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「私も、入れてくれないか?」
「赤司先輩!全然良いぜ!」
「ほら、お前も来い」
「命令しないで下さい」
自分を追い抜きスタスタとグラウンドへ歩く穂乃緒に、シオンは苦笑しながらも後を追った。
太陽の光が差すグラウンドは、天然のフライパンのように熱く、何を思ったのかシオンは地面を触る。
「水分補給はしたのか?」
「あー、忘れてた!」
「貴方達、熱中症になって倒れても放っておきますよ」
紅葉の言葉に穂乃緒も呆れ、マネージャーの秋はビデオを撮りながら練習に見入っていたのか急いでドリンクの用意を始めた。
「ごめんね!マネージャーの仕事なのに...」
「構いません」
「マネージャーが1人だと大変だろう?あの男連中が、女性に対しての気遣いが足りないんだ。マネージャーが2人でもいれば、役割分担もできるだろうに」
そう言ってシオンが溜息をつくと、穂乃緒は、普通の人なら気が付かないような表情の変化ではあったものの、2人共目を丸くしていた。
「何だ?」
「いえ、貴方も溜息を吐くんですね」
「お前達は私のことを何だと...」
「独裁政権の、完璧主義の王様でしょう?自分1人いれば何でも出来るなんて、馬鹿げた話です。人は、1人では生きていけないのに」
「...私も、助けられて生きている。それは、理解しているつもりだ。だが、有難うな」
ドリンクの準備を終え立ち上がると、シオンは穂乃緒の頭にポンと手を置いて、半分ドリンクを持ってグラウンドに向かった。
穂乃緒も、もう半分のドリンクを持って立ち上がる。
残された秋は、差し込む光の中に入り、熱に包まれる2人の後ろ姿を、微笑ましそうに眺めてから追いかけた。
「あ!有難うな!」
「ごめん、言ってくれれば手伝ったのに」
ドリンクを持って歩く2人に気が付いた、円堂のお礼と半田の気遣いを素直に受け取りドリンクを渡す。
「うわっ、お前等こんなの持って歩いてたのか」
「えぇ」
「女子よりも男子の方が貧者では、話にならないぞ」
さも当然のように流す穂乃緒と、呆れながら返すシオン。
円堂と半田が青ざめるのを見て待っていると、2人の方から申し出があった。
「少し、手伝って下さい...」
シオンは、満足したのか口に弧を描き頷く。
「笑ったか?」
少し穂乃緒の口が笑った気がしてそう尋ねると、無言で首を横に振った。
そうかと返し、シオンは近くにいた方、半田の腕から2つに分かれたボトル入れの1つを取り出す。
穂乃緒も、円堂の腕から半分ボトルを預かった。
「早くしないと、皆待ってるぜ」
「あぁ」
水の滴るボトルは、いつもよりキラキラと輝いて見えた。