オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
人質は手元ではなくどこか別の場所に隠している。
手が届くことのない絶対不可侵の領域へ置き去りにされた。
少女は戦うしかなった。
彼女は抗えなかった。
たとえ信頼を寄せていた少年が相手だとしても。たとえ可愛がってきた弟を敵に回してでも。
そうするしかなかった。
そうするように仕組まれていた。
拒否権はなかった。
「オメガ、ごめんね……こうするしかなかった…………」
「………カガリたん」
命の恩人はポケモンを繰り出した。
バクーダとヘルガー。
「………………………………キミを、デリートする」
世界は己の想像を遥かに越えて残酷でしかなった。
最終ステージとはよく言ったものだ。
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ヘルガーがけん制してバクーダで有効打を与える。逆も然り。
バクーダでHPをゴリゴリ削らせてヘルガーで追い討ちを掛ける。また、逆も然り。
その作戦を考えたのはオレだ。
バクーダしか手元になかったカガリたんへ提案したのは誰でもないこのオレだ。
アクア団に勝つために、バクーダをもっと活かせるためにもう1体ポケモンを増やしダブルタックを推薦させた。
『カガリたん、バクーダは鈍足だ。先手を取れるポケモンが1匹持ってると持ってないとで戦況は違うぜ』
『………ふむふむ、一理ある』
カガリたんはオレの話しを熱心に聞いてくれた。
『もちろん尊敬するマツブサリーダーと同じポケモンを使うことはたいへん喜ばしいことだ。リーダーも鼻が高いってもんさ。しかしだ、アクア団とこと構えるなら連戦は避けられないぜ。バクーダも1匹じゃたいへんだろうに、麻痺、毒、眠りなどの状態異常に陥って足でも引っ張ったもんなら奴も目覚めが悪いだろうさね』
『………でも、1人じゃない……バクーダも、ボクも……今度は、オメガに守ってもらうから』
『あたぼーよカガリたん!!』
カガリたんはオレを頼りにしてくれた。
とても嬉しかった。
調子に乗ってしまった。
『でも………オメガの言うとおり、もう1匹検討してみる………じゃ、今から行ってくる』
『あ、じゃあオレも一緒に……』
『ダメ……オメガは別の任務がある。何を、ゲットしたかは……後でのお楽ちみ…………………♪』
『いや、それはちょっと話がちが……』
なかなかお互い一緒にいられる時間が取れなく、こうやって少しでも趣旨趣向を凝らして就寝前にどう楽しむか、それがオレとカガリたんの駆け引きだった。
『ボクがゲットしたポケモン…………ヒント、炎タイプ』
『んーと、マグカルゴ………??』
『ハズレ……オメガ、マグカルゴは遅い』
『いやいや、マグカルゴ超早くなるぜよ』
『……………それはウソ。ウソはよくない』
『ウソじゃねーよ。早くなるマグカルゴいるから……ってその話しは一旦置いといて!じゃあ、ポニータ……とか??』
『…………それもハズレ。じゃあヒント…………可愛い』
『よーしわかった!ヒトカゲ、ヒノアラシ、アチャモ、ヒコザル、ポカブ、それにフォッコォ!!』
『ブブ~…………オメガ、ズルはよくない。次から……ハズしたらエクスリメント…………ね?』
『ファッ!?』
『次。ヒント……………………オメガに似た顔してた』
『………』
カガリたんは意地悪にクスリと笑う。
でも、悪くない。
いつもまでもこんな日々が続くと思っていた。
『デルビル……チョーきゃわわ………………』
『………』
就寝前によく実験は行われるわけだけども。
他人に明かせない赤裸々な実験は決して口にして言わないけども。
『この目つき……オメガくりそつ……………だよ??』
『さいですか』
進化後のヘルガーは決して素早さは早いとは言い難いけども。
ニックネームをOMEGAにしようとしたのは阻止できたけども……
嬉しそうに腕の中に抱くデルビルに頬をすり寄せるカガリたん。
自然と口元が緩んでくる。
『オメガ……見て、デルビルが進化した。やった……♪』
『おめでとう、カガリたん。ヘルガー』
祝杯をあげる。
少し大袈裟だけど、これがオレ達だ。
その日の晩飯は豪華だった。
『あのーカガリ様。デリバリー・キンセツの人がアジトに迷い込んだらしいですけど……』
顔見知りのしたっぱが困惑な様子でカガリたん研究室に顔を出す。
『フッ………今日は特別の日。だから、ピザ頼んだ………皆の分も、あるよ』
『やだっ、不適にもドヤ顔するカガリ様も素敵!あ、アンタはこの被りモノを被って場を盛り上げなさいよ新入り!!』
『………』
通称・ケー子に被さられたのはピザの被りモノ。
六等分にされた一切れが千切られかけの、そこからしか視界が確保できない妙にちんちくりんな被りモノでオレはどう場を盛り上げたのは皆まで言わないが。
カガリたんが笑ってくれたから良しとするけども。
『オメガ……オモチロかわいい、ね』
しかし、もうあの笑顔も見られないのかもしれない。
『オメガ、良い子良い子……エクスリメントさせて』
もう笑顔を向けてくれることはない。
褒めてくれることも、イチャイチャしることも、実験されることもない。
「ボクはマツブサ様を助ける……キミをデリートしてでも!!」
このクソッタレのゲーム、暴れるだけしか脳が無いオレにとって最悪の展開を迎えていた。
人質は誘き寄せるための餌でしかなかった。
アクア団のしたっぱ投入も罠でしかなかた。
時間稼ぎは隔離されたマグマ団のリーダー及び幹部を屈服させるため……リーダーはカガリたんにとっての人質として囚われたのだろう。
そして、悪趣味にも命の恩人を利用して勝てない勝負の出来上がりだ。
オレはカガリたんへ攻撃できない。
ポケモンで迎撃することも許されない。
それは絶対だ。
「ヘルガー、かみくだく!!」
「………ッ!??」
右腕を噛み付かれ骨を噛み砕かれるような音がした気がした。
悲鳴を上げる暇もない、容赦なく第二撃、三撃とコンボが続く。
「そのまま、振り回して床に叩きつけて!バクーダは踏みつけ!さらにのしかかり!」
ガキの身体ってのはとんでもなく軽い。
大型犬に振り回されるだけでもガキにとって脅威なのに、ポケモンだとひとたまりもない。
視界は目で追えずブンブン振り回され天を見上げたと思ったら浮遊感も一瞬で床に叩きつけられ強打した。
肺から空気が吐き出されるが激痛が襲うがまだ終わらない。
バクーダのターンだ。
鈍足だが重量のあるその二本の前脚を振りあげ後ろ二本足で踏み止まる。そこから全体重を乗せ一気に振り下ろす。
ヒト程度なら用意に人骨を粉砕してみせるだろう。
さらにのしかかりとか、想像するにおぞましい。人体の中身が飛び出してしまう。
バキバキと嫌な音はしたし、グチャリと何かが圧迫され潰れる音がした。
だけど、まだ彼女の攻撃は終わらない。
トドメはこれから差すのだから。
「カ、ガリ……たん」
倒れた体を引き摺り起して腕を伸ばす。
オレに力を振り絞ってただ一言、君に言いたかった。
「オメガ、キミの力になれなくてごめん……ね」
「っ!??」
オレが言おうとした一言を……
「キミが暴れて……でも、かっこよくて……キミが好きだった。だから……なんとかして力になってあげたくて……でも、ボクは未熟で弱くてキミに頼ってばかりで……キミを最後まで守ってあげられなくて…………ごめん…なさい」
それは違うだろ……
今度はオレがカガリたんを守る番だった。
オレはもう言葉を発することさえできない。
この窮地を乗り越える打開策は何一つしてないのだから。
だから……
「だから、ここでテメーをデリートして全てを終わりにしようって話しだぜギャーッハッハ!!」
「………」
カガリたんは泣いていた。
どうしようもないこのクソッタレなゲームに抗いしかし敗れた彼女に選択肢は残っていなかった。
どこか別の場所から見ていたであろうクソッタレ糞野郎がステージ姿を現す。
馬鹿笑い高笑い嘲笑うそいつの手には二つのリモコンが握られている。
察するに1つはオレにとっての人質ハルカちゃんの分。もう1つはカガリたんにとっての人質マツブサリーダーの分。
オレはリザードンを使えばこそ囚われの身であるハルカちゃんを力尽くで助け出せるだろうが、リーダーマツブサは流石のオレも救えないと思う。
今からヤミカラスを放つか?いや、悟るのが遅すぎた。奴が出てきた時点で手遅れだ。
どこか別の場所に隔離され見張りを置きボタン1つで地獄の底へ叩き落すことができるんだろう。オレが妙なまねをすれば……
「おいクソガキィ!!宿敵に勝つってこんなに清々しく気持ちのいいもんなんだな!!今はサイコーに気分がいいぜ!!」
「………」
糞野郎の勝利宣言。
これほど胸くそ悪い勝利宣言は生まれて初めてだ。
「俺様はテメーに勝った!!この手は下さなくてもポケモンを使わなくてもテメーをぶっ殺すためのゲームを用意してテメーの想像を遥かに超えた作戦を練って見事に勝ってみせた!!完全勝利って奴だ!!ギャーッハッハッハ!!」
「………」
「オメガちゃ~ん、テメーほんとマジ暴れるだけしか能が無いボンクラだったでちゅね~!!モニターで見ていて笑いを堪えるの大変だったでちゅよ~~~!!」
「………」
「なに、お前暴れて片っ端からアクア団の雑魚共を蹴散らしていけば俺様にいつか出くわすと思ってたの?そーなんでちゅか~??阿呆か!!単純なゲームじゃねーんだよ!!テメーにクリアできるシナリオなんて初めから用意するかよボケが!!」
「………」
「いいか、人生の先輩の最後の教えだ。裏社会で生きていくならポケモンバトルだけが強くてもダメなんだぜ。もっと頭ひねって考えて想像して何振り構わずプライドも捨て卑怯な手を使ってでも……って当たり前なこと言わせんな!!言ってる俺様が恥ずかしいわ!!分かれ!!」
「………」
「で?今、テメーはどんな気分??人質のハ~ルカちゃんは美味しく食べられ、カガリ様もこのあと俺様好みに調教して食べてあげようって算段なんだか。こうやって胸も触り放題!!服の外から中からも!!お尻も柔らかくてサイコーだ!!口の中に指を突っ込めば口を支配できたと優越に浸り、下に手を伸ばせばもう濡れてやがるんだぜ!!なー、どうなんだ??好きな女の子達が他の男に奪われアヘアヘされるの悔しいか??泣くほど悔しいのかって……おいおい、本当に泣くなよガキが!!」
「………」
「テメーが泣いてもカガリ様はもう俺様のもんだぜ!!なんなら今この場で全国生ライブでアヘアヘさせてやろうか!!ギャーッハッハッハ!!」
「………」
「まーアレだ。テメーにさっさとトドメを差してカガリ様とハ~ルカちゃんをアヘアヘさせたいからよぉ……もう死んでくれやー」
「………」
カガリたんは涙を流しもみくちゃにされる中、オレは……オレはただそれを見ているしかできなかった。
オレは見た。
見てしまった。
察してしまった。
無抵抗の彼女はもう……泣いてはいるがオレに助けを求めていなかった。
クソッタレ野郎クズキリαは死刑宣告を告げた。
カガリたんに最後の命令を出す。
「クソガキを消せ、カガリ………」
「はい……………クズキリα様」
トドメはオレに罰を与えるにふさわしい処刑方法だった。
「ヘルガー…………………………………………………………煉獄」
「――――――――――――――――――――ッ!??」
声にならない絶叫。
それは断末魔の叫びだ。
しかし、それは彼女の最後の優しさだった。
「バクーダ……………………………………………………………………………………………………岩落としで、鎮火」
焼き焦がれもがき苦しみ転げまわるこの身に降り注ぐのは……
………絶望の塊の雨。
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少年は絶命した。
確実に死んだ。
誰の目から見てもわかる死因だ。
ホウエン地方のお茶の間は少年の死亡を見届けた。
悪魔の子が死んだ。
怪物が死んだ。
高笑いし喜びのあまり発狂しガッツポーズを取る愚か者が映る中、岩の塊に埋め尽くされその隙間から血が流れ腕がだらりと覗いているがピタりとも動かない。
完全に生命活動を終了したんじゃないのかな。
この世の中は残酷だらけだ。
こんな結末があってもいいじゃない。
こういう星の下に生まれてきた哀れな生命も存在したっていいじゃない。
でも悲しいかな、息子と再開した父親はただただ息子の名前を叫んでばかりいる。青年2人が押さえ込んでなんとか暴走をくい止めようとしている。
こちらを睨む目は全部数えて16個。
なんとも、可笑しな展開になったもんだ……
ねぇ。君もそう思うでしょ?
オメガくん。
君、なんで狸寝入りなんてバカなマネしてるのかな~?
私の育てたオメガという怪物はこんなもんじゃにゃいでしょ??
ね??