ソードアート・オンライン 〜直死が視る仮想世界〜   作:プロテインチーズ

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追記、行間を多くしました。見にくければ教えてください。


殺人記録Ⅱ

 現実世界での俺の居場所は元々、どこにもなかった。

 俺の両親は幼い頃に事故で死んで、俺は親戚の家に預けられた。

 しかし、俺の扱いは腫れ物を扱うようだった。いつも飯は一人。親戚には子供がいたので、そいつからいじめに近い事もされていた。俺はただただ無価値だった。

 

 そんな俺が心の拠り所にしたのがMMOだった。ここでなら実力があれば俺の存在を認めてくれるからだった。俺が生きている価値があったのだ。

 元々、俺がこのゲームを始めたのは《βテスター》に当選した同じ高校の唯一と言ってもいい友人に誘われたからだった。

 

 俺は他のMMOも一緒に遊んでいたのでこの世界初のVRMMO《ソードアート・オンライン》にも無論、興味があった。俺は友人に誘われ、高すぎる倍率をくぐり抜け、バイトで金を貯めて何とか購入まで漕ぎ着けたのだった。

 

 サービス開始日、ログインしてから俺は元《βテスター》の友人にモンスターとの戦い方や《剣技》の仕方などレクチャーを受けていた。

 

 しかし、あのチュートリアルによるデスゲーム化で事態は一変。俺はどう動くか、何が最善か、全く分からなくなっていたのだ。俺のようなビギナーは中央広場に溢れて返っていた。でも、友人は俺を見捨てなかった。他の元《βテスター》達が次々と《はじまりの街》を飛び出して行っていると聞いた。

 

 俺もMMOをしていたのでリソースの奪い合いの仕組みは良くわかる。俺一人程度なら守りながらでも戦えると言った。

 俺はその手を取った。他のビギナー達に罪悪感が少し湧いたが生きる為に仕方ないと割り切っていた。

 

 二ヶ月後には攻略組と呼ばれる連中とも張り合えるレベルまでになって行った。でも第一層は突破されない。

 俺は焦っていたんだと思う。それと同時に友人と《はじまりの街》に置いていったビギナー達への罪悪感があり早くこのゲームをクリアしなければならないと思っていた。俺の価値を証明したかった。

 

 そんな時、後に《孤高の英雄》と呼ばれるプレイヤーによる第一層の単独《フロアボス》討伐の知らせを聞いた。

 俺と友人は驚いた。特に元《βテスター》の友人の反応は凄かった。話を聞いている限りそんな事は少なくとも《βテスター》の時には不可能だったらしい。

 

 俺はそんな《英雄》に憧れた。いや、俺以外のこの世界に囚われたプレイヤーはみんな憧れただろう。中には嫉妬や僻みで攻撃した奴もいたかもしれない。

 それでも、俺は憧れたんだ。第一層から第五層までを一人でクリアしたその強さと在り方に。

 

 俺は負けないように思った。何より俺と一緒に居てくれた友人にそう誓った。

 これからも二人で強くなる。友人は俺を必要としてくれる。俺の存在を認めてくれる。

 そう思っていた。あいつも同じだと思っていた。そんなもの俺の勝手な思い込みにしか過ぎなかったというのに。

 

 あれは《英雄》ではなく俺達攻略組による《フロアボス》討伐により層が解放され俺達は他の攻略組に遅れないように飛び出して行った数日後だった。

 その日はいつものように《圏外》で二人で狩りをしていた。それで少し休もうと安全区に入ろうとした時だった。

 

 俺の足が切られていた。《部位欠損》による身体阻害で身体が動けなくなった。しかし、それよりも俺は何が起きたのか全く理解できなかった。

 俺の足を切断したのは友人だった。そこからは俺はめちゃくちゃに攻撃された。一方的に。恐らく、友人は俺のアイテムを奪おうとしていたんだと思う。笑いながら俺を攻撃していた。

 

 あいつは言った。 俺を連れて行ったのもアイテムを奪う為だ、と。いつか来るこの時の為だ、と。

 信じられなかった。このデスゲームが始まった時よりも混乱していた。頭の中はぐちゃぐちゃだった。色んなものがミキサーみたいに混ざりあった。それも残飯のようなまずい何か。俺は本来、そこで死ぬ筈だった。《英雄》に憧れて、この世界のたった一人の戦友に裏切られてだ。

 

 俺を救ったのは、黒ポンチョの男と紙袋を被った男だった。皮肉にもカーソルはオレンジ。オレンジに殺されかけ、オレンジに救われたのだ。俺を痛みつけている友人が周囲に隙を見せた瞬間、二人が友人を殺していた。否、殺しかけていた。

 

 その時だった。

 俺の中で友人に対して怒りが一気に湧いたのは。

 俺の中で何かが壊れたのは。

 本来の俺、現実世界での《鍵和田 潤》が死んだのは。

 

 俺は二人が倒れている友人を殺す寸前に俺の剣を拾って胸に突いていた。何回も、何回も、何回も刺してやった。清々しかった。二人に何度も褒められた。俺はオレンジ、いやレッドにふさわしいと。俺は笑った。元《βテスター》の友人を殺したんだ。攻略組に近い俺の実力は歓迎された。

 

 いずれはオレンジギルドとして結成するらしい。俺は嬉しかった。ここでなら自分の存在が認められると。俺には価値があると。それからだ、俺が二人に誘われてオレンジプレイヤーとなったのは。

 俺は既にオレンジとなっていた友人を殺した為にグリーンのままだった。それを上手く利用して囮役などに俺はなった。

 

 でもその夜、俺は悪夢にうなされた。

 俺はこのゲームがクリアされ現実世界に帰っていた。しかし、待っていたのは俺は殺人者として声高く貶す罵倒の声だった。

 親戚や高校の同級生から人殺し扱いされた。死んだ両親もそんな目で俺を見てきた。俺が殺した筈の友人も……

 

 朝起きると、そこはまだ仮想世界だった。

 人殺しとして追い込まれ生きている現実世界と、人殺しでありながら俺の存在を認めてくれる仮想世界。果たしてどっちが良いのか俺には分からなかった。

 

 既に俺のオレンジとしての役割は決まっていたので、あいつらの指示通りにただ機械通りに動いた。何食わぬ顔で中層のグリーンのパーティに入り誘き寄せた。俺の当時のレベルなら引っ張りだこだったから簡単だった。そして《圏外》へ誘き寄せMPKをした。それが初めての俺のオレンジとしての殺し。5人だった。

 

 それから俺はただ何も考えずに行動した。でも、俺の悪夢は続いた。殺せば殺す程に被害者が夢の中に出て、俺を人殺しと罵った。何で俺なんだ! 俺でなくてもいいだろ!

 

 そんな時、《死神》の噂が聞こえた。そいつはオレンジが殺した被害者の代弁者だという。そんなの俺にとって恐怖の対象でしかなかった。あいつらはアジトをコロコロ変えて絶対にバレない位置にいるので心配するなと言っていたり

 

 でも俺は全身が恐怖でガチガチと震えていた。夢でも、現実世界でも、仮想世界でも追い詰められた。

 

 もう限界だった。思考を放棄して感情を消して、《鍵和田 潤》が死んで、キースという名の機械は壊れていった。

 俺に生きる価値がこの世界でも無かった。ゼロだった。でもマイナスにはなりたくなかった。

 

 もはや俺が犯した罪は取り返しがつかなかった。

 既にその時は《レベリング》もあまりしておらず攻略組には大きく突き放されていた。俺は戦闘要員じゃなかったからだ。俺はもう何もかもが嫌になってアジトから逃げ出した。仲間が止めたが俺はそいつを攻撃して何とか振り払った。

 

 俺はあいつらの情報網の凄さを知っていたからすぐに見つかると予想していた。だから、俺は昨日からあいつらがあまり来ない最前線に向かったのだ。ここで死ねばこの世界に囚われているプレイヤー達の為になると。ただ逃げた訳じゃない。俺はゲームクリアの為に戦った。俺の存在には価値がある。そう思いたかった。

 

 その結果が《mob》に囲まれる始末。死にかけた。もう、諦めよう。疲れた。どうせ、現実世界の《鍵和田 潤》は死んだんだ。いっそ死ぬなら……

 

 ーーーあぁ、終わりか。

 

 しかし、俺は死ななかった。

 無価値な俺はーーーかつて憧れた《英雄》に救われたからだ。




ちなみに魔術師云々は出さないつもりです。型月ではなくSAOの世界観なので。

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