オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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扱いにくい怪物

 オレは一体何なんだ……

 

 約束された人生だったはずだった。

 

 ミシロタウンに引っ越してポケモン貰って旅が始まるはずだった。

 

 気が付けば汚れた手に染まりつつあった。

 

 悪に染まりつつあった。

 

 悪というより怪物か……

 

 この手でアクア団を破壊しなきゃ気が済まないんだ。

 

 どうしてもこの手でアイツらの人生をぶっ壊さなきゃ気が済まないんだ。

 

 だって当然の報いだろう。

 

 そう思って今まで破壊してきた。

 

 何が悪いのかわからない。

 

 でも違うだろ。

 

 カガリたんの恩返しの話はどうなった。

 

 カガリたんに恩を返すどころか仇で返す現状だそうだ。

 

 この惨劇が、彼女がそう物語っていた。

 

 あぁ、サイテーだ。

 

 オレのメンタルは果てしなく豆腐だ。

 

 オレは怪物で忌み嫌われ者……

 

 オレはいらない子なんだ……

 

「あ、いや、カッとなって私も言い過ぎたよ。お前がそこまでヘコむとは思わなかったから、だから私みたいなモブが何を言ってもスルーすると思ったしそれでも暴れ続ける怪物だと思っていたから……そうだよな!結局お前の処遇を決めるのはリーダーであるマツブサさんだもんな!!」

 

「おう………」

 

 通称・ピー子さんの親友パー子さんが顔を引きつらせていた。

 

 そりゃあれだけ怒鳴ったんだから胸の傷も開くってもんだ。

 

「もう!!さらにヘコむなって!!怪物かっこいいって!!やばっ、惚れちゃいそう!!それに!!この惨状を作り出したお前には責任もって最後までやってもらわないといけないことがあるんだって!!このクソッタレのゲームを止めるのはお前だろ!!お前しかいねーだろ!!そうだろ!!」

 

「あぁ、あのクソッタレだけはちゃんとケリつけてハルカちゃんをたすけます……それでおわりにします。さくっとね」

 

「ちょっと待てコラ!!そんな覇気のない状態でボス戦は無理ゲーだろ!!そーだろ!!」

 

「きをつかってもらってすみません。きっとなんとかなりますって。ははっ………」

 

「おいっ!!本当に扱いにくいガキだな!!不安しかないんだけど!!お前が負けたらマジでマグマ団解散秒読みだぞ!!?」

 

 さてと……

 

 さくっとクソッタレなゲームを終わらせよう。

 

 しかし、身体は動かなかった。

 

 活動限界……とは違うようだ。

 

「サイコキネシスっ!?いったい誰が!??」

 

 モブなパー子さんが辺りを見渡した。

 

 あぁ、ついにおいでなすったってワケだ。

 

 いつもおせーんだ、こいつら。

 

「ソルロック、サイコキネシスは現状維持だよ」

 

「鬼のお兄ちゃんごめんなさい。ルナトーン、サイコキネシスでそのまま壁に貼り付けにしてあげて」

 

 トクサネシティのジムリーダーの双子ちゃん・フウちゃん。ランちゃんのお出ましだ。

 

 否、彼らだけじゃない。

 

「風変わりしているとはいえ鬼のお兄さんとは言いえて妙なりだね。もちろん、そのフードの角は飾り物だと思いたい……まぁ冗談を言っている場合じゃないか。それよりも君は少しばかり暴れすぎた。もう休んだほうがいい。あとは私たちに任せてくれないか??」

 

 子守はたいへんだな、ルネシティのジムリーダーさんよ。

 

 ミクリとは初対面だが、わかる。

 

 相当な実力者だ。

 

 オレの勘でいけばチャンピオン・ダイゴより有能だ。

 

 しかしだ。

 

「はははっ、お前らに任せるだって?」

 

「あぁ、後の処理は我々に任せてくれたらいい。人質になっている彼女は助け出してみせるし、ここで横たわっている連中も悪いように扱ったりはしないさ」

 

「だから信用できないんだぜ、ジムリーダーさんよぉ」

 

「なんだって……??」

 

「だってそうだろ?言葉よりも行動で示せよバカ。お前らは言うだけ言って出遅れてきたんだ。今日の今までずっと……」

 

「「「………」」」

 

 情緒不安定なのかもしれない。

 

 オレの中でまた怒りが芽生えていく。

 

「パー子さん、アンタの言うとおりオレはやっぱり暴れることしか能がないバケモンだ。どうしようもなく疫病神で死んだ方がマシな怪物だ……だけど、ホウエンをでていくのも、もう少しだけ待って欲しい。それがたとえ、これから先どれだけの犠牲者が出たとしてもだ……」

 

「おいおいおい!!何を開き直ってるんだクソガキ!!?」

 

「ユウキくん、さっき彼女が言ったことは一個人の意見にしか過ぎない。私は死んで償うというやり方がキライだ。キレイじゃないからね。だから本当に罪を償うというなら……」

 

「うるせーオレはユウキじゃない!!オメガだ!!」

 

 怒りが募っていく。

 

 イライラが増してくる。

 

 早く暴れろと悪魔が囁いてくる。

 

 それがオレの心の奥底にある本音なのだから。

 

 アクア団は徹底して駆逐しなくちゃ未来はないのだから。

 

「あ、ミクリさん、もう限界っぽいですっ」

 

「くぅっ、ミクリさんごめんなさいっ」

 

「早いな君達っ!?修行が足りないんじゃないかそのポケモン達は!!」

 

 驚愕するミクリ。

 

 それはエスパータイプのポケモンの技を自力で抜け出したということだ。

 

 それだけはありえないのだから。

 

 冗談ではすまないと嫌な汗が背中を伝う。

 

 フードの角が赤黒く閃光が迸ったのは目の錯覚だと思いたい心境だ。

 

「フウちゃんは鬼と的を得ていたじゃないか。浅はかなりルネのジムリーダーさん。お前らに構っている暇はないんだわ」

 

 拘束は解いた。

 

 怒りがオレに力を与えてくれる。

 

 怒りがオレを強くしてくれる。

 

「なんてプレッシャーを放つんだ……」

 

 それがオレの『特性』なのだから。

 

 フウとランちゃんはひっと脅えていた。

 

 前のアレを思い出したのだろう。またしてやろうか!

 

「まーアレだ。ジムリーダーなんぞに構っている暇はないといったが少し余興をしよう」

 

「余興だって……??」

 

「そう、余興。パー子さんも自分の目で確かめたらいい。自分で判断したらいい。アクア団を止めるのはもうオレかジムリーダーぐらいしか力はないぜ?だからこそ、どちらにホウエンの未来を託すのかをな……」

 

「あまり良い予感はしないよ、ラン」

 

「あまり良い予感はしないね、フウ」

 

 さあ、モンスターボールを取り出せ。オレはバンギラスで相手になってやろう。

 

「満身創痍で死に掛けのオレVSジムリーダー3人!!これでホウエンの未来をどちらに託すか賭けようぜ!!」

 

「バカ、いくらなんでもそれは……っ!!」

 

 パー子さんが無謀だと叫ぶ。

 

 しかしオレはそうは思わなかった。

 

 ジムリーダーが3人で満身創痍な怪物さえ止められないのであれば、オレに全て任せた方がよっぽどホウエンの未来は救えるのだから。

 

 だが、異を唱えるのはパー子さんだけじゃなかった。

 

「ちょーっと異議有りーーー!!そのバトルは無効にさせてもらうよーーー!!」

 

「にょにょにょ~」

 

「邪魔を……」

 

 いくら仲間内だからといって今のオレを止める狼藉、たとえヒガナたんでもゆるされ……おごっ。

 

 突如現れた少女の腕が伸び掌は鋭く指はしなやかに口に入ってきた。

 

 体が少し軽くなった……何か、薬っぽいものを飲み込まさせられたのか……

 

「なに……するんだ…………ヒガナたん??」

 

 むせた。

 

 しかし体力は幾分ばかり回復した。

 

「何するんだはこっちの台詞だよオメガきゅん!陰からこっそり見ていてハラハラどきどきもんだよオメガきゅん!!」

 

「作戦部長、無事だったんですか……??」

 

 ぷんぷんブリっ子する少女にパー子は驚きを隠せない。

 

「てっきりリタイアしたと報告を受けていましたから……」

 

「あちゃー、それは誤報だね。団内で誤報が飛び交ってるんだね。これもアクア団の作戦と考えるのが妥当かもね、パー子さん!もしかしたらリーダー・マツブサもホムラ隊長もピンピンしてるかもね!!」

 

「にょにょー」

 

 誤報で敵を混乱させる作戦。

 

 狡い手だ。

 

「それよりもオメガきゅん!こんなところで喧嘩売ってないでとっとと今回のボス戦行ってきなよ!私の手でワープパネルの経路をイジっておいたから、どのフロアも大体は脱出できる経路を確保はできたよ!!エントツ山火口への出口にもね……」

 

「本当、ですか……!??」

 

「いやー、たいへんだったよパー子さん!!もの凄く頑張ったんだから!!」

 

「にょ~……」

 

 シガナがやれやれと首を横に振る。

 

 相変わらず可愛いが和んでいる場合じゃなかった。

 

「タイムリミットの期限までちゃくちゃくと進んでいる、午後3時30分を回ったよ。ここはヒガナ作戦部長に任せて君はあの糞野郎をぶっ飛ばしてきなよ。ね?」

 

「あぁ……そうだった。悪いが頼んだぞ、ヒガナ作戦部長」

 

「いやん、任された!ご褒美は私を激しく抱いてね!!」

 

「はいはい……」

 

 本当はミクリとバトってみたかったが今はそれどころじゃなかったな。

 

 大局を見失うところだった。

 

 まじヒガナたん感謝。

 

「まーアレだ。じゃーな。さらばだ。双子ちゃんは今度また遊ぼうな」

 

「「いやだっ」」

 

「………」

 

「いやいや、君たち2人は知らないが私はまだ納得いかない!そんな薬で体ごまかして戦えば君は間違いなく身を滅ぼすことになるんだぞ!!」

 

「………」

 

「おおーっと、ルネのジムリーダーさん!オメガきゅんを止めたかったらまずは私を倒してからにしたらどうだい?」

 

「にょにょ~」

 

「くっ……」

 

 オレは彼らを背にしてワープパネルを目指す。

 

 ミクリの言うとおりかもしれない。これ以上戦えば身を滅ぼしかねない。

 

 しかしだ。

 

 薬で体を誤魔化すどころか今は絶好調だ。

 

 心臓がバクンバクン、今までにないぐらい脈を打っている。

 

 これを最高にハイって言わずに何と言えばいい。

 

 今、この瞬間、オレを止めれる奴はいない。

 

 たとえ、相手が父親であってもだ。

 

「ユウキッ!!」

 

 フロア全体に声が響いた。

 

 反対のワープパネルから父さんの声がした。

 

「センリさん、ナギさんはどうしたんですか?」

 

「ミクリさん、ナギさんは別のフロアのベンチで休んでもらってます。また白目剝いてたんで……」

 

 そんなことよりも、と父さんはもう一度叫ぶ。

 

「ユウキ、待ってくれ!!止まってくれ!!父さんだ!!少しだけでいいんだ!!話しをさせてくれ!!」

 

「はい異議有り!!せっかくの親子の感動の再会なのかもしれないけど話しをしたいのであればこの後輩想いなヒガナ先輩を倒してからにしてね!!ねーオメガきゅん~??」

 

「あぁ、そうだな……」

 

 オレは振り返ることもしなかった。

 

 だって……

 

「あんたと話すことなんて何もないんだぜ……父さん」

 

 そんなもの、涙の再開なんて漫画やドラマの中だけだ。

 

 

 

 

 

 

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 少女達の叫び声はフロアに木霊する。

 

「オメガっ!!」

 

「オメガさんっ!!」

 

 ジムリーダーのアスナ、ツツジである。

 

 ミクリを筆頭に集結しつつあるフロアへと合流を果たすも一足遅かった。

 

 もうオメガは姿を消した。

 

 このあとに、ジムリーダー・トウキ、そして、なんとか復活したナギと合流を果たすがどいつもこいつも遅すぎた。

 

「おやおや、ジムリーダーの皆さんお揃いになって……なかなかどうして豪華な顔ぶれだねぇ」

 

「にょにょにょー」

 

 行く手を阻むのはマグマ団の作戦部長。

 

 宇宙に想いを馳せる後輩想いなヒガナ先輩だ。

 

 そのニヤつく笑みは悪意で満ち溢れている。

 

「そこをどいてもらおうか、マグマ団。私の息子がその先にいるんだ」

 

「じゃあ私を倒して、あるいは私の屍を跨いで進みなよトウカジムリーダーのセンリさん。確かにあのワープ先は息子さんのいる最終ステージ・エントツ山、山頂だよ」

 

「にょにょにょ~」

 

 1対8。

 

 テッセンは入院で不在の中、それでもジムリーダーが8人だ。

 

 普通ならまず相手にしない。

 

 でもヒガナは分かってて敢えて彼らに対峙する。

 

 分かっているから笑いがこみ上げてくる。

 

 本当におかしくてたまらない。

 

「くっくっくっく……」

 

「何がおかしいんだ?」

 

「いやーごめんね。君たちがあまりにもキレイに罠にハマってくれてねー。笑わずにはいられなくてね」

 

「罠、だって……??」

 

「作戦部長、一体何を言って……??」

 

 アスナは以前の彼女からは考えられない笑みに凍りづく。

 

 勝手に人ん家の温泉で好き勝手やっていた笑顔とはまったくの別物だったから。

 

 パー子はパー子の知るヒガナという少女が味方なのかすら判断できなかった。

 

 こちらに向けてくる笑顔は絶望そのものだ。

 

 最早マグマ団カガリ隊作戦部長ヒガナとは別人だった。

 

「パー子、君はなかなかクセのある駒だったよ。じゃあね、バイバイ」

 

 何を言われたのかわかなかった。

 

「シガナ、パー子にハイパーボイス!!」

 

 それでも分からなかった。

 

 攻撃される理由が分からなかった。

 

「よせっ!!?」

 

 誰かの声も虚しくパー子は衝撃の余波で壁に叩きつけられた。

 

 背中を強く打ちつけられた。

 

 肺から空気が洩れる。

 

 打撲ではすまない。が、思考はすでに停止している。

 

 何が起きたのかパー子にはわかるはずもなかった。

 

 口から血を流し意識がそこでぷつりと消えた。

 

「なんて酷いことを……」

 

「何のつもりなんだお前っ!!」

 

「仲間じゃないのか?とでも言いたいのかね?うぷぷ……」

 

「にょにょ~」

 

 それこそいとおかしそうに笑う。

 

「マグマ団もアクア団も私のとって駒でしかないんだよね。その駒をどう扱おうが私の勝手だよね?もっとも、君たちは私と違って敵味方関係なく人の命を尊重しなきゃ、ねぇ……」

 

「なるほど……ここに横たわる彼らは人質ってことでいいかい??私達を一箇所に誘き寄せユウキくんのバトルの邪魔をさせないつもりなんだね……??」

 

「そう!!その通り!!頭が冴えてるねルネのジムリーダーさん!!君達が一歩でも前に進んだら弱っているこいつらを一人ずつ順番にいたぶって嬲って犯して……ちょっとやり過ぎちゃって殺しちゃうかもねぇ」

 

「「「「「………」」」」」

 

「いやん、そんなドン引きな目で見つめられても困るんですけど!そもそも横たわるこいつらを足場にポケモンバトルする気だったの?狂気の沙汰とは思えないね!!それとも親切にこいつら一人一人どかしてバトルフィールド作るつもりだった?そんな間の抜けた行動するつもりだったの?ほんとマヌケども!もっと状況をよく見なよ!!想像力がちーとばかし足りないよ!!」

 

 少女の言うとおりだった。

 

 足場が悪い。

 

 ポケモン技を放てば彼らを巻き込んでしまう恐れがある。

 

 少女ならワザを彼らに攻撃する恐れがある。

 

 だとしたら、エスパータイプのポケモンで攻撃するか……いや、ナンセンスだ。

 

 アジトに乗り込んだジムリーダーを罠にハメた敵がエスパーポケモンの攻撃の対処を想像していないはずがない。

 

 シガナと呼ばれるゴニョニョを相手している間に別のポケモンを繰り出されても、少女にダイレクトアタックしている間にシガナが実行に移る危険性もある。

 

 ならば……

 

「あ、ちなみにトクサネの双子ちゃん達はポケモンをモンスターボールに戻しておいてね。くれぐれも私とシガナを同時攻撃して一撃で仕留めるなどという絵空事は考えないように。しくじればどうなるかぐらいわかるでしょ?それこそ想像力を働かせてみようよ」

 

「にょ~」

 

 フウとランを悔しそうにポケモンを戻した。

 

「本当に頼りにならないジムリーダーさん達だなー。そんなんだからオメガきゅんは愛想を尽かして最終ステージに乗り込んだんじゃないかー。だからさ、ここで彼の戦いを見守ってあげようよ。ねぇ?」

 

 そう言って少女は壁にかけてあるモニターに電源を入れる。

 

 映像が映し出される。

 

「さあ可愛い後輩と愚か者の最終ステージだ!存分に楽しんでくれたまえ!!諸君!!」

 

 エントツ山、山頂の火口に設けられたステージが映し出された。

 

 下はマグマだ。ポケモン技のダメージも吸収してしまう超強化されたクリアガラスステージだ。

 

 すぐ近くにはハルカという一般人の戦利品まで用意された最終ゲーム。

 

 そこにオメガ少年がいた。

 

 対戦相手と対峙していた。

 

 またアスナが唸るように声を漏らした。

 

「ちくしょう、オメガに勝ち目あるのかよ……っ!!?」

 

 さあ、クライマックスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「オメガ、ごめんね……こうするしかなかった…………」

 

「………カガリたん」

 

 くそったれが。

 

 最終ステージとはよく言ったものだ。


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