セプテントリオン教育譚   作:アスプルンド

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長かった……。
だが、書けたらすぐさま投稿する。
このスタンスは崩さないよう努力したいですね。
本作では原作主人公の名前はアニメの久世響希を採用します。
マンガとパチンコでの名前もいいんですが
ダイスの女神がそうしろと……


破裂の日曜日Ⅲ

 

 タンプルウィードというものを知っているだろうか?

アフリカとユーラシアに分布していて、乾燥地や塩性地に生えることが多いヒユ科の植物だ。直訳すると「回転草」になり、西部劇の対決の場面で対面する二人の横を通りすぎていくのが印象的かな?

 

 さて、何故いきなりその植物の話をするのかというと、

 

 そのタンプルウィードたち(?)に追われているからだ。

 

「ヒビキ!急げ!」

 

「待って!新田さんが、まだ!」

 

「大、丈夫だから……早く……」

 

「さあ、頑張れ少年。もう、ちょいだ!」

 

 大丈夫と言いながらも片脚を引きずる女の子を成人男性と一緒に肩を貸して進んでいく。その後ろには真っ赤なタンプルウィード。

 

 今日も普通だったはずだ。

 ただ、模試を受けて、友人と話して、帰って勉強して、次の日の準備をする。

 それだけの日曜日だったはずなのに……。

 

 自分が死ぬとアプリで予言されてから一気に日常が崩れた。

 

 死にかけて、戦って、勝って、何も情報は得られなくて。目的地を定めて向かっていたらあのタンプルウィード。

 近くにいた集団をタンプルウィードが横切ったらそばの建物が崩れて、その余波で散り散りになって逃げて、戦って治療してもらって、施設から逃げて、タンプルウィードから逃げる。

 そんな異常が現状だった。

 

大きめの階段が見える、あと少し!

 

「ヒビキ!」

 

 新田さんの肩をダイチに貸して自分も上がる。

 しばらくの間タンプルウィードは一番下の段差に軽くコツコツと当たり続けてからそれぞれ別々の場所に転がっていった。

 

 緊張で、呼吸が止まっていたのか息を吸うとそのまま意識が遠退きそうだった。

 しばらく階段の踊り場で身動きがとれなかったがダイチが叫びだす。

 

「なんだよ……なんなんだよ一体!

 意味分かんねーよ!地震とか悪魔とか監禁とかあの丸いのとか!

どうなってんだよ!!」

 

「し、シジマ君。おち、落ち着いて……。」

 

「新田さんも気になるでしょ!なんで、なんだったってこんな――」

 

「はーい。少年。深呼吸してから、周りを見ようか」

 

「ハァ!?何言ってんだよオッサン!たち――」

 

「ダイチ、落ち着こう」

 

 ダイチの肩をつかんで正面から静かに諭す。

 最初、少し乱暴に身をよじってたけどだんだん目に理性を含み始めた。

 

「わ、悪い。ヒビキ、新田さん。あと、オッサン……」

 

「んー。一応、秋江譲(アキエユズル)って名前があるんだけどねー」

 

「あっ、えっとじゃあ、アキエさん」

 

「あ、ジョーって読んで」

 

「ん?えっと……ハイ分かりました」

 

 適当な人なのかも知れない。そうあたりをつけるが先ほどすごい剣幕で逃げろ!と怒鳴っていたから見た目通りの人では無いだろう。

 

「あの……ジョー、さん?」

 

「お、いいね。すぐにノれる子、オレは好きよ。」

 

「えっと……あの」

 

「ジョーサン?」

 

「おっと、怖い顔しないでよ。しょうじきに言っただけなんだからさ。少年」

 

「さっきから少年、少年って。

俺には志島大地(シジマダイチ)って名前があんの!」

 

「ん?おっと、悪い悪い。そおいや名前聞いてなかったね」

 

「久世響希(クゼヒビキ)です」

 

「新田維緒(ニッタイオ)です……」

 

「ん。りょーかい」

 

 そう言ってウンウンと首を縦にふる。

 やっぱり適当な人なのかも。

 

「ジョーさん。そろそろ説明してもらえませんか?」

 

「んー?何をー?」

 

「あのタンプルウィードから逃げろって言った理由です」

 

「タンプルウィード?あっ、赤タイヤのことね。

君、切り替えはっやいねー」

 

「あの、お願いします」

 

「新田シャン⁉わざわざ頭下げなくても」

 

「まあまあ、教えるからさぁ。あまりそーいうのはなしね。カタっ苦しいの好きじゃないし」

 

 腕ごと手を目の前で振り、どっこいしょと親父臭い発言をして胡座をかく。それにならって自分たちも座る。

 

「逃げてた理由だっけ?簡単だよ。危険だからさ」

 

「それはは知ってます。危険というのは建物を壊すからですか?」

 

「建物ぉ?ちがうちがう。アイツらがやるのはもっとえげつないコト。というかその建物壊すってのは初耳なんだけど」

 

「え…違うんですか?

それにもっとえげつないって…」

 

「うん。アイツら、恐らくだけど人の連絡手段を壊してるみたいなんだ」

 

「ちょ!?ちょっと待てよ!一気に話が飛んだぞ!?」

 

 まあ落ち着きなって元気いいなぁと言いながらハンチングを被り直すジョー。

 ふぅと一息ついて真剣な表情で再び話始めた。

 

「八王子のほうだったかな?自衛隊がいたでしょ。

話聞こうと思って近くに行ったらさ、いたんだよね。

通信機背負ってる人間のすぐそばに赤タイヤが。

最初はなんだあれくらいの疑問しかわかなかったけどさ、赤タイヤが通信手でいいのかな?まあその側を通りすぎたわけ。そしたら急に通信手が焦りはじめてさ、言ったんだよね。故障ですって」

 

 一息で話して間を空けるジョーに注目する。

見れば新田さんも、ダイチも同じ様子だ。

 

「んで、話聞けそうにないなと思って離れたんだけど近くで女子高生も騒いでてさ。ブラックアウトとかありえなーい!みたいなこと言ってたんだよね。そしたらまわりの人たち次々同じようなコト言い始めたんだよね。

やれ携帯が使えない、電源がつかないってさ」

 

 その話を聞いて自分は体温が一気に下がった気がした。

 自分たちが今生き残っているのは携帯の『悪魔召喚アプリ』のおかげだ。あくまでも携帯アプリのため充電が切れたりしたらアプリも使えなくなる。そもそも携帯が壊れたりしたらこの状況だ。まず直せない。現状での、携帯電話の有用性が改めて認識できた。携帯電話は誰であろうと、軽々しく渡せない。

 

「あのージョーさん?危険ってのは分かったけど、オレたちを連れて逃げた理由は?」

 

「危険だからもモチロン理由だけど、雷門のまえで携帯前に出してなんかよく分からないもの出して変なの倒してたじゃん?

今の状況的に君らの近くは安全かなーってのと、携帯電話が要っぽかったからかな?」

 

 やっぱりこの人ただ間が抜けてる訳じゃない。冷静に状況を判断して自分たちに恩を売ろうとしている!

もしかしたら国会議事堂に入って行くところを見ていたかもしれない!

 でも、自分の身を守るので精一杯なのにジョーさんもというのは……うん、無理だ。ここは断るのが正解だけど、どうやって断ろう……。あ、新田さんも心なし渋い顔してる。ダイチは逃げようとしてる!逃がさないよという意味も込めて制服の裾を掴んでおく。

 

離してくれヒビキ!オレは逃げる!

こうなったら一蓮托生だよダイチ!

ヤメロ!巻き込まれたくナイ!!

 

などとアイコンタクトで話していると……

 

『見 ツ ケ タ ゾ !』

 

 大声でこちらに吠えている二足歩行の犬がいた。

どこをどう駆けずり回ったのか着ている鎧は傷だらけで毛並みも薄汚れている。後ろに数体の悪魔がついてるが、同じように薄汚れているかフラフラと疲弊しているようだった。

 

『ウロウロ、ウロウロ、シヤガッテ!

契約解除シタケリャ、チャント戦エ!』

 

と言ってから膝を着きそうになるも持ちこたえる犬。

大分疲れているみたいだ。

 

「ね、ねぇジョーさん?ひょっとしてお知り合いですか?」

 

「いや?急に携帯から出て来て戦えとか言ってきたから君らに会うまで逃げてたんだよね。」

 

「え?でも、さっき私たちを雷門で見たって」

 

「逃げてる道中で雷門近くで君らっぽい三人を見かけたからここまで引っ張って来たわけ」

 

「根拠は…」

 

「ないよ?でも、違ってたらまた探せばいいしね」

 

「ジョーさん、死に顔サイトに登録は…?」

 

「あー、そういえばやったかも。ニカイアだっけ?」

 

………………結論。

やっぱ、適当な人だこの人!

 

「て、撤退!」

「逃げよう!新田さん!」

「え!久世くん!!?」

「少年。そこはお姫様抱っこでしょう。

おんぶなんてうぶだねー♪」

 

やかましい!と叫びながら自分たちはその場から逃げだした。

 

『戦エエエエエェェェ!!』

 

結局、袋小路に追い込まれ自分たちが悪魔と戦うことになった。悪魔たちは疲れていたのだろう。動きが鈍くすぐに倒せた。

 

「よし!ボクも戦えるようになったしレインボー行ってみよー」

 

「ち、ちょっとや、休ませてください……。」

「ヒビキ?ヒビキィイイイイイイイ!!」

 

暗くなる視界の中、遠くでダイチの叫び声と新田さんのごめんなさいがよく聞こえた。

 

 

……揺られている。

誰かに背負われているようだ。

それにしても随分熱いな……。

目を開けると

「おっと少年。目が覚めた?

悪いけど今は動かないでいてくれると助かる……!」

 

タンプルウィードを連れた、白い女の子が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

情報が集まり始めた。しかし一向に状況は好転しない。

というより具体的な解決策がないのだ。

確認された赤い物体がセプテントリオン関係の尖兵なのは間違いない。目的は情報網の形成を防ぐこと、糧食を潰すことだと推測する。悪魔の力であれば あの物体を破壊出来ることは分かった。しかしながら、数が多すぎる。現場に出ている隊員では雀の涙にしかならず、既に本部要員も駆り出しているが、足りていない。更に、まともに相手をしようとしないのだ。糧食を乗せたトラックや、施設に突っ込む特性は把握できた。その特性を利用しての囮作戦も決行している。しかし糧食に突っ込む姿勢は攻撃を受けても衰えず、一体に対して隊員三人で対応している現状では囲まれてしまえば簡単に無力化されてしまう。

 要は人海戦術に対して手数が圧倒的に少ない。単純故に厄介な事態に陥っていた。

そんな時だった。あの赤い物体が此方にも、糧食にも目もくれず一ヶ所に集まり始めた。何をしたいのか分からないがこれは好機だと現場隊員、全員に通達。場所は青山霊園のほうだ。私自身も同行し、現場に急行するとあの赤い物体たちはぐじゅぐじゅと不快な音をさせながら混ざり合わさっていた。攻撃を仕掛けようとする隊員を止める。迂闊に手を出す訳にはいかない。まだ此方に向かっている物体もあるのだ。可能な限り集め、一網打尽にするのが好ましい。そうして集結が終わったのを見計らって、一斉に攻撃を開始した。

 集結し、大きくなった体積を削り、抉り、凍らせ砕く。

 少しずつだが、小さくなっていく物体は事態の終結を予感させた。あと数撃で、この作業も終わると気を緩めた途端、

 

轟音が場を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦名、置き手紙、ショート、追いかけっこ、囲め囲め、上げて落とす。

 

 無事に完遂。これより現地人の掃討に移行。

 残存する子機は一部を除き、溶けてマーキング、あるいは竜脈(・・)に戻ること。

 置き手紙は確認した。

 自身はもうひとつの、確認行動に移る。

 不測事態は全員に共有。

 合言葉は『父さん、大好き』以上。

 

 





書いてて少し「うわぁ……」ってなりましたけどまあ、これくらいやりそうかなってうちのセプテントリオンは。

教育を受けた御披露目ですからね。
そりゃ張り切ります。

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