オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
オレはウサギちゃんにまだ言っていないことがある。
黙っていうようか言うべきか迷っている考えがある。
もう既にルチアちゃんはアクア団の仲間で何をするのも手遅れだという予想……
ルチアちゃんは7時に民宿『モナミ』でアクア団と落ち合い、そこでアクア団に入団するかどうか返答するらしいという情報自体が嘘だった場合。
オレ達はそれを阻止しにきたワケだが、愚かにも民宿で様子を窺うこともマヌケで敵であるルチアちゃん達にリンチされるんだろうな。
まーそうなった時は戦争だけども。
アイドルを敵に回してファンや民衆、ポケモン協会の奴等も黙っちゃいないだろうけども。
でも、戦争やろう。
責任は、偽の情報を入手したけどオレ達に全部丸投げしたヒガナたんにある。
責任取ってもらおうか、ヒガナたん。
まぁ、そういう冗談は一旦置いといて、その戦争をなるべく起こさないためにもオレは今必死に対策を考えているワケであって、のほほんとお気楽にキャッキャッ言ってるウサギちゃんとは本気度が違うワケですたい。
だから本当に心臓が跳ね上がった。
まさかだよ。
ライブ開始30分前。
ターゲットのアイドルとここで出会えるとは思わなかった。
いや~ビックリしただ~。
「名前はオメガくんとウサギちゃん。彼らはなんとあの噂のマグマ団の新人さんだそうです」
「「ファッ!?」」
そして、オレ達は彼女にもの凄いバレていた。
今現在カメラを回されている。
アイドルの突然な出現と共にカメラマンも突然沸いて出てきやがったのだ。
おいおい全国放送で盛大なネタバレぜよ。
田舎のマミーもテレビ見てたら泡吹いて失神レベルのネタバレぜよ。
チルタリスのチルルがオレをジト目で睨んでるのも解せないがな。
「彼らはなかなか休暇が取れない中、わざわざ遠路遥々ここミナモシティまで応援しにきてくれました♪」
「あーまーそんな感じーーー」
「そーそールッチーとチルルさいこー♪」
ウサギちゃんはホントお気楽でいいよなぁ。
「私、マグマ団ってもっと怖いイメージあったけど思ってたより怖くないかも??」
「そうさ、オレたちマグマ団のテーマは愛と平和だぜ。ヒトとポケモンが本当の意味で共存できる世界を創っていきたいと思ってるぜよ」
「先輩のどの口がそれをいうんスか……」
はて、どの口だろうか。
「それはそうと、ルッチー見てくれッス。ウチもルッチーに憧れてチルタリス持ってるんスよ」
とか言いながらウサギちゃんは自分のポケモンを出した。
自由過ぎるぜウサギちゃん。
浮かれすぎ。
「わぁ♪色違いのチルタリス!」
「ふっふっふー、色違い見つけるのに相当苦労したッスよ」
「………」
このオレがな、ウサギちゃんのために1ヶ月無駄にした思い出は忘れない。
チルルが♂ならこっちの色違いは♀でもう仲良しこよしだ。
いつの間にか集まってきたギャラリー達がキャーキャー騒いで煩くなってきだした。
「ウサギちゃんはポケモンコンテストに参加してみたいとか思ったりするのかな?」
「当然ッス! ウチの夢はポケモンコンテストでルッチーと共演することッス!!」
「そうなんだ! じゃあいつか一緒のステージに立たなくちゃ嘘だよね♪」
「モチのロンっす!」
あー、これ絶対にアカンやつや。
こんな期待をウサギちゃんに持たせたらイカンのや。
つーか、初めて聞くウサギちゃんの夢な気がする。
へー、そうだったのかー。
「云うなら、キラキラ~!くるくる~?『ラブリー☆デビルズに乞うご期待!』って感じだねー♪」
「イエーイ♪」
「はあ……」
オレ、この子たちのテンションについていけない。
気が付けばチルタリス二匹がイチャついていたので邪魔したら返り討ちにあった……ごめん。
「私はね、ポケモンコンテストに興味を持ってくれればマグマ団でもアクア団でも大歓迎だから♪ じゃ、これからライブだから。アナタ達も楽しんでってねー♪」
「ルッチー、バイバ~イ♪」
「ばいばい……」
そういって彼女はカメラマンを引き連れて一足先にライブ会場へ入っていった。
ははっ、何が楽しくて悲しくてこれから思いやられる先のこと考えてライブを見たら良いというんだ。
残酷な話だよな、おい。
アクア団も大歓迎って……
なんだよ、やっぱりオレの予想はほぼ間違いなくね?
いや、オレの早とちりで思い込みかもしれない。勘違いなのかもしれない。
しかし、オレたちの正体を看破したのもアクア団と繋がってるからだろ。
いやでもまだアクア団の仲間じゃないけどアクア団共からマグマ団のガキ2人組みには気をつけろと忠告されていたのかもしれない。嘘の事実で塗り固められたのかもしれない。
午後3時――――――。
昼のステージ。
ルチアちゃんとチルルは輝いていた。
自分が主役なのだと言わんばかりに他の誰よりも輝いていた。
嫉妬してしまいそうなほどに眩しく見えた。
他のコンテスターを圧倒していた。
観客のボルテージもぐんぐん上昇していく。
ウサギちゃんは自分の立場など忘れて完全に楽しんでいた。
何十人から形成されるアイドルグループにはオレは何の感情も湧き上がらない。
友達に連れていってもらったことのあるコンサートもそこまでで、こんな気持ちにならなかった。
ポケモンコンテストにもアイドルにも疎いオレだが、自分の中で何かが爆発するなんてことはなかった。
それは「衝撃的」や「魂が震える」なんて言葉では足りない。
新しい宇宙の誕生と云えば一番説明がつくだろうか。
大袈裟だがそれはたしかにビックバンの如く、今はアクア団の駆逐しか考えていないオレを、ポケモンコンテストに興味ないオレに新たな世界を見せてくれた。魅了させた。感動させた。
気が付けばオレは前列にいたエリートトレーナーの背中によじ登り一緒になって彼女の名前を叫んでいた。ウサギちゃんも負けじと隣のコアなファンに肩車して貰っていた。
他人の迷惑も考えずこの一時を、この一瞬を楽しんだ。叫んだ。生を謳歌した。
だから、認めざるを得ない。
彼女は本物のアイドルであり、だからこそアクア団の仲間になっていた場合もっとも潰しておかなきゃならない存在であるということを……
オレは腹をくくった。
PM7:00――――
夜のミナモ。夜のモナミ。
ライブが5時には終わり、あの後また屋台巡りでカガリたん達のお土産と買っては…予定通り時刻通り、オレ達は民宿『モナミ』へ訪れた。
ルチアちゃんとアクア団との関係を探るために……
「オメガ様にルビー様ですね?ルチア様がお待ちおりしてます。こちらへどうぞ」
「へ、なんでルッチーがウチらを……??」
「………」
ここまでとぼけられるウサギちゃんが羨ましいぜ、まったく。
カウンターに座っていた初老のじいさんが、オレ達の顔を見るなり宿泊客の名簿で名前を確認するなり2階へ案内した。
他にも宿泊客がいる中、通されたのは『輝石の間』。
そこにはすでにルチアちゃんがいた。
昼のアイドルの顔ではない彼女がそこにいた。
アイドルの服装ではなく、モナミの浴衣に身を包んで足を崩して座っていた。
「待っていたよ、オメガくんにウサギちゃん」
友人を待つかのように、風呂上りの恋人を待つかのように、目の前に出された料理の数々をまだか、まだ食べられないのかとそわそわするように待っていた。
「もう察していると思うけど、私はアクア団のメンバーだよ」
「そんな………ルッチーが…………はぅ」
ウサギちゃんはあまりのショックに気絶した。
クソッタレめ。