オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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夜のモナミ

 PM7:00――――

 

 オレ達は民宿『モナミ』へ訪れ、ルチアちゃんと対面した。

 

「オメガくん、ウサギちゃん。もう知ってると思うけど私はアクア団の人間だよ」

 

 これは想定内。

 

「戦闘員じゃなくスカウトする側の人間だね。アクア団に入りたいっていう人達をスカウトするの」

 

「そんな………ルッチーが…………はぅ」

 

 ウサギちゃんにとって予想外だったみたい。

 

 あまりのショックに気絶したけどスルー。

 

「でも、オレたちは偽の情報を掴まされココまでノコノコやってきてしまったわけだが……マヌケにもウサギちゃんは本当にルチアちゃんを助けようと思っていたらしいからな。そこんとこは残念に思ってるよ」

 

「私も」

 

 本当に残酷な世界だよな、ウサギちゃん

 

 ウサギちゃんは隣で寝かせといてあげよう。

 

 まー邪魔が入らずちょうどいいや。

 

「オメガくんも座りなよ」

 

「モチ……しかし、凄いご馳走だな。フエンじゃここまで盛大なコースは中々お目にかからねーぜ、ルチアちゃん」

 

「無理言ってお願いしたの」

 

 目の前にはミナモで採れる旬な食材を使った豪華なご馳走が並んでる。

 

 最後の晩餐的なフラグが建ちそうなほどに美味しそうだ。

 

 ウサギちゃん、目を覚まさなければオレがちゃんとお前さんの分まで残さず食べるから。

 

「じゃあ、遠路遥々やってきてくれたオメガくん、そして気絶しちゃってるけどウサギちゃん、お疲れさまです。かんぱ~い♪」

 

「かんぱーい」

 

 さあ宴じゃ。

 

 ルチアちゃんはパートナーのチルルを出していない。

 

 戦闘の意志はないのかモンスターボールを取り出す素振りもなく、やっと晩御飯にありつけたといった感じで舟盛りの刺身に手を伸ばしていた。

 

 戦闘員じゃない彼女ならではのやり口だろうか。

 

 確かに無防備なアイドルに攻撃を仕掛けるのはさすがにマズイだろう。

 

 マグマ団の存続にも関わるこの極限状態だ。

 

 すでに追い込まれているのはこっちなんだ。

 

 オレもそこまでバカじゃない。

 

 相手も話し合いのためにこの場を用意したんだ。

 

 わざわざ用意してくれたんだ。

 

 ちゃんとメッセージは受け取った。

 

 だったらルチアちゃんの望み通り話し合いをしようじゃないか。

 

「マグマ団、最近不景気らしいんだってね?」

 

「はて、なんのことやら……」

 

「でも、私知ってるの。マグマ団は伝説のポケモン・グラードンを探しきれていないことを……正確にはロストしたんだよね?」

 

「………」

 

「だから今日も君たち2人だけなんだよね?」

 

「ちっ………」

 

「そんな怖い顔してももう怖くないよ、オメガくん」

 

 確かに、最近ずっとウサギちゃんと2人きりの任務が続いていた。

 

 2人でも十分な戦力だから問題はなかった。問題があるとすれば、グラードンをロストしたことを知ったアクア団の奴等を調子付かせてしまったということだ。

 

「君は内心焦っているんだよね。伝説のポケモンはロストし、アクア団は確実に数を増やしてきている。駆逐しても駆逐してもまた沸いて出てくるその原因がこの私だということに気付き、さらに焦っている」

 

「イジワルだなー、ルチアちゃんは……」

 

「オメガくん、私は君みたいな可愛い男の子に意地悪するのが大好きなんだよ。だから、もっと意地悪な事言ってあげる。君達が懸念している戦争の回避方法を私の意地悪な提案で解決してあげる」

 

 とても魅力的で魅惑的で妖艶的にも胸元を少し広げた小悪魔がニヤリと笑っていた。

 

「オメガくん、私達の仲間になってよ。そうすればマグマ団は戦争しなくて済むよ。うん、約束する♪」

 

「ははっ、これは想定外だ……ルチアちゃん、バカも休み休みに言わないとダメだぜ?オレをアクア団に勧誘するだって??」

 

「ウサギちゃんと一緒においでよ。可愛がってあげるから♪」

 

 いきなりぶっこんできたな。

 

 怖いもの知らずというか肝っ玉すわってるというか、流石はアイドルというべきか。

 

「まー、アレだ。却下だ」

 

「即答なのね!?」

 

「当然、オレ達は腐ってもマグマ団だぜ?敵に寝返ったりはしねーよ」

 

「やだ、カッコいい」

 

「え、そうかな……??」

 

「私ね、オメガくんみたいな危険な男の子がタイプなんだ」

 

「あ、あっそう……」

 

 やだ、照れる。

 

 今オレは心を乱されてる??凄く揺さぶられてる??

 

「君、カワイイ顔してやることなすことクレイジーなんだもん。ちゃっかりファンとかいたりするんじゃないのー?」

 

「い、いねーよ、そんな……やつ…………」

 

 やだ、ヤバイお姉さま方を数人思い浮かんじゃった……

 

「じゃあ私が立候補しちゃおっかなー? 私のナイトになってよ、オメガくん」

 

「ぶっ!? ナ、ナイトだって……??」

 

 やだ、お魚さんの身が吹き出しちゃった。

 

「そうそう、私を守ってくれる騎士(ナイト)に。ダメ、かな……??」

 

「ダ、ダメだってルチアちゃん。オレ達は敵同士なんだ。火傷だけじゃすまねーぜ」

 

「だからオメガくんがアクア団に入ればいいんだよ。これで2人を隔てる壁が取り除かれた。はい、解決♪」

 

「やだ、こんなにもあっさりと……」

 

「それに私のナイトになるってことはさ、オメガくんは私にとって特別な存在になるんだから。オメガくんが望めばエッチなこともしてあげるよ?」

 

「マジでか……」

 

 ごくり……

 

「じゃ、そういうことでアクア団になってくれるってことでOKだね?」

 

「ぐ、ぬぬ……却下だ!」

 

「ちっ」

 

「………」

 

 ルチアちゃんに舌打ちされた。

 

 つーか、なんだよ、何なんですかこのやり取りは。このノリは!

 

 オレはもっとシリアスな展開が始まると思ってたわ!

 

 マヌケにもあともう少しでハニートラップに引っ掛かるところだったぜ。

 

 これが枕営業ってやつなんでかすねー、ルチアちゃん??

 

「さて気を取り直して、次は違うアプローチで攻めてみるよー♪」

 

「えー……」

 

 またイジメられるのか……

 

「オメガくん。私って裏の顔はアクア団だけど表の顔はアイドルじゃん。けっこう顔見知りな方でね、各地のスターやポケモン協会のお偉いさんともお知り合いだったりするんだよ……って言わなくも分かってるよね??」

 

「だからオレ達マグマ団はピンチなんだよ…ルチアちゃん、オレが欲しけりゃ君がマグマ団に入ればいい。オレを煮るなり焼くなり好きにするがいいさね」

 

「いやいや、話の腰を折らないでよオメガくん。とても魅力的な提案だけど却下♪」

 

 私にも譲れないものがある、とルチアちゃんは話を続けた。

 

「さて、ここで問題です。私は君に対して切り札を持ってます。『オメガキラー』、残念ながらその切り札を使えば君はマグマ団ではいられなくなるどころかホウエン地方から去らないといけなくなります。オメガキラーに心当たりは当然あるよね?オメガくん??」

 

「ル、ルチアちゃん?どうして君がそのことを知ってるのか知らないが、それは今この話しに持ち込む話題じゃねーよクソガキ」

 

「あ、今私に向かってクソガキって言ったね?年上のお姉さんに向かって!ついに本性を現したわね?オメガきゅん!」

 

「その呼び方はやめろ!きゅん言うのもダメだ!鳥肌が立つ!!」

 

 寒気もする。

 

「あの人にオメガきゅんって呼ばれてるんだってね? ねー、オメガきゅん」

 

「ヤメテ……本当に恥ずかしくて死にそう…………」

 

 ……あのクソBBA、ルチアちゃんにあの話しをしたとでもいうのか!?

 

 いや、今あの話は関係ないじゃん。

 

「オメガくん。今ならまだ間に合うよ!アクア団に入ってくれたら私が君とあの人との仲介役を担ってあげるよ!あの変態ショタコンから私が守ってみせるよ!!」

 

 それはそれはとっても魅力的な提案だ。

 

 だがしかし、断る。

 

「クソッタレが上等だよ……そもそもルチアちゃんの力を借りずもあのBBAへの対策は考えているから! 現チャンピオンだろうがショタコンだろうが恐怖の大魔王だろうが掛かってこいよ!返り討ちにしてやる!」

 

「やだ、カッコいいよオメガきゅん!」

 

 ふははっ、真正面から戦うなんて馬鹿な真似はしない。

 

 アクア団を全滅させたら海外へ逃げよう。

 

 などと、くだらない話しで無駄に時間が過ぎていく。

 

 主にあのBBAの悪口とか悪口とか悪口とか……いやー、スッキリした。

 

 閑話休題。

 

「つーか、そろそろ真面目に話しをしないか?ルチアちゃん。お腹一杯になってきた……」

 

「そうだね。こっちもちょっとふざけ過ぎてゴメンね……っていうか、ついにウサギちゃんの分まで手を出しちゃったね……」

 

 ごめんよ、ウサギちゃん。

 

 新鮮な魚は時間が勝負なんだ。

 

 特にお刺身とかな。

 

「さて、ルチアちゃん。オレは君がどれだけアプローチしてもアクア団に入るつもりはこれっぽっちもない。それは君も知ってるだろう。オレがアクア団を嫌う理由を」

 

「復讐、だよね。知ってるよ……だから私が止めにきた」

 

 そう、復讐だ。

 

 オレはホウエン地方に引越しした時に誘拐された。

 

 誘拐されアクア団にボコボコにされた。

 

 毒も盛られた。

 

 ウサギちゃんのように……病的に白い肌、白い髪、赤い瞳。そして、情緒不安定でアクア団を見るだけで破壊的衝動に駆られる……

 

 カガリたんの特効薬がなければオレもウサギちゃんも命は落としていた。

 

 そして、オレの初めて貰ったポケモンも深い傷を追わされた……

 

 それでアクア団を憎むなって無理だろ。傷つけないことなんて無理難題だ。

 

 こんな難問だが答えは簡単に導きだされた。

 

 アクア団をこの世から全部駆逐したらいいんだ。

 

 攻撃する対象がいなくなればオレ達の怒りも収まるだろう。

 

 せめて半殺しで病院送りにして悪夢を半年ぐらい見続けてもらうだけでいいんだよ。

 

 まーウサギちゃんの場合、復讐の理由はそうじゃないけど…………

 

 兎にも角にも、オレ達はアクア団がこの世に存在する限り暴れまくるつもりだぜ。

 

「ルチアちゃん……君1人じゃ割りに合わない、自分を過大評価し過ぎだ」

 

「そんなことない、私1人だけでも十分価値があるよ」

 

「価値?君に一体何ができる?君のファンをオレに襲わせるつもりか?それで今まで何人犠牲になった?それともこれからオレがそいつらを駆逐したらいいのか?何百人でも何千人でも何万人でも刺客送くりこんでくるのか??別にいいぜ、オレ達は受けて立つから。全力を持ってして力の限り命尽きるまで暴れるだけだから。そして、おめでとう全員が病院送りだ。下手したら死人もでるかもな。そこに差別はない。老若男女問わず皆平等に悪夢を見て不幸になってもらうことにするよ」

 

「オメガ君、言葉には気をつけた方がいいよ……そうならないためにも、お互い妥協点を見つけるためにここに来たんじゃないの??」

 

「オレは正直もう戦争以外ありえないと思っている。これでも今必死に破壊衝動を抑えているけど、いつルチアちゃんを攻撃するかわかったもんじゃない。襲ってもいいのかよ……だからルチアちゃんはオレを納得させる魅力的な条件を提示しなきゃダメだ」

 

「……ないよそんなの」

 

「一つ簡単な方法があるじゃないか。君がアクア団を辞めてくれるだけでいいんだよ。そうすれば無駄な犠牲も少なくなるぜ」

 

「だから、それができれば苦労しないっての!」

 

 ………。

 

 ルチアちゃんがキレた。

 

「君、歳の割りにたまに難しい言葉遣って偉そうに言うけどバカなんだね!」

 

「お、おう……」

 

 そりゃ酷いぜ、ルチアちゃん。

 

「私はアイドルなんだよ!誰もが知ってる今をときめくスーパーアイドル!!皆を笑顔にするウルトラアイドル!!皆に夢と希望と感動を与えるミラクルアイドル!!」

 

「よ、よせ、テーブルに罪はない……」

 

 バンバン叩いたらアカン。

 

 怒りはそっちじゃなく全部オレにぶつければいい……って、ちょっとこっちにこないで。

 

 やだ、押し倒された。

 

「アイドルが裏でアクア団やってて苦労しないはずないでしょうが!!オメガくんが妥協してくれないから私もう駄目です今日でアクア団辞めさせていただきますなんて言えるわけないでしょうが!!責任全部放りだして自分だけ助かろうとする真似なんてできるはずがないでしょうが!!」

 

「お、おっしゃるとおりです……」

 

「確かに、一部のヒトはカイオーガを捕まえようと躍起になってるいるけども!確かに一部暴走して君を誘拐したヒトもいたけども!!でも、皆が悪いんじゃないんだよ?」

 

「………」

 

「ねえオメガくん、皆がそうじゃないの。純粋に海に住むポケモン達を守ろうと、それを信じて活動しているヒト達もいるの……」

 

「………」

 

「そういう人達もいることをわかってよ!お願いだからもう暴れないでよ…………」

 

「………」

 

 ルチアちゃんは泣いた。

 

 オレのせいで泣いた。

 

 オレの上で泣き崩れた。

 

 オレはどうする事もなく抱きしめることもできなかった。

 

「オメガくん、もう一度考えなおして……お願いだから。時間をあげるから」

 

「………」

 

「明日の10時頃にコンテストライブ会場ステージに来て。ちょうど、明日のリハーサルをやってる頃合いだらか。顔パスで通れるようにしてあるから。そこで君達の最後の答えを聞かせてよ」

 

「わかった……」

 

 こうして、話し合いはお互い妥協点を見つけ出せれないまま、翌日に繰り越すことになった。

 

 何も解決しないまま、煮えたぎることもなく、だけどもお互いの心の中は見えたんじゃないのかな……

 

 もう後味悪い結末しか想像できねーよ、ルチアちゃん。

 

 ルチアちゃんは目を真っ赤に腫れさせて『輝石の間』を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それから1時間後に凶暴生物が目を覚ますことになる。

 

 ウサギちゃんが気絶していた間にルチアちゃんとどんなやり取りがあったのかを説明して……

 

「かくかくしかじかでこういうアレなんだ」

 

「へー、そうッスか…ルッチーの涙の理由は結局のところオメガきゅん先輩のせいッスよね?」

 

「ち、ちがっ……」

 

「許せねーよ、タコ先輩」

 

 え、なんでお前がキレてんの?

 

「オレたち仲間だよな、そうだろウサギちゃん!?考え直すんだ!!」

 

「仲間だけど今はルッチーの味方ッス。食べ物の恨みと共に1回シネ!」

 

「や、やめ……ほげー!?」

 

 このあと、ちゃんと話し合いをして明日の返事の答えを見つけ出した。

 

 まー朝目覚めるとオレ達のモンスターボールが没収されていたがな。

 

 ルチアちゃん、流石だな。

 

 ぬかりなしだ。


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