ソードアート・オンライン 〜直死が視る仮想世界〜   作:プロテインチーズ

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GGOスクワッドジャム面白いですね。
FPSやってる自分としてはフラッグ戦とか見たい気もします。
後、SAOとALOでもキリトやアスナ以外が主役の外伝とかも見てみたいですね


悪鬼蝟集Ⅳ

「な、何を言ってるんですか!」

 

 苦労して手に入れたせっかくのアイテムを、喧嘩別れしたとはいえ知人にいきなり寄越せと言われて、シリカは意味が分からず叫んだ。するとキリトとキースが護る様に前に出て来たのだ。キリトは挑発するかのような不敵な笑みをしているが、キースは全くの無表情だ。ただその眼が爛々としており、彼の今の心境を表していた。

 

「そうはいかないな、ロザリアさん。《オレンジギルド》《タイタンズハンド》のリーダーといった方が良いか?」

 

 

 へぇと呟くロザリアだが、そこで初めて顔から余裕のある笑みが消え、代わりに目の前の二人に対する警戒が出ていた。

そしてその告げられた事実にシリカが動揺した。《オレンジギルド》。その事を先日に二人から散々聞かされていたシリカはロザリアのその緑色のカーソルが犯罪者の証であるオレンジ色ではない事を知っている。

 

「え、でもロザリアさんは……」

 

「……オレンジ=犯罪者という理屈は成り立たないぞ。グリーンのプレイヤーが獲物を見繕ってパーティに入って、他の仲間のオレンジに《圏外》で襲わせる、なんて手段もある。昨日の盗み聞きしてた奴も仲間だろうな」

 

 淡々と無機質に告げるキースのその態度は今までの気さくで明るいのものとは全く違っていた。シリカは告げられた内容より動揺していたが、ある事に気づいた。

 

「じゃ、じゃあこの二週間、私と同じパーティにいたのは……」

 

「そうよ。あんたがいたパーティは私の獲物だったの。戦力を確認して冒険でお金が溜まるを待ってたの」

 

 一層凶悪な笑みを浮かべ、舌なめずりをするその姿にシリカは自分があのままパーティに止まり続けていた時にの想像をしてしまい本能的に恐怖を感じキースの腕に縋り付いていた。

 そしてロザリアはさらに、シリカが抜けた事で獲物を変えるか迷っていたところ、シリカがレアアイテムの《プネウマの花》を手に入れようとしている事を知り奪おうとした事を得意げに語った。

 

「ふん。オレンジの癖にこの女はそれすらも満足に出来ていないがな」

 

「はあ? 何言ってんのよ? 私が失敗なんてする訳ないじゃない」

 

 ロザリアの方へ視線も動かさずに、キースはただ呟くだけった。

 

「オレンジの囮役は獲物に警戒心を与えてはならない。オレンジの間じゃ常識だぜ。その見た目だけならある程度なら釣れるだろうがよ。シリカを怒らせてるようじゃどうせこの先捕まってるだろうさ」

 

 キースのまるで経験談のような話にシリカはさらに混乱した視線を向けたが、生憎気づいていなかった。ロザリアはその挑発じみた説明にちっと舌打ちを鳴らしたがすぐに表情を戻した。

 

「ふぅん。でもそこまで気がついててノコノコその子に付き合うなんて……馬鹿? それとも本当にその身体でたらしこまれちゃったの?」

 

 シリカの顔がロザリオの侮辱に羞恥と怒りで真っ赤に染まり、思わず《短剣》を抜きかけるがキースが手で制した。

 

「いいや、どっちでもないね。俺達もあんたを探してたのさ、ロザリアさん」

 

「どういう事?」

 

「あんた、10日程前に《シルバーフラグス》っていうギルドを襲ったな? リーダー以外の4人が殺された」

 

「あぁ、あの貧乏な連中ね」

 

「リーダーだった男はな? 朝から晩まで最前線の《転移門》広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探していた。彼はあんたらを殺すんじゃなく《牢獄》に入れてくれと言ったんだ。あんたに奴の気持ちが分かるか?」

 

 キリトの優男な顔が段々と険しいものとなっていた。しかし当のロザリアは気にした様子もなく自分の赤髪を弄っている。

 

「わかんないわよ。何よ、馬鹿みたいね正義派ぶって。ここで人を殺したってほんとにその人が死ぬ根拠無いし。そんなんで現実に戻った時罪になるわけないわよ。だいたい戻れるかどうかも解んないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわよね。あたしそういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈持ち込む連中がね」

 

 自分が犯した凶行に対して全く後悔のないその態度は聞いていた二人を本気にさせるのは十分だった。

 

「キリト、こいつら社会のクズ共に説教したって無駄だ。どうせあっちの世界じゃ人殺し扱いで刑務所行きだ。そんな事もわからねぇで人を殺してるとは俺の方が笑ってしまうよ」

 

 そうは言いながら全く表情を変えないキースに流石のロザリオも我慢ならなかったらしい。指を鳴らして近くで隠れていた仲間を呼び出したのだ。

 

「あっそ……で? その死に損ないの言う事真に受けて、あたしらを探してたわけだ。ヒマな人だね。あんた達のまいた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけど……でもさぁ、たった二人でどうにかなるとでも思ってんの?」

 

 その数は十人。その誰もが下卑た笑みを浮かべており、中にはシリカに対して邪な目線を向ける男もいた。そしてそのほとんどが犯罪を犯した証である《オレンジ》のカーソルが表示されていた。

 

「キースさん! 数が多すぎます! 脱出しないと!」

 

 シリカは必死で撤退するよう呼びかけるが、キースが安心させるかのようにフッと笑みを浮かべて、

 

「大丈夫だ。逃げろって言うまで《結晶》持ってそこで見てな」

 

「キリトさんも!」

 

 キリトもシリカの叫びの対して優しく頭を撫でるだけだ。それで少し落ち着きを取り戻すがそれでも見ていて気が気でない。

 

 そしてそのキリトという人名の聞き覚えがあったのか《オレンジ》の男が騒めき始めた。

 

「ロザリアさん、こいつ攻略組っすよ! 《黒の剣士》だ……!」

 

「な、なんで前線にいるはずの攻略組がいんだ!?」

 

「馬鹿言ってんじゃないよ! 《攻略組》がこんなところにいるわけないじゃないか! どうせ名前を語ってびびらせようってコスプレ野郎に決まってるよ。もう一人は聞いた事のない三下だ。この数で負ける訳ないじゃないか! 」

 

 ロザリオの一喝に男達はすぐに勢いを取り戻し、逆に《攻略組》の持つ装備やアイテムを奪おうとキリトとキースに襲い掛かった。シリカは思わずこれから起こる惨劇を想像し目を瞑ってしまう。

 

「キースさん、キリトさん!」

 

 恐る恐る目を開けると何もしない二人が男達に一切の容赦もなく斬りつけていた。しかし、二人の緑色のHPバーが全く減っていない。いや、よく見れば多少の変動はしているのだがすぐに満タンに戻っているのだ。

 

「あんたら! なにやってんだ! さっさと殺しな!」

 

 ロザリアは突っ立っているだけのプレイヤー二人に傷一つ付けられない子分達に向かって感情的に叫ぶが、ただ状況は変わらず男達は意味がない悟ると息を切らしながら攻撃の手を止めた。

 

 

「無駄だ。10秒当たり300てところか。キリトは俺より軽装だから400あたりか。レベル差が20以上も開いてんだ。どの道おめぇら程度の攻撃じゃ《戦闘自動回復》のスキルですぐに回復するんだよ……もう終わりみてぇだしこっちからいかせてもらうぞ」

 

 その不死身そのものといえる光景に震えながら武器を構える男達だが、次々と悲鳴を上げながら武器を手放し、その手首から《部位欠損》を示す赤いポリゴン片が現れていた。

 

「手、手が!?」

 

 絶望的ともいえる《敏捷値》の差で何をされたか全く理解出来ていなかったが。

 

「ほんとならてめぇらみてぇなクズを生かす必要なんて全くないんだが……依頼は依頼だ、キリト」

 

「これは俺達の依頼人が全財産を叩いて買った《回廊結晶》だ。《監獄エリア》が出口に設定してある。これで全員牢屋に飛んでもらう!」

 

 今まで感情を出していなかったキースから見る者を殺気が入り混じったその言葉に男達は顔を青ざめさせ素直に応じようとするが、リーダーのロザリアはチッと舌打ちを鳴らしあろう事か《転移結晶》を取り出したのだ。

 

「たかがてめぇ如きが逃げられると思ったか?」

 

 ロザリアの背後から声がして慌てて振り返ろうとすると、《片手剣》が首から伸びて紙一重で触れていた。

 

「俺が《オレンジ》になる事なんて今更な話だ。《グリーン》だから許されると思ったかクズ野郎」

 

 そこでついに観念したのか結晶を落として、キリトに指示されて《監獄エリア》に飛んで行った。

 

 それから三人の間で気まずい沈黙が流れて、

 

 「悪い」とキースが頭を下げた。怒涛の展開でまだ混乱気味のシリカは頭が追いついておらずその意味がすぐに理解出来ず何も言えなかった。

 

「囮の真似をさせちまった。危ない目に合わせちまった」

 

「それは俺もだよ。この事を言ったら怖がれると思ってしまって、言えなかった」

 

「い、いえ助けてもらったのはこちらですし……お二人は命の恩人ですから」

 

「そう言ってもらってありがたい。お詫びと言っては何だが俺の出来る範囲で何かないか?」

 

「い、いやそんな滅相もない。こちらこそピナを助けていただいたんですから」

 

「いや遠慮する事ないさ。迷惑掛けたのは俺達なんだから」

 

 キリトにも言われて必死で考え込むシリカ。そして何か思いついたのかキースの顔をじっと見て、

 

「じゃあ、一つだけキースさんに質問が」

 

「お、何だ? 何でも聞いていいぞ」

 

「キースさんの話であった《オレンジ》になるのが今更って……」

 

 しまったという風な顔をするキリトだが当の本人はそこまで思い詰めてないのかあまり変化はなかった。

 

「あ、いや無理に教えてもらわなくてもいいですよ! す、すいません。変な事聞いちゃって!」

 

「いいのか?」

 

「あぁ、別に構わんさ。昔の話だしな。それで俺を怖くなっても俺は恨まないさ」

 

「そ、そういうわけじゃ……」

 

「いや別に気にして……危ない! シリカ!」

 

 その瞬間だった。キースが口を止めたかと思うと、その高い《筋力値》でシリカの小柄な身体を突き飛ばしたのだ。いきなりの事で受け身も取れずそのまま堅い街道にぶつかるが事態はそれどころじゃなかった。キースの背中に投擲用の《暗器》が突き刺さっておりキースのステータスの麻痺を現す表示がされていたのだから。

 

「ああ、くそう! 外したか! ま、いっか。1ポイントゲット出来たしな!」

 

 そしてその突き刺さった方向から耳をつんざく甲高い声が三人の耳に聞こえた。その方向から現れたのは黒いフード付きのポンチョを着た不気味なプレイヤー達だった。

 

「《笑う棺桶》……」

 




次話から話が少し動きます。

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