オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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アイドルは希う

 やれやれ。

 

 翌朝、オレとウサギちゃんはルチアちゃんとの約束を果たすためにライブ会場へと足を運んだ。

 

 ウサギちゃんに急かされて9時半頃には中に入って見学をさせてもらっていた。

 

「チルル、今のところもう一回初めから!」

 

「チルルー!」

 

 ルチアちゃんとチルルしか立っていないステージ。

 

 えらい気合が入っている2人。

 

 オレとウサギちゃんが見ているからなのか、それともいつもああなのか……昼から始まるライブの本番に向けて真剣に取り組んでいたトップスター達。

 

 あぁ、こんな所見せ付けるだなんて本当にルチアちゃんは意地悪だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 少女は少年に自分の気持ちのまだ半分しか伝えていない……

 

 少女の夢はアイドルになって人々を笑顔にしたかった。

 

 少女の想いはアイドルとして人々に感動を与えたかった。

 

 少女の願いは自分のように人々に夢と希望を持って強く生きて欲しいことだった。

 

 こんな素晴らしい世界で、だけど残酷でもあるクソッタレな世界の不幸な連鎖を断ち切りたかった。

 

 大袈裟な言い方だが少女は不幸の一部を体感したからこそ強くそう望んだ。

 

 これが運命なのかもしれない。

 

 きっかけは、たまたまボランティアとして海のポケモンを助ける支援団体のお手伝いをするお仕事だった。

 

 当時はアクア団なんてチーム名称さえ無く、ただ純粋に何か力になりたいだけだった。

 

 ヒトのエゴで住処を奪われたポケモンたち。

 

 背景にはマグマ団という悪い組織が関係していると噂を聞くこともあった。

 

 良い印象は持てなかった。

 

 寧ろ恨みさえした。

 

 悔しかった。

 

 だから少女は負けじとできるだけ援助を尽くした。

 

 たったそれだけだったのに……

 

 一体どこから狂いだしたのだろうか……

 

 団体が少女を正式にオファーした時からだろうか……

 

 団体がアクア団というチームと合併した時から運命の歯車は狂いだしたのだろうか……

 

 それとも、アクア団の人事の一部を任された時からだろうか……

 

 それとも、団長がカイオーガという伝説のポケモンを復活させようと企んでいるのを知ってしまった時だろうか……

 

 もう気付いた時には手遅れだった。

 

 一旦回り出した歯車は止まらない。

 

 アイドルとして活動し、ファンはもれなくアクア団員予備軍となっていく。

 

 初めの頃は本当に争いなど無縁だった。

 

 しかし、マグマ団のせいで戦闘は回避できなくなってきた。

 

 どうしても衝突してしまう。

 

 お互いの価値観がぶつかってしまう。

 

 少女は悟った。

 

 時には止むを得ないのかもしれないと目を逸らしてきた。

 

 でも、そんな甘い考えがさらに残酷な世界にする。

 

 決定的な事件が起きた。

 

 それは半年前の話だ。

 

 アクア団の一部が暴走して1人の少年を誘拐した。

 

 少女がスカウトした者たちの暴走だった。

 

 誰もそんな命令だしてはいない。

 

 しかし、実際起こってしまった。

 

 暴力を振るった。毒を盛ったとも聞いている。

 

 少年の風貌は変わってしまうほど激薬だったのだ。

 

 病的に白い肌、白い髪の毛、赤い瞳……でも、それはマグマ団の幹部が開発した特効薬によってなんとかその症状で納まった。

 

 奇跡的にも。

 

 だが、その激薬は少年1人に使っただけじゃなかったとしたら……誰に使ったさえ、わからない。

 

 こそ泥と呼ばれる凶暴生物な少女も同じ風貌だった。

 

 少女も奇跡的にも少年が持っていた特効薬の予備によって助けられた。

 

 生存確認できているのはその二人だけだ。

 

 取り返しのつかないことをした。

 

 さすがに団長も彼らを罰して牢屋に閉じ込めてた。

 

 でも全てが遅い。

 

 少年は表向き行方不明となっている。

 

 しかし、マグマ団に身を置いていることは知っている。

 

 復讐をするために。

 

 アクア団が憎くて怨めしくて破壊の限りをつくしている。

 

 こうなってしまったのは自分のせいだ。

 

 自分が彼らをスカウトしたから、と少女は悔やんでも悔やみきれなかった。

 

 すぐにでも謝りたかった。止まってほしかった。

 

 少年に関わったアクア団は皆病院送りだ。

 

 ある者は今も意識不明の重態や昏睡に陥る始末。

 

 少女は怖くて少年の前に出ることができなくなった。

 

 ただ、罪悪と共に憎悪もあった。

 

 アクア団が憎くて仕方が無いのはわかる。

 

 でも皆が悪いわけじゃない。

 

 海に住むポケモン達を守りたいと思って純粋に活動している人達を、友人を傷つけていい理由はない。

 

 でも、自分には何も言う資格はないのだと半年も何の対処もできずに悩んでいた。

 

 この半年の間にアクア団員は増え続ける一方だった。

 

 上が勝手にアクア団員予備軍の中から少年に太刀打ちできそうな将来有望な者を厳選した時も止めることができなかった。

 

 結果、彼らもまた病院送り。

 

 問題は少年だけじゃない

 

 少年の傍らにいる少女も問題児だ。

 

 あの2人がコンビを組んでさらに現状は悪化した。不の連鎖は留まることを知らなかった。

 

 目を当てられないほどに見てられなかった。

 

 少女は考えに考えた。考えて考えて少年を止める方法を模索した。

 

 しかし結局もうこの2人は止まらない。

 

 全てを敵に回してもアクア団を叩くつもりだろう。

 

 答えは聞かなくてもわかっている。

 

 でも、少女は責任を取らなければならない。

 

 自ら生み出した悪夢の責任を……

 

 そして、今まで少年から逃げて伝えれなかったことを全部伝えなければならなかった。

 

 昨日で全ての準備を整えた。

 

 彼らのモンスターボールも全て没収した。

 

 ぬかりはない。

 

 そんな無防備で、こうしてノコノコまぬけにもやってきた彼らに笑みさえこぼれる。

 

 そして……

 

 リハーサルを見学しにきた彼らに少女は訊ねた。

 

「君たちの返事、もう一度聞かせてよ……もちろん、私のナイトになってくれるよね??」

 

「「まー、アレだ。却下!!」」

 

「やっぱり、即答なんだね……」

 

「オレ達もよーく考えて出した答えだからな」

 

「それでマグマ団が弾圧されても?」

 

「オレ達に全てを委ねたんだ。皆、きっとわかってくれるさ」

 

「田舎の両親が悲しむよ?」

 

「彼らには不幸になる権利がある」

 

「あの人が迎えに来ても?」

 

「その時は海外へ逃げるさね」

 

「残念だよ、オメガくん。ウサギちゃん……じゃあ君達の快進撃もここでおしまいだね…………チルル、メガシンカ」

 

 丸腰な子供2人が相手でも圧倒的なポケモンのパワーでねじ伏せまで。

 

 それに会場にはアクア団の手の者で溢れていた。

 

 少年たちの逃げ場はもうない。


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