「ふむ、我は何故森に居るのだろうか?」
そう呟く奇妙な忍び服を着た男は顎を右手で撫でる。
奇妙というのは忍び服なのに派手さが有り、頭には鳳凰のような鶏冠(とさか)と嘴(くちばし)の被り物を着けているのだ。
「我は、そう人鳥(ぺんぎん)から四季崎季々の変体刀十二本の一本、毒刀<鍍(めっき)>を川獺(かわうそ)の腕で受け取り、そして・・・死んだ。」
男は冷静に、静かに、自身に起こった事を淡々と語る。まさに自身の死に興味が無いような言い草でだ。
「・・・ふむ、まぁ幽霊として化けたのかは分からぬが足は二本付いている、脈も有る、人としての温かさもある。仮として我は生きているのかもしれぬが・・・理解できない所も有る。何故左腕は元の腕になっているのか・・・」
男は止まらず語り続けるが、それを止めて数歩歩く。
「とにかく、まずココを確認し。安全な場を手に入れなければ・・・」
そう言いながら男は歩きを止めると歩いてきた方向に身体を向け、視線を有る方向に向け気配を殺しつつ忍の武具、クナイを懐から取り出し、逆手持ちにし、構える。
「さて、先程から覗いているのは分かっている。素直に顔を現したらどうだ?」
「・・・あら、ばれてたの?」
どこからか女性の声が現れ、男の目の前に亀裂ができ、一人の女性の上半身が現れる。
「始め・・・ではないが、独り言を言っている時に奇妙な気配を感じ取っただけだ」
「あらそう、気配を消すのは得意分野なんだけど」
「それを読み取れたのは忍だからだと思う」
「そう、職業のせいね。まぁいいわ」
女性は扇子を取り出し、自分を扇ぎながら「アナタの名前は?」と質問をする。
「その問いは、まずお主から言うものではないか?」
「あら、こういうのは男性がエスコートするものよ」
「あいにく、我はそのような志は無い。なので、そちらから言っていただきたい」
「そう残念、私は八雲(やくも)紫(ゆかり)。アナタは?」
「我か?我は真庭(まにわ)鳳凰(ほうおう)、里の者から神の鳳凰と呼ばれる忍の頭領の一角だ」
男(鳳凰)は女性(紫)にそう答えを返した。