ソードアート・オンライン 〜直死が視る仮想世界〜   作:プロテインチーズ

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千差異路

 第一層迷宮区の最前線に俺はいた。ただでさえ人付き合いが苦手な俺は元《βテスター》である事もあってソロだった。

 元《βテスター》の連中が俺の《キリト》という名前を覚えていたら話はややこしくなっていたが。今の所それもない。

 

 このゲームが始まってもうすぐ一ヶ月が経とうとしている。プレイヤーの中にはクリアを絶望視している奴もいると聞く。

 これが普通のゲームなら既に上の階層へ行っていただろう。でもこのゲームは遊びじゃない。デスゲームだ。確か既に二千人のプレイヤーが死んだという。全プレイヤーの五分の一……それを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだろう。

 だが、俺はそれを多いと感じた。このゲームは一度死んだら二度と復活しない真の意味のデスゲームなのだから。

 

 ……辞めだ。ここは最前線だ。こんな思考をしても無駄だ。今は攻略に集中しよう。

 俺がそうして迷宮区を探索していると二人の人影をを見つけた。

 一人は俺と同じように《短剣》を使って、敵《mob》と戦っている。

 もう一人は《片手剣》と《盾》を装備している。が、ただ俺のように黙って見ているだけだ。

 何しているんだ、あれは? 少し考えて分かった。

 恐らくあの《片手剣》使いは敵《mob》に囲まれ、窮地の所を《短剣》使いに救われたのだろう。

 

 そして、俺は視線を《短剣》使いにやる。後ろ姿で表情は分からないが、かなり強い。敵の攻撃を危なげなく、いや余裕を持って回避している。それでいて本人からは油断や隙といったものを全く感じさせない。

 やばくなったら手伝おうと思ったらその時だった。

 

 ただ一振りの攻撃で敵《mob》の身体を分割させた。それは一体に止まらず次々と敵を屠っていく。

 

 俺はこの光景が信じられなかった。

 この手のプレイヤーは速さと手数で攻めるタイプなので一撃一撃のダメージは軽いはずなのだ。

 しかし、あのプレイヤーに関してはその常識が当てはまっていない。

 

 《片手剣》使いのプレイヤーも俺と同じように驚愕している。

 やがてその刃によって敵《mob》は呆気なく全滅させられた。

 すると《短剣》使いは《片手剣》使いの方を振り向いて何やら話し始めた。《片手剣》使いは興奮したように話している。

 でも俺はそんな事どうでも良かった。あいつが振り向いた瞬間、一瞬こっちを視たのだ。その眼は澄んだ蒼い色をしていた。俺はすぐに目線を逸らした。

 あの眼は駄目だ。理由は分からない。でも、勘に近いようなものがあった。あれは俺がこの世界で時々感じさせられたモノ。

 

 ーーー『死』そのものだーーー

 

 

 

 見られているな。それも複数。

 俺は目の前の雑魚《mob》と戦いながらそれが分かった。この魔眼を見られるのは別に初めてではないし、仮に見られたとしても別にどうでもいい。

 俺の背後にいる《片手剣》使いが複数の《mob》に囲まれているのを偶然《索敵》スキルで、通りがかった俺が発見したのだ。

 

 別に放っておいても良かったが目の前で死なれるのは寝覚めが悪い。

 俺は助けに入り、すぐに敵を倒してやった。

 視線は戦闘が終わるとどこかに消えた。もしかしたら俺の助けに入ろうとしたのかもしれない。そうだとしたら余計なお世話だと言える。

 

 後ろの奴は俺の強さに驚いているようだが、魔眼について教える気はないし、教えたとしてもこの世界のスキルやらではないのだからどうしようもない。出来るのならくれてやりたいぐらいなのだが。

 

「ありがとうございます! 俺元《βテスター》でもないのに、そこそこゲームしてるだけで、ソロでいけるかもって調子に乗って……迷宮区に潜って……敵に囲まれて……俺、シキさんのように強くなりたいです!」

 

 見た目からだが、恐らく俺より年上の癖に大声で喚いている。

 まぁ、借りを作るのは嫌いだが貸しを与えるのは嫌いじゃない。

 将来、こいつが攻略組に匹敵するくらいのプレイヤーになるか、彼らが使うような装備を生産できる生産職になるという、万が一の可能性があるかもしれないし。

 

「はいはい。で、これからどうするんだ? ここまで帰りに死なれたら俺の気分が悪いし、《圏内》まで送っていくぞ」

 

「いや、そんなそこまでしてもらうのは悪いっていうか……」

 

「だったらここで野垂れ死ぬのか?」

 

「オネガイシマス……」

 

 結局、ここから一番近い拠点になる《トールバーナー》まで送っていった。

 

「今日は本当にありがとうございました! いつかこの借りは俺が強くなって……」

 

 まただ。変に目立つのは嫌だから勘弁して欲しい。

 

「あ、そう言えば俺の名前言ってなかったっすね」

 

「別にいらん」

 

 どうせもう、会う事なんてほとんどない。

 

「そんな遠慮なさらずに俺の名前はーーー」

 

 俺はほとんど聞き流していた。ただ、それを聞いて名前負けしてる奴だなと思っただけ。

 その後は飯を奢るだの何だのを断り、迷宮区へ再び潜った。

 

 

 

 凄い。その一言で尽きた。僕はこの世界で強者と言えるプレイヤー達を何人か見てきた。しかしその誰もが先程、迷宮区で戦っていたあの《短剣》使いに明らかに劣る。なるほど、レベルやプレイヤースキルといったモノが高いのだろう。

 

 しかし、彼、(いや彼女かもしれないが)の真骨頂はそんなチンケのものではなかった。あの蒼く澄んだ瞳は何を視ているのか。敵《mob》をたったの一振りで屠った死神の鎌。

 そして、何より戦闘後、潜んでいた僕と視線がかち合った。

 

 その瞬間、僕の本能が逃げろと囁いた。生物なら誰もが持っている生存本能。僕のそれがただ眼が合っただけで警告を鳴らしたのだ。

 僕はそれに従いすぐにその場を去った。

 

(何て奴だ。僕は他の連中とは違うと思ってたけど上には上がいるなんてね……意外とこの世界にも僕の同類がいるのかな。あれは間違いなくーーー)

 

 ーーー『死』の体現者ーーー

 

 僕がこの《アインクラッド》来た理由を他人が聞けばほぼ間違いなくイかれていると言うだろう。何しろ、あの《はじまりの街》でのチュートリアルで僕は内心、ほくそ笑んだのだから。

 

(茅場晶彦には本当に感謝しっぱなしだよ。これで真の意味での殺人が出来る。動物は何体も解体したけど人はまだやったことなかったからね。今やるのは流石に悪目立ち過ぎる)

 

 そして、美の極限ともいえるあの死神を僕のこの手で犯せるのならば、それはどんな殺人よりも快楽になるだろう。

 

 僕がその『死』を超越した事になる。

 それを想像しただけで身体に熱がこもり興奮する。それは僕の人生において何物にも変えられない経験になるに違いない。

 

 容姿は男女の区別がつかない。美少年とも言えるし、ボーイッシュな美少女ともいえる。あんな美を見た事がない。

 女ならば犯してやるし、あの美しい見た目なら男でも別に構わない。絶望した表情を視姦した後、あの眼をくり抜いて舐めてから、ゆっくりとじわじわ殺してやる。

 そして、僕こそが真の《死神》になってやる。

 

 ーーーそういえば、名前は……《Shiki》だったかなーーー


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