オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
「さあ、語ろう。マグマ団カガリ隊に配属されたオメガくんの物語を」
―――PM4:00―――
「オメガくんがマグマ団に入団してきて約半年。いろんなことがあったよね、シガナ」
「にょにょー」
「アクア団に拉致され猛毒に盛られても復讐心を燃やし最弱レベル5のポチエナを託された勘違い系主公はアクア団に挑みフルボッコにされたり~。みんな心配したよね。アクア団駆逐してやるとか息巻いたのにいきなり出鼻くじかれた瞬間だったわけだけども……オメガくんはこうしてマグマ団デビューを果たすのでしたー」ワーパチパチ
「にょー」パチパチ
「さー格好のつかないデビュー戦で飾った物語の序章が終わり第一章に突入。序章のあの屈辱があったりなかったりなオメガくんは、命の恩人カガリ隊長や周りにちやほやされたりでさらに勘違いするのでした。二匹目にゲットしたけども花嫁始業に出かけるサーナイト然り、今の彼の主軸になっているリザードンやバンギラス然り、いつの間にか家出したシンオウ地方の伝説ポケモン然り、新たなマスコットキャラ達然り、オメガくんの飽くなき強さを求め続けクレイジーショタボーイに成長していったのです」
「にょにょ~」
「もう世の中のショタコン共はクレイジーなオメガくんにメロメロだよね~。まるでメロメロボディの特性があるかのように彼に関わったお姉様方は次々に攻略されていたりいなかったり、団員内で取り合いになったりカガリ隊長に嫉妬されたりお仕置きされたり~……まー本人自身は無自覚だったりでホント敵味方一般人所構わずメロメロにする女垂らしもいいところだよね。云うならば『歩くショタ』というところかな」
「にょー………」
「さてさて、こうしてオメガハーレムが発展していく愉快なマグマ団でしたが、さらに愉快な珍事件が勃発するのでした。一匹のウサギちゃんとの出会いが彼の人生をさらに波乱万丈にするのでした。もう1人、彼と同じく猛毒に生き延びた白い悪魔の子。運命を変える力を持った女の子……アクア団の中ではこそ泥と呼ばれる最悪のじゃじゃ馬娘。アクア団で飼いならすことはできず、他所様のブツさえ盗んだ彼女は檻の中へ監禁されるのでした。だがしかし、そこに勘違い系主人公が現れた時、2人の運命が交差するのでした。亡霊で偽物なウサギちゃんはオメガくんに助け出され、共にアクア団の実験室をぶっ壊したのです。たった2人で、アクア団のリーダー・アオギリ団長さえ知らない実験場を見事に撃破したのです。この事件が世間に明るみに出るはずもなく、アクア団、マグマ団、そしてポケモン協会の中でも数少ない者しか知らない愉快な珍事件となりました。そんな事件はさて置き、ウサギちゃんはオメガくんの後輩として正式マグマ団に入団することになりましたー」ワーオメデトー
「にょにょにょにょ~」パチパチパチ
「さあ愉快な彼の物語は留まるところを知りません。オメガハーレムはウサギちゃんによって一度解散に追い込まれ今は陰で成りを潜めてたりいなかったり~。ウサギちゃんの我が侭でオメガくんは振り回されポケモンの育成に明け暮れたり涙を流したり~。カガリ隊長VSウサギちゃんなんて痴話喧嘩も勃発してはオメガくんがアジトから逃げだし『オメガくんを捜せ』的なちょっとしたゲームが開催されたり~。勿論、1日オメガくんに好き放題できるショタコン歓喜な引換券付きにしてみて他の団員のやる気を出させてみたりでてんやわんや、いやーあの時が本当に1番楽しかったよねー、シガナ」
「にょにょ~い!!」
「オメガくんがやってきてマグマ団は変わりました。復讐に燃える危なっかしいクレイジーショタボーイだけども皆の良い刺激になったのは間違いありません。ウサギちゃんがやってきてもっとマグマ団は愉快になりました。彼らのおかげでマグマ団の思想は変わったのです。否、目を覚ましてくれたのです。マグマ団の掲げる永遠のテーマは人類の発展です。それすなわち、未来を想像すること。これから未来に歩み出す子供たちに道を作ってあげることだったのです。だからマグマ団は海を増やそうとするアクア団と戦うと決意を新たに決めるのでした」ワーパチパチ
「にょー」パチパチパチ
モニターには今まで誰かが撮影したであろうが画像が次から次へと流れていく。
マグマ団の日常の1コマ区切りに、主に少年オメガが写った画像がアルバムを見ているかのように映し出されていく。
バトルを楽しむ横顔やこっちを見て笑ったり睨んだり煽ったり変顔したり撮られていることも知らず鼻をほじったり欠伸したり眠っていたりイタズラしていたりビックリしていたり団員のお姉さんに襲われそうになったりミミロップにお姫様抱っこされたり……
緩いクラシックのBGMが場違いなはずのエクストラステージに流れ出す。
誰もがモニターに気を取られ気にもならない。
最早盗撮疑惑の写真ばかりを見せ付けられているが、ここまでの演出を初めから黒幕は考えていたのだ。
ストーカー紛いなことだとしても、ここまで辿り着いた彼らには知る権利があった。
まー世界に拡散してしまってはいるが少年の母親にも見る義務があるはずだ。
半年間、皆が知りたかった情報だ。
彼が半年間、どこで何をしていたのか、例え悪事を働いていても知りたかった情報でしょ?ということで提供してあげたました。と物語っているのだ。
しかしだ。
「でも、違うよね。そうじゃないよね。実質のマグマ団創設者にして陰から操っていたのは他でもない私だよね?地獄に生きるこの私が苦楽を共にしてきた仲間と共に巨大な壁を乗り越えていこうみたいなヒューマンドラマとかも望んじゃないから。そんな想い出はまやかしでしかないのだから。あれもこれもそれもどいつもこいつも皆私に騙され操られ駒として利用されているだけだから。リーダー・マツブサもホムラ隊長もカガリ隊長も五つ子ちゃんもウサギちゃんも他のみんなも、そしてオメガくんも……全てはこの時のために、だよ」
「ママァ~……」
「はいはい、もう少しで終わるから待っててねー、シガナ」
ごほん、と一つ咳払いをして。
「ねぇセンリさん!このクソッタレなゲームは実際はどんな目的があると思う?あなたの息子さんをぶっ殺すゲーム??」
否。
違う。
ハズレ。
そうじゃない。
的を得ていない。
全くもって想像力が足りてない。
「これは歴史を塗り変えるためのゲームだ」
歴史が変わる。
史実が変わる。
世界のシステムが変わる。
ヒトの常識が変わる。
黒幕のヒガナはモニターを最終ステージに切り替えた。
『ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
怪物が吼えていた。
憎しみの雄たけびを上げていた。
アクア団をもっと壊したいと叫んでいた。
不幸にも人生を滅茶苦茶にされ怒り狂っていた。
不憫にも欠落した愛情さえも枯渇して欲していた。
大切な存在を守れなかった悲しみで悲鳴をあげていた。
今にも消えてしまいそうな思い出を縋って咆哮していた。
「ア、レが………ユウキ……??」
最早、ヒトじゃない。
色白の肌が徐々にひび割れを起してボロボロ剥がれ落ちていく。
鋭いカギ爪が伸びていた。ヒトには生えるはずのない立派な悪魔のような黒い角が生えていた。真っ白い顔面はボロボロで牙を生えていた。お尻には退化したはずの尻尾が悪魔のように生えていた。あれほどまでに大量に流していた赤い命の雫でボロボロの肌と混ざり赤黒く変色していた。
黒いオーラを放出し大気を震わせ分子運動は熱をもってしてプラズマを発生させた。
最早、ヒトの皮を捨てた怪物だ。
なるほど、確かにヒトの歴史は変わるだろう。
歴史が動く。
「私の…息子に、何をした…………」
これまでの比喩なんかじゃない。
これまでの絶望なんか比べものにならない。
震える声を搾り出すかのように、センリは吼えた。
「私の息子に何をしたッ!!」
半年前までの思い出が悲鳴を上げそうだ。
先ほど見た半年間の知らない思い出アルバムの温かみも胸を張り裂けそうに想いだ。
アレはユウキでもオメガでもましてヒトではないのだから。
正真正銘の怪物だ。
センリは泣いた。
堪えられなかった。
想像力が足りなかった。
己の無力さ何度嘆けばいいのだろうか。
マグマ団で暴れる息子は世間から疎まれるだろうけど、でも救おうとしたその意志さえも砕け散った。
センリの絶望は世界にしてみればちっぽけかもしれない。
そして、その絶望は容赦なく遠慮することなく無慈悲にセンリを飲み込んでいく。
黒幕のヒガナがその答えで証明してくれる。
「怪物にした。それだけ」
たったそれだけ。
至ってシンプルな回答だ。
しかし、絶望の答案用紙を叩きつけられたかのようだった。
「ヒトとポケモン、昔は同じだった……」
突然の昔話し、ではない。
「であれば私は彼を怪物にしてみようという想像力働かせたワケだ。いろいろ試行錯誤して実験してみたり、私の駒を使って拉致させ毒を盛らせ死の窮地まで追い込み誘発的に潜在能力を引き出してあげた。人生を狂わされアクア団を憎み暴れ強さを欲するように仕向けてあげた。マグマ団に身を落としてまやかしの愛情を注いであげた。その結果がアレだよ。愛に失望し絶望の果てに己の運命を変えた正真正銘の怪物になったのさっ!!」
再度絶望の答案用紙をセンリに叩きつけただけ。
「やっとここまで辿りついた……ここまで私はやってきたよ、シガナ」
「ママァ~??」
これで彼の物語は終わりである。
ヒガナはそう思った。想像した。そして、涙を流した。
皆が驚いた。
戸惑った。
史上最悪の功績を作った本人が、血も涙もないと思われた悪の根源が涙を……流したから驚いたわけじゃない。
「ローップ!!」
「――――――――――――ッ!??」
「にょーーーーーッ!??」
突如現れた1匹の獣に驚いたのだ。
正真正銘のポケモンが繰り出す『ねこだまし』がヒガナに炸裂したのだ。
数多のゲームを攻略してきたレベル90オーバーのミミロップが放つ猫だましは我々の想像を遥かに超える威力を秘めていた。
ヒガナは立ったまま白目剝いて痙攣してしまった。
失禁してしまった。
「にょにょにょにょにょにょにょぉぉぉおおおおおおおおッ!!」
オラオラオラオラオラオラオラァアアアッ!!と我が主を攻撃され激怒したシガナは突如現れた襲撃者を叩きのめそうと迫り来る。
だが、もうミミロップは既に次の攻撃のモーションに入っていた。
「ロップッ!!」
「にょがッ!??」
長い間、同じマグマ団にいたんだから。
シガナの性格は分かっていた。
ヒガナを攻撃されたら怒るのは分かっていたのだから。
ハイパーボイス、ぼうおんじゃミミロップは倒せないことは向うも百も承知だ。
お互い接近戦が得意なのだから。
なら、煽ってやれば想像通りに突っ込んできた。
攻略しやすい友だった。
ミミロップのかかと落としがシガナを捉えた。
「ロップッ!!」
「まごぉっ!??」
だが、それで終わることなかれ。
シガナが重たいゴムボールのように弾む。
床に亀裂をいれるも弾んでしまった。
そういう足の使い方をしたのだから。
次の攻撃のモーションへ繋ぐための落とし方だったのだから。
振り下ろした足を再度振り上げる。
思いっきり振りきった。
歯をくいしばって。
裏切り者を制裁するかのように。
オメガパパに良い所を見せる絶好のチャンスでもあった。
シガナはぶっ飛んだ。
面白いほどバウンドした。
天井に跳ね返り床に叩きつけられても尚ぶっ飛んで突き当たりの、出入り口付近のワープパネル隣の壁へ激突した。
「い、ったい……な……に、が……ッ!??」
「ロ~ップッ!!」
こちらも常人じゃない。
白目剝いても失禁してももう覚醒しようとするヒガナを即座に投げ飛ばした。
シガナが倒れている所目掛けてぶん投げた。
「い、いったい何が……ッ!?」
ヒガナの疑問をセンリが代弁する。
答えるならば、想像力が足りなかったのは何もジムリーダー達だけじゃなかったってことだ。
「ロプっ!」
センリにウインクするミミロップがそれを物語っていた。
--------------------------------------------------------------------------------
最終ステージ。
怪物が咆哮するエントツ山てっぺん。
「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「何この状況……っ!!」
絶望を前にする少女がいた。
流星の滝の死闘を経て遅れて登場した少女がいた。
オメガと共に暴れまくりアクア団を撃破してきた少女がいた。
「やばっ!!」
凶暴で亡霊で偽物でまがい物でひねくれ者で元主人公で確かに運命を変える力を持っている愉快な少女がいた。
「アタシの1人勝ちな未来しか想像できないかもっ!!」
さあ、ルビーにホウエンの未来は託された。