プロローグのようなもので話はあまり進みません。
評価していただいた方、お気に入り登録してくださったからには感謝で、頭が上がりません。
では本編です。
破裂の日曜日Ⅰ
「いいかい、私の言葉ではなく私の前にそれを言ったヒトがいる。それを考えながら聞いてね。」
「――、――――――」
「戦争というのは相手の嫌がることをしたものが勝つ、最初にやるべきは通信網や交通の閉鎖だよ。そのあとで兵糧、要は食べ物を立てばいいんだ。難しい子はいきなり食べていた食事を引かれたら悲しいくらいに今は考えていてね。」
「―――――――――」
「はいはい、―――ほめてくれるのはうれしいけどいきなり浮遊しないでね」
ザッ――――ザザッ――――――――
「相手が何かしてくる前に無効化する、一番の理想的な形はこれだね。これを行えればこっちの損害はゼロ。次の行動を即座に行える。」
「そうしたら早く父さんのとこに帰れる」
「ん~~、ま、まぁ確かに合ってるけどそれだけを念頭に置いて動いたりはしないでね。きっと足元救われちゃうから。」
「――――――」
「そればかり考えてると、というか一つのことだけ考えて動くと視野が狭くなってしまうからね。全てをとは言わないけど視野を可能な限り広く持つことを心がけよう。」
ザッ――ザッ――――ザザッ――――ジ――――
「需要と供給のバランスも大事だね。要は欲しがる人と与える人がどちらも納得することだけど、どちらかのみが得をしている状況、利益を独占する行為は今の世界観で良く映ることはない。」
「お父さん――――――――――――」
「確かに前はそう言ったね。でもそれは私たちのような家族や信頼関係が結べている人の間だけなんだ。悲しいことにね。でも君たちが行う戦いでは必ずそういったことをするやからが出てくる。」
「―――――――――――――――」
「ほっておいていいよ。後は勝手に向こうが自滅してくれる。あ、脅威は払わなきゃだめだから、その時だけ彼らに協力してあげなさい。」
ザザザッ――――――ザ――――ザッ―――――ブツッ…
ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン
ポップコーンが破裂するような音が空洞に響いている。
形は習っていたことを思い出していた。父さんの声と「父」という音は耳に心地よい。そんなことを考えながら。
願わくば自分一人にその声をすべて向けてほしいが、できるかどうかを心配しているのを認識する。しかし、いや大丈夫と自分を奮い立たせる。わたしがすべて終わらせてしまえばいいのだと。習ったことをやっていればいいのだと。
父さんは足りないとか、だめっていうかもしれないけど父さんが教えてくれたことなのだ。だから抜かりはないと思考をはしらせる。早く帰って父さんによくできましたと言ってほしい。ぜんぶできたら自分一人に父さんは声をかけてくれる。
生みの親が何か言ってたけどどうでもいい。父さんがわたしを同行者として選んでくれたのだから。わたしは父さんのお願いを聞いて行動しているんだ、とそこまで考え頭を冷やす。いまはお仕事の時間だ。思考にふけってばかりではいけない。もっともっと吸い取って数を増やしてお仕事を効率よく進めないと。
ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン
空洞の音が再開する。音の中心にはカラーコーンを逆さまにした形状でカラフルな姿の異形。周囲にはタイヤのような形状の赤い異形に少数ながら音源と同じような姿の異形が佇んでいる。違いは明確であり音源には煮えた粘液の塊のようなものがあるが、周囲の異形にはない。
周囲の異形は全員が身を震わせている。その姿はイベントに対して待ちきれないと興奮を抑えられない子どものようだった。
もう待てない、早くして、まだ待つの?
そう言っているのが聞こえるようだった。
こんなものかな?中心の異形がそう思考すると周囲の異形がピタリと動くのをやめた。
じゃあみんな好きに動いて。私はここでもう少し数を増やすから。
その思考をはしらせると同時に周囲の異形は出口に向かって一斉に動き始める。密集して動いているためか一個の生き物のようにも見えた。
異形が全員出ていき、一度嘆息して音が再開する。
これが終わったらじゅようときょうきゅうか。父さんは何が好きなんだろ?
そんな余裕のある考えをしながら音は続く。
ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン
ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン
…………
「はぁ、まだ着かないのか…」
「まだだな…おい、警戒怠んなよ」
「わーかってるって」
ジープに乗って2人の男がある場所に向かっていた。
日本一の霊峰、富士山。
その場所は国内のみならず海外にも知られる日本の名所のひとつであり、パワースポットとしても有名な場所である。しかしこの2人の認識上では富士山は名所でもパワースポットでもない。日本の霊的結界を支える楔の一つが埋め込まれている重要拠点といった認識である。
なぜそのような認識になるのかというとこの二人が所属するJ'ps(ジプス)という組織に起因する。
J'ps(ジプス)は気象庁・指定磁気調査部といった組織であり、は日本において自衛隊とは別に作られた国防を担っている機関である。その活動内容は局地災害霊障といったものに対処する、いわゆる現代の祓い屋のようなことを国の組織単位で行っている。そしてこの二人は現代における祓い屋の実行部隊である。しかしこれから行おうとしていることは普通の調査員の真似事だ。
…局長も敏感というか神経質すぎんだよなぁ
一人の職員は口には出さないが内心で愚痴をこぼしていた。
そもそも富士山は由緒正しき霊峰であり、古くから何十にも結界を張っている。それゆえに邪気や妖魔の類が自然発生することはおろか周辺1キロに近づくことさえできはしない。地震や噴火など周辺の環境が急激に変化しない限りは結界にほころびが出ることはない。
確かに龍脈の楔やターミナルといった重要施設はある。それらの施設に異常が確認されたというならすぐさま小隊編成をし技術班や補給班を伴って事態の収束にかかる。
だが、今回の件は施設の異常ではなく運用している龍脈がわずかに外に漏れたかもしれないといった不確かな情報に基づいた調査である。
一見大事に思えるかもしれないが龍脈の管理・確認は専任の班で24時間体勢で実行しており、今回の問題の計測は一瞬。かつ漏れ出たとしても周囲に影響はなく、竜脈誤差の範囲でしかないといった詳細を伝えられれば確認の必要性を問いたくなる。
しかし局長の指示は「行け」の一点張り、かつ周辺の大まかな調査だけで詳細な調査は後日別の班が行うと言われれてしまえば今回の調査がただの小間使いであるといやでもわかってしまいやる気がそがれる。
そんな心持で今回の調査に赴いているわけだが、やはりというか結界内に入っても何も起こらない。異常らしきものも見つからないで完全にだれてきているのだ。そんな中で視界の端に何かが映った。
「おい、今のは何だ」
「なんだ?異常か?」
一人が確認したその場所を凝視する。念のために車を止め周囲の確認を行うが特にこれといった異常は確認できなかった。
「なにもない…か?」
「気のせいじゃないはずだ」
もう一度周囲を警戒して見るが特に変わったところはない。
「…お前、何を見たんだよ」
「…よくわからないが、色だ。
森の中で見ることはない、真っ赤な色だ。」
異常が確認できなかったため二人は車のエンジンを起動し目的地に向かう。
その後ろ、二人が立ち去った後の道では赤の異形とカラフルな異形が様子を窺うようにたたずんでいたが、二人が気づかないことに満足したのか再び動き始めた。
しかしその行動は先の洞窟の中のように一点を目指すものではなく、だんだんと四方に拡散していく。異形が立ち去った後、後方の道の先では爆発音が響いていた。
目的地に着いた異形たちは静かに待つ。
自分の役目を果たすのを。
その日、ポラリスの攻撃がはじまり、それと同時に赤の異形も、カラフルな異形も、それぞれの目的地で
弾けて消えた。
あの世界での富士山には重要施設がそろってますが、これだけなんですかね?
楔抜くとき竜脈の源流みたいなこと言ってましたけど、ならほかにもいろいろできそうなもんですが。