アイツはゲームの主人公   作:凍砂糖

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第三話「主人公は不憫だけどチート」

「どうしてこうなった…」

 

 竜平がなんかぼやいているが気にしないでおこう。

 

「せっかく竜平ん家に来たし、マリオでもやる?」

 

「マリオ? 何? 教えてよ」

 

 マリオも知らないのか… 惜しい記憶をなくした。

 なんか最初はおとなしかったのに、だんだん俺の扱いが雑になってきたな。

 

「あら、じゃあ私、青キノピオがいいわ」

 

「だからなんでお前がいるんだよおおお!!」

 

 竜平の悲痛な叫び? 無視だな。

 

「じゃあ俺ルイージな」

 

「ここをこうやるとジャンプして…」

 

「ふむふむ」

 

「…私も… やっていい…?」

 

「おう」

 

「どうしてこうなった…」

 

 

-----

 

 

「ただし?」

 

 今更どんな条件を出す気だこいつ。

 なんとなくわかるけど。

 

「私も家に泊まりに行くわ。その方が効率的でいいもの」

 

 ドンマイ竜平。

 

 

-----

 

 

「いつまでもうじうじすんなよ。

せっかく、日向の服とか夕食の材料とか買ったんだし」

 

 神野家は両親不在で料理できるやつがいないからな。

 俺の一人暮らし歴は長い。手抜き料理ならいくらでも作れる。

 そういえば、なんで竜平みたいな奴ってお母さんがアラフォーなのに若く見えるんだろう…

 

「でもよ…」

 

 確かに成瀬まで来ると嫌な未来しか見えないよな、うん。

 

「うちん家、布団そんなにないぞ…」

 

 そこかあ… なんか突っ込む気力も抜けたわ…

 

 そんなこんなあって夕食を作り、食べ、女性陣が風呂に入ることになった。

 

「あ、そういえば…」

 

 行かせねーよ。立ち上がろうとした竜平の手をがっちりつかむ。

 どうせこいつのことだ… なんやかんやあって風呂場に行って、ノックしないで入って、覗いて、結局殴られるのがオチだろう。

 

「今どこに行こうとしてた?」

 

「どこって… 風呂場だけど」

 

 ふ、やっぱりな。これこそが、秘技 フラグブレイク!!

 

「やめとけ。今アイツら入ってるんだろ。

 上がるまで待っとけって」

 

「それもそうだな」

 

 完璧だな… これでフラグは折った。

 もう何も怖くない!

 

「ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

「おう」

 

 立ち去る竜平を見て思う。

 トイレって、風呂場の方だったな… 詰めが少し甘かったか。

 

ソウイエバキガエヨウイシテナカッタワネ

 

オ、オマエナニシテ バゴ 

 

 ご愁傷さまでした。

 

プルルルル プルルル

 

「ん?」

 

 電話か… 今は夜九時だぞ。

 メサイア本部からか?

 竜平の携帯だが仕方ない、出るか…

 

ピッ

「はい、神野です」

 

「メサイア本部より通達です。魔物ランクBの怪物です。ただいま、第1小隊が討伐に向かっています

 町内の人間を避難させながら、至急、応援を。場所は…」

 

 ランクBか。

 住居倒壊レベルとは久しぶりだ。

 やはりあいつが来たからか…

 関連性は置いといて、早く伝えなくては。

 

「おい、メサイア本部から通達だ。公民館の方に…」

 

 そこまで言って、自分が何をしているか理解した。

 すぐ隣には気絶した竜平。目の前には…

 

 

 鬼がいた。

 

「と、いうわけで俺と竜平で先に行ってるから。じゃあな!」

 

 竜平の襟をつかんで全速力で逃げ出す。

 

「ちょ、待ちなさいよ」

 

 馬鹿だな。そんなに動いたらバスタオルが…

 

「きゃ!」

 

 俺は何も見ていないが、あっちをむいたまま俺に引っ張られている竜平はすべてを見たんだろう。

 

 このミッションが終わったら死ぬな… 竜平。

 

「ナチュラルに俺を殺さないで!」

 

「ナチュラルに心読まないで!」

 

 なんなんだよこいつ…

 

 

-----

 

 

 久しぶりに戦闘着に着替え、目的地へ向かう。

 一般住宅の屋根を駆けるのは少し気が引けるが、致し方ないことなのだろう。

 しかしあれだな。

 戦闘ってことは久しぶりに竜平の聖剣も見れるわけか。なんかかっこいいんだよなアレ。

 ただ…

 

「久しぶりだな、竜平」

 

「堀さん、今日もよろしく」

 

 この聖剣、しゃべるんだよな… しかもダンディーに。なぜなのか…

 

 

 竜平と堀さんとの出会いは、なかなか衝撃的だった。

 

 俺がメサイアになりたての2年ほど前、初めてのミッションは聖剣運搬の援護だった。

 幻とも言われた英雄の武器の一つ。「聖剣」が見つかったことで、メサイア上層部は大騒ぎ。

 厳重な注意で運んでいたのだが…

 

 なぜか魔物が現れて、

 なぜかそこに竜平がいて、

 なぜか成瀬も運搬援護のメンバーで、

 なぜか成瀬が窮地に陥って、

 なぜか竜平が助けに行って、 …これはもはや当然か

 なぜか竜平に聖剣が一言、

 

「殺らないか」

 

 そして竜平は力を発揮し、その場で魔物を殺してめでたしめでたし。

 

 ……なかなかカオスだった。

 とまあ、そこから竜平と、しゃべる聖剣、堀さんは仲良く戦っているんだとか。

 

 そのとき成瀬は入ったばっかで魔物を倒そうと必死だった。

 だからこそ、竜平の説教が身に染みたのかもしれない。

 

 だけどチョロインすぎると思う…

 

「見えたぞ、5時の方向、敵だ!」

 

 堀さんの的確な指示で、竜平がまずは敵に一閃。光るエフェクト的なのかっけえ。

 敵はドラゴン、にしては多少小型か。ワイバーンあたりだろうか。

 

「うお!」

 

 焔はいてくるのは珍しい。竜平は間一髪でかわすが、これが、住居に当たったらひとたまりもないはずだ。 

 

「何をしている。お前らは町民を避難させればよい。ここは俺らが倒す。

 余計なことに首を突っ込むな、運のいいだけの凡人が」

 

 おお、先輩からの嫌味だ。本部の中でもエリートで通っている第1小隊の方じゃないっすか。

 竜平の方が強いんだけどね。

 

「しかし、俺たちの方が先に到着済みです。ここで倒してしまった方がよいかと」

 

 律儀に答えるなよ竜平。

 プライド高い人ってのは、指図されたくないものなんだよ。

 

「図に乗るなよ。

 これは上司命令だ、これ以上余計なことをしたらただじゃおかねえ」

 

 しかし、現に魔物はもう迫っている。

 おそらくあと数分で住宅街についてしまうだろう。

 

「わかりました」

 

「秀人!?」

 

 竜平に黙れと指で合図をし、話を続ける。

 

「この魔物は、あと数分で街につくでしょう。そのような場合の被害は『全て』先輩方の『責任』ということで、よろしいですね?」

 

「何? ちょっと待て」

 

 なんでこうもプライドの高い奴は、責任、という言葉に弱いのか。

 

「よし、わかった。攻撃を許す。

 ただし、あくまで俺らがそこに行くまでの間だけだ」

 

 どうせ倒しても手柄はあんたたちのものなんでしょ。

 もとから人を助けるためならルールとか気にしないやつだ。

 自分の立場が危うくなっても、助けに行くだろう。

 だがそれはだめだ。

 竜平はもっと多くの人を救わなくてはならない。

 こんなところで、主人公が戦わない――――なんて展開、あってはダメだろ?

 

「というわけだ、竜平、倒しちまえ」

 

「サンキュー、秀人。

 堀さん、行きますよ」

 

「了解した」

 

 どうせすぐに倒してしまうのだろう。竜平は。

 あいつは強い。それは俺が一番知っているはずだ。

 俺は一人であんな魔物は倒せないだろう。

 だからこそ、そんな竜平がうらやましくて、住民への避難を勧告することしかできない自分が、

 

 

――――とても、惨めだった。

 

 

 

-----

 

 

 

 朝だ…

 

 昨日のことなど、すべて忘れてしまえるほどにすがすがしい朝だ…

 

 

 …まあ、昨日、ワイバーンを取り逃がして、始末書を書いている事実は変わらないが。

 竜平なら絶対倒せると思ったんだが、いきなり消滅してしまったらしい。

 おかげで、第一小隊の方からは嫌味を、上層部からは怒りをいただいた。

 

 竜平かっこつけた意味ねーじゃん。

 

 俺たちはまだ高校生だが、メサイアに入っているだけで、会社員扱いされる。

 年齢に関係なく、不祥事を起こせば始末書は書かなくてはならない。

 

「この度の不始末に関しましては、心からお詫び申し上げます、と」

 

 今年、というかメサイアに入ってから、書いた始末書の数は両手を超える。

 竜平は書いてないのにな… 一回書かせたら、ひどい内容だった。

 ごめんなさい、次から気を付けます、としか書かれてない始末書って…

 

「何書いてんの?」

 

 日向か… 昨日帰ったのが23時、始末書は朝起きてすぐに書き始めたから…

 

「そんなことより今何時だ?」

 

「え… 9時だけど?」

 

 寝すぎた。日向が今起きたようなので、竜平たちはもちろん寝ているだろう。

 今日は日曜だからいいが、生活リズムは崩すべきではない。

 

「すぐに朝飯つくる。手伝ってくれ。」

 

「ほぇ?」

 

「竜平たちを起こしてきてくれ。」

 

 そういえば、ほぇ?って何だよ、ほぇ?って… 普通、へ?とかじゃないのか?

 竜平たちは朝に弱い。

 優香は、自称低血圧で、朝は動かないし、

 成瀬は、寝起きの機嫌がものすごく悪い。

 竜平は… 寝ぼけてる時がひどい。何が楽しくて男子高校生に抱き着かれなきゃならん。

 

 あっちでは今頃日向が悪戦苦闘しているころだろう。

 普段と違って人ごとのように思いながらチャーハンを作る。

 

 

-----

 

 

 

「「「(…)いただきます」」」

 

「」グッタリ

 

 テンションの落差が激しいな。

 あれから30分ほどしてやっと起きた。日向は目に見えて疲れている。

 

「うめー」

 

 竜平は料理の感想をうまいとしか言わない。てか言えない。

 もう少し感想のバリエーションを増やしてほしい。

 

 竜平の家には、今両親がどちらもいないので、ここ数週間、コンビニのおにぎりなどで過ごしていたらしい。

 成長期の人間にはちゃんとしたものを食わせてあげたいが、竜平も優香も、どちらも料理ができないなら、多少は仕方ないかもしれない。

 

「そういえば、今日日曜だよな。みんなどうする?」

 

 竜平は始末書を書けるようになってくれ。 

 

「…メサイアも休みだし、私は特に何も…」

 

「ボクもかな」

 

「俺も特にないし、みんなで…「あら、竜平君は私と出かける予定だったわよね?」うん、そうだった。うん…」

 

 おお、怖え。半ば脅迫じゃねえか。

 昨日帰ってきたときみたいにデレろよ。「私はちゃんと任務がこなせるかが心配なだけで、あんたたちの心配なんてしてなかったし!」とか。

 一緒に出掛けることも、こいつにとってはかなりのデレなのか。

 

 俺は始末書をFAXで送ろうかな… 怒られるな…うん。

 

 

-----

 

 

「じゃあ行ってくるわね」

 

「…」

 

「いってらっしゃ~い」

 

 竜平は昨日のこともあって無言なのだろう。

 でも、どうせ楽しんで帰ってくるから不思議だな。 

 

 時刻はまだ11時前、あわただしい朝と比べたら、ゆっくり過ごせそうだ。

 竜平ん家は新聞を取ってたかな… あったあった。

 

「ねえ、なんかしようよ」

 

「…」

 

「新聞とかおっさん臭いよ。あそぼ」

 

「はいはい」

 

「ひ~ま~」

 

「魔術の訓練でもしてろよ」

 

「いや使い方知らないし」

 

「そうだった…」

 

 日向は楽観的だから忘れてたが、記憶喪失ってホントめんどいな。

 

「魔術使うのにやり方なんてねえよ。念じれば出る、それだけ。

 ただ、魔術の行使には個人差があるけどな」

 

「個人差?」

 

 世の中、どうしてもできる人とできない人がいる。生まれつき、は変えられない。

 世知辛いな…

 

「例えば、体内に魔力がなければ魔術は使えない。

 この魔力がない人間もいる」

 

「ボクには?」

 

「あるぞ」

 

 俺だって、竜平だって魔術は使える。

 ある程度使っていれば、使える人の区別ぐらいはつくさ。

 

「で、さらに魔術には、四大元素の『火』『水』『風』『地』が絡んでくる。

 例えば、竜平は、火を作り出して戦う。

 そんな風に、魔術を応用して使うときに、この元素が絡む。」

 

「ふ~ん」

 

 たぶんこいつわかってないな。別にいいけど。

 

「で、中でも、魔導士や聖職者は、普通の魔術使いよりも、一度に強力な魔術が使える」

 

「なんで?」

 

「魔術ってのは、ようはエネルギーの置き換えなんだ。

 魔術使いは、自分の体にあるエネルギーを、火や水に変えて使うけど、魔導士たちは、外の熱エネルギーや、太陽エネルギーからも魔術を使えるんだよ」

 

「ボクもいつか、魔術、使えるかな?」

 

 おそらくすぐにでも使えるだろう。そのくらい、魔術は向いているはずだ。

 

「たぶんな」

 

 そしたらボクも役に立てるね、と、冷静にしようとしているが、嬉しさがよく伝わってくる。

 わかりやすい奴だな。

 

「そういえば、魔術と違って超能力ってのがあるな」

 

「超能力?」

 

「ああ、まだよくわかってないらしいけど、人間すべてが持つ潜在能力で、なんでも魔術を超える力が使えるとか」

 

「へ~、どんなの?」

 

「確か衝撃を自由に操る能力だったかな? 超能力って呼ばれてるのは。

 人ひとりひとり違うらしいけど」

 

「竜平君とか、使えそうだね」

 

 ハハハ… 絶対使えるようになるな。なんなんだよアイツ。

 


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