オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
あるるとの出会いがマリルの運命を変えた。
トレーナーに虐待されていたマリルを保護したと云えば感動的ではあるが、言葉は言いようである。正確にはマリルを誘拐したが正しい表現になる。
そもそも、あるるが善良なるトレーナーであれば柄の悪いヤンキーマリルにはならなかったはずだが。
あるるはマリルが可愛いからという理由でマグマ団を辞めアクア団に入隊を志願した。アクア団に入ればマリルがゲットできる。水タイプを持つマグマ団では格好もつかないだろう。あるるはマグマ団の情報を持っているのですんなりとアクア団に入隊できた。
ので、誘拐した。
たまたまそこにいたマリルを誘拐した。
虐待を受けていたとかは知らないが、瀕死で捕まえやすそうなマリルを誘拐した。
それはやはりアクア団内ではあるるを英雄視されることにもなり、こうして罪無き水タイプのポケモンをまた1匹救ったと彼らを調子に乗せてしまう1つのきっかけにもなったであろうが今は置いといて。
マリルにとってあるるは命の恩人なのにも変わりはない。マリルはあるるについていくと心に決めた。
ただし、あるるのマリルであるからには先ずやるべきことがあった。そう、とても大切な殺るべきこと……それは元トレーナーへの復讐である。マリルはあるるに応えるべく元トレーナーに制裁をくだした。
それはマリル自身にとって願いでもあったはずだ。
だから、殴った。蹴った。ボコって首を絞め振り回して自分がされてきた数々の残虐行為をやり返した。そういえば頬の傷もつけられた。だからやり返した。あぁ、そのブランド物のサングラスはお前には似合わないから奪い取ってやった。
散々自分を虐げていた者への制裁はマリルにとって快感だったに違いないであろう。泡を吹いて痙攣するを見るのが愉快だった。
暴力って気持ちが良い……あるるも絶頂を迎えているようだった。
こんな異常性癖の持ち主だとしても、あるるが喜んでくれるのであればマリルも嬉しい。あるるが愉快であればマリルも愉快になれる。あるるが快感になればマリルも快感になれる。
あるるが望めば子供を騙し草むらに連れ込んでみせよう。
あるるが望めばクチートちゃんだって誘拐し悪の道へ連れて行ってみせよう。
あるるが望めば何だって遂行してみせよう。
あるるが望めば少年を水槽の中で公開処刑にだってしてみせよう。
オーディエンスはホウエン地方のお茶の間だ。
しくじるな、あるるの面子もかかった大1番だ。必ず任務は成功してオーディエンスを沸かしてみせよう。
ニヒルに笑う少年、その余裕はいつまで保てるか見物でもある。
マリルはニヒルに笑い少年に襲い掛かった。
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この実験フロア、来た時のワープパネルとはもう1つ別にワープパネルが設置されている。それは強化ガラス越しの制御フロアに繋がるワープパネルだ。
そこまで行けば水の心配はいらない。そこまでたどり着ければ、あるるって女をぶっ飛ばせる。
ヤンキーマリルなど片手で返り討ちしたいところだが、オレが何か直接手を下すまでもないが、オレは愚かにも右ストレートを繰り出したがいかせん水中では速度が衰えてマリルに鼻で笑われ躰された。
そして、そこからは一方的なショーであった。
一撃をもらう度に肺から空気が抜け出す。
尋常じゃない負荷がかかる。
あばらをやられた……気がする。
骨が肺に突き刺さらなかったのが不幸中の幸いか。腕もひしゃげたんじゃないか。顔面も陥没した気がする。
きっと、たぶん……じゃないとこの痛さは表現できない。
涙は水と混ざり合う。
『きゃははっ、もっともっとよ~マリルちゃんー。いたぶって~絞って~嬲って~オメガきゅんが~グチャグチャになるまでやってもらわないとイケないんだから~~~』
「りるっ」
視界の端にはアクア団共が盛り上がっていた。
いい見世物だぜクソッタレが。
『そうだ、オメガきゅんの服剥ぎ取ってドガースの自爆で負った傷口みせてぇ~。そんで抉るようにこうグリグリィ~ってしてぇ~ん……あはぁ///』
冗談じゃない。
悲鳴さえ上げられない。
もう既に肺に空気はない。吐ける空気もない。代わりに血反吐が出る。激痛が脳を、神経を駆け抜ける。閃光が迸るように意識が一瞬吹っ飛んだ。
内臓もやられただろうか、出るわ出るわ口から血が垂れ流れていく。口からだけじゃない。頭も首も腕も体も脚もケツもいたる箇所をドガースの自爆テロにやられて損傷しているんだからな。
水槽がオレの汚れた血と混ざり合い染まっていく。
次第に視界が真っ赤になっていく。
あるるの感極まった喘ぎ声にも似た声がうっとおしい。
この変態がっ。
しかし、アクア団の歓声は先ほどのように盛り上がることなかった。
何故かって?
やはりヒトの子であろうと悪魔の子であろうと、マリルの残虐行為にドン引きだから?あるるが変態で異常性癖者でドン引きしたから?
違う。
否、オレが笑っているからだ。
死にかけのオレが不気味に笑っているからだ。
「うっぷっぷっぷっぷ……」
「り、りるっ」
何がおかしいかって?
1つ言わせれば、ここまでボコっておいてオレを殺せないお前に笑ったのだ。
『あはぁ~ん凄い生命力だよ~オメガきゅーん。そこらへんの男の子とは~ワケが違う~。だ~か~ら~こ~そ~~~嬲り甲斐があるんだよ~。わたしの欲求を満たしてくれるぅ~……はぁはぁ……もっとぉ血ぃ見せてぇ~///もっと苦痛に歪んだ顔を見せてぇ~~///だからマリルちゃん~怯むことないよーこの調子でもっとーも~~~っとぉーやっちゃってぇ~~~~ん///』
「りるりるーーーっ」
マリルはかぶりを振った。
殺意をもってオレを睨みつけた。
咆哮した。腹太鼓で気を紛らわしたつもりだろうか。力を最大限にしてどうするつもりだろうか。あぁ、トドメを差したいんだな。
水槽の中で息もできず殴っても叩きつけても締め付けても血を流し続けても不気味に笑うこのオレは今ココで始末したいんだろ。
脅威を排除したいんだろう。
言っておくが腹太鼓でヒトの子を抹殺しようとするなんてお前が初めてだ。オレがミンチにならないように願うばかりだが……
ヤンキーマリルは水面近くまで浮上し垂直落下のアクアジェットをもって、水槽の底に沈んだをオレに最高の一撃をくらわせてトドメをさすらしいが……
まーそれは悪手である。
「アホーーー!!」
「っ!?」
ぷぷっ。
さっき見ていなかったのか?このヤミカラス、少しなら海鳥のように水中に潜れるんだぜ?
まったく、オレばかりに気を取られちゃって水面付近に浮上してきたマリルは格好の餌食だ。
ヤミカラスの電磁波がマリルを襲う。
『マ、マリルちゃん~~~!??』
「り、る……っ!?」
マリルは麻痺になった。
こうなってはおしまいだ。
ヤミカラスはサイコキネシスでマリルを壁にたたきつけた。そして、そのまま壁に押しつけられたマリルはギッ、ギッ、ギッと錆びたブリキ人形のオモチャのように鈍く動くのがやっとってところだ。
さて。
『ひっ、こっちこないで……なんとかして~マリルちゃんー!』
「だが、残念でした。マリルは痺れて体が動かない」
「ファッ!??」
ワープしてきたぜ、あるるちゃんよぉ。
オレが制御室へワープする前に撤退するべきだった。
制御室にもワープパネルが2つある。実験フロアに繋がる分と別エリアに繋がる分。
「ひぃ~なんでまだ動けるんだこのガキ!!?」
「「「撤退~!!撤退~!!」」」
あるるの取り巻きたちは一目散に撤退していく。
あるるという変態を押しのけて突き飛ばしてオレの前に転がった。
そういえば、こいつには誘拐されて頭踏みにじられたんだったよなぁ。そのお返しに頭をぐりぐりしてやろうか。
「あははぁ~もしかして絶望的にお姉さんピンチ~??なんちゃ~って!!クチートちゃんーかみくだくよ~~~!!」
「クチーーーッ!!」
「………」
クチートが天井から振ってきた。
がぶりっとオレの腕に容赦なく噛み付いついてきた。とっさに出した腕だ。しかし、かじり取るまでにいかなかった。
クチートはすでに涙目、懺悔したってもう遅い。
「あはぁぅ、血ぃ、オメガきゅんの血のニオイがプンプンするのぉ……でも、なんでクチートちゃんの方が苦しんでいるのぉ……」
そりゃいつもバンギラスの甘噛みに馴れているオレだからできる芸当さ。
「クチートたんの舌をおもいっきり掴んでやった。クチートたんがオレの腕を噛み千切るのが先か、それともオレがクチートたんの舌を引っこ抜くのが先か試そうか?それともぉ……」
「きゃは、きゃはは…………冗談キツいよぉオメガきゅ~ん」
「くちー……」(あ、これ詰んだな的なこと言ってる)
リザードン。
バンギラス。
ガバイト。
あるる達を囲うようにスタンバイさせた。
クチートが大人しくオレの腕を解放するももう遅い。
いいね、その絶望の表情。
「お前もオレを誘拐した主犯格だ。お楽しみの時間はこれからだぜ?」
「「ひぃいいいいいいいい!?」」
「「「………」」」
ゲスな笑みを浮かべるオレではあるが、この後あるるとクチートたんを制裁した。
泡を吹き痙攣し白目を剝き失禁しては失神させた。どちらとも洪水だった……この時、オレはまさかこの痴態がホウエン地方のお茶の間に放送されているとは知らなかったんだ。
さてさて、ドン引き気味なガバイトだけこの場に残し、下衆を見るかのような目を向けてくるリザードンとバンギラスはモンスターボールに戻して、実験フロアの水位を下げてヤミカラスを呼び戻そう。
どうやら勝手にマリルを倒してくれていたみたいだ。
水位が下がる水面に浮かんだ気絶したマリルの腹の上でドヤ顔をしているアホな子が制御室のガラス越しからよく見える。
まーなんはともあれ、先に進もう。
だが、5分だけ休憩だ。
あれだけの猛攻で生きているのがおかしいぐらいだった。
血を流しすぎた。視界がブレる。前のめりに倒れこんでしまった。
「「………」」
白目を剝き泡を吹き今だぴくぴく痙攣しているあるるの顔面を見ながら5分間……休憩に専念してあのクソッタレ糞野郎をさっさとぶっ飛ばそう。
クソッタレなこのゲームもそろそろフィナーレだ……
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ジムリーダー・センリはモニターを見ていた。
ホウエン地方のお茶の間に流れる惨劇を目の当たりにした。
自分の息子が暴れているマグマ団アジトへ潜り込んだのはいいが絶望の光景をただ傍観することしかできなかった。
「わたしの息子は……勝手になんとかしてしまうんですね」
「………」
隣にいたジムリーダー・ナギに言ったというより独り言のようなものだ。
ぽつりと洩れた言葉は返す言葉もなく小さく消える。
「少し見ない間に強くなった。そこは親として子供の成長を喜ぶべきべきでしょうが、あの子はまだ10才……あまりに残酷すぎる」
半年振りに見た息子は別人のように変わり果ててしまっていた。
マグマ団のユニフォームに身を纏った白い肌、白い髪、赤い目に宿る復讐の狂気、水槽の中で嬲られても傷だらけになっても尚あの境地を乗り越えてしまった息子はもう自分の知っている息子じゃなかった。
ただただ怖かった。
同じアジトにいるのに手の届かないところにいると錯覚してしまう。
息子は自分達の助けなど求めていないのだ。
わたしは息子に何もしてやれない……
それが絶望と言わずなんと言えるのだ。
否、違う。
そうじゃない。
「わたしは覚悟を決めて、このふざけたゲームで全てを終わらせるためにここに乗り込んできたんです。だから、絶対に息子を見つけ出してハルカちゃんを助けて連れて帰ると誓ったんです。さぁナギさん、先を急ぎましょう」
「………」
どんな残酷な運命が待ち受けていようともセンリは次のフロアへ進む。
息子と少女を連れて帰るためにアクア団とマグマ団を鎮圧していく。
しかしナギは……
「ナ、ナギさん………!??」
「………」
白目を剝いて気絶してしまっていた。
あるるのお仕置きを見て気絶したのだ。
自分はお尻ぺんぺん100叩きの刑というトラウマものがあるが、あの女性のお仕置きはそれ以上だった。
両脚を掴まれお股を足でゲシゲシ凶悪な電気あんまをあんな激しく自分にされたらどうなってしまうのだろうかと想像したら白目剝いて気絶してしまった。
ジムリーダー・ナギ、ここでリタイアである。