オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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ほろ苦くて甘い絶望

 世界は残酷だが、絶望と口にするうちはまだ甘くてほろ苦い世界なのかもしれない。

 

 囚われの身のマツブサは隔離されたアジト内の自室のモニターから流れるソレを見てそう思うのであった。

 

 人類の発展を目指しマグマ団を結成したのも、誘拐され毒を盛られた赤の他人の子供を預かったのも、因縁のアクア団と決戦に挑んだのも、ヒトの子が怪物になることも、全ては1人のシナリオによって作り上げられたものだった。

 

 我々はマグマ団カガリ隊作戦部長のヒガナの手のひらで転がされた駒でしかなかった。

 

 マツブサは想像した。

 

 絶望はまだ始まりでしかないのだ、と。

 

「ホムラよ……私は今恐ろしい想像をしている。昔、ヒトとポケモンは同じだったとはよく言ったものだ……オメガくんが怪物になった意味がどれほどの絶望を生むもの考えたくもないものだな」

 

 手と足を拘束されポケモンを没収されるが、隣で拘束されている部下に軽口を叩けるほどには割とゆるい監禁ではある。

 

 否、軽口を叩いている場合ではないのだが。

 

 敵の見張り2人の目もあるが、喋らないと頭がどうにかなってしまいそうなのだ。

 

「私もですぞリーダー・マツブサ。ヒトの子を怪物にする想像をヒガナ作戦部長は一体過去に何があればそうさせたのか……」

 

「ふっ、我々を利用して裏切った者のことなんぞ知ったことか。しかし、彼女は泣いていた……全て犠牲にして世界中を敵に回してでも彼女は止まらないだろう。だからこそ、我々は彼女を止める義務がある。否、事を起す前に止めなければならなかったのだ……」

 

 マツブサは歯噛みした。

 

 苦虫を噛み潰してから後悔するのは遅いのだが。

 

 黒幕ヒガナが事を起す前に何も気付けなかった。予兆を悟れなかった。何も怪しいところなどなかった。

 

 味方だと思ったから。

 

 彼女のおかげでマグマ団が創設できたみたいなものだから。

 

 そう、信頼を置いていたのだから。

 

「彼女が……ヒガナくんが泣いたところを見たのは二度目だな」

 

「それは初耳ですぞ」

 

「偶然ではあるが……マグマ団を結成してまだ間もない時だった。無防備に寝ていた彼女を拝見した時に、ちょこっとな……」

 

 うわー、ロリコンおじさんここに極まれりだ、と冷やかすアクア団を尻目にマツブサは話しを続けた。

 

「涙はあれ以来見ておらぬ。彼女は常に笑い仮面をかぶり続け我々に弱さをみせず1人何かを背負って生きてきたのは確かであろう。だからこそ、我々は彼女を止める義務がある。ここで止めなければ、私の想像が正しければ世界は絶望よりも最悪の事態になりかねない」

 

「でもおっさんよ!掴まってるじゃん!!何もできねーじゃん!!この無能が!!」

 

「リーダー失格ね、きゃはは!!」

 

 アクア団が笑う。

 

 こいつらもイカレた奴等だ。

 

 クズキリαの連絡を待っているクズ以下の団員だ。

 

 彼の言葉一つで人質を抹殺してしまう悪人だ。

 

 だがそれがどうしたとマツブサは思う。

 

「悲しきかな、確かに私はリーダー失格なのだろう。無力でカガリの人質になり足を引っ張った愚か者だ。だがな、自慢をさせてくれないか。私は無力だが部下達は優秀だ。隣のホムラは一緒に捕まったのでアレだが、裏切り者こそいるが、私は部下達をあまり舐めるな……あとそれから、貴様たちを撃退したいと思っているのは何も我々マグマ団だけじゃないってことを覚えておくがよい」

 

「リーダー!!私がアレってどういう意味ですぞ!?」

 

 そうホムラが叫ぶや否や変化は起きる。

 

 絶対的な確信的な逆転の一手がアクア団を襲うのだ。

 

「ビー!!」

 

「うわっ、なんだコイツ!?どっから入ってきたんだ!??」

 

 隔離されたマツブサの寝室に突如現れたのは穴掘りポケモンのホルビーだ。

 

 アクア団のケツに噛み付いた。

 

「なんで!?ここはワープパネルから切り離されたフロアなはずじゃ!!」

 

「わしゃしゃしゃっ、正真正銘ワープパネルから入ってきたのじゃ。レアコイル、でんきショックじゃ」

 

「「あばばばばばばばばっ!??」」

 

 確かに逆転の一手だ。

 

 敵の敵は味方だって言葉を子供の頃に覚えたのは遠い昔だった気がする。

 

 まさか、自分を助けにきてくれたのが手負いのじいさんだとは夢にも思わなかったがな、とマツブサは自嘲したが。

 

「わしゃしゃしゃ、病院抜けだすなどガキの頃を思い出すこそすれど、やはり老体にはキツいものじゃな。しかし、また面白いもんが見れたわい」

 

 わしゃしゃ、とキンセツジムリーダーのテッセンは笑う。

 

 彼が姿を見せたということがどれほど意味を持つのかマツブサは瞬時に理解する。

 

 彼とよく見るホルビーというツーショットもおかしかろう。

 

「おぬしら、ポケモンがポケモンを命令するところを見たことあるかのう。ミミロップがホルビーやザングースに指示を出してたんじゃ。というかアジトに乗り込んだワシらにも命令してきたんじゃがな」

 

 だからここにやってきたと、またと笑う。

 

 あの小娘によく似た性格よのうと笑う。

 

「えぇ、よく知ってますよ。なんたって自慢の問題児達ですから」

 

 ふっ、とマツブサがほくそ笑む。

 

 ホムラもモニターに映る少女をみて頬がゆるくなる。

 

 今日はあの憎たらしい横顔がなんとも頼もしく見えたのだから。

 

「さて。ちと遅くなってしまったがのう、反撃にいくとするかのう」

 

「そちらの戦力は十分なんで?」

 

「わしゃしゃしゃ、心配するでない、おぬしらの出番などありゃせん。町を守るのは何もジムリーダーだけの勤めじゃなかろうて、あやつらジムトレーナー達のいい勉強にもなるじゃろ。何よりここまで事件が起きて世に知れ渡っているのに警察が動かんわけにもいかんじゃろ。おっかないジュンサーさん達がおぬしらの分まで逮捕状を準備しておるわい」

 

「ふっ、それは頼もしい」

 

 だが、とマツブサはモニターを見て言う。

 

「上の決着は部下の者に任させてもらいますよ……」

 

「ワシャシャシャ、当然ミミロップに釘差されてるわい」

 

「………笑えないですぞ、それ」

 

「ビービー!!」

 

 さあ、反撃開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ゲームの流れが変わった。

 

「くそっ、なんでジムトレーナーまで出しゃばってくるんだ!?くそっ、キバニア!アクアジェット!!」

 

「負けるなマッスグマ!!でんこうせっか!!」

 

 8人のジムリーダーが乗り込んできたと連絡が入った時も大騒ぎしたが……

 

 アクア団の下っ端はトウカジムトレーナー・ヒデキと衝突した。

 

 他の団員たちもジムトレーナーと衝突していく。

 

「え、なんか数減ってなくない!?」

 

「もしかして逃げた!?あの根性無し共っ!!」

 

 適度に暴れ満足したアクア団したっぱの一部はすでに撤退を始めていた。

 

 だから数で押しきるという戦略が今は取れないことに今更気付いたのである。

 

「くそっ!!だったら、逃げるが勝ちってな!!あばよー!!」

 

「待てっ!!そうはさせるか!!行かせるな、マッスグマ!!」

 

「はいそこでキバニア!!殿よろしくー!!骨は拾って海に流してやるからよ!!」

 

「キ、キバ……ッ!?」

 

「貴様っ、自分のポケモンを見捨てる気なのか!!」

 

 どこまでも腐っているのだアクア団!!と、ジムトレーナーは憤怒した。

 

 マッスグマがしたっぱを追いかけるが先にワープパネルに足を踏み込みワープされ逃がしてしまう。

 

 奴を追いかけなければならないがこのフロアにはまだ敵がいる。味方から行って!と促されワープパネルへ足を踏み入れた。

 

 視界が変わる。

 

 次のフロアにさっきのアクア団の姿がまだあった。

 

 その向こう側にはノーマルタイプのよく見知ったポケモンがいた。

 

「くそッ!!どいつもこいつも邪魔だ!!ズバット!!俺に道を譲らせろ!!ちょうおんぱ!!」

 

「ズバッ!!」

 

 ズバットがザングースに攻撃をしかけた。

 

 アレは仲間のザングースじゃない、とジムトレーナーのヒデキは瞬時にわかった。

 

 近くに仲間がいないどころかザングースはトレーナーも連れず一匹ズバットに立ち向かっていった。

 

 ザングースはズバットの攻撃を回避し電光石火をたたきこんだ。

 

 ズバットが壁まで吹っ飛び叩きつけられた。

 

 あのザングースは戦い慣れというか、ポケモンバトルというより喧嘩馴れをしているのが伝わってくる。

 

 レベルも相当高く、自分や仲間じゃここまで育てられないだろうなと、どこか呆れ果ててしまうほどの強さは十二分に伝わった。

 

 それに、

 

「ま、待て早まるな!こっちにこないで~!!?」

 

「シャラァーッ!!」

 

 ジムトレーナーのポケモンが単独で躊躇いもなくヒトに攻撃するはずもないのだから。

 

 ヒデキは乾いた笑いをして、気絶した男にトドメを差さなかったザングースがこの場を去っていくのを見届けるのであった。

 

「よしっ、俺達も負けてはいられないぞマッスグマ!」

 

「マッスグ!!」

 

 それにしても同じザングースを使う仲間達はあのザングースを見たらどうなるんだろうなーと、そこで想像するのをやめた。

 

「………」

 

 さて。

 

 このフロアにはロッカーがあったりする。

 

 何が入っているかといえば、掃除用具一式なのだがヒト一人分はなんとか入れる大きさのロッカーがフロアの隅っこの方で鎮座している。

 

「………」ごくり

 

 ジムトレーナー・ヒデキが気絶したしたっぱを縛り上げてどこかへ去ったの見計らってはロッカーの扉が開くのであった。

 

 ギギィと音は出るがこっそりと扉が開いた。

 

「ふぅ。いったか……あともう少しで出口だ……そこを出たらアジトへ帰らずどこか雲隠れしよう。うん、そうしよう」

 

 そうやって逃げるアクア団したっぱもいるものだ。

 

 手持ちのポケモンは全滅。

 

 だが、愛着のあるポケモンを盾にして逃げることができるはずないこの男が取る行動は物陰に隠れ、時に女トイレに身を隠し、時にロッカーの中でその場しのぎをし、そしてやっとの思いで出口まであともうちょっと。の、はずだ。

 

 ここにきてワープパネルの経路が変わった。

 

 男は想像した。

 

 マグマ団アジトの元のワープ先に戻ったのだ。

 

 男は理解していた。

 

 作戦ではこちらの有利なワープ経路を覚えていたが、念のために本来の経路も覚えていた方がいいと考えていた。

 

 ので、分かる。

 

 次のワープ先がゴールなのだと。

 

 そして、チャンスが今なのだと。

 

 だから、男はロッカーから出てきて、両手には武器になりそうな箒とモップを握り締め走った。

 

 長かった。

 

 5時間かけて脱出する機会を窺っていた。

 

 全滅してすぐに脱出できるはずもなかったから。

 

 乱戦だったから。

 

 だから女トイレに身を潜めていたのだ。

 

 仲間が個室の扉をぶち破って入ってきた時は肝を冷やした。

 

 笑われても、罵られても、バカにされても、写真を取られつぶやかれても、泣かされても耐えてきたのだ。

 

 この時のために。

 

 自分を罵って足で顔を踏んづけてきた女はフロアを移動している途中で泡吹いて無残な格好で敗者になっていた。

 

 いい気味だ。

 

 そんな清々しい気分と共に脱出するのだ。

 

 男はワープした。

 

 出口へ繋がるワープパネルへワープした。

 

「はい、また1人ノコノコと出てきたわよガーディ!!取り押さえるわよ!!」

 

「ガウッ!!」

 

「ファッ!?」

 

 男はアジトを脱出して5秒も立たないうちに取り押さえられるのであった。

 

「ど、どうして……??マグマ団のアジトへ通じる入り口をたかが巡査止まりのジュンサーさんが知っているんだよ!?」

 

 男はもう何がなんだかワケわかめだった。

 

 取り乱すアクア団したっぱに顔をしかめ、鼻を摘んみ答えた。

 

「だって、ここってよくオメガきゅんを見かける……じゃなかった。泣く子も萌えるマグマ団のクレイジーボーイが出入りしているって当たり前の情報だし」

 

「いや、おかしいだろそれ!!このショタコンが!!」

 

 男は今度こそ涙目だ。

 

 ガーディも男から放つ異臭で涙目だがな。

 

 こんな理由で運悪く出入り口を封鎖されている所から出てきたアクア団は御用である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さて。

 

 黒幕ヒガナは想像した。

 

 己のシナリオが破綻し自分が負けるところを想像した。

 

 今がそうなのか……否、全然なんてこない。

 

 むしろ順調だ。

 

 まーねこだましからの背負い投げをされるとは想像していなかったがな。

 

「くっくっく……」

 

「ロップ!!」

 

 何がおかしいかと、ミミロップが問う。

 

 ねこだまし+投げ飛ばしをしたそのダメージを堪えて立ち上がる敵に最大限の警戒をした。

 

「だってもう笑うしかないよね。君がここにくることも想像通りなんだから。ほら、私の想像通りに君はここで足止めにできる……君みたいなチートポケモンがあそこにいちゃ、ゲームはつまらなくなるだろ?もっと想像力働かせて空気読みなよ、ウサギ風情が」

 

「ロップ………」

 

 ヒガナが涎をぬぐい舌を出して小バカにした。

 

 ミミロップは戦闘態勢に入った。

 

 ヒガナを、その隣の壁にめり込んでるシガナと同時にトドメを差すために。

 

「さあ、全力でこないと君のご主人様もオメガくんも誰も想像できないぐらいたいへんなことになっちゃうぞ!まーここでウサギ料理をジムリーダーさん達に振舞うのも風情があっていいかもだけどね!」

 

「にょまごー!!」

 

 復活したシガナとミミロップは衝突する。

 

 こうしてルビーの手持ちはバラバラにヒガナの想像通りに戦力が分散されていくのであった。

 

 全ては彼女の描いたシナリオ通りに進んでいる。


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