ソードアート・オンライン 〜直死が視る仮想世界〜   作:プロテインチーズ

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……4か月振りの投稿です。待っていてくださった読者の皆様申し訳ありません! 

言い訳にもなりませんが、今作品を書くモチベーションがしばらく下がっており、ほとんど書き溜めを少しだけして終わっておりました。
再燃したのはSAOPとGGOスクワットジャムのお陰です。川原先生、時雨沢先生、本当にありがとうございます。
しばらくは週一か週二で投稿します。前にも言いましたが逃亡はしません!


悪鬼蝟集Ⅲ

 シリカ達三人組は翌日、第47層主街区《フローリア》へ来ていた。通称《フラワーガーデン》とも呼ばれている。その由来は層全体が彩色豊かな花々に覆われている事からきている。

 

「綺麗......夢の国みたい......」

 

 中層プレイヤーであるシリカはここまで上の層に来た事なかった為、初めて見る辺り一面の花景色に目を輝かせていた。近くに咲いている花を間近で見ると、鼻一杯に良い香りが広がった。花の蜜を吸っていた虫が翅を広げ空中へ飛んでいく。それを視線で追いかけると周りのプレイヤー達が楽しそうに歩いている。それも男女二組のペアがほとんどだ。

そう、ここはデートスポットとしても有名でその事を意識すると顔が熱くなり、異性に耐性のないシリカは後ろにいた二人の事を見れなくなってしまった。

 

「シリカ?」

 

「あ、はい。すいません! おまたせしました!」

 

「よし、なら行こうぜ。なるべく早い方が良いだろうしな」

 

 キースの呼ぶ声に慌てて立ち上がり膝を払った。

 

 そんなシリカを不思議に思いながらも一行は《思い出の丘》に向かうのであった。

 

 広場を出てもそこは花一面に覆われている。《フラワーガーデン》の名は伊達ではない。シリカは目の前を歩く二人の男性プレイヤーの事を考えていた。

 今思うと二人の事を何も知らないのだ。現実の事を訊くのはマナー違反だと分かっているが躊躇いながらも口を開いた。

《迷いの森》で組んでいたパーティと揉めて単独離脱したりと彼女は思い切りの良い性格をしているらしい。

 

「あの......キリトさん」

 

 昨夜にぼそりと漏らした自分に似ているというキリトの妹。シリカはそれが気になっていたのだ。

 

「妹さんの事聞いていいですか? マナー違反なんで無理に言わなくても良いですけど......」

 

 キリトは意外そうな顔をしてから溜息を吐いて他の二人を見てから語った。

 

曰く、自分は妹と実の兄妹ではなく従兄である事。その事を知って自分から離れていった事。祖父から教わった剣道が合わず他にしたい事があったかもしれないのに妹に押し付けて辞めてしまった事。

 

「そのまま妹を避け続けて逃げるようにSAOに来てしまってさ......だから君を助けたのは妹を君に重ねて、罪滅ぼしをしているつもりなのかもしれない。ごめんな......」

 

 キリトの悲しそうで今にもシリカは何となくその剣道をし続けている妹の気持ちが分かったような気がした。自分を見下ろすこの少年と彼の妹はたまたますれ違っていただけだ。そう思った。

 

「妹さんはキリトさんを恨んでいなかったと思いますよ。だって剣道でそこまで活躍出来るなんて相当好きじゃないとやってられませんよ、きっと!」

 

 シリカは素直に思った事をそのまま口に出していた。何のひねりもないが、だからこそ嘘偽りのない本心から生まれた言葉に曇っていたキリトの顔が少しだけ笑っていた。

 

「そうだな。剣道の事はよく分からないけど、妹さん全国に行く程うまいんならそれだけ好きだったんだろうぜ。剣道だけじゃない。どんな分野だってやっぱり好きじゃないとやってられない部分ってあるしな」

 

「……そうかな。そうだと良いけどな。……何だか俺が慰められてばかりだな」

 

「だって俺の方が年上だしな。これぐらい別に良いだろう? 現実に帰ったら妹さんとちゃんと話しとけよ。家族なんだからさ」

 

 普段は自分の事でも適当な部分があるというのに、妙に面倒見が良いキースのアドバイスにキリトはしっかりと頷いた。それは形だけではなく現実世界で待ってくれている家族の元へ帰ると心でも再度誓っていた。

 

 

 

 

「《思い出の丘》に行く前にこれを渡しておく」

 

「え、これって......」

 

 道中、キースが取り出したのは結晶アイテムである。中層プレイヤーのシリカでは値段が馬鹿にならず滅多にお目にかからない代物だ。そんな高価なアイテムを易々と渡せるのは最前線で活動している二人ならではだろう。

 

「もし予想外の事態が起きて俺達が『離脱しろ』って言ったら俺達に構わず、これでどこかの層の街に飛んでくれ」

 

「でも......]

 

「頼む。キリトの言う通りにしてくれ。万が一何かあってからでは遅いんだ」

 

「わかりました」

 

 躊躇いながらも二人の必死な視線を受けて結晶を受け取るシリカ。キリトの方は特にその視線が厳しかった。

 

「大丈夫だ。何があっても俺達がいる。守ってやる」

 

「そうだな。滅多な事がない限りは使う事なんてないさ。このままこの道をまっすぐ行けば《思い出の丘》だ」

 

 二人の力強い言葉でシリカは「はい!」と大きく元気いっぱいに返した。不安は取り除かれて、そのまま二人の後を追いかけていった。

 

 そうして歩き出して数分、一行はいよいよ初めてのモンスターに遭遇するのだが……

 

「いやー、何これー! 助けてー! キースさん、キリトさん! 見ないで助けて!」

 

 綺麗な花が咲きほこるフィールドから巨大な花の形をした植物型の《mob》がシリカに飛び掛かってきたのだ。いきなりの不意打ちに為す術もなく、シリカは両脚を蔓で掴まれて吊るされている。レベルと装備を考えれば大した事のない敵だが、花の真ん中から唾液を垂らし長い舌が伸びる巨大な口に生理的な恐怖を感じてしまったらしい。パニックで《短剣》を型もなくやたらめったら振り回しているだけなのだから。

 

「流石にそれは無理……」

 

「そりゃぁ無理な相談だぜ、シリカ」

 

 落ち着けばシリカでも十分に倒せるのでキースとキリトは手を出していない。いくらミニスカートが捲りあがって下着が見えそうとはいえ、目を瞑って助ける事はいくら二人が強くても不可能だ。キリトは片手で目を隠しているが指の間から覗き込んでいる。キースは元より隠そうという気がなかった。

 

「そいつはめちゃくちゃ弱いからな! 花の真ん中の赤い部分を叩けばすぐ倒せるぞ!」

 

 キースのアドバイスを聞いて脚を掴む蔓を斬り空中の投げ出されるとすぐに《剣技》の構えを取った。弱点の部分をそのまま一突き入れると、一瞬で巨大花は青いポリゴン片へと変わり消え去った。

 そのまま着地したシリカは頬を赤く染めながら二人の方へ振り返った。

 

「見ました?」

 

「見てない……」

 

「白だったな」

 

「キースさんの馬鹿!」

 

 キースの堂々とした物言いは余計にシリカを怒らせて、キリトもとばっちりを受けて脚を蹴られた。

 

 

 

 その後の戦闘も二人にレクチャーを受けながら危なげなく進んでいった。最前線で戦っている二人はサポートに徹しなるべくシリカの《レベリング》や技術向上、戦闘経験を優先させたのだ。もっともダメージを与えたシリカに優先的に経験値が溜まりレベルも一上がっていた。

 一度だけピンクのイソギンチャクのような触手を持つモンスターに出会った時だけ助太刀に入ったが、その時のシリカは本当に泣きかけていたが。

 そのまま街道に沿って歩いていると周囲より高い丘が見えてきた。

 

「お、そろそろ見えてきたな。あれが《思い出の丘》だ」

 

「周囲はモンスターのエンカウント率が高いらしいからな油断せずに気を付けて行こう」

 

 目的の場所が見えて一瞬、緩みかけていたシリカがその言葉に、再度気を引き締めなおした。いつもはシリカが前に出ていたが、警戒の為にキースが前に立っていた。

 丘を登ると街道を木立が囲んでおり、情報通り一気に《mob》のエンカウントの率が高まったが、二人のお陰で特に致命的な事態にはならずに丘の頂上へ辿り着いた。

 

 頂上には石で出来た台座があり、それを見つけたシリカはすぐに走り寄っていた。すると途中で何かに気が付いたのか泣きそうな顔で二人の方へ振り返った。

 

「花がないです! キースさん、キリトさん!」

 

「んな馬鹿な! ってあれだ。もっとよく見ろ!」

 

 焦る気持ちは分からないでもないが、流石に余裕がなさすぎた。怒鳴るキースに慌ててシリカは台座へ視線を戻した。すると台座が輝き、そこから一本の草が芽となって生え始めたのだ。そのまますさまじい速度で葉をつけて、茎がまっすぐ伸びてやがて蕾が出来て白い花が咲いた。

 シリカがその花の茎を折って手に取り、指先でタップするとウィンドウに《プネウマの花》と表示されていた。

 

「これでピナが生き返るんですね……」

 

「あぁ、その花の蜜を《心アイテム》に振りかければいけるって話だ」

 

「良かった……」

 

「でもこの辺はモンスターが多いから街へ戻って安全な場所で生き返らせよう」

 

 今にも小躍りしそうなぐらい歓喜しているシリカを見て、二人は自分達のしている所業に良心がチクりと痛む。が、依頼は依頼と割り切りこの少女を何が何でも守り切ろうと、気づかれないようにお互いに目配せした。

 

 帰り道は行きしなが嘘にように《mob》と出くわさず急いで駆け足気味に歩いていた一行だが、それが返って嵐の前の静けさのようだった。

もう一度ピナに会える喜びで、鼻歌を刻みながら歩くシリカの肩をキリトが掴んで引き留めた。

 

「そこに待ち伏せている奴出て来いよ」

 

「バレバレなんだよ。さっさと出て来い」

 

 二人の指摘にシリカは慌てて二人の視線の方向を見るが誰もいない。すると木陰から人影が出てきたのだ。その顔はシリカにもなじみ深い顔であった。

 

「ロ、ロザリアさん?」

 

 そこにいたのは派手な赤髪に光沢のある革製の黒い軽装の鎧を装備した槍使いの女性がいた。しかしその表情はシリカと組んでいた時のような生易しいものではなく、獲物を見つけた蛇のような笑みだった。

 

「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね、お二人さん」

 

「……はん。そんな低いレベルで何抜かしてやがる」

 

 いらついたようなキースの呟きに、ロザリアは眉を顰めるも今回の獲物であるシリカへと視線を移した。

 

「その様子だと首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね。おめでとう……じゃ、さっそくだけど、その花を渡してちょうだい」

 




スクワットジャムって本編GGOよりGGOしてますよね。
GGOでチーム戦がスクワットジャムですけど、FPSおなじみの旗取り戦とかはやらないんですかね。

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