オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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ポケモン楽しんだもん勝ち

 何が起きているかだなんて誰も理解できるはずがない。

 

 黒幕ヒガナの答え合せ無しでは目の前の絶望は解けない問題みたいなものだ。

 

 死の淵に瀕した子供が血を吐き血を流し血だらけになりながら雄たけびを上げるそれはまさに怪物そのもの。

 

 ヒトの子が怪物になる物語。

 

 そんな物語があっていいのだろうか。

 

 だからクズ野郎は笑う。

 

「ギャーッハッハッハ!!一体全体どうやったらこんな展開になるんだよ!!」

 

 勝利の余韻に浸っている暇があったら瓦礫からクソガキをマグマに落としたらよかった。

 

 だからクソ野郎は笑った。

 

 誰もこんな展開になるだなんて想像できるはずもないのだから。

 

「おい見たか!!俺様が拉致って毒を盛ってやったガキが!!お前に命を拾ろわれ見捨てられたクソガキがバケモンになっちまった!!俺様たちのせいでこーなっちまった!!ギャーハッハッハッハ!!」

 

「うぅ……オメガ…………ッ!!」

 

 カガリは乱暴に掴まれ怪物へと顔を向けさせられる。

 

 決して目を逸らすことのできない残酷な現実を受け止めなければならなかった。

 

 涙が止まらないのだ。

 

 怪物が動き出す。

 

「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「ギャーーーーちくしょう!!近寄ろうとしてくんじゃねー!!ちょっとでも俺様に攻撃してきてみろー!!カガリと雌ガキをマグマに叩き落してやるからなー!!というか道づれ上等じゃーゴラぁ!!」

 

「オオオオオオオオオオオォォォォォ…………………ッ!??」

 

 怪物の動きが鈍く、そして止まる。

 

 手で制され、人質を前に動けなくなるのと同じ動作だった。

 

 だから男は笑う。

 

「はあ!?おいおい!!おいおいおいおいおいおいっ!!おい見たかカガリィ!!このバケモノ、まだテメーのことが分かるらしいぜ!!テメーとそこの売春メスガキビッチの名前に反応しやがった!!もしかしたらコイツはバケモノになってでもテメーらを助け出そうとしているのかもしれねーぜ!!泣かせる話しじゃねーか!!」

 

「オメ……ガ……そうなの………ボクたち、を助けるために………ッ!?」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 笑える。

 

 笑えてしまうのだから笑うしかなかった。

 

「ギャーッハッハッハ!!どうやらバケモノの成り損ないのようだな!!よかったじゃないかカガリぃ!!ヒトの心があるバケモノで満足か!!ギャハハハハッーーー!!」

 

 奇声を上げ発狂するしかなかった。

 

「そうかそうか!!そういうことだったのか!!あの毒はただガキを殺すための人工人食いバクテリアなんかじゃなかったんだな!!」

 

 悟ったのだ。

 

 クズキリαというクズ男はヒガナの答え合せ無しで問題の答えを理解してしまったのだ。

 

「ぶっとんでるなー!!」

 

 己の思考回路ではこんな想像はしなかった。

 

 できなかった。

 

 テキトーにそこら辺の弱い者を食い物にして欲望のままに豪遊する自分の想像がどれだけちっぽけなのか痛感した。

 

 今まで一度として誰かを認めることなんてありえなかった。

 

 自分より強い者の存在はいないと否定していた。

 

 でも、いた。

 

 上には上がいた。

 

 とてつもなく想像力が高く、そしてその想像を実現させるための強さと力を兼ね備えた人間がいた。

 

「あー悔しいぜ!!」

 

 完敗だった。

 

 心から拍手をし敗北を認めた。

 

「ポケモン楽しんでるなー!!あの先生はよー!!」

 

 だから笑う。

 

 敗北を知り己の弱さを認めた。

 

 想像力がバケモノなたった1人の少女を認め、その強さを認め、そして自分の立ち位置を知る。

 

 目障りと思っていた存在は崇拝に近い教祖様の地位まで評価が上がる。

 

 そういう敵はもの凄く厄介な存在となる。

 

 ルビーにとって最悪の敵の1人となる。

 

 それは、己の力に慢心していただけのクソッタレ男とは違うということだ。

 

「ねー……1人盛り上がってるところ悪いんだけど邪魔よアンタ。完全敗北したのなら早いことそこからマグマに落っこちて死んで懺悔でもしたら?今ならまだぬるい地獄に行けるかも、ね」

 

 白い肌と赤い瞳を持つ少女がステージに立つ。

 

 ルビーという名を持つ運命を大きく変える少女がクソッタレと対峙する。

 

「ギャーッハッハッハ!!遅れてやって来たヒーロ様の台詞じゃねーな、こそ泥ぉっ!!アオギリには会えたのか!!」

 

「会えたからここにいるんじゃない?」

 

「そりゃそうだ!!じゃあアオギリ抹殺命令を下されたミツルのクソガキは……今頃地獄行きか!!」

 

「ぺっ……そうね。今頃は地獄でアヘってるわ」

 

「ギャーッハッハッハ、そりゃよかった!!ってーことは、テメーがここにいるってことは、どうせカガリを縛るための人質解放運動も順調ってわけか?今頃は下でドンパチやってんだろ?テメーの手持ちはたぶんゲンガー、とチルタリスだけ。残りの手持ちは、もしかしたら援軍があってアジト内の一斉掃除の最後の追い上げってとこだ。そんなとこだろ?」

 

「そうね、もうマツブサという人質のカードは使えないわ」

 

「なんだ、本当に詰んでピンチじゃねーか俺様!!ギャーッハッハッハ!!」

 

「………」

 

 強化ガラスのステージの上、怪物とこそ泥に挟まれたクズキリαはもう笑うしかなかった。

 

「おっとー!動くなよ~!そこから一歩でも近づいてみろー!影に潜めているゲンガーも使うんじゃねー!この強化ガラスのクリアステージ上では影が動いているのが丸見えだからな!!ちょっとで変な動きを見せたら2人をまとめてマグマに突き落としてやるかなら!」

 

「ぺっ」

 

 だからこのステージを選んだ。

 

 黒幕ヒガナがほくそ笑んでいるのが脳裏に過ぎる。

 

 人質をカガリとハルカにして本当によかったと思うよ、と。

 

 だから、代弁してクズキリαが告げる。

 

 流星の滝でミツルがべらべら喋っていたように。黒幕ヒガナの駒として、まるで全てが黒幕ヒガナの言葉そのもののように……

 

「おいこそ泥~。テメーはさっきよー、アタシの1人勝ちとかぬかしやがったけど、たしかにチャンス到来みたいだぜー」

 

「………」

 

「今から俺様はこいつら2人をマグマに落とす。テメーやバケモノが攻撃しようがどうしようが落としてやる!だからよかったじゃねーか。邪魔者が消えるんだからな!!」

 

「あ?」

 

 男は笑いながら死を覚悟した。

 

 それが先生の望みなら。

 

「だってそうだろ?邪魔者2人を排除してバケモノになったクソガキをどうにか正気に戻してハッピーエンドってのがテメーのセオリーなんだろ?だったら手伝ってやるよ。つっても、バケモノになったクソガキを戻す方法までは知らんがな」

 

「あんたバカ?アタシがそれを望んでいるですって……??」

 

「じゃなきゃ1人勝ちなんて言葉は出てこねーぜ!カガリとハルカが邪魔だったんだろ?チャンスはここしかねーぜ」

 

「うるさい。アンタみたいなクソ野郎に手伝ってもらわなくても邪魔者を排除するやり方ぐらい心得ているわよ。それに姑息なマネしなくたって勝ち取ってみせるわよ……」

 

 少しまだ自信がない。

 

 勇気も足りない。

 

 でも、真正面からぶつからないと駄目だと少女は知っている。

 

「それに、もうアタシは決めたのよ……アンタらの思い通りにだけはさせてやらないかも、ってね!」

 

「あっそう!じゃあなんだ、テメーは今からマグマに落ちていくこの2人を救ってみせるってか!!やれるもんならやってみろ!!こっちは全力でテメーの邪魔をしてやる!!ギャーッハッハッハ!!」

 

 賽は投げられた。

 

 カガリはクズ野郎に突き落とされた。

 

 片方の手でリモコンのスイッチを押され、ハルカはマグマに投下された。

 

「ギャーハッハッハ!!2人同時に救えると思うなよ!!どちらか1人失っただけでバケモノは発狂ものだわ!!激オコぷんぷんムカチャッカファイヤーってか!!今度こそ完全体のバケモノのできあがりってな!!殺戮モンスターの誕生だ!!ギャーッハッハッハ!!」

 

 だから、そうさせないためにルビーはチルタリスを繰り出した。

 

「チルタリスッ!!カガリをお願いっ!!」

 

「そうはさせるか!!ゴルバット!!チルタリスの邪魔をしろ!!」

 

 だから、ルビーはチルタリスを手持ちに残していたのだ。

 

「チルタリス、メガ進化からの高速移動!!」

 

「だー!!ちくしょー!!メガ進化はズリーって!!」

 

 これでカガリを救出しても尚、ゴルバットの追撃にも立ち向かえるはずだ。

 

「だが、ハ~ルカちゃんの方はそうはいかねーぞゴラァ!!ゲンガーが追いつく前に本体をぶっ殺してやる!!テメーの敗因はミミロップをアジトに向かわせたことだ!!殺れ!!キリキザン!!ペンドラー!!アイアント!!ガマゲロゲ!!」

 

 ハルカを助けるためにゲンガーは既に放った。

 

 もうルビーを守るポケモンはいない。

 

 ここでミミロップが登場という奇跡さえ起きない。

 

 何故なら、ここまで想像した者の舞台なのだから。

 

 キリキザンの鋭い刃が、ペンドラーの猛毒の触覚が、アイアントの強靭な顎が、ガマゲロゲのえぐい液がルビーを襲った。

 

 つじぎりで切り刻まれ、毒づきで神経を焼かれ、噛み砕くで骨を粉々にされ、溶解液で溶かし丸呑みにされ……

 

 そうなるはずだった。

 

 えぐい感じになるはずだった。

 

 クズキリαという悪に歯向かった者の末路を世に知らしめるはずだった。

 

 そうさ、いつだって弱い者の味方をしてくれない残酷な世界のはずなのだから。

 

 だから、男は発狂した。

 

「な、ななななななんだとぉおおおおおおおおお!!」

 

 ミミロップの登場という奇跡は起こらなかった。

 

 でも、違う奇跡は起きていたのだ。

 

「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「グルルルルルァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 リザードン。そして、バンギラス。それが奇跡だった。

 

 怪物がポケモンを繰り出し敵の猛撃を防いで返り討ちにしたのだ。

 

 仲間を守るために。少女を救うために。彼もまだ戦っているのだ。怪物ではなく、ポケモントレーナーとして。

 

「あはっ、愛してるわオメガ!!」

 

 世界は残酷だとしても希望はある。

 

 ルビーは想像した。

 

 だから、ルビーは少女を助けると決めたのだ。

 

 意地悪の限度を越えてしまったけども。

 

 ハルカは自分のしたことを許してくれないだろう。

 

 こちとらもう覚悟はできている。

 

 お互い好きになれないままなのだろうけど。

 

 でも、未来は想像はできてもそうとは限らない。

 

 殺し合いではなく、もう一度ポケモンバトルでお互いの気持ちをぶつけ合うことできるかもしれない。

 

 だから、そのチャンスすら棒に振るのはもうやめたのだ。

 

「アチチチチチッ!?ものすっごく熱い……わッ!!」くわっ

 

 マグマに落下するハルカをギリギリキャッチしたゲンガー。

 

 そのまま影に飲み込み救出することに成功したのはいいが、ゲンガーのお尻がマグマで火傷してしまったことも笑い話になるはずだ。

 

 手元に戻ってきたゲンガーと、ゴルバットを撃退したチルタリスがカガリをステージから離れた火口付近に降ろした。

 

 ゲンガーはハルカを吐き出しルビーが体を抱きかかえる。

 

 肩で息をした。

 

「はぁはぁ……やったかも」

 

 つい小さくガッツポーズをしてしまった。

 

 どう?見た?ドヤぁと満面のドヤ顔で男の顔を見た。

 

 煽れるところまで煽っていくスタイルは通常運転だ。

 

 屈辱と怒りに肩を震わせるクソ野郎の反応だけで十分だ。

 

「これでアンタもおしまいね。最後に言い残したことは……??」

 

「ギャーッハッハッハッハ!!無いっ!!」

 

「あっそう……まーせいぜい地獄で楽しみなさい!!」

 

 ルビーはゲンガーを繰り出した。

 

 地獄行きのゲートは開かれた。

 

「ギャハハッ!!勘違いするな!!地獄に行くのはテメーらの方だってことだ!!正真正銘これがラストだ!!」

 

 さあ、クズキリαというクソッタレな糞以下の男とのラストバトル。

 

「ギャハハハハハッハー!!いけっ、サザンドラ!!全てを破壊しろ!!」

 

 クズキリαはサザンドラLv100を繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 おまけ~一方その頃、五つ子ちゃん達は~

 ホウエンの未来は今1人の少女の手にかかっていた。

『アチチチチチッ!?ものすっごく熱い……わッ!!』くわっ

「「「「「ナイスキャッチだ後輩!!」」」」」

「「「「「よしっ!!」」」」」

 全地方に配信された映像はアジト内のそれぞれ設置された観戦モニターで見れる。

 不謹慎にも映画さながらのド迫力に奴等はヒートアップしていた。

 お縄に捕まりながらもマグマ団五つ子ちゃん達は女性専用の大浴場のモニターにてウサギちゃん改めルビーの応援をしていた。

 隣には同じく手錠を掛けられたアクア団五つ子ちゃん達と顔を見合わせ喜んでいる。

「あんた達ー、敵同士なのに仲いいわねー……」

「あーこういう恋、あたしはアリかもですー先輩~」

「けっ……」

 と、つまらなさそうにするのは大浴場で乱痴騒ぎをしていたこの10名を取り押さえたジョーイさん達だ。

 先輩と後輩の女性2人は駄々をこねてココで最後まで見届けると言って聞き分けの悪い10名を仕方なく見張っている貧乏くじを引いたのであったとさ。

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