昼食をとるため、初音の家に招かれた青木、於野兄妹は通されたダイニングで昼食を待っていた。
「お腹減ったね〜」
「だな〜」
「お待たせ。出来たよ」
初音は両手に皿を持って、紅葉たちの目の前にひとつずつ置いた。
「おお〜っ‼︎」
「わぁぁあ! チャーハンだぁ!」
紅葉と楓の目がキラキラと輝く。皿に盛られたパラパラのご飯から、ほんのりと食欲をそそるニンニクの香りがする。
初音は子供のように目を輝かせている2人を横目で見て、青木にも同じものを出す。
「はい。味は保証しないけど」
「「いただきますっ‼︎」」
「……いただきます」
手を合わせたのを皮切りにしたように、チャーハンにがっつく紅葉と楓。
「「美味しいっっ‼︎」」
一方青木は、スプーンで一口すくってから、恐る恐る口に運ぶ。
その様子に気付いた初音が彼女に声をかけた。
「どうしたんだ?」
「いえ……あまり、こういうのを食べたことがないので……」
「ふーん」
「え⁉︎ お姉さん食べたことないの⁉︎ もったいないよ! 人生5割損してるよ!」
「……てことは、私は人生の半分を損しているんですね」
紅葉の勢いのいい発言に、青木は冷静なツッコミを返す。
それから青木はゆっくりとチャーハンを口に含んだ。
「! ……美味しい」
「でしょ? よかったぁ!」
「作ったのは私だけどな」
「まあまあ、細かいことはいいじゃあないか! ふふっ、こうやって一つの食卓を囲むって、こんなに楽しいんだねぇ」
紅葉はふわりと優しい笑みを浮かべ、再びチャーハンを口にする。
青木は彼女を横目に見ながら、チャーハンを再び口に運んだ。
「「ごちそうさまでしたー‼︎」」
「……ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
あの後、紅葉と楓は5回ほどおかわりをし、青木の分もつまみ食いする始末だった。
青木も青木でたい焼き以外の食べ物に慣れていないらしく、ほんの少ししか食べなかった。
食器を片付けながら、初音は紅葉たちに問いかける。
「で、これからどうするんだ?」
「ん?」
「だから、どうやって元の時代に帰るんだって聞いてるんだよ」
「あー……そうだな。忘れてた」
「美味しいご飯食べたら忘れちゃってたね!」
ハッハッハッ! と豪快に笑う於野兄妹に、青木と初音は冷たい視線を送る。
そして、同時に心の中でツッコんだ。
こいつらバカか、と。
「まあ、昨日みたいに12時間後に帰れるんじゃね?」
「それで帰れなかったらどーすんだよ」
「その時はその時だよ! ね、楓」
「ああ」
なんてテキトーな兄妹なんだ……。青木と初音は、再び心の中で同時にツッコんだ。二人の心がシンクロした瞬間だった。
呆れた青木が、立ち上がる。
「貴方方がどうなろうが、私の知ったことではありません。失礼させていただきます」
「何? アンタ帰るの?」
「たい焼きを買いに行きます。日課なんです」
青木は初音の問いに振り返ることなく答え、ドアノブを回してさっさと出ていった。