ソードアート・オンライン 〜直死が視る仮想世界〜   作:プロテインチーズ

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徒爾遊戯

 第二層で再びアスナとパートナーになって彼女が武器の詐欺被害に遭ってしまった。何とか解決できたものの後少し遅れていれば、間違いなくネズハという鍛冶師プレイヤーに奪われていただろう。

 色々事情があったにせよ。彼が剣士として進める道を俺は示したつもりだ。

 しかし、俺の、いや俺達の考えは大きく裏切られる事になる。

 

 ーーー《英雄》が第二層《フロアボス》をソロで討伐。第三層のアクティベートが行われた。

 

 攻略組はすぐに会議を開いた。まさかまた《Shiki》がソロで《フロアボス》をを倒すなど夢にも思わなかったのだ。

 

 ディアベルを中心とするキバオウやリンドが所属している《アインクラッド解放隊》は特にこの件を問題視しているようだった。

 さらに、その時にネズハがやっていた詐欺を告白。彼らの仲間も謝罪し被害にあったプレイヤーへは弁償をする事になった。最もディアベルは告白してくれた事に安心しており、キバオウやリンド達もそれ以上言う事はなかった。

 

「問題は彼の件だな」

 

 ディアベルが慎重に話を切り出す。攻略組の面々も分かっているのが頷いた。

 

「今のまま《フロアボス》をシキだけに任せるという状況はまずい。彼の身にもし何かあった時、《フロアボス》との戦闘がない俺達じゃ危ない」

 

 そう、確かに《フロアボス》は強く戦えば死者が出る可能性がある程だ。ある意味ソロでチート染みたシキが倒してくれるのなら一番安全だ。しかも、ここにいる誰よりも攻略が早いときた。しかし、それは言い方を変えれば《英雄》一人に頼りきっているという事だ。

 

 もし、奴に何かあれば《フロアボス》と戦うのは俺達攻略組になる。だがその時、《フロアボス》との戦闘経験がないのでは危なすぎる。

 

「せめてソロじゃなくて俺達と歩調を合わせて欲しいんだけどな」

 

「あかんで、ディアベルはん! 《英雄》だの何だの呼ばれてるイケすかん野郎や! 攻略組に入れるなんて以ての外や!」

 

 確かに《英雄》は俺達と隔絶した攻略のスピードをしている。どんな魔剣をドロップしたのか分からないが、ほぼ一撃で敵を倒しているのだから。

 それにもし、歩調を合わせてくれるのなら既にこの攻略会議の場にいてもおかしくないのだ。今、奴はここにいない。つまりはそういう事だ。

 

「誰か連絡先は知らないの?」

 

「シキは普段どこにいるのか、誰も知らない。つまり奴はフレンドに誰も登録していないんだ。見掛けても迷宮区で攻略している時だけだ」

 

「そうなんだ……真の意味のソロって訳ね……」

 

 真の意味のソロか……言われてみると妙にしっくりくる言葉だ。俺も元《βテスター》としてソロを貫こうと思っていたが、こうしてアスナとペアを組んでいる。

 

「仕方ないな。この中で、次シキに会った人は必ず攻略会議に参加するように言ってくれ」

 

 ディアベルのその言葉で会議は締めくくられた。

 

 

 

 だが俺の運は変な所で強いらしい。 第三層の《圏外》のフィールドにいた奴は、《英雄》はいた。

 

「キリト君……!」

 

「あぁ、間違いない」

 

 《短剣》を使って敵《mob》を一掃するその姿は見ていて清々しい程だ。

 

 助けがいるようには思えず、特に隠れていた訳ではないので、戦闘が終わると俺達に気づいたようだ。あの戦い方どこかで見たような……確かあれは第一層の……

 

「何? 何か用か?」

 

 俺が前に見た記憶を辿っているとシキは俺達に近づいて来た。なるほど、確かにこれは性別の区別がつかない容姿だ。隣にSAOの中でもトップクラスに綺麗な女性プレイヤーがいるが、この目の前のプレイヤーはまた違った和風美人といった見た目だ。そして、その気怠げな表情と浮世離れした雰囲気が変な所でその魅力を掻き立てていた。

 本当に《フロアボス》をソロで倒したのだろうかと思わず疑ってしまった。

 

「《英雄》のシキだな?」

 

「そう呼ばれてるらしいな。あんたは?」

 

「俺はキリト。でこっちは……」

 

「アスナよ」

 

「キリトにアスナね……俺に何の用だ?」

 

 気怠げな態度は相変わらずだったがその視線は鋭く真っ直ぐ、俺の方へ向いていた。

 

「単刀直入に言うぜ、《英雄》さん。あんたのソロで《フロアボス》討伐をやめて欲しい。出来れば俺達の攻略と一緒に来て欲しい」

 

「何だ、そんな事か……まぁ、断る」

 

「理由を聞いても……?」

 

 間髪容れない返事。期待はしていなかったので驚きはない。ただ隣の剣士様が凄く不機嫌オーラを醸し出し始めましたが。

 

「だって、俺があんた達に合わせて意味あんの?」

 

 それを言われると辛い。確かにシキからすればソロでやる方が足手纏いがいなく、最も効率良く攻略出来るのだ。わざわざ自分からそんな事をする必要がない。

 

「もし、あんたに何かあれば俺達は《フロアボス》の戦闘経験なしで挑む事になる。それは危険すぎるんだ」

 

 シキは俺の話を聞いて何か考える仕草をした。やはり、一人で挑むのはリスキー過ぎると判断したのか。

 

「分からなくもない。けど俺は今のままで行くつもりだぜ。聞いてる限り俺に利点ないし」

 

 やっぱりな。アスナを見てみると理解出来ないという表情をしている。それが当然の反応だ。

 あまりしたくないが、やるしかないか。そもそも断られる可能性があるが。

 

「……なら俺と《決闘》しないか?」

 

「……《決闘》? へぇ……」

 

 意外にも悪くない反応だ。これはいけるかもしれない。

 

「勝った方が出来る範囲で互いのお願いを聞くって事で」

 

 ここで制限を付けとかないと色々まずい。それにソロで《フロアボス》を倒す程の実力者だ。対人戦闘はまた別の技能が必要だしな。ここでは多くはないとはいえ元《βテスター》の俺の方が分がある。

 

「悪くないな。乗ったぜ。ここだと危ないから《圏内》な。もちろん、人目に付かない所で。あぁ、そこの人は別に構わないぞ」

 

 立会人を付けるつもりだ。俺も考えていたから問題はない。俺はアスナに目線で訴えると、もちろんと言わんばかりに頷いた。

 

 

 という訳で俺達は、ある程度《圏内》でスペースがあり、且つ人目が付かない場所へ移動した。

 

「ここならあまり人も来ないし、ちょうどいい」

 

「あぁ、悪くないな。どれでするか……《ノーマルモード》で、いいか?」

 

 なっ! こいつ本気か? あまりの衝撃に絶句してしまった。

 ゲーム内における正式な決闘方法であるデュエルには、三通りのモードがある。

 一つ目は《初撃決着モード》。

 初めの一撃を決める。または、相手のHPを半分以下にすると勝利するこの方法には敗北しても死なない。このデスゲームではこれが用いられるのが普通だ。

 

 二つ目は《時間制限モード》。

 文字通り互いに時間を決めて、時間切れの時点でHPが多く残っていた者が勝利となる。しかし、相手をPKしても勝利となる。安全を確保するのなら《初撃決着モード》の方が良いに決まってる。

 

 そして《ノーマルモード》通称《完全決着モード》。

 相手のHPを0にするまで終わらない。PKをするか、相手が『リザイン』つまり《降参》するまで戦い続けるのだ。あまりにも危険すぎる為に今まで一度も使われることもなかった筈だ。

 

 シキのその態度はあまりにも自然すぎた。本気で言ってるのだろうか? こいつの何か期待しているような声色から冗談とは思えない。そんな押し黙る俺の反応にシキは、

 

「なぁんてな。冗談だよ。気負いすぎなんだ、お前。これから《決闘》だってのにな」

 

 えっ……冗談?

 その言葉に呆気にとられた。シキはやれやれと言わんばかりに苦笑している。

 

「な、何だよ。脅かすな。本気かと思ったぞ」

 

 背ろにいるアスナからも安堵した雰囲気が分かる。流石に攻略でもない場面で死ぬのはごめんだ。シキはメニューを操作している。

 

「《初撃決着モード》でいいよな?」

 

 俺は当たり前だと言わんばかりに頷いた。しかし、今のこいつのやり取り、本当に冗談だったのか? 俺にはこの物臭そうなプレイヤーが本気で言っていたように思えてならない。

 だって、シキが質した時の俺の反応に、こいつは一瞬、ほんの一瞬だけ残念そうな表情をしていたのだからーーー

 

 俺は《決闘》の申請を受け承諾。カウントダウンが始まった。六十の数字が刻一刻と減っていく。

 

 その間、シキのあの億劫そうな表情が消える事はなかった。これから《決闘》だってのに。ただ自然体に、なんの気負いもなく、いつも通り面倒臭そうに《短剣》を構えた。

 俺はそれから目を離さず、じーっと見ている。

 そして、

 

 《DUEL》の文字が浮かび上がり、俺と《英雄》の《決闘》が始まった。

 

 勝負は一瞬だった。俺は《剣技》《スラント》を発動させる為、構えを取った。

 が、シキはそれを見透かしたようにただ後ろへ下がった。《剣技》を避けたのか?

 俺の驚愕なぞ知らんとばかりにいつ反応出来たのかシキは一瞬で俺の左隣にまで距離を詰めていたのだ。

 

「なっ!?」

 

 しかし、俺より圧倒的な《AGI》を全力で駆使して俺の左隣に距離を詰めたのだ。

 そして、死角からの攻撃。

 俺はただ反応出来ず、肩へ一撃を受けた。それは全く痛くもない軽いものだったが、《初撃決着モード》では敗北となる。

 

 《WINNER/Shiki 試合時間/8秒》

 

 目の前には《決闘》の結果を示す巨大なウィンドウが浮かんでいた。

 

「これで俺の勝ちだな」

 

 ただ、淡々と結果を告げたシキは相変わらず気怠げだった。

 

 《決闘》で勝利したシキは次の事を俺に告げた。

 

 一つ目、俺の行動を邪魔するな。

 二つ目、俺に構うな。

 

 ただそれだけだった。つまりそれは、今まで通りお互いの領分を守りましょう、という事だった。

 アスナは何か言いたげだったが、《決闘》の結果だった。俺が負けたのが悪い。甘んじて受け入れた。

 

「でも、これから他の連中があんたを見つけたら今日の俺みたいに接触してくるぞ」

 

「ふん。だったら返り討ちにしてやるよ」

 

 だろうな。その態度は当然と言わんばかりだ。こいつの実力はSAOの中でもトップクラス、いや最強と言っても良い。

 《決闘》では誰も敵わないだろう。

 

 それから何人かの攻略組が《孤高の英雄》に《決闘》を挑んたという話を鼠から聞いたが、その全てを返り討ちにされたという話だった。

 

 そして、第三層《フロアボス》がシキ一人によって討伐された。




にしても原作でアリス編終わったらどうするんでしょうね。そのまま完結でしょうか。

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