アイツはゲームの主人公   作:凍砂糖

2 / 5
第二話「主人公補正なラッキースケベ」

 今更ながらこいつの危機感はおかしいと思う。

 やっぱり、赤の他人の前でのうのうと飯を食うとか俺には無理だ。

 

「ムシャムシャ」

 

 即興で作った野菜炒めをうまそうに食べる少女は、どう見ても行き倒れた人間には見えない。

 

「?」

 

「どうした?」

 

「いや、箸が止まってるなあ、と思って」

 

「ああ、なんか、自分の作った料理を人に食べてもらうって久しぶりだなあ、って思ってな」

 

 実際、一人暮らしの俺には大体の家事スキルがついているが、誰かに料理をふるまうのはそうそうない。

 

「お父さんとか、いないの?」

 

「物心ついたときにはいなかったな」

 

「ふ~ん、そういえばさ、大丈夫なの?」

 

「何が?」

 

「いや、こんな時間にレディ連れ込んで、彼女とか……」

 

 レディって言える年齢かお前。明らかに中学生だろ。

 

「まあ、少し前まではいたけど、今は独り身だな」

 

 俺は竜平と違って「彼女ほしいな~」とか言ってハーレムを作ったりしない。

 恋愛ぐらい自由気ままにしたいよな。

 

「へ~ なんか意外」

 

「何がだ?」

 

 彼女がいたことか? 今いないことか?

 

「なんか顔怖いし、不愛想だし、彼女いない歴=年齢かと」

 

 失礼だなこいつ。

 まあ顔については自覚はしてる。

 ジト目、とよく呼ばれる眼に生気は少ない。また、鋭い犬歯は印象が良くない。

 

「顔は生まれつきなんだよ。てか」

 

「何?」

 

「お前はなんでそんな奴のこと頼ったんだよ」

 

 俺だったらこんな奴からはすぐに尻尾を巻くだろう。

 

「なんでって… なんとなく?てかボクはお前じゃない」

 

 質問に質問で返すなよ。

 ったく、これだから今どきの若者は…

 てか名前とか別にいいじゃん。

 

「じゃあボクからも質問。

 なんでボクを助けたの?」

 

「なんでって… なんとなく?」

 

 訂正。俺も今どきの若者でした。

 そしてこいつはなぜか満足そうだ。なんかうぜえな。

 

「ごちそうさま、風呂入りたいんだけど…」

 

「それなら廊下を出て右だな。

 服は… 悪いが今着てるのを着てもらうしかないな。」

 

「ええ~」

 

 なんだかんだ言いつつ、部屋を出てく。

 なんか飯食ったら生意気になったな。

 服は、明日メサイアに行ったら、竜平攻略ヒロインの誰かに頼もう。てか押し付けるか。

 

 シャワーの音がする。なんか眠くなってきた。

 無理もない。今日は訓練から帰ってきたら、よくわからないことの連続だ。頭が理解の範疇を超えている。

 

 ちなみにもし俺が竜平なら、なぜか風呂場に行き、なぜかバスタオルだけを身にまとった女子に遭遇し、なぜかその子のバスタオルが落ち、なぜか竜平は殴られる――――殴られるのは当然か。

 竜平はこんなラッキースケベを不幸と言う。

 いや、まず風呂場に行った時点で自業自得だし、女子の一糸まとわぬ姿とか、なかなか見れるもんじゃない。

 

 ―――眠い。

 俺はついに睡魔に耐えられなくなり、その場で意識を失っていった。

 

 

-----

 

 

 朝だ。

 隣で少女が寝息を立てている――――――

 俺のパーカーを着て。

 

「はぁ…」

 

 思わずため息が出る。

 竜平なら、速攻でフラグを立てるところだが、俺の場合はそうはいかない。

 むしろ自分から追っていくスタイル。俺マジ紳士。

 

 

 キモイな俺…

 

「ん…」

 

 やばい、そろそろ起きそうだ。とりあえず部屋の外に出よう。

 ベランダに出て、冷たい風を浴びて頭を整理する。

 

「俺は中学生に手を出したりしていない俺はロリコンじゃない俺は…」

 

 もはや洗脳だこれ。

 

「何してんの」

 

 いつの間に起きたのか、日向が背後に立っていた。

 

「ああ… 目覚ましに朝の光を…」

 

「そう…」

 

 今の「そう」には「うるせえ」ていう意味があった。

 

 

-----

 

 

「で、今日はどうするの?」モグモグ

 

 フレンチトーストをほおばりながらしゃべるなよ。

 

「メサイアには午前中に行くべきだろうな。

あとは、女性隊員にお前のこと紹介して、午後は服買ったりとか…

まあ、身元捜索とかは後になりそうだ。とりあえず生活面を優先しよう」

 

「そう」モグモグ

 

 少し思ったが、こいつは自分のことに無頓着すぎる気がする。

 記憶を戻したくないのか?

 

「まあ、食い終わったら出発するつもりでいてくれ」

 

「いいよ~」モグモグ

 

 

-----

 

 

「じゃあ、行くか」

 

 とりあえず、まっすぐメサイア本部へと向かう。

 

「そういえばさ」

 

「なんだ?」

 

「ボク、魔物見てないんだけど、ほんとにいるの?」

 

「魔物って言っても、野生のものはごく少数。だいたい悪の組織の手下で、そいつらが活動するのも週に一回くらいだしな」

 

 だからメサイアの活動なんて基本訓練とパトロールみたいなもんだ。

 

 本当はさっきから魔物の気配がする… 何もしてこないけど。

 

「へ~」

 

 そろそろ着きそうだな。

 自宅から徒歩十分。我ながらいい物件に住んでいる。

 

「あれがメサイア本部、数多くいるメサイア隊員の中のエリートが集まる精鋭部隊の本拠地だ。」

 

 警視庁顔負けの高層ビルには、職員、隊員、延べ3万人が所属している。その中に各ジョブごとの部隊があって、様々なジョブの人間で結成された小隊があったり、割と大規模な組織である。

 

「自分で自分のことエリートとか……」

 

 そこ、引いてんじゃねえ。

 てか、もしホントならお前もエリートじゃん、別にいいじゃん。

 

 まあ、とりあえず竜平たちのところに行くか。 

 

 そんなわけで、エントランスのオペレーターさんのところへ行き、入場許可を得る。

 

「隊員NO.171360 本部 第9小隊隊員 ジョブ:工作員 月詠秀人さんですね。

 ただいま入場許可を与えます」

 

 カードの番号を見ると、なんか自分が新参者なんだなぁ、って思ってしまう。

 全国にいるメサイア隊員数は、約18万人。

 てゆうか、創立から5年にしてはなかなか大規模な機関だ。

 まあ、中には警察官が兼任しているところもあるそうだが。

 

「お連れの方は隊員証をお持ちですか?」

 

「あ、これです」

 

 アイツが倒れた時に持ってた隊員証を見せる。

 てかこういう時「あ、」って最初につけちゃうのって何なんだろうな。別につけなくてもいいのに。

 

「隊員NO.184235 本部 小隊未所属 ジョブ:聖職者 日向光咲さんですね。

 入場許可を与えます」

 

 へえ、俺よりも新入りなのか、それで本部隊員ってことはなかなか素質があったんだろうな。

 小隊未所属なら、いろいろやりやすい。記憶喪失のせいで小隊の隊員とか覚えてないとめんどくさそうだ。

 そんなことを脳内でつぶやきながら、入場許可がもらえるのを待つ。

 

「入場許可取得完了 入っていいですよ」

 

 そうだ、竜平のこと忘れてた。

 

「あ、すいません」

 

 また「あ、」って言っちゃったよ…

 

「第9小隊の隊長、神野竜平って今どこにいるかわかります?」

 

「はい、竜平さんなら、ただいま第9小隊のチームルームにいらっしゃいます。

同じく第9小隊の成瀬千春(なるせちはる)さん、神野優香(じんのゆうか)さんも一緒にいらっしゃいます」

 

 あいつらもいるのか… あ、でもあいつらに押し付ければ全部解決じゃね?一応女子だし。

 ずっと俺ん家に住むわけにはいかんだろうし、専門家に見てもらわないけど理解してもらえるだろう。

 こいつも今着てる服は昨日の服だしな…

 

 てかさっきから襟を引っ張るな襟を

 

「なんだ?」

 

「いや、ボクこれからどこに連行されるのかなあ、っておもって」

 

「いや、とりあえず俺一人じゃ何もできんからな。仲間のところに連れて行こうと思って」

 

 そこから、あの施設はなんだとか、小隊ってなんだっけ、とか説明しつつ、チームルームに到着。

 

 第9小隊は実質竜平のための部隊だ。

 武器に選ばれる、というイレギュラーなできごとのせいで、上層部は対応に困り、とりあえずどこかの小隊に入れようとしたが、どこも入隊を断った。

 そんなわけで、新入りを適当に組ませた結果が、第9小隊だ。

 

「第9小隊のメンバーは、なかなか個性が強くてな、特にさっきの竜平は……」

 

 第9小隊を説明しつつ、ドアを開けると――――

 

 

 竜平が成瀬を押し倒していた。

 

 明らかにその左手は成瀬のつつましい胸に触れている。

 いやどうしてこうなった…

 俺がノックしなかったせいか。

 

 とりあえず静かにドアを閉める。

 

「とまあ、あんな感じにいつも女の子と触れ合っているんだ」

 

「ちょおおおおおお 秀人おおおおおおお」

 

 うるせえな竜平。

 

「へ、へえ~」

 

 こいつの顔めっちゃひきつってるよ。第一印象最悪だな竜平。

 

「なんかめっちゃ不名誉な紹介をされた気がするうううう」バゴォン

 

 あ、殴られたな。ツンデレって怖ええ。

 

 

-----

 

 

「さっきのは見なかったことにすること。いいわね?」

 

「おう…」

 

 成瀬の迫力に気おされてか、日向はものすごく首を縦に振っている。

 

「? ていうかあなた誰?」

 

 今更かよ… てかどう説明すっかな……

 

「あー、こいつはメサイアの新入りでな…「あなたには聞いてないの」はい…」サーセン

 

「?」

 

 めっちゃオドオドしてんじゃん。大丈夫なのかよ。

 記憶喪失のこととかまだ全然言ってないんだけどな…

 

「ボクは日向光咲。ええっと、たぶんメサイア本部の新入りで、そのことを言ったら秀人がここに連れてきた」

 

 わりと大丈夫だった。敬語使う気ゼロなのが気に障るが、大丈夫だろう。

 

「へえ、私は成瀬千春。第9小隊副隊長、ジョブは侍、よろしく」

 

「ボクのジョブは聖職者、よろしく」

 

 なんか俺空気だな。

 

「なんか俺空気だな…」

 

 まじか… 竜平と思考が被っちまったよ。世界一アホの子の竜平と…

 

「秀人失礼なこと考えてないか?」

 

 エスパーかよ

 

「…兄さん、私の方が空気…」

 

「おお、我が妹の優香、いつからそこに?」

 

「多分お前が来る前からいただろうな…」

 

 優香は影が薄い。それを生かして工作員になればいいのだが、体力面に不安があるから、魔導士として活動している。

 最も、基本的にクエストの受注やオペレートをするだけだが、魔力量はそこらの魔導士の数倍あるだろう。

 

「まじかよ…」

 

 いや気づけよ。鈍感難聴主人公。

 

「まあ、とりあえず簡単な自己紹介をしていこう。な?」

 

「…」コクッ

 

 まあ、こういうとき、場を仕切るのがうまい竜平はせこい。

 ましてや、優香が多少ブラコンなので許してもらえるのもせこい。

 

「ええと… 俺は神野竜平。秀人から聞いてるかもしれないけど、第9小隊の隊長で、剣士やってる。よろしく」

 

「…私、神野優香… そこの竜平の妹… ジョブは魔導士…」

 

「よろしくお願いします」

 

「光咲は、何か小隊には所属してないのか?」

 

 いきなり名前呼びかよ… こいつすげえな。

 あ、そういえば

 

「そういえば、ボク、記憶喪失なんだった。」

 

 いやお前が忘れるなよ。

 

 

-----

 

 

「記憶喪失ね… 何か思い出す手がかりとかはないの?」

 

 成瀬はたまにオカン属性を発揮するな。面倒見がいいのはいいことだ。

 

「ええっと… 何にも覚えてなくて…」

 

「昨日こいつが俺ん家の前に行き倒れててよ。まあ雨も降ってたし、とりあえず家に…」

 

「家に連れ込んだの!?」

 

 は? 別によくね? 雨に濡れてる人を助けるのは当然のことだ。

 

「いや、そのとき警察に届ければよかったろ」

 

 その発想はなかった…

 珍しく竜平にまともなこと言われた。なんか悔しいな…

 

「いや、拾ったもんはしょうがないし、とりあえず衣食住の面を相談しに来たんだが」

 

「たまにあなた抜けてるわよね…」

 

「いいから、服とか買ってきてもらえないか?

 その間に、俺と竜平で寮の手続きとかするからよ。

 確かお前、2人部屋で1人空いてたろ。

 日向もそれでいいよな?」

 

「まあ、何とかやっていけると思うけど…」

 

 とりあえずメサイア本部の寮に住めばいい。

 なんか日向は成瀬になついてるし、大丈夫だろう。

 俺にしては珍しくついている。

 

「ああ… それなら先週から私、一人部屋にしたわよ」

 

 俺はいつも通りついてないな。

 

「じゃあ竜平ん家に住もう」

 

「「「え?」」」

 

 ハッピーアイスクリーム!……このネタ知ってる奴いんのかな。

 別にいいじゃん。竜平ん家広いし。

 

「な、な、なんでそんなことになるのよ!」

 

「いや、俺ん家何にもないし、防犯とかなってないし、

 もう竜平ん家に一緒に住めば連絡とか楽かなって……」

 

 自慢じゃないが、俺ん家には泥棒が数回入ってきたことがある。全部倒したけど。

 魔物とか入ってきても、誰かを守りながら戦うのは苦手だし。

 

「ああ、なるほど」

 

「ええええええ?!」

 

「あ、俺も住むよ。

 メサイア本部隊員が3人いれば大丈夫だろ」

 

「ええ… でも…」

 

 なかなか納得しない。

 成瀬にとっては、好きな奴のとこにわけのわからん女が住むわけだ。確かに心配だろう。

 

「ちょっとこっち来い」

 

「?」

 

 壁際に呼んで、本当の理由を教えるとしようか。

 

「実は、昨日から日向の周りを魔物がうろついてんだよ。

 理由はわからんが、いつもの数倍は魔物に出くわしてる」ヒソヒソ

 

「なるほど、そういうわけね… いいわ、協力してあげる。ただし…」

 

「ただし?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。