オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
彼らが5分も10分も早く少年の元へ辿りついていたら未来は変わっていただろうか。
少年の運命もホウエンの明日も彼ら次第で変わっていただろうか。
誰にもわかるはずのない未来。
でも、想像はできる。できた、はずだ。
「そんな、オメガさん。ウソだと言ってください……ッ!!」
「同情するよ、カナズミのジムリーダーさん」
少年の死を目の辺りにしたジムリーダー達。
「オメガが死んだ……??あの、バカ野郎……ッ!!」
「可哀相にね、君もそう思うでしょ。フエンのジムリーダーさん」
彼らは愚かにも無力だった。
「我々は彼を救い出すことができませんでした………」
「俺達はなんのためにジムリーダーをしているんだ………ッ!!」
「改めて認識した方がいいよね。ジムリーダーってトレーナーにバッジを与えるしか能がない職業だってことをね。ヒマワキとムロのジムリーダーさん」
無能と言われても仕方が無かった。
「悪いお兄さんだったけど……うぅっ」
「鬼のお兄ちゃん……ひっぐ」
「泣かないで、双子のジムリーダーちゃん。オメガくんの代わりに私がぺろぺろしてあげるから。ね?」
悪事を働こうとも少年との思い出が少なからず彼らにもあった。
なのに、救えなかった。
ただ傍観者として殺し合いを見守るしかできなかった。
「ユウキ……私はユウキを救えなかった…………私はっ、私はっ!!」
「息子さんを救いたかったらここにいる人質を見捨ててでも駆けつけてあげるきだったんだよ、トウカのジムリーダーさん。いや、お義父様と呼んでいいかにゃ??」
この場にいる人質さえ見捨てられない。
それが彼らの甘さであり、弱さだ。
「一体、何が目的だアクア団……否、ここでは流星の民の末裔と呼ぶべきか」
「いやん!もの凄くバレてた!!知ってるのかい私のことを……さっすがはルネの民だねー!!」
「にょにょー」
「白々しい戯言だね……」
黒幕の正体を看破できた者に賞賛を。
流星の民、末裔の単語を理解できた者に拍手を。
それ以外の何も分からなかった者にはスルーして置いてけぼりにして……
「理解しがたい……君は大局を見失っているのじゃないのか?」
「大局ね~。それは概ねシナリオ通りに事は進んでいるけど~??」
黒幕はさもおかしそうに笑う。
ゴニョニョと一緒に笑う。
「だとしたら、こんなやり方が許されるはずがない!!こんなやり方ではホウエン地方は……否、世界は救われない!!」
「熱くなるだなんて、らしくもないなールネのジムリーダーさん。冷静にならないと思考は鈍るよ、ほら、深呼吸して一旦落ち着いて。で、深呼吸する君に私からありきたりな質問をするよ。何故君たちは私の悪事を止められなかったんだい?もっと頑張ったらよかったんじゃないかい?死人が出る前に止めれば良かったんじゃないのかい??」
その質問に対する答えは決まっていた。
それは君たちが無能故にここまで事が発展したんじゃないか、と哀れんだ。
哀れだよ、ジムリーダーさん……
「ミ、ミクリさん、流星の民の末裔って何ですの………?」
話しが見えてこないツツジが間を割って入る。
彼らには聞く権利、そして義務があった。
「流星の民の末裔……彼らはホウエンの地方を救った英雄の末裔にあたる存在です。とある伝説のポケモンと交信して、ホウエンに降りかかる災厄から救ってみせた」
「そ。私のご先祖様は伝説のポケモン・レックウザ様と交信してホウエン地方に平和をもたらした。それは今から数千年前の話しだね……それで、そんな末裔がどうしてマグマ団とアクア団を動かしている?って君は思った。否、君たちは調べたんだ……」
情報源は本人から発信されたものだけども。黒幕が、あの日チャンピオンの家にお邪魔した日に、既にヒントを与えていた。
「彼らの理想を利用してマグマ団は古代ポケモン・グラードン、アクア団は古代ポケモン・カイオーガを復活させ暴れさそうと君は一計を立てた。同じことが昔にもあったから、彼らを静めるために伝説のポケモン・レックウザを呼び出そうとしている。そして、呼び出しては再び訪れるであろう災厄を迎え撃とうとしている。それで大体はあってるかな?」
「概ね当たってるっちゃ当たってるね」
だがしかし。
当たっていないっちゃ当たっていないんだけどね、と付け足した。
「な、なんだよ、それ。ホウエンを守るためにホウエンを犠牲にするって、他にやり方はなかったのかよ……ッ!!」
「これも貴女の筋書き通りってことですか……??こんな残酷な事件を引き起こして、オメガさんを犠牲にしてまで……本当に必要だったことなんですか?こんなことが!!」
「やり過ぎたよお前……うん、絶対に地獄へ落ちるぞ!!つーか落ちろ!!この筋肉が黙ってやしないぞ!!」
「「そうだーそうだー!!」」
黒幕は笑う。
「あーもう元気な連中だなー」
ケラケラ笑う。
「もう一度確認するけどもぉ、君たちが私の計画を止めれずに見過ごし見逃し見ぬフリした結果がコレなんだよ?君達が無能だったが故にだ!!君たちに何かを言われる筋合いはナーッシング!!」
「にょにょーい!!」
ただただ可笑しそうに笑う。
「ムロのジムリーダーさん!君は私に地獄に落ちろと言ったね!!つい、本音がポロっと出ちゃったね!!トレーナーの鏡のジムリーダーさんがポロっととんでもないこと口にしちゃったね!!」
少しばかり非難の目がトウキに向けられる。
しかし、地獄に落ちろと言われた本人は気にする事もなく告げる。
「いいよ、別に気にしてないから!寧ろそっちの方が人間味溢れて好きだよ!!偽善で仮面を被るジムリーダーさん達よりウエルカムって感じぃ!!だからサービスしちゃおう!!私の今の心境を!!地獄に落ちろと言われた私の胸の内をさ!!別にどーってことないさ!!既にここが!!この世界そのものが!!私にとって地獄なんだからさ!!絶望してるんだけどさ!!でももう地獄にも慣れちゃった!!寧ろ地獄ってサイコーじゃん!!人殺しをしても私にとって罪にさえなりえない!!どれだけ尊い命を奪ってももうここが地獄なんだからさ!!私の言っている意味理解できてる??ポカンって顔してる場合じゃないんだよ!!これだから筋トレばっかりしてちゃダメなんだよ!脳みそに栄養足りてる??プロテインばっかり飲んでない??私は君たちの生きる地獄にいるんだよ!!この意味がホントに理解できる??君にわかってくれる??いや無理だろ!!君みたいな脳まで筋肉くんが10代の悩める女子を理解できるはずないし!!理解共感同調もされたくないしね!!」
「にょにょ~い!!」
「そこまで言わなくても………ッ!?」
いくら黒幕であろうと見た目は少女だ。
ショックを受け膝から崩れ落ちる、ムロのジムリーダー・トウキ。
相当ヘコんだだろう。この先もこの事を引きずるインパクトを与えられた。
「じゃあ次は哀れな仲間を見て今にもこの場から離れたいと思ってそうなヒマワキのナギさん!!」
「わ、私……ですか………っ!?」
「はい!君はそこで白目を剝かない!!そうやって気絶して嫌なことから逃げない!!そこが君の悪い所だよ!!」
「そ、そんな…………」
まさかのロックオンに戦慄が走る。
白目を剝きたくても敵は剝けさせてはくれない。
「君、空を可憐に舞うとかほざいているそうだね!!」
やばい、トウキより性質の悪い爆弾が落とされると周囲は悟った。
「その歳になってまだ中二病とか…ぷっ、だからオメガ君にナメられたんじゃないの??」
「ッ!??」
間に受けてはいけない。ナギ。でも、図星を付かれて動揺は隠せない。
やめてあげて、ナギさんのライフはそろそろ0よ……でも、止めに入れば次はきっと自分の番だと悟るには十分過ぎた。
「君、オメガ君にお仕置きされたらしいじゃないか。ジム戦で優雅に舞って可憐に散ったそうじゃないか。オメガ君、私に何でも話してくれたよ。お尻ペンペン百叩きの刑で失禁したんだってね?」
「………」
「はいそこで白目を剝かない!!」
「ッ!??」
両手をパン、とねこだましをするかのようにナギの覚醒を促す。
「さっきも言ったけど現実から目を逸らしたら駄目だよ!!ちゃんと現実を見なくちゃ!!ショタっ子にお尻ぺんぺんされてどうだった??恥ずかしかった??屈辱だった??怒った??でも、感じたんでしょ!!声漏らしてお漏らしもしたんでしょ!!いい大人が子供にケツ叩かれただけでイっちゃたんでしょ!!ヒマワキのジムリーダーって変態さんだったんだね!!マゾヒストとは驚きだよね!!ジムリーダーさん達ってもっと威厳があるっていうかトレーナーの憧れの対象だって思っていたのに所詮は想像で虚像でしかなかったんだから!!思い込みや先入観って怖いよね!!いつもはクールだけど、子供に無様に負けてお尻叩かれてお漏らししちゃうような変態さんだなんて夢に思わなかった!!明日からのジムの運営大丈夫??こんな変態マゾジムリーダーに任せて将来を有望なトレーナーさん達を育てることなんでできるの??ねぇカナズミのジムリーダー・ツツジさん!!」
「えぇっ、そこでわたくしに振るのですか!!?」
「………おわた」
今度こそナギは白目を剝いて撃沈した。
「この際言いたいことは言わせてもらうよ!!君、トウカのジムリーダーさんに媚び売りすぎなんだよ!!」
「う、売っていません!!」
「いいや売っているさ!媚びを売って恩まで売りつけようとしている!!」
「な、なななな……………」
ツツジは開いた口が塞がらない。
言葉を紡ぎたいが脳内がパニくって「な」しか言えない。
「動揺してるってことは図星を突かれたって解釈していいんだよね??君はマグマ団に身を落としたオメガくんを真人間に更正させセンリポイント(好感度)をがっぽり稼ごうって算段だ。やれやれ、君の立場はいいよね。息子さんの心配をするだけでセンリポイント1ゲットだ。息子さんについて報告するだけでセンリポイントはさらに1ゲット。必ず連れ戻して見せます、これは?これも1ゲットかい??親身になって相談に乗ればさらにセンリポイントは倍増!!今までに何ポイント稼いだんだい??今もそうやって体を支えてあげるだけで何ポイントゲットできるんのかな??というか、そんなに稼いでどうするの!!オメガくんはポイントと交換できません!!それともセンリさんに使ったりするの!?え、なに、100ポイントで夜のネオン街に2人で繰り出す妄想ばかりしてちゃ駄目だよ!!この小娘がっ!!」
「ち、ちが、くて……わたくしはただ…………ッ!!」
「シャラップ!!君の妄想だって実際はどうだっていいんだ!!なんならこの事件の後でゆっくりじっくりねっとりべっちょりと2人だけで相談したら?密談したら??いつものように!!寧ろ私的にその方がウエルカム!!オメガくんを狙う悪い害虫を1体駆除できて心から嬉しいよ!!」
FAUK YOUと中指を立てマジ容赦無しの爆弾にツツジも心が折れた。
「セ、センリさん、わたくしは……わたくしは……」
「ツ、ツツジさん……」
センリの体を支えていたはずのツツジは彼の胸を借りて泣いた。
見るに耐えない光景になってしまった。
アスナは見ていられなかった。
「うはっ、ジムリーダー同士のゴシップってどれくらいお金になるんだろう!!今月の給料も少なかったしお小遣い稼ぎはしっかりしないとね!!」
「もう我慢ならねえ……ぶっ飛ばしてやる!!」
我慢の限界だった。
握り拳を作ったアスナは立ち上がった。
「立ち上がったところ悪いんだけど次は君の番だ。温泉娘のアスナちゅわん!!」
「うっ」
指を突きつけられ尻込みしてしまった。
その時点で反撃の見込みは皆無である。
「君さ、さっきナギさんがオメガくんから受けたお仕置きを聞いて生唾ごくりしたでしょ?」
「し、してねーし!!」
「ほ・ん・と・か・にゃ~ん??私の見間違い??勘違い??おっかし~なー、私の想像通りだったら君が受けたお仕置きより可憐に舞って散った変態マゾさんのお仕置きの方がえぐいんだよねー。言い換えれば、君のお仕置きは所詮は子供のイタズラってことになるのさ。私の言いいたいことわかる?ワカッテルよねぇ……」
「………」
ごくり。
「ほら。今もした。ごくりした。君は緊張や興奮した時やたらと唾を飲み込むクセがある。何故知ってるかって??そりゃ君と私の仲じゃないか。裸の付き合いをした仲じゃないか。フエンの料理もご馳走してくれたよね。君、オメガくんの隣に座りたいんだけど、ガードが固いからすぐさま両隣にカガリ様やウサギちゃんに座られ羨ましがり、またごくりする。なんとかして間に割って入りたいと、ごくりとする」
「……っ!!」
ごくりっ。
「私はちゃんと見ていたよ。タイミングを窺ってオメガくんの気を引こうとする君は必ずといってごくりと生唾を飲み込む!!」
「ち、ちが……」
ごくり。また、ごくり……
「違うくてもだ。君が否定しようが無意識にそのクセは出るものだ。まーそんな温泉での思い出話は一旦置いといて!!君は確かに白目を剝いたジムリーダーさんに対してごくりとした。そのお仕置きを想像してごくりとした。おっぱいを触られたぐらいではしゃいじゃっている自分の知らない世界にごくりとした……自分がお尻ペンペンされたらどうなっちゃうんだろうと想像してごくりとした。このスケベ!!」
「ス、スケベ、このアタシが………」
ごくり。
アスナは自分がまたごくりしていることに気付き止めようとして……また、ごくり。
「ほらぁ。またしたぁ……」
「にょ~……」
だが、止められない。
指摘され意識すれば余計にごくりしてしまう負のスパイラルってやつだ。
周囲も釣られて視線がアスナに向く。
注目を浴びれば余計唾を飲み込んでしまう。
いくら喉元で止めようとしても、過剰に唾液が分泌されくるのだからどうしようもない。
身体がそういう風に反応してしまうのだ。ごくり。
いやいや……
今はそんな話をしている暇はないというのに。
1人の少年の死と、この残酷なゲームを裏で操っていた黒幕が目の前にいるのにエッチなお仕置きにナニを想像して生唾を飲み込むフエンの現ジムリーダーであると結論付けられ冗談では済まされない。
「大人の世界に好奇心を隠せないそんなスケベな君には今度エッチなアイテムをプレゼントしてあげるから!!アダルトビデオからエロエログッズのオンパレードを大放出してあげちゃいましょう!!もちろんこれだけじゃありません!!なんと!!な・ん・と!!今回だけの特別サービス!!オメガくんの秘蔵生写真も一緒につけてあげましょう!!彼が愛用していた染み付きブリーフなんてのいかがでしょうか!!今回の事件後にタンスから下着が何枚なくなろうと問題無いよね!!いたりつくせりだよね!!ヒガナ宅急便は必ずあなたのご自宅まで届けに行きます!!楽しみに待っててね!!」
「………………………ごくりっ」
皆が聞こえるほどに生唾を飲んでしまった。
アスナの中で何かが壊れる瞬間であった。
「あっ、それはそうとして今更だけど、モニターは既に最終ステージからエクストラステージに切り替わってるからね!!君達の失態ぶりも最終ステージが始まると同時に全国生LIVEにて配信されているんだけども!!しっかりしてね!!」
「「「「「「………」」」」」」
今更も今更過ぎるのである。
まさかの同時上映に戦慄を通り越してジムリーダー解散の危機である。
「さて、次はルネのジムリーダーさんだけども」
「わ、私にも何か言いたいことあるのかな……??」
次々と撃沈していく仲間の最後を見届けたような錯覚に陥るのには十分である。
流石のミクリも頬を引きずって構えた。
「君は…………君のファッションセンスが致命的だよね!以上!!」
「にょにょーい!!」
「フッ………」
ミクリは片膝を付いた。
たった一言。思った以上にダメージが入った。というか、それほどイジられなかったことにショックを覚えたかもしれない。
そんな彼をスルーしては次のターゲットにロックオンする。
「ねぇ、ペロペロしていいかい?」
「「ひっ」」
片膝を付き態勢を崩したミクリの陰に隠れていた双子ちゃんが小さな悲鳴を漏らす。
にっこりと微笑んで不穏なワードを口にした。
悲鳴を漏らさない双子ちゃんはこの世にいないのだ。
「まー、そんなに脅えないでよ双子ちゃん。オメガくんもペロペロされたんでしょ?だったらお姉さんにもペロペロさせてよ。ね??」
「「あっかんべー!!」」
お前にはさせてたまるか!とどこか誤解を招きそうなやり取りもここまでだ。
「まー双子ちゃんとの戯れもまた今度にして、そろそろ時間も差し迫ってるだろうし本命とお話ししたいしねぇ」
よくもまぁぺちゃくちゃ1人で喋っていたものだと関心してしまうほどに。
さて、本命の爆弾はこれより投下される。
爆心地はもちろんトリに残しておいたセンリである。
「トウカジムのセンリさん。今生の別れなんだ、君の息子さんのマグマ団での思い出話とか聞きたくない?」
「ユ、ユウキ、の……」
もちろん、良い思い出話があるはずなかった。
世界はどこまで辿ったって残酷で溢れているのだから。