シオン宅を出た青木は、鯛焼きを買いに商店街へ来ていた。
「すみません、小豆鯛焼き1個下さい」
「あら穂乃緒ちゃん、昨日は珍しく来てなかったから心配したのよ。...はい!小豆鯛焼き1個」
他愛ない会話をして勘定を済ませ、暖簾をくぐると、そこには見知った顔があった。
「やぁ」
「何故貴方方がここにおられるのですか...」
「何って、俺達いつ戻れるか分からないから、こいつの家に泊めてもらうから、買出しに」
遭遇したのは、於野兄妹とシオン。
夕飯の買出しに商店街に来ていたという彼等は、偶々鯛焼きのことで穂乃緒のことを思い出し寄ってみようという話になったらしい。
「すみません、クリーム鯛焼き1個下さいな」
「あら、あなた赤司さんのところの。転校して一人暮らしを始めたようだけれど、大丈夫?」
「えぇ、思いの外不自由なく過ごせています」
やはり中3は違うなぁとまじまじとシオンを見ている於野兄妹に、鯛焼き屋のおばちゃんはとうとう吹き出した。
「何やってるんですか、貴方達」
「だって...」
「そんなにまじまじと見られては、お店の方が困ってしまうでしょう」
青木が諭すと、彼等は慌ててお店の人に謝った。
お店の人は、可愛いもの見させてもらったよと笑っていた。
暫くして店を出ると、彼等は雷門の近くを通り練習しているサッカー部を見つけた。
ここには生徒である青木とシオンがいるため、親戚の子だから見せてくれと頼み込み、まだ弱小のサッカー部を少し見ていくことになった。
「3年の赤司だ、少し良いか?」
「さ、3年?!あ!サッカー部入ってくれるのか?!」
「いや、他校の親戚が見学したいと言っていてね。少し、練習を見せてくれないか?校庭なら借りられるように交渉してみよう」
「え?!良いのか?!」
「あぁ」
外へ出てコートを使っているテニス部に、於野兄妹と青木も含め交渉に行くと、彼等は驚くべき事実を目にする。
「綺麗な人...」
「隣にいる人は、赤司様?!」
一気に囲まれた青木は、慣れなさそうにしながらも交渉しているところを見ると、どうやら根は優しいらしい。
一方シオンは、慣れたように対応しそれとなく交渉しているところを見ると、こういうことはよくあるらしい。
「大丈夫だそうだ」
暫くして戻ってきたシオンは先と寸分も変わらない表情でいて、青木はぐったりとしていた。
「青木さん、大丈夫ですか?」
「えぇ、それにしても彼女只者じゃないわ」
「あんたも十分只者じゃない、因みに俺は只者だ」
於野兄妹が青木を労っている時、サッカー部一同も心の中で青木に合掌した。