オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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緑髪の少年

 大きな理想を追い求め愚かにも利用されるだけ利用されてはポイされた哀れな男、それがアオギリである。

 

 最後まで勝利の女神が彼に微笑むことはなかった。

 

「なにヘマしてんだよエルレイド、傷が浅いよ……今度は確実に息の根を止めるんだ!」

 

「エ、エル……」

 

 一撃目は致命傷を免れた。

 

 しかし二撃目はどうだ。

 

 アオギリは死を覚悟した。

 

 これが報いなのかもしれない。

 

 理想を追い求めた代償だ。

 

 初めからリスクは想定していたし犠牲を出してでも成し遂げようしたのだから……

 

 だから、アオギリはどんな運命でも受け入れる。

 

「ったく、アオギリはアタシの獲物だって言ってのんのよ……」

 

 一瞬思考停止していた脳をフル回転させろ。

 

 ゲンガーがアオギリを飲み込んだ。間一髪、サイコカッターを回避した。

 

「そこで少し眠ってなさいアオギリ……ソライシ博士、アンタも邪魔ね」

 

 気絶したソライシ博士も回収してルビーはザングースを繰り出した。

 

 今からココは戦場になるだろう。

 

 何者だろうと獲物を横取りしようとした罪は重たいのだから。

 

「で、アンタ誰?」

 

 ルビーはアオギリを狙った第三者に問う。

 

「そろそろ貧血起こしそうなんだけども……アタシの知り合いにミツルっていう緑髪の男の子がいるんだけど、アンタと違って人にポケモン技を使ったりしない良い子ちゃんだったわ」

 

「へぇ、その知り合いの男の子は緑髪でミツルって名前なんですか?なんだか運命感じちゃうな~!!ボクもミツルって言うんですよ!!以後お見知りおきを、マグマ団のこそ泥さん」

 

「ぺっ」

 

 目の前にいる緑髪の少年に反吐が出る。

 

 ルビーの中で警報のサイレンが鳴り響く。

 

 アクア団の中でも異質の存在、汚れもシミも返り血の1つもない純白のコートがいっそう不気味だ。

 

「率直に訊くけど、アクア団の黒幕ってのはショタボーイを悪の道へ引き摺りこんで何を企んでるのかしら?」

 

「ちょっとちょっと、悪の道に引き摺りこむだなんて人聞き悪いなー……心外です。黒幕っていうのも感じが悪いので先生とお呼びしてください」

 

 訂正してください、もの凄く真面目な顔で言われた。

 

 悪の道に引きずり込むのではなくボク達を導いてくださっているんです、と真剣な表情の緑髪の少年。

 

「はいはい。で、その先生とやらは一体何をしようとしてんのよ?」

 

 まさか古代ポケモンを復活させるために悪に仕立て上げたなんて馬鹿な話があっていいわけないだろう。

 

 たとえ、どの道、主人公が正義ルートであっても古代ポケモンは復活するのは少女ルビーの過去で答えが出ている。

 

 だから、不気味なのだ。

 

 悪の道に走ったオメガを完全にコントロールして何をするつもりなのか?

 

 少女の過去以上の悪夢などあってはならない。起してはならないのだ。

 

 だから問う。

 

 未然にその危機を防ぐために……

 

「ふむ。どうやら貴女は何か先生のことを勘違いされているようだ。見当違いの未来図を予想されているようだ。貴女の過去がどうあれ、先生はホウエン地方の未来を約束するためにアクア団及びマグマ団を創設されたのです。世界を滅ぼそうなど1ミリも考えておられない」

 

「………」

 

 不安はさらなる不安で上書きされていく。

 

 緑髪の少年は単なる使者。使いっぱしりの操り人形でしかないからこそ、さらなる絶望さえ想像できる。

 

 肝心なところはボカしてベラベラと喋ってくるのも腹立たしい。

 

「先生はホウエン地方の未来を嘆いておられます。ポケモンばかりに頼る人の無力さに軽蔑をして、人の無能さに呆れ果てて、人の無価値さに絶望しておられるのです。もちろん先生の主観でしかありませんが、『君達はもっと私を見習って死ぬ気で気合い入れて働いて欲しいね』と言いたいそうです。はい」

 

「めんどくさい先生ね……」

 

 私は頑張ってますアピールは本当にめんどくさい。この上ない。

 

 正直、肝心なところはボカされているもんだから何を伝えたいのかわからない戯言だが……

 

 否。

 

「だから、ワザと事件を起させて人々に刺激を与えたいワケ?平和ボケしたホウエン地方にマグマ団・アクア団という脅威を立ち上げ人々の真価を見極めようとって腹かしら?そんなくだらない事のために巻き込まれ犠牲になった人たちはたまったもんじゃないわよ!」

 

「いえ、全然違いますよマグマ団のこそ泥さん。先生は他人の価値など求めてなんかいやしない。いや、価値ならあるのか。駒という貴重な価値が……ものは言いようですがね。それでも先生は価値の無い駒とボヤくでしょうけど」

 

「………」

 

 ルビーとしちゃ、こんなくだらない話は早々に打ち切るべきだった。

 

 話が長くなりそうだし、知りたい情報を聞きだそうとすれど無意味に思えてきたからである。

 

 じれったい。時間稼ぎにもならない茶番だ。

 

「こそ泥さんの答えはある意味正解である意味不正解です。価値の無い駒をどうやって価値のある駒にするのか?先生はね、そうやって夜も寝ずにボク達のことを想って導いてくださっているんです。病弱でイジメられっ子だったボクがどうすればイジメっ子達をボッコボコにできるのか?共に作戦を考えくださったのも先生なんです。先生はボクの恩人なんです!!」

 

 やばい、話の内容が全然頭に入ってこない。

 

「ボクはね、先生に恩返しがしたいんですよ……暗い明日を迎えるだけの絶望の日々を送っていたボクに手を差し伸べてくださった先生のためになりたいんです。弱いボクを真の強者にしてくださった先生の手足になりたい。先生の喜びがボクの悦びなんですから……あぁ、先生!絶対にボクが幸せにしてみせますからね!!ボクと先生とでこのホウエンの夜明けを導いていきましょう!!」

 

「………」

 

「だからもう失敗は許されないよエルレイド。マグマ団のこそ泥を嬲って犯してでもアオギリさんを影から引き摺りだし息の根を止めるんだ!!メガ進化してサイコカッターだ!!やれぇぇええええ!!」

 

「エ、エル……ッ!!」

 

「………」

 

 予想以上にクレイジーショタのようだ。

 

 会話であるかも怪しいが、まさか会話を中断してエルレイドをメガ進化させて攻撃してきた。

 

 ポケモン技を放った当の本人も反応が遅れるほど唐突だった。

 

「ザングース、まもる」

 

「ラジャーッ」

 

 ルビーは気持ちを切り替えてザングースに指示を出す。

 

 ベラベラ喋っているいる間に攻撃すればよかった、などと後悔しても仕方が無く、目の前の敵に集中しようか。

 

 舐めてかかれる相手ではない。

 

 レベル70オーバーの敵なのだから。

 

 距離を詰められ格闘技のインファイトでも喰らえばアウトだ。

 

 しかし。

 

 ザングースには切り札がある。

 

 それは『毒暴走』。

 

 猛毒に犯されたザングースのジェノサイドが吹き荒れる。

 

 勝負は一瞬だった。

 

「アンタのメガエルレイド、もの凄く緊張してるわよ?メガ進化に馴れてない証拠。アタシ達の勝ちね……ザングース、からげんきよ」

 

 緊張して動きの鈍いエルレイドのインファイトよりもザングースのからげんきが炸裂する。

 

 エルレイドは綺麗な放物線を描き吹き飛び、緑髪の少年の遥か後方へ転がっていった。

 

 見せ掛けのレベルだったようだ。

 

 手応えがなさすぎた。

 

 否、レベル70オーバーのポケモンを倒すほどザングースが強くなったのかもしれない。

 

 何にしろ……緑髪の少年は言うほど大したことはなかった。

 

「今のがアンタんとこのエースよね。どうする?まだ続ける??」

 

「そ、そんな、ばなな……」

 

 緑髪の少年が膝からくだけおちて、よちよち歩きでエルレイドが倒れた方向へと向かった。

 

 洞窟の入り口がある方だ。

 

 逃がすワケもないがな。

 

「ねぇ、せっかくの出番がやってきたのにこんなにも早く退場になる噛ませちゃんなミツルくんは今どんな気持ち?ねぇ?ねぇってば??」

 

「………」

 

 四つん這いの緑髪の少年の背に腰をかけ座り優雅に見下ろすサディスティックな少女ルビー。

 

 悪魔の笑みに緑髪の少年は………笑うしかなった。

 

「あはっ、あははは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!」

 

 笑うしかなかった。

 

「あははははははははははっ、あははっ、あははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 不気味なほど狂ったように笑うしかなかった。

 

「あはははははははははははははははははははっ!!あーーはっはっははははぁあああああ!!あはぁっはぁっはぁああっ!!はひーーー!!お腹が痛いですっ!!貴女のそれは冗談か何かですか!!?このボクが噛ませちゃんだって!??あははっ、あははははははははははっ、あはぅ、あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!ふ・ざ・け・る・なっ!!」

 

 キレた。

 

 緑髪の少年がキレた。

 

 どうやら沸点は低いようだ。

 

 すごいキレ具合だ。

 

「ボクが噛ませちゃんなはずないだろー!!先生の右腕になったこのボクがここで退場とかどんな冗談だよ!!これからボクが先生を幸せにしてあげていくんだよ!!だから、こんなところでくたばるはずないんだよ!!くたばるのはお前なんだよ!!アホー!!アホー!!なんだよこそ泥のクセに調子乗りやがってーー!!ボクは知ってるぞーーー!!お前、あのオメガってカスが大好きなんだろ!!でもオメガカスはハルカっていうビッチに夢中でお前なんてアウトオブ眼中らしいじゃんかよー!!ぷぷーっ、フラれてやんのーーー!!ざまーみろー!!エントツ山ではオメガカスが必死にハルカビッチを助けに行けどお前はナニしてんのーーー??オメガカスの手伝いでちゅかー?でも、気が乗らないよなーー!!だってオメガカスのためにナニをしたところでハルカビッチに全部もってイカれるんだから!!お前は想像力が足りないよ!!」

 

「………しね」

 

 煽り耐性がゼロ同士。

 

 少女ルビーもブチギレた。

 

 しかし、緑髪の少年の狙いは次にあった。

 

「コイツはまだ使ってはいけないと先生が仰っていましたが仕方がありませんね……負け犬はここでブザマに不恰好にく・た・ば・れ!!」

 

 緑髪の少年の手持ちは全部で6体。

 

 波乗りや空を飛ぶ等秘伝マシン要員と呼ばれるポケモン以外で戦えるポケモンは2体のみ。

 

 1匹は彼と共に苦難を乗り越え地獄のような特訓をした相棒のエルレイド。

 

 もう1体は可愛い手駒のために先生から授かった凶悪なポケモン……

 

「でてこい、オノノクス!!」

 

 緑髪の少年はルビーを押しのけ戦闘態勢に入った。

 

「見たことないポケモンね。いや、それよりも…………………」

 

 少女ルビーにとって外国のポケモンは特に疎い。

 

 しかし、問題はそこじゃなかった。

 

 色違いの黒にしては黒々と黒竜王と中二病を漂わせる雰囲気すら醸し出していた。

 

 オノノクスを知らない少女にはこの個体が平均よりも大きく上回っていることを知る由もなく、見上げる形で戦闘態勢に入る。

 

 戦闘力はメガエルレイドの比じゃない。

 

 レベルが違う。

 

 ザングースでは相手にならない。すぐにモンスターボールへ回収した。

 

 このポケモンはヤバイ。

 

 一目見てルビーには分かった。

 

 残虐無比な目をしたモンスターだ。殺戮兵器と同じだ。

 

 身震いがするほど。久しぶりにちびりそうだった。

 

 ポケモン技でルビーの最大の弱点を突きかねない。

 

 危険予知が警報を鳴らす。ルビーの中でガンガン鳴り響く。

 

 レベル99のオノノクスとは流石のルビーも想定外だ。

 

「オノノクス、やれ!!ハサミギロチン!!」

 

「アンタが馬鹿で助かったわ。ゲンガー、この馬鹿共を影に飲み込んでしまいよ」

 

「そ、そんな、ばかな……っ!??」

 

「ケケッ」

 

 唯一脅威なのは影に影響してくる至近距離の地震ワザだ。

 

 しかし、奴は痛恨の選択ミスをした。もしかすると地震は覚えさせてないのかもしれないが、それはありえないのだが。もちろん、少女ルビーはオノノクスの特性:かたやぶりの効果を知らないがな。

 

 紙一重でハサミギロチンを躰した少女ルビーはオノノクス、緑髪の少年共々影に飲み地獄へ誘った。

 

 やはり、緑髪の少年はかませであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 少女ルビーはハジケタウン・ソライシ邸にソライシ博士とアオギリ、あと隕石を置き去りにした。

 

 影の中でフルボッコにした緑髪の少年とオノノクスが万が一目覚めた時に同じ空間にアオギリを置いておくのはマズイだろう。

 

 気絶した重症なアオギリはソライシ邸で助手さんの手によって介抱されている。

 

 このクソッタレなゲームが終わればアオギリの元へここへ訪ればいいだけの話だ。

 

 もう奴に帰る場所はないのだから。

 

 そして……

 

「げほっ、げほっ…………」

 

 吐血した。

 

 気が進まなくても、エントツ山へ行かなくてはならない。

 

 それが黒幕の描いたシナリオだとしても、茶番を終わらせて黒幕を引き摺りだそう。

 

 全て、そこで、決着をつける。

 

―――PM4:00――――

 

 タイムリミットギリギリまで仮眠を取り、少女ルビーはエントツ山へ向かうのであった。


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