オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
アクア団の駆逐。
それがオレ達2人組みに与えられる任務である。
というか、オレ達の任務がそれ以外だった試しがあっただろうか。
奴らの計画をぶっ潰し1人残らず病院送りにするだけの作業。
まーでもそう簡単な話しじゃないのが今回の任務だ。
デリケートな話し。
一歩間違えればマグマ団解散なんてことになりかねない話しだと思ってる。
そして、またオレ達2人組みの悪名が高くなるだけのお話し……
まぁ、別に満更でもないけどね。
――PM2:24――
オレとウサギちゃんはミナモシティへ到着していた。
「ウサギちゃんは今回の任務内容ちゃんと把握できてる? この後のスケジュール言ってみ??」
「ラクショーっす。まず3時開演のルッチーが出場するコンテストライブをめいいっぱい楽しむッス」
「ん?」
「で、その後は夜7時まで屋台巡りして隊長たちのお土産を買って行くッス。とりあえず予算の金の玉×10を返金したから50000円ッスか。全部使い切るッスよ~♪」
「んん??」
「で、7時に任務決行。モナミの宿屋にてランデブー……じゃなかった。アクア団を駆逐するッス」
「んんん???」
何でだろう、ウサギちゃんの言ったことは大体合ってるんだけど、どうしても旅行気分なそんなノリにしか聞こえない。
事の重大さを分かってない感じだな、こりゃ。
ふー、やれやれだぜ。
「そんなことより先輩、こっちッス! 次はたこ焼き買ってくれッス!!」
「ウサギちゃんやい? とりあえず、ほおばってる焼きそば全部食べてからにしなさい」
「ダメっす、時間が勿体無いッス」
いや、勿体無いって……お前の口は一個しかねーじゃん。
キンセツキッチンでランチを食べられなかった反動が凄まじいな、この欲張りさんめ。
「先輩、たこ焼きの次はフランクフルトっす。あっ、林檎アメにその向うにはチルルの綿アメ!?」
綿アメの袋にはチルタリスが印刷されている。
これだけで商売繁盛ぼろ儲けってな。
だが、何度も言うけどウサギちゃんの口は一つしかない。
いっぺんに買ってももう既に荷物を持つのはオレなんですが??
妹の子守をする兄ってこんな気持ちなのだろうか……
「先輩! オメガ先輩ッ!!」
「今度は何なのさ……」
生意気で我が侭でヤンキーぶっててウザくてめんどくさくて暴力振るってくる凶悪生物のくせに……
「はい、一口。あ~ん」
「ったく……」
クソッタレめ。
一口だけだからな。
って、惚気てる場合かよ!?
ウサギちゃんにはもう一度説明しなきゃならないようだ。
「先輩、ちゃんと分かってるッスよ。ルッチーがピンチでウチらが助ける、それでいいじゃないッスか」
「いや、お前は事の重大さを何も分かってない。分かっていたらそんなお気楽にも何個も買い食いできねーよ」
ミナモシティのコンテストライブ会場前。
オレ達の現在地だ。
会場前には屋台がたくさんあり、今をときめくスーパーアイドルのルチアちゃんや、そのパートナーのチルタリスのチルルのグッズもわんさか売られている。
そんな大衆の中、マグマ団であるオレ達が物騒な話を開始した。
あ、もちろん変装はしてますとも。
「ウサギちゃんがルチアちゃんのファンで本気で助けたかったら話しをちゃんと聞きな」
「お、おう……」
本当にこの世界は素晴らしくも残酷である。
アクア団の狙いはコンテスターでスーパーアイドルのルチアちゃんである。
彼女が出場するポケモンコンテストの大会がアクア団のアジトがあるミナモシティで開催されるこの時期に狙いを定めたのだ。
アイドルってのはいつの時代でも民衆に大きく影響を与えるものだ。
ルチアちゃんに彼氏なんていたりでもしたらウサギちゃんが黙ってないぜ。彼氏は海の藻屑と化すだろうさね。
まー極端な話し、馬鹿げた話し、もし仮にアイドルがアクア団にスカウトされ入団したとした場合だ。
誰がどう予想できるってんだ、そんなこと。
誰が考えたんだ、こんな馬鹿げた計画を。
民衆はこの事実をどう捉えるのだろうか。
ルチアちゃんがアクア団に入るんだったら俺も入団する~っていうファンがいる可能性。
何百、何千、何万というファンがもれなくアクア団に入るかもしれない。
ふざけた話しだぜ。
もしかすればその逆で、ファンはルチアちゃんに失望して見限るかもしれない。
でも、馬鹿らしいが見過ごせるはずもない案件なんだよ、これは。
これは絶対に阻止するべきことなんだ。
「ウチら2人で阻止しなくちゃならないってホント鬼畜ゲーっすね」
「言っても仕方がねーよ」
アクア団の縄張りに入って無事帰ってこれる保障がないんだから。
今は大事な時期だ。
団員はなるべく削りたくないんだよ。
「ルチアちゃんは午後7時に民宿『モナミ』でアクア団と密会する予定だ」
オレ達も予約を入れていた客として潜り込み様子を窺うって作戦さ。
ポケモントレーナーという偽りの肩書きで名乗れば泊まれるだろうさ。
「どうにもその情報胡散臭いんスよね」
「情報源はヒガナたんだ。間違いないだろ」
「先輩はあの人のこと信用し過ぎッス……」
「そう嫉妬するなウサギちゃん。それで、問題はルチアちゃんがアクア団の誘いに乗った時の対処方だ」
「断った場合もッスね」
まーどちらにしろ……
「「アクア団は1人残らず駆逐する」」
結局はここに行き着くわけだけども。
問題はこの後さ。
デリケートな話し。
アイドルへのケアを欠かしてはならない。
アイドルへ恩を少しでも売れればマグマ団を擁護してアクア団を糾弾してくれるかもしれないという淡い希望も出てくるってもんだ。
しかし、アクア団に入る意志を見せたルチアちゃんを説得に失敗すればマグマ団は世間から、ポケモン協会から完全に弾圧されるだろうな。
マグマ団撲滅キャンペーンが始まったりでもしたら最悪だ。
アクア団の駆逐どころじゃなくなる。
こういうのはもっと前から情報を手に入れておきたかった。こうなることを想定していれば対処の幅も広がっていたのにさ。
それにウサギちゃんにはまだ言っていない事がある。
黙っていうようか言うべきか迷っている考えがある。
それは…………
もう既に手遅れなのかもしれないという予想。
「キラキラ~!くるくる~?『突然の出会い!ミラクル☆アイドルスカウト!』って感じだね!」
「「ふぁっ!?」」
「そこの君たちカワイイね。どう?ポケモンコンテストに興味ない??」
それは突然の出会いだった。
それは午後2時半を過ぎ開演まで残り30分を切った絶妙なタイミングで不意打ちだった。
敵の奇襲かと心臓が跳ね上がったのはオレだけじゃないだろう。
ウサギちゃんが大好きなアイドルが目を輝かせてそこにいた。