと思われてるわこれ。今の俺ってそんな、邪悪存在な気配出してるの? 俺、かなり控えめで邪悪ではない方なんだけど。

 

 それにしても、この世界に来て最初に出会った相手がアサヤモなんて、俺は運が良いな。警戒されっぱなしなのはコワイだけど、それも帳消しに出来るくらい嬉しいな。

 

 だって俺百合とか大好きだし!

 

 ほら、この、二人揃ってジャージでも、お揃いの服を着ている姿が、とても可愛らしい。

 しかも二人は絆を感じさせる様に、お互いを守ろうとしてる。アサリ=サンの奥ゆかしい優しさ、ヤモト=サンの尊い慈しみの何か。絆がとても有る。アーイイ、たまらない……

 

「っ」

「ん? 何か変な顔してたか? 俺?」

「……変な、笑顔だと思って」

「そうか、そりゃ悪かった」

 

 素直に頭を下げると、ヤモト=サンは毒気を抜かれた様に目を見開いた。研ぎ澄まされたニンジャ戦士から、年齢相応の可愛い女の子へ変わる瞬間、それを俺のニンジャアイは明確に捉えている。

 

「……?」

 

 あれ、怪訝そうにしてる。

 もしかして、俺が挨拶を返さなかったからか。ニンジャじゃないんだけど。

 折角、ヤモト=サンが挨拶してくれたんだ。返事はしたい。けど、何て名乗れば良いんだ? 本名? ……俺の本名、なんだっけ?

 

「ドーモ……えっと、あー……」

 

 どうしても名前が出ない。

 どうした物か。名前は実際重要な要素だ。パワーワードにもなる。挨拶に挨拶を返さないのはスゴイシツレイに当たる。俺はこの世界の住人じゃないから、問題ないかもしれないが……

 しかし、どう名乗ろう。ニンジャネームなんて俺、もってねえよ?

 

「……ん?」

 

 ふと、頭の中に言葉らしき物が0101010101思い浮かぶ。言葉にするのは難010110101いけど、口に出してみれば、分かるかも。

 それはきっと、俺のニンジャネームだ。そう01思う。

 だから、なんかよく分からない内に、俺は頭の中で浮かんだ名前を名乗っていた。

 

 

 

「ドーモ、ヤモト・コキ=サン。01010101010101101101010101010ツ・01010100001011ワン01100101011010010101011010101です。……私はヌンジャです」

 

 

 

 

 ……え

 

 …………は?

 

 ………………はあぁっ!?

 

 

 

 ぬ、ぬんじゃ?

 

 

 ヌンジャ!?

 

 

 つまり、俺が……カツ・ワンソー? 世界最初のニンジャにして、ニンジャにとってのニンジャの、カツ・ワンソー?

 神話級のニンジャ六騎士とハトリ・ニンジャを相手に出来る程の強者であり、未だにキンカク・テンプルで目覚めを待つ、ニンジャスレイヤー作中で最も強大な秘密重点存在で、作中世界観の根幹に関わっていて、しかもダークカラテエンパイヤの主となる可能性が高い、あの!? 暗黒のカラテ帝国!?

 

 ぬ、ヌンジャ!? ヌンジャナンデ!?

 

 でも嘘だろ? 嘘だよね? 俺がカツ・ワンソーなわけねえもん。

 

 だ、だって。俺。

 

 

 

 

 

「……」

「や、ヤモトさん。この人は、女の人だよ?」

「そうじゃないんだよ、アサリさん……」

 

 

 

 

 

 俺って、女なんだぜ!?

 

 カツ・ワンソーは男だろ!?

 

 だけど、挨拶は実際神聖だ。だから俺は口をついて出た名前を使った。ニンジャが挨拶において名乗りを上げるなら、本能的な言葉として出た、その名前が間違いな訳がない。

 

 いや、待ってくれよ。驚くのも無理はないけど、落ち着け俺。俺は、本当に自分の名前だと思って挨拶したんだよ。それがカツ・ワンソーだった?

 つまり、こうだ。俺はカツ・ワンソー。

 

 

 

 

 ……ラリッてんじゃねえだろうなオレッコラー!

 

 

 

 

 しかし、本当にそうだとしたら。俺=イルカ=カツ・ワンソーという図式が完成……マグロ狂気はまだ俺の頭に残ってるのか。イルカは関係ない!

 

「ツ・ワン……?」

 

 あ、まずい。ヤモト=サンがジロっ! って感じの目で俺を見てる。

 パニック起こす暇が有ったら、ヤモト=サンに警戒を解いて貰う様に努力するべきだった。

 

 

 

 ……ドウシヨ?

 

+----

 

 

 黙っていても埒があかない。しかし、何を言えば良いのかが分からない。

 そういう経験をした事は誰にでもある筈だ。そして今の俺が置かれている状況も、そういうアレだ。

 

「……あなたは、誰なの。答えて」

 

 ヤモト=サンがあの綺麗な瞳で俺を見ている。隠しているが、ニンジャ存在感が俺には捉えられる。

 少しずつ、殺気立ち始めている気がした。アサリ=サンをいつでも逃がす事が出来る立ち位置で、俺が攻撃を仕掛けたら、アサリ=サンの盾になれる場所だ。

 身を挺して、一秒でも時間を稼ぐべく、決死の覚悟までしている様にすら見える。アサリ=サンを無事に逃がす為なら、自分の命を捨てるのも辞さない覚悟だ。

 だけど勿論、俺に攻撃の意図は無い。全くない。これっぽっちも無い。有るのは、驚きと困惑だけだ。

 

「俺は、ただの迷子だ。困った事にニチョームへ迷い込んじまって、帰り道が分からない。本当だ」

 

 出来るだけ情けない顔をして、無害さをアピールしてみる。

 ……ダメか。どうも警戒されている。どうしてだろうか。ヤモト=サンはニンジャ真実に近くないから、ヌンジャという単語にそれほど大きな反応を見せる筈も無し。

 これがフジキド=サン辺りなら俺はとっくに逃げてる所だけど、ヤモト=サンは良い子だから、「慈悲は無い」される事は無い……と信じよう。

 

「つまりだ、俺は別に敵とかそういうのじゃないんだ。だからそうやって警戒するのは止めてくれ」

 

 手を振って、身体の力を抜く。多分大丈夫だ。まだ大丈夫そうだ。

 ウバステが動いた瞬間逃げる。多分、俺は彼女を殺せるが、そんな事は絶対にしない。この子は素敵で平坦な女の子で、俺は、そういうのが大好きだからだ。

 しかし、どうにもならないのも事実だ。

 

「ヤモトさん、この人は道を聞いただけだよ」

「でも……」

 

 アサリ=サンが助け船をくれた。

 

 ああっ、アサリ=サンは天使だ! 菩薩だ!

 

 何度か息を吐き、宝石の様な汗を拭って(俺はまずここで達した)、刀から手を離す。

 

「アタイの中の何かが、あんたから逃げろって、そう叫んでる気がするんだ。一人じゃ絶対に勝てない、すぐに逃げろ、アタイを裁くつもりだ、って」

「気のせいだと思う」

 

「というか、君はヤモト・コキであってシ・ニンジャじゃないだろう?」

 

「っ! 何で、知ってるの」

 

 まずい、ヤモト=サンに入ったリアルニンジャのネームを出しちまった。

 

「いや、ほんと。俺はヌンジャにしてはかなり控えめで邪悪ではない方なんで。帰り道を教えてくれたらそれだけで立ち去るつもりですから、頼めませんか。道、教えてくれませんか」

 

 こんなにヌンジャが下手に出ている。ヌンジャがこんな風になりますか? おかしいと思いませんか? あなた。

 うん、やっぱり俺がヌンジャなんてあり得ないね。

 

「……いいよ」

「良かった! 悪いね、デートの邪魔をしてしまって」

「ううん、こっちこそ。必要以上に警戒したから、ごめんなさい」

 

「あ、あの。デートじゃないんです」

「何だ、違うのかな? 幸せそうだったから、つい勘違いしてしまった、悪い」

 

「ニチョーム、か。噂には聞いていたけど、良い所だね。ちょっと不穏な空気を感じるけど」

 

+

 

 

 

 一応、帰り道を教えてくれたけど、最後まで警戒されていた気がする。

 でもアサリ=サンは優しかったな。あんな経験をして、トラウマになっても仕方が無いのに。それでも優しみを忘れない。何て素晴らしい子だろう。ヤモト=サンが惚れるのも無理は……あ、違いますね、二人は友達ですね、ハイ。今のはやや邪悪な思考でしたね。

 

 

 ああ、でも。あの尊いヤモト=サンが『ニチョーム・ウォー・ビギニング』でボロボロにされるのか。

 ……助けるべきだな、うん。ああ、シマナガシの顔を拝むついでに、フィルギアを丸太で叩いておこう。ついでにショーゴーのアフロを触ってみたいし。

 

 

 

 俺のニンジャ視力が捉えたその姿は赤黒のニンジャ装束! そのメンポには「忍」「殺」の文字! 何か爆弾らしき装置が取り付けられている! そして道路を時速六十キロオーバーで走りながらクローンヤクザと戦っている!

 

 

 

 

 ま、マグロダー!!(ひみつあんごう)

 

 

 マグロ・サンダーボルトじゃねーか!

 

 

 

 

 アガメムノン=サンが雷落としてる? え? ナンデ?

 アマクダリ上層部もマグロ魚群に飲み込まれたのか……?

 いや、アガ=サンどう見ても嫌そうな顔だ。本人的にはまるで気乗りしてないのが分かる。って事はチバ=キュンが飲まれたんだな。つまり。俺は詳しいんだ。

 

 ああ、でもわりと真面目にピンチだ。このままだとあのカラテの化け物スパルタカス=サンまで出陣しかねない。

 

 

 良い所に、何か正体を隠せそうな物が。……マジで? これ使うの?

 

 背中のハーネス。明らかに盲導犬だ。犬種は、多分柴だろう。

 しかし、これは紛れもないニンジャソウルの気配。

 

「ストライダー=サン……?」

『……? 何故、私の名前を知っているのだ?』

 

 

 

 

 ニンジャの……犬! そして、犬にまたがり、上半身にマグロ型スーツを纏ったニンジャ! そのマグロヘッドには「お」「魚」の二文字!

 おお、ゴウランガ! あからさまに狂人なのだ! 訝しげなフジキド=サンの視線が痛い!

 ええい、こうなったらヤバレカバレだ!

 

「流浪の戦士、マグロニンジャ参上! ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン! 01010101ツ……カツオブシです! じゃなくてマグロニンジャです!」

「オヌシは……?」

 

 ニンジャスレイヤー=サン。とんでもなく胡散臭い物を見る様な目なんだけど。ストライダー=サンに乗ってなかったらスレイ対象になる所だったぜ。

 というか、滅茶苦茶に恥ずかしいんだが、これ。

 

『さて、ニンジャスレイヤーさん。走らねば爆発するのだったな、任せろ。亜音速までなら走りきる自信が有る。さあ、遠慮せずに乗れ!』

「すまぬ、ストライダーさん!」

 

 アガメムノン=サンの乗っているヘリにエネルギースリケンを投げる。その数、千本。九百五十までは雷によって打ち落とされたが、残り五十がヘリの局所を狙う。

 

 当然、アガメムノン=サンがその程度で死ぬ筈も無い。

 

 

「では、さらば! カラダニキヲツケテネ!」

 

 

 

+

 

 

「ドーモ、スパルタカス=サン。マグロニンジャです」

 

 スパルタカス=サンが静かに構えを取った。恐らくは獅子の構えだ。

 

 これは、俺は古代ローマ真実の一端を目撃しようとしているのではないか?

 

 良いぞ。真実をグワーッ!010101010101010010010100101001010101010101001011001001010010101010101010101010101010101010100001000010010010101001010101010101010010010100100101010101010101010101001001010010100101010101010100101100100101001010101010101010101010101010101010000100001001001010100101010101010101001001010010010101010101010101010100100101001010010101010101010010110010010100101010101010101010101010101010101000010000100100101010010101010101010100100101001001010101

 

 

+

 

 

「起きてくださーい……」

「……ハッ!?」

 

 あれ、どこだここ。古代ローマの深淵は?

 ……夢かよ。

 

 どうやら俺は人の家のベランダで寝てしまったらしい。家がないというのはなんと悲しい事だろう。

 

「悪いな。ベランダ、借りさせて貰ったよ」

 

 悪い事をしてしまった。どうやら、女の子の部屋らしい。男の家じゃなくてよかったよかった。顔を見てみれば、そこには見知った女の子が。

 

「……あれ? 君って……」

 

 ロングスカート、地味めなおさげだ。

 その顔には、見覚えがある。この世界に来たばかりの俺が知っている相手で、女の子と言えば、あの二人しか居ない。そして、彼女の胸はヤモト=サンほど平坦ではなかった。

 

「アサリ=サン?」

「あなたは……ええっと」

「おおっと、ストップ! その名前はうかうか出しちゃダメだ! ええっと、そうだ。名前。カワウソとでも! ダメか! ……ツワ、ああ。じゃあツワン、ツワンで良い」

「ツワンさん?」

「そうだ。俺の事はそう呼べば正解さ」

 

 

 

 

 

 

「あの……少し、話を聞いて貰っても良いですか?」

 

 デート案件……じゃ、なさそうだな。どうしたんだろ。

 

+

 

 

「あの……ツワンさんは、ニンジャなんですか?」

 

「ん、ああ。ちょっと違うが、間違ってはいないな」

「それじゃ、ヤモトさんと同じなんだ……」

「彼女とは全く違う物だけどな。常人にとっては想像もつかない力を持っているのは大して変わらないか。それで?」

 

「私、ヤモトさんの力になりたいんです……だけど、ヤモトさんはニンジャで」

「待った、ヤモト=サンはまさか、自分がニンジャだと告白したのか?」

「はい……教えてくれました」

「怖くないのか?」

 

「ヤモトさんだから……怖くないです」

「ふーん……愛だねぇ」

 

 

「ヤモトさん、他のニンジャと戦って二日間目を覚まさなかったんです。その時は、看病するのに夢中で気にならなかったんだけど……」

 

「ヤモトさんが起きて、話をしている間に、気づいたんです」

 

「私じゃ、どんなに頑張ってもヤモトさんの邪魔にしかならないんだ、って……」

 

「ずっと逢いたかった友達なのに、大切な人なのに。私、全然助けてあげられなくて。これからもヤモトさんは沢山戦うって、それなのに、私はこうやって、大学に通って。普通に、暮らして」

 

「自分だけ、安全な所に居て。それじゃ、ヤモトさんと友達じゃないみたいで……辛い事も楽しい事も、共有したいのに、私じゃ、ヤモトさんの足手まといにしかならなくて」

 

 モータルとニンジャのユウジョウは悲しいものだ。ニンジャは長命で、子を成す事も出来ない。モータルとどんなに共に歩みたいと願った所で、どこかで歪みが現れる。

 けれど、アサリ=サンの嘆く気持ちは、理解できた。尊い想いだ。何年もヤモト=サンを忘れなかった彼女の強さは、本当に輝かしく見える。

 

「ヤモト=サンが聞いたら驚くぞ、それ。それに、色々と反論されるだろうな。アサリ=サンはニンジャなんか関係の無い所で幸せになってくれれば、とか、そういう感じの事をさ」

 

「ありがとうございます、話したら、ちょっと楽になりました」

 

 

「そうだね」

 

 頭の奥を漁ってみた感じ、モータルをニンジャにする方法、という物が浮かんできた様に感じる。

 

「俺は、君をニンジャに出来ると思う。君に戦う力をやれると思う」

 

「だけど、ダメだ。君が戦ったら、きっとヤモト=サンは永遠に自分を責めるだろう。それが、心に致命傷を与えるかもしれない程に」

 

「だから、ダメだ。君は、素敵な人のまま生きていくといい」

「……はい」

 

 暗い顔を見ていると、無性に悲しくなる。

 俺は、彼女を誰か、別の誰かと重ねて見ているのではないだろうか。そう思う程に、彼女は俺の心を動かした。

 

「納得、できないよな」

「……ごめんなさい」

「分かるさ。そして、ヤモト=サンがちょっと羨ましい」

 

「そうだな! こうしよう!」

 

「ヤモト=サンは俺が助ける! アサリ=サンの依頼って形でな、どうだ?」

 

「あなたが、ヤモトさんを助けてくれる?」

「ああ! 勿論だ! 平坦可愛いヤモト=サンを助けられるなら倍点、君の頼みなら更にポイント倍点だ!」

 

「でも……私、お金とかは」

「金じゃない。欲しいのは、君の気持ちだ」

 

「そ、それって」

「ああ、君みたいな素敵な人の頼みだ。報酬はそれだけで良いよ」

 

 小刻みに震えながらも、覚悟を決めた様に目を開く。

 

「わ……私の事は、好きにしてください。だから、ヤモト=サンを」

「……いや、違うからな。そういう最低クズ女だと思わないでくれ。断じて違うんだ。そういう意味じゃない」

 

「任せろ。命に代えても、アサリ=サンの想いを形にして見せる」

 

「じゃあ、そういうのも含めて今から会いに行こうじゃないか!」

「えっ、どうして?」

「決まってる!」

 

 

 

「友達同士が離れ離れで会えなくなるなんて、悲しいからさ!」

 

「そうと決まったら、しっかり掴まっててくれよ!」

 

 

 普通なら疑って然るべきだ。ついこの間危険な目に遭ったばかりの女の子が、こんな唐突で胡散臭い誘いに乗る様な無防備さを見せる事自体が、まず甘過ぎるんだ。

 私が、もしレズのサディストで君を前後する気だったらどうするんだ。そうでなくても、ヤモト=サンへの人質に使う邪悪ニンジャだったらどうするんだ。

 でも、この子は、すっかり私を信じてくれた。こうして抱えていても、全く抵抗しないんだから。

 

 無防備過ぎる。このマッポーの世で、どうしてこうまで純粋培養な女の子に育つのか。沢山怖い思いをしただろうに。

 

 甘い。危なっかしい。でも、でも……

 

 ああ、どうしてこう……こういう子に信じて貰える事が、気持ちいいのか!!

 

+

 

 

「あ、アサリさん?」

「き、来ちゃった。ヤモトさん」

 

「ああ、アサリさんを怒らないでくれよ? 俺が連れ込んだんだ。俺をぶん殴ってくれても構わない」

「それは」

 

 俺を殴りたいのは山々だが、アサリさんの前で暴力を振るいたくないんだろう。やっぱり、ニンジャだろうがユウジョウは有るという事だ。

 

「何か、力になれないかな……私じゃ、ヤモトさんの助けには、なれない?」

「そ、そんな事無いよ。アサリさんが生きていてくれるだけで、アタイは、それだけで十分に救われた気分になれるから」

 

「こんなに近くに居るのに、距離を詰めないでどうする? ほら、そこのニンジャも何とか言ってやってくださいよ」

 

「ドーモ、ツワンです」

「どうも、ネザークイーンです……アータ、何?」

「何って、何だ?」

 

「いーや、何でも……変な事聞いちゃったわね。で、ヤモトちゃんのお友達を連れ込んできて、一体何をしでかすつもりよ」

「例えば、だ」

 

「愛し合う二人がすれ違ったり、その仲を引き裂かれるのは物語じゃよくあるが、当事者や周りにとっちゃ不愉快極まるってワケだ。分かるよな、あんたなら」

「つまり、アータは、二人を会わせる為だけに……女の子一人抱えて、夜中のニチョームに来たって事?」

「そうだ。いや、だけ、なんて表現は止めてくれ。あの二人がどれほど互いを想ってるか、それくらい分かってるだろ?」

 

 ちょっっとばかり監視は有ったが、気付かれる様な失態は犯さなかった。

 

 アサリ=サンが顔を赤くしてこっちを睨んだ気がした。

 いや、恋人って意味じゃないから、間違えないでくれよ。

 

「まあ、そうね。あんな顔見せられたら、ね」

「ああ、だろ? こりゃ、年上として、ちょっと特殊な性癖持ちとしても、助けてやりたくなるじゃねえか。なあ?」

 

 涙ぐんでいるゲイマイコに向けて親指を立てる。あ、返ってきた。どうもああいうのに弱いらしい。

 

「とはいえ、自治権を失ったニチョームがこのままで居られる筈も無いけどな。俺としては、アサリ=サンを無闇にこちらへ連れてくるのは余りにも危険だと思ってる」

 

「だから、ほら。一度、ニチョームでの色々が片づくまで、二人は会えなくなるから……だから、それまでは手紙で我慢して貰わなきゃいけないから、さ」

 

 

「へえ……アータ、そういう趣味なんだ」

「ああ、まあな」

 

 俺がユリ・クランとフ・クランのマスターである事は理解してくれた様だ。ちなみにグランドマスターではない。

 

+

 

 

 

「おい!」

 

 

「俺はニンジャだぞ」

 

 どうしよう、全然強いと思えないし、ヤモト=サンの殺気に比べたらサンシタ未満のモータルにしか見えない。

 見た感じカラテも微妙そうだし、デスノボリ重点な三倍族か、古代ローマカラテのどちらかなのか?

 

 投げられたスリケンを、人差し指で触れた。そうしたら、スリケンは簡単に砕けて、その粉はゴミになるので、片手で握り込んでゴミ箱へ捨てた。

 

 

 相変わらず凄い廃すぺっくぼでー。オメガ=サンやユカノ=サンの何かを思い出す動き。カラテが溢れんばかりに溜まってるぞ。身体の使い方が完璧に理解できてる。

 

「イヤーッ!」

「ぐ、ああっ!」

 

 「グワーッ!」じゃねえのかよ! と残念に思いながら一発殴ってみる。障子戸めいて薄いサンシタの腹部が、ちょっと殴っただけで大穴開いて風通しが良くなった。

 

「古代ローマカラテを拾得した俺に、技を一つも使わせないとは……何者なんだ貴様は!」

「やっぱ古代ローマカラテか」

 

「所詮、五つの構えを拾得した訳でもないサンシタが調子に乗りおって、貴様の様なゴミが伝統あるカラテを汚すのだ。オヒガンでお前の同類が待っているぞ。後で来るスパルタカス=サンにドゲザする練習をしておくべきだな」

 

「ま、待て、俺の後ろにはアマクダリが」「イヤーッ!」「ぐわっ!」「イヤーッ!」「あばっ! や、やめろ。きさ」「イヤーッ!」「ごぼっ」「イヤーッ!」「あががっ!!! さよ」「イヤーッ!」「なっ!?」

 

 

 爆発四散した。思わずサヨナラキャンセルしてしまった。ああいうサンシタが古代ローマカラテの価値を下げるんだ。

 

 ……つーか、ハラキリ者のサンシタに爆発四散されたお陰で、アパート使えなくなったし……

 

 こんなのって無いぞ……ネオサイタマいい加減にしろよ……

 

 

 俺にはカツ・ワンソーの記憶など無い。有るのは、ニュービーでも理解できる圧倒的カラテだけだ。俺ならアマクダリもザイバツも二日あれば蹂躙できるという確信が有る。

 でも、寝る場所がないのはどうしようもない。ついでに言えば、風呂にも入りたい……そうだ、セントーに行こう。

 

 

 

+

 

 

 来ました、セントー。うん、普通だ。想像以上に普通だった。

 

 「男」「女」「仏」の三つ。……三つ? まあいいや。

 

 

 眉毛が無い代わりに、茨のタトゥーを刻んである。額を大きく出して前髪を揃えた黒のボブカットで、小柄の女の子だ。

 

 微妙に楽しそうな顔で、周りを見ている。

 第六感が、ニンジャである事を察知した。というか、俺は彼女の外見を捉えて、それがエーリアス・ディクタスであると即座に理解していた。

 

 女湯派だとは聞いていたが、本当に会うとは。俺にも予想出来なかった。

 

「ドーモ、隣、良いですか?」

「あ……ああ、良いぜ。どうぞ」

 

 エーリアス=サンが少し横へ寄った。目を逸らしていて、あまり顔を合わせたがらない。女湯に入るのは良くて、至近距離で見るのは駄目なのか。

 中身男だと分かっていても、このかわいさは仕方が無い。悪さしたくなる。

 

「良い湯ですね」

「あ、ああ。そうだな」

「ネオサイタマにこんなセントーが有るとは思いませんでしたよ。最近こっちに来たばっかりでね」

 

「そうか。俺もネオサイタマに来てからは日が浅くてさ」

「おお、そうですか。となると仲間だな。いや、結構治安悪くてコワイな町だよな、此処はさ。セントーに来るまでで何度かヨタモノに襲われたし」

 

「それは……大丈夫だったのか? 幾らネオサイタマでも、表通りを通ってれば、真っ昼間からそんな事にはならねえと思うぜ?」

「大丈夫だった。何、カラテには自信有りでね。後、ちょっと裏通りを通ったのが不味かったらしいな」

「そっか。なら良いけど、今後は危ないから止めといた方が良いぜ。出来るだけ安全そうな場所を選ばないと、危険だからな」

 

「ありがと、初対面の怪しい女を心配してくれるなんて、お前さんは良いニンジャなんだな」

「お、おお。まあな…………ん?」

 

 さりげなくニンジャという単語を混ぜてみると、エーリアス=サンが目に見えて疑問を浮かべた。

 

「……すると、あんたも?」

「ああ、ニンジャさ。ちなみにセントーの資金もヨタモノから徴収したんだ。ニンジャであっても生活をしていく為には資金が居る。すまんな、本当にすまん、って奴だ」

 

「ちなみに幾らくらい入ってたんだ?」

「それなら、ちょっと耳貸してくれ」

 

「……円さっ」

「お、おぅ」

 

「……わ、わりと、多いんだな」

「ああいう連中は意外と金を持ってると知れて良かったよ」

 

 やばい、これ楽しいぞ。ウブで弱気な可愛い女の子、しかも中身男でニンジャだ。

 

「それで、だ。俺は今、泊まる所が無くてな。何かネオサイタマに良い心当たりは無いか? この際退廃ホテルでも構わんから、頼むよ。何か紹介してくれないか」

 

「初対面の相手に頼む事じゃないのも分かってるが。頼っても良さそうなニンジャはお前さん以外見かけなくて」

 

「収入は?」

「ニンジャハントでも始めるさ。邪悪ニンジャにハック&スラッシュを成功させれば、キンボシで収入もV字回復するだろうし……天狗にも会えるだろうし」

「は?」

 

「お前サンの家に住まわせて貰えると嬉しいな。何でもするぜ。何でも」

「何でも……」

 

 あ、胸見られた。ああ、何でも、な。

 

「何だ? 気にしてるのか。そいつは残念だな。ニンジャの身体はそう簡単に成長しないし老化もしないものさ」

 

「いや、揉めばニンジャでも大きくなる。古事記にもそう書いてある……様な」

 

「い、いや。俺はそういうの良いから、ち、違うぜ。そんな」

「まあまあ、遠慮するなよ」

 

 ふにふにヤッター! やわらかヤッター!

 

 




 『没にした理由』
 ちょっとあからさま過ぎたので没に。ちなみに原作知識持ちオリ主というより、カツ・ワンソーのソウルの断片がザ・ヴァーティゴ=サンから流れ込んだ知識を取り込んで人間の形になったもの。その為に彼女だけ忍殺的な話し方をする。このまま続くと新生ザイバツとイクサする予定だった。

 ヘイスト・ジツを使う女リアル・ニンジャが冬眠から目覚めてニンジャキラーのセンセイになるSSは今書いているので、そっちは普通に投稿する予定。ニンジャキラーはセンセイさえいれば輝けるんだからぁ……

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